光通信用素子

2019年5月18日作成,2021年9月1日更新

発光素子(LD,LED 等)

電気回路を光信号に変換する電子部品の総称。半導体レーザや発光ダイオードなどがある。

下図 (a) に示すように,低エネルギー準位 1 に電子が存在し,高エネルギー準位 2 は空きになっているとする。この状態で二つのエネルギー準位の差のエネルギー(それぞれのエネルギーレベルを $E_2$ 及び $E_1$ とすると,$E_2-E_1$ となる)にほぼ等しいエネルギーを与えると,電子はこのエネルギーを吸収して,下図 (b) のように低エネルギー準位 $E_1$ から高エネルギー準位 $E_2$ に持ち上げられる。

このように,電子をエネルギーの高い状態に移すために外部からエネルギーを与えることを励起といい,電子が他のエネルギー準位に移ることを遷移という。

電子は,高エネルギー準位 $E_2$ に持ち上げられた状態で放置しておくと,そのうち原子核に引き寄せられ,下図 (a) の安定した状態に戻ろうとする。戻るときには,低いエネルギー状態 $E_1$ に遷移するわけであるから,下図 (c) のように $E_2-E_1$ のエネルギーが放出される。この現象を自然放出といい,このエネルギー放出が光として現れる場合,これを自然放出光という。

次に,下図 (b) に励起された状態に $E_2-E_1$ に相当するエネルギーを持つ光を入射すると,もともと,エネルギー準位 $E_1$ に遷移しようとしていたエネルギー準位 $E_2$ にある電子は,その光のエネルギーを吸収し,下図 (d) のようにエネルギー準位 $E_1$ に強制的に遷移させられる。この現象を誘導放出といい,その際生ずる光のエネルギーは自然放出光よりも大きく,誘導放出光といわれる。この誘導放出を利用したのがレーザ(LD)である。

エネルギーの準位と遷移過程
図 エネルギーの準位と遷移過程

LD と LED は、一般に、ダブルヘテロ接合構造を用いる点で共通しているが、結晶の両端に反射鏡面を形成して共振回路を形成する LD に対し、LED は共振回路がなく、接合面に垂直に光を取り出す構造である。

レーザ LD

半導体レーザ(semiconductor laser)は,半導体の再結合発光を利用したレーザである。同じものを指すのに,ダイオードレーザ(diode laser)や,レーザダイオードという名称も良く用いられ LD と表記されることも多い。半導体の構成元素によって発振する中心周波数,つまりレーザ光の色が決まる。

半導体レーザ
写真 半導体レーザ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

半導体レーザ(semiconductor laser)は,半導体の再結合発光を利用したレーザである。一言でいうと,半導体レーザは,レーザ発振の条件を満たした LED である。ダイオードレーザーやレーザーダイオード( Laser Diode)という名称もよく用いられ,LD と表記されることも多い。

下図に LD の代表的な電流・光出力特性を示す。注入された電流が少ない場合は,自然放出現象に起因した微弱な光出力が見られる(LED の発光状態に該当)。電流をさらに増加させると,誘導放出現象によって得られた利得が共振器内部の損失を上回り,光出力の急激な立ち上がりが見られる。この電流値をしきい値電流という。

LD 電流-光出力特性
図 LD 電流-光出力特性

LED の発光は波長や振幅にばらつきがあるが,LD では比較的そのばらつきが少なく,ほとんどそろっている。また,LD の光は波長だけでなく位相も揃っており,「コヒーレント光」と呼ばれる。LD 光源は、LED 光源と比較して、発生光のスペクトル幅が狭く、温度変化によって光出力が変動しやすい特徴がある。また,光出力レベルが大きいので長距離の光ファイバの光損失測定に適している。

LD は誘導放出といわれる現象を利用しており、一般に、LED と比較して、出力光のスペクトル幅が狭く放射角も小さいため、群速度の波長特性の影響をほとんど受けないことから、変調周波数を上げることが可能である。

LD の駆動電流を変化させることにより LD の出力光強度を直接変調することが可能であるが,数 [GHz] 以上の高速変調を行うと,一般に,LD は多モードで発振し,発光スペクトルが広がり,これが伝送距離を制限する要因の一つとなる。

LD の出力光強度を数 [GHz] 以上で直接変調する場合には,一般に,ファブリペロー型 LD は多モードで発振するようになり伝送距離が制限されることから,高速変調時でも単一モードで発振する分布帰還型 LD や分布反射型 LD が用いられる。

光ファイバ通信用の LD には,一般に,ガリウム,アルミニウム,インジウムなどの元素を組み合わせた化合物半導体が用いられる。これら材料の組成比などにより、LD の発振波長が決まる。

LD には、複数の縦モードで発振する多モードレーザ及び単一の縦モードで発振する単一モードレーザがあり、単一モードレーザの一つに DFB レーザがある。

表 LD
略称 名称 説明
FP-LD ファブリペロー型 LD 多数の縦モードで発振
DFB-LD 分布帰還型 LD 単一モードで発振

単一モードレーザ

光伝送方式では,光ファイバの波長分散の影響から高速変調になるほど波形劣化が大きくなり,伝送距離に制限が生じることからこの影響を小さくするためには,LD の発光波長数は少ない(発光波長分布が狭い)ほどよい。一般の LD では,数百 Mbit/s 以上で変調すると極端に伝送距離が制限されることから Gbit/s 程度の光伝送に使用できる構造の LD として,特定波長のみ帰還を起こさせる波状構造を持つ分布帰還型 LD(Distributed Feedback laser : DFB-LD)の実用化がすすめられた。DFB とは,活性層の近くに波状の回折格子を作ることにより光の帰還を起こさせるもので,この分布帰還構造はあたかも光の共振器が多数分布していると見なせ,回折格子の周期(波状構造のピッチ)によってレーザ光に強い波長選択制を持たせた構造としているものであり,発光波長の単一化が可能となるものである。これにより,波長分散による影響なしに 10 Gbit/s の超高速伝送が可能となった。

LD には、複数の縦モードで発振する多モードレーザ及び単一の縦モードで発振する単一モードレーザがあり、単一モードレーザの一つに DFB レーザがある。長距離・高速伝送の光通信システムの光源には,一般に,単一モードで発振する DFB-LD が用いられる。

波長可変 LD

大容量化のため,波長多重技術を用いて多数の波長を取り扱う中継系においては,可変波長(チューナブル)LD の活用が盛んになってきている。従来までは,各波長に対して個別の光源を用意しておかなければならなかったため,多品種少量生産や在庫管理の煩雑さなどといった課題があったが,チューナブル LD を用いれば単一品種ですむのでこのような課題を解決することが可能となる。また,ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexing)のように,光源波長を切り替えることによって伝送パスを選択するシステムの場合,チューナブル LD は極めて有用である。チューナブル LD には,電流注入による屈折率変化を活用して前述した回折格子の帰還波長を制御する DBR-LD(Distributed Bragg Reflective laser)や SSG-LD(Super Structured Grating laser)などがある。

長距離・高速伝送の光通信システムの光源には、一般に、単一モードで発振する DFB-LD が用いられる。DFB-LD は活性層付近に等価的に屈折率の周期的な変化となる構造を有している。

波長可変 LD では、温度制御、電流注入制御などにより屈折率を変化させる方法、共振器長を変化させる方法などを用いて、発振波長を制御することができる。

分布ブラッグ反射 LD(DBR-LD)

電流注入による屈折率変化を活用して前述した回折格子の帰還波長を制御する。

シングルヘテロ型 LD

準備中

ファブリペロー型 LD(FP-LD)

FP-LD は,多数の縦モードで発振することから,放射された光が光ファイバ中を伝搬すると波長分散の影響によりパルス幅が広がるため符号間干渉を引き起こす。

ファブリペロー形 LD の発振状態での光の波長は、反射面間で共振する波長、すなわち、共振器の中で定在波ができる波長だけになり、共振を起こす条件は、共振器の長さが発振する波長の $\displaystyle \frac{1}{2}$ の整数倍である。

面発光型 LD

活性層の上下に形成された一対の反射器により共振器が構成され、基板と垂直方向にレーザ光が出射される LD は、面発光 LD(VCSEL)といわれる。

面発光型の LD は,VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER : 垂直共振器面発光レーザ)ともいわれ,基板面に対して垂直方向にレーザ光を放射する。VCSEL から放射された光は,端面発光型の LD とは異なり,円形の広がりをもち,設計によって放射光のモードフィールド径を光ファイバと同程度にできるため,レンズなしで光ファイバと結合することも可能である。

光送信器における光出力強度制御

LD は、一般に、高い信頼性を有しているが、経年劣化による光出力強度の低下は避けられない。これを補償するため、光送信器では光出力強度制御(APC : Automatic Power Control)機構を有している。APC は、LD の端面近傍に受光素子を配置して LD の光出力をモニタし、そのモニタ値の変動を LD の駆動電流にフィードバックさせることにより光出力強度を一定に保つものである。

また、DWDM 方式などにおいては、LD の出力光の波長を高精度に安定させる必要があるが、一般に、LD を構成する半導体材料固有の屈折率やバンドギャップが温度依存性を有するため、その出力光の波長は温度変化によって変動する。温度変化に対する波長変動を補償するのが温度制御(ATC : Automatic Temperature Control)機構であり、ATC は、LD 近傍に抵抗値の温度依存性が大きいサーミスタを配置し、その抵抗値の変動をペルチェ効果を用いて加熱又は冷却するペルチェ素子の駆動電流・電圧にフィードバックさせることにより温度を一定に保つものである。

高い波長安定性が求められる WDM システムなどにおいては、一般に、ATC に加えて、波長制御(AFC : Automatic Frequency Control)機構が必要となる。AFC は、一般に、LD からの出力光を誘電体多層膜で形成されたエタロンフィルタで透過光出力に変換してモニタし、そのモニタ値の変動をペルチェ素子にフィードバックさせることにより波長安定性を保つものである。

波長制御(AFC : Automatic Frequency Control)機構

発光素子は、高い信頼性を有しているものの、素子の経年劣化が避けられないため、その特性の補償が必要になる。特性を補償するための機構の一つである AFC は、発光素子からの出力光をエタロンフィルタに通過させることにより、出力光の波長変動をフィルタの透過光出力に変換し、この透過光出力の変動をフィードバックさせることにより出力光の波長を一定に保つ機能を有している。

レーザ光による事故を防止する方策

光ファイバ通信システムなどで使用されるレーザ光は、一般に、人間の目には見えず危険である。レーザ光による事故を防止する方策としては、使用するレーザ製品のクラスを確認すること、レーザ出射口やそれに接続された光ファイバ端面を裸眼でのぞかないこと、レーザ光用遮光保護具を着用することなどがある。

レーザ製品は、JIS C 6802 : 2014(2018 : 追補 1 により改正)で定められた被ばく放出限界(AEL)値に従い、人間の目及び皮膚に対するレーザ放射の危険度に応じて 8 段階にクラス分けされる。各クラスの AEL は、レーザ光の波長、パルス幅、放射持続時間、繰り返し周波数、網膜上での集光スポットの大きさなどを考慮し規定されている。

光ファイバ通信システムの安全に適用される JIS C 6803 : 2013(2017 : 追補 1 により改正)において、非制限区域とは一般大衆による接近を制限する手段が存在しない区域とされており、非制限区域にあっては、クラス 2 の AEL を超えるレーザ放射に人体がさらされてはならないと規定されている。

LED

発光ダイオード(light emitting diode : LED)は,ダイオードの一種で,順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子である。

LED 光源は、LD 光源と比較して、発生光は低コヒーレンス性であり、戻り光による影響を受けにくく出力変動が小さい特徴がある。

発光ダイオードは,半導体を用いた pn 接合と呼ばれる構造でつくられている。発光はこの中で電子の持つエネルギーを直接,光エネルギーに変換することで行われる。電極から半導体に注入された電子と正孔は異なったエネルギー帯(伝導帯と価電子帯)を流れ,pn 接合部付近にて禁制帯を越えて再結合する。再結合時に,バンドギャップ(禁制帯幅)にほぼ相当するエネルギーが光として放出される。放出される光の波長は材料のバンドギャップによって決められる。

LED においては、半導体の pn 接合に順方向電圧を印加することにより、p 型半導体領域に電子が、n 型半導体領域に正孔が注入され、伝導帯の電子価電子帯の正孔が再結合して自然放出光が発生する。

LED は、LD と比較して変調可能帯域が狭く、スペクトル幅が広いが、製造コスト、寿命などの面で優れており、主に短距離系の光通信システムで用いられている。

発光ダイオードの模式図
図 発光ダイオードの模式図
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

受光素子(PD,APD 等)

受光素子とは,光放射に用いる物理受光器のこと。光検出器,受光器ともいう。光の強度を検出する素子・装置であり,光の強度を電気信号に変換する。光通信システムにおける受光素子には、一般に、アバランシホトダイオード(APD)又はホトダイオード(PD)が用いられ、APD は PD と比較して、受光感度が高いという特徴を有している。

受光素子は、一般に、微弱な光を検出するために低雑音性が求められる。低雑音性を実現するには、PD においては外部からの入射光がなくても流れる暗電流を小さくする、APD においてはなだれ増倍に伴い発生する過剰雑音を小さくするなどの方法がある。

光通信システムで用いられる受光素子の受光可能な波長帯は,使用される材料の伝導帯と価電子帯のエネルギー準位差により異なる。受光素子の材料としては,一般に,0.8 μm 帯では Si が,1.55 μm 帯では InGaAs といった化合物半導体が用いられる。

受光素子の性能は,光電変換の性能を表す量子効率,光通信システムの中継間隔の設計上重要なファクタである受光感度,発生する雑音,動作応答速度などの特性により評価される。量子効率は受光素子の材料と構造により定まり,受光感度は受光素子の材料と構造のほかに印加電圧の大きさが関与する。

受光デバイスで生ずる本質的な雑音であるショット雑音は、光を一定のパワーで受光していても、光子としてとらえた場合にはその到着時間間隔が一定ではないために生ずる雑音である。ショット雑音の影響を少なくするため、光ファイバ増幅器をプリアンプとして使用した場合は、自然放出光と信号光とによって生ずるビート雑音が伝送品質を低下させる支配的な要因となる。

下表にPD と APD の特性比較を示す。特性的には APD の方が良いが,PD は APD に対して動作電圧が低いこと,あるいは価格が安いことなど有利な点もあるため,要求される光ファイバ通信システムの性能に合うよう,それぞれ使い分けられている。

表 受光素子の特性比較
項目 PD APD
量子効率 ~ 90 % ~ 90 %
受光感度(注) -20 ~ -25 dBm -30 ~ -35 dBm
周波数応答速度 ~ 20 GHz ~ 10 GHz
増倍率 1 ~ 数十
動作電圧 ~ 数 V ~ 数十 V
(注)符号誤り率 10-11 点の値

PD

フォトダイオード(Photo Diode : PD)は,光検出器として働く半導体のダイオードである。

PD は pn 接合を持ち,十分なエネルギーを持った光子がダイオードに入射した際に,電子を励起し,自由電子と正孔のペアを生成する。具体的には,入射光が空乏層で吸収されることにより、価電子帯に正孔が、伝導帯に電子が励起される。これら電子と正孔は電界によってドリフトし、電流として外部回路に取り出すことができる。pn 接合の PD は,フォトレジスタ,CCD,光電子増倍管のような光検出器と同じ用途に使用される。

PIN - PD の量子効率及び応答速度は,P 層と N 層の間に挟まれた I 層の厚さによって変化し,一般に,I 層を厚くすると量子効率は向上するが応答速度は低下する。このため,I 層の厚さは,量子効率,応答速度,必要となる逆バイアス電圧などを考慮して決定される。

PD の暗電流とは、光が入射していないときにもバイアス回路に流れている電流であり、ショット雑音の原因となる。

APD

アバランシェフォトダイオード(APD : Avalanche Photo Diode)は,増幅機能を持つ超高速応答性のフォトダイオード(PD)で,微弱光信号の検出に適している。

APD は,pn 接合に印加する逆バイアス電圧がある値を超えると,僅かなキャリアの移動によって次々にキャリアが生成され,加速度的に電流が増大するアバランシ効果(電子なだれ現象)による電流増幅作用を利用している。

APD は,半導体中の電子と正孔のなだれ増倍作用を利用して大きな電流を得る受光素子であり,PIN-PD と比較して,10 [dB] ~ 20 [dB] 程度高感度となる一方,数十 [V] 以上の高い逆バイアス電圧が必要となる。また、増倍率は、逆バイアス電圧及び使用環境温度に依存し,信号出力を増倍する過程で生ずる雑音が問題になる場合がある。

光変調器

光を ON/OFF することによって強度変調を行うのが光変調器である。変調方式としては,大別して,半導体 LD そのものを変調する直接変調と,発光機能を有するレーザとは別に変調機能を有する光変調器を用いる外部変調とに分けられる。

直接変調方式では,変調速度が増すと波長チャーピングが生ずることにより,波長が広がるため伝送距離が制限される。このため,変調速度が数 [Gbit/s] を超える場合には,一般に光源と変調回路を分離し,LN 変調器,EA 変調器などを用いた外部変調方式が用いられる。

直接変調方式

直接変調は,一つのレーザで発光と変調を実現できるため,非常に経済的に構成することができる。このため,主にアクセス系のようなコスト要求の厳しい領域に適用されている。しかし,伝送速度が 1 Gbit/s 以上の領域では,変調時の波長ゆらぎ現象である波長チャーピングが生じ,分散の影響によって伝送距離制限が顕著になってくる。

また,波長多重を行う場合,チャンネル間隔を狭くできないという問題も生じる。したがって,外部変調器の使用が不可欠となる。数 V 以下の駆動電圧では,ほぼ DC ~ 数 10 Gbit/s にわたる広帯域性を持つ外部変調器は,電気工学効果を用いた LiNbO3(ニオブ酸リチウム,以下 LN と略す)導波路型のものと,GaAs のような半導体電界吸収効果を用いた電界吸収型変調器(Electro Absorption modulator : EA)の 2 種類がある。

直接変調方式は,半導体レーザ(LD)などを用いて変調信号の変化をそのまま光源の強度変化にする方式で強度変調ともいわれる。この変調方式では、1 と 0 に対応した光強度の比が小さいと雑音などの影響を受けやすくなる。

直接変調方式は、一つの LD で発光と変調を実現できることなどから、アクセス系光通信システムにおける主流の変調方式であるが、一般に、変調速度が数 [Gbit/s] 以上では、波長チャーピングに伴う分散などの影響から、長距離や大容量伝送システムには適していない。

チャーピング(chirping)とは,半導体レーザ(LD)の高速変調時(数 GHz 以上)に,瞬時的なキャリアの変動で活性層の屈折率が変動し,光の波長が変動する(波長の揺らぎ,緩和振動)現象。

直接変調における変調速度は、注入されたキャリアのライフタイムに大きく影響される。LD が誘導放出によりレーザ発振した状態では、キャリアのライフタイムが極めて短くなるため、10 [GHz] 以上の高速変調が可能であるが、LD のバイアス電流を増加させて発振しきい値以上に設定すると、一般に、消光比が劣化する問題が生ずる。

消光比とは,半導体レーザにパルス電流を加えたときの光出力とパルス信号が無いときの光出力の比のこと。

LN 変調器

LN 変調器は、結晶に加える電界の強さに比例して屈折率が変化する現象であるポッケルス効果(電気光学効果)を利用したもので、LD からの光出力をニオブ酸リチウム結晶中に導いて光の振幅、位相などを変化させている。

ポッケルス効果を用いた LiNbO 変調器(LN 変調器)としては、強度変調器、3 位相変調器及び偏波変調器があり、位相変調器の原理は、加えた電圧によって生ずる屈折率の変化を利用して、導波路を伝搬する光の位相を変化させるものである。

EA 変調器

EA 変調器(電界吸収型,Electroabsorption)は,PN 接合のダブルヘテロ構造を持つダイオードに逆バイアスを印加したとき,電界吸収効果(電界を加えると,半導体のバンド構造が変化し,光の吸収量が変化する効果)により導波層を通過する光が吸収されることを利用して出力光をオンオフ制御している。

EA 変調器は,半導体の導波路における光の吸収量(損失)の波長依存性が,印加する電圧で変化する性質を利用したものであり,LN 変調器と比較して,一般に,小型で動作電圧が低く LD との集積が容易である。

外部変調方式

外部変調方式は,半導体レーザの出力光に対して外部から電気光学効果などを利用して変調を加える方式である。一般に、長距離・高速伝送システムにおける変調には、光源と変調回路とを分離した外部変調方式が用いられている。

外部変調は,LD に直流駆動電流のみを流して出力される無変調光を,電気光学効果などを利用して変調するため,チャーピングの少なく,数 [GHz] 以上の高速変調が可能である。

外部変調器の評価ファクタは,挿入損失,駆動電流,帯域幅,オンオフ消光比,偏波依存性等であり,特に帯域幅と駆動電流はトレードオフの関係にあるため方式設計上の注意が必要である。

IM-DD 方式

強度変調-直接検波(IM-DD : Intensity Modulation-Direct Detection)方式を用いた長距離光通信システムでは,一般に,LD の直後に強度変調用光変調器を配置した外部変調方式といわれる変調方式が採用されており 40 Gbit/s の高速伝送が可能である。

光通信システムに用いられている変調/復調方式には、送信側で光信号の強度を変化させ、受信側で PIN-PD、APD などの受光デバイスにて光信号を電気信号に変換する強度変調-直接検波(IM-DD)方式がある。この方式は,受信側における復調信号に光の位相情報は含まれず,光の振幅の 2 乗に比例した出力,すなわち光強度に比例した出力が得られることから,伝送特性が光の位相揺らぎによる影響を受けにくい特徴がある。

IM-DD 方式は、強度変調(Intensity modulation : IM)方式と直接検波(Direct detection : DM)方式を組み合わせたものであり、復調側において、光の位相揺らぎに影響されない、光の強度に比例した出力を得ることができる。

半導体光変調器

半導体光変調器は、LN 変調器と比較して、一般に、動作電圧が低く LD との集積が可能であり、小型化が図られている。

光増幅器

光伝送路における損失や接続損失によって減衰した光信号を補償するため,光信号を増幅するものが光増幅器である。光増幅器は,光信号をそのまま直接属服することができるため,光信号の変調方式や変調速度に依存しないトランスペアレントな適用が可能となる。また,複数波長の光信号を一括に増幅することができるため,波長多重システムへの適用においても有用である。

光増幅器は,大別して光ファイバ増幅器半導体光増幅器の 2 種類に分けられる。その中で,光ファイバ増幅器は,高利得,高出力,低雑音,偏波無依存といった優れた特徴を有し,中継系において広く活用されている。下図に,光ファイバ増幅器の構成を示す。

光ファイバ増幅器の構成
図 光ファイバ増幅器の構成

一方,半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier : SOA)は,下図に示すように,単一の半導体素子により構成されることから,光ファイバ増幅器に比べて小型化・経済化が期待できるという利点を有する。しかしながら,偏波依存性が大きく,飽和領域において利得の回復時間の遅れに起因する信号劣化(パターン効果)が生じるため,これまであまり用いられてこなかった。近年,低偏波依存化,高出力化によるパターン効果の低減を実現したものが開発されており,アクセス系における適用検討が行われている。

半導体光増幅器の基本構成
図 半導体光増幅器の基本構成

光増幅器とは,光信号を電気信号に変換せず,直接光の状態で増幅する増幅器である。光増幅器は共振器のないレーザもしくは共振による抑制のフィードバックのないレーザともいえる。増幅器の誘導放出で入射光を増幅する。

光増幅器の利得は,光増幅器の入力端での信号光パワーに対する出力端での信号光パワーの比として定義され,入力信号光パワーが低い領域では一定の値を示し,この領域は非飽和領域,線形領域あるいは小信号領域といわれる。

光増幅器の利得は,入力信号光パワーのほか,偏波面の変化によっても変動するため,利得測定中に信号光の偏波面が変化すると誤差を生ずることがあることから,偏波依存利得変動の大きい光増幅器の利得を測定する場合は,偏波スクランブルを行うか,測定ポイントごとに偏波面の調整を行う必要がある。

光増幅器の入力側の SN 比と出力側の SN 比は,雑音指数といわれる。光増幅器の利得が 1 より十分大きい場合には,雑音指数の支配的要因は,増幅された信号光と ASE 光の間で発生するビート雑音と,ASE 光と ASE 光の間で発生するビート雑音である。

光増幅器からは,自然放出光雑音(Amplified Spontaneous Emission : ASE)が出力されるため,システムの S/N 設計を行う際に光増幅器の NF は重要なパラメータとなる。

光スイッチ

光スイッチ(optical switch)は光伝送路中に挿入されて光路を切り替えるためのものであり,高信頼性を要求されるシステムの故障回避などに用いられる。光スイッチは,光ファイバやプリズムなどの光学素子を機械的に起動して光路の切替えを行う機械的スイッチと,電気光学効果や音響効果を利用して光路を切り替える非機械的光スイッチに大別できる。

機械式光スイッチ

機械式(メカニカル)光スイッチは、プリズム、ミラーなどの光学部品又は光ファイバを駆動して光路を切り替えるものである。機械式光マトリクススイッチには、微小電気機械システム(MEMS : Micro Electro Mechanical Systems)といわれる技術を応用して製作されたものがある。

機械的スイッチは,非機械的スイッチに比べて切替速度は遅いものの低損失で低漏話であるために実用的であり,既に 1 入力 2 出力(または 2 入力 1 出力間)を切り替える 1 × 2 光スイッチをはじめとして,1 × 8 光スイッチ,2 × 2 スイッチ,8 × 8 光スイッチなど各種が開発されている。特に,光ファイバ切替スイッチについては,実際の光心線切替に使用されている。

電子式光スイッチ

電子式光スイッチには、電気光学効果、磁気光学効果、音響光学効果などを利用したものがある。

非機械的スイッチは可動部分を全く持たず,例えば,電界や電波あるいは温度により媒体の屈折率を変化させて光路の切替えを行うものである。近年,シリコン基板上の石英系プレーナ光波回路(PLC)を用いた光スイッチの開発が盛んとなり,温度によって導波路の屈折率が変化する効果(熱光学効果)とマッハツェンダ干渉計構造を組み合わせることで光スイッチを構成する技術に期待が高まっている。その応用例として,ROADM 用の add-drop 切替光スイッチ,光交換用のマトリクススイッチがある。

カプラ

カプラ(光分岐・結合器)は,一つの光信号を N 個に分岐したり,N 個の光信号を一つに結合したりする機能を持つ光デバイスである。光分岐・結合器として,① 光ファイバ,② 光導波路を用いたものがある。また,特に N=2 の光分岐・結合器の場合を光方向性結合器と呼び,N が大きくなると光スターカプラと呼ばれる。光ファイバを用いた光分岐・結合器の代表的なものとして,複数本の光ファイバを溶融して引き伸ばしたものがある。光導波路を用いた光分岐・結合器の代表的なものとして,Y 分岐を利用したものがある。Y 分岐は非常に単純な構造でほとんど波長依存性がないといった特徴があるが,低損失で均一に分岐するためには分岐部の微細な精密加工が必要となる。また,多分岐を実現するため,Y 分岐を多段に接続して 1 × N 分岐を構成することも可能である。実際に分岐数が多くなっても低損失で均一に分岐できる石英系プレーナ光波回路(PLC)を用いた小型光分岐・結合器が実現されており,1 × 8 分岐の場合においてチップサイズで 30 mm × 4 mm 以下のものもある。現在,この石英系導波路を用いた小型光分岐・結合器は,光アクセス系の PON システムに広く採用されている。

光カプラは,光信号を分岐またたは合流させる装置であり,構造によって,ロッドレンズと誘電体多層膜を用いた空間(バルク)型,ガラスなどで形成する光導波路型,光ファイバ融着によるファイバー型(光ファイバーカプラ)の 3 つに分けることができる。バルク型カプラは,レンズ,ミラーなどにより構成され,安定性の点で,プレーナ光波回路型やファイバ型と比較して劣るが,フィルタなどの光デバイスを挿入し,高機能化を図ることが容易である。

石英を用いた光導波路型カプラ

石英を用いた光導波路型カプラは、基板内で多段構成ができるなど、集積化が可能である。Y分岐導波路を用いたものでは、波長依存性がほとんどなく、出力ポートの光損失のばらつきを抑えることができる。

プレーナ光波回路型カプラ

プレーナ光波回路型の 2 入力 2 出力光カプラは,光信号の結合又は分岐の機能を持つ最も基本的な光デバイスであり,2 本の光導波路は数 [μm] の間隔にまで近接しており,光導波路中の光信号は相互に作用しながら伝搬する。結合比は,2 本の光導波路の結合部の間隔と長さの設計により,調整が可能である。

アレイ導波路型回折格子

アレイ導波路回折格子(AWG : Arrayed-Waveguide Grating)は長さの異なる複数の導波路からなる透過型回折格子で,入力/出力導波路群と扇形スラブ導波路とともに基板上にモノリシック集積され波長合分波器として用いられる。AWG デバイスは,異なる波長の光波が互いに線形に干渉するという光学の基本原理に基づいている

ファイバ型光カプラ

ファイバ型光カプラには研磨型と融着延伸型があり,いずれの型も 2 本のファイバのコアを近接させてコアを伝搬する光波のモード結合を利用することにより光信号を結合又は分岐している。

融着延伸光カプラ

融着延伸型光カプラは,複数本の光ファイバを並べて融着及び延伸して双円錐状のテーパを形成したものである。融着部はコア径が細くなっているため,入射した光の閉じ込めが強くなり,他方の光ファイバに光パワーが移行して伝搬モード間に結合が生じ,結合比は入射光のパワーによって変化する。

合波 / 分波器

光合波・分波器は,波長分割多重(WDM : Wavelength Division Multiplexing)などにおいて用いられ,下図に示すように ① 波長の異なる複数の光信号を合波し,1 本の光ファイバに挿入したり,② 逆に,1 本の光ファイバに伝搬してきた波長の異なる複数の光信号を各波長毎に分岐するための光デバイスである。光合波・分波器の代表的なものとしては,① 誘電体多層型フィルタ,② ファイバグレーティング,③ アレイ導波路回折格子,がある。

光合波・分波器の機能イメージ
図 光合波・分波器の機能イメージ

光導波路型の光分岐・結合器の代表的な構造である Y 分岐は、多段接続して 1 × N 分岐を構成することが可能であり、光アクセス系の PDS 方式(Passive Double Star)で広く用いられている。

光合波器(Optical multi)

光合波器は、光分波器と逆の作用をする光デバイスであり、一般に、光分波器の入出力を逆にすることにより、光合波器として使用することができる。

光分波器(Optical demultiplexer)

一つの入力端子から入射した複数の波長成分を含む光を、波長ごとに複数の出力端子に分岐し出射する光デバイスは、光分波器といわれる。

光アイソレータ

光アイソレータ(optical isolator)とは,光ファイバを使用する通信システムにおいて使用されている部品で,順方向に進む光のみを通し,逆方向の光を遮断する機能を有する。戻り光によるレーザの損傷,不安定化,干渉によるノイズなどの防止に必要で,光通信線路や光増幅器に多数使われている。

光アイソレータは光ビームを一方向のみに通過させる光学素子である。レーザ光を利用する光学系での反射などにより光がレーザに帰還すると有害な発振モードの不安定や雑音が発生する。特に半導体レーザではこの現象が著しい。光アイソレータの最も重要な応用はこの戻り光誘起不安定・雑音の防止である。このような光アイソレータは,ファラデー効果の非相反特性を利用して実現でき,バルク型と導波路型がある。

ファラデー効果(Faraday effect)とは,磁場に平行な進行方向に,直線偏光を物質に透過させたときに偏光面が回転する現象のことである。また,この回転をファラデー回転(Faraday Rotation)と呼ぶ。

光アイソレータは,光を一方向にのみ透過させることができる光デバイスであり,半導体レーザ(LD)モジュールにおいて,戻り光による雑音増加を抑えて発振を安定させるために用いられる。

光ファイバ増幅器の内部や外部での反射による発振を抑止し ASE 雑音の増大を防止するために用いられる光アイソレータは,一般に,光ファイバ増幅器の入出力端に配置される。

光アイソレータの能力は,光の伝搬と逆方向における透過損失と,順方向における挿入損失の差であるアイソレーションによって表され,アイソレーションが大きいほどアイソレータとしての能力は高い。

順方向と逆方向の光パワー透過率の比はアイソレーション比とも呼ばれる。基本的なアイソレータを多段接続することにより高いアイソレーション比を実現できる。

(アイソレーション) = (光の伝搬と逆方向における透過損失)-(順方向における挿入損失)

偏波無依存形光アイソレータは、増幅器内の残留反射、増幅器内外の反射による発振及び過剰雑音発生を抑えるために用いられ、一方向にのみ光を伝搬させ、逆方向の光は伝搬させない光部品である。

光送受信モジュール

近年,経済化の要請から光部品の機能ブロック化並びにそのデファクトスタンダード化の進展が著しい。大別すると,一部のまとまった機能をブロック化したサブアセンブリモジュールと,送受信機能を一体化した光送受信モジュールがある。

光トランシーバでは,上記サブアセンブリモジュールと信号制御用の電子回路によって構成されている。伝送装置の中でも際立って高価な光送受信部分の互換性を高めたり,部品やインターフェースの共通化による経済化を促進させるため,着脱可能(Pluggable)な光トランシーバのデファクトスタンダード化が進展しており,代表t来なものとして SFP(Small Form Factor Pluggable),XFP(10G Small Form Factor Pluggable)が普及してきている。

本稿の参考文献

  • 長井 清,和田 浩「40 Gb/s EA 変調器」,沖テクニカルレビュー,2020年4月,第190号 Vol. 69,No. 2
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