電食対策

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

電食は,地中金属体に電流が流れることにより金属体が腐食する現象であり,一般に,電流が金属体に流入する部分では発生せず,電流が金属体から流出する部分で発生する。金属を腐食させないためには,金属を腐食環境から遮断する防食層(塗覆装)で覆ってしまう方法と電流の作用を用いて人為的に金属の電位を制御し,腐食を制御する電気防食による方法がある。

電食の定義

電食は英語で stray-current corrosion(迷走電流腐食)と称される。

ISO 8044 : 2015 に stray-current corrosion は,「意図された回路以外の通路を通って流れる電流によって引き起こされる impressed current corrosion」と定義されている。

impressed current corrosion は,現在広く用いられている impressed current cathodic protection(外部電源カソード防食)の反対語であり,電食のメカニズムが発想の転換でカソード防食に適用された経緯を表しているといえる。

電食が発生する金属構造物は,外部から電気的干渉を受けていることになる。

電食の分類

電食はまず大きく迷走電流が直流の直流電食と,迷走電流が交流の交流電食に分類される。さらに電食は発生原因の観点から,以下のように分類される。

直流電食

直流電食は,直流電気鉄道のレール漏れ電流直流電流によって発生する地中電位勾配に分類される。

交流電食

交流送電は,高圧交流送電線からの電磁誘導交流電気鉄道からの電磁誘導に分類される。

高圧交流送電線からの電磁誘導

我が国においては,送電線路に用いられる電圧である 7 000 V を超える特別高圧の電磁誘導の影響が大きい。

交流電気鉄道からの電磁誘導

我が国においては,25 000 V で電力が供給される新幹線の走行による電磁誘導の影響が大きい。

金属はなぜ腐食するか

金属の腐食は酸化還元反応によって,表面の金属が電子を失ってイオン化し,金属面から脱落することで進行する。例えば,鉄が水中で腐食する状況を考えると,鉄の腐食は水と接する最外層の鉄原子が電子を失い,鉄イオン(Fe2+)となって水中に移行することから始まる。これを式で表すと次式となる。

Fe → Fe2+ + 2e-

上式は,鉄の原子価が 0 → 2 に増加する酸化反応となっており,アノード反応(陽極反応)という。しかし,この反応は単独では起こり得ず,鉄原子から失われた電子を受け取る反応が同時に生じる。この場合,水中に溶存している酸素が電子と結びつき,水酸化物イオン(OH-)を生成する。

H2O + 1/2 O2 + 2e- → 2 OH-

上式は,酸素の原子価が 0 → -2 に減少する還元反応となっており,カソード反応(陰極反応)という。また,水中に移行した鉄イオンは,2OH-2 と結合して水酸化鉄(Ⅱ)Fe(OH)2 を形成する。さらに,これが水中の溶存酸素によって酸化されると,水酸化鉄(Ⅲ)Fe(OH)3,いわゆる赤錆となる。

この二つの反応が腐食を表す電気化学式である。アノード反応とカソード反応が起こるところをそれぞれアノード(陽極)及びカソード(陰極)といい,金属内では電子がアノードからカソードへ移動するので,腐食電流がカソードからアノードへ向かって流れる。さらに,腐食電流は水中(電解質)を介してアノードからカソードへ向かう。つまり,金属の腐食は,酸化反応と還元反応が同時に起こる腐食電池反応となっている。

アノードとカソードが生成されやすい状況になると腐食は著しく進行する。アノードとカソードが生成される例を下図に示す。

アノードとカソードの生成パターン
図 アノードとカソードの生成パターン

イオンによる腐食

イオンによる腐食は,土壌中あるい溜水中に塩素イオン,硫酸イオンなどが多量に含まれている場合に,金属表面にミクロセルが形成されるなどして発生する。

金属が腐食する条件としては、一般に、水と酸素が存在することが挙げられる。また、酸性の溶液中では水素イオンが酸素と同様の働きをすることから、酸性の溶液中の金属は酸素の有無に関係なく腐食しやすい。

土壌の性質の差による腐食

土壌の性質の差による腐食は,異なった種類の土質層にまたがって金属体が埋設されている場合に,土壌の通気性の差によって,同一の金属の間でもマクロセルが形成されることで発生する。

酸化還元反応による腐食

金属材料は、水と酸素に長期間さらされると、一般に、酸化還元反応により腐食が進行する。金属材料は、イオン化傾向が高いほど腐食しやすく、また、金属材料の腐食の進行は、どの程度安定で緻密な酸化物の皮膜が表面上に形成されて水と酸素を遮断することができるかにも影響される。

架空線路設備の吊線などに使用される鋼材は、鉄を主成分としているため、その防食対策として、亜鉛をめっきして緻密な腐食生成物の皮膜を形成し、腐食速度を遅らせる方法が広く用いられている。

ステンレス鋼やアルミニウムのように不動態といわれる緻密な被膜を形成する高耐食性金属材料は、一般に、孔食などの局部的な腐食に注意する必要がある

各部の腐食

吊り線のアースクランプ取付部における腐食

吊り線のアースクランプ取付部における腐食は,吊り線とアースクランプの間が蓄積した腐食生成物や異物により短絡状態となり,表面に付着した水分を介した電流パスが形成され,陽極となった金属(この場合は吊り線)が電解腐食により溶出することで発生し,吊り線の破断につながる場合がある。

下部支線の腐食

下部支線の腐食は,臨海地域,湿地帯,植込み周辺などの湿った土中で顕著に認められ,土中への酸素供給量が多い地際部のほか,水分が多い土中の深い部分でも発生する。

土壌中に生息する硫酸塩還元バクテリア、硫黄バクテリアなどが生成する化学物質により、金属が腐食する場合がある。

電柱の支線アンカやロッドは、湿潤した土中で腐食することがあり、その対策としては、有機塗覆を施した防食タイプを用いることが有効である。

亜鉛-アルミニウム合金をめっきした鋼線を撚りあわせた高耐食鋼より線は、塩害環境の厳しい場所では赤錆などが発生して腐食するおそれがあるため、劣化限度さび見本などによる不良判定指標を用いた管理が有効である。

地中ケーブルに対する対策(絶縁防護ポイント等)

電食の防止技術は,電食発生源の防止技術と,電食を受ける金属構造物の防止技術がある。

電食を受ける金属構造物は,直流電食であれば ISO 15589-1 : 2015 が策定した防食電位基準に,交流電食であれば ISO 18086 : 2019 が策定した交流防止基準にそれぞれ合格しなければならない。

地中構造物の電食を防止するためには,構造物材料を鉄系からポリエチレンのようなプラスチック系に変更するか,現在の高度の制御技術による外部電源カソード防食システムの適用以外にはないものといえる。

絶縁被覆による腐食防止方法

絶縁被覆による腐食防止方法では,金属体を,塩化ビニルなどのプラスチック性材料やエポキシ系などの塗料で被覆し,腐食環境から隔離・絶縁することにより腐食電流を金属体から外部に流出しないようにしている。

外部電源方式

外部電源方式は,直流電源を用い,マイナス側を地中金属側に,プラス側を不溶性の接地電極に接続して防食電流を流すことにより腐食を防止するものであり,電食にも自然腐食にも有効である。

陽極と防食対象物の電位差によって電池を形成し,防食電流を流す流電電極方式と違って,直流電源装置を用いて強制的に防食電流を流すことができるため,補助電極にケイ素鋳鉄や白金メッキチタンなどの耐久性のある素材を使用することで,長期間の使用ができるようになっている。維持管理や電力が必要となるが,高抵抗や腐食性の著しい環境下でも適用できる。

流動陽極方式

流動陽極方式は,イオン化傾向の大きい金属(流電陽極)を埋設金属体に接続し,異種金属間の電位差により防食電流を得る方式であり,流電陽極には亜鉛,アルミニウム,マグネシウムなどが用いられる。

原理的に,防食電流は陽極の消耗によって得られるため,防食する面積に応じた数の陽極が必要となる。また,陽極は寿命が比較的短いため,ある程度消耗してくると,交換をする必要がある。しかし,外部電源方式と違い,電源を確保する必要がないため,設置できる環境が多いという利点がある。

マンホール内の金物の腐食には、イオン化傾向が異なる金属材料の金物の接触による腐食、バクテリアの作用による腐食などがあり、その対策としては、流電陽極による犠牲防食などが有効である。

排流方式

排流法とは,地中に設置された鋼製配管等が直流電気鉄道などからの漏れ電流(迷走電流)によって腐食するのを防止するための防食法をいう。鉄道のレールはある程度の接地抵抗をもっているが,完全には絶縁されていないため,漏れ出た電流の一部が地中に流れる。このとき,レール付近の地中に配管等の金属隊が埋設されていると,漏れ電流はこれに流入して流れ,変電所付近で再び配管から地中を介してレールへ流出し,変電所へ戻っていく。この現象が起きると,配管からレールに向かって流出した付近で激しい腐食を引き起こす。

この腐食を防止するため,埋設配管とレールを電気的に接続し,配管に流れる電流を地中を介さず直接レールに戻す方法を排流法といい,選択排流法と強制排流法の 2 種類がある。

昨今,施設の管理責任と落雷等による事故時の責任を明確にすることから,国際的にみて選択排流法と強制排流法の新設は認めない,または行われない傾向になってきている。

選択排流方式

排流方式の一つである選択排流方式は,埋設金属体と電気鉄道のレールなどの迷走電流発生源の帰線との間に電流逆流防止装置を取り付けて双方を電気的に接続し,埋設金属体に流入した迷走電流を大地に流出させずレール又は変電所に直接帰還させる方式である。

強制排流方式

選択排流法で用いられた選択排流器の代わりに外部直流電源を設けたもので,排流を人為的に促進する方法をいう。防食効果は大きいが,電気鉄道の信号回路等へ悪影響を及ぼす可能性があるため,設置には慎重な配慮が必要となる。

電柱に対する対策(複合柱)

酢酸ビニル系接着剤の影響による腐食対策

鋼管柱において、張り紙防止シートや番号札が貼付された箇所が、腐食性の酢酸ビニル系接着剤の影響により腐食する場合がある。対策としては、腐食成分を含まない補修塗料、ニトリルゴム系接着剤などを用いる方法がある。

鋼管柱の地際部での腐食

鋼鉄製の電柱は鋼管柱といい,コンクリート製の電柱とともに電気通信設備を支える重要な通信設備の一つである。鋼管柱の腐食は,特に地際周辺で起こる場合が多い。これは,地際部は雨水などが溜まり湿潤環境になりやすいためである。また,地際部は海塩粒子や融雪剤に含まれる塩化物イオンが付着しやすいため,より一層腐食が促進される場合がある。

地際部の腐食を起こさせないためには,金属表面を環境から保護することが有効である。現在,導入されている鋼管柱には地際部に熱可塑性ポリエステル樹脂がコーティングされており,金属表面から水や酸素を遮断することで腐食を抑制している。

炭素鋼材の地中部での腐食

電柱にはケーブルなどにより荷重がかかっており,その荷重とバランスを取るため,電柱から地中にかけて炭素鋼材を用いた支線が張られている場合がある。炭素鋼材が地中部で激しく腐食した事例がある。これは,酸素濃度の異なる土層の境界部分で通気差腐食という現象が起こったためと考えられる。

酸素濃度の低い土層と高い土層が接した土壌の場合,低酸素濃度の土層では酸素の還元が抑制されるため,低酸素濃度の土層でアノード反応,高酸素濃度の土層でカソード反応が起こり,局部腐食が発生する。このような局部腐食を通気差腐食という。通気差腐食の対策にも環境からの保護が有効であり,現在導入されている支線は防食塗装を施すことで腐食を抑制している。

海岸地域における塩害

海岸地帯における塩害は,海塩粒子が金属表面に付着することにより,表面の吸湿性が増すとともに,水膜の導電率が高くなり腐食反応が促進されることで発生する。

沿岸地域に設置されたコンクリート柱の表面に海から運ばれた塩分が付着すると、塩分がコンクリートのひび割れなどを通して内部に浸透し、鉄筋が腐食により膨張してコンクリートが剝落する場合がある。

海岸地帯の設備は、表面に海塩粒子が付着することで、腐食、絶縁不良などの被害を受けることがある。海塩粒子の影響が及ぶのは、一般に、大気中の海塩粒子量は海岸から離れるに従い急激に減少するため、海岸から数 [km] 程度までである。

本稿の参考文献

  • 危険物関係用語の解説(第28回)「電気防食」(Safety & Tommorrow No. 153 (2014.1))
  • 電食のはなし | 音声付き電気技術解説講座 | 公益社団法人 日本電気技術者協会
  • 東京ガスパイプライン(株)梶山 文夫「電食とその防止技術」,電学誌,142 巻 2 号,2022 年
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