アクセス系線路のメタリックケーブル設計
メタリックケーブルの選定(種別,容量等)
メタリックケーブルによる通信システムは,電信,電話のサービスから,それまでのアナログの電話回線からデジタル化された ISDN 方式を経て,さらにインターネットの発展とともに,より高速な xDSL システムへと進んでいった。一方,構内配線システムでは,Ethernet の進展から,10 BASE-T,100 BASE-T,1 GBASE-T,10 GBASE-T と高速化していった。現在,ほとんどの PC には平衡メタリックケーブルを用いる有線通信デバイスが標準で装備されている。近年はさらに短距離ではあるが,より高速な伝送もメタリックケーブルで行うことが検討されている。同軸ケーブルはより広帯域な伝送媒体として,多重中継回線や CATV の伝送に用いられている。
メタリックケーブルは,平衡形(より線形)と同軸の 2 種類に大別される。
種類 | 用途例 |
---|---|
平衡形(より線形) | 電話用,データ伝送用,制御・計装用 |
同軸 | 画像伝送用,CATV 用 |
地下用メタリックケーブル
アクセス系線路設備における地下用メタリックケーブルには,き線系ケーブルと配線系ケーブルがある。また,地下用メタリック平衡対ケーブルには,外被構造をアルミテープとポリエチレン(PE)外被を一体化した LAP 構造とし,心線絶縁材料として PE 内に気泡を含ませることにより誘電率を抑えた発泡 PE を用いた PEC ケーブルがある。
き線系ケーブル
き線系ケーブル(feeder cable)には,一般に,ケーブル内に乾燥空気を連続して供給するガス連続供給方式によるガス保守が適用され,ケーブル損傷などによりピンホールが発生した場合,ケーブル内に供給されているガスが漏洩して内圧が低下するので,それを監視・検出することにより,ピンホールを発見することが可能となる。
ちなみに「き線ケーブル」とは,電話局からき線点までのケーブルをいう。なお,電話局からまとめて敷設されたケーブルを各加入者宅向けに分岐する箇所で,地上にある場合と地下にある場合とがある。き線点から先は,通常架空ケーブルによって電柱の間を渡り,切換え接続盤,クロージャー,保安器,コネクターを経由して,加入者宅に入ることになる。
配線系ケーブル
配線系ケーブルには,ケーブル内への浸水を防ぐために,ケーブル内にポリブデンを主成分とする混和材を充填した JFケーブルがある。
心線径
地下用メタリック平衡対ケーブルは,一般に,経済性を考慮し,地下ケーブルの心線径は,0.32 [mm],0.4 [mm],0.5 [mm],0.65 [mm] および 0.9 [mm] の 5 種類に統一されている。
架空用メタリックケーブル
心線径
架空用メタリック平衡対ケーブルは,一般に,経済性を考慮し,架空用メタリックの心線径は,0.4 [mm],0.5 [mm],0.65 [mm] および 0.9 [mm] の 4 種類に統一されている。
種別
ポリエチレン(PE)
アクセス系メタリックケーブルには,心線絶縁材料に,紙と比較して非吸湿性の高いポリエチレン(PE)を用いたもの,PE と比較して機械的強度は劣るが誘電率が小さい発泡 PE を用いたものなどがある。
ポリエチレンは,耐薬品性及び高周波電気特性が良く,低温でも割れにくいため,CCP ケーブル,PEC ケーブルなどの外被や絶縁体などに用いられている。
PEC ケーブル
従来使用されていた紙絶縁のスタルペスケーブルに代わる着色発砲ポリエチレン絶縁ラミネートシースケーブルで,絶縁体外径の細径化による多対化,着色発砲ポリエチレン絶縁・10 P サブユニット構造の採用による建設,保守性の向上及び絶縁体のプラスチック化による漏話向上を図った新しいケーブルである。ちなみに PEC とは,Colour Coded Foamed Polyethylene Insulated Conductor Cable の略称で,シースにはラミネートシースを用いている。
なお,ラミネートシースは,ケーブル心上に片面に特殊な接着性のよい樹脂を接着したアルミテープ(ラミネートテープという)をアルミ面を内側にして縦に包み,その上からポリエチレンを被覆したもので,アルミテープとポリエチレンシースが接着した構造になっている。
軟質ポリ塩化ビニル
軟質ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride : PVC)は,柔軟で電気絶縁性が良いため,屋外線や屋内線の外被やビニルテープなどに用いられている。
ポリプロピレン
ポリプロピレン(polypropylene : PP)とは,プロピレンを重合させた熱可塑性樹脂である。ポリプロピレンは汎用樹脂の中で,最高の耐熱性を誇り,比重が最も軽くて水に浮かぶという特徴を有する。電線ケーブルや光ファイバの非服として用いられる。
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は,常温で注型でき,機械的強度が高く,電気絶縁性が良いため,ガス隔壁用充塡剤,CCP ケーブルの端末スリーブなどに用いられている。
HS ケーブル
架空線路設備に用いられるアクセス系メタリックケーブルは,設置環境によっては,リスなどのげっ歯類やキツツキなどの鳥類による外被損傷を受けるおそれがある。このような生物被害への対策としては,心線まで影響を及ぼさないようにステンレスの層を持つ HS(High Strength)ケーブルを適用する方法がある。
HS ケーブルは,強風地域での外被亀裂(リングカット)に対する対策としても有効である。
SS 形ケーブル
架空用メタリック平衡対ケーブルとしては,ケーブルと鋼撚り線が一体となった自己支持(SS,Self-supporting)形ケーブルが施工面において優れていることから,広く用いられている。また,SS 形ケーブルは,断面形状がひょうたん形であることから,強風によるダンシング現象が増加するため,強風地帯には適していない。
自己支持のタイプにより,だるま形(8 字形),平行形(ラッシング形),巻きつけ形の 3 種類のものがある。
LAP シースケーブル,ES ケーブル
架空線路設備に用いられるアクセス系メタリックケーブルには,アルミテープと PE シースを接着した構造で透湿防止性に優れた LAP シースケーブルがあり,さらに,電磁誘導対策用として LAP シースと電磁軟鉄テープを組み合わせた ES ケーブルなどがある。
LAP 構造
メタリック平衡対ケーブルの外被構造には,アルミテープとポリエチレン外被を一体化した LAP 構造がある。
CCP-JF ケーブル
CCP ケーブルの CCP とは,Colour coded polyethylene の略称である。導体が着色ポリエチレンで被覆された市内電話線路用電線である。導体の全てが色分けされているため,加入者用の配線に便利である。ケーブルコアの間隙部に防水混和物を充てんした CCP-JF ケーブルが地下配線用に使用されている。このケーブルは,外被に傷を受けても浸水部分が広がらないという特長がある。
その他
ブリッジタップ
アクセス系平衡対ケーブル設備では,メタリック心線の融通を確保するためのブリッジタップ(電話回線の分岐のうち,終端処理されていないもののこと)が存在すると,ブリッジタップの先端部分は開放されているため,反射が生じることから,特に,ADSL 回線では,損失が増加し,伝送速度が低下する要因となる場合がある。
伝送特性(一次定数,二次定数,漏話特性等)の考慮
メタリックケーブルを伝搬する電気信号は,2 本の導体間に誘起される電磁波によって運ばれている。メタリックケーブルの伝送特性の厳密な取扱いは,2 本の導体によって,その周囲の空間に誘起する電磁場を求めなければならないが,金属導体を分布定数回路として扱うことにより,電磁界分布を考えることなくその伝送特性を金属導体の抵抗 $R$,インダクタンス $L$,容量 $C$ 及び漏洩コンダクタンス $G$ で表すことができる。
専門的分野・通信線路 対策ノート「メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」を参照
ルート選定(自然環境による劣化有無,人為的事故影響回避等)
自然環境による劣化有無
プラスチックは,紫外線が存在しなくても酸素が存在する環境に置かれた場合,熱により劣化するため,気密性が十分でない架空用クロージャ内では心線絶縁体に亀裂などが生ずる場合がある。
軟質ポリ塩化ビニルが用いられている屋外線の外被が鮫肌状になり,割れやすくなる主な要因として,柔軟性を与えるために添加した可塑剤が揮発したり,雨に流されたりして減少することにより屋外線の外被が硬く,もろくなることが挙げられる。
人為的事故影響回避
配線法(Wiring system)の選定
自由配線法(1960 年代~)
- 全端子函でケーブル内の全心線が選択可能な配線法
- ケーブルのプラスチック化により可能になった
き線ケーブル配線法(1970 年代~)
き線ケーブル配線法は,固定配線区画を設定して,需要数に見合う固定回線と固定配線区画相互間の融通性を高めるための共通線を設ける方式である。さらに,固定回線及び共通線でも収容しきれない局部的な需要変動に対応するため,共通予備線が設けられている
- 「き線」と「配線」の区別により設置量の調整が可能な配線法
- 配線区画内はマルチ接続の自由配線法である
FD 配線法(1980 年代~)
- 設備信頼度の均一化が図られた配線法
- 配線区画内は非マルチ接続の自由配線法
架空構造物の設計(電線・支線の強度設計,地上高,ケーブル離隔等)
架空構造物設計は,架空系設備の構成が複雑であるばかりでなく,風雪,温度の気象条件および地盤,地形等の地況ならびに都市・道路計画や交通,お客さま宅の状況等の外的条件が一様でないため,各種条件を十分に考慮して行う必要がある。
電気通信事業は,ユーザに迅速,明瞭,安定かつ低廉なサービスを提供することによって公共の福祉を増進することを目的としている。架渉される通信ケーブルに必要な地上高や電力・他事業者ケーブルとの接触を防ぐための離隔距離の確保等,電気通信設備の安全・信頼性の確保に努めるよう技術的な制約事項がある。
架空構造物の適用 | 法令・規則等の名称 |
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風圧荷重 |
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線条等の必要地上高 |
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線条の離隔距離 |
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架空構造物の設計
架空構造物設計には,主に 3 つの設計がある。
(1) つり線・支持線の設計
架渉される通信ケーブルの種類により,つり線・支持線の強度が決定されるとともに,ケーブル張力も決まる。
(2) 電柱の設計
架渉される通信ケーブルの種別・条数により,電柱に必要な強度が決定される。
(3) 支線の設計
架渉される通信ケーブルの種別,条数によって電柱への不平均張力に対して,張力を受け持ち,張力のバランスを取るように必要強度を持つ支線を設計する。
架空構造物に加わる荷重
架空線路構造物に加わる荷重には,以下の 3 種類がある。
(1) 風圧荷重
法規 対策ノート「有線電気通信設備令施行規則」第六条 風圧荷重を参照
ケーブル線条の垂直方向に加わる力で,ケーブルなどに加わる風圧荷重に電柱の強度および地盤支持力が耐えられるように設計を行う。風圧荷重は,架空線路構造物が建設される場所の気象条件により,甲種・乙種および丙種風圧荷重に分類される。
風圧荷重とは,いわゆる風により物体に加わる力のことである。架空構造物では,線路方向に垂直な方向への風が吹いたときに,最大の風圧荷重がかかる。風圧荷重は風に直角に向いた面では空気の密度と風速の二乗に比例する。単位面積当たりの風圧荷重は一般的に以下の風圧荷重基本式で表される。
\[ P = \frac{1}{2}\rho \times 9.8 \times cv^2 \]ここで $P$ は風圧荷重 [N/m²],$\rho$ は空気密度 [kg/m²],$c$ は抗力係数,$v$ は風速 [m/s] である。
架空構造物では,線路方向に対して垂直な方向の風が吹いたときに風圧荷重は最大となり,風に垂直に向いた面の風圧荷重は,空気の密度に比例し,風速の 2 乗に比例する。
抗力係数 $c$ とは,一様な流れの中に置かれた物体が流体から受ける流体力のうち,流れ方向の成分である抗力の無次元数のことをいう。この係数は,物体の形状・大きさ・風速により変化するものであり,風洞実験で実際に測定された風圧荷重から求められる。
種別 | 荷重 | 適用 |
---|---|---|
甲種風圧荷重 | 電柱においては,その垂直投影面積 1 m² につき 80 kg,通信ケーブルにおいてはその円筒面の垂直投影面積 1 m² につき 100 kg,盤類等においてはその垂直投影面積 1 m² につき 160 kg の風圧が加わるものとして計算した荷重。 | 市街地以外。ただし市街地であっても強風地帯を除く。 |
乙種風圧荷重 | ケーブルの周囲に比重 0.9 の氷雪が厚さ 6 mm で付着した場合において,甲種風圧荷重における風圧の 2 分の 1 の風圧が加わるものとして計算した荷重。 | 積雪地帯 |
丙種風圧荷重 | 甲種風圧荷重における風圧の 2 分の 1 の風圧が加わるものとして計算した荷重のこと。 | 市街地 |
(2) ケーブル張力
ケーブル線条方向に加わる力で,架空線路の起終点にある電柱において,支線により張力を受け持ち,張力のバランスを取るように設計を行う。
ケーブル張力とは,ケーブルを架渉した際に,ケーブルの線条方向に加わる張力のことである。架空構造物には張力により,電柱の線路方向への荷重がかかる。張力 $T$ は,次式で表される。
\[ T = \frac{WS^2}{8d} \]ただし,$T$ は張力 [kN],$d$ は弛度 [m],$W$ は単位長さ当たりの荷重 [N/m],$S$ はスパン長 [m] である。

ケーブルを架渉することにより,自らの重さによりケーブル張力が発生する。また,風により風圧荷重が加わるためさらに張力が増加する。単位長さ当たりのケーブル重量 $W$ [N/m] は,ケーブル重量 $w$ [N/m] と風圧荷重 $P_\text{c}$ の合成荷重となる。
\[ W = \sqrt{w^2 + P_{\text{c}}^2} \]
(3) 垂直荷重
電柱に垂直に加わる荷重のことで,次のようなものが考えられる。
- 電柱自体の重量
- 盤類等およびこれらに付属する金具などの重量ならびにこれらに付着する氷雪の質量
- 電柱によって支持されている線条の重量ならびにこれらに付着する氷雪の重量
- 支線を用いる場合は,その張力によって生ずる垂直分力
- 作業者や工具類の重量
張力設計(敷設,架渉)
張力計算において使用する計算式を示す。
(1) 直線部
直線部の張力 $T$ [N] は,重力加速度を $g$ [m/s²],摩擦係数を $\mu$,単位長さ当たりのケーブル質量を $w$ [kg/m],直線部の長さを $L$ [m] とすると,次式で求められる。
\[ T = g \mu w L \]
(2) 屈曲部
屈曲部直後の張力 $T_2$ [N] は,屈曲部直前の張力 $T_1$ [N],張力増加率を $K$ とすると,次式で求められる。
\[ T_2 = T_1 \times K \]なお,図中の $\theta$ は,交角という。

交角と張力増加率の関係を次表に示す。電気通信主任技術者試験において,交角と張力増加率は提示されるため,次表を暗記する必要はない。
交角 | 張力増加率 |
---|---|
6 ~ 10 | 1.10 |
11 ~ 16 | 1.15 |
17 ~ 20 | 1.20 |
21 ~ 25 | 1.25 |
26 ~ 30 | 1.30 |
31 ~ 34 | 1.35 |
35 ~ 38 | 1.40 |
39 ~ 42 | 1.45 |
(3) 曲線部
曲線部直後の張力 $T_2$ [N] は,屈曲部直前の張力を $T_1$ [N],屈曲部前の直線部の張力を $T$ [N] とすると,次式で求められる。
\[ T_2 = (T_1 + T) \times K \]
本稿の参考文献
- 電子通信情報学会「知識ベース」5群(通信・放送) - 2編(光アクセス・伝送技術) 7 章 メタリック線路と加入者伝送方式
- 【通信用電線】市外線路用の電線 | 電線の基礎知識 | 一般社団法人 電線総合技術センター【JECTEC】