メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

分布定数線路(基本方程式,一次定数,二次定数等)

通信線路においては,回路定数としての抵抗 $R$,インダクタンス $L$ および静電容量 $C$,漏れコンダクタンス $G$ が線路に沿って一様に分布しているものと考えられる。回路定数が線路の長さ方向に分布した回路を分布定数回路(distributed constant circuit)という。これに対して $R$,$L$,$C$,$G$ はすべて 1 点に集中しているものとしていた回路を集中定数回路(concentrated constant circuit)という。

回路素子が有限の個数で集中することなく,無限に分布している回路の概念図を示す。

分布定数回路
図 分布定数回路

集中定数回路において,電圧,電流は時間のみの関数(あるいは周波数のみの関数)であったが,分布定数回路では,電圧,電流は時間 $t$ と場所(空間的に通信線路に沿った座標 $x$ のみ)との関数として考える。

いま,$x$ 方向に一様に回路定数が分布している分布定数回路において,単位長についての抵抗,自己インダクタンス,静電容量,漏れコンダクタンスをそれぞれ,$R$ [Ω/m],$L$ [H/m],$C$ [F/m],$G$ [S/m] とする。この分布定数回路の地点 $x$ の時刻 $t$ の電圧,電流を $v(x,t)$,$i(x,t)$ とする。

地点 $x$ の電圧 $v(v,t)$ と地点 $x+\text{d}x$ の電圧との差は電圧平衡の法則から,分布定数回路の $\text{d}x$ 区間の $R$ と $L$ とによる電圧降下に相等しい。

\[ v-(v+\frac{\partial v}{\partial x}\text{d}x) = (R\text{d}x)i+(L\text{d}x)\frac{\partial i}{\partial t} \]

また,地点 $x$ の電流 $i(x,t)$ と地点 $x+\text{d}x$ の電流との差は,電流連続の法則から,分布定数回路における $G$ と $C$ とに流れる電流に相等しい。

\[ i-(i+\frac{\partial i}{\partial x}\text{d}x) = (G\text{d}x)v + (C\text{d}x)\frac{\partial v}{\partial t} \]

これらの 2 式から,次に示すような分布定数回路の基礎方程式が得られる。

\[ -\frac{\partial v}{\partial x} = Ri+L\frac{\partial i}{\partial t} \] \[ -\frac{\partial i}{\partial x} = Gv+C\frac{\partial v}{\partial t} \]

基礎方程式

正弦波交流においては,電圧,電流を複素数表示して,前述した時間関数 $v(t)$,$i(t)$ の代わりに $V$,$I$ を用い,時間微分 $\partial/\partial t$ は $\text{j}\omega$ に置き換えて解析を行う。そうすれば,電圧 $V$,電流 $I$ は $x$ のみの関数と考えてよく,前述の基礎方程式は次式となる。

\[ -\frac{\text{d}V}{\text{d}x}=(R+\text{j}\omega L)I \] \[ -\frac{\text{d}I}{\text{d}x}=(G+\text{j}\omega C) V \]

ここで,直列インピーダンス $Z=R+\text{j}\omega L$ と並列アドミタンス $Y=G+\text{j}\omega C$ とすれば,基礎方程式は次式として表される。

\[ \frac{\text{d}V}{\text{d}x}=-ZI \] \[ \frac{\text{d}I}{\text{d}x}=-YV \]

これらの 2 式から電圧 $V$ のみの微分方程式と電流 $I$ のみの微分方程式が得られる。

\[ \frac{\text{d}^2 V}{\text{d}x^2}=ZYV \] \[ \frac{\text{d}^2 I}{\text{d}x^2}=ZYI \]

指数関数による基礎方程式の解

電圧 $V$ のみの微分方程式の解として

\[ V = \pm A e^{\gamma x} \]

の形を仮定すれば

\[ \frac{\text{d}^2 V}{\text{d}x^2}=\gamma^2 Ae^{\gamma x} = \gamma^2 V \]

となるから,電圧 $V$ のみの微分方程式と比較して

\[ \gamma = \pm\sqrt{ZY} \]

となる。ゆえに一般解は

\[ V = Ae^{-\sqrt{ZY}x}+Be^{+\sqrt{ZY}x} \]

で表すことができる。ここに,$A$,$B$ は積分定数で,境界条件によって定められる。

$I$ の微分方程式も同形であるから,その解はただちに

\[ I = Ce^{-\sqrt{ZY}x}+De^{+\sqrt{ZY}x} \]

で表される。ここに,$C$,$D$ は同じく積分定数であるが,$A$,$B$,$C$,$D$ の間には

\[ C=\sqrt{\frac{Y}{Z}}A \] \[ D=-\sqrt{\frac{Y}{Z}}B \]

の関係があり,電流 $I$ は

\[ I = \sqrt{\frac{Y}{Z}}(Ae^{-\sqrt{ZY}x}-Be^{+\sqrt{ZY}x}) \]

となる。

正弦波が線路上を進行していく場合、角周波数を $\omega$、任意の点 $x$ の任意の時間 $t$ における電圧と電流をそれぞれ $v(x,t)$ 及び $i(x,t)$ とすると、

\[ v(x,t)=A\exp{\{-\alpha x +\text{j}(\omega t -\beta x)\}}+B\exp{\{\alpha x + \text{j}(\omega t +\beta x)\}} \] \[ i(x,t)=\frac{1}{Z_0}\{A\exp{\{-\alpha x +\text{j}(\omega t -\beta x)\}}-B\exp{\{\alpha x + \text{j}(\omega t +\beta x)\}}\} \]

となり、位相が $x$、$t$ の関数となっていることを示しており、同一位相の点が進む速度を $u$ とすれば、$\displaystyle u=\frac{\omega}{\beta}$ であり、$u$ は位相速度といわれる。

一次定数

平衡対ケーブルの場合,往復導体の単位長さ当たりの抵抗を $R$,インダクタンスを $L$ とし,また,往復導体間の単位長さ当たりの漏れコンダクタンスを $G$,静電容量を $C$ とすると,これらの $R$,$L$,$G$,$C$ は,線路の一次定数といわれる。

直流導体抵抗値

メタリック平衡対ケーブルの直流導体抵抗値は,導体の長さに比例し,心線径の 2 乗に反比例する。また,温度が高くなるほど直流導体抵抗値は増加する。

二次定数

一次定数から誘導される伝搬定数 $\gamma$ 及び特性インピーダンス $Z_0$ は,次式で表される。

\[ \gamma = \sqrt{(R + \text{j} \omega L)(G + \text{j} \omega C)} = \alpha + \text{j}\beta \] \[ Z_0 = \sqrt{\frac{R + \text{j} \omega L}{G + \text{j} \omega C}} = |Z_0|e^{\text{j}\phi} \]

ただし,$\text{j}$ は虚数記号を,$\omega$ は伝送波の角周波数を,$\phi$ は特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し,$e$ は自然対数の底とする。

この伝搬定数 $\gamma$ の式において,実部 $\alpha$ は減衰定数(attenuation constant),虚数部 $\beta$ は位相定数(phase constant)といわれ,これらの $\gamma$,$\alpha$,$\beta$,$Z_0$ は線路の二次定数と総称される。

位相定数は、単位長当たりの信号波の位相の遅れを表すものであり、位相定数が小さいほど、信号波の伝搬速度が速い。

特性インピーダンス(characteristic impedance) $Z_0$ は、低周波では周波数 $f$ の平方根に比例して減少し、高周波になると一定値に漸近する。

音声周波程度の低周波の場合

音声周波程度の低周波の場合、一般に、一次定数間において $LG \lt\lt RC$ の関係が成立するため、角周波数を $\omega$ とすると二次定数の減衰定数 $\alpha$ 及び位相定数 $\beta$ は、次式で近似できる。

\[ \alpha \approx \sqrt{\frac{\omega CR}{2}}\{ 1 - \frac{1}{2}(\frac{\omega L}{R}- \frac{G}{\omega C})\} \] \[ \beta \approx \sqrt{\frac{\omega CR}{2}}\{ 1 + \frac{1}{2}(\frac{\omega L}{R} - \frac{G}{\omega C})\} \]

30 [kHz] 以上の高周波の場合

二次定数は周波数特性があり,30 [kHz] 以上の高周波の場合,減衰定数 $\alpha$ 及び位相定数 $\beta$ は次式で近似できる。

\[ \alpha \approx \frac{R}{2}\sqrt{\frac{C}{L}} + \frac{G}{2}\sqrt{\frac{L}{C}} \] \[ \beta \approx \omega \sqrt{LC} \]

ここで,$R$ は,表皮効果(Skin Effect)などにより,周波数の平方根に比例して大きくなり,$\alpha$ も同様に大きくなる。さらに,この線路の減衰量が最小となる $R$,$L$,$G$,$C$ の関係は $RC = GL$ であり,これは,減衰量最小の条件といわれる。

減衰量最小条件は、無ひずみ伝送の成立する条件でもあり、有効周波数帯域全体にわたり、特性インピーダンスが一定であること、減衰定数 $\alpha$ が一定であること及び位相定数 $\beta$ が周波数に比例することが必要である。

表皮効果は交流電流が導体を流れるとき,電流密度が導体の表面で高く,表面から離れると低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するので,導体の交流抵抗は高くなる。

また、特性インピーダンス $Z_0$ は低周波では、周波数 $f$ の平方根に比例して減少し、高周波になると一定値に漸近する。

導体系では、周波数が高くなるに従って抵抗及び内部インダクタンスに変化が生ずる。これは、導体内部において各部の電流が互いに作用を及ぼしあうことで電流分布が変化した結果であり、一般に、導体系の電気的特性として周波数が高くなるに従って抵抗は増加し、内部インダクタンスは緩やかに減少する。

ごく近くに平行に並んでいる 2 本の導体に電流が流れたとき、それぞれの電流の向きが、同一方向であると電流は導体内部で他方の導体から離れている側を流れようとし、反対方向であると他方の導体に近い側を流れようとして 2 本の導体内部の電流密度に偏りが生ずる。この現象は高周波において顕著となり、一般に、近接効果(Proximity Effect)といわれる。

漏れコンダクタンスは、心線間の絶縁物を通して流れる電流の割合を示し、漏れコンダクタンスが小さいほど漏えいする電流が小さいことを意味する。平衡対ケーブルでは、一般に、周波数が高くなると漏れコンダクタンスは大きくなる

高周波では導体系の抵抗だけでなく、周囲の金属体中に誘起される渦電流によって電力損失を生ずることがあり、主なものにカッド損(quad loss)などがある。

電話ケーブルとして最も一般的である星型カッド(Star Quad)内では,2 組 4 組をひとつに束ねているため,残りの 2 本のペア(第 2 回線)に誘導電流が誘起されて渦電流が発生するため,単純なツイストペアに比べると抵抗が増加したように見える。これをカッド損という。

位置角

複合線路の伝送特性を解析することは,一様線路と比較して複雑ではあるが,一様線路の解析手法を基本に,位置角(position angle)の考え方を取り入れることで容易になる。

図に示すように、特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_\gamma$ で終端した場合、$Z_\gamma$ における位置角 $\theta$ は、$\displaystyle \tanh^{-1}{\frac{Z_\gamma}{Z_0}}$ で表され、任意の点における電圧、電流及びインピーダンスを簡単な計算により求めることが可能となる。例えば,複合線路の任意の点における電圧,電流及びインピーダンスは,位置角を $\theta$ とすると,一般に,電圧は $\sinh \theta$ に,電流は $\cosh \theta$ に,インピーダンスは $\tanh \theta$ にそれぞれ比例する。

例えば、伝搬定数を $\gamma$ とすると、終端したインピーダンス $Z_\gamma$ から距離 $\chi$ の点のインピーダンス $Z_\chi$ を求めるとき、終端から距離 $\chi$ の点の位置角 $\theta_\chi$ が $\gamma \chi + \theta$ で表されるため、$Z_\chi = Z_0 \tanh$($\gamma \chi + \theta$) となる。特別な場合として終端短絡の場合、終端の位置角 0 となる。

複合線路は、特性インピーダンス及び伝搬定数の異なる幾つかの線路を縦続接続することによって構成される線路であり、一様線路と比較して、より現実的である一方、解析が複雑である。しかし、この複合線路も一様線路の考え方を基礎にして位置角を導入することにより解析を容易にすることができる。

一様線路
一様線路

(参考)双曲線関数

数学において,双曲線関数(hyperbolic function)とは,三角関数と類似の関数で,標準形の双曲線を媒介変数表示するときなどに現れる。

双曲線関数は,指数関数 $e^x$ を用いて次式のように定義される。

双曲線正弦関数(hyperbolic sine)
\[ \sinh {x} = \frac{e^{x}-e^{-x}}{2} \]
双曲線余弦関数(hyperbolic cosine)
\[ \cosh {x} = \frac{e^{x}+e^{-x}}{2} \]
双曲線正接関数
\[ \tanh {x} =\frac{\sinh {x}}{\cosh {x}} = \frac{e^{x}-e^{-x}}{e^{x}+e^{-x}} \]
双曲線関数のグラフ

双曲線正弦関数,双曲線余弦関数,双曲線正接関数のグラフは,下図のようになる。

図 双曲線関数のグラフ
図 双曲線関数のグラフ

インピーダンス整合

異種の線路の接続点において,反射波をなくして透過波を大にするために,その接続点において,第 2 の線路の方向に見たインピーダンスを第 1 の線路の特性インピーダンスに等しくすることをインピーダンス整合(impedance matching)という。これは通信線路において,波の伝搬の効率をよくするために重要なことがらである。

特性インピーダンス $Z_0$ の線路をインピーダンス $Z = Z_0$ (インピーダンス整合)で終端したとき,終端点における電圧反射係数 $\Gamma$ は,$\Gamma$ = 0 となる。

反射(reflection)

伝送路の特性インピーダンスが変化する点では、信号波が折り返す反射現象が生ずる。このとき、一般に、進行してきた信号波は入射波(または侵入波,incident wave),進行方向とは反対の方向へ戻っていく波は反射波(reflected wave),反射点で反射せず進む波は透過波(transmitted wave)といわれ、反射の大きさは特性インピーダンスの変化の大きさによって定まる。

反射を防ぐには、巻数比が接続点のインピーダンスの比の平方根となるインピーダンス整合トランスを用いる方法などがある。

電圧反射係数と電圧透過係数

特性インピーダンスが異なる一様線路が相互に接続されているとき、接続点における電圧反射係数(voltage reflection coefficient)と電圧透過係数(voltage transmission coefficient)は次のようになる。

電圧反射係数

特性インピーダンス $Z_0$ の線路をインピーダンス $Z$ で終端したとき,終端点における電圧反射係数 $\Gamma$ は,次式で表される。

\[ \Gamma = \frac{Z-Z_0}{Z+Z_0} \]
電圧反射係数
図 電圧反射係数

電圧透過係数

特性インピーダンス $Z_1$ を持つ一様線路に、特性インピーダンス $Z_2$ を持つ一様線路が接続されているとき、接続点における電圧反射係数 $\Gamma$ は,次式で求められる。 \[ \Gamma = \frac{Z_2-Z_1}{Z_1+Z_2} \]

一方,電圧透過係数は、電圧反射係数 $\Gamma$ に 1 を加えた値となる。

\[ \Gamma + 1 = \frac{Z_2-Z_1}{Z_1+Z_2} + 1 = \frac{2Z_2}{Z_1 + Z_2} \]
反射波と透過波
図 電圧反射波と電圧透過波

電流反射係数と電流透過係数

特性インピーダンスが異なる一様線路が相互に接続されているとき、接続点における電流反射係数(current reflection coefficient)と電流透過係数(current transmission coefficient)は次のようになる。

電流反射係数

電流反射係数は電圧反射係数の反数である。つまり,電流反射係数は,電圧反射係数 $\Gamma$ に -1 を乗じた値となる。

\[ -\Gamma = -\frac{Z-Z_0}{Z+Z_0} \]
反数(opposite)
ある数に対し,足すと 0 となる数である。ある数の符号を変えた数。$a$ に対して $-a$ を反数という。

電流透過係数

電流透過係数は,1 から 電圧反射係数 $\Gamma$ を減じた値となる。

\[ 1-\Gamma=1-\frac{Z_2-Z_1}{Z_1+Z_2}=\frac{2Z_1}{Z_1 + Z_2} \]

逆流と伴流(続流)

奇数回の反射により送端に戻る波を逆流,偶数回の反射により受端に現れる波を伴波(続流)という。

特性インピーダンスの異なる線路を接続した複合線路では、接続点での反射が生ずることから、実際の線路においては、できるだけ特性インピーダンスを均一化することにより、反射損失を抑えることが重要である。

複合線路における主流,逆流,伴流(続流)
図 複合線路における主流,逆流,伴流(続流)

短絡線路

特性インピーダンス $Z_0$ の線路をインピーダンス $Z = 0$ (短絡線路)で終端したとき,終端点における電圧反射係数 $\Gamma$ は,$\Gamma$ = -1 となる。したがって、終端短絡時の入射電圧は入射波と逆位相ですべて反射される。

開放線路

特性インピーダンス $Z_0$ の線路をインピーダンス $Z = \infty$ (開放線路)で終端したとき,終端点における電圧反射係数 $\Gamma$ は,$\Gamma$ = 1 となる。したがって、終端開放時の入射電圧は入射波と同位相ですべて反射される。

結合(静電結合,電磁結合)と漏話

二つの回線間の電気的な結合には静電結合と電磁結合があるが,メタリック伝送の音声回線においては,電磁結合の漏話に対する影響は小さく,静電結合が支配的である。

結合(静電結合)

静電的結合は誘導回線の電圧の大きさに比例し,静電結合による漏話は被誘導回線のインピーダンスに比例する。

平衡対ケーブルの場合、一般に、誘導回線と被誘導回線の特性インピーダンスは等しいので、特性インピーダンスが高くなる低周波では静電結合による漏話が支配的である。

静電結合による漏話量は、線路の特性インピーダンスに比例する。したがって、装荷ケーブルは、一般に、無装荷ケーブルと比較して、特性インピーダンスが大きいため、漏話減衰量が小さくなる。

結合(電磁結合)

電磁的結合は誘導回線の電流の大きさに比例する。

電磁結合による漏話は誘導回線のインピーダンスに反比例する。

平衡対ケーブルの場合、一般に、誘導回線と被誘導回線の特性インピーダンスは等しいので、特性インピーダンスが低くなる高周波では電磁結合による漏話も考慮する必要がある。

漏話

信号が隣接回線に漏れる現象は漏話(crosstalk)といわれる。漏話は,一般に,メタリックケーブルが電磁的又は静電的に結合することによって生じる。

信号の漏話が送端側に伝搬したものを近端漏話、受端側に伝搬したものを遠端漏話という。漏れてきた信号の了解性の有無により了解性漏話非了解性漏話に分けられる。

漏話を発生させる側の回線は誘導回線,漏話を受ける側の回線は被誘導回線といわれる。

近端漏話と遠端漏話
図 近端漏話(Near end crosstalk)と遠端漏話(Far end crosstalk)

メタリック平衡対ケーブルの漏話には,同一カッド内のペア相互間の静電結合によって生ずるものがある。カッド崩れが起きた場合は,静電結合が大きくなるため,漏話も大きくなる。

静電結合による漏話量は,線路の特性インピーダンスに比例する。したがって,装荷ケーブルは,一般に,無装荷ケーブルと比較して,特性インピーダンスが小さいため,漏話減衰量は小さい。

ISDN(Integrated Services Digital Network : サービス総合ディジタル網)回線による ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line : 非対称デジタル加入者線)回線への漏話の影響については,一般に,遠端漏話と比較して近端漏話からの影響を強く受ける。

漏話減衰量 $L$ [dB] は、誘導回線の送端電力 $P$ [mW] と被誘導回線の漏話電力 $P_L$ [mW] の比であり、次式で表される。漏話減衰量は,誘導回線の送端電力と,被誘導回線の漏話電力(漏話量)の比の対数で表され,漏話電力が大きいほど漏話減衰量は小さく,漏話電力が小さいほど漏話減衰量は大きい

\[ L = 10 \log_{10}{\frac{P}{P_L}} \]
漏話減衰量
図 漏話減衰量

平衡対ケーブルにおける漏話減衰量は、高周波になるに従い、一般に、オクターブ当たり遠端漏話では 6 [dB]、近端漏話では 4.5 [dB] の減少傾向を示す。また、遠端漏話減衰量は、線路長が長くなるに従い増大するが、近端漏話減衰量は、線路長には無関係である。

漏話軽減

ケーブル内の各対の2本の導線を撚ることにより漏話は軽減でき、隣接する対どうしで撚りピッチを変えると、撚りピッチを同一とした場合と比較して大きな軽減効果が得られる。

信号の伝送方向(設備センタからユーザ方向又はユーザから設備センタ方向)ごとに回線をそれぞれ別々のケーブルに分けて収容する2条ケーブル方式は、遠端漏話と比較して漏話妨害の影響が大きい近端漏話を軽減する効果がある。

長い平衡対ケーブルにおける漏話減衰量は、高周波になるに従い、一般に、オクターブ当たり遠端漏話では 6 [dB]、近端漏話では 4.5 [dB] の減少傾向を示す。また、遠端漏話減衰量は線路長が長くなるに従い増大するが、近端漏話減衰量は線路長に依存しない。

基本雑音

伝送系内部で発生する雑音は、信号を伝送していない場合でも発生する基本雑音と、信号の伝送を行ったときに発生する準漏話雑音とに分けることができる。

基本雑音は、入力信号の有無に関係のない雑音で、増幅器や変調器などの能動回路で発生し、熱雑音(thermal noise)、ショット雑音(shot noise)、フリッカ雑音(flicker noise),$\displaystyle \frac{1}{f}$ 雑音などがある。基本雑音は、一般に、入力信号レベルの低いところで問題となる。

準漏話雑音(intermodulation noise, unintelligible crosstalk)
非直線性をもった伝送路で多重信号を伝送する場合生じる非了解性の雑音をいう。

熱雑音

熱雑音はジョンソン(Johnson)雑音もしくはナイキスト(Nyquist)雑音とも呼ばれる。抵抗に電流が流れると,抵抗を流れる電子が不規則な熱運動をする。電子は抵抗内を等速で通過することができず,その動きに不規則なゆらぎが生じる。その結果,電流もしくは電圧に微妙なゆらぎが発生し,それを熱雑音という。

一般に,大きな妨害になるものは増幅器で発生する雑音であり,その主な成分の一つは、周波数に対して一様に分布している熱雑音である。増幅器で発生する基本雑音には、導体中の自由電子の熱的じょう乱運動による熱雑音があり、入力信号の有無にかかわらず発生する雑音である。

ショット雑音

真空管中で電子が陰極からランダムな時間間隔で放出されると陽極のランダムな時間間隔で到達しランダムな雑音電流が発生する。このゆな雑音をショット雑音という。

フリッカ雑音と $1/f$ 雑音

フリッカ雑音は,周波数に依存して,周波数が高くなると雑音成分が減少する性質の雑音である。とくに周波数に反比例して減少する性質の雑音を $1/f$ 雑音という。

誘導雑音

漏話以外の雑音としては、雷及び電気鉄道などの強電流施設から静電的又は電磁的に通信路に入る誘導雑音、放送波などが架空線などを介して侵入する誘導雑音などがある。

流合雑音

CATV 回線は幹線から各家庭へ支線が伸びる構造となっているため,上り方向の通信では,各支線に生じたノイズが幹線に集まることになる。CATV インターネットの上り速度が遅く設定されているのはこの流合雑音のためである。

平衡対ケーブルに生ずる雑音

平衡対ケーブルに生ずる雑音としては,高圧送電線などから受ける誘導雑音,束ねられた他の心線から電流が誘起され定常的に生ずる漏話雑音,手ひねり接続された部分の電気抵抗が振動などで変化することにより生ずる時々断に伴う雑音などがある。

紙絶縁ケーブルに生ずる雑音

漏話以外の雑音としては、紙絶縁ケーブルにおける手ひねり心線接続部が一時的に接触不良となった場合に発生するバースト状の雑音がある。

ひずみ

伝送系の入力側に加えられた信号波形と出力側に現れる信号波形が異なる現象は,ひずみといわれる。

非直線ひずみ

信号が非直線回路を通過するときに生ずるひずみをいう。原周波数の整数倍の周波数成分が生じる高調波ひずみと原周波数の組合せによる周波数成分が生じる相互変調ひずみとがある。

非直線ひずみ(nonlinear distortion)は、増幅器や変調器の入力と出力が比例関係にないために生ずるひずみであり、波形ひずみの原因となる。特に、変調器の場合は入力波と搬送波との組合せによる相互変調ひずみも相加される。非直線ひずみには、入力信号の整数倍の周波数成分を持つ高調波ひずみ、複数の入力信号の組合せによる相互変調ひずみなどがある。

波形ひずみを発生させる要因となるほか、多重搬送回線においては、ある通話路から他の通話路への漏話及び雑音を発生させる要因となる。

減衰ひずみ

所要周波数帯域内で伝送路の損失または利得が周波数に対して一定でないために起こるひずみをいう。

伝送系の減衰量が周波数に対して一定でないために生ずるひずみは、減衰ひずみ(attenuation distortion)といわれる。音声回線において、特定の周波数で減衰量が特に少ないと、その周波数において鳴音が発生しやすくなる。

位相ひずみ

所要周波数帯域内で伝送路の位相特性が周波数に対して直線でないために生ずるひずみをいう。

位相ひずみ(phase distortion)は、伝送系の位相量が周波数に対して比例関係にないため、すなわち群伝搬速度が周波数により異なるために生ずるひずみであり、伝送品質に影響を及ぼす。

群遅延ひずみ

伝送路の位相対周波数特性を角周波数で微分した値が所要の周波数帯域内で一定でないことに起因するひずみを群遅延ひずみ(group delay distortion)という。

不規則ひずみ

雑音、周波数変動など規則的でない偶発的な原因で、パルスが不規則に変動するために起きるひずみを不規則ひずみ(fortuitous distortion, irregular distortion)という。

無ひずみ伝送の条件

無ひずみ伝送の条件は、伝送に用いる有効周波数帯域全体にわたり、特性インピーダンス及び減衰定数が一定であり、位相定数が周波数に比例することである。

本ページの参考文献

  • 平山 博,大附 辰夫 著,「電気学会大学講座 電気回路論[2版改訂]」,電気学会,2002年12月25日 2版改訂 1刷発行
  • 中本 高道,『電気・電子計測入門』,実教出版,2002年
  • 南谷 晴之,山下 久直,『よくわかる電気電子計測』,オーム社,1996年
  • 電気専門用語集(WEB 版)
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