平成27年度 第1回 専門的能力・通信線路

2019年6月27日作成,2020年12月30日更新

問1

(1) メタリック伝送線路における減衰量,無ひずみ伝送など

減衰量は,二次定数の一つである減衰定数 $\alpha$ の大小によって決定される。往復導体の単位長当たりの抵抗とインダクタンスをそれぞれ $R$ と $L$,往復導体間の単位長当たりの漏れコンダクタンスと静電容量をそれぞれ $G$ と $C$ とすると,$R$,$L$,$G$ 及び $C$ は線路の一次定数といわれ,減衰定数 $\alpha$ は,これら一次定数から導かれる。

減衰定数 $\alpha$ の近似式は,一般に,高周波(30 [kHz] 程度以上)の場合,次のように表される。

\[ \alpha \fallingdotseq \frac{R}{2}\sqrt{\frac{C}{L}} + \frac{G}{2}\sqrt{\frac{L}{C}} \]

この近似式において,減衰定数 $\alpha$ は,$R = G = 0$ の場合に零になるが,これは全く減衰しないということで実現するのは不可能であり,$RC = GL$ の関係にある場合に最小の値となる。しかし,実際の伝送路においては,一次定数の関係は,一般に,$\sqrt{\frac{L}{C}} \ll \sqrt{\frac{R}{G}}$ であるため,$RC = GL$ の減衰量最小条件を満足することは困難であることから,インダクタンス $L$ を大きくすることで減衰量を小さくする方法がとられる。

また,減衰量最小条件は,無ひずみ伝送の成立する条件でもあり,伝送に用いる周波数帯域全体にわたり,特性インピーダンスが一定であること,減衰定数 $\alpha$ が一定であること及び位相定数が周波数に比例することが必要である。

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」参照

(2) メタリック伝送における電気的諸特性,ひずみの種類など

(ⅰ) メタリック伝送線路の高周波領域における電気的諸特性

  1. 導体系では,周波数が高くなるに従って抵抗及び内部インダクタンスに変化が生ずる。これは,導体内部において,周波数が高くなるにつれて各部の電流が高いに作用を及ぼしあうことで電流分布が変化した結果であり,一般に,電気的特性として抵抗は増加し,内部インダクタンスは緩やかに減少する。(
  2. 近接して平行に並んでいる 2 本の導体に電流が流れたとき,それぞれの電流が同一方向であると電流が外側に押しやられ,反対方向であると内側に引き合うことで 2 本の導体の電流密度が変化する現象が生ずる。この現象は,高周波において顕著となり,一般に,近接効果といわれる。(
  3. 漏れコンダクタンスは,心線に加えた電圧に対して絶縁物を通して漏洩する電流の割合を示し,漏れコンダクタンスが小さいほど漏洩する電流が大きく,平衡対ケーブルでは,一般に,周波数が高くなると急激に小さくなる。(
  4. 導体を流れる電流が高周波になると,周囲に金属体中に誘起する渦電流によって電力損失を生ずることがあり,その主なものにカッド損がある。(

漏れコンダクタンスは,心線に加えた電圧に対して絶縁物を通して漏洩する電流の割合を示し,漏れコンダクタンスが大きいほど漏洩する電流が大きく,平衡対ケーブルでは,一般に,周波数が高くなると急激に小さくなる。

(ⅱ) メタリック伝送におけるひずみの種類,特徴など

  1. 減衰ひずみは,伝送系の減衰量が周波数によって異なるために生ずるひずみであり,音声回線においては,鳴音が発生するなど安定度を低下させる要因となる。(
  2. 位相ひずみは,伝送系の位相量が周波数に対して比例関係にないために生ずるひずみであり,群伝搬時間が周波数によって異なるために生ずることから,遅延ひずみともいわれ,データ伝送などにおける伝送品質に大きな影響を及ぼす要因となる。(
  3. 非直線ひずみは,伝送系の入力信号と出力信号とが比例関係にないために生ずるひずみであり,ジッタ及びワンダの原因となる。搬送多重回線においては,非直線ひずみによる高調波,混変調波などの発生により,ある通話路からほかの通話路への漏話及び雑音の原因となる。(

ジッタ及びワンダは,非直線ひずみによって起こるものではなく,位相ひずみによって起こる。

(3) 光ファイバの構造パラメータ,希土類添加光ファイバの特徴など

(ⅰ) 光ファイバの構造パラメータ

  1. 光ファイバの構造を決定するパラメータは,SM 光ファイバでは,コア径,モードフィールド偏心量,外径及びカットオフ波長であり,MM 光ファイバでは,モードフィールド径,外径,開口数及び屈折率分布である。(
  2. モードフィールド偏心量とは,モードフィールド中心とクラッド中心との距離をいい,モードフィールド中心とコア中心は実質的には同じ場所になるので,モードフィールド偏心量は,一般に,コア中心とクラッド中心との距離として測定される。(
  3. カットオフ波長とは,高次のモードを遮断する波長をいい,例えば,1.3 [μm] で使用する SM 光ファイバにおいては,カットオフ波長は 1.3 [μm] よりも短くなければならない。カットオフ波長より長い波長領域では高次のモードが導波するマルチモード伝搬となり,短い波長領域では基本モードのみが導波するシングルモード伝搬となる。(

光ファイバの構造を決定するパラメータは,SM 光ファイバでは,モードフィールド径,モードフィールド偏心量,外径及びカットオフ波長であり,MM 光ファイバでは,コア径,外径,開口数及び屈折率分布である。

カットオフ波長とは,高次のモードを遮断する波長をいい,例えば,1.3 [μm] で使用する SM 光ファイバにおいては,カットオフ波長は 1.3 [μm] よりも短くなければならない。カットオフ波長より長い波長領域では基本モードのみが導波するシングルモード伝搬となり,短い波長領域では高次のモードが導波するマルチモード伝搬となる。

(ⅳ) 希土類添加光ファイバの特徴など

  1. EDF の利得係数はエルビウムの添加濃度を高めることで大きくできるが,高濃度になると濃度消光により励起効率は低下する。(
  2. EDF と伝送用光ファイバのクラッド径及び素線径は同じであるが,EDF のコア径は,増幅性能を向上させるため,一般に,伝送用光ファイバと比較して細くなっている。(
  3. EDF のコアには,増幅動作のためのエルビウムと屈折率プロファイル形成用のゲルマニウムのほか,波長特性平坦化のためのアルミニウムが添加されているものがある。(
  4. 光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合,希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり,光ファイバの屈折率が変動する要因となる。(

光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合,希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり,光ファイバの濃度消光や増幅作用の要因となる。

濃度消光(Concentration Quenching)

発光中心イオンを付活した蛍光体において,発光中心イオンの濃度増加にともない蛍光体の発光強度(発光効率)が低下する現象を濃度消光という。この原因の 1 つに,励起エネルギーが発光中心イオン間を移動し,その後,発光をともなわず無輻射的に消費される過程(無輻射遷移過程)がある。この無輻射遷移過程が起こる確率は,発光中心イオン間の距離が大きくなるほど小さくなる。したがって,ホストの結晶構造において,発光中心イオンが占め得るサイト間の距離が大きいほど,濃度消光が起こりにくいことが期待される。

問2

(1) 光ファイバの非線形現象

石英系光ファイバは,本質的には非線形性が非常に小さい媒質であるが,光ファイバ伝送においては,光を細径のコアに閉じ込めるためにパワー密度が高いこと,低損失であり相互作用長を長くできることなどにより,各種の非線形相互作用が顕著に現れる。

高強度の短光パルスが光ファイバに入射されると,光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することによって屈折率が変化する光カー効果といわれる現象が発生する。光パルス自身が誘起した屈折率変化により位相が急激に変化する現象は,自己位相変調といわれ,光パルスは大きな周波数変化を伴う。

波長の異なる三つの光が 3 次の非線形分極を介して新しい第 4 の光が発生する現象は,四光波混合といわれる。四光波混合は,WDM システムではチャネル間干渉の原因となることから回避すべき現象の一つであるが,これを積極的に応用した例として波長変換技術がある。

高強度の光が光ファイバに入射されたとき,光ファイバ中に発生する音波と光との相互作用が原因で非線形散乱が生ずる。非線形散乱の一つである誘導ラマン散乱は,入射光と光学フォノンとの相互作用によって入射光が散乱され,入射光より周波数の低いストークス光が発生する現象であり,入射光の周波数を変えることにより任意のストークス光を発生させ信号光を増幅することが可能である。

光ファイバケーブルの伝送理論」参照

(2) 線形中継方式,発光・受光素子,光ファイバの損失など

(ⅰ) 線形中継伝送方式

  1. 線形中継器に用いられる光ファイバ増幅器は,一般に,希土類添加光ファイバ,励起用 LD 及び光・電気変換回路で構成された簡単な構造であるため,信頼性に優れているが,3R 機能を有しておらず,伝送路で生じたひずみや雑音が中継区間ごとに累積する特徴がある。(
  2. 線形中継伝送方式においては,信号光と線形中継器で生ずる自然放出光との間のビート雑音は,線形中継器数に比例して増大し,また,自然放出光と自然放出光との間のビート雑音は,線形中継器数の 2 乗に比例して増大するため,多段中継伝送ではこれらのビート雑音が受信側の SN 比を決定する支配的な要因となる。(
  3. 線形中継伝送で用いられる NZ-DSF は,DSF のゼロ分散波長を 1.55 μm 帯より短波長側あるいは長波長側にずらした光ファイバであり,1.55 μm 帯における低分散と WDM 伝送における四光波混合の抑圧を両立させている。(

線形中継器には,光・電気変換回路はない。

(ⅱ) 発光素子

  1. LD は,構成している化合物と構造によって発振波長が異なり,光ファイバ通信用の LD には,一般に,エルビウム,ツリウム,プラセオジムなどの元素を組み合わせた化合物半導体が用いられる。(
  2. 端面発光型 LD は,半導体の両端面を光の方向と垂直にへき開する(結晶面に沿って割る)ことにより,光を放出する活性層と空気との間の反射によってレーザ発振する構造になっており,LED は,活性層からの光を共振させずにそのまま外部に取り出す構造になっている。(
  3. 大容量長距離光通信システムでは,一般に,LD の活性層のごく近傍に屈折率の周期的な構造を作り,ある特定の波長のみを分布的にフィードバックさせることにより,安定した単一モードでの発振を実現した FP-LD が使用される。(
  4. VCSEL は,へき開された端面から光を出力する端面発光型レーザと異なり,レーザ基板面と水平な方向に光出力を得るタイプの半導体であり,光ビームの放射角が広く光ファイバと高効率で結合することができる。(

光ファイバ通信用の LD には,一般に,ガリウムアルミニウムインジウムなどの元素を組み合わせた化合物半導体が用いられる。

大容量長距離光通信システムでは,一般に,LD の活性層のごく近傍に屈折率の周期的な構造を作り,ある特定の波長のみを分布的にフィードバックさせることにより,安定した単一モードでの発振を実現した DFB-LD が使用される。

表 LD
略称 名称 説明
FP-LD ファブリペロー型 LD 多数の縦モードで発振
DFB-LD 分布帰還型 LD 単一モードで発振

VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser : 垂直共振器面発光型レーザ)は,共振器が半導体の基板面に対して垂直方向に形成されている。よって,レーザ光も基板面に垂直に射出される。

(ⅲ) 受光素子

  1. 光通信システムで用いられる受光素子の受光可能な波長帯は,使用される材料の伝導帯と価電子帯のエネルギー準位差により異なる。受光素子の材料としては,一般に,0.8 μm 帯では Si が,1.55 μm 帯では InGaAs といった化合物半導体が用いられる。(
  2. APD は,半導体中の電子と正孔のなだれ増倍作用を利用して大きな電流を得る受光素子であり,PIN-PD と比較して,10 [dB] ~ 20 [dB] 程度高感度となる一方,数十 [V] 以上の高い逆バイアス電圧が必要となる。(
  3. 受光素子で生ずるショット雑音は,電子が時間的又は空間的に不規則に励起されるために生ずる光電流の揺らぎによる雑音であり,同じ受光レベルにおいて,印加する逆バイアス電圧を大きくし電流増倍率を増大することにより低減することができる。(
  4. 受光素子の性能は,光電変換の性能を表す量子効率,光通信システムの中継間隔の設計上重要なファクタである受光感度,発生する雑音,動作応答速度などの特性により評価される。量子効率は受光素子の材料と構造により定まり,受光感度は受光素子の材料と構造のほかに印加電圧の大きさが関与する。(

正しくは「増大する」である。逆バイアス電圧を大きくすると,ショット雑音も大きくなる。

(ⅳ) 光ファイバの損失,劣化要因など

  1. 光ファイバの損失発生の原因の一つとして,水素分子による光の吸収がある。この損失は,水素分子が光ファイバ中に存在することで生じ,水素分子を取り除くと損失は減少する。水素分子による損失発生の防止策としては,光ファイバの周辺からの水素の発生を抑える,光ファイバ内部への水素分子の拡散を防止する障壁を設けるなどの方法がある。(
  2. 光ファイバにおける損失特性の温度依存性は小さく,一般に,通常の布設環境においては問題とならないが,ケーブル外被は,熱的要因により劣化が早まり耐用年数が短くなる場合がある。ケーブル外被の耐用年数は,熱的要因のほか,化学的要因,紫外線などにも影響される。(
  3. 光ファイバを放射線下で使用すると,石英ガラスの構造結果が放射線によって生じた電子や正孔を補足し,光を吸収することで光損失が増加する。放射線による光損失は,一般に,放射線量が増加すると大きくなり,減少すると小さくなる。(

問3

(1) 光強度変調方式

光通信システムで広く用いられる IM/DD 方式は,送信側において変調信号により強度変調された光搬送波を,受信側において APD などを用いて直接検波する方式である。この方式は,受信側における復調信号に光の位相情報は含まれず,光の振幅の 2 乗に比例した出力,すなわち光強度に比例した出力が得られることから,伝送特性が光の位相揺らぎによる影響を受けにくい特徴がある。

送信側における変調方式には,LD の光出力を直接変調する直接変調方式及び LD の外部に設けた変調器によって変調する外部変調方式がある。直接変調方式は,LD への印加電流を変化させることにより容易に強度変調を実現することができるが,変調速度が速くなると,発振周波数が変化するチャーピングといわれる現象が生ずること,バイアス電流を上げると消光比が劣化することなどから高速化には適していない。このため,高速の変調には,一般に,外部変調方式が用いられる。外部変調器には,結晶に電界を印加すると電界強度に比例して屈折率が変化する現象であるポッケルス効果を利用した LN 変調器,結晶に電界を印加すると光吸収係数が変化する現象である電界吸収効果を利用した EA 変調器などがある。

光通信用素子」参照

(2) 石英系光ファイバの分散特性,分散補償器,OTDR など

(ⅰ) 石英系光ファイバの分散特性など

  1. SM 光ファイバにおいて,ゼロ分散波長を境に,長波長側は正常分散領域といわれ,短波長側は異常分散領域といわれる。正常分散領域においては波長が長くなるほど群速度が大きくなり,異常分散領域においては波長が長くなるほど群速度は小さくなる。(
  2. 材料分散は石英ガラスの材料によって決定されるため調整することは困難であるが,構造分散は光ファイバの比屈折率差や屈折率分布を調節して変化させることができる。DSF は,SM 光ファイバの構造分散を調整して,ゼロ分散波長を 1.3 μm 帯から 1.55 μm 帯にシフトさせた光ファイバである。(
  3. 偏波モード分散は,SM 光ファイバのコア形状のわずかなゆがみなどによって,伝搬する光の直交する二つの偏波モード間に群遅延時間差が生ずることにより発生する分散であり,高速・長距離伝送システムにおいて問題となる場合がある。(

SM 光ファイバにおいて,ゼロ分散波長を境に,長波長側は異常分散領域といわれ,短波長側は正常分散領域といわれる。

(ⅱ) 分散補償光ファイバ及び分散補償器

  1. 分散補償光ファイバは,屈折率分布形状により,マッチドクラッド型,W 型などに分類される。マッチドクラッド型は,W 型と比較して,構造が単純で低損失であるが,分散スロープは通常使用される SM 光ファイバと同様に正値であるため,分散を小さな値に抑えることができる波長範囲は狭い。(
  2. W 型の分散補償光ファイバは,マッチドクラッド型と比較して,損失は大きいが,分散値及び分散スロープを通常使用される SM 光ファイバとの逆の値にすることができるため,分散を小さな値に抑えることができる波長範囲は広い。(
  3. 線形素子を利用した受動型の分散補償器には,FBG 型,PLC 型などがある。FBG 型の一つであるチャープト型分散補償器は,光ファイバの長手方向の屈折率を周期的に変化させてグレーティングを形成した FBG と光サーキュレータを組み合わせて反射モードで使用することにより,正負いずれの分散にも対応した補償器とすることができる。(
  4. PLC 型分散補償器は,平面導波路基板上にマッハツェンダ干渉回路を多段に接続した構造で負の分散値を持った補償器であり,電界吸収効果を利用した位相シフタ及び光カプラの屈折率の調節により分散値を変えることができる。(

PLC 型分散補償器は,平面導波路基板上にマッハツェンダ干渉回路を多段に接続した構造で負の分散値を持った補償器であり,電界吸収効果を利用した位相シフタ及び可変カプラの結合率の調節により分散値を変えることができる。

(ⅲ) OTDR

  1. OTDR 測定では,被測定光ファイバに入射した光パルスの一部がレイリー散乱により入射点に戻ってくる後方散乱光,フレネル反射による反射光などの大きさの時間変化により,光ファイバ接続点における接続損失の測定,破断点の特定などが可能である。(
  2. OTDR は,一般に,パルス発生器,光源,受光部,識別再生器,表示装置などで構成されている。OTDR における識別再生器は,光源からの光パルスと,被測定光ファイバから戻って来る後方散乱光やフレネル反射光を識別再生して比較する機能を有している。(
  3. OTDR 測定において,ダイナミックレンジとは,光出射端近傍における反射光(後方散乱光)のパワーレベルからノイズフロアすなわち SN 比が 1 となるレベルまでの範囲をいう。OTDR 測定では,使用するパルス幅を広くすることによりダイナミックレンジを広げることができるが,空間分解能は低下する。(
  4. OTDR 測定において,デッドゾーンとは,損失などを測定できない範囲のことを指し,反射測定デッドゾーンと損失測定デッドゾーンがある。反射測定デッドゾーンは,フレネル反射のピークレベルから 1.5 [dB] 低いレベルにおける範囲である。(

OTDR は,一般に,パルス発生器,光源,受光部,方向性結合器,表示装置などで構成されている。OTDR における方向性結合器は,光源からの光パルスと,被測定光ファイバから戻って来る後方散乱光やフレネル反射光を識別再生して比較する機能を有している。

(ⅳ) OTDR による測定

  1. OTDR の測定においては,一般に,検出される後方散乱光パワーが微弱であり,測定器内の各デバイスのショット雑音,熱雑音などの影響を受けて十分な SN 比を確保しにくいことから,光パルスが被測定光ファイバを往復する時間よりも長い周期で繰り返し測定を行い,受信信号を加算平均処理することにより測定精度を上げている。(
  2. OTDR には,光ファイバの損失や破断点の測定だけでなく,複数の波長の光パルスを使用し,それぞれの波長が遠端で反射して戻って来る光パルスの到達時間を計測することにより,分散スロープ及び波長分散値を測定する機能を有するものがある。(
  3. OTDR による測定において,光ファイバの接続部分における接続損失の値が負になる場合がある。これは接続された光ファイバのコア径の違いに起因するもので,正確な接続損失を得るには両端から測定を行い,測定結果の平均値を求める必要がある。(

OTDR による測定において,光ファイバの接続部分における接続損失の値が負になる場合がある。これは接続された光ファイバのロット差により生じるレイリー後方散乱光レベル差と,接続損失そのものが合計された段差となっているものに起因するもので,正確な接続損失を得るには両端から測定を行い,測定結果の平均値を求める必要がある。

問4

(1) 光ファイバケーブルの分類,特徴など

光ファイバケーブルは,ケーブルの基本構造,布設環境,使用目的などにより分類できる。

ケーブルの基本構造による分類では,光ファイバ心線の集合方法や種別により,SZ 型ケーブル,テープスロット型ケーブルなどがある。SZ 型ケーブルは,スロットの撚り回転方向が 1 回転ごとに反転した構造であり,任意の位置でケーブルを切断することなく光ファイバ心線の取出しが可能なことから,ユーザへの分岐や引き込みが多い配線系区間などに使用される。また,テープスロット型ケーブルは,テープ心線を溝形のスロット内に高密度に収容した構造であり,幹線系区間などに使用される。

使用目的による分類では,FTTH サービスにおいて,電柱から架空用クロージャを介して一般住宅へ引き込む際に用いられるドロップ光ファイバケーブル,主に光キャビネットからの宅内配線などに用いられるインドア光ファイバケーブルなどがある。

ケーブルのシース材料には,外的環境から光ファイバを守るために PE,PVC などが用いられる。PE は耐候性に優れていることから,主に,屋外ケーブルで使用され,PVC は,主に,屋内ケーブルで使用される。

光ファイバケーブルのスロット内に収容されるテープ心線は,心線番号の識別のため,一般に,カラーコードに基づき色分けされている。スロット内のテープ番号は 1 番心線の色で識別でき,4 心テープの場合,2 番テープの 1 番心線の色はである。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) SS ケーブルのダンシング,凍結による線路設備などへの影響とその対策,通信用架空構造物,非ガス保守など

(ⅰ) SS ケーブルのダンシングの原因とその対策など

  1. SS ケーブルは断面形状がひょうたん形であり,丸形ケーブルと比較して,受風面積が大きいため,強風にさらされるところではダンシングが起きやすい。ダンシングの発生は受風面積のほかに,ケーブル重量と架渉張力に関係があり,ケーブル重量が重く弛度が小さいほどダンシングが起きやすい。(
  2. SS ケーブルのダンシング防止策として,ケーブルに捻回を入れる方法がある。捻回を入れると,上昇力が働く場所と下降力が働く場所ができ,1 スパン全体として上昇力と下降力が平衡し,ダンシングの発生頻度を低く抑えることができ,また,ケーブルにかかる水平風圧荷重も減少させることができる。(
  3. SS ケーブルを架渉する際に自然捻回が入ってしまうと,各スパンの捻回数を均等にすることが困難になるため,ケーブルの架渉時には,一般に,先端にプーリングアイを取り付けることにより自然捻回が入ることを防止している。(
  4. SS ケーブルには,支持線とケーブル本体を同一のシースで覆った SSW 型,支持線とケーブル本体をつなぐ首部に窓を開けた SSD 型などがある。SSD 型は,首部の窓から風を逃がすため,SSW 型と比較して,ダンシングが起きにくい。(

SS ケーブルは断面形状がひょうたん形であり,丸形ケーブルと比較して,受風面積が大きいため,強風にさらされるところではダンシングが起きやすい。ダンシングの発生は受風面積のほかに,ケーブル重量と架渉張力に関係があり,ケーブル重量が軽く弛度が大きいほどダンシングが起きやすい。

SS ケーブルを架渉する際に自然捻回が入ってしまうと,各スパンの捻回数を均等にすることが困難になるため,ケーブルの架渉時には,一般に,先端に撚り返し金物・捻回防止器を取り付けることにより自然捻回が入ることを防止している。

SS ケーブルには,支持線とケーブル本体を同一のシースで覆った SSD 型,支持線とケーブル本体をつなぐ首部に窓を開けた SSW 型などがある。SSW 型は,首部の窓から風を逃がすため,SSD 型と比較して,ダンシングが起きにくい。

(ⅱ) 凍結による線路設備などへの影響とその対策など

  1. 寒冷地においては,橋梁添架,スラブ下越,引上点などで管路が大気中に露出している箇所に滞留水があると,激しい冷え込みにより管路内の滞留水が凍結する場合があり,凍結時の体積膨張による圧力でケーブルの圧壊,挫屈などが生ずることがある。(
  2. 管路内の滞溜水の凍結によるケーブル故障への対策としては,あらかじめ管路内に吸水剤を充填する方法,管路に数パーセントの勾配を設けて水を滞溜させないなどの方法がある。(
  3. 極寒地においては,凍上現象により,電柱の支線,管路などが浮上する場合がある。凍上による被害を防止するには,地表面からの温度変化の影響を受けにくい深さに埋設するなどの方法がある。(

管路内の滞溜水の凍結によるケーブル故障への対策としては,あらかじめ管路内に PE パイプを敷設する方法,管路に数パーセントの勾配を設けて水を滞溜させないなどの方法がある。

(ⅲ) 通信用架空構造物

  1. 通信ケーブルなどを支持するための架空構造物の一部である電柱には,主なものに,コンクリート柱と鋼管柱がある。コンクリート柱は,用途により 1 種と 2 種に区分され,1 種は通信用,送・配電線用などに使用され,2 種は鉄道及び軌道(無軌条電車を含む。)における電線路用などに使用される。(
  2. 電柱の直径の増加率はテーパといわれ,電柱の末口の径を $D$,元口の径を $D'$,長さを $L$ とすると,平均テーパ $\alpha$ は,$\displaystyle \alpha = \frac{D' - D}{L}$ で求められる。コンクリート柱と鋼管柱の平均テーパは,一般に,いずれも同じ $\displaystyle \frac{1}{75}$ である。(
  3. 通信ケーブルの架渉などによって電柱に不平衡張力が加わる場合に,電柱の倒壊や傾斜を防ぐために設置されるワイヤは,支線といわれる。不平衡張力は,一般に,電柱に 90 [%] を,また,支線に 10 [%] を分担させることとして設計される。(

通信ケーブルの架渉などによって電柱に不平衡張力が加わる場合に,電柱の倒壊や傾斜を防ぐために設置されるワイヤは,支線といわれる。不平衡張力は,一般に,電柱に 10 [%] を,また,支線に 90 [%] を分担させることとして設計される。

(ⅳ) 通信用光ファイバケーブルの非ガス保守に用いられる技術

  1. 非ガス保守は,光ファイバケーブルの防水技術及び浸水の監視・検知技術を組み合わせて実現されたものであり,一般に,ケーブル部は防水型ケーブルを用いて無監視とし,ケーブル接続部で浸水センサによる浸水の監視・検知を行っている。(
  2. ケーブルの防水技術では,WB ケーブルを使用し,ケーブル外被からの水の浸入に対し,WB テープの吸水剤が水を吸って膨張することでケーブル内にダムを形成し,水走りを防止している。(
  3. 浸水の監視・検知技術では,クロージャ内に設置した浸水検知モジュールの吸水膨張材で光ファイバに曲げを与え,光ファイバの側圧を圧力センサで測定することにより,浸水の発生及び浸水位置を検知することができる。(
  4. 光ファイバを浸水状態で長期間放置した場合の破断確率は,一般に,乾燥状態の場合と比較して 10 倍以上となるが,浸水期間を制限し乾燥させることで破断確率の上昇を抑制することができる。(

浸水の監視・検知技術では,クロージャ内に設置した浸水検知モジュールの吸水膨張材で光ファイバに曲げを与え,この作用により増加した光ファイバの光損失を OTDR で測定することにより,浸水の発生及び浸水位置を検知することができる。

問5

(1) メタリックケーブルなどへの雷害及び誘導妨害とそれらの対策など

落雷が発生すると,電磁誘導雷サージ,静電誘導雷サージなどにより通信ケーブルや電力線に過電圧や過電流が発生する場合がある。これらの雷サージに対しては,通信装置の設置環境,設備構成などを考慮した適切な対策をとる必要がある。例えば,通信ケーブルに侵入した雷サージが電力線や接地線へ流出する過程において通信機器を破壊する事象に対しては,バイパスルートをつくる対策が有効である。通信を途絶させないためには,通信機器を雷サージから防護するほかに,落雷などによる商用電源の停電対策として,受電経路の二系統化,重要機器には UPS から給電することなども考慮することが望ましい。

雷害以外の誘導現象には,強電流施設の近傍に配線された通信ケーブルに静電誘導を誘起するもの,通信ケーブルがアンテナとなり放送波を受信するものなどがある。静電誘導の影響を避けるための対策として,一般に,アルミニウムの遮蔽層を有する通信ケーブルが使用される。また,ラジオ放送の送信アンテナに近いエリアでは,電話機の受話器からラジオ放送が聞こえる場合がある。この対策の一つに,高周波成分が電話機に入り込まないように,コンデンサを挿入する方法がある。

誘導対策」「雷害対策」参照

(2) 光ファイバケーブルのピース長算出,布設設計,布設工法など

(ⅰ) 光ファイバケーブルのピース長算出など

  1. ピース長は,一般に,計画ルートを現場調査し布設ルートを確認した上で,道路使用上の制約,施工時の騒音や照明など社会的な制約,経済性などを総合的に考慮して決定される。(
  2. 地下ケーブルのピース長は,線路亘長にマンホール,ハンドホール,共同溝などでの必要長を加算して算出される。ケーブルの接続を行うマンホールでは,接続必要長のほか,クロージャを地上へ取り出して作業するための必要長も見込む必要がある。(
  3. 架空ケーブルのピース長は,線路実長とケーブルピース間の接続必要長,温度伸縮対策に必要なスラック必要長などを加算して算出される。(

クロージャを地上へ取り出して作業するための必要長を見込む必要はない。

(ⅱ) 管路への光ファイバケーブル布設設計など

  1. 光ファイバケーブルの基本的な布設技術には,メタリックケーブルの布設技術とほぼ同等の考え方が適用できるが,光ファイバケーブルでは,軽量,細径などの特徴を生かした長スパン布設技術,多条布設技術などが取り入れられている。(
  2. 光ファイバケーブルに一定以上の側圧が加わると,光ファイバ心線に残留ひずみが生ずることがあるため,屈曲区間などでは,ケーブルの許容曲げ半径及び許容側圧を考慮して設計する必要がある。(
  3. 光ファイバケーブルの曲げ半径は,ケーブルの許容曲げ半径の値を超えないようにする必要があり,一般に,布設時はケーブルの外径の 20 倍以上,固定時はケーブルの外径の 10 倍以上とされている。(
  4. 多条布設技術は,管路を有効利用するために,同一管路内に複数本の光ファイバケーブルを収容する技術である。管路内に追加布設される光ファイバケーブルは,一般に,管路内の空きスペースにあらかじめ布設されたスロットロッド内に収容され,75 mm 管への収容数は 5 条までとされている。(

75 mm 管への収容数は 3 条までとされている。

(ⅲ) 架空光ファイバケーブルの布設設計で考慮すべき地度及び風圧荷重

  1. 弛度は,最低温度時に,甲種風圧荷重又は集中荷重が加わったときでも,吊り線や支持線の安全率が確保できるように定められている。弛度が標準より小さいと,吊り線や支持線の切断,支線の破壊などが発生するおそれがある。(
  2. 乙種風圧荷重は,通信ケーブルの周囲に比重 0.9 の氷雪が厚さ 6 [mm] で付着した場合において,甲種風圧荷重における風圧の $\displaystyle \frac{1}{2}$ の風圧を受けるものとして計算した荷重であり,主に積雪地帯において適用される。(
  3. 丙種風圧荷重は,甲種風圧荷重における風圧の 2 倍の風圧を受けるものとして計算した荷重であり,主に海岸などの強風地帯において適用される。(

丙種風圧荷重は,甲種風圧荷重における風圧の 2 分の 1 の風圧を受けるものとして計算した荷重であり,市街地において適用される。

(ⅳ) 牽引機の台数

図に示す地下区間において,A 地点から B 地点へ以下に示す条件で光ファイバケーブルを布設する場合,牽引機は最低 4 台必要である。

(条件)
  1. 光ファイバケーブルの質量:0.5 [kg/m]
  2. A 地点 ~ B 地点間の距離:1,000 [m]
  3. A 地点(繰出し点)の初期張力:500 [N]
  4. 牽引機の 1 台当たりの最大牽引能力:2,000 [N]
  5. 牽引機 1 台当たりの初期張力:100 [N]
  6. 摩擦係数:0.5
  7. 重力加速度:10 [m/s²]
  8. 光ファイバケーブルの最大許容張力:1,000 [N]
  9. 光ファイバケーブルの布設ルートは直線で高低差はないものとし,また,牽引機を設置する場所の制約はないものとする。
牽引機の台数
図 牽引機の台数

牽引機の台数は次式で求められる。

牽引機台数 n > (ケーブルの総張力 + 中間牽引機の初期張力 × 中間牽引機台数) / 許容張力
牽引機台数 n > {(500 + 10 × 0.5 × 0.5 × 1,000) + 100 × (n -1)} / 1,000
牽引機台数 n > 3.2

よって,求める牽引機の台数は 4 台必要である。

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