腐食・損傷対策

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

生物被害対策

2010 ~ 2014 年度に NTT 東日本技術協力センタに寄せられたアクセス系設備に関する調査依頼のうち 13 % が生物被害に関する依頼であり,内訳として多い順に昆虫類(クマゼミ・アリ・コウモリガの幼虫等),げっ歯類(リス・ムササビ・ネズミ等),鳥類(カラス・キツツキ等)であった。これらの生物は全国に存在しており,多くの生物由来による故障が発生している。

生物被害対策は「侵入経路を断つこと」「対策防護品を使うこと」の 2 点がポイントとなる。

昆虫による被害

日本国中には多種多様な昆虫が生息しており,様々な昆虫による線路設備被害の事例が報告されている。代表的な昆虫による被害事例としては,蟻,コウモリガの幼虫,クマゼミによる被害が挙げられる。昆虫類による被害としては,

  • セミによるドロップケーブルの断線
  • アリによるクロージャ内の光ファイバケーブル心線の断線
  • コウモリガの幼虫による架空ケーブルへの穿孔および心線の断線

が挙げられる。

ガの幼虫による被害

架空ケーブル区間において,ガの幼虫が接続端子函の中に入り込み,酸性度の強い体液を心線に付着させることにより,PE 被覆を溶かし絶縁不良を引き起こす場合がある。対策としては設備に接触している木の枝,蔦などの植物を除去する方法がある。

クマゼミによる被害

昆虫類による被害のうちクマゼミによる被害は,ドロップ光ファイバケーブルが産卵管で刺されることにより発生する。クマゼミが産卵管を刺す箇所は,主に,ドロップ光ファイバケーブルの光エレメント部に外被切り裂き用に設けられたノッチ付近に集中する傾向がある。クマゼミによる被害に対しては,光ファイバ心線の両側に防護策を設ける,被覆を硬くする,材質を改良するなどの対策が採られている。

げっ歯類被害

げっ歯類(げっしるい,Rodentia ; rodent)は,日本国中に生息しており,その鋭い歯によって屋内外のケーブルに損害を与える事例が数多く報告されている。げっ歯類被害の代表的な事例は,リス,ムササビ,ネズミによる被害である。げっ歯類による被害は,ケーブルを大きく損傷させ,容易に光ケーブルを断線させてしまう。これらの被害を防ぐためには,基本的には,被害を与える生物のケーブル敷設場所への侵入を防ぐことである。それが困難な場合は,キツツキ被害対策と同様に,ケーブル防護対策が必要である。

リスのようなげっ歯類動物によるケーブル被害の対策には,HS(Hight Strength)ケーブルを用いるのが効果的であり,局部的な対策には,防リスシートまたは防リステープを用いて防護する方法がある。

げっ歯類などケーブルをかじる生物によるケーブル損傷被害に対しては,ケーブル外被の内側にステンレス層を設けた HS ケーブルを使用するなどの対策が講じられている。

鳥類被害

鳥類被害の代表的な事例は,カラスによる被害と,キツツキによる被害である。

カラスによる被害

カラスによる被害は,特に春から夏の住宅街で多く見られ,ドロップ光ファイバを損傷させる。カラスが被害を与える場所はドロップ光ファイバの水切り部といわれる箇所が多い。この部分をつつかれると光ファイバの断線などの被害が生じる。そのため,この部分をカバーにより保護することで,カラスによる被害を防いでいる。

鳥類,特にカラスによる被害は,主にドロップ光ファイバケーブルで発生し,かつ,損傷箇所が,ドロップ光ファイバケーブルの支持線と光エレメント部を分離した部分に集中していることから,対策には,支持線を分離したケーブル部を PVC 電線防護カバーで防護することが有効な方法とされている。

キツツキによる被害

キツツキによる被害は森林部で多く発生している。架空ケーブルのケーブル部がくちばしでつつかれることによって外被に穴が開き,心線部に損傷が生じる事象が報告されている。このようなキツツキによる被害に対しては,ステンレスと一体化したシートでケーブルを覆う,もしくはステンレスを内蔵した HS(High Strength Sheath : ステンレスシース)ケーブルに張り替えるなどの対策がとられている。

キツツキの生態

森林,草原などに生息する。多くの種は渡りは行わず,一定の地域に縄張りを形成し周年生息する。その名の通り木をついて穴を開ける行動で知られ,毎秒およそ 20 回もの速度で嘴の尖った先端を打ち付けて掘削する。

化学腐食対策

架空構造物の金属材料は、工場や自動車から排出される大気汚染物質が多量になると、大気腐食が著しく促進される。例えば、亜硫酸ガス、二酸化窒素、塩素などの可溶性ガス類は、一般に、金属表面上の水膜に溶け込んで腐食を促進する。

臨海地域,空気汚染地域等塩害や腐食性ガス又は粉塵による害のおそれのある場所に設置する屋外設備においては,塩害や腐食性ガス又は粉塵による害の防止措置を講ずる。塩害や腐食性ガス又は粉塵による害の受けやすい屋外設備としては,架空ケーブル及び接続部,つり線,ケーブルリング,電柱(金属製),支線などがある。腐食の著しい場合は,人命の危険を招くこととなるため,臨海地域,空気汚染地域等においては,腐食防止措置を講ずる。

措置例

  • 防食性のある材質のものを使用する。
  • 防食材料を塗覆する。
  • 塩害や腐食性ガス又は粉塵による害により故障等が発生する前に設備を取り替える。

環境など外的要因による線路設備への影響とその対策

クリーピング

温度変化による伸縮や車両が通行することによる振動でケーブルが移動する現象はクリーピングといわれ,車両通行量が多い傾斜地や路面の凹凸が著しい直線道路,及び走行車両のほぼ真下に埋設されたケーブルにおいて,特に発生しやすい。

クリーピングは,ケーブルの温度伸縮,車両の通行に起因する振動などにより,ケーブルに位動力が生ずることによって発生する。光ファイバケーブルは,一般に,メタリックケーブルと比較して,クリーピングが発生しやすいが,その移動力は小さい。

クリーピングは,地盤が軟弱で大型車両の通行が多い傾斜地の道路,路面の凸凹が著しい直線道路などの地下管路内で発生しやすく,ケーブルが移動する方向は,傾斜,ケーブルと管路との摩擦力,車両の進行方向など設置環境により異なる。

クリーピングの対策として,ケーブル移動防止金物で機械的にケーブルの移動を止める方法,移動量に応じたスラックを設ける方法,ケーブルを細径化する方法などが有効である。

剛性の大きい金属製の地下管路を布設する場合には,温度変化により管路が伸縮し,MH ダクト口から突き出すことや引き抜けることがあるため,一般に,温度伸縮量を吸収するための伸縮継手が一定間隔で配置される。

寒冷地での対策

寒冷地において,橋梁添架,スラブ下越し,ケーブル引上げ点などで管路が大気中に露出している箇所では,管路内に溜水があると,凍結時に水の体積が膨張し,管路内のケーブルに座屈,圧壊などが発生する場合がある。

寒冷地に布設されたケーブルは、管路内に滞留する水が凍結すると水の体積が膨張して生ずる凍結圧により、ケーブル外被に亀裂が生じたり伝送特性が劣化したりする。その対策として、管路内に水が浸入するのを防止するためダクト口を止水したり、排水設備を設けたりして溜水を防止する溜水防止方法と、凍結防止用の PE パイプを用いる PE パイプ挿入法がある。

極寒地において,凍上現象による地下管路の被害を防止するには,管路を埋設する場所の土に砂を多く混ぜ込み凍上を抑制する方法,地表面からの温度変化の影響を受けにくい深さに埋設する方法などがある。

PE パイプ挿入法

寒冷地では,管路内の溜水が凍結することによりケーブルを圧壊し,故障を起こすことがある。ケーブルの圧壊を防止するには,管路内にケーブルと一緒に PE パイプを布設することによりケーブルに加わる凍結圧を減少させる方法がある。

PE パイプ挿入法は、ケーブル外被に使用するプラスチックと同じ材質を用いた中空構造のパイプで凍結圧を吸収する方法であり、引上げ分線管路、橋梁添架管路、凍結深度内にりょうある管路などに適用される。呼び径 75 [mm] の管路に 11 [mm] ~ 46 [mm] の外径のケーブルを布設する場合は、一般に、19 [mm] の PE パイプを 3 本挿入する。また、地表面の温度変化の影響を受けにくい深さに管路を埋設することも、凍結防止対策として有効である。

PE パイプの布設は、ケーブルのプーリングアイにケーブル縛り紐などを用いて PE パイプを取ひもり付けてケーブル布設と同時に行う。PE パイプどうしのつなぎ部は、布設作業中に管路内で詰まる原因となるので、管路の径間が長い場合であっても原則としてつなぎ部を管路内に設けないようにする。

強風地域での対策

強風地域では,ケーブルの振動によって吊り線が吊架部で繰り返し曲げられ,疲労破断することがある。対策としては,ラインガードやセパレータを用いる方法が有効である。

ラインガードは,自己支持形ケーブル支持線の吊架部分の補強に使用する。(参考)ラインガード|線材成形製品|製品情報 | 株式会社フジクラハイオプト

架空ケーブルの外被損傷

架空ケーブルの外被損傷には、強風地域のケーブルダンシングによる外被亀裂(リングカット)や、高温環境下での張線器使用による外被破断などがある。

コンクリート柱の凍害

コンクリート柱の凍害は,コンクリート中の含水率が限界値以上に高まった状態で,水分が凍結と融解とを繰り返すことにより,コンクリートの表層部から劣化する現象で,一般に,初期にはちりめん状や亀甲状のひび割れが発生し,より進行すると崩壊に至る場合がある。

環境応力亀裂

地下ケーブルのポリエチレン外被に生ずる環境応力亀裂(ESC)は,一般に,ケーブルの円周方向に発生する。ESC の発生要因としては,石鹸水などの界面活性剤のあるところで応力を受けることが挙げられる。対策としては,ケーブル布設時に中性洗剤等の界面活性剤を使用しない,外被に損傷を与えないことが有効である。

紫外線

屋外環境において、プラスチック材料は、紫外線に長期間さらされると、分子鎖の切断により強度劣化が生じ、割れやすくなる。これを防ぐため、屋外で使用するケーブル外被材料などには、紫外線領域の光を吸収するカーボンブラックなどの材料が含有されている。

本稿の参考文献

inserted by FC2 system