雷害対策

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

落雷が発生すると,電磁誘導雷サージ,静電誘導雷サージなどにより通信ケーブルや電力線に過電圧や過電流が発生する場合がある。これらの雷サージに対しては,通信装置の設置環境,設備構成などを考慮した適切な対策をとる必要がある。

誘導雷など,回路に侵入して来る過電圧をサージと呼ぶこともあります。サージというのは,サーフィンの波のようなイメージで,形を変えないで電線を伝わってくる電圧の波です。

(出典)新藤 孝敏,「雷をひもとけば -神話から最新の避雷対策まで-」

雷サージの分類

雷サージには、電磁誘導現象により通信線や電力線に生ずる誘導雷サージと、ビルやケーブルなどに直接落雷して発生する電流が通信線などへ流入する直撃雷サージがある。

表 雷サージの分類
分類 説明
誘導雷サージ 電磁誘導現象により通信線や電力線に生ずる
直撃雷サージ ビルやケーブルなどに直接落雷して発生する電流が通信線などへ流入する

誘導雷サージの対策

雷害対策には,通信線と電源線へ避雷素子を設置し,雷サージが通信装置へ侵入しないように避雷素子間の接地線を連結して雷サージのバイパスルートを作成する方法がある。

ユーザビルに設置される VDSL 集合装置の雷害対策としては,保安用接地,電源用接地及び通信用接地を個別接地としないで等電位化する共通接地とする方法,VDSL 集合装置の電源線とメタリックケーブルの通信線との間に雷サージのバイパスルートを設ける方法などが有効である。

自己支持型光ファイバケーブルは,ケーブル部のテンションメンバが無誘導タイプであっても,金属である支持線に雷サージが誘導されるおそれがあるため,支持線の接地を適切に行う必要がある。

ユーザビルなどに設置される光アクセス装置は,光アクセス装置に接続される通信線に雷害対策が施されていても,光アクセス装置の電源線が屋外に配線されている場合,電源線から雷サージが侵入するおそれがある。

加入者保安器のアースを大地に接地しないで架空ケーブルの支持線に接続する形態では、通信線を経由して雷サージが通信機器などに侵入するおそれがあるので、加入者保安器のアースは大地に直接接地することが望ましい。

ケーブルごとの対策

石英系光ファイバ心線

石英系光ファイバ心線そのものは、非導電性であるため、雷の影響を受けにくく、雷サージの侵入ルートや流出ルートになることはない。

自己支持型光ファイバケーブル

自己支持型光ファイバケーブルは、ケーブル部のテンションメンバが無誘導タイプであっても、金属である支持線に雷サージが誘導されるおそれがあるため、支持線の接地を適切に行う必要がある。

テンションメンバ

光ファイバケーブルのテンションメンバを適切に成端しないと、雷サージによるテンションメンバからの放電により心線が損傷し、故障が発生することがある。この故障防止対策として、テンションメンバを屋外通信装置内の接地と連接する方法がある。具体的には,ケーブル接続点において抗張力体をクロージャの金具へ連結することにより電気的に接続し、共用接地を行う。

FTTH の設備形態において、ユーザ宅への引込みに用いられるドロップ光ファイバケーブルには、落雷時のサージ電流対策などのため、テンションメンバに非導電性である FRP を用いているものがある。

落雷などによる商用電源の停電対策

通信を途絶させないためには,通信機器を雷サージから防護するほかに,落雷などによる商用電源の停電対策として,受電経路の二系統化,重要機器には UPS から給電することなども考慮することが望ましい。

直撃雷サージの対策

直撃雷サージは、地下区間・架空区間いずれの設置環境でも発生し、一般に、その電気的なエネルギー量は誘導雷サージと比較して大きいが、ケーブルをノンメタリック化したり接地を施したりすることにより人的被害の軽減と設備の損傷を防止することができる。さらに雷害対策としては、埋設されている接地線と装置間の接地端子を連結して等電位化する方法がある。

架空線からの侵入雷サージに対する保護方法

最近では通信機器も高機能化し,機器を動かすには電力を必要としているものが多い。このような機器では配電線と通信線は同時に接続されている。この場合,一方の線路から侵入してきた雷サージは他線との間でほぼ同じ電圧が発生することになる。対策としては主に以下の方法が採用されている。

等電位ボンディング(Equipotential bonding)

機器の電源側と通信側に SPD を取り付け,それらの接地を共通にする。これにより SPD 放電時の電位上昇による電源側と通信側の電位差をなくす。

等電位ボンディング
図 等電位ボンディング
等電位ボンディング(Equipotential bonding)
内部雷保護システムのうち,雷電流によって離れた導電性部分間に発生する電位差を低減するため,その部分間を直接導体によって又はサージ保護装置によって行う接続。
バイパス法

機器の電源-通信線間に SPD を取り付け,機器内部に雷過電圧が侵入するのを防ぐ。

架空メタリックケーブルの雷サージ対策には、ケーブル保安器を接続端子函内でかん心線と接続し、さらに、ケーブル保安器の接地端子を接地線でケーブルシースと支持線に接続して、ケーブルシースと各心線間の電位差をなくす方法がある。

バイパス法
図 バイパス法

サージ防護素子(ガス放電管,バリスタ等)

サージ保護装置(Surge suppressor)とは,火花ギャップ,サージ抑制器,半導体装置など,被保護物内の 2 点間におけるサージ電圧を制限するための装置である。

ガス放電管

通信伝送システムの架空線,ケーブルには,落雷による誘導雷サージ,強電線路からの誘導,混触等による異常電圧の発生などが起こり,人体に危険を及ぼしたり端末機器を破壊したりするおそれがある。

避雷管(GDT)はこうした異常電圧・電流を吸収するために使用する。ある一定以上の電圧・電流が印加されると,瞬時に放電を開始し,その両端はスイッチがオンした状態と同じになる。

放電中の避雷間は異常電圧が去れば,元の状態に自動復旧する(自復性)。

避雷管は他のサージ防護素子バリスタやダイオードに比べて,サージ電流耐量が大きく,同じサージ電流耐量であれば,小型になる。また,静電容量が小さいため(1 ~ 3 pF 程度),伝送回線に影響を与えない。

SPD

SPD(Surge Protective Divice)は非線形特性を利用して線間または接地間に発生するサージ過電圧を抑制する。SPD には酸化金属バリスタ(Metal Oxide Varistor : MOV)の非線形抵抗の特性を利用するものやガス入り放電管(Gas Discharge Tube : GDT)などがある。

表 SPD の種類と特性
種類 使用素子等 特徴
電圧スイッチング型 SPD
  • エアギャップ
  • ガス入放電管(GDT)
  • サージ防護サイリスタ
雷サージに対し瞬時に反応する
電圧制限型 SPD
  • 金属酸化物バリスタ(MOV)
  • アバランシブレークダウンダイオード
続流を遮断することが可能
複合型 SPD 上記 2 種類の SPD の特徴をあわせ持つ

メタリックケーブルを用いた通信線と端末装置間に取り付けられている酸化亜鉛バリスタなどのサージ防護デバイス(SPD)は,雷サージが印加されるとインピーダンスが低下し,雷サージ電流を大地に逃がす機能を有している。

SPD は Surge Protective Device の略称で,日本語に訳せば「サージ保護素子」となります。

(出典)新藤 孝敏,「雷をひもとけば -神話から最新の避雷対策まで-」
SPD
図 SPD

SPD と避雷器の違い

雷サージ保護デバイス(Surge Protective Device : 以下 SPD)は電力・通信の機能を維持し,重要な役割を果たしている機器を雷サージから保護するために使用される。以前は,使用される対象・用途により「避雷器」「保安器」「アレスタ」「サージプロテクタ」などさまざまな名称で呼ばれていたが,現在では高圧線路以上に使用されるものを「避雷器」,低圧線路や信号線路に使用するものを「SPD」と分類している。

避雷器(ギャップレス避雷器)

雷サージに対する避雷器の基本動作特性としては、動作しないときには、高抵抗であり、動作したときは低抵抗、低インピーダンスとなり、動作時間が非常に短時間であることなどが要求される。

ギャップ付避雷器

ギャップ付避雷器は,続流を抑制する素子と,続流を遮断する直列ギャップが接続されており,気密された碍管に収容されている。雷サージが流れて直列ギャップが放電すると,素子に放電電流が流れ,電路と大地を電気的に接続状態にすることで異常電圧を抑制する。

直列ギャップは,急激に変化するサージ電圧では放電漏れなどを発生させ,適切な保護ができないおそれがある。一度ギャップが放電を開始すると,サージ電流の続流が流れ続けるので,雷サージの特性によっては続流遮断失敗のおそれが懸念される。

ギャップレス避雷器

ギャップレス避雷器は,直列ギャップを使用しないもので,放電耐量が大きく,定格電流は 5,000 A ~ 10,000 A まで対応可能である。ギャップレス避雷器は,ZnO 素子という電圧 - 電流特性(非直線特性)が優れた素子が使用されている。

本ページの参考文献

  • 低圧・制御回路のサージ現象調査専門委員会 編,「低圧・制御回路のサージ現象」,電気学会技術報告,No. 1115(2008 年 5 月)
  • JIS A 4201 : 2003「建築物等の雷保護 Protection of structures against lightning」
  • 新藤 孝敏,「雷をひもとけば -神話から最新の避雷対策まで-」(一般社団法人 電気学会,2018年4月10日 初版 1刷発行)
  • 中部電力(株)清水 雅仁「用語解説 第125回テーマ:雷サージ保護デバイス(SPD)」
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