平成27年度 第2回 専門的能力・通信線路

2019年6月26日作成,2020年12月30日更新

問1

(1) 平衡対ケーブルの一次定数と二次定数

平衡対ケーブルは,長手方向に均一で一様な線路であり,その電気特性は分布定数回路として扱うことができる。この線路の往復導体の単位長さ当たりの抵抗を $R$,インダクタンスを $L$ とし,また,往復導体間の単位長さ当たりの漏れコンダクタンスを $G$,静電容量を $C$ とすると,これらの $R$,$L$,$G$,$C$ は,線路の一次定数といわれる。

一次定数から誘導される伝搬定数 $\gamma$ 及び特性インピーダンス $Z_0$ は,次式で表される。

\[ \gamma = \sqrt{(R + \text{j}\omega L)(G + \text{j}\omega C)} = \alpha + \text{j}\beta \] \[ Z_0 = \sqrt{\frac{R+\text{j}\omega L}{G + \text{j}\omega C}} = |Z_0|e^{\text{j}\phi} \]

ただし,$\text{j}$ は虚数記号を,$\omega$ は伝送波の角周波数を,$\phi$ は特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し,$e$ は自然対数の底とする。

この伝搬定数 $\gamma$ の式において,実数部 $\alpha$ は減衰定数,虚数部 $\beta$ は位相定数といわれ,これらの $\gamma$,$\alpha$,$\beta$,$Z_0$ は線路の二次定数と総称される。

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」参照

(2) 複合線路,漏話など

(ⅰ) 特性の異なる幾つかの線路を縦続接続した複合線路

  1. 複合線路は,特性インピーダンスなどが異なる幾つかの線路を縦続接続することによって構成される線路モデルであり,一様線路と比較して,より現実的な線路に近づけたモデルである。(
  2. 複合線路では,一般に,多数の接続点で反射を生ずるが,奇数回の反射により送端側に戻る波は伴流又は続流といわれる。(
  3. 複合線路の伝送特性を解析することは,一様線路と比較して複雑ではあるが,一様線路の解析手法を基本に,位置角の考え方を取り入れることで容易になる。(
  4. 複合線路の任意の点における電圧,電流及びインピーダンスは,位置角を $\theta$ とすると,一般に,電圧は $\sinh \theta$ に,電流は $\cosh \theta$ に,インピーダンスは $\tanh \theta$ にそれぞれ比例する。(

複合線路では,一般に,多数の接続点で反射を生ずるが,奇数回の反射により送端側に戻る波は逆流といわれる。

複合線路における主流,逆流,伴流(続流)
図 複合線路における主流,逆流,伴流(続流)

(ⅱ) 漏話現象,漏話減衰量など

  1. 二つの回線間の電気的な結合には静電結合と電磁結合があるが,メタリック伝送の音声回線においては,静電結合の漏話に対する影響は小さく,電磁結合が支配的である。(
  2. 静電結合による漏話量は,線路の特性インピーダンスに比例する。したがって,装荷ケーブルは,一般に,無装荷ケーブルと比較して,特性インピーダンスが小さいため,漏話減衰量が大きい。(
  3. 漏話減衰量 $L$ [dB] は,誘導回線の送端電力 $P$ [mW] と被誘導回線の漏話電力 $P_L$ [mW] の比を用いて,次式で表される。(
  4. \[ L = 10\log_{10}{\frac{P}{P_L}} \]
  5. 漏話を発生させる側の回線は誘導回線,漏話を受ける側の回線は被誘導回線といわれる。また,被誘導回線において,誘導回線の送端側に生ずる漏話は遠端漏話,誘導回線の受端側に生ずる漏話は近端漏話といわれる。(

二つの回線間の電気的な結合には静電結合と電磁結合があるが,メタリック伝送の音声回線においては,電磁結合の漏話に対する影響は小さく,静電結合が支配的である。

静電結合による漏話量は,線路の特性インピーダンスに比例する。したがって,装荷ケーブルは,一般に,無装荷ケーブルと比較して,特性インピーダンスが小さいため,漏話減衰量は小さい

漏話を発生させる側の回線は誘導回線,漏話を受ける側の回線は被誘導回線といわれる。また,被誘導回線において,誘導回線の送端側に生ずる漏話は近端漏話,誘導回線の受端側に生ずる漏話は遠端漏話といわれる。

近端漏話と遠端漏話
図 近端漏話(Near end crosstalk)と遠端漏話(Far end crosstalk)

(3) 光ファイバの伝搬特性,光通信における信号劣化要因など

(ⅰ) 光ファイバの伝搬特性

  1. 光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには,規格化周波数 $V$ が用いられ,空気中の光の波長を $\lambda$,コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,$V$ は次式で表すことができる。(
  2. \[ V = \frac{2\pi a}{\lambda} \times \sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]
  3. SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面を臨界角よりも小さな角度で反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $\frac{1}{2\pi}$ の整数倍になる必要がある。(
  4. SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $\frac{1}{\sqrt{e}}$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。(
  5. 基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ポアソン分布で近似することができる。(

SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面を臨界角よりも小さな角度で反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $2\pi$ の整数倍になる必要がある。

SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $1/e^2$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。

基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ガウス分布で近似することができる。

モードフィールド直径
図 モードフィールド直径

(ⅱ) 光通信における信号劣化要因など

  1. 波長によって伝搬速度が異なることに起因して生ずる分散は,波長分散といわれる。光通信に用いられる光パルスは,厳密には単一の波長ではなく波長の広がりを有しているため,波長によって伝搬時間に差が生ずることから,受信端でパルス幅が広がり,波形が劣化する。(
  2. 光ファイバの製造過程では火炎加水分解反応が広く用いられており,光ファイバ中に OH 基が混入する場合がある。OH 基は光ファイバ中に 1 [ppm] 程度含まれているだけでも,吸収による伝送損失の増加要因となる。(
  3. 信号の時間軸方向の揺らぎにおいて,10 [Hz] 以上の揺らぎはジッタ,10 [Hz] 未満の揺らぎはワンダといわれ,一般に,ジッタは送受信回路中の電子回路内部の発振周波数の変動などによって発生し,ワンダは伝送路中の光ファイバ長の温度変化による伸縮などによって発生する。(

問2

(1) 光ファイバグレーティング(FG)

ゲルマニウムを添加した石英に,波長 240 [nm] 近傍の紫外線を照射すると屈折率が上昇する。FG は,この現象を利用して光ファイバのコア上に,周期的な屈折率変化を形成することにより光フィルタなどとしての機能を持たせた光ファイバ型デバイスであり,非破壊で,直接,光ファイバ中にグレーティングを形成できるため,同様の機能を有する誘電体多層膜フィルタと比較して,小型で低挿入損失である,伝送用光ファイバとの良好な接続性が得られるなどの特徴がある。

FG は,グレーティング周期が 1 [μm] 以下の短周期型及び数十 [μm] ~ 数百 [μm] の長周期型の 2 種類に大別される。

短周期型 FG は,特定の波長の光を選択的に信号光とは逆方向の伝搬モードに結合,すなわち反射させることから,狭帯域波長フィルタとして機能する。一方,長周期型 FG は,特定の波長の光を信号光と同一方向に進むクラッドモードに結合させる。クラッドモードに結合した光は光ファイバ被覆材に吸収されて減衰することから,透過阻止型の波長フィルタとして機能する。

短周期型 FG は急峻な波長選択特性を持つデバイスであるため,特定の信号波長を分岐・挿入する OADM などで,また,長周期型 FG は EDFA の利得等化器などで用いられている。

光分岐挿入(OADM)

Optical Add Drop Multiplexing. WDM で多重された複数の波長を波長単位で分岐・挿入すること。

(2) 光の性質,発光・受光素子と光ファイバとの結合,光ファイバにおける非線形光学効果など

(ⅰ) 光の性質など

  1. 光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると,入射側に近いところでは青い光が散乱し,残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ,散乱による損失の大きさは波長の 2 乗に比例する。(
  2. 光の吸収は,一般に,任意の波長の光が伝搬媒質中に存在する物質によって吸収されて熱に変換される現象であり,光ファイバ中における吸収には,石英ガラス自体が持つ紫外吸収及び赤外吸収のほか,コアとクラッド間に屈折率差を設けるために添加される金属イオンなどによる不純物吸収がある。(
  3. 光のコヒーレンス性は,周波数軸上のスペクトル分布を測定することにより確認することができる。周波数軸上のスペクトル幅は,一般に,周波数や位相がそろったコヒーレンス性が高い光は 1 本の線状で狭く,また,周波数や位相がそろっていないコヒーレンス性が低い光は広がって観測される。(

光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると,入射側に近いところでは青い光が散乱し,残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ,散乱による損失の大きさは波長の 4 乗に反比例する。

(ⅱ) 発光・受光素子と光ファイバとの結合など

  1. LD と LED とでは,発光源から出射される光ビームの広がり度合いが異なり,光ビームの広がり度合いが大きい LED の方が,光ファイバとの結合損失は小さい。(
  2. LD は自分自身の反射光によって発振が不安定になる特性があり,高速伝送方式ではこの影響を無視できないため,LD と光ファイバの間には,一般に,反射光の帰還を阻止する光アイソレータが組み込まれている。(
  3. 発光素子から出射される光は屈折や回折により広がることから,発光素子と光ファイバとは,一般に,YAG レーザを用いて融着接続されている。(
  4. 光ファイバ中を伝搬してきた光は,石英ガラスの分散特性に応じて端面から広がって放射されることから,光ファイバと受光素子との結合損失を小さくするために,レンズを用いて光の絞り込みを行うなどの工夫がなされている。(

LD と LED とでは,発光源から出射される光ビームの広がり度合いが異なり,光ビームの広がり度合いが大きい LED の方が,光ファイバとの結合損失は大きい

光モジュールを構成する部品の固定には,YAG レーザを用いた溶接技術が用いられている。

光ファイバ中を伝搬してきた光は,石英ガラスの回折現象により端面から広がって放射されることから,光ファイバと受光素子との結合損失を小さくするために,レンズを用いて光の絞り込みを行うなどの工夫がなされている。

(ⅲ) 光ファイバにおける波長分散,自己位相変調など

  1. 光ファイバの波長分散は,ゼロ分散波長より短波長側の正常分散領域と長波長側の異常分散領域に分けられ,光パルス信号のスペクトルが正常分散領域にあるときは,波長が長いスペクトル成分ほど群速度は速くなる。(
  2. 光パルスの波長が時間的に変化する現象は,一般に,チャーピングといわれ,光パルスは時間的な波形広がりを伴うため,符号間干渉を生ずる現象となる。(
  3. 波長分散によるパルスの広がりと自己位相変調によるパルスの狭まりとが打ち消し合った状態では,光パルスがパルス幅を変えずに伝搬する光ソリトン現象が発生する。(
  4. 入射する光信号の強度に依存して光ファイバの屈折率が変化する現象は,光カー効果といわれ,自己位相変調は,この光カー効果により光強度の変化に比例して入射した光と同じ波長の光が散乱される現象をいう。(

入射する光信号の強度に依存して光ファイバの屈折率が変化する現象は,光カー効果といわれ,自己位相変調は,この光カー効果により光強度の変化に比例して屈折率が変化するため,媒質中で光の位相速度が変化する現象をいう。

(ⅳ) 光ファイバにおける非線形光学効果など

  1. 非線形光学効果は,非線形屈折率変化と非線形散乱とに大別でき,前者には波長分散,四光波混合などが,また,後者には誘導ラマン散乱及び誘導ブリルアン散乱がある。(
  2. 四光波混合は,二つ以上の異なった波長の光が同時に光ファイバ中に入射したとき,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象である。(
  3. 誘導ラマン散乱は,強い光が光ファイバ中に入射したとき,ガラスを構成する分子の光学的振動と入射光との相互作用が原因で発生する現象であり,後方散乱光のみが発生する。(

波長分散は非線形屈折率変化ではない。

誘導ラマン散乱は,強い光が光ファイバ中に入射したとき,ガラスを構成する分子の光学的振動と入射光との相互作用が原因で発生する現象であり,前方散乱光と後方散乱光が発生する。

問3

(1) 光ファイバケーブルの基本機能など

光ファイバケーブルは,単心又はテープ形の光ファイバ心線を複数本まとめてケーブル化したものであり,屋外の地下や架空設備などで使用され,その基本機能は,光ファイバ心線を外力,環境変化などから保護することにより,伝送特性を安定的に維持させることである。

光ファイバケーブルを布設する際などに外力が加わり,光ファイバの側面に不均一な圧力が加わると,光ファイバ軸が僅かに曲がりマイクロベンド損失が発生する。光ファイバを外力から保護する方法は,基本的に,2 種類に分けることができ,一つは,光ファイバを動かないように固定して耐力を高める方法,もう一つは,光ファイバをフリーな状態にして外力の影響を緩和する方法であり,前者の方法を採用した構造の光ファイバケーブルは,一般に,タイト型といわれる。

また,光ファイバケーブルには,浸水から光ファイバを保護する機能も要求される。浸水による光ファイバへの影響には,機械的強度の劣化による破断確率の上昇,光ファイバケーブルの金属製材料の酸化反応で発生する OH 基による伝送損失の増加などがある。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) 光ファイバの種類と構造,融着接続機など

(ⅰ) 分散制御光ファイバ

  1. 分散シフト光ファイバは,光ファイバの屈折率分布を制御して導波路分散の波長依存性を変化させることにより,ゼロ分散波長を 1.3 μm 帯から 1.55 μm 帯にシフトさせた光ファイバである。(
  2. 分散フラット光ファイバは,光ファイバの屈折率分布を制御して材料分散とは符号の反転した導波路分散を形成することにより,広い帯域にわたり分散スロープをゼロに近づけた光ファイバである。(
  3. 分散マネジメント光ファイバは,光ファイバの長手方向に非線形光学特性の異なる区間を設けることにより,局所的な波長分散は非ゼロとしながらも伝送路全体で累積波長分散を低減した光ファイバである。(

分散マネジメント光ファイバは,光ファイバの長手方向に分散特性の異なる区間を設けることにより,局所的な波長分散は非ゼロとしながらも伝送路全体で累積波長分散を低減した光ファイバである。

(ⅱ) 光ファイバ心線,光ファイバケーブル又は光ファイバコードの構造と特徴など

  1. 光ファイバ心線には,温度特性や機械特性を確保する目的で,多層被覆が施されており,内層にはマイクロベンドを防止するために硬い被覆が,また,外層には側圧などから光ファイバを保護するために柔らかい被覆が用いられている。(
  2. テープスロット型光ケーブルは,光ファイバ素線を複数本並べて UV 硬化型樹脂で一体化した光ファイバテープ心線を,4 テープごとに撚り合わせて一束に集合し,溝形のスロット内に収容した構造のケーブルであり,数百心に及ぶ高密度実装が可能である。(
  3. 自己支持型光ファイバケーブルは,光ケーブル部と吊り線部が一体となっていることから,光ケーブル部は架渉後も常時伸びひずみを受け続けるため,光ファイバの破断確率が高くなる。このため,吊り線は,架渉張力,温度変化,風圧,積雪などによるケーブルの伸びひずみを考慮して設計する必要があり,一般に,光ファイバケーブルの伸びひずみは 2 [%] 以下となるように設計される。(
  4. 光ファイバコードは,一般に,光ファイバ心線の周囲に抗張力体としてポリアミド系繊維などを密着して配置し,さらに抗張力体上にビニルなどを被覆してシースとした構造であり,光伝送機器内配線,屋内,短距離の機器間の接続などに使用される。(

光ファイバ心線には,温度特性や機械特性を確保する目的で,多層被覆が施されており,内層にはマイクロベンドを防止するために柔らかい被覆が,また,外層には側圧などから光ファイバを保護するために硬い被覆が用いられている。

テープスロット型光ケーブルは,光ファイバ素線を複数本並べて UV 硬化型樹脂で一体化した光ファイバテープ心線を,重ね合わせ,溝形のスロット内に収容した構造のケーブルであり,数百心に及ぶ高密度実装が可能である。

一般に,光ファイバケーブルの伸びひずみは 0.2 [%] 以下となるように設計される。

(ⅲ) 光ファイバ融着接続機

  1. 多心光ファイバ融着接続機では,一般に,融着接続する全ての光ファイバ心線を,放電電極の中心から僅かにずれた温度分布がほぼ均一な位置にセットし,一括接続する。(
  2. 多心光ファイバ融着接続機の調心方法には,一般に,固定 V 溝上に整列させた光ファイバを加熱・溶融し,光ファイバの表面張力による自己調心作用を利用して軸合わせを行うコア調心方式が採用されている。(
  3. 融着接続機の熱源には,ガスバーナー方式などと比較して,装置が小型であること,加熱する温度及び時間制御が容易であること,高温となる領域が局所的であることなどの理由から,アーク放電方式が広く用いられている。(
  4. 融着接続機は,一般に,接続する光ファイバの先端部に付着した微小なダストを除去するとともに光ファイバ端面を整形して接続の成功率を高めるために,融着接続前に光ファイバの先端部のみを加熱する,予加熱機能を備えている。(

多心光ファイバ融着接続機の調心方法には,一般に,固定 V 溝上に整列させた光ファイバを加熱・溶融し,光ファイバの表面張力による自己調心作用を利用して軸合わせを行う固定 V 溝調心方式(外径調心方式)が採用されている。

(ⅳ) 光ファイバの融着接続部の不良とその発生原因及び対策

  1. 接続部に筋ができた場合は,放電パワーの不足が原因と考えられるため,接続機のバッテリーや電極棒を点検,交換などして,筋が消えるまで再加熱を行う必要がある。(
  2. 接続部の軸ずれは,融着接続時の放電時間が短かったことが原因と考えられるため,規定の時間に達するまで,再放電を行う必要がある。(
  3. 接続部に気泡ができた場合は,放電パワーが強すぎたことが原因と考えられるため,電極棒と融着接続部との距離を数 [mm] 離して,接続をやり直す必要がある。(

接続部に筋ができた場合は,放電パワーの不足が原因と考えられるため,接続機のバッテリーや電極棒を点検,交換などして,融着した心線を切断し,再接続を行う必要がある。

接続部の軸ずれや気泡が発生する場合は,光ファイバのずれや切断面の不良が原因と考えられるため,光ファイバカッタを点検し,融着した心線を切断し,再接続を行う必要がある。

問4

(1) OTDR の測定原理など

光ファイバに光を入射すると,光ファイバのコアの屈折率分布の不均一性などによって生ずるレイリー散乱や,局所的な屈折率の段差などによって生ずるフレネル反射により,入射端に向かって微弱な後方散乱光が戻って来る。

OTDR は,後方散乱光を利用した測定器であり,光パルス試験器ともいわれ,被測定光ファイバに入射した光パルス信号の後方散乱光の強度を時間領域で測定することにより,光ファイバの損失や距離の測定,破断点の探索などを行うことができる。

後方散乱光のパワーは微弱であるため,実際の測定においては,一般に,光が被測定光ファイバ中を往復する時間より長い周期で光パルスを繰り返し送出して測定を行い,それらの測定値を平均化することにより正確度の高い結果を得ることができる。

通信ケーブル監視技術」参照

(2) OTDR,光ファイバ ID テスタ,光ファイバ測定など

(ⅰ) OTDR

  1. OTDR による光ファイバの接続損失測定において,負の接続損失,すなわち利得があるように見える場合がある。これは,光ファイバの非線形光学効果により生ずるものであり,正確な測定結果を得るには,入力する光パワーを下げて再測定する必要がある。(
  2. OTDR におけるダイナミックレンジとは,一般に,光出射端近傍の反射光レベルからノイズフロアまでの範囲をいい,測定に用いるパルスの繰り返し間隔を短くすることにより,ダイナミックレンジを大きくすることができるが,分解能は低くなる。(
  3. OTDR におけるデッドゾーンとは,損失などの測定が正確にできない範囲をいい,損失測定デッドゾーンと反射測定デッドゾーンがある。損失測定デッドゾーンは,フレネル反射のピーク値から 1.5 [dB] 下がったレベルまでの範囲と規定されている。(
  4. OTDR による距離測定では,実際に被測定光ファイバ中を伝搬する光の速度(群速度)に経過時間を乗ずることにより距離を求めている。群速度は光ファイバの群屈折率によって決まることから,測定に際しては,正確な群屈折率を把握しておく必要がある。(

OTDR による光ファイバの接続損失測定において,負の接続損失,すなわち利得があるように見える場合がある。これは,ロットの異なる光ファイバのレイリー後方散乱光レベル差と接続損失によるものであり,正確な測定結果を得るには,上部・下部それぞれから測定し平均値を取る必要がある。

OTDR におけるダイナミックレンジとは,一般に,光出射端近傍の反射光レベルからノイズフロアまでの範囲をいい,測定に用いるパルスのパルス幅を広くすることにより,ダイナミックレンジを大きくすることができるが,分解能は低くなる。

OTDR におけるデッドゾーンとは,損失などの測定が正確にできない範囲をいい,損失測定デッドゾーンと反射測定デッドゾーンがある。反射測定デッドゾーンは,フレネル反射のピーク値から 1.5 [dB] 下がったレベルまでの範囲と規定されている。一方,損失反射デッドゾーンは,光コネクタ接続箇所からフレネル反射の影響による応答波形で,真値から ± 0.5 [dB] 以下のレベルの箇所までの接続損失などが測定できない範囲である。

(ⅱ) 光ファイバ ID テスタ(ID テスタ)を用いた,光ファイバ心線対照技術など

  1. ID テスタは,光ファイバ心線に曲げを加えることにより漏れ出た試験光を検出し,心線対照を行うものであり,現用信号光とは異なる波長の試験光を使用することにより,現用回線には影響を与えずに心線対照が可能である。(
  2. 光ファイバにおける曲げ損失は,同じ曲げ半径の場合,波長が短いほど大きいため,ID テスタでは,一般に,信号光より短波長の試験光が用いられる。(
  3. 曲げを加えても光信号が心線外部へ漏洩しにくい R15 心線の心線対照には,曲げ部に光ファイバ被覆と同程度の屈折率を持つ透過性部材を用いて漏洩光の検出感度を高めた ID テスタを用いる方法がある。(

光ファイバにおける曲げ損失は,同じ曲げ半径の場合,波長が短いほど大きいため,ID テスタでは,一般に,信号光より長波長の試験光が用いられる。

(ⅲ) MM 光ファイバの伝送帯域とその測定法

  1. 伝送帯域とは,光ファイバがどこまで高い周波数の変調信号を伝送できるかを示すもので,変調周波数 0 [Hz] すなわち無変調時を基準として,ベースバンド周波数特性が 6 [dB] 減衰するまでの範囲の周波数をいう。(
  2. 伝送帯域を表す単位としては,一般に,[MHz·km] が用いられる。例えば,200 [MHz·km] の光ファイバという場合は,200 [MHz] で変調された光信号が 1 [km] 伝搬したとき,光のパワーが 6 [dB] 減衰する光ファイバであることを意味している。(
  3. 時間領域の測定法の一つであるパルス法は,LD などからの短パルスレーザ光を被測定光ファイバに入射させ,入射端と出射端における光パルスをそれぞれフーリエ変換し,光ファイバの周波数応答特性から伝送帯域を測定する方法である。(
  4. 周波数領域の測定法の一つである周波数掃引法は,正弦波状に強度変調された光信号を被測定光ファイバに入射し,光ファイバからの出射光の変調周波数に対する減衰量から伝送帯域を測定する方法である。(

伝送帯域を表す単位としては,一般に,[MHz·km] が用いられる。例えば,200 [MHz·km] の光ファイバという場合は,200 [MHz] で変調された光信号が 1 [km] 伝搬したとき,光の振幅が 6 [dB] 減衰する光ファイバであることを意味している。

ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域
図 ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域

(ⅳ) SM 光ファイバの波長分散の測定法

  1. パルス法は,幾つかの異なる波長の光パルスを被測定光ファイバに入射させ,各波長ごとの群遅延時間差を直接測定することにより波長分散を求める方法である。(
  2. 位相法は,パルス法のように群遅延時間差を直接測定するのではなく,幾つかの異なる波長の光信号を,同一の周波数で正弦波変調して被測定光ファイバに入射させ,伝搬後の光信号の屈折率分布を測定して群遅延時間差を算出することにより波長分散を求める方法である。(
  3. OTDR 法は,OTDR の機能を応用した測定法であり,測定には,一般に,四つの異なるパワーの光パルスが用いられ,これらの光パルスが遠端で反射して戻って来る波長ごとの非線形光学特性から波長分散を求める方法である。(

正しくは,B.「位相変化量」,C.「波長」「到達時間差」である。

位相法は波長の異なる複数の光源を用いて、被測定光ファイバーを通過する際の各波長における光信号の到達時間の差から波長分散値を求める方法である。具体的には、ある波長を一定の周波数で変調したときの入力と出力における位相差を読み、これを記録する。この手順を、近似に必要な波長の数だけ繰り返すことでセルマイヤの近似式を完成する。そして、波長による遅延時間 $\beta_1$ を測定し、これを $\omega$ で微分することにより $\beta_2$の値を得る。

OTDR 法は,Time-Of-Flight(TOF)法としても知られる。OTDR 測定と同様に光ファイバの片端から測定光を入射し、反射光が戻ってくるまでの時間を複数の波長で測定して群遅延を求める。

問5

(1) 生物による架空光ファイバケーブルの外被損傷とその対策など

架空光ファイバケーブルの外被損傷の原因には,ケーブルダンシング,凍結圧など気象条件によるもの,施工不良など人為的なもの,生物によるものなどがある。

ケーブル外被に損傷をもたらす生物は,げっ歯類,鳥類及び昆虫類に大別される。

げっ歯類はケーブル外被をかじることにより損傷させるため,対策には,かじられても心線に影響が及ばないように,ケーブル外被の内側にステンレスの層がある HS ケーブルに変更する方法などがある。局所的に対策を行う場合には,防リスシート,防リステープなどでケーブルを保護することも有効である。

鳥類,特にカラスによる被害は,主にドロップ光ファイバケーブルで発生し,かつ,損傷箇所が,ドロップ光ファイバケーブルの支持線と光エレメント部を分離した部分に集中していることから,対策には,支持線を分離したケーブル部を PVC 電線防護カバーで防護することが有効な方法とされている。

昆虫類による被害のうちクマゼミによる被害は,ドロップ光ファイバケーブルが産卵管で刺されることにより発生する。クマゼミが産卵管を刺す箇所は,主に,ドロップ光ファイバケーブルの光エレメント部に外被切り裂き用に設けられたノッチ付近に集中する傾向がある。クマゼミによる被害に対しては,光ファイバ心線の両側に防護策を設ける,被覆を硬くする,材質を改良するなどの対策が採られている。

腐食・損傷対策」参照

(2) 通信用設備の腐食とその発生原因,架空ケーブルにかかる張力など

(ⅰ) 架空構造物の腐食とその発生原因など

  1. 吊り線のアースクランプ取付部における腐食は,吊り線とアースクランプの間が蓄積した腐食生成物や異物により短絡状態となり,表面に付着した水分を介した電流パスが形成され,陰極となった金属(この場合は吊り線)が電解腐食により溶出することで発生し,吊り線の破断につながる場合がある。(
  2. 下部支線の腐食は,臨海地域,湿地帯,植込み周辺などの湿った土中で顕著に認められ,土中への酸素供給量が多い地際部のほか,水分が多い土中の深い部分でも発生する。(
  3. 海岸地帯における塩害は,海塩粒子が金属表面に付着することにより,表面の吸湿性が増すとともに,水膜の導電率が高くなり腐食反応が促進されることで発生する。(
  4. 大都市や工業地帯などにおける大気腐食は,主に,工場,自動車などから排出される亜硫酸ガス,二酸化窒素などの大気汚染物質が,金属表面上の水膜に溶け込んで促進される。(

吊り線のアースクランプ取付部における腐食は,吊り線とアースクランプの間が蓄積した腐食生成物や異物により短絡状態となり,表面に付着した水分を介した電流パスが形成され,陽極となった金属(この場合は吊り線)が電解腐食により溶出することで発生し,吊り線の破断につながる場合がある。

(ⅱ) 地下線路設備の腐食とその発生原因など

  1. 電食は,地中金属体に電流が流れることにより金属体が腐食する現象であり,一般に,電流が金属体に流入する部分では発生せず,電流が金属体から流出する部分で発生する。(
  2. イオンによる腐食は,土壌中あるい溜水中に塩素イオン,硫酸イオンなどが多量に含まれている場合に,金属表面にミクロセルが形成されるなどして発生する。(
  3. 土壌の性質の差による腐食は,異なった種類の土質層にまたがって金属体が埋設されている場合に,土壌の通気性の差によって,同一の金属の間でもマクロセルが形成されることで発生する。(

(ⅲ) 地下線路設備又は架空構造物における金属の腐食防止方法

  1. 流電陽極方式は,地中金属体にその金属体よりイオン化傾向の大きい金属を接続し,異種金属間のゼーベック効果を利用して防食電流を流すことにより腐食を防止するものであり,流電電極には,一般に,亜鉛,アルミニウム,マグネシウム又はそれらの合金が用いられる。(
  2. 外部電源方式は,直流電源を用い,マイナス側を地中金属側に,プラス側を不溶性の接地電極に接続して防食電流を流すことにより腐食を防止するものであり,電食にも自然腐食にも有効である。(
  3. 絶縁被覆による腐食防止方法では,金属体を,塩化ビニルなどのプラスチック性材料やエポキシ系などの塗料で被覆し,腐食環境から隔離・絶縁することにより防食電流を金属体から外部に流出しないようにしている。(
  4. 架空構造物を大気腐食から守る方法としては,電気的な防食方法が主体となり,メッキ,塗装などによる表面処理,使用する部材の材料選定などでは対応できない。(

流電陽極方式は,地中金属体にその金属体よりイオン化傾向の大きい金属を接続し,異種金属間の電位差を利用して防食電流を流すことにより腐食を防止するものであり,流電電極には,一般に,亜鉛,アルミニウム,マグネシウム又はそれらの合金が用いられる。

絶縁被覆による腐食防止方法では,金属体を,塩化ビニルなどのプラスチック性材料やエポキシ系などの塗料で被覆し,腐食環境から隔離・絶縁することにより腐食電流を金属体から外部に流出しないようにしている。

架空構造物を大気腐食から守る方法としては,電気的な防食方法が主体となり,メッキ,塗装などによる表面処理,使用する部材の材料選定などで対応できる

(ⅳ) 張力計算

図に示す張力計算モデルにおいて,以下に示す条件の場合,支持点 a 及び b の張力 $T$ は,135 [N] である。ただし,張力 $T$ は,線条方向に実際に加わる張力 $T_0$ と近似した水平方向の張力とする。

(条件)
  1. 単位長さ当たりのケーブル荷重 $W$:0.3 [N/m]
  2. スパン長 $S$:30 [m]
  3. 弛度 $d$:0.25 [m]
  4. ケーブルの支持点 a 及び b 間は,高低差がないものとする。
  5. 着雪,風圧荷重,温度などの外部要因は考慮しないものとする。
張力計算モデル
図 張力計算モデル

張力は次式により求められる。

\[ T = \frac{WS^2}{8d} = \frac{0.3 \times 30^2}{8 \times 0.25} = 135 \text{ [N]} \]
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