平成25年度 第2回 専門的能力・通信線路
問1
(1) 一様線路及び複合線路の概要
一様線路とは、往復2導体が均質な媒質の空間にあり、長さ方向にどこをとっても一様であり、またその線間距離が長さに比べて極めて小さい線路をいう。図に示すように、特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_\gamma$ で終端した場合、$Z_\gamma$ における位置角 $\theta$ は、$\displaystyle \tanh^{-1}{\frac{Z_\gamma}{Z_0}}$ で表され、任意の点における電圧、電流及びインピーダンスを簡単な計算により求めることが可能となる。
例えば、伝搬定数を $\gamma$ とすると、終端したインピーダンス $Z_\gamma$ から距離 $\chi$ の点のインピーダンス $Z_\chi$ を求めるとき、終端から距離 $\chi$ の点の位置角 $\theta_\chi$ が $\gamma \chi + \theta$ で表されるため、$Z_\chi = Z_0 \tanh$($\gamma \chi + \theta$) となる。特別な場合として終端短絡の場合、終端の位置角は 0 となる。
複合線路は、特性インピーダンス及び伝搬定数の異なる幾つかの線路を縦続接続することによって構成される線路であり、一様線路と比較して、より現実的である一方、解析が複雑である。しかし、この複合線路も一様線路の考え方を基礎にして位置角を導入することにより解析を容易にすることができる。

(2) メタリック伝送線路の諸特性など
(ⅰ) 高周波領域における電気的諸特性
- 漏れコンダクタンスは、心線間の絶縁物を通して流れる電流の割合を示し、漏れコンダクタンスが小さいほど漏洩する電流が大きいことを意味している。平衡対ケーブルでは、周波数が高くなると漏れコンダクタンスは急激に小さくなる。(誤)
- 導体系では、周波数が高くなるに従って抵抗及び内部インダクタンスに変化が生ずる。これは、導体内部において各部の電流が互いに作用を及ぼしあうことで電流分布が変化した結果であり、一般に、導体系の電気的特性として周波数が高くなるに従って抵抗は増加し、内部インダクタンスは緩やかに減少する。(正)
- 高周波では導体系の抵抗だけでなく、周囲の金属体中に誘起される渦電流によって電力損失を生ずることがあり、主なものにカッド損などがある。(正)
正しくは「大きい」「大きく」である。
(ⅱ) 伝送系のひずみの種類、特徴など
- 減衰ひずみは、伝送系の減衰量が周波数によって異なるために生ずるひずみであり、音声回線においては、鳴音を発生させる要因となる。(正)
- 位相ひずみは、伝送系の位相の変化量が周波数に対して比例関係にあるために生ずるひずみであり、群伝搬時間が周波数により異なるために生ずることから、同期ひずみともいわれ、データ伝送などにおいて大きな影響を及ぼす。(誤)
- 非直線ひずみは、伝送系の入力と出力とが比例関係にないために生ずるひずみであり、波形ひずみを発生させる要因となるほか、多重搬送回線においては、ある通話路から他の通話路への漏話及び雑音を発生させる要因となる。(正)
- 無ひずみ伝送の条件は、伝送に用いる有効周波数帯域全体にわたり、特性インピーダンス及び減衰定数が一定であり、位相定数が周波数に比例することである。(正)
正しくは「周波数に対して比例関係にないため」である。
(3) 受発光デバイスの原理と特性、光通信における信号劣化要因など
(ⅰ) 受発光デバイスの原理、特性など
- LED においては、半導体の pn 接合に順方向電圧を印加することにより、p 型半導体領域に電子が、n 型半導体領域に正孔が注入され、電子と正孔が再結合して自然放出光が発生する。(正)
- LD の駆動電流を変化させることにより LD の出力光強度を直接変調することが可能であるが、ファブリペロー型 LD では、一般に、数 [GHz] 以上の高速で直接変調を行うと多モードで発振するため発振スペクトルが広がってしまい、これが伝送距離を制限する要因の一つとなる。(正)
- PD においては、入射光が空乏層で吸収されることにより、価電子帯に電子が、伝導帯に正孔が励起される。これら電子と正孔は電界によってドリフトし、電流として外部回路に取り出すことができる。(誤)
- APD は、半導体の pn 接合に大きな逆バイアス電圧を印加した状態で光を入射すると、光の吸収によって生成されたキャリアが加速され、次々に新たなキャリアを生成することにより、加速度的に電流が増大する電子なだれ現象による電流増幅作用を利用している。(正)
下線部が逆である。
(ⅱ) 光通信における信号劣化要因など
- 波長によって伝搬速度が異なることに起因して生ずる分散は、波長分散といわれる。光通信に用いられる光パルスは、厳密には単一の波長ではなく波長の広がりを有しているため、波長によって伝搬時間に差が生じ、受信端でパルス幅が広がり、波形が劣化する。(正)
- 光ファイバの製造過程では、加水分解反応を用いるため、光ファイバ中に OH 基が混入する場合がある。OH 基は光ファイバ中に 1 [ppm] 程度含まれていたとしても、屈折率の揺らぎによる伝送損失の増加要因となる。(誤)
- 長尺の光ファイバに強い光を入射したとき、その入射光の光周波数より高い周波数帯にスペクトル幅の広い光が発生する現象は誘導ラマン散乱といわれ、この現象を利用した光増幅器であるファイバラマン増幅器の増幅可能な波長帯は、1.3 μm 帯に限られる。(誤)
正しくは,B.「吸収」,C.「増幅可能な波長帯に制限はない」である。
問2
(1) 光通信における発光素子及び受光素子と光ファイバとの結合など
光通信では、発光デバイスからの信号光を光ファイバに導くため、また、光ファイバからの信号光を受光デバイスに導くために結合が必要であり、その結合においては高い結合効率が求められる。
発光素子から出射される光は、屈折や回折により広がることから、光ファイバのコアにその光を入射させるため、一般に、レンズを用いて光の絞込みを行うなどの工夫がなされている。コアに光を入射させるためには、光ファイバの最大受光角より小さい範囲内の角度で光を入射させる必要があり、発光素子とレンズや光ファイバとの結合にはμm単位の精度で位置調節が必要である。このため、これら光部品の固定方法には、YAG レーザによる溶接技術が広く採用されている。また、光部品は、振動、温度、湿度などの環境の変化に耐えうるよう、一般に、モジュール化されている。
受光素子と光ファイバの結合においては、光ファイバ内を伝搬してきた光がその端面から空間に放射される際、光ファイバの開口数に対応して端面から広がって放射されるため、受光素子と光ファイバ端面の距離を近づける、受光素子の受光面積を大きくする、レンズを用いて光を受光素子の受光面に収束させるなどの工夫が必要となる。
発光素子は、高い信頼性を有しているものの、素子の経年劣化が避けられないため、その特性の補償が必要になる。特性を補償するための機構の一つである AFC は、発光素子からの出力光をエタロンフィルタに通過させることにより、出力光の波長変動をフィルタの透過光出力に変換し、この透過光出力の変動をフィードバックさせることにより出力光の波長を一定に保つ機能を有している。
(2) 光通信などに応用されている光の性質など
(ⅰ) 光通信などに応用されている光の性質について
- 屈折率の高い媒質 A から入射した光が屈折率の低い媒質 B との境界面に沿って進むときの入射光と二つの媒質の境界面の法線とのなす角度はブリュースター角といわれ、入射角がこの角度より大きくなると光は媒質 B に入ることができず全反射する。(誤)
- 光は互いに直交する電界と磁界によって構成される電磁波の一種であり、光の進行方向と垂直に振動する横波である。電界の振動方向が一定した光は直線偏光、進行とともに電界が回転する光は楕円偏光又は円偏光といわれる。(正)
- 直線偏光が物体中を透過するとき、その偏光面が回転する現象は旋光といわれ、直線偏光の進行方向に対し平行な磁界をかけることによって旋光性が現れる現象はポッケルス効果といわれる。光カプラは、この現象を利用した光デバイスである。(誤)
- 光の波動としての性質に干渉がある。同一光源からの光を二つの光路に分け、再び合成したとき、二つの光の位相がそろっているときは二つの光は互いに干渉することができるのでインコヒーレントな光といわれ、位相がそろっていないときは干渉しないのでコヒーレントな光といわれる。光通信には、干渉しないコヒーレント光が適している。(誤)
正しくは,1.「臨界角」,3.「ファラデー効果」「光アイソレータ」,4.「下線部が逆」である。
(ⅱ) 光ファイバ伝送における非線形光学特性など
- 光ファイバ伝送では、入力した信号光が細いコア内に閉じ込められるため単位面積当たりの光強度が大きくなること、低損失で長距離を伝搬するため媒質と光の相互作用長が長くなることなどにより、非線形光学効果が起きやすくなる。(正)
- 自己位相変調は、光ファイバ中を伝搬する光パルス自身の強度により光ファイバの屈折率が変化するファラデー効果のため、伝搬する光パルスが変調を受ける現象であり、光パルスは大きな周波数変化を伴う。(誤)
- 四光波混合は、二つ以上の異なった波長の光が同時に光ファイバに入射したとき、入射したどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象であり、WDM 方式では、四光波混合による光がノイズ光となって信号光の波長上に発生すると信号劣化を引き起こす場合がある。(正)
- WDM 方式において四光波混合による信号劣化を抑制する方法として、使用波長帯域の近傍で波長分散をゼロとしないノンゼロ分散シフト形光ファイバを用いる方法、周波数を不等間隔で配置する方法などがある。(正)
正しくは「光カー効果」である。
(ⅲ) SM 光ファイバにおける波長分散及び自己位相変調
- 光ファイバにおける波長分散は、一般に、ゼロ分散波長を境にして、長波長側の正常分散領域と短波長側の異常分散領域に分けられる。異常分散領域においては、光の波長が長いほど群速度が遅く、波長が短いほど群速度が速いことから、光ファイバに入力された光パルスの幅は広くなる。(誤)
- 高強度の光パルスが光ファイバに入射されると、自己位相変調によってパルスの前縁部の波長は長くなり後縁部の波長は短くなることから、異常分散領域においては、光パルスの幅は狭くなる。(正)
- 異常分散領域において、光パルスの幅が波長分散による広がりと自己位相変調による狭まりとが打ち消し合った状態では、光パルスは元のパルス幅を保ったまま光ファイバ中を伝搬することができる。このような現象は、光ソリトンといわれる。(正)
下線部が逆である。
(ⅳ) ファイバグレーティング(FG)
- FG は、光ファイバのコアに周期的な屈折率変化を形成することで、特定の波長の伝搬光を選択的に反射又は阻止することのできる波長選択デバイスとして用いられ、同様の機能を有する光デバイスである多層膜光フィルタと比較して、伝送用光ファイバとの接続性に優れている。(正)
- FG は、グレーティング周期が数十 [μm] ~数百 [μm] の長周期型と、1 [μm] 以下の短周期型に分類される。長周期型はブラッグ波長の光を反射させる機能を、また、短周期型は特定の波長の光をクラッドモードに結合させて損失を与える機能を有し、いずれの型も分散補償器として用いられる。(誤)
- FG の温度特性は、光路の温度変化による屈折率変化と熱膨張によって決まり、石英ガラスを用いた FG の場合は、屈折率変化が支配的要因となっている。短周期型 FG を波長選択デバイスとして用いる場合には、一般に、FG を固定する台座の温度特性を利用するなどして温度補償が行われている。(正)
- FG の作製方法には、2 光束干渉法、位相マスク法などがある。位相マスク法は使用する位相マスクによりグレーティング周期が定まり、2 光束干渉法と比較して、同一のグレーティング周期を持つ FG を安定的に量産することができる。(正)
下線部が逆である。
問3
(1) 光中継伝送技術
光ファイバは低損失で広帯域な伝送媒体ではあるが、長距離にわたって光信号が伝搬する際には、光ファイバ固有の損失や分散などにより、ある距離以上になると雑音やひずみが累積し、正確な情報を伝送できなくなる。そのため、長距離伝送においては、適切な間隔で中継器を設置し、減衰した光信号の増幅とひずみの補正を行う必要がある。長距離光中継伝送方式の一つである再生中継方式は、光ファイバ中を伝搬してきた光信号をいったん電気信号に変換して増幅した後、等化回路による波形整形などの後、再び光信号として送出するものである。等化回路では、利得周波数特性を適切に設定することにより、後段の回路においてパルスの有無を判定する際に必要とされる、符号間干渉と雑音の少ない波形を得ることができる。再生中継方式では、中継を繰り返しながら信号を伝送するため、中継区間が増加しても雑音やひずみが累積することはなく、長距離伝送が可能である。
再生中継方式において、符号間干渉や雑音などの振幅軸上の劣化要因と、タイミングジッタなどの時間軸上の劣化要因は、これを補正できない場合、信号の識別余裕度が低下し、最終的には符号誤り率の劣化を引き起こす原因となる。
(2) 光中継システムにおける伝送特性劣化要因、光デバイスなど
(ⅰ) 光中継システムにおける伝送特性劣化要因とその対策など
- 光伝送特性の劣化要因は、信号光の波形劣化と信号光への雑音の付加に大別でき、波形劣化の要因には、モード分散、波長分散、偏波モード分散などがある。マルチモード光ファイバを用いた光伝送では、モードごとに信号光の伝搬時間が異なることによるモード分散が波形劣化の支配的要因である。(正)
- 線形中継方式においては、光増幅器から発生する自然放出光の累積による波形劣化、光ファイバの自己位相変調などの非線形光学効果と波長分散による SN 比劣化などを考慮して、線形中継器の中継間隔、信号光出力などを設計する必要がある。(誤)
- SM 光ファイバを用いた光伝送システムでは、伝送速度が数十 [Gbit/s] を超える高速の場合、又は数千 [km] を超える長距離の場合に、偏波モード分散による波形劣化を生ずることがある。(正)
- 光中継システムにおけるノンゼロ分散シフト形光ファイバは、ゼロ分散波長を 1.55 μm 帯より若干短波長側又は長波長側にずらすことで、使用波長帯域における波長分散の低減と WDM 伝送における四光波混合の抑制を両立させている。(正)
下線部が逆である。
(ⅱ) EDFA の構成、特性、動作原理など
- EDFA に外部から入射された信号光は、前方励起型の EDFA の場合、最初に増幅媒体である EDF で増幅され、次に波長合波器で励起光と合波された後、光アイソレータ、光フィルタなどを通り EDFA から出力される。(誤)
- EDFA に用いられる EDF の構造は伝送用 SM 光ファイバと類似しているが、EDF のコア径は伝送用 SM 光ファイバのコア径より細い。また、EDF のコアには、伝送用 SM 光ファイバのコアと異なり、増幅利得を平坦化するゲルマニウム、増幅動作をするエルビウム、屈折率プロファイルを形成するアルミニウムなどが添加されている。(誤)
- EDFA の主な雑音要因となる ASE 雑音は、増幅媒体である EDF 内の広い周波数範囲に分布する自然放出光のうち、信号光と同じ周波数成分を有する自然放出光はフィルタなどでも完全に取り除くことができないため、これが信号光と一緒に増幅されたものである。(正)
- EDFA の励起光源には、一般に、発振波長が 980 [nm] 又は 1,480 [nm] の LD が用いられ、雑音特性、励起光から信号光へのエネルギー変換効率などによって使い分けられている。発振波長が 1,480 [nm] の LD は、980 [nm] の LDと比較して、一般に、エネルギー変換効率は劣っているが、雑音特性に優れている。(誤)
正しくは,1.「最初に波長合波器で励起光と合波された後,増幅媒体である EDF で増幅された後」,2.「ゲルマニウムとアルミニウムが逆」,4.「下線部が逆」である。

(ⅲ) 光変調方式の種類、特徴など
- 直接変調方式は、一つの LD で発光と変調を実現できることなどから、アクセス系光通信システムにおける主流の変調方式であるが、一般に、変調速度が数 [Gbit/s] 以上では、波長チャーピングに伴う分散などの影響から、長距離や大容量伝送システムには適していない。(正)
- 直接変調における変調速度は、注入されたキャリアのライフタイムに大きく影響される。LD が誘導放出によりレーザ発振した状態では、キャリアのライフタイムが極めて短くなるため、10 [GHz] 以上の高速変調が可能であるが、LD のバイアス電流を増加させて発振しきい値以上に設定すると、一般に、消光比が劣化する問題が生ずる。(正)
- LN 変調器は、結晶に加える電界の強さに比例して屈折率が変化する現象であるポッケルス効果を利用したもので、LD からの光出力をニオブ酸リチウム結晶中に導いて光の振幅、位相などを変化させている。(正)
- 電界吸収型変調器(EA 変調器)は、半導体に電界を印加して半導体内部の拡散係数を変化させることにより、信号光の強度を変化させるもので、LN 変調器と比較して、小型で動作電圧が低く、光ファイバとの接続損失が小さいという利点がある。(誤)
正しくは「波長の吸収損失を変化させる」である。
(ⅳ) 励振器の働き、特性、種類など
- GI 型光ファイバの光損失などの測定において使用される励振器には、不要モードを除去することにより、測定の再現性や距離による相加性を良くする効果がある。(正)
- SM 型光ファイバの光損失などの測定においては、伝搬するモードが単一であり接続点で発生する高次モードは光ファイバ中を 1 [m] 程度伝搬すると減衰することから、1 [m] ~ 2 [m] の SM 型の測定コードを用いる場合には、測定コードが励振器の役割を果たすため、一般に、励振器を必要としない。(正)
- GI 型光ファイバの光損失は、光ファイバに入射される光パワーの分布すなわち励振モード分布に依存して変化するため、定常モード分布で測定することが望ましい。定常モード分布の信号光を得るための励振器の一つに、SI 型光ファイバと GI 型光ファイバを交互に接続した SGS 励振器がある。(正)
問4
(1) 光ファイバ通信システムにおける損失補償技術など
光ファイバ通信システムにおける損失補償のため、EDFA などの光増幅器が用いられる。光増幅器を用いた場合、損失は補償されて信号光レベルは回復するが、SN 比は光増幅器からの雑音光である ASE と信号光間で生ずるビート雑音のため劣化する。光増幅器の SN 比の劣化量は、光増幅器の入力側の SN 比を出力側の SN 比で除したもので表され、雑音指数といわれる。光増幅器の雑音指数を F とすると、n 台の光増幅器を通過後の SN 比は $10\log_{10}{nF}$ [dB] 劣化する。
波長分散は、一般に、伝送用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスにより補償が行われ、四光波混合を用いた波長変換に伴うスペクトル反転を用いることでも波長分散を補償することが可能である。
長距離の光ファイバ通信システムでは、SN 比の劣化や波長分散だけでなく、光ファイバの非線形現象、特に、光カー効果による自己位相変調と四光波混合によっても光パルス波形が劣化する。自己位相変調では、光パルスの前縁部と後縁部で屈折率の変化が生じ、これによるチャーピングが光ファイバの波長分散を通じて光パルス波形を劣化させる。
(2) 架空構造物など
(ⅰ) 架空構造物
- 通信ケーブルなどを支持するための架空構造物の一部である電柱は、主なものにコンクリート柱と鋼管柱がある。コンクリート柱は、用途により 1 種と 2 種に区分され、1 種は通信線、送・配電線用などに使用され、2 種は鉄道及び軌道(無軌条電車を含む。)における電線路などに使用される。(正)
- 電柱の直径の増加率はテーパといわれ、電柱の末口の径を $D$、元口の径を $D'$ 及び長さを $L$ とすると、平均テーパ $\alpha$ は、$\displaystyle \alpha = \frac{D' - D}{L}$ で求められる。コンクリート柱と鋼管柱の平均テーパは、一般に、$\displaystyle \frac{1}{75}$ で同じである。(正)
- つり線及び支持線は、通信ケーブルの張力を受け持つための架空構造物であり、通信ケーブルの形状により区分され、一般に、非自己支持型ケーブルをケーブルリングなどを用いてつり下げるものはつり線といわれ、自己支持型ケーブルとして一体になっているものは支持線といわれる。(正)
- 通信ケーブルの架渉などによって電柱に不平均張力が加わる場合に、電柱の倒壊や傾斜を防ぐために設置されるワイヤは、支線といわれる。不平均張力は、一般に、支線に 10 [%] を、電柱に 90 [%] を分担させることとして設計される。(誤)
正しくは「支線に 90 [%] を,電柱に 10 [%] を分担」である。
(ⅱ) 光ファイバ複合架空地線(OPGW)
- OPGW は、光ファイバの無誘導かつ軽量という特徴を利用して、光ファイバを送電線の架空地線に内蔵し、本来の架空地線としての機能と通信機能を兼備させたものであり、一般に、光ファイバを収納する OP ユニットとアルミ覆鋼線を撚り合わせた架空地線部により構成される。(正)
- OPGW は、架空地線内への光ファイバ収納方法により、固定型と非固定型の 2 種類に大別される。固定型の一つであるスペーサ型は、一般に、アルミスペーサのら旋状の溝に光ファイバを収納し、これをアルミパイプで保護した構造であり、耐側圧特性を向上させている。(正)
- 架空地線は、電力線からの誘導電流、短絡事故などにより高温になる場合があることから、OPGW では耐熱特性に優れたシリコン被覆光ファイバなどが使用されている。(正)
(ⅲ) 電柱の耐力、根入れ長、地盤支持力など
- コンクリート柱に用いられるプレストレストコンクリート(PC)は、あらかじめ引張応力を与えておき、外力による圧縮応力を打ち消すことでひび割れの発生を防いでいる。(誤)
- 電柱が倒壊しないためには、水平荷重による曲げモーメントに対して地盤が十分な抵抗モーメントを有し、傾斜角が過大にならないことが必要であることから、電柱の根入れ長は、一般に、通常地盤においては、電柱の長さの 1/7 としている。(誤)
- JIS において、PC 柱(1 種)の曲げ強度は、ひび割れ試験荷重を加えたとき幅 0.5 [mm] を超えるひび割れが発生してはならない、このひび割れ試験荷重を除荷したとき幅 0.1 [mm] を超えるひび割れが残留してはならないと規定されている。(誤)
- 電柱の折損は、一般に、基礎地盤が堅固で、水平荷重による曲げモーメントよりも電柱の許容曲げ応力が小さい場合に発生する。また、電柱の傾斜又は転倒は、一般に、基礎地盤が軟弱で、電柱の支点反力としての曲げモーメントを基礎地盤が受けきれない場合に発生する。(正)
正しくは,1.「下線部が逆」,2.「電柱の長さの 1/6」,3.「0.25 mm」「0.05 mm」である。
(ⅳ) コンクリート柱の劣化、非破壊検査法など
- コンクリート柱の凍害は、コンクリート中の含水率が限界値以上に高まった状態で、水分が凍結と融解とを繰り返すことにより、コンクリートが表層部から劣化する現象で、一般に、初期にはちりめん状や亀甲状のひび割れが発生し、より進行すると崩壊に至る場合がある。(正)
- コンクリート柱に縦ひび割れが発生する原因の一つに、必要な支線を省略するなどして過大な不平衡荷重を与えた場合がある。また、横ひび割れは、主に、コンクリート柱内の長手方向に配された鉄筋が腐食した場合に発生する。(誤)
- 海岸近くのコンクリート柱では、海塩粒子が付着しコンクリート柱の表面から内部に浸透して鉄筋を腐食させることがある。腐食した鉄筋は膨張するため、コンクリートにひびが入り、塩分の浸透が容易になって更に鉄筋の腐食が進行する。(正)
- コンクリート柱の劣化を判断するための非破壊検査の方法として、打音法、超音波法、電磁波法などがある。このうち、超音波法では、測定物に対して超音波を入射し、内部からの反射波を受信することによりひび割れ、異常箇所の有無などを検出する。(正)
下線部が逆である。
問5
(1) 光ファイバのメカニカルスプライス
メカニカルスプライスは、永久接続法の一つで、専用の接続部品を用いて光ファイバの端面の突き合わせを行い、機械的に光ファイバを把持する接続技術である。メカニカルスプライスは、小型軽量で電源を要しないため、架空などにおける接続作業に適しており、一般に、0.1 [dB] 程度の損失で接続が可能である。
メカニカルスプライスで低損失な接続を実現するためには、接続する光ファイバ相互のコア端面を正確に一致させることが重要であることから、一般に、V 溝基板を用いて端面を突き合わせるとともに上部から光ファイバを押しつける構造のメカニカルスプライス素子が用いられる。
メカニカルスプライスにおいて、接続する光ファイバの端面間に空気層が介在すると、屈折率の不連続によりフレネル反射が生じ、接続損失の増加だけでなく、反射戻り光で光源が不安定になり伝送品質を劣化させる場合があることなどから、石英ガラスとほぼ等しい屈折率を持つ屈折率整合剤を用いてフレネル反射による影響を小さくしている。
(2) 光伝送システム設計、ケーブル布設など
(ⅰ) 光伝送システムの伝送距離、伝送速度を制限する要因など
- 光伝送システムで伝送距離を制限する主な要因は伝送媒体の損失であり、伝送速度を制限する主な要因は伝送媒体の伝送周波数特性である。光ファイバケーブルで伝送周波数特性を決める主な要因は、レイリー散乱である。(誤)
- SM 光ファイバにおける分散特性を決定する主な要因は多モード分散であり、SM 光ファイバ中を伝搬する光パルスの広がりは、多モード分散、光ファイバ長及び光源のスペクトルの広がりに比例する。(誤)
- 光送受信装置間を無中継で伝送する場合の最大伝送距離 $L$ は、主に、送信側における出力光パワー $P_\text{s}$、受信側における所要の伝送特性を満足するための受信機の最小受光パワー $P_\text{r}$、波形劣化による受信感度劣化 $P_\text{d}$ 及び単位距離当たりの伝送路損失 $\alpha$ によって支配され、次式で求められる。(誤) \[ L = \frac{P_\text{s} - P_\text{r}}{P_\text{d}+\alpha} \]
- 偏波モード分散は、SM光ファイバのコアがわずかに楕円化していることなどにより、光ファイバ中を伝搬する二つの直交偏波モード間に伝搬時間差が生ずる現象であり、高速・長距離伝送においては、伝送速度及び伝送距離を制限する要因となる。(正)
正しくは,1.「」,2.「MM 光ファイバ」である。
3. について,光送受信装置間を無中継で伝送する場合の最大伝送距離 $L$ は、次式で求められる。
\[ L = \frac{P_\text{s} - P_\text{r} − P_\text{d}}{\alpha} \](ⅱ) 光ファイバケーブルの構造設計、牽引張力及び布設速度
- 光ファイバケーブルの構造設計においては、光ファイバに許容される破断確率及びスクリーニング荷重から光ファイバに許容される伸びが決定され、この伸び以下で布設できるようにテンションメンバの強度が設計される。(正)
- 光ファイバケーブルの最大牽引張力は、一般に、管路内への布設の場合は設備からの制約条件がないためケーブルの許容張力とされ、架渉の場合(柱間分岐がない場合)はカーブガイドにおけるケーブルのしごき特性により制限され約 5,000 [N] とされている。(誤)
- 光ファイバケーブルの布設速度は、一般に、100 [m/min] を上限として、使用する牽引装置、ケーブルドラムの回転速度と作業の安全性、ケーブルへの過度な張力と外傷の予防などを考慮して決定される。(誤)
正しくは,B.「」,C.「」である。
(ⅲ) 架空ケーブルに加わる張力、風圧荷重など
- ケーブルを架渉したとき、ケーブルの長手方向に加わる張力 $T$ [N] は、弛度を $d$ [m]、単位長さ当たりのケーブル荷重を $W$ [N/m]、スパン長を $S$ [m] とすると、次式で表される。(正) \[ T=\frac{WS^2}{8d} \]
- 風に直角に向いた面の単位面積当たりの風圧荷重を $P$ [N/m2] とし、空気の密度を $\rho$ [kg/m3] 及び風速を $v$ [m/s] とすると、$P$ は、$\rho$ に比例し、かつ、$v$ の 2 乗に比例する。(正)
- 風圧荷重は、甲種、乙種及び丙種の 3 種が定められており、このうち甲種風圧荷重は、鉄筋コンクリート柱においては垂直投影面の風圧が 780 [Pa]、木柱においてはその $\displaystyle \frac{1}{2}$ の風圧が加わるものとして計算した荷重とすることが総務省令で定められている。(誤)
- 架渉されたケーブルの単位長さ当たりの荷重 $W$ [N/m] は、単位長さ当たりのケーブル重量 w[N/m] と風圧荷重 $P_\text{C}$ [N/m] の合成荷重となり、次式で表される。(正) \[ W = \sqrt{w^2 + P_\text{C}^2} \]
鉄筋コンクリート柱と木柱の風圧荷重は同じである。
(ⅱ) 丸形ケーブルを傾斜地で牽引する場合の張力
図に示すように、丸形ケーブルを傾斜地で牽引する場合において、単位長さ当たりのケーブル質量を 0.5 [kg/m]、傾斜角 $\theta$ を 30 度、傾斜部分の長さ $L$ を 200 [m]、牽引時の摩擦係数を 0.2 とすると、T 点における張力は 680 [N] である。ただし、重力加速度は 10 [m/s2]、$\sqrt{3}$ は 1.8 として計算する。

丸形ケーブルを傾斜地で牽引する場合の張力は,次式で求められる。