電気通信システム 対策ノート「計測」

2019年5月18日作成,2021年9月1日更新

計測

電圧計測

直流電圧測定

ディジタル直流電圧計(ディジタルマルチメータの $V$ 測定レンジを含む)は,電圧計の内部にある高安定な基準直流電圧発生器による基準電圧と,測定したい入力電圧 $V$ の比を,適切な回路を用いてパルス数に変換して計数することで $V$ の大きさを求めている。したがって,この測定原理では,$R$ や $I$ の測定は必要なく,$V$ を直接測定できる。

電圧利得

回路の入力電圧を $V_\text{in}$,出力電圧を $V_\text{out}$ とすると,電圧利得 $V$ は $V_\text{out}/V_\text{in}$ である。これをデシベルで表現すると次式となる。

\[ A = 20\log_{10}\frac{V_\text{out}}{V_\text{in}} \]

$A$ は正の値だけでなく負の値になることもある。例えば電圧が 2 倍に増幅された場合の利得は 6 [dB],電圧が 1/2 倍に減衰した場合の利得は -6 [dB] である。

インピーダンス測定

交流電気回路におけるインピーダンスの測定についてはこれまで多様な手法が考案されてきたが,集中定数回路として扱える可聴周波数帯以下の直流・低周波での測定と,分布定数回路として扱う高周波での測定とではその手法に大きな違いがある。ここでは商用周波数から可聴周波数帯でのインピーダンス測定を対象とする。

四辺ブリッジによる測定法

交流四辺ブリッジの基本回路を下図に示す。D は交流の検出器である。電源には正弦波発振器を,また検出器にはロックイン増幅器などの,信号周波数を選択的に増幅する装置を用いることが多い。

ブリッジ回路
図 ブリッジ回路

直流抵抗測定

ここで扱う抵抗はいわゆるオームの法則に従うものとする。その抵抗値は抵抗器に電流 $I$ を流し,その電圧降下 $V$ を測定し,オームの法則を利用すること,つまり $R = V/I$ を計算することで知ることができる。

電流測定

直流電流測定

現在広く用いられているディジタルマルチメータの電流 $I$ 測定レンジは,測定したい入力電流をディジタルマルチメータの基準抵抗器に通電し,発生する電圧降下 $V$ を測ることで電流を測定している。これは,オームの法則 $I = V/R$ において右辺の二つの測定量から左辺を求めることに相当しており,電流測定の基本量が $V$ と抵抗 $R$ であることがわかる。測定系によらず電圧計には測定可能最大電圧の制約が存在するので,大きい電流を測る場合は,抵抗 $R$ の小さい内部基準抵抗器に切り替えて測定するか,並列抵抗を接続して分流させたうえで測定する必要がある。したがって,電流の測定レンジが大きいほど入力インピーダンスが小さく,電流測定レンジが小さいほど入力インピーダンスは大きくなる傾向がある。

S/N 測定

SN 比 [dB] は信号レベル $S$ [dBm] - 雑音レベル $N$ [dBm] で表される。

信号電力 $P_S$ と雑音電力 $P_N$,もしくは,信号電圧 $V_S$ と雑音電圧 $V_N$ の比を SN 比(signal to noise ratio)と呼び,デシベルにより以下のように表す。

\[ \text{SN} = 10\log_{10}\frac{P_S}{P_N} = 20\log_{10}\frac{V_S}{V_N} \text{ [dB]} \]

SN 比が大きいほど,信号が明瞭に検出される。

電力測定

電力の測定には,通過型と終端型がある。高周波無線電力の測定は終端型を示している。

終端型の測定には大きく分けて,ダイオードで検波して直流電圧計を駆動する方式と,熱電対を利用して発熱を電力量に換算する方式,及びサーミスタなどを利用して抵抗値の変化を検出する方式がある。熱電対やサーミスタ方式は実効電力を直接測定できるため広く採用されているが,サーミスタ方式は抵抗の変化分を検知するための電子回路用電源が必要となる。

高周波電力の測定において,受信端で電力を熱エネルギーに変換し,その温度を計測して電力に換算する方法がある。

温度を計測する素子としては,代表的なものは,以下の通り。

  1. 接合した 2 つの金属間の電位差を利用する熱電対を利用するもの
  2. 温度により抵抗値が変化する特性をもった半導体を用いるもの(この代表的な素子がバレッタサーミスタである)
  3. 電波を受信してその交流信号をダイオードなどで検波し,直流電流計で測定する方法

電力利得

回路の入力電力を $P_\text{in}$,出力電力を $P_\text{out}$ とすると,電力利得 $G$ は $P_\text{out}/P_\text{in}$ である。これをデシベルで表現すると次式となる。

\[ G = 10\log_{10}\frac{P_\text{out}}{P_\text{in}} \]

$G$ は正の値だけでなく負の値になることもある。例えば電力が 2 倍に増幅された場合の利得は 3 [dB],電力が 1/2 倍に減衰した場合の利得は -3 [dB] である。

絶対電力レベル

電気通信分野においては、一般に、1 [mW] の電力を基準にした絶対電力レベルを表す単位として [dBm] が用いられる。この単位を用いて 1 [mW] を表すと 0 [dBm] となる。

相対電力レベル

伝送システムにおいて、基準点における絶対電力レベル [dBm] と任意の点における絶対電力レベル [dBm] との差は相対電力レベルといわれ、単位として [dBr] が用いられる。

0 相対電力レベル

減衰量測定

伝送線路の送信端の信号電力を $P_S$ [W]、受信端の信号電力を $P_R$ [W] とすれば、伝送線路の減衰量 $L$ [dB] は、$\displaystyle L = 10\log_{10}{\frac{P_S}{P_R}}$ となる。

光損失の測定

光損失は光ファイバの中を光損失が伝搬するときの減衰量を表し,光ファイバに入射した光の電力と他端から出射する光の電力の比を対数値で示したもので,下式により求めることができる。

(光損失) = -10log10 (出射光損失 / 入射光損失) [dB]

光の減衰量測定

光ファイバの損失測定の方法は、光ファイバを伝搬する光の減衰量を直接測定する方法と、光ファイバのコアで発生する後方散乱光を測定する後方散乱光法の二つに大別される。さらに、光の減衰量を直接測定する方法は、カットバック法と挿入損失法に分けられる。

光の減衰量を直接測定する方法

カットバック法

カットバック法は、被測定光ファイバに入射した光パワーと出射した光パワーの差を測定する方法で、JIS による規定では、被測定光ファイバを入射端から 1 [m] ~ 2 [m] の位置でカットバックし、その切断位置での光パワーを測定することによって入射光パワーを得るものである。カットバック法は、全ての種類の光ファイバについて最も正確に伝送損失を測定することができる。

挿入損失法

挿入損失法は、被測定光ファイバの入射端側を切断できない場合に用いられる。

後方散乱光による測定

後方散乱光法による測定には、一般に、光源から検出器、信号処理装置までを全て内蔵した OTDR が用いられる。OTDR の光源には出力が高く安定した LD が使用され、一般に、光源から入射する光のパルス幅を狭くするほど測定分解能が高くなるが SN 比が悪くなり、測定可能距離が短くなる。

周波数測定

ほとんどの電子計測機器では時間軸または周波数軸を有している。また,周波数シンセサイザなどの信号発生装置では,必要とする周波数値の信号を発生する。このため,周波数測定は,最も基本的な測定の一つである。近年では,原振の高精度化や測定機器・信号発生器のディジタル化などに伴い容易に高精度の信号を得ることができる。

周波数カウンタ

周波数は,繰り返し信号の単位時間における繰り返し頻度の数で定義されており,通常 1 秒間における繰り返し数で表され,単位としては,Hz(ヘルツ)が用いられる。

そこで,単位時間における被測定信号の周期の数を測定することが周波数測定の最も原理的な方法として用いられている。ただし,この方法では,周波数が低くなるにつれて測定桁数が少なくなるため,桁数の必要な周波数測定には不向きである。

そこで,被測定信号の周波数によらず,同程度の桁数で周波数測定が可能な方法として,レシプロカル法が考案された。これは,周波数 $f$ [Hz] と繰り返し信号の周期 $T$ [s] との間の関係が,$f=1/T$ の逆数関係にあることを利用し,被測定信号の周期を測定することによりその逆数として周波数を求める方法である。周期を測定するためのクロック信号が同じであれば,低周波信号の場合も高周波信号の場合も同等の桁数を得ることができる。

周波数特性測定

発光素子の特性である光波長及び光スペクトルは,光スペクトル測定器により測定される。すなわち,被発光素子からの出力光は光スペクトル測定器に内蔵されている波長選択フィルタ(プリズムの回転度合いにより所要の波長がスリット方向へ反射され,かつスリットにより近隣の波長を阻止する)を通り,特定波長の光パワーが測定され表示される。

光パワー測定

光ファイバの損失は、一般に、光ファイバの軸方向に均等に分布しているため、[dB/km] という単位で表される。これは光が 1 [km] 伝搬したときの光パワーの減衰量をデシベルで表したもので、例えば 0.2 [dB/km] の場合、50 [km] で 10 [dB] の損失があり、光パワーが 10 分の 1となる。

光パワーメータ(Optical power meter)は、光電変換型及び熱変換型の2種類に大別される。ホトダイオードを光検出器として用いた光電変換型光パワーメータは、熱変換型光パワーメータと比較して、検出感度が高い、ダイナミックレンジが広いなどの特徴を有している。

光電変換型光パワーメータ

フォトダイオードセンサは、光電検出器を用いて 入射光子数に比例した 電気信号を測定(光電変換)する。感度が波長に依存するので、単色光源もしくは単色に近い光源に使用できる。このセンサから出力される電流は、入射光パワーと波長によって決まる。下記のような特徴がある。

  • 高感度(微弱光の測定が可能)
  • 高速応答性
  • 波長域が狭い(Si : 200 - 1 100 nm,Ge : 700 - 1 800 nm,InGaAs : 800 - 1 700 nm)
  • 波長感度差が大きい
  • 入射角依存性がある

光電変換型光パワーメータは、波長依存性があることから、一般に、測定時の値を補正するため、測定波長を入力する機能が具備されている。

光パワーの測定において、ホトダイオード(PD)を用いた光電変換型は、熱変換型と比較して、検出感度が高く、応答時間が速い特徴を有している。

光パワーメータの受光感度を悪化させる原因の一つとして PD 自体の熱雑音がある。そのため、冷却型の受光器をセンサとして用いるとともに、高感度受光モジュールを搭載することで、雑音レベルの低減を図っている。

熱変換型光パワーメータ

サーモパイルセンサは、球体でレーザー光を吸収して熱に変換し 温度変化を測定(熱変換)する。広い波長範囲で比較的平坦な応答特性を持つ材料から作られているので、LED や SLD などの広帯域光源のパワー測定に適しており,下記のような特徴がある。

  • 波長域が広い
  • 測定パワー・エネルギーの範囲が広い
  • 耐久パワー・エネルギー密度が高い
  • 波長感度差が小さい
  • 応答速度が遅い
  • 入射角依存性が少ない

熱変換型光パワーメータには、温度変化に比例して、自発分極で生ずる起電力が変化する焦電効果といわれる現象を利用して測定するものがある。一般に、測定値の正確性が高いことから標準パワーメータとして用いられるが、光電変換型光パワーメータと比較して、外部温度の変化に影響を受けやすい。

レーザパワー測定

ここでは,主にレーザ発振器や光ファイバから出射されたビーム状の出力として,パワー [W] の測定を対象とする。

レーザパワーは,すべて光検出器に入射させて測定することが必要であり,検出器の受光径と入射されるビーム径の関係について考える。検出器の面感度偏差(受光面内の入射位置による出力信号の違いによる感度のむら)を考慮すると,受光径には対象となる入射ビーム径の適切な範囲がある。ビーム強度をガウス分布とし,その中心強度を $I_0$,ビーム直径($I_0$ の $1/e$ となる直径)を $2w$ とすれば,中心からの距離 $a$ に対し,強度分布(放射パワー密度)$I$ の関係が求まる。これから,測定されるパワー $P$ と全放射パワー $P_0$ の割合は,次式のように表すことができる。

\[ \frac{P}{P_0} = 1 - \exp(-\frac{a^2}{w^2}) \]

光波長測定

光周波数測定

光の速さは,その周波数と波長の積である。波長(周波数)安定化レーザの発明以降,マイクロ波帯の周波数標準を基準として光周波数を計測することは,古くは光の速さの測定のために必要なテーマであり,光の速さが定義となった現在では,波長(長さ:メートル)の定義の実現のため必要な技術である。しかしながら,可視~近赤外光の周波数は,数百 THz と高いため,直接電気信号に変換する受光器はなく,信号を処理する電気的素子もない。光の周波数を計るためには,電気的に扱える周波数まで分解する必要がある。周波数を分解する方法として,近い周波数を混ぜると発生するうなりを利用して差周波数を検出するビート,周波数を整数倍にする逓倍と,整数分の一に割る分周などがあり,基本的に周波数計測とは,周波数の加減乗除によって基準周波数と比較することである。

その他

ゼーベック効果

2 つの導線の両端を接続して 1 つの閉回路を作り,2 つの接続点を異なる温度に保つと,その回路に電流が流れる。その電流を熱電流といい,回路内に生じる起電力を熱起電力という。

ペルチェ効果

異なる金属の接合部に電流を流すと,熱の発生または熱の吸収が起こる現象をいう。

トムソン効果

同一の導線において,導線に沿って温度差があるときは,電流が流れることにより,熱の発生または吸収が起きる現象をいう。

参考文献

  • 中本 高道,『電気・電子計測入門』,実教出版,2002年
  • 南谷 晴之,山下 久直,『よくわかる電気電子計測』,オーム社,1996年
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