中継系線路の光ファイバケーブル設計

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

光中継システムは,一般に,光送受信装置,光ファイバケーブル及び中継器で構成される。送信側の光送信装置には,複数のデジタル信号を束ねる多重化装置と多重化された電気信号を光信号に変換する光送信器が設置され,光送信器に光の誘導放出現象を利用した半導体レーザが用いられる。受信側の光受信装置は,光信号を電気信号に変換する O/E 変換器と多重化された信号を元に戻す分離装置で構成される。伝送区間が長距離となり,雑音やひずみなどの影響により信号の識別が困難な状況になると,中継器が設置される。

光ファイバケーブル選定

光ファイバケーブルの構造設計においては、光ファイバに許容される破断確率及びスクリーニング荷重から光ファイバに許容される伸びが決定され、この伸び以下で布設できるようにテンションメンバの強度が設計される。

幹線系や配線系で用いられる光ファイバケーブルには,限られた管路空間内や架空構造物に効率良く布設・収容するため,光ファイバ心線の高密度収容,ケーブルの細径化などが求められる。光ファイバ心線の収容密度を高めるために使用されるテープ心線は,一般に,一次被覆された直径 250 [μm] の単心の光ファイバ素線を複数本並列に並べ,UV 硬化型樹脂を用いてテープ状に連結したものであり,光ファイバリボンなどともいわれる。

テープ心線の構造には,並列に並べられた複数の光ファイバ素線の周囲を全て二次被覆で覆い一体化したカプセル型,複数の光ファイバ素線のうち隣接する光ファイバ素線相互間を接着したエッジボンド型などがある。テープ心線構造は,光ファイバ心線 1 本当たりに必要な断面積を,単心構造と比較して,約 20 [%] 小さくできるため,高密度収容及び細径化に有利である。また,テープ心線は,4 心や 8 心のまま一括で融着接続できるため,単心単位での融着接続より接続作業に要する時間を大幅に短縮することが可能である。

テープ心線を収容する地下光ファイバケーブルの外被の内側には,一般に,防水テープが配され,水が浸入すると,防水テープが吸水・膨張してケーブル内の空隙を埋めることによって水走りを防止する構造になっている。

表 光ケーブル基本構造の選定(推奨構造)
用途 場所 推奨構造 注意点
ロングホール 地下幹線 テープスロット型ケーブル(一方向撚),SZ 撚テープスロット型ケーブル 鉄道沿線等の振動が大きく心線移動が懸念される場所にテープスロット型ケーブル(一方向撚)を用いる場合には,心線固定処置(接着剤などによりテープ心線と溝付きスペーサを一体化する処置)を実施する。

中継間隔の設計

光送受信装置間を無中継で伝送する場合の最大伝送距離 $L$ は、主に、送信側における出力光パワー $P_\text{s}$、受信側における所要の伝送特性を満足するための受信機の最小受光パワー $P_\text{r}$、波形劣化による受信感度劣化 $P_\text{d}$ 及び単位距離当たりの伝送路損失 $\alpha$ によって支配され、次式で求められる。

\[ L = \frac{P_\text{s} - P_\text{r} − P_\text{d}}{\alpha} \]

信号光が光ファイバ中を長距離にわたり伝搬すると,光ファイバの損失及び分散により,信号光パワーの減衰及び波形ひずみが生じ,所要の符号誤り率を満足できなくなってくる。

SM 光ファイバを用いた光通信システムの設計では,無中継で伝送可能な距離 $L'$ [km] は,基本的には,送信側の光パワーを $P_s$ [dB],受信側の最小受光パワーを $P_r$ [dB],設備センタ内の接続損失を $P_0$ [dB],送・受信機の経年劣化や光ファイバの損失増加などを見込んだシステムマージンを $P_m$ [dB],光ファイバの接続損失を含む単位長さ当たりの平均損失を $\alpha$ [dB/km] とすると,次式で求められる。ただし,$P_s$ は発光素子の出力光パワーではなく伝送路用光ファイバに有効に入射した光パワーであり,発光素子と光ファイバとの結合効率によって決まる値である。

\[ L' = \frac{(P_s - P_r) - P_0 - P_m}{\alpha} \]

高速光ファイバ通信システムにおける伝送可能距離は,光ファイバ損失による制限のほか,分散による波形劣化によっても制限される。このため,波長分散による波形劣化量 $P_d$ [dB] も見込む必要があり,実際に無中継で伝送可能な最大距離 $L$ [km] は,次式で求められる。

\[ L = \frac{(P_s - P_r) - P_0 - P_m - P_d}{\alpha} \]

伝送距離は,$P_s$ を高くすることによって延伸することができるが,一般に,光ファイバへの入射光パワーが高くなると,光ファイバの非線形光学効果の一つである自己位相変調によってスペクトル幅が広がり $P_d$ が大きくなることから,$P_s$ と $P_d$ はトレードオフの関係にある。

布設工法の選定

管路区間で光ファイバケーブルを布設する場合,人力による方法と先端けん引,中間けん引,分散けん引の方法がある。

けん引機を使用すると一度に長い距離を布設することができるので,管路区間に布設する光ファイバケーブルの接続点を減らすことができる。光ファイバ心線の接続点では接続損失が発生するので,接続点を減らすことができる長スパン布設工法は,光ファイバ区間全体の損失を低減することができる。

先端けん引法は、けん引車だけでけん引する方法で、大部分の張力がテンションメンバに加わる。中間けん引法は、先端けん引法ではケーブルの許容張力を超える場合に用いられ、けん引車とけん引機を同時に使用する方法で、ケーブルの中間でケーブルけん引機にてケーブル外被を把持し、けん引することにより、テンションメンバに加わる張力を分散する。

光ファイバケーブルは、一般に、1 [km] を超える長スパンの布設を実現するため、布設張力に耐える強度を持たせている。光ファイバケーブルのテンションメンバは、光ファイバケーブル布設が可能となる張力が加わったときの伸びが 0.2 [%] 以下になるように設計されている。

架空用光ファイバケーブルを架渉する場合は、一般に、ケーブル繰出し点、ケーブルけん引点及び内角が 90 度以上 150 度以下の曲柱には小型屈曲部用金車を用い、けん引作業においては、ケーブルに加わる張力、曲がり状況及び速度を常時監視しながら行う。

光ファイバケーブル布設時に、布設張力などの布設条件、地形などによって一定方向への延線が困難な場合や、傾斜地などによって布設張力がケーブルの許容張力を越える場合には、布設ルートの中間でケーブルを引き出し、張力を解放する。その際、ケーブルにキンクが生ずることを防止するため、8の字状にケーブルを整理し、曲げ半径にも注意する必要がある。

光ファイバケーブルの布設速度は、一般に、20 [m/min] を上限として、使用する牽引装置、ケーブルドラムの回転速度と作業の安全性、ケーブルへの過度な張力と外傷の予防などを考慮して決定される。

プーリングアイ

光ファイバケーブルの端末に取り付け,気密の保持を行うとともに,地下管路などに敷設する際のけん引に用いられる。

写真 プーリングアイ
(出典)株式会社 白山

ルート選定(自然環境による劣化有無,人為的事故影響回避等)

温度変化による伸縮や車両が通行することによる振動でケーブルが移動する現象はクリーピングといわれ,車両通行量が多い傾斜地や路面の凹凸が著しい直線道路,及び走行車両のほぼ真下に埋設されたケーブルにおいて,特に発生しやすい。

寒冷地では,管路内の溜水が凍結することによりケーブルを圧壊し,故障を起こすことがある。ケーブルの圧壊を防止するには,管路内にケーブルと一緒に PE パイプを布設することによりケーブルに加わる凍結圧を減少させる方法がある。

配線法の選定

準備中

光損失設計

EDFA などを用いた線形中継方式の光通信システムでは,一般に,中継区間で発生する損失は補償されて信号光レベルは回復するが,SN 比は劣化する。SN 比の劣化は,主に,光増幅器で発生する自然放出光と信号光によるビート雑音に起因して生ずるものである。

光ファイバ増幅器を用いた光通信システムにおいては,光ファイバの損失による信号光パワーの低下は光ファイバ増幅器で補償されて回復するが,SN 比は劣化する。信号光が光ファイバ増幅器を $m$ 台通過した後の SN 比は,光ファイバ増幅器の雑音指数を $NF$ とすると,$10 \log_{10}{mNF}$ [dB] 劣化する。これが光ファイバ増幅器で損失補償を行っても,伝達距離を無限に延ばすことができない要因の一つである。

波長分散は,一般に,伝送用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスなどを挿入することで補償される。光ファイバ通信システムでは,一般的に使用する 1.55 [μm] 帯の信号光は,ゼロ分散波長である 1.31 [μm] より長波長側の異常分散領域にあり,長距離伝送時には波長分散が伝送特性の劣化要因となることから,伝送用光ファイバとは逆の分散値を持つ光ファイバである DCF を周期的に挿入するなどして波長分散の累積をゼロに近づけている。

光ファイバ増幅器と分散補償器によって長距離伝送が可能となるが,実際の光ファイバ通信システムでは,光ファイバの非線形現象による波形劣化も問題となる。波形劣化をもたらす非線形現象の一つに,信号光が光ファイバ中を伝搬するとき,自分自身の強度に起因する屈折率変化によって位相がシフトする自己位相変調現象がある。

線形中継システムでは,信号光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数に比例して増大し,また,ASE 光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数の 2 乗に比例して増大する。

ワンダ

光信号が伝送路を伝わるうちに,自然条件の影響を受け光ファイバが温度変化によって伸縮すると揺らぎを生じ,ビット誤り率を増大させる要因の一つとなる。この揺らぎの周波数が 10 [Hz] 未満のものはワンダといわれる。

分散マネジメント

分散補償技術には、非線形光学効果を利用して位相共役波、ソリトンなどを発生させる又は外部位相変調器を利用してプリチャーピングを行うなどの能動型のものと、分散補償ファイバ(DCF)、PLC、FBG などの線形素子を利用する受動型のものがある。

光パルスの波長が時間的に変化する現象は,一般にチャーピングといわれ,光パルスは時間的な波形広がりを伴うため,符号間干渉を生ずる現象となる。

光ファイバによる分散補償は、伝送路として使われる光ファイバの前又は後ろに、DCF を接続することにより行う。DCF の主要な目的の一つは、波長 1.3 μm 帯で波長分散がゼロの標準型 SM 光ファイバを、EDFA が使用可能な 1.55 μm 帯で使用可能とすることである。標準型 SM 光ファイバは 1.55 μm 帯において、約 17 [ps/nm/km] の波長分散値を有するため、DCF は、短い長さでこの値をキャンセルするために必要とされる、絶対値が大きくかつ負の波長分散値を持つことが要求される。そのため、DCF はコアとクラッドの屈折率差を大きくしてコア径を小さくすることにより、1.55 μm 帯において、材料よりも導波路構造が波長分散に及ぼす影響を大きくしている。

光ファイバの分散スロープ補償率の指標として、分散スロープと波長分散の比で表されるRDS(Relative Dispersion Slope)というパラメータが使われる。一般的な DCF の設計においては、分散スロープの絶対値のみを大きくすることは非常に困難であり、波長分散の絶対値がある程度大きくなるように設計せざるを得ない。このことから、RDS 値が小さい伝送路ほど、DCF によりフラットな波長分散特性を得ることが容易となる。

DWDM システムで使用する波長帯域の拡張に伴い,光ファイバの波長分散だけではなく分散スロープを補償することが求められる。分散スロープも含めた分散補償の観点から分散スロープと波長分散の比で表される RDS といわれるパラメータが,光ファイバの分散スロープ補償率の指標として使われている。

RDS (Relative Dispersion Slope)
比分散スロープ。分散スロープ / 波長分散で求める値であり,分散スロー部補償率の指標。
(比分散スロープ) = (分散スロープ)/(波長分散)

光ファイバ増幅器を用いた光通信システムにおいては,光ファイバの損失による信号光パワーの低下は光ファイバ増幅器で補償されて回復するが,SN 比は劣化する。信号光が光ファイバ増幅器を $m$ 台通過した後の SN 比は,光ファイバ増幅器の雑音指数を $NF$ とすると,$10 \log_{10}{mNF}$ [dB] 劣化する。これが光ファイバ増幅器で損失補償を行っても,伝達距離を無限に延ばすことができない要因の一つである。

波長分散は,一般に,伝送用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスなどを挿入することで補償される。光ファイバ通信システムでは,一般的に使用する 1.55 [μm] 帯の信号光は,ゼロ分散波長である 1.31 [μm] より長波長側の異常分散領域にあり,長距離伝送時には波長分散が伝送特性の劣化要因となることから,伝送用光ファイバとは逆の分散値を持つ光ファイバである DCF を周期的に挿入するなどして波長分散の累積をゼロに近づけている。

光ファイバ増幅器と分散補償器によって長距離伝送が可能となるが,実際の光ファイバ通信システムでは,光ファイバの非線形現象による波形劣化も問題となる。波形劣化をもたらす非線形現象の一つに,信号光が光ファイバ中を伝搬するとき,自分自身の強度に起因する屈折率変化によって位相がシフトする自己位相変調現象がある。

分散補償光ファイバ

分散補償光ファイバは,屈折率分布形状により,マッチドクラッド型,W 型などに分類される。

マッチドクラッド型

マッチドクラッド型は,W 型と比較して,構造が単純で低損失であるが,分散スロープは通常使用される SM 光ファイバと同様に正値であるため,分散を小さな値に抑えることができる波長範囲は狭い。

W 型

W 型の分散補償光ファイバは,マッチドクラッド型と比較して,損失は大きいが,分散値及び分散スロープを通常使用される SM 光ファイバとの逆の値にすることができるため,分散を小さな値に抑えることができる波長範囲は広い。

分散補償器

線形素子を利用した受動型の分散補償器には,FBG 型,PLC 型などがある。

SM 光ファイバの波長分散は、伝送路用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスを用いた分散補償技術により理論的には完全に補償が可能である。

FBG 型

FBG 型の一つであるチャープト型分散補償器は,光ファイバの長手方向の屈折率を周期的に変化させてグレーティングを形成した FBG と光サーキュレータを組み合わせて反射モードで使用することにより,正負いずれの分散にも対応した補償器とすることができる。

PLC 型

PLC を利用した分散補償器は,平面導波路基板の上にマッハツェンダ干渉回路を多段に接続して形成され,分散スロープを補償する特性を持たせることもできる。電界吸収効果を利用した位相シフタ及び可変カプラの結合率の調節により分散値を変えることができる。

ルート設計による冗長構成

準備中

参考文献

  • 電気通信情報学会「知識ベース 5群(通信・放送)-2編(光アクセス線路・伝送技術)4章 光ファイバケーブル」
  • 愛川 和彦 他,「分散補償ファイバモジュール」,2010 Vol. 2,フジクラ技法 第119号
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