平成28年度 第2回 専門的能力・通信線路

2019年6月24日作成,2020年12月30日更新

問1

(1) メタリックケーブルを用いたアナログ伝送系における雑音及びひずみの種類と特徴

メタリックケーブルを用いたアナログ伝送系における雑音は,一般に,伝送系内部で発生する雑音と外部から侵入する雑音に分けられ,さらに,伝送系内部で発生する雑音は,信号を伝送していない場合でも存在する基本雑音と信号伝送に伴って発生する準漏話雑音とに分けることができる。基本雑音は,通話の有無と無関係であることから,信号レベルの低いところで問題となり,一般に,大きな妨害になるものは増幅器で発生する雑音であり,その主な成分の一つは,周波数に対して一様に分布している雑音である。

一方,伝送系の入力側に加えられた信号波形と出力側に現れる信号波形が異なる現象は,ひずみといわれる。このうち,位相ひずみは,伝送系の位相量が周波数に対して比例関係にないため,すなわち群伝搬時間が周波数により異なるために生ずるひずみであり,伝送品質に影響を及ぼす。

また,非直線ひずみは,伝送系の入力と出力が比例関係にないために生ずるひずみである。伝送路中の増幅器などの非直線ひずみによる高調波及び混変調波の発生は,雑音の原因となる。

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」参照

(2) 光通信などに応用されている光の性質,光ファイバにおける損失,劣化要因など

(ⅰ) 光通信などに応用されている光の性質

  1. 光の波動としての性質に干渉がある。同一光源からの光を二つの光路に分け,再び合成したとき,二つの光の位相がそろっているときはインコヒーレントな光といわれ互いに干渉しあい,二つの光の位相がそろっていないときはコヒーレントな光といわれ互いに干渉しない。光通信には,位相のそろったインコヒーレントな光が適している。(
  2. 直線偏光が物体中を透過するとき,その偏光面が回転する現象は旋光といわれ,直線偏光の進行方向に対し平行な磁界をかけることによって旋光性が現れる現象はボッケルス効果といわれる。光カプラは,この現象を利用した光デバイスである。(
  3. 光は互いに直交する電界と磁界によって構成される電磁波の一種であり,光の進行方向と垂直に振動する横波である。電界の振動方向が一定した光は直線偏光,進行とともに電界が回転する光は楕円偏光又は円偏光といわれる。(
  4. 屈折率の高い媒質 A から入射した光が屈折率の低い媒質 B との境界面に沿って進むときの入射光と二つの媒質の境界面の法線とのなす角度はブリュースター角といわれ,入射角がこの角度より大きくなると光は媒質 B に入ることができず全反射する。(

光の波動としての性質に干渉がある。同一光源からの光を二つの光路に分け,再び合成したとき,二つの光の位相がそろっているときはコヒーレントな光といわれ互いに干渉しあい,二つの光の位相がそろっていないときはインコヒーレントな光といわれ互いに干渉しない。光通信には,位相のそろったコヒーレントな光が適している。

直線偏光が物体中を透過するとき,その偏光面が回転する現象は旋光といわれ,直線偏光の進行方向に対し平行な磁界をかけることによって旋光性が現れる現象はファラデー効果といわれる。光アイソレータは,この現象を利用した光デバイスである。

屈折率の高い媒質 A から入射した光が屈折率の低い媒質 B との境界面に沿って進むときの入射光と二つの媒質の境界面の法線とのなす角度は臨界角といわれ,入射角がこの角度より大きくなると光は媒質 B に入ることができず全反射する。

(ⅱ) 光ファイバにおける損失

  1. 光ファイバにおけるレイリー散乱損失は,主に短波長側で支配的となる損失であり,光ファイバ製造時に高温状態で固化する際にコアとクラッドの境界面にできる凹凸が原因で発生する。(
  2. 光ファイバを放射線下で使用すると,石英ガラスの構造欠陥が放射線によって生じた電子や正孔を捕捉し,光を吸収することで光損失が増加する。放射線による光損失は,一般に,放射線量が増加すると大きくなり,減少すると小さくなる。(
  3. 光ファイバの損失発生の原因の一つとして,水素分子による光の吸収がある。これは,水素分子が光ファイバ中に存在することで生じ,水素分子を取り除くと損失は減少する。水素分子による損失発生の防止策としては,光ファイバ周辺からの水素の発生を抑える,光ファイバ内部への水素分子の拡散を防止するための障壁を設けるなどの方法がある。(

光ファイバにおけるレイリー散乱損失は,主に短波長側で支配的となる損失であり,光ファイバ製造時に高温状態で固化する際にコアとクラッドの密度のゆらぎが原因で発生する。

(ⅲ) 光ファイバにおける伝搬特性

  1. 光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには,規格化周波数 $V$ が用いられ,空気中の光の波長を $\lambda$,コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,$V$ は次式で表すことができる。(
  2. \[ V = \frac{2\pi a}{\lambda} \times \sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]
  3. 基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ガウス型で近似することができる。(
  4. SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面で全反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $2\pi$ の整数倍になる必要がある。(
  5. SM 光ファイバにおけるモードフィールド径とは,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $1/\sqrt{e}$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。(

SM 光ファイバにおけるモードフィールド径とは,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $1/e^2$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。

モードフィールド直径
図 モードフィールド直径

(ⅳ) 石英系光ファイバにおける分散など

  1. 光ファイバの材料であるガラスの屈折率が光の周波数により僅かながら異なるため,光ファイバ中を伝搬する光パルスの幅が狭まる現象は分散といわれる。(
  2. 光ファイバ中での分散には,材料分散,構造分散,モード分散及び偏波モード分散の四つがあり,このうち材料分散と構造分散の和は波長分散といわれる。(
  3. MM 光ファイバにおいては,光ファイバ中を伝搬する各モードの伝搬速度が異なるために生ずるモード分散が,相互位相変調を引き起こすため,伝送帯域を制限する主な要因となる。(
  4. SM 光ファイバのゼロ分散波長や分散スロープを制御して製作された光ファイバは,総称してフォトニック結晶光ファイバといわれる。(

光ファイバの材料であるガラスの屈折率が光の周波数により僅かながら異なるため,光ファイバ中を伝搬する光パルスの幅が広がる現象は分散といわれる。

MM 光ファイバにおいては,光ファイバ中を伝搬する各モードの伝搬速度が異なるために生ずるモード分散が,符号間干渉を引き起こすため,伝送帯域を制限する主な要因となる。

SM 光ファイバのゼロ分散波長や分散スロープを制御して製作された光ファイバは,総称して分散制御光ファイバといわれる。

符号間干渉(Intersymbol interference : ISI)は,電気通信における信号の歪みの一種で,隣接する符号間で干渉が起きることを意味する。これは,前後の符号が一種のノイズとして働く好ましくない現象であり,通信の信頼性が低下する。ISI は一般に,多重伝送や伝送路の非線形周波数特性によって発生する。

問2

(1) 光ファイバの特徴など

光通信システムで広く用いられている石英系光ファイバには,低損失,広帯域,無誘導,無漏話などといった特徴がある。

石英系光ファイバの損失は,1.55 μm 帯で最小となり,この波長帯域は,一般に,C バンドといわれる。例えば,0.2 [dB/km] の損失値の光ファイバは,信号光を 100 [km] 伝送した後での光パワーが 1/100 に減衰するが,この損失値は,同軸ケーブル,無線伝送路などと比較すると非常に小さい値である。さらに,C バンドの周波数帯域幅は約 4.4 [THz] に相当しており,石英系光ファイバは広い周波数範囲にわたって低損失である。

平衡対ケーブルなどの金属伝送媒体では,表皮効果により周波数の平方根に比例して損失が増加するため,高周波になると伝搬距離が急激に短くなる。これに対し,光ファイバでは,分散により伝送周波数帯域が決まることから,使用する波長帯や光ファイバの種類を選ぶことによって,長距離にわたり広い伝送周波数帯域を確保することが可能である。また,光ファイバは,ガラスやプラスチックなどの誘電体を伝送媒体として用いていることから,電磁誘導が発生しないため,電力線と同一のケーブルに収容したり,工場内や鉄道沿線などの電磁環境の厳しい場所で使用することも可能である。

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」「光ファイバケーブルの伝送理論」参照

表 各バンドと波長
バンド(略称) バンド 波長 [nm]
T-band Thousand-band 1 000 - 1 260
O-band Original-band 1 260 - 1 360
E-band Extended-band 1 360 - 1 460
S-band Short-wavelength-band 1 460 - 1 530
C-band Conventional-band 1 530 - 1 565
L-band Long-wavelength-band 1 565 - 1 625
U-band Ultralong-wavelength-band 1 625 - 1 675

(2) 光ファイバ,発光及び受光デバイスなど

(ⅰ) SM 光ファイバの特徴など

  1. SM 光ファイバは,光ファイバ中を伝搬可能な導波モードを一つだけに制限することによって,波長分散による光信号波形の劣化を防止した光ファイバである。(
  2. 屈折率分布構造は,光ファイバの寸法や分類を定義するときに用いられるだけでなく,光学特性や伝送特性を決定する重要なパラメータであり,SM 光ファイバの屈折率分布構造は,一般に,グレーデッドインデックス型である。(
  3. 偏波モード分散は,理想的な真円構造を保った SM 光ファイバであれば生ずることはないが,実際の SM 光ファイバのコア形状には僅かなゆがみが存在することから,高速かつ長距離伝送の場合には問題となる場合がある。(
  4. SM 光ファイバの波長分散値の単位には,一般に,[ps/nm/km] が用いられる。通常の SM 光ファイバの波長分散値は,1.31 [μm] 付近で約 17 [ps/nm/km] であり,伝送損失が最も小さくなる 1.55 [μm] 付近ではゼロである。(

SM 光ファイバは,光ファイバ中を伝搬可能な導波モードを一つだけに制限することによって,モード分散による光信号波形の劣化を防止した光ファイバである。

屈折率分布構造は,光ファイバの寸法や分類を定義するときに用いられるだけでなく,光学特性や伝送特性を決定する重要なパラメータであり,SM 光ファイバの屈折率分布構造は,一般に,ステップインデックス型である。

SM 光ファイバの波長分散値の単位には,一般に,[ps/nm/km] が用いられる。通常の SM 光ファイバの波長分散値は,伝送損失が最も小さくなる 1.55 [μm] 付近で約 17 [ps/nm/km] であり,1.31 [μm] 付近ではゼロである。

(ⅱ) 光ファイバの添加物の種類とその役割など

  1. 石英系光ファイバでは,コアとクラッドの屈折率差をより大きくするため,一般に,コアやクラッドに添加物を加えることにより屈折率を制御している。(
  2. 石英系光ファイバでは,一般に,コアの屈折率を上げる添加物としてゲルマニウム,リンなどが用いられ,クラッドの屈折率を下げる添加物としてホウ素,フッ素などが用いられる。(
  3. 希土類添加光ファイバのコアには,増幅する波長帯に応じて異なる希土類元素が添加され,主な添加物として,1.55 μm 帯用にはエルビウム,1.4 μm 帯用にはツリウム,また,1.3 μm 帯用にはプラセオジムなどが用いられる。(
  4. 希土類添加光ファイバのコアには,屈折率分布形成用及び増幅動作用のための添加物のほかに,雑音指数向上のためにアルミニウムが添加されているものがある。(

希土類添加光ファイバのコアには,屈折率分布形成用及び増幅動作用のための添加物のほかに,雑音指数向上のためにエルビウムが添加されているものがある。

(ⅲ) 光ファイバ通信に用いられる発光デバイス

  1. LED は,LD と比較して,変調可能帯域が広く発光スペクトル幅が狭いが,駆動回路が簡単で製造コストが安いため,プラスチック光ファイバ,MM 光ファイバを使用した低速度の近距離通信などに用いられている。(
  2. LED の発光中心波長は,半導体の共振器構造を変えることによって変化させることができる。また,発光中心波長は,電流値と温度によっても変化し,一般に,電流値を上げると長波長側にシフトし,温度を上げると短波長側にシフトする。(
  3. LD の出力光強度を数 [GHz] 以上で直接変調する場合には,一般に,ファブリペロー型 LD は多モードで発振するようになり伝送距離が制限されることから,高速変調時でも単一モードで発振する分布帰還型 LD や分布反射型 LD が用いられる。(
  4. LD は,LED と比較して,発光面積が小さく放射角も小さいため,光ファイバとの結合効率が悪く,また,電気から光への変換効率も低い。(

LED は,LD と比較して,発光スペクトル幅が広い。

LD の発光中心波長は,半導体の共振器構造を変えることによって変化させることができる。また,発光中心波長は,電流値と温度によっても変化し,一般に,電流値を上げると短波長側にシフトし,温度を上げると長波長側にシフトする。

LD は,LED と比較して,発光面積が小さく放射角も小さいため,光ファイバとの結合効率が良く,また,電気から光への変換効率も高い

(ⅳ) 光ファイバ通信に用いられる受光デバイス

  1. PIN - PD の量子効率及び応答速度は,P 層と N 層の間に挟まれた I 層の厚さによって変化し,一般に,I 層を厚くすると量子効率は向上するが応答速度は低下する。このため,I 層の厚さは,量子効率,応答速度,必要となる逆バイアス電圧などを考慮して決定される。(
  2. APD は,PIN - PD と比較して,受信感度は高いが,構造が複雑で高い逆バイアス電圧を必要とし,信号出力を増倍する過程で生ずる雑音が問題になる場合がある。(
  3. 受光素子は能動素子であるため,通常の使用条件下では,周波数特性,量子効率などの経時劣化を考慮する必要があり,発光素子と比較して,信頼性が低い。(

受光素子,発光素子のいずれにおいても,信頼性は製品の品質による。受光素子は,発光素子と比較して,信頼性が低い,と一概には言えない。

問3

(1) EDFA を構成する光デバイス

EDFA は,EDF,励起光源,光カプラ,光アイソレータ及び光フィルタの五つの主要なデバイスから構成され,1.55 μm 帯などでの増幅に用いられる。

EDFA における増幅媒体である EDF では,励起光によって励起状態にあるエルビウムイオンが,入射した信号光と同位相で同じ波長の光を誘導放出することによって信号光が増幅される。EDF は,伝送用光ファイバと同じ石英ガラスを主成分とする SM 光ファイバであり,そのクラッド径は 125 [μm] であるが,コア径は増幅性能を向上させるために伝送用光ファイバより細く,一般に,3 [μm] ~ 6 [μm] である。

EDFA における励起光源には,一般に,エネルギー変換効率に優れる出力波長 1.48 [μm] の LD,理論限界に近い雑音特性が得られる出力波長 0.98 [μm] の LD またはそれら両方が用いられる。

光カプラは,励起光と信号光とを低損失で合波するためのデバイスであり,光アイソレータは,光ファイバや他の光デバイスからの反射光を阻止して雑音増加などを防止するためのデバイスである。また,EDF の出力側に配置される光フィルタは,信号光帯域以外の ASE 光を除去するためのデバイスであり,帯域通過型が用いられる。

光ファイバケーブルの伝送理論 希土類ドープファイバ」参照

光ファイバ増幅器の構成
図 光ファイバ増幅器の構成

(2) 光増幅器の種類,特徴,光変調方式の特徴,光合分波器など

(ⅰ) 光増幅器の種類,特徴など

  1. 半導体光増幅器は,電流注入により励起が可能であり,希土類添加光ファイバ増幅器と比較して,小型で他の光デバイスとの集積が容易である,増幅可能な波長帯域幅が広いなどの利点を持つが,光通信システム用としては,光ファイバとの結合,偏波依存性などにおいて課題があり,希土類添加光ファイバ増幅器ほど普及していない。(
  2. 希土類添加光ファイバ増幅器は,光ファイバを増幅媒体として用いるため,他の光ファイバ部品との接続が容易であり接続損失が小さい,高利得である,偏波依存性がないなどの利点を持つが,特定の波長帯域しか増幅できないため,増幅する波長帯域を変えるためには添加物が異なる光ファイバを使用する必要がある。(
  3. 希土類添加光ファイバ増幅器の一種である EDFA は,増幅波長帯域が石英系光ファイバの最低損失波長帯域である 1.55 μm 帯に一致していることから,長距離系伝送システムにおいてプリアンプ,インラインアンプ,ブースターアンプなどとして用いられている。(
  4. 光ファイバラマン増幅器は,誘導ラマン散乱といわれる光ファイバのファラデー効果を利用しており,励起光波長を選択することによって任意の波長の光を増幅できる特徴を有している。(

光ファイバラマン増幅器は,誘導ラマン散乱といわれる光ファイバの光学フォノンを利用しており,励起光波長を選択することによって任意の波長の光を増幅できる特徴を有している。

(ⅱ) 光変調方式の特徴など

  1. 光ファイバ通信システムで用いられる変調方式には,LD や LED の光強度を変化させてデジタル信号を伝送する強度変調があり,この変調方式では,1 と 0 に対応した光強度の比が小さいと雑音などの影響を受けやすくなる。(
  2. 光ファイバ通信システムで用いられる外部変調方式は,LD から出射される無変調の光を変調専用のデバイス(外部変調器)を用いて変調するものであり,波長チャーピングが少なく,数 [GHz] 以上の高速変調が可能である。(
  3. LN 変調器は,ポッケルス効果を利用して位相変調,強度変調及び偏波変調が可能であり,位相変調の原理は,加えた電圧によって生ずるブラッグ反射を利用して,導波路を伝搬する光の位相を変化させるものである。(
  4. EA 変調器は,半導体の導波路における光の吸収量(損失)の波長依存性が,印加する電圧で変化する性質を利用したものであり,LN 変調器と比較して,一般に,小型で動作電圧が低く LD との集積が容易である。(

LN 変調器は,ポッケルス効果を利用して位相変調,強度変調及び偏波変調が可能であり,位相変調の原理は,加えた電圧によって生ずる屈折率変化を利用して,導波路を伝搬する光の位相を変化させるものである。

(ⅲ) 光分波・合波器及び光分岐・結合器

  1. 一つの入力端子から入射した複数の波長成分を含む光を,波長ごとに複数の出力端子に分岐し出射するデバイスは,光分波器といわれる。(
  2. 光合波器は,光分波器と逆の作用をするデバイスであり,一般に,光分波器の入出力を逆にすることにより,光合波器として使用することができる。(
  3. 光導波路型の光分岐・結合器の代表的な構造である Y 分岐は,多段接続して 1 × N 分岐を構成することが可能であり,光アクセス系の ADS 方式などで広く用いられている。(

光導波路型の光分岐・結合器の代表的な構造である Y 分岐は,多段接続して 1 × N 分岐を構成することが可能であり,光アクセス系の PDS(Passive Double Star) 方式などで広く用いられている。

(ⅳ) 線形中継器を用いたら光中継システム(線形中継システム)の特徴など

  1. 全ての中継器が光増幅器で構成される線形中継システムは,中継器に識別回路,タイミング抽出回路など信号光の符号形式や伝送速度を制約する電子回路類を有してないことから,システムを構築した後でも伝送速度,多重する波長数などの変更が容易である。(
  2. 線形中継システムでは,信号光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数に比例して増大し,また,ASE 光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数の 2 乗に比例して増大する。(
  3. 線形中継システムにおける線形中継器において,光出力レベルの上限値は ASE 雑音の累積による SN 比の劣化によって制限され,下限値は光ファイバの非線形性による波形劣化によって制限される。(
  4. 3R 機能を持たない線形中継システムでは,線形中継器における SN 比の劣化及び光ファイバの波長分散に起因する波形劣化の累積が,符号誤り率特性を決める支配的要因となる。(

正しくは「光雑音」「分散」である。なお,ASE とは自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission)である。

問4

(1) 光ファイバ通信システムにおける損失補償及び分散補償

光ファイバ増幅器を用いた光通信システムにおいては,光ファイバの損失による信号光パワーの低下は光ファイバ増幅器で補償されて回復するが,SN 比は劣化する。信号光が光ファイバ増幅器を $m$ 台通過した後の SN 比は,光ファイバ増幅器の雑音指数を $NF$ とすると,$10 \log_{10}{mNF}$ [dB] 劣化する。これが光ファイバ増幅器で損失補償を行っても,伝達距離を無限に延ばすことができない要因の一つである。

波長分散は,一般に,伝送用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスなどを挿入することで補償される。光ファイバ通信システムでは,一般的に使用する 1.55 [μm] 帯の信号光は,ゼロ分散波長である 1.31 [μm] より長波長側の異常分散領域にあり,長距離伝送時には波長分散が伝送特性の劣化要因となることから,伝送用光ファイバとは逆の分散値を持つ光ファイバである DCF を周期的に挿入するなどして波長分散の累積をゼロに近づけている。

光ファイバ増幅器と分散補償器によって長距離伝送が可能となるが,実際の光ファイバ通信システムでは,光ファイバの非線形現象による波形劣化も問題となる。波形劣化をもたらす非線形現象の一つに,信号光が光ファイバ中を伝搬するとき,自分自身の強度に起因する屈折率変化によって位相がシフトする自己位相変調現象がある。

中継系線路の光ファイバケーブル設計 分散マネジメント」参照

(2) 架空構造物,支線の種類など

(ⅰ) 架空構造物

  1. 架空構造物は,電柱,クロージャ,吊り線,支持線,支線,金物類などで構成され,これらは,電気通信関連の法令において配線系設備として定義されている。(
  2. 支柱は,支線が取り付けられない場合に,一般に,支線の取付け方向とは反対側に取り付けられ,本柱(支柱を取り付ける電柱をいう。)に作用する水平荷重を分担する。支柱には,一般に,本柱と同一設計荷重の電柱が使用される。(
  3. コンクリート柱は,JIS 規格において,1 種及び 2 種に分類され,1 種コンクリート柱は鉄道,軌道における電線路などの用途に,また,2 種コンクリート柱は通信,配電,送電などの用途に使用される。(

架空構造物は,電柱,クロージャ,吊り線,支持線,支線,金物類などで構成され,これらは,電気通信事業を定める法令である有線電気通信法において支持物として定義されている。

有線電気通信設備令 第一条 定義

支持物 電柱,支線,つり線その他電線又は強電流電線を支持するための工作物

コンクリート柱は,JIS 規格において,1 種及び 2 種に分類され,1 種コンクリート柱は通信,配電,送電などの用途に,また,2 種コンクリート柱は鉄道,軌道における電線路などの用途に使用される。

(ⅱ) 支線の種類,支線と電柱の荷重分担割合など

  1. 支線は,吊り線,支持線などから電柱に加わる水平荷重に対抗して,電柱の傾斜や転倒を防止するために取り付けられるワイヤであり,電柱に取り付ける上部支線及び地下に埋設して地耐力を得る下部支線で構成される。(
  2. 曲柱に取り付けられる支線は引留支線,線路の起点や終点の電柱に取り付けられる支線は片支線といわれ,これら支線の取付け角度(支線角度)は,一般に,35 度~ 45 度であり,積雪地帯では雪の沈降力を考慮して 45 度となっている。(
  3. 上部支線の種別は,支線が分担する荷重,支線角度などによって決定され,下部支線の種別は,上部支線の種別,設置場所の土質などによって決定される。下部支線を地中で固定する部材としては,一般に,普通土質では支線アンカが使用され,軟弱性土質では支線ブロックが使用される。(
  4. 支線が取り付けられた単独柱に加わる水平荷重は,一般に,支線が 90 [%],電柱が 10 [%] の割合で分担する。この分担割合は,支線の代わりに支柱を用いた場合でも同じである。(

曲柱に取り付けられる支線は片支線,線路の起点や終点の電柱に取り付けられる支線は引留支線といわれ,これら支線の取付け角度(支線角度)は,一般に,35 度~ 45 度であり,積雪地帯では雪の沈降力を考慮して 35 度となっている。

(ⅲ) 電柱の構造,耐力,基礎地盤支持力など

  1. 電柱の直径増加率はテーパといわれ,テーパ $\alpha$ は,電柱の末口を $D$,元口を $D'$,長さを $L$ とすると,次式で求められ,一般に,コンクリート柱のテーパは,鋼管柱と比較して大きくなっている。(
  2. \[ \alpha = \frac{D - D'}{L} \]
  3. 電柱には,吊り線,支持線などによる水平荷重が加わるため,電柱の元口を支点に曲げモーメントが作用する。そのため,電柱は,最も強度が要求される箇所を元口として構造が決定されている。(
  4. コンクリート柱は,JIS 規格において,所定のひび割れ試験荷重を加えたとき,幅 0.25 [mm] を超えるひび割れが発生してはならず,ひび割れ試験荷重を除荷したとき幅 0.05 [mm] を超えるひび割れが残留してはならないとされている。一方,鋼管柱では,コンクリート柱と同じひび割れ試験荷重を加えても,ひび割れは発生しないため,塗装の剥がれ,座屈の有無などで合否を判定する。(
  5. 電柱の傾斜又は転倒は,基礎地盤支持力が弱く,電柱の水平荷重による曲げモーメントを根入れ部分の抵抗モーメントで支えきれない場合に発生する。そのため,基礎地盤支持力を判定する基準として,一般に,電柱が折損する直前の曲げモーメントに安全率を考慮して求めた値が用いられる。(

電柱の直径増加率はテーパといわれ,テーパ $\alpha$ は,電柱の末口を $D$,元口を $D'$,長さを $L$ とすると,次式で求められる。(電柱の末口 $D$ よりも元口 $D'$ の方が大きい。)

\[ \alpha = \frac{D' - D}{L} \]

電柱には,吊り線,支持線などによる水平荷重が加わるため,電柱の元口を支点に曲げモーメントが作用する。そのため,電柱は,最も強度が要求される箇所を地際部分として構造が決定されている。

地盤の土が押しつぶされ,電柱が倒れ始める直前の極限抵抗モーメントに安全率を考慮して設定した値を許容抵抗モーメントとし,これが基礎地盤の支持力を判定する基準となる。

(ⅳ) コンクリート柱の劣化,非破壊検査方法など

  1. コンクリート柱に過大な不平衡荷重が加わると,一般に,縦ひび割れが発生する。縦ひび割れが発生すると,電柱の種類によっては鉄筋が破断して破損に至る場合がある。(
  2. 沿岸地域に設置されたコンクリート柱の表面に海から運ばれた塩分が付着すると,塩分がコンクリートのひび割れなどを通して内部に浸透し,鉄筋が腐食膨張してコンクリートが剥落する場合がある。(
  3. 目視では確認できないコンクリート柱のひび割れ,鉄筋の破断などの検査は,非破壊で行われる。非破壊検査法には超音波法,渦流探傷法などがあり,一般に,コンクリート柱の地下部分のひび割れ検査には超音波法,鉄筋の破断検査には渦流探傷法を採用した測定器が用いられる。(

コンクリート柱に過大な不平衡荷重が加わると,一般に,横ひび割れが発生する。横ひび割れが発生すると,電柱の種類によっては鉄筋が破断して破損に至る場合がある。

問5

(1) 架空ケーブルの損傷とその対策

SS ケーブルにおいて,支持線の切裂き際でケーブルの円周方向に発生する外被の亀裂は,一般に,リングカットといわれる。リングカットは,ケーブルダンシングの発生により振動ひずみが支持線とケーブルとの切裂き際に集中し,ケーブル外被が徐々に裂けていく現象であり,対策として,HS ケーブルへの張り替え,縛り紐によるひずみ分散,リング掛けによるケーブル架渉などが有効とされている。

LAP シース型のケーブルでは,アルミシースの合わせ目に沿ってケーブルの長手方向に亀裂が発生する場合がある。これは,ケーブル内部へ浸入した水の凍結圧によって生ずる円周方向への応力がアルミシースの合わせ目部分に集中し,外被の肉厚の薄い部分が裂ける現象である。ケーブル内への水の浸入は,水が浸入するおそれがある部分,例えば,クロージャのノズルや蓋部,ケーブル外被の損傷痕などの点検,補修などによって防止することができる。

げっ歯類やコウモリガの幼虫などケーブルをかじる生物によるケーブル損傷被害に対しては,ケーブル外被の内側にステンレス層を設けた HS ケーブルを使用するなどの対策が講じられている。

通信ケーブルの種類・特性及び適用

(2) 風圧荷重,電柱の設計荷重など

(ⅰ) 風圧荷重

  1. 風圧荷重は,構造物の地上高に比例し,空気の密度の 2 乗に比例して大きくなる。また,その値は,構造物の形状,大きさなどによって変化する。(
  2. 甲種風圧荷重は,市街地に適用され,高温期の強風を想定した場合の荷重であり,コンクリート柱の場合,その垂直投影面積 1 [m²] 当たり 780 [Pa] の風圧を受けるものと仮定した場合の荷重である。(
  3. 乙種風圧荷重は,氷雪の多い地域に適用され,架渉線に厚さ 6 [mm] の氷雪が付着した状態で甲種風圧荷重の 1/2 の風圧を受けるものと仮定した場合の荷重である。(
  4. 丙種風圧荷重は,市街地以外の地域に適用される。ただし,海岸地域などの強風地域では甲種風圧荷重が適用され,氷雪の多い地域では乙種風圧荷重が適用される場合がある。(

風圧荷重は,空気の密度に比例し,風速の 2 乗に比例して大きくなる。また,その値は,構造物の形状,大きさなどによって変化する。

甲種風圧荷重は,市街地以外の地域であつて、氷雪の多い地域以外の地域に適用され,高温期の強風を想定した場合の荷重であり,コンクリート柱の場合,その垂直投影面積 1 [m²] 当たり 780 [Pa] の風圧を受けるものと仮定した場合の荷重である。

丙種風圧荷重は,市街地の地域に適用される。ただし,海岸地域などの強風地域では甲種風圧荷重が適用され,氷雪の多い地域では乙種風圧荷重が適用される場合がある。

第六条 風圧荷重

令第六条第二項に規定する総務省令で定める風圧荷重は、次の三種とする。

  1. 甲種風圧荷重 次の表の上欄に掲げる風圧を受ける物の区別に従い、それぞれ同表の下欄に掲げるその物の垂直投影面の風圧が加わるものとして計算した荷重
    風圧を受ける物 その物の垂直投影面の風圧
    木柱又は鉄筋コンクリート柱 780 Pa
    鉄柱 円筒柱 780 Pa
    三角柱又はひし形柱 1,860 Pa
    角柱(鋼管により構成されるものに限る。) 1,470 Pa
    その他のもの 2,350 Pa
    鉄塔 鋼管により構成されたもの 1,670 Pa
    その他のもの 2,840 Pa
    電線又はちよう架用線 980 Pa
    腕金類又は函類 1,570 Pa
  2. 乙種風圧荷重 電線又はちよう架用線に比重 0.9 の氷雪が厚さ 6 ミリメートル付着した場合において、前号の表の上欄に掲げる風圧を受ける物の区別に従い、それぞれ同表の下欄に掲げるその物の垂直投影面の風圧の二分の一の風圧が加わるものとして計算した荷重
  3. 丙種風圧荷重 第一号の表の上欄に掲げる風圧を受ける物の区別に従い、それぞれ同表の下欄に掲げるその物の垂直投影面の風圧の二分の一の風圧が加わるものとして計算した荷重であつて、前号に掲げるもの以外のもの

2 令第六条第二項に規定する電柱の安全係数は、市街地以外の地域であつて、氷雪の多い地域以外の地域においては、甲種風圧荷重、氷雪の多い地域においては、甲種風圧荷重又は乙種風圧荷重のうちいずれか大であるもの、市街地においては、丙種風圧荷重が加わるものとして計算する。

(ⅱ) 電柱の設計荷重

  1. 中間柱の設計荷重は,一般に,線路に対して直角方向からの風圧荷重が問題となることから,甲種,乙種又は丙種風圧荷重が適用される地域ごとに分類して,平均電柱間隔,ケーブル外径,基礎地盤支持力などを考慮して求められる。(
  2. 引留柱の設計荷重は,一般に,吊り線又は支持線の設計張力に等しい不平衡荷重が線条方向に加わるものとして,基礎地盤支持力などを考慮して求められる。(
  3. 曲柱の設計荷重は,線路に角度があるため,不平衡荷重が両側の吊り線又は支持線の合成方向に加わるものとして,基礎地盤支持力などを考慮して求められる。(
  4. 電柱の設計において,無支線又は無支柱の電柱では,電柱自体の強度及び基礎地盤支持力の両方を考慮する必要があるのに対し,適正な支線又は支柱を有する電柱では,電柱自体の強度は無視してもよく,基礎地盤支持力のみを考慮すればよい。(

電柱の設計において,無支線又は無支柱の電柱では,電柱自体の強度及び基礎地盤支持力の両方を考慮する必要があるのに対し,適正な支線又は支柱を有する電柱でも,電柱自体の強度及び基礎地盤支持力の両方を考慮する必要がある

(ⅲ) 光ファイバケーブルなどの故障とその対策

  1. 光ファイバは浸水しても即時に伝送特性が劣化することはないが,長期的には,破断寿命の短縮,金属腐食に伴い発生する水素による損失増加などにつながることから,浸水のおそれがある区間には,一般に,水走り防止構造を有する FR ケーブルが用いられる。(
  2. 光ファイバケーブル布設後に光損失が増加した場合は,光ファイバテープ心線の波打ち現象が原因の一つと考えられる。波打ち現象は,光ファイバケーブルの牽引端でケーブル外被と光ファイバテープ心線とをそれぞれ別々に固定し,人力で牽引力及び牽引速度を変えながら牽引することにより回避することができる。(
  3. 光クロージャ内における光ファイバの断線は,メカニカルスプライス接続した箇所を熱収縮スリーブで補強・固定する際の光ファイバのねじれが原因で発生する場合があることから,熱収縮スリーブを加熱する前には,光ファイバにねじれがないことを確認する必要がある。(

光ファイバは浸水しても即時に伝送特性が劣化することはないが,長期的には,破断寿命の短縮,金属腐食に伴い発生する水素による損失増加などにつながることから,浸水のおそれがある区間には,一般に,水走り防止構造を有する WB ケーブルが用いられる。

光ファイバケーブル布設後に光損失が増加した場合は,光ファイバテープ心線の波打ち現象が原因の一つと考えられる。波打ち現象は,光ファイバ心線を外被に固定することにより回避することができる。

光クロージャ内における光ファイバの断線は,融着接続した箇所を熱収縮スリーブで補強・固定する際の光ファイバのねじれが原因で発生する場合があることから,熱収縮スリーブを加熱する前には,光ファイバにねじれがないことを確認する必要がある。

(ⅳ) 光ファイバケーブルを布設する場合の牽引張力

図に示す地下管路モデルにおいて,X 地点から Z 地点へ,以下に示す条件で光ファイバケーブルを布設する場合,Z 点での牽引力は,920 [N] である。

(条件)
  1. 光ファイバケーブル質量:0.5 [kg/m]
  2. X ~ Y 間の布設距離:100 [m]
  3. Y ~ Z 間の布設距離:200 [m]
  4. 繰出し点 X の初期張力:100 [N]
  5. 摩擦係数:0.5
  6. 交角:20 度
  7. Y 点での張力増加率:1.2
  8. 重力加速度:10 [m/s²]
  9. 光ファイバケーブルの布設ルートは平面とし,高低差はないものとする。
地下管路モデル
図 地下管路モデル

Z 点での牽引力は次式で求められる。

\[ (100 + 10 \times 0.5 \times 100) \times 1.2 + 10 \times 0.5 \times 0.5 \times 200 = 920 \text{ [N]} \]
inserted by FC2 system