通信ケーブルの種類・特性及び適用

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

通信ケーブルは、心線の材料及び構造の違いにより、平衡対ケーブル、同軸ケーブル及び光ファイバケーブルに分類することができる。

目次

平衡対ケーブル

ツイストペアケーブル(Twisted pair cable)は,撚り対線ともいい,電線を 2 本対で撚り合わせたケーブルである。単なる平行線よりノイズの影響を受けにくい。TP ケーブル(TP : Twisted Pair)という場合もある。

メタリックケーブル内の各対の 2 本の導線を撚ることにより漏話は軽減でき、隣接する対どうしで撚りピッチを変えると、撚りピッチを同一にした場合と比較して大きな軽減効果が得られる。

古くからある技術であり,電話線などに用いられてきたが,近年ではイーサネットの特に LAN での配線に使われる例がよく知られている。

平衡対ケーブルは、同じ構造の 2 本の導体が対をなしているケーブルであり、2 本のそれぞれが、それ以外の導体、遮蔽体又は保護金属体(例えば鉛被)などに対して、構造的また電気的にほぼ等しい関係位置となっている。

メタリック平衡対ケーブルは、絶縁被覆を施した同一の導体径の 2 心又は 4 心の導体心線で構成される平衡対を多数集合してケーブル化したものである。平衡対を構成する導体心線は、一般に、平衡対間に生ずる漏話を軽減するために撚り合わされており、4 心の導体を正方形に配列し、共通の軸回りに一括して撚り合わせたものは星形カッド撚り,2 心線を撚り合わせたペアを,さらにペアどうしで撚り合わせたものを DM カッドという。

一般に,DM カッド撚りと比較して,ケーブル外径を小さくできる星形カッド撚りが使用されている。

星形カッド撚り
図 星形カッド撚り

平衡対ケーブルの抵抗は高周波で表皮効果の影響を受け、漏洩コンダクタンスは周波数に依存し、一般に、抵抗減衰量は周波数の平方根に比例し、漏れ減衰量は周波数に比例する。

平衡対ケーブルに使用される絶縁材料は、絶縁耐力が大きく、誘電率が低く、耐候性に優れているなどの性質に加え、焼却時や埋立処理時などにおいて環境へ及ぼす影響が小さいことも重要である。

平衡対ケーブル
図 平衡対ケーブル

平衡対ケーブルは、電気通信サービスの高速・広帯域化を実現する上で、損失と雑音の低減が大きな課題となる。設備センタとユーザ宅を結ぶアクセス系平衡対ケーブルの損失は、周波数が高くなるに従い増加する特性を示し、4 [kHz] 程度までは緩やかに増加し、100 [kHz] を超えると、表皮効果による抵抗の増加などにより、急激に増加する。さらに、アクセス系平衡対ケーブル設備では、メタリック心線の融通を確保するため、一般に、ブリッジタップが存在し、ブリッジタップの先端部分は開放されているため,反射が生ずることから、特に、ADSL 回線では、損失が増加し、伝送速度が低下する要因となる場合がある。

また、平衡対ケーブルに生ずる雑音としては、高圧送電線などから受ける誘導雑音、束ねられた他の心線から電流が誘起され定常的に生ずる漏話雑音、手ひねり接続された部分の電気抵抗が振動などで変化することにより生ずる時々断に伴う雑音などがある。

PEC ケーブル

地下用メタリック平衡対ケーブルには、外被構造をアルミテープとポリエチレン(PE)外被を一体化した LAP 構造とし、心線絶縁材料として PE 内に気泡を含ませることにより誘電率を抑えた発泡 PE を用いた PEC ケーブルがある。

CCP-JF ケーブル

配線系ケーブルには,ケーブル内への浸水を防ぐために,ケーブル内にポリブデンを主成分とする混和物を充填した JF ケーブルがある。

CCP-JF ケーブルは、地下配線用に使用されており、ケーブル内に混和物が充塡され、外被に損傷を受けても浸水部分が広がりにくい構造となっている。

同軸ケーブル

同軸ケーブル(Coaxial cable)とは,電気通信に使われる被覆電線の一種。

断面は同心円を何層にも重ねた構造になっており,内部導体(芯線)を覆う外部導体が電磁シールドの役割を果たすため,外部から到来する電磁波などの影響を受けにくい。主に高周波信号の伝送用ケーブルとして無線通信機器,放送機器,ネットワーク機器,電子計測器などに用いられている。

同軸ケーブル
図 同軸ケーブル

外部導体の内径を $D$ [mm],内部導体の直径を $d$ [mm],絶縁体の比誘電率を $\epsilon$ とすると,同軸ケーブルの特性インピーダンス $Z_0$ [Ω] は次式で求められる。

\[ Z_0 \approx \frac{138}{\sqrt{\epsilon}}\log_{10}{\frac{D}{d}} \]

光ファイバケーブル

光ファイバは,コアと呼ばれる直径 0.01 ㎜ 以下のガラス繊維と,その周りをクラッドと呼ばれる別のガラス繊維が取り囲んでいる。

コアのガラスの屈折率は,周りのクラッドよりも高くなっており,コアを通る光はクラッドで反射しながら進んでいく。コアは高純度のガラスかプラスチックで作られていて,その中で失われる光の量は 1 km 進んで数 % 程度とほとんど減光しない。

光ファイバケーブルは,メタル線(銅線)と比べ,以下の利点がある。

  • 電磁誘導ノイズの影響を受けない。
  • 伝送損失が非常に小さい。
  • 高速かつ長距離の伝送が可能である。
  • 回線数に対しケーブルが細いため,同一の太さの管路により多くの回線を収納できる。

光ファイバは下表に示すように,導波原理や使用される誘電体の材料,伝搬モード数やコアの屈折率分布などによっていろいろな分類方法がある。

表 光ファイバの分類
導波原理による分類 全反射型光ファイバ
ブラッグ反射型光ファイバ
誘電体の材料による分類 石英系光ファイバ
多成分系酸化物光ファイバ
フッ化物光ファイバ
プラスチック光ファイバ
伝搬モードによる分類 シングルモード光ファイバ
マルチモード光ファイバ
屈折率分布による分類 ステップインデックス光ファイバ
グレーデッドインデックス光ファイバ

導波原理による分類

光ファイバを導波原理によって分類すると、全反射型及びブラッグ反射型に大別できる。全反射型の光ファイバは、コアとクラッドの屈折率差を利用した全反射によって光をコア内に閉じ込めている。ブラッグ反射型の光ファイバは、 中空のコアとクラッド部に周期的に配列された空孔により形成される屈折率周期構造に光が透過して生ずるフォトニックバンドギャップを利用して光をコア内に閉じ込めている。

空孔アシスト光ファイバ

全反射の原理を用いた空孔アシスト光ファイバは、コアとクラッドをドーパントにより形成するとともに、クラッドの内部に空孔を設けることにより、伝搬光のクラッドへの広がりを制限しており、曲げ損失がほとんど発生せず、取扱いが容易である特徴を有している。

フォトニックバンドギャップファイバ(PBGF)

ブラック反射では,二次元の周期的に配列した空孔や周期的に屈折率が変化する構造を作り,その中に取り囲まれた内部に光を閉じ込めるもので,フォトニックバンドギャップファイバ(PBGF)とも呼ばれる。フォトニックバンドギャップの透過波長域は周期的に,かつ間歇的に現れるため,フォトニック結晶ファイバのような広い波長域で連続的に使用することはできないが,光を閉じ込めるコアは空気でもよいため,一般的なガラスによる光ファイバでは不可能な低損失性や低非線形性も実現できると考えられることから,近年注目を集め本格的に研究されている。

誘電体の材料による分類

誘電体の材料により光ファイバを分類すると,石英がラスを主体とした光ファイバ(石英系光ファイバ),多種類のガラスからなる光ファイバ(多成分系酸化物光ファイバ),フッ化物ガラスからなる光ファイバ(フッ化物光ファイバ),そしてプラスチック光ファイバの 4 種類に分類できる。

石英系光ファイバ

コアの部分はクラッドの部分より屈折率が高くなっており,スネルの法則により光がコア中を伝搬する。石英系光ファイバの構成材料は,二酸化ケイ素(SiO2)が主成分で,添加物として二酸化ゲルマニウム(GeO2),フッ素(F)が用いられている。純石英に GeO2 を添加すると,純石英より屈折率を高くすることができ,また,純石英に F を添加することにより屈折率を低くすることができる。情報通信ネットワークに用いられる光ファイバケーブルでは,現在のところ低損失なものが得やすく,更に伝送特性の長期安定度の面で優れている石英系光ファイバが使用されている。

石英系光ファイバの場合、一般に、伝送損失が最小となる波長 1.55 μm 帯における損失は 0.2 [dB/km] 程度であり、1 [km] 伝送しても約 95.5 [%] の光が受信側に到達する。また、C バンドといわれる波長 1.55 μm 帯の周波数帯域幅は約 4.4 [THz] と広帯域であることから、10 [Gbit/s] 以上の伝送速度を有する高速な光通信システムが実用化されている。さらに、光ファイバケーブルは、電気信号を伝搬するメタリック平衡対ケーブル又は同軸ケーブルとは異なり、電気伝導体ではないため、電磁誘導による影響を受けず、漏話も本質的に発生することがない。

ちなみに,石英ガラスの密度は 2.196 g/cm3,銅の密度は 8.94 g/cm3 である(石英ガラスの密度は銅の約 1/4)。

石英系光ファイバ
図 石英系光ファイバ
純粋石英コア光ファイバ

低損失な光ファイバを実現するために、コアを純粋石英ガラスとし、クラッドにはフッ素添加の屈折率の低い石英ガラスを用いた純粋石英コア光ファイバが開発されている。この光ファイバは、コアに GeO2 を添加した光ファイバと比較してレイリー散乱が小さい。

多成分系酸化物光ファイバ

多成分系酸化物光ファイバは,主にソーダ石灰ガラスやホウケイ酸ガラス等を主成分としたものが多く,ナトリウム(Na)等の組成比率を変えて屈折率を変化させている。

フッ化物光ファイバ

フッ化物光ファイバは、フッ化ジルコニウムなどを主成分とした光ファイバであり、石英系光ファイバと比較して、赤外吸収が小さく、希土類元素を添加することにより光増幅用光ファイバとして利用されている。

プラスチック光ファイバ

プラスチック光ファイバの材料としては,アクリル樹脂(例えば,ポリメタクリル酸メチル : PMMA)やフッ素系樹脂のような材料が提案され,一部に使用されている。通信波長は前者が 0.6 ~ 0.8 μm 付近の比較的短い波長を,後者が 0.8 ~ 1.3 μm といった石英系光ファイバと類似の波長を用いている。プラスチック光ファイバの大きな特徴として,その大きなコア径が挙げられる。特にアクリル樹脂を用いたものではコア径が数百 μm ~ 1 mm 程度のものもあり,接続時の位置精度や端末処理作業の緩和が期待できる。

このため,伝送特性面では劣るものの,取り扱いやすさ(接続が容易,曲げがきつくても折れにくい等)を重視しして,短距離通信や自動車内のワイヤハーネス(配線)などでプラスチック光ファイバを使用している例も少なくない。最近は,マルチメディア時代におけるビルや一般家庭の配線への応用をにらんで,各種特性を向上させたプラスチック光ファイバの研究開発も行われている。

伝搬モードによる分類

伝搬モードによる分類によって,シングルモードマルチモードに大別される。

シングルモードの光ファイバ

シングルモード光ファイバ(Single Mode optical fiber : SM 型光ファイバ)は,コア径が 10 μm であり,マルチモードに比べると伝送損失は少ないという特徴がある。シングルモードの光ファイバは,NTT や KDDI などの通信事業者の幹線用に使われている。

シングルモードの光ファイバ
図 シングルモードの光ファイバ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

シングルモード光ファイバの構造はモードフィールド径,偏心量,外径及び遮断波長などのパラメータにより決定される。シングルモード光ファイバの構造パラメータと諸特性の関係を下図に示す。

シングルモード光ファイバの構造パラメータの諸特性
図 シングルモード光ファイバの構造パラメータの諸特性

マルチモードの光ファイバ

マルチモード光ファイバ(Multi Mode optical fiber)は,コア径が 50 μm で,素材としてプラスチックが使えるため,安価で折り曲げに強いことや,芯が石英ガラスの場合の 6 倍と太く,光が分散しやすくシングルモードに比べると伝送損失が大きいという特徴がある。そのため,ネットワークなどの近距離通信での伝送に使われている。

マルチモードの光ファイバ
図 マルチモードの光ファイバ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

マルチモード光ファイバの構造を決定するのは,コア径,外径,開口数(NA)及び屈折率分布などのパラメータである。これらの四つの構造パラメータの値の決定に際しては,下図に示すように各構造パラメータが光ファイバの諸特性に与える影響と,光ファイバの作りやすさや経済性を十分に考慮する必要がある。

マルチモード光ファイバの構造パラメータの諸特性
図 マルチモード光ファイバの構造パラメータの諸特性

屈折率分布による分類

光ファイバは屈折率分布の違いにより 2 種類に大別される。一つはコアとクラッドの間で屈折率が階段(step)状に変化しているものであり,ステップインデックス光ファイバ(Step Index optical fiber : SI 型光ファイバ)と呼ばれる。

もう一つはコアの屈折率分布が緩やか(graded)に変化しているもので,グレーデッドインデックス光ファイバ(Graded Index optical fiber : GI 型光ファイバ)と呼ばれる。

ステップインデックス光ファイバ(SI)

コアの屈折率が一定の光ファイバで,光はコア内を多くのモード(光の通り道)に分かれて伝搬する。そのため,伝搬信号は大きくひずんでしまい,狭帯域となり,現在ではほとんど使用されない。

SM 型光ファイバも SI 型光ファイバの範疇に含まれるが,コアとクラッドの比屈折率差が非常に小さく,シングルモードの伝搬を目的としたものであるため区分して使用されている。したがって,SI 型光ファイバと呼ぶ場合は,コアとクラッドの屈折率差が明確に階段状に変化するマルチモードの光ファイバの名称として使用するのが一般的である。

ステップインデックス
図 ステップインデックス

グレーデッドインデックス光ファイバ(GI)

コアの屈折率を滑らかに分布させた光ファイバで,標準的には,50 μm または 62.5 μm のコア径をもつ。コア内の屈折率を滑らかに変化させることにより,「ステップインデックス」に見られた伝搬信号の歪みが,大幅に改善される。グレーデッドインデックスは,シングルモードに比べ,伝送損失は大きいが,光ファイバ接続が簡単でネットワーク機器も圧倒的に安価なため,LAN などの近距離情報通信用途として広く使用される。

GI 型光ファイバの屈折率分布形状は、各伝搬モード間の伝搬時間差をできるだけ小さくするため、ほぼ放物線状となっている。(コア中心の屈折率はクラッド付近の屈折率よりも大きいため)コアの中心付近での光の伝搬速度は、クラッド付近の伝搬速度と比較して遅くなる特徴がある。

グレーデッドインデックス
図 グレーデッドインデックス

入射光パルスが光ファイバ中を幾つかの異なったモードで伝搬することによって生ずる分散は,モード分散といわれる。モード分散を小さくするためにコアの屈折率分布を放射線状としたものが GI 型光ファイバであるが,モード分散を完全に無くすことはできない。

光ファイバを外力から保護する構造

光ファイバを外力から保護する構造としては、タイトタイプとルースタイプの 2 種類に大別することができる。タイトタイプは光ファイバを動かないように固定して耐力を高めるものであり、ルースタイプは光ファイバをフリーにして外力の影響を緩和するものである。

汎用シングルモード光ファイバ(SMF)

コア径を小さくすることでモードを 1 つにした光ファイバで,マルチモードで見られたようなモードの違いによる伝搬信号の歪みは発生せず,極めて広帯域な特性を有する。汎用のシングルモード光ファイバ(SMF : Single-Mode optical Fiber)は,1.31 μm 帯に零分散波長があるため,伝送損失が低く優れた特性を有し,高品質で安定した通信が求められる幹線網に用いられる。

SM 光ファイバの屈折率分布は,一般に,ステップインデックス型であり,光ファイバの屈折率分布構造を表すパラメータには開口数,モードフィールド径などがある。なお,伝搬モードの光強度分布から決定されるモードフィールド径が、構造パラメータとして ITU-T 勧告で標準化されている。

SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $1/e^2$ ($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。

モードフィールド直径
図 モードフィールド直径

偏波モード分散は,理想的な真円構造を保った SM 光ファイバでは生ずることがない。しかし,実際の SM 光ファイバではコア形状に僅かなゆがみが存在することから偏波モード分散が生じ,高速かつ長距離伝送の場合には伝送品質に影響を及ぼすことがある。

分散シフト・シングルモード光ファイバ(DSF)

分散シフト光ファイバ(DSF : Dispersion Shifted single-mode optical Fiber)は、石英系光ファイバの伝送損失が最小となる 1.55 μm 帯で波長分散が最小となるように波長分散特性を調整した光ファイバであり、DSF の屈折率分布には、二重コア型、セグメントコア型などがある。

セグメントコア
図 セグメントコア

分散シフト・シングルモード光ファイバは,伝送損失が 1.31 μm 帯よりも低い 1.55 μm 帯を零分散波長としたシングルモード光ファイバである。長距離伝送に適している。

1.31 [μm] 近傍で零分散となる光ファイバを用いて 1.55 μm 帯の伝送を行うと、損失よりも分散が中継間隔を制限する主要因となる。中継間隔を延長するためには、1.55 μm 帯で符号が逆の分散特性を持つ光ファイバを接続して分散を相殺する方法がある。

非零分散シフト・シングルモード光ファイバ(NZ-DSF)

非零分散シフト・シングルモード光ファイバ(NZ-DSF : Non-Zero Dispersion Shifted single-mode optical Fiber)は,零分散波長を 1.55 μm 帯から少しずらすことにより,1.55 μm 帯での非線形現象を抑制した光ファイバである。波長分割多重(WDM)伝送に向き,超高速の長距離伝送に適している。

光中継システムにおけるノンゼロ分散シフト形光ファイバは、ゼロ分散波長を 1.55 μm 帯より若干短波長側又は長波長側にずらすことで、使用波長帯域における波長分散の低減と WDM 伝送における四光波混合の抑制を両立させている。

WDM 方式に分散シフト光ファイバを用いると、四光波混合の影響が問題になることがある。解決策としては、信号光の周波数間隔を不均等に配置する方法、伝送帯域における分散を零にしないで四光波混合の発生しにくい範囲で分散を小さくしたノンゼロ分散シフト光ファイバを用いる方法などがある。

分散フラット光ファイバ

分散フラット光ファイバは、光ファイバの屈折率分布を制御して、材料分散と構造分散を相殺させることにより分散スロープをフラットに近づけることで広い波長帯域において、小さい波長分散を可能とする光ファイバである。

分散フラット光ファイバは、材料分散と符号の反転した構造分散を形成することにより実現でき、一般に、材料分散は波長に対して急な勾配を持っているため、構造分散パラメータが波長に対して平坦ではないを持った構造となるものが用いられる。

分散補償光ファイバ

分散補償光ファイバは、伝送用光ファイバに接続することによって、全体の波長分散を補償するものであり、分散補償光ファイバに要求される波長分散特性は、補償の対象となる伝送用光ファイバの種類や特性によって異なる。

フォトニック結晶光ファイバ(PCF)

  • クラッド部に空孔を周期的に配列した構造の光ファイバは,一般に,PCF といわれ,光の導波原理により,フォトニックバンドギャップ型又は屈折率導波型に分類される。
  • フォトニックバンドギャップ型 PCF は,中空のコアにブラック反射によって光を閉じ込めて伝搬するため,ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。
  • 屈折率導波型 PCF は,一般に,コア部とクラッド部が同じガラス素材で構成されているが,クラッド部に設けられた空孔によりクラッド部の実効的な屈折率がコア部の屈折率と比較して小さくなるため,全反射によって光を閉じ込めて伝搬させることができる。
  • PCF の融着接続は、アーク放電により空孔が潰れるためコアに光を閉じ込めることができなくなり、一般に、損失が大きくなる。

ファイバグレーティング(FG)

ゲルマニウムを添加した石英に,波長 240 [nm] 近傍の紫外線を照射すると屈折率が上昇する。FG は,この現象を利用して光ファイバのコア上に,周期的な屈折率変化を形成することにより光フィルタなどとしての機能を持たせた光ファイバ型デバイスであり,非破壊で,直接,光ファイバ中にグレーティングを形成できるため,同様の機能を有する誘電体多層膜フィルタと比較して,小型で低挿入損失である,伝送用光ファイバとの良好な接続性が得られるなどの特徴がある。

FG は,グレーティング周期が 1 [μm] 以下の短周期型及び数十 [μm] ~ 数百 [μm] の長周期型の 2 種類に大別される。

短周期型 FG は,特定の波長の光を選択的に信号光とは逆方向の伝搬モードに結合,すなわち反射させることから,狭帯域波長フィルタとして機能する。一方,長周期型 FG は,特定の波長の光を信号光と同一方向に進むクラッドモードに結合させる。クラッドモードに結合した光は光ファイバ被覆材に吸収されて減衰することから,透過阻止型の波長フィルタとして機能する。

短周期型 FG は急峻な波長選択特性を持つデバイスであるため,特定の信号波長を分岐・挿入する OADM(Optical Add Drop Multi-plexing)などで,また,長周期型 FG は EDFA の利得等化器などで用いられている。

FG の製造方法の一つである位相マスク法は、干渉法と比較して、製造時の安定性及び再現性に優れるため、一般に、量産用として用いられる。

ファイバブラックグレーティング(FBG)

FBG とは、光ファイバのコアの屈折率に周期的な屈折率変化が形成されているファイバ型デバイスである。屈折率変化はグレーティングとして働き、グレーティングの周期が作るブラッグ反射条件を満たす波長の光のみを反射することができる。

FBG は、ゲルマニウムが添加された光ファイバのコアに紫外線レーザ光を照射し、光誘起屈折率変化を起こすことにより製作することができる。代表的な製作方法として、位相マスク法及び 2 光束干渉法がある。

FBG の透過率特性は、透過域での損失が極めて小さい、偏波依存性が少ないなどの特徴がある。一方、石英ガラスの屈折率の温度依存性による反射波長の変動を補償するため、一般に、温度調節素子とともに実装して定温に保つ、熱膨張係数差を利用した温度補償を行うなどの対策が必要である。

屈折率周期が数百 [μm] の長周期グレーティング(LPG)では、コアを伝搬してきた光の一部がクラッドモードと結合することにより減衰するため、LPG はクラッドモードとの結合条件を満たす波長領域のみに損失を与えるフィルタとして機能する。

光ファイバ心線

光ファイバ素線の一次被覆は、一般に、紫外線硬化型樹脂が用いられ、光ファイバ素線の外径の標準寸法は、250 [μm] である。光ファイバ素線の一次被覆の主な役割は、光ファイバの表面の保護であるが、側圧が加わった際に発生するひずみが光ファイバに及ぼす影響を軽減させる緩衝効果もある。

光ファイバ素線
図 光ファイバ素線

光ファイバ心線は、一般に、一次被覆された光ファイバ素線を UV 硬化型樹脂、ポリアミド樹脂などにより二次被覆した強固な構造を有している。二次被覆は光ファイバを取り扱う際の強度確保や識別のために設けられる。二次被覆の材料としては、押出成型時の収縮が少なく硬い材料としてナイロンを使うことが多い。一般に、硬い二次被覆材料は熱膨張係数が大きく、低温での圧縮ひずみが大きくなるため、被覆はその効果と悪影響とをバランスさせるように設計する必要がある。

3 層構造の光ファイバ心線では、側面に大きな外力が加わったときに二次被覆が塑性変形を起こすと、側圧荷重が直接光ファイバに加わるため、損失増加や破断に至るおそれがある。また、二次被覆がいったん塑性変形すると、外力を取り除いた後も変形が残り、側圧荷重が光ファイバに加わり続けることから、加わると予想される外力が弾性変形の範囲になるように、二次被覆の寸法や材料定数が設計される。

光ファイバ心線
図 光ファイバ心線

さらに光ファイバ心線を並列に一括被覆を施し,テープ心線化される。テープ心線を用いることで,光ケーブルの細径化・高密度化が実現される。また,テープ心線ごとに一括で融着接続できるため,接続作業時間の大幅な短縮が可能である。

テープ心線
図 テープ心線

光ファイバケーブルは、必要な心線数を束ねるとともに外部からの圧力や浸水などを防ぎ、光損失を長期にわたり安定に維持することが求められる。光ファイバケーブルの主な構成要素は、心線、複数の心線を束ねたユニット、布設などの際に加わる張力を分担する抗張力体、浸水や衝撃を防ぐ防水材及びケーブル外被である。

環境配慮型のケーブル

電気通信線路設備における再資源化の施策として実施されているマテリアルリサイクルとは,使用済み製品や生産工程から出るごみ等を回収し,利用しやすいように処理して,新しい製品の材料もしくは原料として再利用することである

電気通信線路設備に用いられる環境配慮型のケーブルは、外被がポリエチレン系の材料に統一されており、リサイクル対応が可能であるため、廃棄物の低減に寄与することができる。

環境配慮型ケーブルの外被には、一般に、ポリエチレンに水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を混和することにより難燃性を持たせた材料が用いられている。

また、環境配慮型のケーブルには、火災時に有害なガスや腐食性ガスを発生せず、煙の発生も少なく、防災安全性の向上が図られていることが求められる。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素及びアスタチンの五つの元素の総称であり、ハロゲンを含む物質が燃えると、環境及び人体に有害なハロゲン化水素ガスが発生することがあるため、環境配慮型のケーブルとしては、ハロゲンを含んでいないハロゲンフリーケーブルが用いられる。

RoHS(Restriction on Hazardous Substance)指令は,製品の生産段階から最終処分まで考慮して,環境負荷や人の健康に害を及ぼす危険を最小化することを目的としており,グリーン調達により納入された電気通信線路設備の RoHS 指令適合品は,鉛,水銀,カドミウム,六価クロム,ポリ臭化ビフェニール(PBB),およびポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の 6 物質の使用を原則禁止している

エコケーブル

日本電線工業会では,EM(エコマテリアル)電線・ケーブルと称している。「EM電線・ケーブル | 一般社団法人日本電線工業会」参照

  • 難燃性のエコケーブルは,ケーブル外被の難燃性を向上させるため,水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を難燃剤として用いており,難燃剤を多量に添加することにより機械的強度が低下する。
  • エコケーブルは,外被がポリエチレン系の材料に統一されているため,リサイクルが可能であり,廃棄物の削減が見込める。
  • エコケーブルを配管内に敷設するときにケーブル外被の表面が擦れることによって生じた白化現象は,一般に,ケーブルの電気特性に影響を及ぼすことはないため,直ちにケーブルを張り替える必要はない。
  • エコケーブルの許容曲げ半径は,ポリ塩化ビニル(PVC)シースケーブルと同等であり,また,エコケーブルのシース除去作業では,PVC シースケーブルに用いるものと同等の工具を使用することができる。

光ファイバの試験

光ファイバの強度

光ファイバが破断する原因の一つは、一般に、光ファイバ全長にわたって確率的に傷が存在することである。光ファイバに張力を加えたときの破断強度は、傷が大きいほど低く、光ファイバが長くなり大きな傷を有する確率が増えるほど、確率的に低下する。

破断強度と破断確率の関係は、一般に、ワイブル分布を示し、低張力で破断する確率は強度の指数関数で急激に減少する。また、光ファイバの表面に傷を与える原因としては、プリフォームから光ファイバへの線引き時における、ほこり、急激な温度変化などが考えられる。

また、光ファイバケーブルは、布設時などに生ずる伸びを許容値以下に抑える必要があることから、ケーブル内に適切な機械的強度を保持するための部材が使用されている。この部材としては伸びを小さくするため、ヤング率が一定以上大きいものが必要であり、一般に、鋼、アラミド繊維などが使用されている。

光ファイバの強度は、引張試験、曲げ試験などによって評価される。引張試験及び曲げ試験は、破壊試験であり、この試験を行った光ファイバは実用に供することはできないため、一般に、抜取りで行われる。また、スクリーニング試験は、製造段階などで一定水準以下の品質のものを取り除くために行われる。

光ファイバ強度劣化の時間依存性、すなわち疲労特性の測定方法としては、光ファイバに一定の応力を与えた状態で放置し、破断するまでの時間を測定して静的疲労特性を求める方法と、破断強度のひずみ速度依存性から動的疲労特性を求める方法があり、後者の方法では、破断強度は、一般に、ひずみ速度の増加とともに大きくなる。

石英ガラスの引張強度は、鋼の約 2 倍、銅やアルミニウムの 10 倍以上ある。しかし、光ファイバ表面に傷があると、光ファイバに張力が加わった場合、この力は傷に集中し、許容応力を超えると一気に破断する。これはガラスが脆性材料であるぜいためである。

スクリーニング試験

一般に,光ファイバが破断する理由は光ファイバ全長にわたって確率的に傷が存在するためである。この傷を除き,光ファイバの強度を保証するために行う試験がスクリーニング試験である。スクリーニングとは,ふるいにかけるという意味であり,光ファイバ全長に張力を加えて,傷などのための弱い部分を切断させる方法である。これにより,弱い部分は予め取り除かれることになるため,完成品になってからの光ファイバが破断することを極力低く抑えることが可能になる。

光ファイバの強度を保証するために、光ファイバに張力を加えることにより弱い部分を破断させるスクリーニング試験といわれる選別試験が JIS で規定されている。この試験は光ファイバの製造時及び融着接続後の強度試験として用いられ、この試験により弱い部分が取り除かれるため、選別された光ファイバの破断確率を極力低く抑えることが可能となる。

光ファイバのスクリーニング試験は、強度が一定水準以下の光ファイバを取り除くための試験であり、ダンサローラ法、ダブルキャプスタン法などにより、一般に、全数試験が行われる。

スクリーニング試験では、光ファイバの全長にわたって所定の応力やひずみを所定の時間加え、低強度の部分を破断させて取り除く。この応力やひずみのレベルは、ケーブルの製造や布設工事中に加わる引張ひずみ、布設後の残留ひずみ、ケーブルの温度変化に伴うひずみなどに基づき算定される。

スクリーニング試験方法の目的(JIS C 6821 : 1999)

この試験は光ファイバの全長について,機械的強さがスクリーニング試験レベルと同等以下の箇所がないことを保証するものである。

機械的特性試験

光ファイバコードの機械的特性試験は、光ファイバコードに一定の外力を一定時間加えた後に外力を取り除き、光ファイバコードの外観及び光学的な導通状態の確認を行うもので、JIS において、圧壊特性試験、衝撃特性試験などが規定されている。

光ファイバコードの試験方法(JIS C 6821 : 1999)
  • 引張試験方法
  • 圧壊試験方法
  • 衝撃試験方法
  • 繰返し曲げ試験方法
  • コード曲げ試験方法
  • コードねじり試験方法

光ファイバケーブル特性試験方法

この規格(JIS C 6851 : 2006)は,電気通信装置及び同様の技術を採用した機器とともに使用する光ファイバケーブル,及び光ファイバと電気用導線を複合したケーブルの特性試験方法について規定する。

この規格の目的は,光ファイバケーブルの構造特性,伝送特性,材料特性,機械特性,エージング(環境暴露)及び耐候特性,また,必要な場合には電気的特性に関する統一的要求事項を確立することを目的とする。

張力下での曲げ(しごき試験)の目的

この試験は,既定の負荷を加えたとき,光ファイバケーブルが布設中にローラ又は曲がり周辺での曲げに耐えられるかどうかを測定することを目的とする。

疲労特性

光ファイバ強度劣化の時間依存性、すなわち疲労特性の測定方法としては、光ファイバに一定の応力を与えた状態で放置し、破断するまでの時間を測定して静的疲労特性を求める方法と、破断強度のひずみ速度依存性から動的疲労特性を求める方法があり、後者の方法では、破断強度は、一般に、ひずみ速度の増加とともに大きくなる。

伝送帯域測定

周波数領域での測定法は、正弦波状に強度変調された光を被測定 MM 光ファイバに入射し、被測定 MM 光ファイバから出射する光の変調周波数に対する減衰量から伝送帯域を測定する方法である。

周波数領域での測定法の一つである周波数掃引法は、測定精度、測定の再現性などの点で優れていることから、伝送帯域測定方法の主流となっている。

時間領域での測定法の一つであるパルス法は、一般に、周波数掃引法と比較して測定のダイナミックレンジが狭く、また、短尺光ファイバケーブルに対しては SN 比が低下するため測定精度が悪い。

適用条件(長・短距離,帯域 等)

MM 光ファイバは,SM 光ファイバと比較して,コア径が大きく光源との結合効率も高いが,モード分散により伝送帯域が制限され,一般に,距離の短い構内配線などで使用される。

本稿の参考文献

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