電気通信システム 対策ノート「伝送の基礎」

2019年5月18日作成,2022年2月6日更新

はじめに

本稿は,令和2年10月に策定された「電気通信主任技術者 スキル標準(第2版)」(総務省)に基づき作成している。このスキル標準に書かれている内容は,電気通信主任技術者として,いずれも,知っておくべき重要度の高いものである。

電気通信システム
  1. 大項目「2 電気通信システムの大要」
  2. 中項目「2-1 電気通信システムの基礎理論」
  3. 小項目「2-1-1 伝送の基礎」

本稿では小項目「2-1-1 伝送の基礎」の主要事項について解説する。

伝送の基礎

伝送線路

表皮効果とは,交流電流が導体を流れるとき,電流密度が導体の表面で高く,導体の中心部に行くに従って密度が低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するので,導体の交流抵抗は高くなる。同軸ケーブルは逆にこの性質を利用して外部の影響を少なくして広帯域伝送を実現している。

アナログ伝送におけるエンファシス技術は,高調波の信号ほど信号が減衰するため,信号の高調波成分を予め強調させることで,エラーを発生させずに長距離を伝送することができる技術である。

雑音指数 $NF$(Noise Factor,設問では $F$ で示されているが,一般には $NF$)は,信号電力を $S$,雑音電力を $N$ とすると,下式で表される。

\[ NF = \frac{S_i/N_i}{S_o/N_o} = \frac{1}{G} \times \frac{N_o}{kTB} \]

ここで,$G$ は中継器利得,$k$ はボルツマン定数,$T$ は絶対温度,$B$ は帯域幅 である。

変調方式(アナログ変調,ディジタル変調)

音声信号などのアナログ信号,コンピュータからのディジタル信号などの原信号を伝送路に適した波形に変換する操作を変調(modulation)と呼ぶ。

低周波電圧信号を変調信号(modulation signal),高周波電圧を搬送波(carrier),変調された信号を変調波(modulated wave)という。

変調を行うには,搬送波と呼ばれる適当な周波数をもつ信号のパラメータの一つ又は複数を,原信号に応じて変化させる。

伝送路を通した後,この変調を受けた波形から原信号を取り出す操作を復調(demodulation)と呼ぶ。

アナログ変調

搬送波を信号波で変調するには,振幅変調(AM : Amplitude Modulation),位相変調(PM : Phase Modulation),周波数変調(FM : Frequency Modulation)の 3 方式がある。

このうち位相角を変化させる方法(位相変調)と周波数を変化させる方法(周波数変調)は,総称して角度変調といわれる。

振幅変調(AM : amplitude modulation)

振幅変調とは変調信号を $v_\text{m}=V_\text{m}\cos{\omega_\text{m}t}$ とし,搬送波電圧を $v_\text{c}=V_\text{c}\cos{\omega_\text{c}t}$ として,搬送波の振幅を $V_\text{c}+v_\text{m}$ のように変化させることをいう。

振幅変調による変調波は次のように表せる。

\[ v = (V_\text{c} + V_\text{m} \cos{\omega_\text{m}t})\cos{\omega_\text{c}t} \]

下図に変調信号,搬送波電圧,振幅変調による変調波を示す。

下図の変調信号の振幅は 2,周波数は 50 Hz,搬送波信号の振幅は 1,周波数は 400 Hz としている。

振幅変調
図 振幅変調

デジタル変調

デジタル変調は,搬送波を不連続に変調する変調方式である。デジタル情報通信などに使われる。

アナログ変調と異なり,搬送波が不連続に変化する。当初,電信からの連想でキーイング(keying)という用語が使われたため,古くからある方式の名前(OOK,ASK,PSK,FSK,QAM,APSK,MSK,CCK)にはその影響がある。後に導入された方式(DM,CPM,OFDM)においてはアナログと同じモジュレーション(modulation)という用語も用いられるようになった。

中継方式(再生中継,線形中継)

再生中継

光通信システムにおける再生中継は,光 - 電気変換,電気 - 光変換を介す。

デジタル再生中継器は,以下の 3 つの機能(3R 機能)を備えている。

等化増幅(reshaping)

損失を受けた歪んだ受信パルス波形を,パルスの有無が識別できる程度まで整形増幅する機能

リタイミング(retiming)

受信パルス符号列からタイミングパルス(パルスの有無を識別する時点を指定するパルス)を抽出して,識別再生回路に供給し,再生パルスの立ち上がり時点および立ち下がり時点を設定する機能

識別再生(regenerating)

タイミングパリスにより決まる時点で等下増幅後の波形の振幅を測定し,その値が,ある識別レベル(閾値レベル)の場合,新しいパルスを発生させ送出する機能

線形中継

光通信システムにおける線形中継は,光 - 電気変換,電気 - 光変換を介すことなく光信号を直接増幅する。

多重化方式(FDM,TDM,WDM 等)

多重化(multiplexing)とは,電気通信およびコンピュータネットワークにおいて,複数のアナログ信号またはデジタルデータストリームをまとめ,一つの共有された伝送路で送ることである。多重通信,多重伝送ともいう。

周波数分割多重化 FDM

周波数分割多重化(Frequency Division Multiplexing : FDM)とは,電気通信において,異なる周波数の信号がひとつの伝送路を共有して通信を行う多重化技術である。

時分割多重化 TDM

音声の PCM 信号のようなデジタル信号の多重化によく使用されている 時間分割多重方式(Time Division Multiplex : TDM)とは,1 つの伝送路に複数のチャネルの信号をまとめ同時に伝送する多重化技術の 1 つで,短時間ごとに伝送する信号を切り替える方式である。

波長分割多重化 WDM

光波長多重通信とは,一本の光ファイバケーブルに複数の異なる波長の光信号を同時に乗せることによる,高速かつ大容量の情報通信手段である。波長分割多重通信(Wavelength Division Multiplex : WDM)ともいう。

本稿の参考文献

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