平成28年度 第1回 専門的能力・通信線路

2019年6月25日作成,2020年12月30日更新

問1

(1) メタリック伝送線路における反射の諸特性

伝送路の特性インピーダンスが変化する点では,信号波が折り返す反射現象が生ずる。このとき,一般に,進行してきた信号波は入射波,進行方向とは反対の方向へ戻っていく波は反射波,反射点で反射せずに進む波は透過波といわれ,反射の大きさは特性インピーダンスの変化の大きさに依存する。

反射の大きさを表す指標として反射係数が用いられ,図に示すような特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_1$ で終端した場合,接続点における電圧反射係数の値は 0.2 となる。また,図において,接続点が開放されている場合,終端のインピーダンスは無限大と考えられる。したがって,終端開放時の入射電圧は入射波と同位相でほとんど全て反射される。

特性インピーダンスの異なる線路を接続した複合線路でも,同様に,接続点で反射が生ずることから,実際の線路においては,できるだけ特性インピーダンスを均一にすることにより,反射損失を抑えることが重要である。

メタリック伝送線路における反射の諸特性
図 メタリック伝送線路における反射の諸特性

電圧反射係数の値は,次式で求められる。

\[ \frac{Z_1 - Z_0}{Z_1 + Z_0} = \frac{300 - 200}{300 + 200} = \frac{100}{500} = 0.2 \]

(2) メタリック伝送線路の電気的諸特性

(ⅰ) 雑音とひずみの種類,特徴など

  1. 基本雑音は,入力信号の有無に関係のない雑音で,増幅器,変調器などの能動回路で発生し,熱雑音,ショット雑音,$\displaystyle \frac{1}{f}$ 雑音などがある。基本雑音は,一般に,入力信号レベルの低いところで問題となる。(
  2. 非直線ひずみは,増幅器や変調器の入力と出力が比例関係にないために生ずるひずみであり,波形ひずみの原因となる。非直線ひずみには,入力信号の整数倍の周波数成分を持つ高調波ひずみ,複数の入力信号の組合せによる相互変調ひずみなどがある。(
  3. 位相ひずみは,伝送系の位相の変化量が周波数に対して比例関係にないために生ずるひずみであり,群伝搬時間が周波数により異なるために生ずることから,群遅延ひずみともいわれ,データ伝送などにおいて大きな影響を及ぼす。(

(ⅱ) メタリック伝送線路における漏話など

  1. 信号が隣接回線に漏れる現象は漏話といわれる。漏話は,一般に,メタリックケーブルが電磁的又は静電的に結合することによって生じ,電磁的結合は誘導回線の電圧の大きさに比例し,静電的結合は誘導回線の電流の大きさに比例する。(
  2. 漏話を発生させる側の回線は誘導回線,漏話を受ける側の回線は被誘導回線といわれる。また,被誘導回線において,誘導回線の送端側に生ずる漏話は近端漏話,誘導回線の受端側に生ずる漏話は遠端漏話といわれる。(
  3. ケーブル内の各対の 2 本の導線を撚ることにより漏話は軽減でき,隣接する対どうしで撚りピッチを変えると,撚りピッチを同一にした場合と比較して,大きな軽減効果が得られる。(
  4. 漏話減衰量は,誘導回線の送端電力と,被誘導回線の漏話電力(漏話量)の比の対数で表され,漏話電力が大きいほど漏話減衰量は小さく,漏話電力が小さいほど漏話減衰量は大きい。(

信号が隣接回線に漏れる現象は漏話といわれる。漏話は,一般に,メタリックケーブルが電磁的又は静電的に結合することによって生じ,電磁的結合は誘導回線の電流の大きさに比例し,静電的結合は誘導回線の電圧の大きさに比例する。

(3) 光ファイバ中を伝搬する光の位相速度,群速度,非線形光学効果など

(ⅰ) 光ファイバ中を伝搬する光の位相速度及び群速度

  1. 光ファイバ中を伝搬する光の位相速度を $V_c$,群速度を $V_g$ とすると,それぞれ以下の関係が成り立つ。ただし,$\beta$ は伝搬定数,$\omega$ は角速度,$n$ は屈折率,$c$ は真空中の光の速度とする。() \[ \frac{1}{V_c} = \frac{\beta}{\omega} , \frac{1}{V_g} = \frac{d\beta}{d\omega} , \beta = \frac{\omega n}{c} \]
  2. 真空中の光の速度を $c$,媒質の屈折率を $n$ とすると,媒質中を伝わる光の速度は,$\displaystyle \frac{c}{n}$ となり,この速度は,光の位相が伝わる速さである。一方,周波数が異なる複数の波の集まりである波束が伝わる速度,すなわちパルスの包絡線が伝わる速度は,群速度といわれる。(
  3. 光の平面波が均一な媒質中を伝搬する場合には,一般に,光信号の群速度は光の伝搬速度の 2 乗に比例し,群速度と位相速度との積は媒質中の光の伝搬速度と等しい。(
  4. 最も基本的なモードとなる LP01 モードは,波長が長くなると,電磁界が広がり屈折率が小さいクラッドの影響を受けて位相速度が速くなる。逆に,波長が短くなると,電磁界がコアに集中して位相速度は遅くなり,コアの屈折率で決まる速度に収束する。(

光の平面波が均一な媒質中を伝搬する場合には,一般に,光信号の群速度は光の伝搬速度と等しく,群速度と位相速度との積は媒質中の光の伝搬速度の 2 乗に比例する

(ⅱ) 非線形光学効果

  1. 自己位相変調とは,入射された光自身の強度により位相が変化する現象をいい,これはファラデー効果による光ファイバの屈折率の変化に起因して発生するものである。ファラデー効果により,光パルスの前縁部分は高周波数側へ,光パルスの後縁部分は低周波数側へシフトする。(
  2. 誘導ブリルアン散乱では,後方散乱光のみが強く発生し,また,発生する帯域幅が狭いことから,強い誘導ブリルアン散乱光を発生させるためには,スペクトル幅の非常に狭い入射光が用いられる。(
  3. 媒質の音響的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は,ラマン散乱といわれ,入射光強度が十分大きい場合に生ずる誘導散乱は,誘導ラマン散乱といわれる。(
  4. 二つ以上の異なる波長の光が同時に光ファイバ中に入射したときに,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象は,一般に,四光波混合といわれ,WDM 伝送では,光の波長がゼロ分散波長より短いほど四光波混合が発生しやすく伝送品質の劣化要因の一つとなる。(

自己位相変調とは,入射された光自身の強度により位相が変化する現象をいい,これは光カー効果による光ファイバの屈折率の変化に起因して発生するものである。光カー効果により,光パルスの前縁部分は高周波数側へ,光パルスの後縁部分は低周波数側へシフトする。

媒質の光学的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は,ラマン散乱といわれ,入射光強度が十分大きい場合に生ずる誘導散乱は,誘導ラマン散乱といわれる。

二つ以上の異なる波長の光が同時に光ファイバ中に入射したときに,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象は,一般に,四光波混合といわれ,WDM 伝送では,光の波長がゼロ分散波長近傍であれば四光波混合が発生しやすく伝送品質の劣化要因の一つとなる。

問2

(1) MM 光ファイバの分散及び伝送帯域

光ファイバ中を光パルスが伝搬するとき,光ファイバの出射端における光パルスの幅が,入射した光パルスと比較して,時間的に広がる現象は分散といわれる。モード分散は,MM 光ファイバ中を伝搬する光パルスが,伝搬速度の異なった幾つかのモードに分けられて伝搬するために発生する分散であり,隣接するパルスの間隔を狭くできない要因となっている。

MM 光ファイバの分散には,モード分散のほかにも SM 光ファイバと同様に,導波路の構造に起因して伝搬する光の速度が波長依存性を有するために生ずる構造分散,材料の屈折率が波長依存性を有するために生ずる材料分散があり,これらの分散の大きさには,一般に,モード分散 >> 材料分散 > 構造分散の関係がある。

MM 光ファイバのベースバンド周波数特性は,送信側の変調周波数を高めていくと,受信側の復調信号の振幅は徐々に小さくなり,しかも伝搬距離にも依存する。MM 光ファイバに入射した光信号が 1 [km] 伝搬した後において,復調された電気信号の振幅が入力時の電気信号の振幅に対し 1/2 となる周波数までの範囲は 6 dB 帯域幅といわれ,その単位としては,一般に,MHz·km が用いられる。

光ファイバケーブルの伝送理論」参照

ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域
図 ベースバンド周波数特性と 6 dB 帯域

(2) 光ファイバへの光の入射,光中継器又は光増幅器の特徴,光源と光ファイバとの結合など

(ⅰ) 光ファイバへの光の入射

  1. 屈折率の異なる二つの媒質 Ⅰ 及び Ⅱ(ただし,屈折率は,媒質 Ⅰ が媒質 Ⅱ より大きいものとする。)が接した状態で,媒質 Ⅰ から媒質 Ⅱ へ光が入射する場合,光が媒質 Ⅱ に入り込むことなく全反射が生ずるときの入射角は,ブリュースター角といわれる。(
  2. 光ファイバへの光の入射点では,空気,コア及びクラッドの三つの屈折率の異なる媒質が接しており,空気とコア及びコアとクラッドのそれぞれの境界面での光の屈折及び反射においてファラデーの法則が成り立つ。(
  3. 光ファイバへの光の入射条件を示す開口数(NA)は,光源と光ファイバの結合効率に影響を与える基本的なパラメータであり,一般に,コア径が同じであれば NA の大きな光ファイバほど,また,NA が同じであればコア径の大きな光ファイバほど,結合効率が高い。(
  4. NA は,光ファイバの材料分散を変化させることにより制御可能であり,一般に,NA が大きい光ファイバほど受光可能な入射角は大きくなる。レンズを用いて効率良く光源からの光を光ファイバに入射させるには,光ファイバの NA がレンズの NA を超えないようにしなければならない。(

屈折率の異なる二つの媒質 Ⅰ 及び Ⅱ(ただし,屈折率は,媒質 Ⅰ が媒質 Ⅱ より大きいものとする。)が接した状態で,媒質 Ⅰ から媒質 Ⅱ へ光が入射する場合,光が媒質 Ⅱ に入り込むことなく全反射が生ずるときの入射角は,臨界角といわれる。

光ファイバへの光の入射点では,空気,コア及びクラッドの三つの屈折率の異なる媒質が接しており,空気とコア及びコアとクラッドのそれぞれの境界面での光の屈折及び反射においてスネルの法則が成り立つ。

NA は,光ファイバの材料分散を変化させることにより制御可能であり,一般に,NA が大きい光ファイバほど受光可能な入射角は大きくなる。レンズを用いて効率良く光源からの光を光ファイバに入射させるには,レンズの NA が光ファイバの NA を超えないようにしなければならない。

(ⅱ) 光通信システムで用いられる中継器又は増幅器の特徴など

  1. 再生中継器を用いた光通信システムでは,3R といわれる機能を用いて信号を中継するため,一般に,各中継区間で発生する符号誤り,信号波形のひずみ及び雑音が累積することはない。(
  2. 波長多重された光信号の中継には,一般に,波長多重された光信号をそのまま増幅する線形中継器が用いられる。線形中継器は,光信号を電気信号に変換しないで,光のまま識別再生のみを行うことから,1R 中継器ともいわれる。(
  3. EDFA は,コア部分にエルビウムを添加した SM 光ファイバを増幅媒体に用いた増幅器であり,励起光として,一般に,1.3 [μm] 又は 1.55 [μm] の波長が用いられ,高利得,広帯域,偏波無依存などの特徴がある。(
  4. 光ファイバラマン増幅器は,光ファイバの非線形現象である誘導ラマン散乱を利用した増幅器であり,励起光の波長を変えることにより任意の波長の光を増幅できるなどの特徴を有している。(

再生中継器を用いた光通信システムでは,3R といわれる機能を用いて信号を中継するため,一般に,各中継区間で発生する符号誤りは累積する

波長多重された光信号の中継には,一般に,波長多重された光信号をそのまま増幅する線形中継器が用いられる。線形中継器は,光信号を電気信号に変換しないで,光のまま等価機能のみを行うことから,1R 中継器ともいわれる。

EDFA は,コア部分にエルビウムを添加した SM 光ファイバを増幅媒体に用いた増幅器であり,励起光として,一般に,0.98 [μm] 又は 1.48 [μm] の波長が用いられ,高利得,広帯域,偏波無依存などの特徴がある。

(ⅲ) 光源と光ファイバとの結合方法など

  1. 光源からの光は,レイリー散乱により広がって放射されることから,光ファイバと効率良く結合させるために,光源に光ファイバの先端を単に近づける直接結合方式,レンズを用いるレンズ結合方式,光ファイバの先端をレンズ状にした先端レンズ方式などが用いられる。(
  2. 光源と光ファイバとの結合部は,光源,レンズ,光ファイバなどの光学部品が振動,温度・湿度の変化などによる影響を受けないようにするため,一般に,モジュール化されている。光源モジュールには,伝送用光ファイバと接続するためのピグテール光ファイバが取り付けられたものがある。(
  3. レーザ光源は,レンズなどの光学部品から反射された光が注入されると,レーザの発振が不安定になることから,LD モジュールには,一般に,反射光の帰還を阻止するための光アイソレータが組み込まれている。(

光源からの光は,屈折や回折により広がって放射されることから,光ファイバと効率良く結合させるために,光源に光ファイバの先端を単に近づける直接結合方式,レンズを用いるレンズ結合方式,光ファイバの先端をレンズ状にした先端レンズ方式などが用いられる。

(ⅳ) 光源と光ファイバとの結合損失

  1. 光源と光ファイバとの結合損失 $\alpha$ [dB] は,光源の出力光パワーを $P_0$ [mW],光ファイバ内に取り入れられた光パワーを $P_r$ [mW] とすると,次式で表される。(
  2. \[ \alpha = -20\log_{10}{\frac{P_0}{P_r}} \]
  3. LD から出射される光ビームの放射角度は LED の放射角度と比較して小さいため,同じ結合方式の場合,LD は LED より光ファイバとの結合損失が小さい。(
  4. 光源と光ファイバとの結合損失は,同じ結合損失の場合,光ファイバのコア径によって異なり,一般に,コア径が大きいほど結合損失は小さい。(

光源と光ファイバとの結合損失 $\alpha$ [dB] は,光源の出力光パワーを $P_0$ [mW],光ファイバ内に取り入れられた光パワーを $P_r$ [mW] とすると,次式で表される。(電力利得の係数は 10 である。)

\[ \alpha = 10\log_{10}{\frac{P_0}{P_r}} \]

問3

(1) 光通信に用いられる LD の特徴など

LD は,その構造の違いにより,端面発光型及び面発光型に分類される。

端面発光型には,ファブリペロー型 LD(FP-LD),分布帰還型 LD(DFB-LD)などがある。FP-LD は,多数の縦モードで発振することから,放射された光が光ファイバ中を伝搬すると波長分散の影響によりパルス幅が広がるため符号間干渉を引き起こす。このため,長距離・高速伝送の光通信システムの光源には,一般に,単一モードで発振する DFB-LD が用いられる。

端面発光型の LD から放射された光は,一般に,楕円形の広がりをもつことから,断面が円形である光ファイバとの結合において,LD と光ファイバとの間のロッドレンズや円柱レンズなどを配置するなどして,光を集束する必要がある。

一方,面発光型の LD は,VCSEL ともいわれ,基板面に対して垂直方向にレーザ光を放射する。VCSEL から放射された光は,端面発光型の LD とは異なり,円形の広がりをもち,設計によって放射光のモードフィールド径を光ファイバと同程度にできるため,レンズなしで光ファイバと結合することも可能である。

光通信用素子」参照

VCSEL(ビクセル)とは,Vertical Cavity Surface Emitting LASER(垂直共振器面発光レーザ)の略称で,半導体レーザの一種。

(2) 光通信システムで用いられる光変調方式,LD の制御方式,多重化方式など

(ⅰ) 光変調方式の特徴など

  1. 電気信号により LD の出力光を強度変調する方式には,直接変調方式と外部変調方式がある。外部変調方式は,駆動回路において LD にバイアス電流と変調信号を印加することにより変調光を得る方式である。(
  2. 直接変調方式では,変調速度が増すと波長チャーピングが生ずることにより SN 比が劣化し,伝送距離が制限される。このため,変調速度が数 [Gbit/s] を超える場合には,一般に,光源と変調回路を分離し,LN 変調器,EA 変調器などを用いた外部変調方式が採用される。(
  3. LN 変調器は,導波路構造のマッハツェンダ干渉計構成をとり,電極に電圧を印加したとき,ポッケルス効果により導波路のブラッグ波長が変化し,光の干渉状態が変わることを利用して出力光をオン/オフしている。(
  4. EA 変調器は,PN 接合のダブルヘテロ構造を持つダイオードに逆バイアスを印加したとき,電界吸収効果により導波層を通過する光が吸収されることを利用して出力光をオン/オフしている。(

電気信号により LD の出力光を強度変調する方式には,直接変調方式と外部変調方式がある。直接変調方式は,駆動回路において LD にバイアス電流と変調信号を印加することにより変調光を得る方式である。

直接変調方式では,変調速度が増すと波長チャーピングが生ずることにより波長が広がるため,伝送距離が制限される。このため,変調速度が数 [Gbit/s] を超える場合には,一般に,光源と変調回路を分離し,LN 変調器,EA 変調器などを用いた外部変調方式が採用される。

LN 変調器は,導波路構造のマッハツェンダ干渉計構成をとり,電極に電圧を印加したとき,ポッケルス効果により導波路の光の位相が変化し,光の干渉状態が変わることを利用して出力光をオン/オフしている。

(ⅱ) LD の温度制御,強度制御,波長制御など

  1. 温度変化による発振波長の変動を補償する温度制御(ATC)は,抵抗値の温度依存性が大きいアバランシホトダイオード(APD)を LD 近傍に配置し,APD の抵抗値の変動を監視し,その変動量をフィードバックさせることにより,LD の温度を一定に保つものである。(
  2. 経年劣化などによる出力強度の低下を補償する強度制御(APC)は,LD の端面近傍にモニタ PD を配置し,モニタ PD の受光電流の変動を監視し,その変動量をフィードバックさせることにより,LD の出力強度を一定に保つものである。(
  3. 高い波長安定性が求められる WDM システムなどにおいては,一般に,ATC に加えて,波長制御(AFC)が行われる。AFC は,LD の出力光の波長変動を監視し,その変動量をフィードバックさせることにより,LD の出力波長を一定に保つものである。(
  4. LD の発振波長は,用いられる半導体材料によって決まるが,波長可変 LD では,温度制御,電流注入制御などにより屈折率を変化させる方法,共振器長を変化させる方法などにより,発振波長を制御することができる。(

温度変化による発振波長の変動を補償する温度制御(ATC)は,抵抗値の温度依存性が大きいサーミスタを LD 近傍に配置し,APD の抵抗値の変動を監視し,その変動量をフィードバックさせることにより,LD の温度を一定に保つものである。

(ⅲ) 光通信システムで用いられる多重化方式

  1. 光パルスをフレームごとに少しずつ時間をずらして多重化する方式は TDM といわれ,多重化後の信号のパルス幅は多重化前より広くなり,ビットレートは多重化数に応じて上昇する。(
  2. 信号形態や伝送速度が異なる複数の波長の光を 1 本の光ファイバケーブルで伝送する方式は WDM といわれ,多重する波長数により,百波程度を多重化する CWDM と十数波程度を多重化する DWDM に分類される。(
  3. WDM で使用される波長は,ITU-T 勧告で規定されており,DWDM では,一般的な EDFA の増幅帯域のほぼ中央の周波数である 193.1 [THz] を中心に,一定の間隔で配列されている。(
  4. 中継系の光通信システムでは,WDM 技術により多重化された複数の光信号を,さらに TDM 技術を用いて一括して多重化する方法により,1 心の光ファイバで数 [Tbit/s] の高速伝送を実現している。(

光パルスをフレームごとに少しずつ時間をずらして多重化する方式は TDM といわれ,多重化後の信号のパルス幅は多重化前より狭くなり,ビットレートは多重化数に応じて上昇する。

信号形態や伝送速度が異なる複数の波長の光を 1 本の光ファイバケーブルで伝送する方式は WDM といわれ,多重する波長数により,十数波程度を多重化する CWDM と百波程度を多重化する DWDM に分類される。

中継系の光通信システムでは,TDM 技術により多重化された複数の光信号を,さらに WDM 技術を用いて一括して多重化する方法により,1 心の光ファイバで数 [Tbit/s] の高速伝送を実現している。

(ⅳ) フォトニック結晶光ファイバ(PCF)

  1. クラッド部に空孔を周期的に配列した構造の光ファイバは,一般に,PCF といわれ,光の導波原理により,屈折率導波型又はフォトニックバンドギャップ型に分類される。(
  2. 屈折率導波型 PCF は,一般に,コア部とクラッド部が同じガラス素材で構成されているが,クラッド部に設けられた空孔によりクラッド部の実効的な屈折率がコア部の屈折率と比較して小さくなるため,全反射によって光を閉じ込めて伝搬させることができる。(
  3. フォトニックバンドギャップ型 PCF は,中空のコアにフレネル反射によって光を閉じ込めて伝搬するため,ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。(

フォトニックバンドギャップ型 PCF は,中空のコアにブラック反射によって光を閉じ込めて伝搬するため,ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。

問4

(1) 光通信で用いられるテープ形光ファイバ心線(テープ心線)など

幹線系や配線系で用いられる光ファイバケーブルには,限られた管路空間内や架空構造物に効率良く布設・収容するため,光ファイバ心線の高密度収容,ケーブルの細径化などが求められる。光ファイバ心線の収容密度を高めるために使用されるテープ心線は,一般に,一次被覆された直径 250 [μm] の単心の光ファイバ素線を複数本並列に並べ,UV 硬化型樹脂を用いてテープ状に連結したものであり,光ファイバリボンなどともいわれる。

テープ心線の構造には,並列に並べられた複数の光ファイバ素線の周囲を全て二次被覆で覆い一体化したカプセル型,複数の光ファイバ素線のうち隣接する光ファイバ素線相互間を接着したエッジボンド型などがある。テープ心線構造は,光ファイバ心線 1 本当たりに必要な断面積を,単心構造と比較して,約 20 [%] 小さくできるため,高密度収容及び細径化に有利である。また,テープ心線は,4 心や 8 心のまま一括で融着接続できるため,単心単位での融着接続より接続作業に要する時間を大幅に短縮することが可能である。

テープ心線を収容する地下光ファイバケーブルの外被の内側には,一般に,防水テープが配され,水が浸入すると,防水テープが吸水・膨張してケーブル内の空隙を埋めることによって水走りを防止する構造になっている。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) 光ファイバの接続技術など

(ⅰ) 光ファイバの融着接続技術

  1. 融着接続機で用いられる高周波トリガ方式は,高周波でアーク放電を行う際,放電開始時のみ必要な高電圧を断続的に加えることにより,少ない消費電力で光ファイバ端面を加熱溶融し,融着接続することができる。(
  2. 融着接続における予加熱処理は,アーク放電により,光ファイバ端面のゴミを除去するとともに整形し,端面の不完全さによって生ずる接続不良を防ぐための工程であるが,予加熱機能が付いた融着接続機を使用しても,接続する光ファイバ端面に傾斜,欠け,突起などがあると良好な接続が得られない場合がある。(
  3. 融着接続では,一般に,接続する光ファイバ端面を V 溝上に整列させた状態で軸合わせ及び予加熱処理を行った後,アーク放電の開始と同時に,一方の光ファイバを移動させて端面を接触させてから,さらに押し込み,自己調心作用を利用して接続する方法が採られている。(
  4. 融着接続部は,光ファイバの被覆が完全に除去されており,機械的強度が低下しているため,一般に,融着接続後に熱収縮スリーブなどで補強した後,一定の荷重を一定時間加えて著しく弱い接続部を除去するスクリーニングが行われる。(

スクリーニングを行った後,熱収縮スリーブなどで補強する。

(ⅱ) 光ファイバのメカニカルスプライス接続技術

  1. メカニカルスプライス接続法は,一般に,V 溝などを用いて光ファイバ端面を突き合わせるとともに,押さえ部材により光ファイバを押し付けて固定することにより軸合せを行う永久接続法の一つである。(
  2. メカニカルスプライス接続で用いられるメカニカルスプライス素子は,小型・軽量で構造が簡単,多数の V 溝を設けることにより多心接続が可能などの特徴があり,マンホール内の幹線系光ファイバケーブルの接続に広く用いられている。(
  3. メカニカルスプライス接続などで用いられる屈折率整合剤は,コアと同等の屈折率を持ち,接続する光ファイバ端面間の空気層を排除して接続部において屈折率が不連続になることを抑制する効果がある。(

地下では,屈折率整合剤が水分により流れ出てしまうおそれがあるため,メカニカルスプライス接続は用いられない。

(ⅲ) 光コネクタ接続技術

  1. 光コネクタ接続では,光ファイバの光軸を高精度に一致させること,接続端面間の間隙をなくすこと,さらに,これらを再現性良く実現することが要求されるため,一般に,光ファイバ端面間を直接接触させる PC(Physical Contact)接続が採用されている。(
  2. 光コネクタ接続において,光ファイバは,光軸を一致させるため強化ガラスやプラスチック製のフェルールといわれる部材の内部に精密に位置決めされ固定されている。強化ガラスは,耐久性に優れ,精密加工ができる硬さと現場での研磨が可能な柔らかさを兼ね備えた部材である。(
  3. 光コネクタ接続においては,接続するフェルールどうしを正確に軸合わせし,所定の方法以外では外れないようにするために,アダプタが用いられる。光コネクタ用のアダプタは,接続するフェルールどうしを,V 溝基板及びファイバクランプより位置ずれなく結合し固定する構造となっている。(
  4. 光コネクタでは,光ファイバは接着剤によりフェルールの内部に固定されているため,温度や湿度が変動しても,光ファイバの端面がフェルールの端面より引っ込む又は突き出す現象が発生することはない。(

2. 光コネクタ接続において,光ファイバは,光軸を一致させるため強化ガラスやプラスチック製のフェルールといわれる部材の内部に精密に位置決めされ固定されている。ジルコニアは,耐久性に優れ,精密加工ができる硬さと現場での研磨が可能な柔らかさを兼ね備えた部材である。

3. 下線部は融着接続の説明である。

4. 光コネクタでは,光ファイバは接着剤によりフェルールの内部に固定されているため,温度や湿度が変動しても,光ファイバの端面がフェルールの端面より引っ込む又は突き出す現象が発生する

(ⅳ) 光コネクタの端面研磨技術

  1. フェルールの端面を平面に研磨するフラット研磨では,一般に,光ファイバの端面がフェルールの端面よりも内側になるため,光ファイバ接続点の隙間においてフレネル反射が生じ,接続損失及び反射量が増加する場合がある。(
  2. フェルールの端面を凸球面状に研磨する PC 研磨では,一般に,光ファイバの先端が理想球面より削られてくぼんだ状態になるが,コネクタ接続時にフェルールが押されることで先端部が弾性変形し,光ファイバの端面どうしが直接接触するため,フラット研磨と比較して,反射を抑えた安定した接続が可能である。(
  3. フェルールの端面を斜め 8 度で凸球面状に研磨する斜め PC 研磨では,一般に,接続点で発生する反射光を光ファイバのコア方向に反射させることから,PC 研磨と比較して,反射による影響を小さくすることができる。(

フェルールの端面を斜め 8 度で凸球面状に研磨する斜め PC 研磨では,一般に,接続点で発生する反射光を光ファイバの入射端に反射させない,PC 研磨と比較して,反射による影響を小さくすることができる。

問5

(1) 光ファイバケーブルの分類,特徴など

光ファイバケーブルの構造は,メタリックケーブルの構造と類似した層型及びユニット型,光ファイバケーブル独自のテープ心線スロット型などに分類できる。

層型は,テンションメンバの周囲に光ファイバ心線を直接撚り合わせ,これを緩衝材で覆って外被を施した構造であり,一般に,数十心程度の光ファイバケーブルに適している。

ユニット型は,ユニット中心部材の周囲に光ファイバ心線を 5 心 ~ 10 心程度撚り合わせ,これを緩衝材で覆ったものを 1 ユニットとし,複数ユニットをテンションメンバの周囲に撚り合わせた構造であり,一般に,数百心程度の光ファイバケーブルに適している。

テープ心線スロット型は,一般に,スロットロッドといわれる棒状のポリエチレンに設けられた溝の内側に,4 心,8 心などのテープ形光ファイバ心線を収納する構造によって光ファイバを側圧から保護し,1,000 心以上の高密度収容を可能としたものがある。スロットロッドの溝には,一定ピッチで撚り方向を反転させた SZ 撚りと一方向撚り(S 撚り又は Z 撚り)がある。SZ 撚りは,光ファイバケーブルの中間後分岐において,光ファイバ心線の引き出し,接続余長の確保などが,一方向撚りと比較して,容易であり,配線系ケーブルなどに広く用いられている。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) 光ファイバケーブルの張力及び伸び率,光ファイバケーブル用クロージャ,光通信システムの損失など

(ⅰ) 架空光ファイバケーブルの張力及び伸び率

  1. 架空光ファイバケーブルにおける張力とは,ケーブルを架渉した際にケーブルの線条方向に加わる力のことであり,ケーブル張力 $T$ [N] は,弛度を $d$ [m],単位長さ当たりのケーブル荷重を $W$ [N/m],電柱間のスパン長を $S$ [m] とすると,次式で求められる。(
  2. \[ T = \frac{WS^2}{8d} \]
  3. 自己支持型光ファイバケーブルの伸び率 $\Sigma$ は,支持線の水平方向の張力を $T$ [N],断面積を $A$ [mm²],弾性係数を $E$ [N/mm²] とすると,次式で求められる。(
  4. \[ \Sigma = \frac{T}{AE} \]
  5. 光ファイバケーブルの架設設計においては,温度,風圧,着雪などの影響によりケーブルの張力が変動することを考慮して,適切な弛度を確保する必要がある。ケーブルに加わる荷重の条件が同じであれば,一般に,温度が上昇すると張力は減少し,弛度は増加する。(
  6. 光ファイバケーブルは,布設時の最大張力が加わったときに光ファイバの伸び率が許容値以下となるように設計されており,光ファイバケーブルの最大許容伸び率は,一般に,2 [%] とされている。(

光ファイバケーブルは,布設時の最大張力が加わったときに光ファイバの伸び率が許容値以下となるように設計されており,光ファイバケーブルの最大許容伸び率は,一般に,0.2 [%] とされている。

(ⅱ) 光ファイバケーブル用クロージャ(クロージャ)

  1. クロージャは,光ファイバ心線の接続箇所に設置され,光ファイバ心線の接続部,心線の余長などを保護・収納するためのものであり,用途によって,架空用と地下用に大別される。クロージャには,その形状,防水性能などによっては,架空用及び地下用の双方に使用できるものがある。(
  2. 架空用クロージャには,一般に,JIS で規定される,あらゆる方向からの水の飛まつに対しても影響がないとされる,IP コードの第 2 特性数字が 4(IPX4 と表示される。)以上の防水性能を有するスリーブ(外郭)が用いられる。(
  3. クロージャ内における心線の接続形態には,直接接続,スロット切断中間分岐接続,スロット無切断中間分岐接続などがある。このうち,直接接続は,光ファイバケーブルの外被を剥ぎ,分岐に必要な光ファイバ心線のみをスロットから取り出して分岐ケーブルと接続するもので,主に,SZ 型光ファイバケーブルで採用される接続形態である。(
  4. クロージャにおいては,限られたスペース内に,光ファイバ心線を定められた許容曲率半径を確保しつつ高密度に収容するため,また,回線増設,故障修理時などにも心線の識別,取出しがが容易に行えるようにするため,心線の接続部や余長は,一般に,ケースやトレイに収納されている。(

クロージャ内における心線の接続形態には,直接接続,スロット切断中間分岐接続,スロット無切断中間分岐接続などがある。このうち,スロット無切断中間分岐接続は,光ファイバケーブルの外被を剥ぎ,分岐に必要な光ファイバ心線のみをスロットから取り出して分岐ケーブルと接続するもので,主に,SZ 型光ファイバケーブルで採用される接続形態である。

光クロージャの選定方法|光クロージャ|光クロージャ・光接続箱|古河電気工業株式会社」参照。

(ⅲ) 光通信システムにおける損失など

  1. 光通信システムで伝送される信号の品質は,SN 比と波形ひずみに影響される。SN 比の劣化と波形ひずみの要因は,通信用光ファイバケーブルの分散と損失であり,一般に,SN 比は分散により劣化し,また,波形ひずみは損失により増大する。(
  2. 光通信システムの中間間隔は,送信側の出力光パワーと受信側の受光感度が定まれば,主に光ファイバの損失と伝送帯域によって決まる。光ファイバの損失は伝搬モードの種類に関係なく開口数により,また,伝送帯域はコアとクラッドの屈折率差により決まる。(
  3. EDFA などを用いた線形中継方式の光通信システムでは,一般に,中継区間で発生する損失は補償されて信号光レベルは回復するが,SN 比は劣化する。SN 比の劣化は,主に,光増幅器で発生する自然放出光と信号光によるビート雑音に起因して生ずるものである。(

光通信システムで伝送される信号の品質は,SN 比と波形ひずみに影響される。SN 比の劣化と波形ひずみの要因は,通信用光ファイバケーブルの分散と損失であり,一般に,SN 比は損失により劣化し,また,波形ひずみは分散により増大する。

光通信システムの中間間隔は,送信側の出力光パワーと受信側の受光感度が定まれば,主に光ファイバの損失と伝送帯域によって決まる。光ファイバの損失は材料要因と外的要因により,また,伝送帯域は光ファイバの特性(モード分散)により決まる。

(ⅳ) 平面線形が直線の管路区間モデル

図に示すような平面線形が直線の管路区間モデルにおいて,以下に示す条件で X 点から Y 点へ光ファイバケーブルを布設する場合,Y 点での張力は,850 [N] である。

(条件)
  1. X 点直前の張力:500 [N]
  2. 区間長:100 [m]
  3. ケーブル質量:0.7 [kg/m]
  4. 重力加速度:10 [m/s²]
  5. 摩擦係数:0.5
  6. 光ファイバケーブルの布設ルートに高低差はないものとする。
平面線形が直線の管路区間モデル
図 平面線形が直線の管路区間モデル

Y 点での張力は,次式で求められる。

\[ 500 + 10 \times 0.5 \times 0.7 \times 100 = 500 + 350 = 850 \text{ [N]} \]
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