電気通信システム 対策ノート「無線の基礎」

2019年5月18日作成,2021年9月1日更新

無線の基礎

電波の基本特性(屈折,回折,干渉,減衰等)

電波伝搬(Radio propagation)とは,電波が空中を伝わり,離れた場所に到達することである。無線通信は基本的に電波伝搬を利用して行われる。

屈折

屈折(refraction)とは,波が異なる媒質を通ることによって進行方向を変えることである。

回折

回折(diffraction)とは,媒質中を伝わる波に対し障害物が存在するとき,波がその障害物の背後など,つまり一見すると幾何学的には到達できない領域に回り込んで伝わっていく現象のことをいう。

干渉

干渉(interference)とは,複数の波の重ね合わせによって新しい波形ができることである。互いにコヒーレントな波のとき干渉が顕著に現れる。

減衰

電波は,自由空間ではエネルギーが衰えることなく無限遠まで伝わっていく。しかし,電波は放射点から拡散しながら伝わるので,放射点からの距離が異なれば単位面積当たりの電波のエネルギー(電力)密度が異なる。電波の電力密度は,電波の強弱を表す。

よって電波は,距離の 2 乗に比例して減衰するということになる。

アンテナの原理

アンテナ(antenna)とは,電流と電波を相互に変換する導体でできた構造を持つ装置である。

アンテナは放射器といい,ワイヤ中を流れる電気信号を空間へ放射し,あるいは空間中を流れる電流(空間電流)を導線へ誘導する。

八木・宇田アンテナ

3 素子の八木・宇田アンテナは一番後ろに反射器(リフレクタ),その前に放射器(輻射器),その前に導波器(ディレクタ)の素子を並べた構造となっている。

それぞれの素子の長さは,導波器は棒状で放射器よりも短く,反射器も棒形状で放射器よりも長い。このアンテナは指向性があり,その方向は反射器から導波器の方向になる。

開口面アンテナ

開口面アンテナの利得 $G$ は,開口効率を $\eta$,面積を $S$,波長を $\lambda$ とすれば,次式で表される。

\[ G = \frac{\eta 4\pi S}{\lambda^2} \]

電波伝搬(空間波の伝搬,電離層伝搬,フェージング等)

空間波の伝搬

送信アンテナから放射され,大気層上空の電離層と地表面との間を反射しつつ伝搬する。

電離層伝搬

電離層波(Ionospheric Wave)とは,地上 100 km 以上にあるイオン層による反射波,散乱波を指す。

フェージング

フェージング(Fading)とは,無線局の移動や時間経過により,無線局での電波の受信レベルが変動する現象である。

ディジタル変調(ASK,FSK,PSK,多値変調等)

振幅偏移変調 ASK

ASK(Amplitude Shift Keying)は,ディジタル信号送受信の際に使用する変調方式の 1 つで,送信データのビット列に対応して搬送波の振幅を変化させることで送信データを送る方式である。

周波数変換式変調 FSK

FSK(Frequency Shift Keying)は,例えばデータが 0 のときに搬送波を低周波,1 のときに搬送波を高周波に変化させる方式。

位相偏移変調 PSK

PSK(Phase Shift Keying)は,基準信号(搬送波)の位相を変調または変化させることによって,データを伝達する,デジタル変調である。

多値変調

一つの変調シンボルが二つ以上の多くの信号点を取り得るように設計されている変調方式のことをいう。

スペクトラム拡散

スペクトラム拡散(spread spectrum : SS)は,通信の信号を本来よりも広い帯域に拡散して通信する技術で,無線通信に多く用いられる。

無線 LAN は,IEEE 802.00 で標準化されている規格が用いられている。このうち IEEE 802.11b は 2.4 GHz 帯を使用し,物理レイヤでは直接拡散方式(スペクトル拡散方式の 1 方式で,他には周波数拡散方式がある)を用いている。

直接拡散方式(DS 方式)は,QAM 等で 1 次変調した信号を,拡散コード(PN 符号)を使って 2 次変調を行う。

受信側では逆拡散を行い受信信号を取り出すが,もし受信信号にノイズが混入しても,逆拡散時にノイズは全体的に拡散されてしまうため,受信信号への影響が小さくなり,耐干渉性や秘匿性が確保される。

直交周波数分割多重方式 OFDM

直交周波数分割多重方式(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)は,デジタル変調の一種である。

有線では ADSL にも使われているが,LTE や,地上デジタル放送,無線 LAN,電力線モデムなどでも使われている。

マルチキャリア伝送方式の実現手法の 1 つである。一般にマルチキャリア伝送は,直列伝送のデータシンボルを直並列変換して複数のキャリアで並列伝送する。

Ohthogonal 内積が零となる関数

多元接続方式(FDMA,TDMA,CDMA等)

周波数分割多元接続 FDMA

FDMA(Frequency Division Multiple Access)とは,電波の周波数帯を複数の帯域に分割することで多元接続を行う通信技術である。各無線局にはそれぞれ異なる搬送周波数が割り当てられる。

時分割多元接続 TDMA

TDMA(Time Division Multiplex Access)は,同一周波数の電波の固定タイムスロットをそれぞれの無線局に割り当て,多元接続を行う無線通信技術である。

複数の基地局からの送信を 1 つの無線搬送周波数で処理できるという利点を持っている。

符号分割多元接続方式 CDMA

CDMA(Code Division Multiplexing Access)は,雑音や干渉に強く,秘匿性に優れるスペクトラム拡散方式を採用している。すなわち,音声信号などで一次変調された搬送波に対し,ユーザごとに異なる拡散符号(擬似ランダム信号,PN 符号とも呼ばれる)を掛算して広帯域に拡散し,それぞれの拡散符号に対応した複数の送信信号を同一周波数上に生成し,多元接続を実現する方式である。受信側では逆演算を行い元の信号を取り出す。第三世代の携帯電話の標準技術である。

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