誘導対策

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

静電誘導と電磁誘導

送電線と通信線が接近交差している区間が長くなると,通信線に対し,静電誘導あるいは電磁誘導障害を及ぼすことがあるので,送電線建設時には予測計算を行って,電気設備技術基準などで規制された制限値を超えないようにする。そのため,誘導障害防止または軽減対策を講じなければならない。

高圧送電線などから通信線が受ける誘導には,静電誘導と電磁誘導の 2 種類がある。静電誘導は,電圧成分を誘導源とする現象であり,電磁誘導は,電流成分を誘導源とする現象である。

表 誘導の種別と電圧制限値
誘導種別 誘導電圧 適用条件等
静電誘導 5.5 kV 既設の送電線については測定器による実測を行う
電磁誘導 異常時誘導危険電圧(※2) 650 V(※1) 高安定送電線($t$ ≤ 0.06 s)
430 V 高安定送電線(0.06 s ≤ $t$ ≤ 0.1 s)
300 V 上記以外の送電線
常時誘導縦電圧 15 V 一般電話回線の場合(交換機,端末機種による)
常時誘導雑音電圧 0.5 mV 一般電話回線の場合(交換機,端末機種による)
(補足)$t$ は送電線の地絡電流継続時間
※1:絶縁対策を行う必要がある。
※2:地絡故障時を想定。なお,「地絡」とは,事故などにより電力線等と大地の間の絶縁が極度に低下して半導通状態となり,電線に大量の電流が流れる現象。

(参考)電磁誘導電圧の変遷

日本では従来,電磁誘導電圧の制限値は,中性点直接接地方式の超高圧送電線の場合は 430 V,0.1 秒,そのほかの送電線では 300 V を基準としていた。ところが,国際電気通信連合(ITU-T)では,一般的に 2 000 V,保守管理作業など過酷な場合に 650 V を制限値として勧告としている。また,アメリカやヨーロッパ諸国では,一般送電線で 430 V,高安定送電線で 650 V としていた。

このような背景の中,わが国の基幹送電系統は 500 kV 送電線で構成され,送電系統の信頼性は向上してきたこともあり,超高圧以上の送電線で事故の発生頻度が少なく,かつ事故の継続時間がきわめて短い(0.06 秒以下)高安定送電線では 650 V まで許容することに改められた。

静電誘導(electrostatic induction)

送電線と通信線の相互の静電結合によって通信線の誘導電圧を生じる。この現象を静電誘導(electrostatic induction)といい,静電誘導電圧の大きな場合,受話器に誘導電流が流れ,商用周波数の雑音が入るなどの通信妨害を起こす。

下図を用いて送電線による通信線への静電誘導を説明する。送電線 ① には,大量の電荷が存在するとき,送電線 ① に近い側の通信線に ① と異種の電荷が現れる。このため,通信線 ② と ③ の間に電荷の移動が発生する。また,一般的には送電線には交流電圧が印加されており,電荷の移動量の時間変化,すなわち,静電誘導電流による電荷移動は交互に発生する。

送電線による通信線への静電誘導
図 送電線による通信線への静電誘導

図に示すように、対地電圧 $V_\text{E}$ の送電線の近くに通信線がある場合、送電線と大地間の静電容量を $C_1$,通信線と大地間の静電容量を $C_2$,送電線と通信線間の静電容量を $C_3$ としたとき、送電線からの静電誘導により通信線に発生する対地電圧 $V_\text{C}$ について,対地電圧 $V_\text{C}$ は,静電容量 $C_3$ が静電容量 $C_2$ と比較して大きいほど大きい。

\[ V_\text{C}=\frac{C_3}{C_2+C_3}V_\text{E} \]

静電誘導電圧 $V_\text{C}$ は,電磁誘導のように,相互の平行長に比例して増大する傾向はなく,相互の離隔によって決まる。

図 送電線からの静電誘導により通信線に発生する対地電圧

電磁誘導(electromagnetic induction)

送電線に通信線が接近しているとき,相互の誘導的結合によって,通信線に電圧が誘起されている現象を電磁誘導(electromagnetic induction)という。しかし,高電圧の三相送電線は故障時以外はほとんどバランスして相電流が流れているので,大電流が流れてもある程度通信線が離れているとき,各相と通信線との間の相互インピーダンスはほとんど等しく電磁誘導電圧は生じない。

しかし,送電線に地絡故障が発生して過大な地絡電流が流れると,その大地を帰路とする零相電流成分による電磁誘導作用によって,通信線に大きな電磁誘導電圧を生じ通信線の作業員に危害を加えたり,通信機器を破壊するなどの障害を与えるおそれがある。

電磁誘導によって通信線に誘起される電圧には,① 異常時誘導電圧(送電線の零相電流によるもの),② 常時誘導電圧(常時の負荷電流の各相の不平衡および各相導体と通信線との離隔の不整合によって生じるもの),③ 誘導雑音電圧(送電線の常時の高周波電流に起因するもの),の三つがある。

下図に電磁誘導の現象について示す。導線 A,B において片方 A に電流が流れると,その瞬間に導線 B に反対方向に電流が流れる。次に導線 A の電流を切ると一瞬導線 B に電流が流れる。

次に導線 A の代わりに磁石を導線 B に近づけると,磁石を動かす間のみ導線 B に電流が流れる。このように導線 B に起電力を発生させる源は磁束の変化である。この現象を電磁誘導と呼び。この起電力を電磁誘導電圧と呼ぶ。

この電磁誘導は静電誘導と異なり遮蔽が簡単にできず,また,地下ケーブルにも発生するので対策が難しい場合がある。

導線による電磁誘導
図 導線による電磁誘導

誘導電圧の種類

誘導雑音電圧は、通信回線を構成する2本の心線間に生ずる誘導電圧であり、通話妨害を引き起こすものである。これは、起誘導源に含まれるひずみ波と通信回線の大地に対する不平衡によって生ずる。

常時誘導縦電圧

常時誘導縦電圧は、送電線などの正常運転時に、誘導作用により通信線の長さ方向に生ずる誘導電圧である。

送電線の常時運転時に、各相の負荷電流の不平衡などによって近接する通信線と大地間に誘起される電圧は常時誘導縦電圧といわれ、作業者の安全確保を対象とした場合の制限値は、一般に、60 [V] とされている。

常時誘導雑音電圧

送電線に流れる常時の高調波電流などによって近接する通信線と大地間に誘起される電圧は常時誘導雑音電圧といわれ、一般電話回線の場合の制限値は、一般に、0.5 [mV] とされている。

交流電気鉄道による誘導

交流電気鉄道は、主な方式としてトランスの挿入方法の違いにより BT き電方式と AT き電方式がある。いずれの方式においても、通信線に生ずる誘導電圧としては、給電電流の基本波成分による常時誘導電圧と高調波成分による誘導雑音電圧がある。

ラジオ放送波による誘導

ラジオ放送波による誘導妨害には、通信線に誘導された誘導縦電圧が電話機の内部回路にある半導体素子などで検波されて生ずるものがある。ラジオ放送波による誘導電圧は、水平電界成分と垂直電界成分によるものがあるが、水平電界成分によるものが支配的である。

異常時誘導危険電圧

異常時誘導危険電圧は、送電線などの事故発生時に、地絡電流により通信線の長さ方向に生ずる誘導電圧である。これが制限値を超えると想定される場合は、遮蔽効果の高い通信線への変更などの対策が必要となる。

遮蔽効果

金属シールド

前記の静電誘導電流は通信品質に大きな影響を与える。この静電誘導を防ぐために通信線を金属で覆い,その金属を大地に接地すると,金属に誘導した電荷が大地に流れるため,通信ケーブルにおける誘導を抑えることができる。下図に通信ケーブルの金属シールドの例を示す。ケーブルの心線を覆った金属シースによりノイズの抑制を図る。ケーブルの直線ルートにおいて,300 ~ 500 m ごとにつり線及び金属シースを接地するとともに,通信ケーブルの両端末において接地を行う。

通信ケーブルの金属シールドと接地
図 通信ケーブルの金属シールドと接地

誘導防止対策

誘導雑音による伝送品質劣化には、電力線や電気鉄道などの強電流施設からの高調波成分の誘導妨害による音声回線の品質劣化などがある。

静電誘導の対策

抜本対策は,送電線と通信線との離隔距離を大きくすることである。ルート選定上やむを得ない場合には,送電線のねん架を行うか,通信線の交差を行うことによって,相互の距離の差による相互静電容量の不平衡をなくし,障害防止を図る。

静電誘導の影響を避けるための対策として,一般に,アルミニウムの遮蔽層を有する通信ケーブルが使用される。また,ラジオ放送の送信アンテナに近いエリアでは,電話機の受話器からラジオ放送が聞こえる場合がある。この対策の一つに,高周波成分が電話機に入り込まないように,コンデンサを挿入する方法がある。

誘導遮蔽ケーブル

通信線は長距離にわたって敷設される場合が多く,送電線などからの誘導を受けやすい。送電線の地絡事故時に通信作業者に危険な電圧が発生しないように人体の安全に必要なレベルまで通信線への誘導電圧を低減する必要がある。この誘導電圧を抑制するため,誘導遮蔽ケーブルを用いる。

誘導遮蔽ケーブルとは,金属遮蔽層に電磁軟鉄テープを使用した特殊なケーブルであり,その金属シースの両端は数 Ω の低い抵抗で接地される。

電磁誘導を軽減するための対策の一つとして,通信線にアルミ被誘導遮蔽ケーブルを用いる方法があり,アルミ被に巻かれる磁性体テープには,遮蔽効果を上げるために透磁率の高い磁性材料を用いることが有効である。

離隔距離の確保

電磁誘導を軽減するための対策の一つとして,誘導源となる高圧送電線などと通信線との離隔距離を十分にとる方法がある。また,やむを得ずお互いに交差する場合は,交差部をできる限り直角にすることが有効である。

地下化

電磁誘導を軽減するための対策の一つとして,架空線路区間を地下化し,ケーブルを金属管路に収容することにより,遮蔽係数を小さくする方法がある。

遮蔽係数 = 遮蔽を施したときの誘導電圧 / 遮蔽していないときの誘導電圧

ノンメタリック化

光ファイバケーブルでは、伝送媒体であるガラスが無誘導である特性を生かし、テンションメンバなどの構成材料をすべてノンメタリック化した IF ケーブルが誘導対策用として用いられている。

誘導妨害の対策が必要な場合,抗張力体が FRP で PE シース構造としたノンメタリックの光ファイバケーブルを用いる方法が有効である。

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