光ファイバケーブルの伝送理論

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

光ファイバケーブルの伝送理論は,専門的分野・通信線路だけでなく,線路設備及び設備管理にも頻出である。

目次

光の性質及び伝搬

(light)は,電磁波の一種であることが,19世紀,マクスウェル(Maxwell)により明らかにされた。

電磁波とは,一般に時間的に変化する電界と磁界が互いに他方を誘起しながら空間を伝搬する波動を意味し,ベクトル界で表される横波である。電界と磁界は空間そのものの状態であるから,光(電磁波)は伝搬媒質として物質を必ずしも必要とせず,真空中をも伝搬する。電磁波の周波数 $f$ と波長 $\lambda$(真空中の値)は,光の伝搬速度を $c$(= 299 792 458 m/s)として,次式のよって関連付けられる。

\[ c = f\lambda \]

光は、放送や携帯電話に用いられる電波の波長と比較して,非常に短い波長の電磁波である。光の基本的性質には,屈折,回折,干渉,偏光,非線形光学効果などがあり,これらの性質は,幾何光学,波動光学などを用いて説明することができる。

一般に、時間 $t$、位置 $z$ における電界の振動は、次式で表すことができる。

\[ E(z,t)=E_0 \cos(\omega t - \beta z - \phi) \]

ここで、$E_0$ は振幅、$\omega$ は角周波数、$\phi$ は基準となる時空間点($t=0$,$z=0$)における初期位相を表す。また、$\beta$ は伝搬定数といわれ、伝搬する波の波長を $\lambda$ とすると、$\displaystyle \beta= \frac{2\pi}{\lambda}$ で表される。

また、波の位相の進む速度は、位相速度といわれ、位相速度 $V_P$は、角周波数 $\omega$ と伝搬定数 $\beta$ を用いて、$\displaystyle V_P=\frac{\omega}{\beta}$ で求められる。

ヤングの干渉実験

光が波動であることを可視的に説明したのがヤング(Young)の干渉実験である。これは一段目に配したスリット S1 を通過した光が回折して放射状に広がり,二段目に配した二つのスリット S2 を通過した光が互いに干渉し合うことにより,三段目に配したスクリーン F 上に干渉縞を映すものであり,光が波の性質を持つことを示している。

ヤングの干渉実験
図 ヤングの干渉実験
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

光の回折は、光の伝搬において光波の波面の各点を波源として全方向に広がる波の包絡面が二次波を構成するというホイヘンスの原理により説明することができる。

干渉縞が鮮明に映し出されるためには,干渉し合う光の位相がそろっている必要があり,このような光の干渉を利用した光フィルタには,マッハツェンダ干渉計型などがある。また,LD の出射光のように位相のそろった光は,コヒーレントな光(コヒーレント光,coherent light)であるといわれる。

コヒーレント光の特徴

時間的にも空間的にも純粋な光波,すなわち単一の周波数(単一波長)と規則的な伝搬方向(波面)を持つ光では,緩衝の現象が容易かつ明確に観測される。このような性質をコヒーレンス(coherence)または可干渉光といい,コヒーレンスを持つ光波をコヒーレンス光(coherent light)と呼んでいる。自然光はコヒーレンスを持たないので,インコヒーレンス(incoherent light)と呼ばれる。

光のコヒーレンス性は,周波数軸上のスペクトル分布を測定することにより確認することができる。周波数軸上のスペクトル幅は,一般に,周波数や位相がそろったコヒーレンス性が高い光は 1 本の線状で狭く,また,周波数や位相がそろっていないコヒーレンス性が低い光は広がって観測される。

コヒーレントな状態とは,減衰することなく一定の大きさと周期で整然と振動する状態をいう。

フレネル回折

回折現象のうち,光源と観測点のいずれか,又は光源と観測点の両方が開口に近く,光の波面の曲率が無視できない回折は,フレネル回折(Fresnel diffraction)といわれる。

フレネル回折は,後述するフラウンホーファー回折をさらに近似したものである。

フラウンホーファー回折

フラウンホーファー回折(Fraunhofer diffraction)とは,光源もしくは観測点がビームを回折するもの(例えば,レンズ)から無限遠に位置するときに起こる回折のことである。フラウンホーファー回折に対し,有限距離に位置するときに生ずる回折は,フレネル回折という。

フラウンホーファー回折
図 フラウンホーファー回折
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

スネルの法則

光ファイバ中などにおける光の屈折は,スネルの法則によって説明され,屈折率の大きい媒質ほど,光の速度が遅くなる。スネルの法則(Snell's Law)は,媒質中を進む光は最短時間で進めるような経路をとるというフェルマーの原理を言い換えているものである。

下図において,誘電体 A,B の屈折率をそれぞれ $n_A$,$n_B$ とする。いま,$n_A \lt n_B$ と考え,光が左斜め上から境界面に入射するものとする。誘電体 B へ透過していく光線は屈折し,その屈折角の間にはスネルの法則で知られる関係が成り立つ。

\[ \frac{\sin{\theta_A}}{\sin{\theta_B}} = \frac{n_B}{n_A} \] \[ n_A \sin{\theta_A} = n_B \sin{\theta_B} \]
スネルの法則
図 スネルの法則
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

臨界角

屈折率の異なる二つの媒質 Ⅰ 及び Ⅱ(ただし,屈折率は,媒質 Ⅰ が媒質 Ⅱ より大きいものとする。)が接した状態で,媒質 Ⅰ から媒質 Ⅱ へ光が入射する場合を考える。入射角 (入射光と境界面とのなす角)$\phi_i$ を大きくしていくと,$\phi_t$ が 90 ° になってしまうところがある。こうなると,媒質 Ⅱ の上方向に進む光がなくなり,エネルギーは全部反射されてしまう。これが全反射(Total Reflection)で,そのときの角度 $\phi_i = \phi_c$ は次式で与えられる。

\[ n_1 \sin{\phi_C} = n_2 \sin{90^{\circ}} \] \[ \phi_c = \sin^{-1}{(\frac{n_2}{n_1})} \]

$\phi_c$ を臨界角(Critical angle)または全反射角という。

スネルの法則
図 スネルの法則($n_1 \gt n_2$ のとき)

ブリュースター角

屈折率 $n_1$ の物質から屈折率 $n_2$ の物質に,電解が入射面と平衡な光(P 偏光)で入射するとき,$\phi_1 + \phi_2$ が 90 度で無反射になる現象が生じ,そのときの $\phi_1$ はブリュースター角(Brewster Angle)といわれる。

ブリュースター角 $\theta_B$ は 2 つの物質の屈折率から次式で求められる。

\[ \theta_B = \tan^{-1}{(\frac{n_2}{n_1})} \]
ブリュースター角
図 ブリュースター角
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

光ファイバとは

光ファイバとは「光を導く細い繊維」という意味であり,光が伝搬するコアと呼ばれる部分と,その周辺を覆う同心円状のクラッドと呼ばれる部分の 2 種類の透明な誘電体(ガラスやプラスチックのように導電性のない物質)から構成されている。光ファイバはクラッドの屈折率をコアのそれよりも少し(0.2 ~ 3 % 程度)小さくすることにより,光の全反射現象を利用して,光をコアに閉じ込めて伝える工夫をしている。

また,光ファイバはよく髪の毛ほどに細いといわれているが,これはクラッドの外径が 0.1 mm 程度であることをいうものである。光を伝えるコアは数~数十 μm と更に細く,使用される光の波長の数倍から数十倍程度の値となっている。これらの値は必要とする伝送特性や機械特性などを考慮して決められるものであり,光ファイバは優れた伝送特性に加え,細くて軽いといった特長を兼ね備えている。

光ファイバへの光の入射

発生源から出射された光は回折現象により広がることから,細い光ファイバのコアに入射させるためには,レンズなどを用いて集光する工夫がなされている。しかし,集光された光が全て光ファイバの中に入射されるわけではなく,ある入射角度を満たす光だけが光ファイバ内に入射されることになる。下図に示すように屈折率の異なる三つの媒質が接している。すなわち,空気,光ファイバのコア及びクラッドであり,各々の境界面において屈折,反射の法則が成り立つ。

図において,光ファイバに入射した光がコア内をクラッドとの境界で全反射して伝搬するためには,コアからクラッドへの入射角を $\phi_{\text{C}}$ より大きくする必要があり,このときの入射角 $\phi_{\text{C}}$ は臨界角(Critical angle)といわれる。

空気,コア及びクラッドの屈折率をそれぞれ $n_0$,$n_1$ 及び $n_2$ とし,最大受光角を $\theta_{\text{max}}$,コアに入射した光とコアとクラッドの境界面とのなす角を $\theta_{\text{C}}$ とするとき,$\theta_{\text{max}}$ と $\theta_{\text{C}}$ の間には,スネルの法則より次式が成り立つ。

\[ n_0 \sin \theta_{\text{max}} = \sin \theta_{\text{max}} = n_1 \sin \theta_{\text{C}} \]

また,$\sin\theta_{\text{max}}$ は開口数(NA : Numerical Aperture)といわれ,$n_0 = 1$ 及び $n_1 \fallingdotseq n_2$ とすれば,$\sin\theta_{\text{max}} \fallingdotseq n_1 \sqrt{2 \Delta}$ となる。ここで,$\Delta$ は比屈折率差であり,$\displaystyle \frac{n_1 - n_2}{n_1}$ で表される。コアが受け入れられる光の量は,コア径と開口数の大きさで決まり,これらが大きいほど発光源と光ファイバとの結合効率が良くなる。

集光に用いられるレンズは,一般に,発光源からのビーム径と光ファイバの開口数により決定される。

光ファイバへの光の入射
図 光ファイバへの光の入射

開口数

光ファイバへの光の入射条件を示す開口数(NA : Numerical Aperture)は,光源と光ファイバの結合効率に影響を与える基本的なパラメータであり,一般に,コア径が同じであれば NA の大きな光ファイバほど,また,NA が同じであればコア径の大きな光ファイバほど,結合効率が高い。

光ファイバと受光素子との結合において、SM 光ファイバと MM 光ファイバとでは、開口数が大きく光ビーム広がりが大きい MM 光ファイバの方が結合損失は大きい。

光ファイバのコアの屈折率を $n_1$、クラッドの屈折率を $n_2$、光ファイバの最大入射角を $\theta_{\text{max}}$ とすると、光源と光ファイバとの結合効率に影響する基本的なパラメータである開口数 $\text{NA}$ は、次式で表すことができる。

\[ \text{NA} = \sin{\theta_{\text{max}}} = n_1 \sqrt{2\frac{n_1 - n_2}{n_1}} \]

例えば,$n_1 = 1.475$ と $n_2 = 1.46$ の光ファイバ(比屈折率差 1 %)では,NA = 0.21 となる。コア径と NA が固定されれば,コアの受け入れる光の量が決まり,大コア径,高 NA の光ファイバほど光源との結合効率が向上する。

光ファイバの比屈折率差

光ファイバの比屈折率差(Normalized Index Difference)は,コアとクラッドの屈折率の差を表し,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,比屈折率差 $\Delta$ は次式で表され,比屈折率が大きいと受光可能な入射角も大きくなる。

\[ \Delta = \frac{n_1 - n_2}{n_1} \]

光源と光ファイバとの結合損失

発光素子から出射された光が光ファイバ内へ入射するための条件については,開口数(NA)により定まる。発光素子として半導体レーザ(LD)または発光ダイオード(LED)を用いる場合とでは,発光源から出射される光ビームの広がりが異なるため,レンズで集光したとしても LD の方が結合損失は小さい。さらに,入射される光ファイバの構造が SM 型光ファイバと GI 型光ファイバとではコア径が異なるため,結合損失の大きさも必然的に異なる。一般には,コア径が大きなファイバほど結合損失は小さくなる。

次に,受光素子との間の結合損失については,NA が大きい光ファイバすなわち SM 型光ファイバよりも GI 型光ファイバの方が出射した光ビームの広がりは大きく,これに応じて損失も大きくなる。しかしながら,その絶対値は発光素子との結合損失と比較すれば桁違いに小さい。

ちなみに,結合損失とは、発光素子と光ファイバの結合において発生する損失である。光源と光ファイバとの結合損失 $\alpha$ [dB] は,光源の出力光パワーを $P_0$ [mW],光ファイバ内に取り入れられた光パワーを $P_r$ [mW] とすると,次式で表される。

\[ \alpha = 10\log_{10}{\frac{P_0}{P_r}} \]

LD と光ファイバの結合方法には、分布屈折率レンズで集光する方法、光ファイバ端面を球状に加工して集光する方法、非球面レンズで集光する方法などがある。

発光素子と光ファイバの結合の際に、レンズや光ファイバが数 [μm] ずれただけで大きな結合損失を生ずることがあるため、高信頼性が要求される光モジュールを構成する部品の固定には、YAG レーザを用いた溶接技術が用いられている。

光ファイバの伝搬

最大受光角の範囲内で光ファイバに入射した光は,コアとクラッドの境界面において全反射を繰り返しながら伝わっていくことになるが,コア内での光の干渉により,境界面における反射角度はある条件を満たす必要がある。

光ファイバ内において,特定の反射角度を持つ入射光とその反射光が干渉することにより,コア内に特定の電界強度分布ができる。このように特定の反射角度を持ち,コア内に閉じ込められた特定の電界分布を持つ光の伝搬の仕方は光の伝搬モードと呼ばれる。光ファイバ内の光の伝搬モード数は全反射条件のために有限個であり,反射角の小さい伝搬モードから順に,0 次,1 次,2 次,・・・,$(N-1)$ 次と名付けられる。

光ファイバ中の伝搬モード数は、光ファイバのコア及びクラッドの屈折率、コア径のほか、使用波長により決まることから、同じ光ファイバであっても、ある波長ではシングルモードでも、異なる波長ではシングルモードにはならない場合がある。

光の電界強度がコアの径方向に 180 度又は 360 度変化するような反射角度を持ち、コア内に閉じ込められた特定の電界分布を持つ光の伝搬の仕方は光の伝搬モードといわれ、MM 光ファイバでは、一つの波長に伝搬モードが複数存在する。

表 光ファイバの構造を決定するパラメータ
SM 光ファイバ モードフィールド径,モードフィールド偏心量,カットオフ波長
MM 光ファイバ コア径,開口数,屈折率分布

光ファイバ伝送においては、光ファイバそのものの伝送損失、光ファイバ間の接続損失、分岐素子などのデバイスの挿入損失などが伝送距離限界に影響を与える。

SI 型の屈折率分布を持つ光ファイバの伝搬モード

コアとクラッドの境界面で全反射しながら伝搬する光は、その電界がコア内に閉じ込められている必要がある。すなわち、コアとクラッドの境界面においては、入射光と反射光との干渉により電界強度がゼロになる必要があり、この条件を満たすためには、コアの径方向に特定の電界強度分布を持った定在波が存在しなければならず、また、伝搬可能な光の反射角度は特定の離散的な反射角度に限られる。

この特定の電界強度分布は、コアの方向には変化せず一定となり、このような特定の反射角度を持ち、コア内に閉じ込められた特定な電界分布を持つ光の伝搬の仕方は、光の伝搬モードといわれる。

ただし、実際の光ファイバではコアとクラッドの境界面において電界成分はゼロにはならず、境界面からクラッド内に向けて指数関数的に小さくなっていく。

ここで光ファイバのコア径を $d$、伝搬する光の波長を $\lambda$、光がコアとクラッド間の境界面となす角度を $\theta$、伝搬モード数を $N$ とすると、$\displaystyle d\sin\theta = N\frac{\lambda}{2}$ が成り立ち、$N=1$ のときの伝搬モードは基本モード、$N=2$ 以上のときの伝搬モードは高次モードといわれる。最高次の伝搬モードは、コアとクラッドとの境界面に対する光の入射角が臨界角に近づいたときの反射角度に対応するものである。

位相変化量

SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面で全反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $2\pi$ の整数倍になる必要がある。

群速度

真空中の光の速度を $c$,媒質の屈折率を $n$ とすると,媒質中を伝わる光の速度は,$\displaystyle \frac{c}{n}$ となり,この速度は,光の位相が伝わる速さである。一方,周波数が異なる複数の波の集まりである波速が伝わる速度,すなわちパルス包絡線が伝える速度は,群速度(group velocity)といわれる。

光ファイバ中を伝搬する光の位相速度(Phase Velocity)を $V_c$,群速度を $V_g$ とすると,以下の関係が成り立つ。ただし,$\beta$ は伝搬速度,$\omega$ は角速度,$n$ は屈折率,$c$ は真空中の光の速度とする。

\[ V_c = \frac{\omega}{\beta} \] \[ \frac{1}{V_g} = \frac{\text{d}\beta}{\text{d}\omega} \] \[ \beta = \frac{\omega n}{c} \]

最も基本的なモードとなる LP01モードは、波長が長くなると、電磁界が広がり屈折率の低いクラッドの影響を受けて位相速度が速くなる。逆に、波長が短くなると、電磁界がコアに集中して位相速度は遅くなり、コアの屈折率で決まる値に収束する。

規格化周波数

光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには,規格化周波数(V-number) $V$ が用いられ,空気中の光の波長を $\lambda$,コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,$V$ は次式で表すことができる。

\[ V = \frac{2\pi a}{\lambda} \times \sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]
基本モード

最も基本的なモードとなる LP01 モード(直線偏波モード : Linearly Polarized Mode)は,周波数が低くなると,電磁界が広がりクラッドの影響を受けて位相速度が速くなる。逆に,周波数が高くなると,電磁界がコアに集中して位相速度は遅くなり,コアの屈折率で決まる速度に収束する。

基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ガウス分布で近似することができる。

モードフィールド径

構造パラメータとは、コア径、クラッド径、コア/クラッド偏心率など光ファイバの構造にかかわるパラメータをいい、SM 光ファイバでは、コア径に代わって定義されるモードフィールド径が用いられる。

光強度分布がガウス分布で近似できるとき、屈折率分布の違いはモードフィールド径の違いとして表すことが可能である。

SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $\displaystyle \frac{1}{e^2}$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。

モードフィールド直径
図 モードフィールド直径
モードフィールド偏心量

モードフィールド偏心量は、現実には、SM 光ファイバのモードフィールド中心とクラッド中心が同じ点にならないことから、これらの中心間の距離として定義される。ここで、モードフィールド中心とは、SM 光ファイバの LP01 モードの電界分布の中心をいい、クラッド中心とは、クラッド表面を最もよく近似する円の中心をいう。

ITU-T の標準化勧告において、コア及びクラッドの偏心量は、MM 光ファイバで 3 [μm] 以下、SM 光ファイバで 0.6 [μm] 以下となるように規定されている。

カットオフ波長

カットオフ波長とは、伝搬モードが一つになる最短の波長であり、カットオフ波長より短い波長に対しては伝搬モードがマルチモード,一方,長い波長に対しては伝搬モードがシングルモードとなる。

コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,遮断波長 $\lambda_\text{c}$ は次式で表すことができる。

\[ \lambda_\text{c} = \frac{2\pi a\sqrt{{n_1}^2 - {n_2}^2}}{2.405} \]

つまり,カットオフ波長とは,高次のモードを遮断する波長をいい,例えば,1.3 [μm] で使用する SM 光ファイバにおいては,カットオフ波長は 1.3 [μm] よりも短くなければならない。

表 カットオフ波長
カットオフ波長との比較 伝搬モード
長い シングルモード
短い マルチモード

石英系光ファイバにおける光の分散特性

光ファイバの分散には、材料分散、構造分散、モード分散及び PMD の四つがあり、このうち材料分散と構造分散の和は波長分散といわれる。これらの分散の大きさには,一般に,モード分散 >> 材料分散 > 構造分散の関係がある。

波長分散 = 材料分散 + 構造分散

誘電体中の電子は構成する原子や分子から離れて自由に動くことはできないが、ガラスなどの誘電体中を電磁波が伝搬すると、一般に、伝搬周波数に対応した応答を示し、これが波長分散をもたらす。

光通信に用いられる光パルスは、厳密には単一の波長ではなく波長の広がりを有しているため、波長によって伝搬時間に差が生じ、受信端でパルス幅が広がり、波形が劣化する。

石英系 SM 光ファイバは、一般に、低分散領域が 1.31 [μm] 近傍に、低損失領域が 1.55 [μm] 近傍にある。1.55 [μm] 近傍で零分散を実現するには、比屈折率差と構造分散パラメータを大きくすることにより、構造分散を大きくし、材料分散と相殺させる方法がある。つまり、伝送路用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスを用いた分散補償技術により理論的には完全に補償が可能である。

光ファイバの伝送帯域は、モード分散、材料分散、構造分散、偏波モード分散などによって決定される。マルチモード光ファイバはモード分散が支配的要因であり、シングルモード光ファイバでは材料分散と構造分散が支配的要因である。

光ファイバの群速度に関連する特性は分散特性といわれ、多モード分散、偏波モード分散、材料分散などがある。分散特性に起因する光信号の伝搬遅延時間は群遅延時間といわれ、伝送可能なビットレート及び伝送距離は、群遅延時間の広がりの影響を受ける。

光ファイバの波長分散は,ゼロ分散波長より短波長側の正常分散領域と長波長側の異常分散領域に分けられ,光パルス信号のスペクトルが正常分散領域にあるときは,波長が長いスペクトル成分ほど群速度は速くなる。

正常分散
波長が短いほど屈折率が大きくなるような分散。ある媒質中を進む波の振動数が増加するにしたがって,速度が遅くなる。
異常分散
ある特定の波長の前後で屈折率が急激に変化するような分散。媒質中を進む波が,共鳴による吸収を受ける波長域で生じる。

材料分散

光ファイバに使用される材料の屈折率が波長に依存する特性を持つことに起因する材料分散がある。材料分散の単位としては、一般に、[ps/nm/km] が用いられ、1 [ps/nm/km] とは、スペクトル幅 1 [nm] の光が 1 [km] 伝搬したとき、パルス幅が 1 [ps] 広がることを意味する。

材料分散は石英ガラスの材料によって決定されるため調整することは困難である。

構造分散

コアとクラッドの屈折率差が小さい場合は、その境界面での全反射現象は鏡面のようにはならず、クラッド部分へ一部がしみ出すように全反射が起こる。このしみ出しの割合は、波長によって異なるため、伝搬経路は波長依存性を持つことになり分散が生ずる。この分散は、構造分散といわれる。

構造分散の値は、光ファイバの屈折率分布の構造を変えることによって変化する特徴を有しており、光ファイバの波長分散の値は、構造分散の値を変化させることにより制御することができる。

構造分散は光ファイバの比屈折率差や屈折率分布を調節して変化させることができる。DSF は,SM 光ファイバの構造分散を調整して,ゼロ分散波長を 1.3 μm 帯から 1.55 μm 帯にシフトさせた光ファイバである。

モード分散

MM 光ファイバにおいては、光ファイバ中を伝搬する各モードの伝搬速度が異なるために生ずるモード分散が、符号間干渉を引き起こすため、伝送帯域を制限する主な要因となる。

符号間干渉(Intersymbol interference : ISI)は,電気通信における信号の歪みの一種で,隣接する符号間で干渉が起きることを意味する。これは,前後の符号が一種のノイズとして働く好ましくない現象であり,通信の信頼性が低下する。ISI は一般に,多重伝送や伝送路の非線形周波数特性によって発生する。

異常分散領域

高強度の光パルスが光ファイバに入射されると、自己位相変調によってパルスの前縁部の波長は長くなり後縁部の波長は短くなることから、異常分散領域においては、光パルスの幅は狭くなる。

異常分散領域において、光パルスの幅が波長分散による広がり自己位相変調による狭まりとが打ち消し合った状態では、光パルスは元のパルス幅を保ったまま光ファイバ中を伝搬することができる。このような現象は、光ソリトン(optical soliton)といわれる。

光ソリトンは,光ファイバなどの光導波路の分散性と非線型性がつりあうことによって生じる孤立波であり,ソリトンの一種である。

偏波モード分散(PMD)

実際に使用される光ファイバが真円でないこと、また、曲げなどによる応力の影響によって光ファイバに複屈折が生ずることから、直交関係にある二つの偏波モード間に群遅延時間の差が生ずる現象は、偏波モード分散(PMD : Polarization Mode Dispersion)といわれる。高速・長距離伝送システムにおいて問題となる場合がある。

光の状態を表す要素には、周波数、位相、振幅など以外に、電界の振動方向を示す偏光がある。電界にはx軸方向又はy軸方向に偏光したモードがあり、光ファイバの非軸対称性などから生ずる両モードの伝搬遅延時間の差は偏波モード分散といわれる。

SM 光ファイバにおいては、直交する二つの偏波成分が存在する。光ファイバが理想的な真円でなく、また完全に均質でないために生ずる二つの偏波成分間の遅延差は偏波モード分散といわれる。SM 光ファイバを用いた光伝送システムでは、伝送速度が数十 [Gbit/s] を超える高速の場合、又は数千 [km] を超える長距離の場合に、偏波モード分散による波形劣化を生ずることがある。

なお,PMD の値の単位は ps/km1/2 で表される。

表 PMD の測定法
測定法 領域 説明
干渉法 時間領域 光ファイバ中を伝搬してきた光の群遅延時間差をマイケルソン干渉計などを用いて干渉縞に変換し,その間隔を干渉計の光遅延器によって検出する方法
ジョンズマトリックス法 周波数領域 波長可変光源から出力され回転型偏光子などを用いて偏光面角度が調節されて光ファイバを伝搬してきた光を入力とし,偏光解析器を用いて光の PMD を算出する方法

光ファイバの分散補償技術

専門的分野・通信線路 対策ノート「中継系線路の光ファイバケーブル設計」の 分散マネジメント を参照

光ファイバの非線形現象

石英系光ファイバは,本質的には非線形性が非常に小さい媒質であるが,光ファイバ伝送においては,光を細径のコアに閉じ込めるためにパワー密度が高いこと,低損失であり相互作用長を長くできることなどにより,各種の非線形相互作用が顕著に現れる。

電界や磁界によって生ずる複屈折において、屈折率の変化が、光の進行方向と平行に印加した電界に比例する現象はポッケルス効果、光の進行方向と垂直に印加した電界の2乗に比例する現象は光カー効果といわれる。

光ファイバの材料に用いられる石英(SiO2)は非線形性が小さい物質であり、光のパワー密度が小さい状況では、物質の分極は、光の電界強度に比例する。しかし、シングルモード光ファイバは、直径 10 [μm] 程度のコア内を光が伝搬するため、1 [W] の光が光ファイバに入射された場合のパワー密度は約 1 [MW/cm2] となる。このようにパワー密度が高くなることに加え、光ファイバは損失が小さいために、光と媒質の相互作用長が長くなり、様々な非線形現象が起こり、高次の分極が無視できなくなってくる。

光ファイバの非線形光学効果は、光ファイバが対称的な分子構造であることから、主に 3 次の感受率によって引き起こされる。3 次の感受率は、第 3 高調波発生、四光波混合、非線形屈折率変化、非線形散乱などの現象を引き起こす。この中で非線形散乱は、光ファイバの中に入射される光の強度が、あるしきい値を超えると SiO2 分子が振動し、フォノンが伝搬することにより生ずる現象である。2 原子からなる分子の振動は、それぞれの原子が同じ方向に振動する音響的振動と、逆方向に振動する光学的振動に分けられる。

光カー効果

高強度の短光パルスが光ファイバに入射されると,光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することによって屈折率が変化する光カー効果(Kerr Effect)といわれる現象が発生する。光パルス自身が誘起した屈折率変化により位相が急激に変化する現象は,自己位相変調といわれ,光パルスは大きな周波数変化を伴う。

高強度の狭い幅の光パルスが光ファイバに入射されると、光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することにより屈折率が電界の強度の 2 乗に比例して変化する現象は、一般に、光カー効果といわれる。

自己位相変調(Self Phase Modulation : SPM)

高強度の短光パルスが光ファイバに入射されると、光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することによって屈折率が変化する現象が生じ、光パルス自身が誘起した屈折率変化により、その位相は急激に変化する。この現象は、自己位相変調といわれ、パルスは大きな周波数変化を伴う。パルス前端では周波数が低下し,後端では周波数が高くなる。

相互位相変調

波長の異なる二つの光を光ファイバに入射したとき、一方の光の強度変化により生ずる屈折率変化で他方の光の位相変化が生ずる現象は、相互位相変調といわれる。

四光波混合

波長の異なる三つの光が 3 次の非線形分極を介して新しい第 4 の光が発生する現象は,四光波混合(Four Wave Mixing)といわれる。四光波混合は,WDM システムではチャネル間干渉の原因(伝送品質の劣化要因)となることから回避すべき現象の一つであるが,これを積極的に応用した例として波長変換技術がある。

高密度波長分割多重(DWDM)信号の波形劣化の支配的な要因となる。

四光波混合を抑える方法としては,使用波長を不等間隔で配置する方法がある。

ファイバヒューズ

非常に大きなパワーの光を入力した際に,ファイバのコア部分が溶融してしまう現象。

コア部に空洞を形成しながら伝達し,この空洞部の形状は条件により変化するが,典型的には弾丸形状をしている。ファイバヒューズの伝達現象は光源装置を停止するか,もしくはある閾値以下まで光パワーを低下させるまで続き,最終的には光源装置に達して故障させる恐れもある。

光ファイバの光損失

光ファイバ通信システムにおいて,伝送速度や中継間隔を決定するうえで重要な要素に光損失と伝送帯域の二つがある。光損失は光ファイバ内を伝搬する光のパワーがどれだけ減衰していくかを示す尺度で,これが小さいほど遠くまで光信号を送ることが可能となる。光損失はその発生機構の違いにより,光ファイバ固有の損失と実際に光ファイバを通信システムに組み入れたときに付加される損失とに大別される。前者には吸収損失,レイリー散乱損失,構造の不均一性による散乱損失がある。後者には曲げによる放射損失,マイクロベンディングロス,接続損失(反射損失と放射損失),発光素子や受光素子と光ファイバを結合する際に生じる結合損失がある。

吸収損失

吸収損失とは,黒いカーテンがよく光を吸収してしまうように,光ファイバ中を伝わる光が外へ漏れることなしに光ファイバ材料自身によって吸収され,熱に変換されることによる損失であり,一般にはガラスが本来持っている固有の吸収によるものと,ガラス内に含まれている不純物によるものとがある。

紫外吸収と赤外吸収

光ファイバにおける吸収損失には、波長 0.1 [μm] 付近にピークがある紫外吸収、波長 10 [μm] 付近にピークがある赤外吸収などがある。紫外吸収は SiO2 の電子のバンド間遷移による吸収であり、赤外吸収は SiO2 などの分子の振動による吸収である。光ファイバ通信で使用される波長域においては、紫外吸収はレイリー散乱損失よりも小さいため問題とならないが、赤外吸収は長波長側での主要な損失要因となる。

赤外吸収損失は、光ファイバのコアを伝搬する光が、ガラス分子を振動させることにより生ずる損失であり、熱で振動している分子の振動数と光の周波数が一致し、共振現象が生ずる場合に大きくなる。

石英系光ファイバは 1.55 [μm] 付近に最低損失領域があり、これより長波長側の 1.6 [μm] 付近からは赤外吸収の影響により損失が増加する。

水素分子による光の吸収

光ファイバの損失発生の原因の一つとして,水素分子による光の吸収がある。これは,水素分子が光ファイバ中に存在することで生じ,水素分子を取り除くと損失は減少する。水素分子による損失発生の防止策としては,光ファイバ周辺からの水素の発生を抑える,光ファイバ内部への水素分子の拡散を防止するための障壁を設けるなどの方法がある。

OH 基による光の吸収

光ファイバの製造過程では、加水分解反応を用いるため、光ファイバ中に OH 基が混入する場合がある。OH 基は光ファイバ中に 1 [ppm] 程度含まれていても、吸収による伝送損失の増加要因となる。

石英ガラス系のガラス内の不純物である水酸イオンによって生ずる光の損失は、波長 0.94 [μm]、1.24 [μm],1.38 [μm] などにピークがある。

石英系光ファイバの損失

光通信に用いられる石英系光ファイバの損失は、ガラス材料固有の特性に起因する損失と、製造後の外的要因によって生ずる損失に大別される。

石英系光ファイバの場合、一般に、伝送損失が最小となる波長 1.55 μm 帯における損失は 0.2 [dB/km] 程度であり、1 [km] 伝送しても約 95.5 [%] の光が受信側に到達する。また、C バンドといわれる波長 1.55 μm 帯の周波数帯域幅は約 4.4 [THz] と広帯域であることから、10 [Gbit/s] 以上の伝送速度を有する高速な光通信システムが実用化されている。さらに、光ファイバケーブルは、電気信号を伝搬するメタリック平衡対ケーブル又は同軸ケーブルとは異なり、電気伝導体ではないため、電磁誘導による影響を受けず、漏話も本質的に発生することがない。

表 各バンドと波長
バンド(略称) バンド 波長 [nm]
T-band Thousand-band 1 000 - 1 260
O-band Original-band 1 260 - 1 360
E-band Extended-band 1 360 - 1 460
S-band Short-wavelength-band 1 460 - 1 530
C-band Conventional-band 1 530 - 1 565
L-band Long-wavelength-band 1 565 - 1 625
U-band Ultralong-wavelength-band 1 625 - 1 675

(参考)光ファイバの低損失化の追求

光ファイバの低損失化に向けた発展の歴史を下図に示す。光ファイバの最低損失は,1972 年に 7 dB/km,1973 年に 2.5 dB/km と下がり,1976 年には 0.47 dB/km となった。さらに,1979 年には 0.2 dB/km,そして 1986 年には 0.15 dB/km にまで到達し,今日,石英系光ファイバの理論限界近くまで低損失な光ファイバを製造できるようになった。

ちなみに,この 0.15 dB/km の光ファイバは光の強さが 1/2(3 dB の光損失) になるまでに 20 km も伝搬することが可能である。

光ファイバの低損失の歴史
図 光ファイバの低損失の歴史

光ファイバを伝搬する光の損失

光ファイバを伝搬する光の損失 $L$ [dB] は、光ファイバに入射した光強度と、光ファイバの出射端に到達した光強度の比で表され、光ファイバに入射した光強度を $P_\text{in}$ [mW]、出射端に到達した光強度を $P_\text{out}$ [mW] とすると、次式で表すことができる。

\[ L = 10\log_{10}\frac{P_\text{in}}{P_\text{out}} \text{ [dB]} \]

放射線による光損失

光ファイバを放射線下で使用すると,石英ガラスの構造欠陥が放射線によって生じた電子や正孔を捕捉し,光を吸収することで光損失が増加する。放射線による光損失は,一般に,放射線量が増加すると大きくなり,減少すると小さくなる。

構造の不均一性による散乱損失

実際の光ファイバでは,様々な製造上の要因のため理想的に真円でかつ長手方向に均一な完全に円筒状のコア及びクラッドが形成されているわけではない。一般には,コアとクラッドの境界面では非常に微少なゆらぎ,すなわち凹凸が存在する。このような凹凸が境界面上に存在すると,光は散乱を受け,ある光はコア中を伝わることができず外側に放射される。したがって,この凹凸は伝搬する光を乱反射し光損失の増加をもたらす。この損失を一般に構造の不均一性による散乱損失と呼んでいる。

曲げによる放射損失

曲げによる放射損失は,曲げられた光ファイバ中において入射角が臨界角以上となる光が放射されるために生ずるものである。光ファイバの曲げによる放射損失を低減するには,一般に,コアとクラッドの比屈折率差を大きくすることが有効であり,これを実現した許容曲げ半径が 15 [mm] などの光ファイバ心線(R15 光ファイバ心線)を用いた光ファイバケーブルがアクセス系の架空線路区間やユーザ引込み区間に導入されている。

また,光ファイバ通信システムの設計においては,曲げ半径をある許容値以上となるように配慮している。

光ファイバのベンディング損失

マイクロベンディングロスは、光ファイバに側面から不均一な圧力が加わって、光ファイバの軸がわずかに(数 μm 程度)曲がるために発生する損失をいう。また、光ファイバを曲げたときに生ずる損失は、曲げ損失又はマクロベンディングロスといわれる。

外的要因によって生ずる損失には、マイクロベンドやマクロベンドによる損失などがある。マクロベンドによる損失は、曲率半径が小さく曲げられた光ファイバで、コアとクラッドの境界面に入射する光の角度が境界面の法線と光のなす角度で表したときの臨界角より大きくなると、コアを伝搬する光の一部がクラッド内へ放射されるために発生する。この放射損失を抑えるために、クラッド部分に石英ガラスと比較して屈折率が十分に小さい空孔を設けた構造の光ファイバがある。この空孔を含む領域が反射材の働きをするため光を閉じ込める効果があり、曲げに強く、取り扱いが容易な光ファイバコードとして、主に構内や宅内配線などで使用されている。

光ファイバのマクロベンディング損失は、光ファイバが許容曲率半径より小さい半径で曲げられたときなどの外的な要因により発生し、コアとクラッドの境界面に入射する光の角度が臨界角より小さくなるため、光が外部に放射されることによって生ずる損失である。ただし、入射角及び臨界角は、コアとクラッドの境界面の法線と光のなす角度とする。

光の散乱

レイリー散乱

レイリー散乱(Rayleigh scattering)とは,光がその波長に比べてあまり大きくない物質に当たったとき,その光がいろいろな方向に進んでいく現象であり,空が青く見えるのも,夕焼けが赤く見えるのも光の散乱によるものである。このような散乱はその現象を解明した物理学者の名をとり,レイリー散乱と呼ばれている。

光ファイバにおけるレイリー散乱損失は,主に短波長側で支配的となる損失であり,光ファイバ製造時に高温状態で固化する際にコアとクラッドの密度のゆらぎが原因で発生する。

ガラス材料固有の特性に起因する損失の一つであるレイリー散乱損失は、密度の揺らぎによって生ずるもので、石英系光ファイバのレイリー散乱損失は、一般に、波長が 1 [μm] では 1 [dB/km] 程度であり、波長が 1.6 [μm] では 0.1 [dB/km] 程度である。ただし、1.6 [μm] 付近から長波長になるにつれて、赤外吸収の影響で急激に損失が大きくなる。

光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると,入射側に近いところでは青い光が散乱し,残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ,散乱による損失の大きさは波長の 4 乗に反比例する。

SRS 及び SBS では、入射光と同じ周波数の光が散乱されるレイリー散乱とは異なり、入射光とは異なる周波数の光が散乱される。散乱光は、入射光の低周波側と高周波側の両側の周波数域で発生する。

誘導ラマン散乱(SRS)

媒質の光学的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は、ラマン散乱といわれ、入射光強度が十分大きい場合に生ずる誘導散乱は、誘導ラマン散乱といわれる。

高強度の光が光ファイバに入射されたとき,光ファイバ中に発生する音波と光との相互作用が原因で非線形散乱が生ずる。非線形散乱の一つである誘導ラマン散乱は,入射光と光学フォノンとの相互作用によって入射光が散乱され,入射光より周波数の低いストークス光が発生する現象であり,入射光の周波数を変えることにより任意のストークス光を発生させ信号光を増幅することが可能である。SRS のストークス光は,入射光と同方向と逆方向の両方向に伝搬する。

誘導ブリルアン散乱(SBS)

あるパワー以上の光を光ファイバに入射した場合にほとんどの光が入射点で反射される現象を誘導ブリルアン散乱(stimulated Brillouin scattering)という。

誘導ブリルアン散乱では、後方散乱光のみが強く発生し、また、発生する帯域幅が狭いことから、強い誘導ブリルアン散乱光を発生させるためには、スペクトル幅の非常に狭い入射光が用いられる。SBS のストークス光は入射光と逆方向のみに伝搬する。

光ファイバの伝送帯域

現在,光ファイバ通信で使用される伝送帯域とは,どれだけ高い周波数の信号で変調した光信号を伝送することが可能であるかを示す尺度として用いられており,定量的には光ファイバのベースバンド周波数特性における 6 dB 帯域幅という表現で示される。

いま,光ファイバの先端から,裾の広がりがない理想的な波形(これをインパルスと呼ぶ)を入射させたと仮定した場合,ある距離を伝搬した後,光ファイバの出射点においてパルスは光の分散特性によりある広がりを持ったパルスとして観測される。伝送路の途中において放射モードが存在しない,すなわち入射されたエネルギーが保存されたとしてもパルスの広がりを生じるということは,パルス振幅は必然的に小さくなる。このように,出射点におけるパルス波形(インパルス応答波形と呼ばれる)を調べることにより,光ファイバの分散特性を評価する手段として用いることが可能となる。この原理を周波数の領域で応用したのがベースバンド周波数である。

入力の変調周波数を高めていくと,出力の復調信号の振幅は徐々に小さくなり,しかも距離に依存する。6 dB 帯域幅とは,光が 1 km 伝送した後での復調電気信号の振幅が入力変調電気信号の振幅に対し,1/2(光パワーの減衰量では 3 dB)となる周波数までの範囲をいい,単位としては MHz·km が用いられる。

ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域
図 ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域

光送受信デバイス技術

発光ダイオード

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」の LED を参照

半導体レーザ

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」の LD を参照

光検波器

光通信において,光信号を検出する装置。一般に光信号によって電気的キャリアを作り出し,この動きを外部の回路で検出する。

APD

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」の APD を参照

光パッシブデバイス技術

カプラ

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」の カプラ を参照

フィルタ

光ファイバの途中部分で特定の波長の光を選択的に取り出したり結合させる合分波素子。

光フィルタは、増幅された光信号のみを取り出す役割を果たしており、光信号の波長帯のみを通過させる狭帯域な光バンドパスフィルタである。

誘電体多層膜型フィルタ

光合分波器の一つである誘電体多層膜フィルタは、一般に、屈折率の異なる誘電体を多層に積み重ねた誘電体多層膜の透過率が入射光の波長の違いにより変化することを利用し、入射光を透過光と反射光に分波するものである。

誘電体多層膜型は、屈折率の異なる数種類の誘電体を光の波長の $\displaystyle \frac{1}{4}$ 又は $\displaystyle \frac{1}{2}$ の厚さで交互に積層して、多層膜の界面で生ずる透過光と反射光を利用したものである。

ファイバグレーティング型フィルタ

ファイバグレーティング型(FG)は、光ファイバのコア内に屈折率の高低の繰り返しを設け、ブラッグ波長と異なる光が選択的に反射されることを利用したものである。

  • FG は,光ファイバのコアに周期的な屈折率変化を形成することにより,特定の波長の伝搬光を選択的に反射又は阻止することのできる波長選択デバイスとして用いられ,同様の機能を有する光デバイスである多層膜光フィルタと比較して,伝送用光ファイバとの接続性に優れる。
  • FG は,グレーティング周期が数十 [μm] ~ 数百 [μm] の長周期型と,1 [μm] 以下の短周期型に分類される。短周期型はブラッグ波長の光を反射させる機能を,また,長周期型は特定の波長の光をクラッドモードに結合させて損失を与える機能を有し,いずれの型も分散補償器として用いられる。
  • FG の温度特性は,光路の温度変化による屈折率変化と熱膨張によって決まり,石英ガラスを用いた FG の場合は,屈折率変化が支配的要因となっている。短周期型 FG を波長選択デバイスとして用いる場合には,一般に,FG を固定する台座の温度特性を利用するなどして温度補償が行われている。
  • FG の作製方法には,2 光束干渉法,位相マスク法などがある。位相マスク法は使用する位相マスクによりグレーティング周期が定まり,2 光束干渉法と比較して,同一のグレーティング周期を持つ FG を安定的に量産することができる。

アイソレータ

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」の アイソレータ を参照

光信号の増幅技術

波長多重(WDM)および時分割多重(TDM)技術の組合せにより THz にも及ぶ超大容量光伝送を実現した。この実現を支えた基盤技術のひとつが光増幅技術である。光増幅器は,光-電気変換することなく,光ファイバ伝送時の伝送損失を補償するための技術である。従来の光-電気変換に比べて,変調方式やビットレートに依存しない光中継器が実現できるばかりでなく,波長多重された複数の信号光を一括して増幅できるために,通信の大容量化に必要不可欠な技術となっている。

光増幅器は,増幅媒体の形態から半導体レーザ増幅器光ファイバ増幅器とに大別される。光ファイバ増幅器はさらに増幅機構別に,誘導ラマン散乱過程に基づくファイバラマン増幅器,誘導ブリリアン散乱過程に基づくファイバブリリアン増幅器,光ファイバ中での四光子混合を利用した光パラメトリック増幅器,コアに添加された希土類元素のもつレーザ繊維を利用した希土類添加光ファイバ増幅器とに大別される。

光増幅器の利得

光増幅器の利得は入力信号光パワー、信号光波長などに依存するため、測定に際してはこれらが制御された状態になっていることが必要である。

光増幅器の利得は,光増幅器の入力端での信号光パワーに対する出力端での信号光パワーの比として定義され,入力信号光パワーが低い領域では一定の値を示し,この領域は非飽和領域,線形領域あるいは小信号領域といわれる。

光増幅器の利得は,入力信号光パワーのほか,偏波面の変化によっても変動するため,利得測定中に信号光の偏波面が変化すると誤差を生ずることがあることから,偏波依存利得変動の大きい光増幅器の利得を測定する場合は,偏波スクランブルを行うか,測定ポイントごとに偏波面の調整を行う必要がある。

光増幅器の入力側の SN 比(SNRin)と出力側の SN 比(SNRout)は,雑音指数(NF : Noise Figure)といわれる。光増幅器の利得が 1 より十分大きい場合には,雑音指数の支配的要因は,増幅された信号光と ASE 光の間で発生するビート雑音と,ASE 光と ASE 光の間で発生するビート雑音である。光ファイバ増幅器の出力側には、増幅された信号光のほかに光ファイバ増幅器内で発生し増幅された自然放出光(ASE)が含まれているため、利得の測定時には ASE 分を考慮する必要がある。

NF = SNRin / SNRout

光ファイバ増幅器

光ファイバ増幅器には、光ファイバのコアに添加した希土類イオンの状態を励起させ形成したエネルギー準位の反転分布による誘導放出を利用する希土類添加光ファイバ増幅器と、光ファイバ中の非線形散乱による誘導散乱を利用する光ファイバラマン増幅器がある。

WDM 伝送システムに用いられる光ファイバ増幅器には、広帯域で平坦な増幅特性が求められる。平坦な増幅特性を得る方法として、EDF にアルミニウムとゲルマニウムを共添加する方法、光ファイバ増幅器の出力端に長周期ファイバグレーティングを用いた利得等化器を付加する方法などがある。

光ファイバ増幅器では、光増幅する際の自然放出に起因する雑音はゼロとすることはできず、反転分布が完全に実現された理想的な場合、入力の SN 比を出力の SN 比で除した雑音指数は 3 [dB] である。

光ファイバ増幅器の構成(前方励起型)
図 光ファイバ増幅器の構成(前方励起型)

希土類ドープファイバ

光ファイバのコアに添加した希土類イオンの状態を励起させ形成したエネルギー分布による誘導放出を利用

希土類ドープファイバ」参照

光ファイバラマン増幅器

光ファイバ中の非線形散乱を利用

光ファイバラマン増幅器(Fiber Raman Amplifier : FRA)では,光ファイバ中に強い励起光を入射されることにより,三次の非線形光学効果のひとつである光ファイバ内で誘導ラマン散乱(stimulated Raman Scattering : SRS)を介して信号光を増幅する。FRA の場合,信号光と励起光とは自動的に位相整合条件が満足されており,励起光の入射方向は,信号光と同一方向(前方向励起)および反対方向(後方向励起)が可能である。FRA の特徴は,増幅媒体として通常の石英ファイバが使用可能であること,励起波長を選択することにより任意の波長の信号光が増幅できること,利得は励起光の偏波方向に一致した方向で得られること,km 以上の長尺ファイバを増幅媒体とする必要があることなどである。

光ファイバラマン増幅器は、伝送用光ファイバを増幅媒体として利用し、光ファイバに高強度の励起光を入射すると、励起光とは異なる波長のストークス光が成長して同じ帯域にある信号光を増幅する。光ファイバラマン増幅器は、EDFA と比較すると励起効率が悪く、数 W 以上の励起パワーを必要とする。

ファイバラマン増幅器では,励起光波長より最大で約 100 [nm] 長波長側にある信号光を増幅できる。光ファイバ増幅器には、希土類添加光ファイバ増幅器のほかに、誘導ラマン散乱、誘導ブリルアン散乱などの非線形光学効果を利用したものがある。ファイバラマン増幅器は、一般に、数 [km] 以上の光ファイバと数 [W] の励起パワーを必要とされる。

ファイバラマン増幅器は、希土類添加光ファイバ増幅器と比較して、増幅効率は劣るが、波長多重励起により広帯域の増幅特性が得られる、励起光の波長を選定することにより任意の波長域において利得が得られる、伝送用光ファイバを増幅媒体として利用できるなどの特徴がある。

ファイバラマン増幅の原理

ラマン散乱は,物質の光学フォノンと光の相互作用によって生じる。下図に示すように,入射光により物質が仮想状態に励起され脱励起する際,物質の光学フォノンが励起され,そのエネルギーに対応したストークスシフト分だけ周波数の低い光(ストークス光)が生成される。ストークス光の波長と同じ波長を有する光が同時に入射すると誘導ラマン散乱によって利得を得る。ファイバラマン増幅器は,この誘導過程を利用した光増幅器である。すなわち,ファイバラマン増幅器を実現するには,増幅したい信号光からストークスシフト分短い波長を持つ励起光を用意し,利得媒質である光ファイバ中で誘導ラマン散乱が起きるように,EDFA のように励起光と信号光をカプラによって合波し,これらの光が同時に光ファイバを伝搬するように構成する。誘導ラマン散乱は光学フォノンの等方性によって,その散乱断面積が励起光と信号光の伝搬方向にあまりよらないという特徴がある。したがって,ファイバラマン増幅器では励起光が信号光に対して同方向に伝殺しても反対方向でもほぼ同じ利得を得る。

ラマン増幅過程
図 ラマン増幅過程

半導体増幅器

半導体光増幅器は,電流注入により励起が可能であり,希土類添加光ファイバ増幅器と比較して,小型で他の光デバイスとの集積が容易である,増幅可能な波長帯域幅が広いなどの利点を持つが,光通信システム用としては,光ファイバとの結合,偏波依存性などにおいて課題があり,希土類添加光ファイバ増幅器ほど普及していない。

半導体光増幅器には、共振形と進行波形がある。進行波形光増幅器は、共振形光増幅器における利得の強い周波数依存性をなくすため、LD の両端面に反射防止膜を施すことにより、入射光は活性層内で多重反射することなく 1 回通過する間に増幅される。

半導体光増幅器の基本構成
図 半導体光増幅器の基本構成

希土類ドープファイバ

希土類添加光ファイバ増幅器(rare-earth doped fiber amplifier : RFA)では,光ファイバのコアの一部あるいは全体に希土類元素を微量添加した光ファイバを増幅媒体として使用する。希土類元素では,可視から近赤外にかけて多くの誘導放出遷移が確認されている。RFA の特徴は,光ファイバを増幅媒体として用いるために伝送路と低損失で接続できる,利得の偏波依存性が生じない(あるいは無視し得るほど小さい),誘導放出始準位の寿命が μs 以上と比較的長いために信号光のパターン効果が生じない,などである。

希土類添加光ファイバ増幅器(EDFA : Erbium Doped Fiber Amplifier)は、コア部に希土類イオンを添加した光ファイバを増幅媒体としており、光増幅可能な波長帯は添加する希土類元素に依存し、その増幅性能も添加元素により異なっている。主な添加物として,1.55 μm 帯用にはエルビウム,1.4 μm 帯用にはツリウム,また,1.3 μm 帯用にはプラセオジムなどが用いられる。

添加元素としてネオジム(Nd)やプラセオジム(Pr)が用いられる波長 1.3 μm 帯の増幅器は、基底準位と増幅終準位が異なる 4 準位系である。

1.3 μm 帯の光ファイバ増幅器を構成する光ファイバに使用される希土類元素として、プラセオジム、ネオジムなどがあるが、高利得、低雑音の光ファイバ増幅器としては、プラセオジムをフッ化物ファイバに添加した PDFA がある。

EDFAはエルビウム添加光ファイバ(EDF : Erbium Doped Fiber)を用いた増幅器であり、0.98、1.48 μm 帯などに励起光波長が存在し、誘導放出光の波長としては 1.55 μm 帯が石英系光ファイバの低損失波長帯と一致しているため広く利用されている。

表 希土類添加物光ファイバの添加物
帯域 添加物
1.3 μm 帯用 プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd)
1.4 μm 帯用 ツリウム(Tm)
1.55 μm 帯用 エルビウム(Er)

励起用光源としては、半導体レーザが用いられるが、励起光の進行方向と信号光の進行方向が一致しているものは前方励起といわれ、プリアンプなどに適している。励起波長によって利得係数(1 [mW] の励起光に対する利得)は異なり、励起光の励起波長が 0.98 [μm] の場合、最も利得係数が大きい。高い利得係数を得るための方法として、光ファイバのコア中心に集中的にエルビウムを添加することが有効である。

EDFA は、一般に、エルビウム添加光ファイバ、励起光源、信号光と励起光を合分波する光合分波器、反射光を抑制する光アイソレータなどから構成される。

EDFA は、半導体増幅器と比較して、一般に、高増幅効率、高増幅利得及び低雑音であり、偏波依存性も少なく、通信用光ファイバとの接続も容易であるなどの優れた特徴を有している。

EDFA などを用いた線形中継方式の光通信システムでは,一般に,中継区間で発生する損失は補償されて信号光レベルは回復するが,SN 比は劣化する。SN 比の劣化は,主に,光増幅器で発生する自然放出光と信号光によるビート雑音に起因して生ずるものである。

EDFA の主な雑音要因となる ASE 雑音は、増幅媒体である EDF 内の広い周波数範囲に分布する自然放出光のうち、フィルタなどでも完全に取り除くことができない信号光と同じ周波数成分を有する自然放出光が、信号光と一緒に増幅されたものである。

EDF を評価するパラメータの一つである励起効率は、単位光量当たりの信号利得を表し、EDF の光ファイバ長及び入射信号光量に大きく依存するため、一般に、最適な光ファイバ長で、かつ、小信号入力状態で評価される。

EDF と伝送用光ファイバのクラッド径及び素線径は同じであるが,増幅性能を向上させるため,EDF のコア径は,一般に,伝送用光ファイバのコア径と比較して小さくなっている。

希土類添加光ファイバ増幅器の一つである EDFA に用いられる増幅媒体である EDF において、励起光によって励起された状態にあるエルビウムイオンが入射した信号光と同位相で同じ波長の光を誘導放出し、信号光が増幅される。EDF は、伝送用光ファイバと同じ石英ガラスを主成分とする SM 光ファイバであり、そのクラッド径は 125 [μm] であるが、コア径を伝送用光ファイバより細くし、一般に、3 [μm] ~ 6 [μm] とすることにより増幅性能を向上させている。

希土類添加光ファイバ増幅器の一種である EDFA は、数 10 [mW] 程度の励起パワーで 30 [dB] 以上の利得が得られ、ビットレート依存性が無く、異なる多数の波長を一括して増幅することが可能である。

光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合,希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり,光ファイバの濃度消光や増幅作用の要因となる。

EDF の添加物

EDF のコアには,増幅動作のためのエルビウムと屈折率プロファイル形成用のゲルマニウムのほか,波長特性平坦化のためのアルミニウムが添加されているものがある。

EDF の利得係数はエルビウム(Er)の添加濃度を高めることで大きくできるが,高濃度になると濃度消光により励起効率は低下する。Er とともにイッテルビウム(Yb)を共添加した Er:Yb 光ファイバは、濃度消光に起因する Er 添加濃度の限度を向上させることができる。

表 EDF の添加物
増幅動作 エルビウム
屈折率プロファイル形成用 ゲルマニウム
波長特性平坦化 アルミニウム

光ファイバケーブルの構造

通信ケーブルの種類・特性及び適用」「アクセス系線路の光ファイバケーブル設計」「中継系線路の光ファイバケーブル設計」参照

本ページの参考文献

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