平成24年度 第1回 専門的能力・通信線路

2020年5月31日作成,2021年1月1日更新

問1

(1) 平衡対ケーブルの一次定数と二次定数

平衡対ケーブルは、長手方向に均一で一様な線路であり、その電気特性は分布定数回路として扱うことができる。この線路の往復導体の単位長さ当たりの抵抗を $R$、インダクタンスを $L$ とし、また、往復導体間の単位長さ当たりの漏れコンダクタンスを $G$、静電容量を $C$ とすると、これらの$R$、$L$、$G$、$C$ は、線路の一次定数といわれる。

一次定数から誘導される伝搬定数 $\gamma$ 及び特性インピーダンス $Z_0$ は、次式で表される。

\[ \gamma = \sqrt{(R+\text{j}\omega L)(G + \text{j}\omega C)} = \alpha + \text{j}\beta \] \[ Z_0 = \sqrt{\frac{R+\text{j}\omega L}{G + \text{j}\omega C}} = |Z_0|e^{\text{j}\phi} \]

ただし、$\text{j}$ は虚数記号を、$\omega$ は伝送波の角周波数を、$\phi$ は特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し、$e$ は自然対数の底とする。

この伝搬定数 $\gamma$ の式において、実数部 $\alpha$ は減衰定数、虚数部 $\beta$ は位相定数といわれ、これらの $\gamma$、$\alpha$、$\beta$、$Z_0$ は線路の二次定数と総称される。

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」参照

(2) メタリック伝送路の電気的特性

(ⅰ) メタリック伝送路における漏話など

  1. 漏話を生じさせる側の回線は誘導回線、漏話を受ける側の回線は被誘導回線といわれ、被誘導回線において、誘導回線の送端側に生ずる漏話は近端漏話、誘導回線の受端側に生ずる漏話は遠端漏話といわれる。(
  2. 静電結合による漏話は被誘導回線のインピーダンスに比例し、電磁結合による漏話は誘導回線のインピーダンスに反比例する。(
  3. 平衡対ケーブルの場合、一般に、誘導回線と被誘導回線のインピーダンスは等しいので、特性インピーダンスが高くなる低周波では静電結合による漏話が支配的であるが、特性インピーダンスが低くなる高周波では電磁結合による漏話も考慮する必要がある。(
  4. 漏話減衰量は、誘導回線の送端電力と、被誘導回線の漏話電力(漏話量)の比の対数で表され、漏話電力が大きいほど漏話減衰量は大きく、漏話電力が小さいほど漏話減衰量は小さい。(

下線部が逆である。

漏話減衰量 $L$ [dB] は、誘導回線の送端電力 $P$ [mW] と被誘導回線の漏話電力 $P_L$ [mW] の比であり、次式で表される。

\[ L = 10 \log_{10}{\frac{P}{P_L}} \]
漏話減衰量
図 漏話減衰量

(ⅱ) メタリック伝送路などにおける雑音及びひずみ

  1. 増幅器などにおいて、導体中の自由電子の熱的じょう乱運動により発生する雑音はインパルス性雑音といわれる。インパルス性雑音を避けることは原理的に不可能であり、全周波数に対して一様に分布していることから白色雑音ともいわれる。(
  2. 伝送系の減衰量が周波数に対して一定でないために生ずるひずみは、減衰ひずみといわれる。音声回線において、特定の周波数で減衰量が特に少ないと、その周波数において鳴音が発生しやすくなる。(
  3. 伝送系の入力と出力が比例関係にないために生ずるひずみは、非直線ひずみといわれ、波形ひずみの原因となる。(

正しくは「熱」である。

(3) 光ファイバの分散特性、希土類添加光ファイバの特徴など

(ⅰ) 石英系光ファイバの分散

  1. 光ファイバの材料であるガラスの屈折率が光の周波数によりわずかながら異なるため、光ファイバ中を伝搬する光パルスの幅が狭まる現象は分散といわれる。(
  2. 光ファイバ中での分散には、材料分散、構造分散、モード分散及び偏波モード分散の四つがあり、このうち材料分散と構造分散の和は波長分散といわれる。(
  3. マルチモード光ファイバにおいては、光ファイバ中を伝搬する各モードの伝搬速度が等しいため、隣接するパルス間隔をあまり小さくできない。(
  4. マルチモード光ファイバのゼロ分散波長や分散スロープを制御して製作された光ファイバは、総称して分散制御光ファイバといわれる。(

正しくは,1.「自己位相変調」,3.「異なる」,4.「シングル」である。

(ⅱ) 希土類添加光ファイバの特徴など

  1. 光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合、希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり、光ファイバの屈折率が変動する原因となる。(
  2. EDF のクラッド径及び素線径は、伝送用光ファイバと同じであるが、コア径は増幅性能を向上させるため、一般に、伝送用光ファイバより小さくなっている。(
  3. EDF のコアには、屈折率プロファイル形成用ゲルマニウムと増幅動作のための Er イオンのほかに波長平坦化のためのアルミニウムが添加されているものがある。(
  4. EDF の利得係数は、Er の添加濃度を高めることで大きくできるが、高濃度になると濃度消光により励起効率が低下するため、髙濃度化には限界がある。Er とともにイッテルビウム(Yb)を共添加した Er : Yb 光ファイバは、濃度消光に起因する Er 添加濃度の限度を向上させることができる。(

正しくは「光ファイバの濃度消光や増幅作用の要因」である。

問2

(1) 光ファイバの非線形特性

光ファイバの材料に用いられる石英(SiO2)は非線形性が小さい物質であり、光のパワー密度が小さい状況では、物質の分極は、光の電界強度に比例する。しかし、シングルモード光ファイバは、直径 10 [μm] 程度のコア内を光が伝搬するため、1 [W] の光が光ファイバに入射された場合のパワー密度は約 1 [MW/cm2] となる。このようにパワー密度が高くなることに加え、光ファイバは損失が小さいために、光と媒質の相互作用長が長くなり、様々な非線形現象が起こり、高次の分極が無視できなくなってくる。

光ファイバの非線形光学効果は、光ファイバが対称的な分子構造であることから、主に 3 次の感受率によって引き起こされる。3 次の感受率は、第 3 高調波発生、四光波混合、非線形屈折率変化、非線形散乱などの現象を引き起こす。この中で非線形散乱は、光ファイバの中に入射される光の強度が、あるしきい値を超えると SiO2 分子が振動し、フォノンが伝搬することにより生ずる現象である。2 原子からなる分子の振動は、それぞれの原子が同じ方向に振動する音響的振動と、逆方向に振動する光学的振動に分けられる。

光ファイバケーブルの伝送理論」参照

(2) 非線形光学効果、光ファイバ伝送システムで用いられる光デバイスなど

(ⅰ) 光ファイバ中の非線形光学効果

  1. 高強度の狭い幅の光パルスが光ファイバに入射されると、光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することにより屈折率が電界の強度の 2 乗に比例して変化する現象は、一般に、光カー効果といわれる。(
  2. 光ファイバに三つの異なる波長の光を入射した際に、入射したどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象は、一般に、四光波混合といわれる。(
  3. 媒質の格子振動により入射光の一部が非弾性的に散乱され、入射光と異なる新たな波長の光が発生する現象は、一般に、ラマン効果といわれ、新たな波長の光が媒質の光学的格子振動と励起光との相互作用によって生ずる散乱はラマン散乱といわれる。(
  4. 誘導ブリルアン散乱では主に前方散乱が強く発生するが、誘導ブリルアン散乱は誘導ラマン散乱と比較して散乱が発生する帯域幅が狭いため、強い前方散乱を発生させるには、スペクトル幅が非常に狭い入射光を用いる必要がある。(

正しくは「後方散乱」である。

(ⅱ) 光スイッチ

  1. 光スイッチは、光伝送路において機械的又は電子的方法により、光路の切替えや光のオン/オフを制御する光デバイスであり、1 入力 1 出力の光スイッチや多入力多出力の光マトリクススイッチなどがある。(
  2. 機械式光スイッチは、プリズム、ミラーなどの光学部品又は光ファイバを駆動して光路を切り替えるものである。機械式光マトリクススイッチには、MEMS といわれる技術を応用して製作されたものがある。(
  3. 電子式光スイッチには、電気光学効果、磁気光学効果、音響光学効果などを利用したものがある。(

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は,機械要素部品,センサ,アクチュエータ,電子回路を一つのシリコン基板,ガラス基板,有機材料などの上に微細加工技術によって集積化したデバイスを指す。

(ⅲ) 発光素子の特性など

  1. LD と LED は、一般に、ダブルヘテロ接合構造を用いる点で共通しているが、結晶の両端に反射鏡面を形成して共振回路を形成する LD に対し、LED は共振回路がなく、接合面に垂直に光を取り出す構造である。(
  2. LD の発振波長は用いられる半導体材料によって決まるが、波長可変 LD では、温度制御、電流注入制御などにより増倍率を変化させる、機械的に結合効率を変化させるなどの方法を用いることにより、発振波長を制御することができる。(
  3. LED は、LD と比較して変調可能帯域が狭く、スペクトル幅が広いが、製造コスト、寿命などの面で優れており、主に短距離系の光通信システムで用いられている。(
  4. 面発光型レーザ(VCSEL)は、基板面に対して垂直方向に共振し、レーザビームを垂直方向に出射する。VCSEL から出射されるレーザビームはほぼ円形で出射角が狭いため、光ファイバと高効率で結合することができる。(

正しくは「屈折率」および「共振器長」である。

(ⅱ) 受光素子の特性など

  1. PIN-PD は、p 領域と n 領域の外側を i 層といわれる真性半導体層で覆った構造とすることにより、単純な pn 接合の半導体受光素子と比較して、応答速度などの改善が図られている。(
  2. APD はアバランシ効果を利用して信号出力を増倍する機能があり、この増倍率は光ファイバとの結合効率を制御することにより変化させることが可能で、PIN-PD より良好な信号対雑音比が得られる。(
  3. 受光素子で生ずるショット雑音は、電子が時間的又は空間的に不規則に励起されるために生ずる光電流の揺らぎによる雑音であり、同じ受光レベルであれば、印加する逆電圧を大きくしてもショット雑音は一定である。(
  4. 受光素子は、一般に、微弱な光を検出するために低雑音性が求められる。低雑音性を実現するには、PD においては外部からの入射光がなくても流れる暗電流を小さくする、APD においてはなだれ増倍に伴い発生する過剰雑音を小さくするなどの方法がある。(

正しくは,1.「p 領域と n 領域の間に挟まれた i 層」,2.「」,3.「印加する逆電圧を大きくするとショット雑音も大きくなる」である。

問3

(1) 光送信器における光出力強度制御など

LD は、一般に、高い信頼性を有しているが、経年劣化による光出力強度の低下は避けられない。これを補償するため、光送信器では光出力強度制御(APC : Automatic Power Control)機構を有している。APC は、LD の端面近傍に受光素子を配置して LD の光出力をモニタし、そのモニタ値の変動を LD の駆動電流にフィードバックさせることにより光出力強度を一定に保つものである。

また、DWDM 方式などにおいては、LD の出力光の波長を高精度に安定させる必要があるが、一般に、LD を構成する半導体材料固有の屈折率やバンドギャップが温度依存性を有するため、その出力光の波長は温度変化によって変動する。温度変化に対する波長変動を補償するのが温度制御(ATC : Automatic Temperature Control)機構であり、ATC は、LD 近傍に抵抗値の温度依存性が大きいサーミスタを配置し、その抵抗値の変動をペルチェ効果を用いて加熱又は冷却するペルチェ素子の駆動電流・電圧にフィードバックさせることにより温度を一定に保つものである。

出力光の波長を更に安定に保つためには、波長制御(AFC : Automatic Frequency Control)機構が必要となる。AFC は、一般に、LD からの出力光を誘電体多層膜で形成されたエタロンフィルタで透過光出力に変換してモニタし、そのモニタ値の変動をペルチェ素子にフィードバックさせることにより波長安定性を保つものである。

光通信用素子」参照

(2) 光ファイバ、光通信デバイスなど

(ⅰ) 分散制御光ファイバ

  1. 石英系 SM 光ファイバは、一般に、低分散領域が 1.31 [μm] 近傍に、低損失領域が 1.55 [μm] 近傍にある。1.55 [μm] 近傍で零分散を実現するには、比屈折率差と構造分散パラメータを大きくすることにより、構造分散を大きくし、材料分散と相殺させる方法がある。(
  2. 分散フラット光ファイバは、材料分散と符号の反転した構造分散を形成することにより実現でき、一般に、材料分散は波長に対して急な勾配を持っているため、構造分散パラメータが波長に対して平坦な特性を持った構造となるものが用いられる。(
  3. 1.31 [μm] 近傍で零分散となる光ファイバを用いて 1.55 μm 帯の伝送を行うと、損失よりも分散が中継間隔を制限する主要因となる。中継間隔を延長するためには、1.55 μm 帯で符号が逆の分散特性を持つ光ファイバを接続して分散を相殺する方法がある。(
  4. WDM 方式に分散シフト光ファイバを用いると、四光波混合の影響が問題になることがある。解決策としては、信号光の周波数間隔を不均等に配置する方法、伝送帯域における分散を零にしないで四光波混合の発生しにくい範囲で分散を小さくしたノンゼロ分散シフト光ファイバを用いる方法などがある。(

正しくは「平坦ではない特性」である。

(ⅱ) 光増幅器の種類、特徴など

  1. 光ファイバ増幅器は、活性媒質を含む導波路として光ファイバを用いるため、半導体光増幅器と比較して、接続損失が小さく、高出力、高利得であり、増幅帯域幅が広い。(
  2. 光ファイバ増幅器には、希土類添加光ファイバ増幅器のほかに、誘導ラマン散乱、誘導ブリルアン散乱などの非線形光学効果を利用したものがある。ファイバラマン増幅器は、一般に、数 [km] 以上の光ファイバと数 [W] の励起パワーを必要とされる。(
  3. 半導体光増幅器には、共振形と進行波形がある。進行波形光増幅器は、共振形光増幅器における利得の強い周波数依存性をなくすため、LD の両端面に反射防止膜を施すことにより、入射光は活性層内で多重反射することなく 1 回通過する間に増幅される。(

半導体光増幅器の方が,増幅帯域幅は広い。

(ⅲ) EDFA の特徴、動作原理など

  1. EDFA の増幅波長帯域は、主に、E バンドであるが、EDF の長さを変えることで、S バンドでも使用可能である。EDF の長さは、E バンド用で数 [m] から 10 [m] 程度、S バンド用では数十 [m] から 100 [m] 程度である。(
  2. EDA のクラッドには、伝送用光ファイバと異なり、屈折率プロファイル形成用、増幅作用などのため希土類イオンが添加されている。(
  3. EDFA は、半導体光増幅器と異なり、相互変調ひずみがないこと、ビットレート依存性がないことなどから、複数の波長の信号を一括して増幅することが可能であり、DWDM 方式などで用いられている。(
  4. 石英を主成分とする EDF を用いた EDFA の増幅利得は、一般に、波長依存性を持っているが、エルビウムとともにネオジムを添加するとシュタルク分裂が大きくなり、平坦な増幅利得を実現できる。(

正しくは,1.「」,2.「コア」,4.「平坦ではない増幅利得が得られる」である。

(ⅳ) 光ファイバ増幅器の雑音特性など

  1. 受光素子において光を検出する際に発生する雑音には、信号光のショット雑音、自然放出光のショット雑音、信号光と自然放出光間のビート雑音及び自然放出光相互間のビート雑音の四つの雑音成分があるが、光フィルタを挿入することにより、これら四つの雑音成分はいずれも除去することが可能である。(
  2. 光増幅器の雑音特性を表す指標として雑音指数(NF : Noise Figure)が用いられ $\displaystyle \text{NF} = \frac{\text{SNR}_\text{out}}{\text{SNR}_\text{in}}$ で定義される。ただし,$\text{SNR}_\text{in}$ 及び $\text{SNR}_\text{out}$ は,それぞれ光増幅器の入力端及び出力端における信号対雑音比とする。(
  3. 光増幅器の利得が 1 より十分大きい場合には、信号光と自然放出光間のビート雑音及び自然放出光相互間のビート雑音が、NF の支配的要因となる。(
  4. EDFA には前方励起型システム、後方励起型システム及び双方向励起型システムがある。一般に、出力特性に優れる前方励起型システムには 0.98 [μm] が、雑音特性に優れる後方励起型システムには 1.48 [μm] の励起用 LD が用いられる。(

正しくは,1.「ビート雑音は光フィルタでは除去できない」,2.「$\displaystyle \text{NF} = \frac{\text{SNR}_\text{in}}{\text{SNR}_\text{out}}$」,4.「下線部が逆」である。

問4

(1) 光パルス試験器(OTDR)の機能、特徴など

OTDR の測定原理は、パルス発生器で発生した電気パルスを LD にて光パルスに変換後、光カプラを通して被測定光ファイバに入射すると、被測定光ファイバ中を伝搬した光の一部がフレネル反射やレイリー散乱によって入射端に戻ってくることを利用しており、この戻ってきた光信号を光カプラを介して APD で電気信号に変換することにより光ファイバの特性などを測定するものである。一般に、入射端に戻ってくる光信号は微弱なため、計測に際しては繰り返し測定して得られた値を平均化する処理を行う。

被測定光ファイバの距離は、実際に光ファイバ中を伝搬する光信号の速度と、光信号が入射端まで戻ってくるまでの経過時間から求められ、光ファイバ中を伝搬する光の速度は光ファイバの群屈折率により定まる。

OTDR では、光ファイバの伝送損失、光コネクタ接続点及び融着接続点の接続損失、光コネクタ部の反射減衰量などが測定できる。伝送損失は測定データから直線近似法の最小 2 乗法で、接続損失はフレネル反射点前後の伝送損失の差分から求めることができる。

OTDR の測定におけるデッドゾーンには、反射測定(フレネル反射)デッドゾーン及び損失測定(後方散乱光)デッドゾーンの 2 種類がある。反射測定デッドゾーンとはフレネル反射のピークレベルから 1.5 [dB] での幅をいい、損失測定デッドゾーンとは光コネクタ接続箇所からフレネル反射の影響による応答波形で、真値から ±0.5 [dB] 以下のレベルの箇所までの接続損失などが測定できない幅をいう。

通信ケーブル監視技術」参照

(2) 光ファイバの特性、測定法など

(ⅰ) ファイバブラッググレーティング(FBG)の構造、特性など

  1. FBG とは、光ファイバのコアの屈折率に周期的な屈折率変化が形成されているファイバ型デバイスである。屈折率変化はグレーティングとして働き、グレーティングの周期が作るブラッグ反射条件を満たす波長の光のみを反射することができる。(
  2. FBG は、ゲルマニウムが添加された光ファイバのコアに赤外線レーザ光を照射し、光誘起屈折率変化を起こすことにより製作することができる。代表的な製作方法として、位相マスク法及び 2 光束干渉法がある。(
  3. FBG の透過率特性は、透過域での損失が極めて小さい、偏波依存性が少ないなどの特徴がある。一方、石英ガラスの屈折率の温度依存性による反射波長の変動を補償するため、一般に、温度調節素子とともに実装して定温に保つ、熱膨張係数差を利用した温度補償を行うなどの対策が必要である。(
  4. 屈折率周期が数百 [μm] の長周期グレーティング(LPG)では、コアを伝搬してきた光の一部がクラッドモードと結合することにより減衰するため、LPG はクラッドモードとの結合条件を満たす波長領域のみに損失を与えるフィルタとして機能する。(

正しくは「紫外線レーザ光」である。

(ⅱ) 光ファイバの損失特性など

  1. 物質中の分子密度の揺らぎは、物質の固化温度に比例して増大することから、低融点の材料を用いて光ファイバを製造することにより分子密度の揺らぎを少なくすることができる。分子密度の揺らぎによる散乱は波長の 4 乗に比例し、この散乱はレイリー散乱といわれる。(
  2. 石英系光ファイバの損失は、波長が短くなると吸収損失が主な要因となり、波長が長くなると赤外の SiO2分子振動によるレイリー散乱が主な要因となる。(
  3. 伝送システムで使用される光ファイバに曲がりが生ずると、コアとクラッドの境界に入射する光の角度が臨界角より小さくなるため全反射されず、一部の光が外へ放射される場合がある。この放射された漏れ光が損失となり、一般に、曲げ損失といわれる。ただし、入射角及び臨界角は、コアとクラッドの境界面の法線と光のなす角度をいう。(

正しくは,A.「波長の 4 乗に反比例」,B.「下線部が逆」である。

(ⅲ) 光ファイバの損失測定法など

  1. OTDR による測定において光ファイバ長 $L$ は、送信した光パルス信号が戻ってくるまでの時間を $\tau$、光ファイバ中の光速を $v$ とすると、$L = 2\tau v$ で算出することができる。(
  2. カットバック法は、被測定光ファイバからの出射光パワーをパワーメータで測定後、光源側の接続はそのままの状態で被測定光ファイバを光源側からカットバック長で切断し、切断位置での光パワーを測定するもので、被測定光ファイバの単位長当たりの伝送損失は、測定した光パワーの差分を被測定光ファイバ長で除することにより求めることができる。(
  3. 挿入損失法は、基本的にカットバック法と同じ試験装置で測定が可能であり、光ファイバを切断することなく測定できるため、カットバック法と比較して高精度な測定ができる。(
  4. OTDR による接続損失の測定において、光ファイバごとの透過係数のばらつきを補償するため、光ファイバの近端側から光パルスを入射して測定したデータと、遠端側から入射して測定したデータの平均をとる手法が用いられる。(

正しくは,1.「$\displaystyle L = \frac{\tau v}{2}$」,3.「精度は劣る」,4.「減衰量」である。

(ⅳ) 光ファイバの波長分散の測定法

  1. 波長分散の測定法は、周波数領域で行うものと時間領域で行うものとに大別できる。一般に、前者は直接的ではあるが波形劣化による精度の問題があるのに対し、後者は SN 比の点で高精度な測定が可能である。(
  2. パルス法は、時間領域において波長ごとの群遅延時間を直接測定する方法で、一般に、1 [km] を超える長さの光ファイバの測定に適しているとされており、1 [km] より短い光ファイバの測定にも適用できるが、正確さ及び繰り返し性が低下する可能性がある。(
  3. 干渉法は、可干渉光源を用い、参照光路と被測定光ファイバを含む測定光路からなるファブリペロー干渉系を構成し、出力の干渉パターンから波長ごとの群遅延時間を測定する方法である。(
  4. 位相法は、波長の異なる複数の光源を用いて被測定光ファイバを通過する際の各波長における光信号の到達時間の差から波長分散値を求める方法であり、周波数 $f$ で正弦波状に変調された光が、長さ $L$ の被測定光ファイバを伝搬することによる位相変化量 $\theta$ と単位長当たりの群遅延時間 $\tau$ の関係は、$\displaystyle \theta = \frac{\tau}{2\pi f L}$ で表される。(

正しくは,1.「下線部が逆」,3.「」,4.「$\displaystyle \theta = \frac{2\pi f L}{\tau}$」である。

問5

(1) アクセス系光ネットワーク

アクセス系光ネットワークのシステム形態は、伝送媒体の組合せ、光ネットワークのトポロジなどで分類することができる。

伝送媒体の組合せによる分類では、光ファイバだけで構築する形態、既存伝送媒体と光ファイバを組み合わせて構築する形態などがある。既存伝送媒体と光ファイバを組み合わせて構築する形態は、設備センタとエンドユーザの中間にメディアコンバータを設置し、設備センタとメディアコンバータ間は光ファイバを、メディアコンバータとエンドユーザ間は平衡対ケーブル、同軸ケーブルなど既設の伝送媒体を使用するもので、FTTC、HFC などがある。

また、光ネットワークのトポロジによる分類では、設備センタとエンドユーザを 1 対 1 で結ぶ SS 方式、光分岐装置などを設置することにより設備センタからの光信号を N 分岐してエンドユーザと結ぶ PDS 方式及び多重化装置を設置することによりユーザ信号を集約するとともに光信号を電気信号に変換・分離する装置を用いて複数のエンドユーザと結ぶ ADS 方式がある。ADS 方式は、多重化装置や光/電気変換装置が必要であるため、PDS 方式と比較して、一般に、保守性や信頼性に難点があるほか、装置への電力供給も必要となる。

光ネットワークを効率的に構築するための配線法の基本形態としては、き線点間を環状に結ぶループ無逓減配線法、基本的にはスター配線で心線の逓減を行わないスター無逓減配線法及び需要発生場所とケーブル接続などの経済性を勘案して心線の逓減を行うスター逓減配線法の三つの形態があり、適用に当たっては需要動向、需要密度、土木設備の有無、保守性、信頼性、経済性などを総合的に勘案して決定される。

アクセス系線路の光ファイバケーブル設計」参照

(2) アクセス系光ネットワークの構築など

(ⅰ) アクセス系光ネットワークの線路設備設計

  1. 光ファイバケーブルの最小許容曲げ半径は、光ファイバ、テンションメンバ、ケーブルシースの材質や構造などによって異なるため、基本は、メーカ推奨値によるが、メーカ推奨値が不明な場合は、布設中はケーブル外径の 20 倍以上、布設後は 10 倍以上とする ANSI/TIA/EIA 規格を適用する方法がある。(
  2. 光線路設備は、既存のルート構成を考慮してルート案を選定し、施工時の道路占用の可否、経済性、適用技術、安全性、保守性などを総合的に検討して設計する。(
  3. 架空区間では、施工作業や維持管理時における安全性確保、他施設への障害防止などのため、必要とされる地上高、他の架空配線及び建造物との離隔距離を確保する。(
  4. 光伝送システムの最大許容伝送損失は、基本的に、発光素子の出力レベルと受光素子の受光レベルの差に結合損失やシステムマージンなどを加えて算出され、光ファイバケーブルの長さや接続損失などから算出される伝送損失より小さくなければならない。(

正しくは「大きく」である。

(ⅱ) アクセス系光ネットワークの線路設備設計における、光ファイバケーブルのピース長算出など

  1. ケーブルピース長は、実際のケーブル布設長に接続必要長、引通し必要長、成端必要長、スラック必要長、後分岐必要長などを足し合わせて算出する。(
  2. ケーブルピース長を算出するための張力予測計算は、地中区間の場合は張力増加率が直線部、屈曲部、曲線部などにより異なるため布設区間ごとに行うが、架空区間では直線部の張力増加率は無視できるため直線部を除く区間だけ行えばよい。(
  3. 接続点位置、接続点数及び接続法は、光線路全体の損失だけでなく、その布設工法、保守性なども考慮して決定される。(

架空区間では直線部の張力増加率は無視できない。

(ⅲ) 光ファイバケーブル布設張力

図に示すように、地下管路区間においてX点からY点へ、以下に示す条件で光ファイバケーブルを布設する場合、Y点での張力は、2,695 [N] である。

(条件)
  1. 曲線部直前(X 点)の張力 : 1,000 [N]
  2. 摩擦係数 $\mu$ : 0.5
  3. 張力増加率 $K$ : 2.2
  4. ケーブル質量 $W$ : 0.45 [kg/m]
  5. 布設距離 $L$ : 100 [m]
  6. 交角 $\theta$ : $\displaystyle \frac{\pi}{2}$ [rad]
  7. 重力加速度 $g$ : 10 [m/s2]
  8. 曲線区間の張力増加分を考慮しない場合の張力 : $g\mu LW$ [N]
  9. 光ファイバケーブルの布設ルートは平面とし,高低差は無いものとする。

曲線部直前(X 点)の張力を $T_1$ とすると,Y 点での張力 $T$ は次式で求められる。

\[ T=(T_1+\mu gLW)\times K = (1000 + 0.5 \times 10 \times 100 \times 0.45)\times 2.2 = 2695 \text{ [N]} \]

(ⅲ) アクセス系光ファイバケーブルの布設工法

  1. 布設工法の一つである中間牽引法は、牽引車と牽引機を同時に使用して、ケーブルの中間では牽引機によりケーブルのテンションメンバを把持し牽引する方法である。(
  2. ケーブル牽引時は、常にケーブルの許容張力以下で、ケーブルに急激な張力変化を与えないように滑らかに速度を調整しながら牽引する。(
  3. 架空光ケーブルの布設時は、一般に、ケーブル繰出し点、ケーブル牽引点及び内角が 90 度以上 150 度以下の曲柱には、小型屈曲部用金車を用いる。(
  4. 長スパンの光ケーブル布設などにおいて、布設ルートの途中でケーブルを引き出す必要がある場合は、曲げ半径などに注意して、ケーブルのキンクを防止するため 8 の字状にケーブルを整理する。(

正しくは「分散けん引方式」である。

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