平成29年度 第1回 専門的能力・通信線路

2019年6月23日作成,2020年12月29日更新

問1

(1) 一様線路及び複合線路の概要

通信線路の材質,寸法などが長さ方向に対して一様な往復 2 導体が均質な空間にあり,かつ,導体間隔が線路長及び伝搬される正弦波の波長と比較して十分小さい線路は,一様線路といわれる。図に示すように,特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_{\gamma}$ で終端した場合,$Z_{\gamma}$ における位置角を $\theta$ とすると,$\theta$ は $\displaystyle \tanh^{-1}{\frac{Z_{\gamma}}{Z_0}}$ で表され,任意の点における電圧,電流及びインピーダンスを簡単な計算により求めることが可能となる。

例えば,伝搬定数を $\gamma$ とすると,終端したインピーダンス $Z_{\gamma}$ から距離 $\chi$ の点のインピーダンス $Z_{\chi}$ を求めるとき,終端から距離 $\chi$ の点の位置角を $\theta_{\chi}$ とすると,$\theta_{\chi}$ は $\gamma \chi + \theta$ で表されるため,$Z_{\chi} = Z_0 \tanh$ ($\gamma \chi + \theta$) となる。特別な場合として終端短絡の場合,終端の位置角0 となる。

特性インピーダンス及び伝搬定数の異なる幾つかの線路を縦続接続することによって構成される線路は複合線路といわれ,複合線路は,一様線路と比較して,より現実的である一方で,解析が複雑である。しかし,この複合線路も一様線路の考え方を基礎にして位置角を導入することにより解析を容易にすることができる。

一様線路を終端した場合
図 一様線路を終端した場合

メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」を参照

(2) 光ファイバ通信システムの特徴,光源と光ファイバとの結合方法など

(ⅰ) 光ファイバ通信システムの特徴など

  1. 光ファイバ通信システムの伝送距離は中継伝送方式とすることにより延伸することが可能である。中継伝送方式には,中継器で光-電気-光変換を行う線形中継伝送方式と,光領域で増幅して伝送する再生中継伝送方式がある。(
  2. 光ファイバ通信システムにおいて,伝送距離を制限する要因には,光ファイバ損失,SN 比,伝送速度,送信光出力などがある。無中継光ファイバ通信システムでは,光ファイバ損失と送信機の光出力が一定であるとき,伝送速度を上げようとしたり受信信号の SN 比を大きくしようとしたりすると,一般に,伝送距離は制限される。(
  3. 線形中継伝送方式には,光増幅器で生ずる自然放出光雑音の累積による信号光波形のひずみ,光ファイバの分散によって生ずる SN 比の劣化など,再生中継伝送方式と異なり,伝送路で生じた雑音やひずみが累積するという欠点がある。(
  4. 再生中継伝送方式では,一般に,識別再生回路によるリシェーピング,タイミング抽出回路によるリタイミング及び等化増幅回路によるリジェネレーションの 3R 機能を有する中継器を用いて長距離伝送を実現している。(

光ファイバ通信システムの伝送距離は中継伝送方式とすることにより延伸することが可能である。中継伝送方式には,中継器で光-電気-光変換を行う再生中継伝送方式と,光領域で増幅して伝送する線形中継伝送方式がある。

光ファイバの分散は SN 比の劣化とは関係ない。

再生中継伝送方式では,一般に,識別再生回路によるリジェネレーション,タイミング抽出回路によるリタイミング及び等化増幅回路によるリシェーピングの 3R 機能を有する中継器を用いて長距離伝送を実現している。

(ⅱ) レーザ光源と光ファイバとの結合方法など

  1. 光源は,レンズなどの光学部品から反射された光が注入されると,レーザの発振が不安定になることから,光源モジュールには,一般に,反射光の帰還を阻止するための光アイソレータが組み込まれている。(
  2. 光源からの光は,レイリー散乱により広がって放射されることから,光ファイバと効率良く結合させるために,光源に光ファイバの先端を単に近づける直接結合方式をベースにして,レンズを用いるレンズ結合方式,光ファイバの先端をレンズ状にした先端レンズ方式などが用いられる。(
  3. 光源と光ファイバとの結合部は,光源,レンズ,光ファイバなどの光学部品が振動,温度・湿度の変化などによる影響を受けないようにするため,一般に,モジュール化されている。光源モジュールには,伝送用光ファイバと接続するためのピグテール光ファイバが取り付けられたものがある。(

光源からの光は,屈折や回折により広がって放射される。

(ⅲ) 光ファイバと発光素子又は受光素子との結合損失など

  1. 光ファイバと受光素子との結合において,SM 光ファイバと MM 光ファイバとを比較すると,開口数が大きく光ビームの広がりが大きい MM 光ファイバの方が結合損失は大きい。(
  2. 発光素子と光ファイバとの結合損失が発生する原因の一つとして,発光素子の出射光ビームの形状が,一般に,楕円形であるのに対し,光ファイバのモード形状が円形であることがある。(
  3. 発光素子と光ファイバとの結合において,SM 光ファイバと MM 光ファイバとを比較すると,コア径が小さい SM 光ファイバの方が結合損失は小さい。(
  4. 発光素子と光ファイバとをレンズを用いて結合する場合,LED と LD とでは,光ビームの広がる角度が異なるため,一般に,LED は,LD と比較して,結合損失が大きい。(

発光素子と光ファイバとの結合において,SM 光ファイバと MM 光ファイバとを比較すると,コア径が大きい MM 光ファイバの方が結合損失は小さい。

(ⅳ) 希土類添加光ファイバの特徴など

  1. 光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合,希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり,光ファイバの屈折率が変動する要因となる。(
  2. EDF の利得係数はエルビウムの添加濃度を高めることで大きくできるが,高濃度になると濃度消光により励起効率は低下する。(
  3. EDF と伝送用光ファイバのクラッド径及び素線径は同じであるが,増幅性能を向上させるため,EDF のコア径は,一般に,伝送用光ファイバのコア径と比較して小さくなっている。(
  4. EDF のコアには,増幅動作のためのエルビウムと屈折率プロファイル形成用のゲルマニウムのほか,波長特性平坦化のためのアルミニウムが添加されているものがある。(

光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合,希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり,光ファイバの濃度消光や増幅作用の要因となる。

問2

(1) 光ファイバの構造パラメータ

光ファイバ中の光の伝搬に大きく影響する光学的特性にかかわる構造パラメータには,開口数,カットオフ波長などがある。開口数は,SI 型及び GI 型光ファイバのコアとクラッドの比屈折率差などによって決まる値であり,比屈折率差は,コア内の最大屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,一般に,$\displaystyle \frac{n_1 - n_2}{n_1}$ で表される。比屈折率差が大きいほど,コアとクラッドの境界面で全反射を起こす境目となる臨界角(コアとクラッドの境界面の法線と光とのなす角度を指す。)は小さくなり,コア内に光を閉じ込めやすくなる。また,開口数は,光ファイバと光源の結合効率に影響を及ぼすパラメータであり,開口数が大きいほど結合効率が向上する。

光ファイバの寸法にかかわる構造パラメータには,コア径,クラッド径,コア/クラッド偏心率などがある。これらは,光ファイバの伝送帯域,機械的強度,光ファイバの接続損失などに影響を及ぼすパラメータである。

なお,コア径は MM 光ファイバで用いられるパラメータであり,SM 光ファイバでは,一般に,コアとクラッドの境界部分を明確に識別することが困難であるため,光エネルギーの分布から読み取ったモードフィールド径が用いられる。

光ファイバケーブルの伝送理論」参照

(2) 分散制御光ファイバ,光ファイバの損失特性など

(ⅰ) 分散制御光ファイバ

  1. ノンゼロ分散シフト光ファイバは,使用波長である 1.55 [μm] 近傍にゼロ分散波長をシフトさせつつ,使用波長帯域内では波長分散値をゼロとしない光ファイバである。(
  2. 分散マネジメント光ファイバは,光ファイバの長手方向にゼロ分散波長が 1.31 [μm] の区間と 1.55 [μm] の区間を設けることにより,局所的な波長分散は非ゼロとしながらも伝送路全体で累積波長分散を低減した光ファイバである。(
  3. 分散フラット光ファイバは,光ファイバの単位長さ当たりの損失を調整することにより材料分散と構造分散を相殺して分散スロープをフラットに近づけ,広い波長帯域において波長分散値を小さくした光ファイバである。(

分散マネジメント光ファイバは,光ファイバの長手方向に分散特性の異なる区間を設けることにより,局所的な波長分散は非ゼロとしながらも伝送路全体で累積波長分散を低減した光ファイバである。

分散フラット光ファイバは,光ファイバの屈折率分布を制御して,材料分散とは符号の反転した導波路分散を形成することにより,広い帯域にわたり分散スロープをゼロに近づけた光ファイバである。

(ⅱ) 光ファイバ通信で使用される光ファイバの損失特性など

  1. 紫外吸収損失及び赤外吸収損失は,光のエネルギーが光ファイバの物質中の電子や原子の運動に変換されることによって発生する。これらの損失は,一般に,光ファイバ通信で用いられる波長 1.31 [μm] や 1.55 [μm] の光の損失特性に対しては,影響が小さい。(
  2. 光ファイバ固有の損失は,光ファイバの長手方向に均等に分布しており,その単位には [dB/km] が用いられる。これは,光が 1 [km] 進んだときの光の減衰量をデシベルで表したものであり損失係数といわれる。例えば,0.2 [dB/km] の損失を持つ光ファイバは 50 [km] で 10 [dB] の損失があり,光パワーは 1/10 に減衰する。(
  3. 材料固有の散乱損失であるレイリー散乱損失は,光ファイバ製造時に高温状態から固化する際に生ずる微小なクラックが原因で発生し,短波長側の損失特性において支配的である。ブリルアン散乱なども散乱損失に含まれるが,レイリー散乱と比較して微弱であるため,光ファイバの損失特性に対しては,影響が小さい。(
  4. 外的要因による散乱損失には,コアとクラッドの境界の揺らぎ,光ファイバ長手方向の軸の揺らぎなど構造不整による損失がある。この損失は,伝搬する光が散乱されることによって生ずる放射損失である。(

材料固有の散乱損失であるレイリー散乱損失は,光ファイバ製造時に高温状態から固化する際に生ずる局所的な材料密度のゆらぎが原因で発生し,短波長側の損失特性において支配的である。

(ⅲ) 四光波混合又は自己位相変調

  1. 四光波混合は,二つ以上,一般には三つの異なった波長の光が同時に光ファイバ中に入射した際に,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する事象であり,入射した光の波長がゼロ分散波長から離れているほど発生しやすくなる。(
  2. WDM 方式では,四光波混合が伝送品質の劣化要因となるため,その対策として,波長間隔を不等間隔に配置する方法,NZ-DSF などを用いてゼロ分散でない波長域を利用する方法などが採られている。(
  3. 自己位相変調は,光ファイバ中を伝搬する光が,その光自身の強度に起因する屈折率変化により,位相変調を受ける現象であり,光強度に依存して光ファイバの屈折率が変化する現象は,ファラデー効果といわれる。(
  4. 異常分散領域にある波長の光パルスが光ファイバ中を伝搬するとき,自己位相変調によるパルスが広がる効果と波長分散によるパルスが狭まる効果とが相殺され,光パルスが元の波形を維持したまま光ファイバ中を長距離にわたり伝搬する現象は,光ソリトンといわれる。(

四光波混合は,二つ以上,一般には三つの異なった波長の光が同時に光ファイバ中に入射した際に,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する事象であり,入射した光の波長間隔が等間隔であるほど発生しやすくなる。

自己位相変調は,光ファイバ中を伝搬する光が,その光自身の強度に起因する屈折率変化により,位相変調を受ける現象であり,光強度に依存して光ファイバの屈折率が変化する現象は,光カー効果といわれる。

異常分散領域にある波長の光パルスが光ファイバ中を伝搬するとき,自己位相変調によるパルスが狭まる効果と波長分散によるパルスが広がる効果とが相殺され,光パルスが元の波形を維持したまま光ファイバ中を長距離にわたり伝搬する現象は,光ソリトンといわれる。

(ⅳ) 誘導ラマン散乱又は誘導ブリルアン散乱

  1. 誘導ラマン散乱は,光ファイバに強いポンプ光が入射されると,ポンプ光とは異なる波長のストークス光といわれる光が成長し,ポンプ光のエネルギーの大部分がストークス光になる現象であり,信号光がストークス光と同じ帯域内にあると,この信号光は増幅される。(
  2. 誘導ラマン散乱は,ポンプ光と光学フォノンとの相互作用により発生する散乱であり,前方散乱光と後方散乱光が同じ程度に発生する。(
  3. 誘導ブリルアン散乱は,ポンプ光と音響フォノンとの相互作用により発生する散乱であり,後方散乱光のみが強く発生する。(
  4. 誘導ブリルアン散乱による光増幅効果は,一般に,誘導ラマン散乱による光増幅効果と比較して低いが,増幅可能な帯域幅が広いことから,広帯域な光ファイバ通信システムに広く用いられている。(

誘導ラマン散乱による光増幅効果は,一般に,誘導ブリルアン散乱による光増幅効果と比較して低いが,増幅可能な帯域幅が広いことから,広帯域な光ファイバ通信システムに広く用いられている。

問3

(1) 石英系光ファイバの分散特性

光ファイバの分散は,光ファイバ中を伝わる光の群遅延時間が光の波長によって異なるために生ずる現象,つまり,屈折率が波長依存性を持つ現象である。

SM 光ファイバにおいて,コアとクラッドの構造により生ずる構造分散及び石英ガラス自体が持つ材料分散が,また,MM 光ファイバにおいては,モード分散が,信号パルスの幅を広げ符号誤りを発生させる主な原因となる。

材料分散は光ファイバの材料である石英ガラスによって決まるため,大きく変化させることはできないが,構造分散は比屈折率差や屈折率分布を調整することにより変化させることができる。これを利用して,材料分散と構造分散を相殺させて光ファイバの最小損失波長である 1.55 [μm] で分散がゼロとなるように構造設計した SM 光ファイバは,一般に,DSF といわれ,低損失かつ低分散の伝送媒体として,主に,1 心の光ファイバを単一波長で使用する長距離光ファイバ通信システムに用いられる。

長距離光ファイバ通信システムでは,材料分散及び構造分散のほかに,偏波モード分散による影響が問題になる場合がある。この分散は,光ファイバのコア形状の僅かなゆがみ,外部からの応力などが原因で複屈折が生じ,その結果として,伝搬する光の直交する二つの偏波モード間に群遅延時間の差が生ずるものである。

光ファイバケーブルの伝送理論」参照

(2) 光ファイバの分散補償,光強度変調方式,OTDR の構成及び測定原理など

(ⅰ) 光ファイバの分散補償技術など

  1. 光ファイバ中を伝搬する信号光の位相の変化を補償する分散補償技術には,線形素子を利用する能動型及び非線形光学効果を利用する受動型がある。(
  2. SM 光ファイバの波長分散は,伝送路用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスを用いた分散補償技術により理論的には完全に補償が可能である。(
  3. 能動型の分散補償デバイスには,ラマン散乱により新たに発生する光が,伝送されている信号光と同じ変調データを有し,位相は反転していることを利用して波長分散を補償するものである。(
  4. 受動型の分散補償デバイスの一つである分散補償光ファイバは,伝送路用光ファイバと絶対値がほぼ等しく符号が逆の分散を有する光ファイバであり,一般に,光中継器に配置される。(

光ファイバ中を伝搬する信号光の位相の変化を補償する分散補償技術には,線形素子を利用する受動型及び非線形光学効果を利用する能動型がある。

受動型の分散補償デバイスの一つである分散補償光ファイバは,伝送路用光ファイバと絶対値がほぼ等しく符号が逆の分散を有する光ファイバであり,一般に,光中継器に配置される。

(ⅱ) 光の強度変調方式

  1. IM/DD 方式では,送信側において強度変調された光搬送波に信号を載せ,受信側において APD などを用いて信号を直接検出している。この方式には,復調出力が,光搬送波の SN 比に影響されない特徴がある。(
  2. 直接変調方式では,LD に印加するバイアス電流に情報が載った電気信号を重畳することによって,LD の出力光の強度を変化させている。この方式は,一般に,数 [GHz] 程度まで変調が可能であるが,さらに高速変調になると,波長チャーピング,消光比の劣化などのため,長距離通信には適さなくなる。(
  3. 外部変調方式では,LD の出力光を変調専用のデバイスである外部変調器に入力して光の強度を変化させている。この方式では,一般に,LD の出力は強度が一定の連続光であり,外部変調器において電気光学効果や電界吸収効果を利用して強度変調光を得ている。(

IM/DD 方式では,送信側において強度変調された光搬送波に信号を載せ,受信側において APD などを用いて信号を直接検出している。この方式には,復調出力が,光搬送波の SN 比に影響される特徴がある。

(ⅲ) OTDR の構成,測定原理など

  1. OTDR は,一般に,パルス発生器,光源,方向性結合器,受光部,信号処理部,表示部などで構成され,光ファイバの長さ,伝送損失,接続点損失などを非破壊で測定することができる。(
  2. OTDR では,光ファイバ中の非線形光学効果により発生するレイリー散乱光のうち,入射端に戻って来る後方散乱光のパワーとその到達時間によって光ファイバの伝送損失,破断点までの距離などを測定できる。(
  3. OTDR を用いた測定において,光ファイバの長さ $L$ [m] は,真空中の光速を $c$ [m/s],光ファイバの群屈折率を $n$,光パルスが光ファイバに入射されてから遠端で反射して戻って来るまでの時間を $t$ [s] とすると,次式で求められる。(
  4. $\displaystyle L = \frac{ct}{2n}$
  5. OTDR の測定波形においては,一般に,光ファイバの融着接続点では接続損失に比例した段差が観測され,屈折率が不連続となるコネクタ接続点,光ファイバの破断点などでは尖頭状の波形が観測される。(

OTDR では,光ファイバ中の屈折率のゆらぎにより発生するレイリー散乱光のうち,入射端に戻って来る後方散乱光のパワーとその到達時間によって光ファイバの伝送損失,破断点までの距離などを測定できる。

(ⅳ) OTDR による測定など

  1. OTDR による測定では,後方散乱光から得られる電気信号が微弱であるため雑音の影響を受けやすいことから,一般に,多数回測定した結果を平均化処理することにより,SN 比の改善を図り雑音の影響を軽減している。(
  2. 光ファイバ中を伝搬する光の速度は,光ファイバの群屈折率によって変化するため,OTDR による測定では,正確な群屈折率を設定する必要がある。(
  3. OTDR による測定では,光コネクタなどで生ずる反射光及びその反射光で生ずる受信波形の裾引きによって,引き続く反射点,融着接続点などの位置や損失などが測定不能となる距離の範囲が存在し,この範囲はデッドゾーンといわれる。(
  4. OTDR を用いて短い光ファイバを測定する場合には,OTDR と被測定光ファイバの間にダミー光ファイバを挿入することにより,ダイナミックレンジを広げることができる。(

OTDR を用いて短い光ファイバを測定する場合には,OTDR と被測定光ファイバの間にダミー光ファイバを挿入することにより,デッドゾーンを狭めることができる。

問4

(1) 架空ケーブルのダンシングの原因とその対策

架空ケーブルのダンシングとは,風によってケーブルに揚力が生じ,ケーブル自体のねじれ振動と相乗して一種の自励振動が発生する現象をいい,一般に,ケーブル部の外径が同じ場合,丸形ケーブルより,受風面積が大きい自己支持型ケーブルで発生しやすい。また,ダンシングは,ケーブルの形状のほか,重量と架渉張力にも関係があり,架渉されたケーブルが軽くて弛度が大きいほど発生しやすくなる。

ダンシングの防止策には,架渉したケーブルに捻回を入れる方法,ケーブルの支持間隔を短くする方法などがある。ケーブルに捻回を入れる方法では,約 10 [m] に 1 回の割合で捻回を入れることにより,風圧によるケーブルの上昇力と下降力が平衡してダンシングの発生を抑制できるとともに,ケーブルに働く水平風圧荷重も減少させることができる。

ダンシングは,ケーブルの構造を変えることによっても抑制することができ,自己支持型ケーブルの支持線部とケーブル部をつなぐ首部に窓を開けた,一般に,SSW 型といわれるケーブルは,開けた窓から風を逃がして風に対する抵抗を小さくすることでダンシングが起こりにくくしている。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) 光ファイバケーブルの特徴,凍結などによる通信線路設備への影響とその対策など

(ⅰ) 光ファイバケーブルの特徴など

  1. スロットの構造を SZ 撚りとしたテープスロット型光ケーブルは,ケーブルの途中において,ケーブルを切断することなく,光テープ心線の取り出しや接続余長の確保が容易な構造であり,中間後分岐に適している。(
  2. ノンメタリック型光ドロップケーブルは,一般に,支持線部には鋼線,ケーブル部のテンションメンバには FRP が用いられており,支持線部は引留具などに引き留められた後に切断されるため,落雷などによるサージ電流が宅内へ侵入することを防止できることから,ケーブル部を直接ユーザ宅内に引き込むことが可能である。(
  3. 難燃シース光ケーブルは,難燃性の材料をシースに用いたケーブルであり,難燃性は,一般に,低難燃性及び高難燃性に分けられる。低難燃性のケーブルは,JIS などに規定する方法で燃焼試験を行い,炎にさらされても 60 秒間は着火しない性能を有している。(
  4. OPGW(Optical Ground Wire)は,送電鉄塔などの一番上に,主に,避雷用として布設された架空地線(Ground Wire)の内部に光ファイバを収容したケーブルである。架空地線は,短絡事故などにより大電流が流れ高温になる場合があることから,OPGW の光ファイバ被覆材料には耐熱性に優れたシリコンなどが使用されている。(

難燃シース光ケーブルは,難燃性の材料をシースに用いたケーブルであり,難燃性は,一般に,低難燃性及び高難燃性に分けられる。低難燃性のケーブルは,JIS などに規定する方法で燃焼試験を行い,炎にさらされても 60 秒以内に自然に消える性能を有している。

(ⅱ) 凍結などによる通信線路設備への影響とその対策など

  1. 寒冷地において,橋梁添架,スラブ下越し,ケーブル引上げ点などで管路が大気中に露出している箇所では,管路内に溜水があると,凍結時に水の体積が膨張し,管路内のケーブルに座屈,圧壊などが発生する場合がある。(
  2. 管路内での溜水の凍結圧によるケーブルの座屈,圧壊などを防止する方法には,管路に一定間隔でドレーンパイプを接続する方法,管路内にケーブルと一緒に PE パイプを挿入しておき凍結圧を PE パイプで吸収する方法などがある。(
  3. 極寒地において,凍上現象による地下管路の被害を防止するには,管路を埋設する場所の土に砂を多く混ぜ込み凍上を抑制する方法,地表面からの温度変化の影響を受けにくい深さに埋設する方法などがある。(
  4. 剛性の大きい金属製の地下管路を布設する場合には,温度変化により管路が伸縮し,MH ダクト口から突き出すことや引き抜けることがあるため,一般に,温度伸縮量を吸収するための伸縮継手が一定間隔で配置される。(

管路内での溜水の凍結圧によるケーブルの座屈,圧壊などを防止する方法には,管路に一定間隔で排水枡を接続する方法,管路内にケーブルと一緒に PE パイプを挿入しておき凍結圧を PE パイプで吸収する方法などがある。

(ⅲ) 地下ケーブル,橋梁添架ケーブルなどにおけるクリーピングとその対策

  1. クリーピングは,ケーブルの温度伸縮,車両の通行に起因する振動などにより,ケーブルに位動力が生ずることによって発生する。光ファイバケーブルは,一般に,メタリックケーブルと比較して,クリーピングが発生しやすいが,その移動力は小さい。(
  2. クリーピングは,地盤が軟弱で大型車両の通行が多い傾斜地の道路,路面の凸凹が著しい直線道路などの地下管路内で発生しやすく,ケーブルが移動する方向は,傾斜,ケーブルと管路との摩擦力,車両の進行方向など設置環境により異なる。(
  3. クリーピングの対策として,ケーブル移動防止金物で機械的にケーブルの移動を止める方法,移動量に応じたスラックを設ける方法,ケーブルを細径化する方法などが有効である。(

(ⅳ) ケーブルの非ガス保守など

  1. 非ガス保守方式で用いられる WB ケーブルは,ケーブル外被の損傷などにより水が浸入すると,WB テープの吸水剤が水を吸って膨張することでケーブル内に止水ダムを形成し水走りを防止できるため,浸水しても設計寿命までは取り替える必要がない。(
  2. 浸水検知モジュールは,吸水膨張材,可動体,曲げ付与部などから構成され,一般に,管路内の水が滞留しやすい箇所に設置され,水が浸入すると吸水膨張材が可動部を押し上げることで光ファイバに曲げを与え,曲げ損失を発生させる。(
  3. 浸水検知モジュールで発生した曲げ損失は OTDR で測定され,浸水箇所が特定される。OTDR 測定は,一般に,現用の光ファイバが使用され,サービスに影響がないように,270 [Hz] で変調された現用回線より長波長の試験光で行われる。(
  4. 光ファイバケーブルを浸水したまま長期間放置すると,乾燥状態と比較して,破断確率が 10 倍以上となることから,浸水の有無を測定する時間間隔は,一般に,光ファイバの浸水期間と破断確率の関係,浸水の発見から修理完了までの期間などを考慮して決定される。(

非ガス保守方式で用いられる WB ケーブルは,ケーブル外被の損傷などにより水が浸入すると,WB テープの吸水剤が水を吸って膨張することでケーブル内に止水ダムを形成し水走りを防止できるため,浸水発見~取替まで 100 日以内を目安に修理を行う

浸水検知モジュールは,吸水膨張材,可動体,曲げ付与部などから構成され,一般に,クロージャ内に設置され,水が浸入すると吸水膨張材が可動部を押し上げることで光ファイバに曲げを与え,曲げ損失を発生させる。

浸水検知モジュールで発生した曲げ損失は OTDR で測定され,浸水箇所が特定される。OTDR 測定は,一般に,予備の光ファイバが使用され,サービスに影響がないように,270 [Hz] で変調された現用回線より長波長の試験光で行われる。

問5

(1) 長距離光ファイバ通信システムの設計など

信号光が光ファイバ中を長距離にわたり伝搬すると,光ファイバの損失及び分散により,信号光パワーの減衰及び波形ひずみが生じ,所要の符号誤り率を満足できなくなってくる。

SM 光ファイバを用いた光通信システムの設計では,無中継で伝送可能な距離 $L'$ [km] は,基本的には,送信側の光パワーを $P_s$ [dB],受信側の最小受光パワーを $P_r$ [dB],設備センタ内の接続損失を $P_0$ [dB],送・受信機の経年劣化や光ファイバの損失増加などを見込んだシステムマージンを $P_m$ [dB],光ファイバの接続損失を含む単位長さ当たりの平均損失を $\alpha$ [dB/km] とすると,次式で求められる。ただし,$P_s$ は発光素子の出力光パワーではなく伝送路用光ファイバに有効に入射した光パワーであり,発光素子と光ファイバとの結合効率によって決まる値である。

\[ L' = \frac{(P_s - P_r) - P_0 - P_m}{\alpha} \]

高速光ファイバ通信システムにおける伝送可能距離は,光ファイバ損失による制限のほか,分散による波形劣化によっても制限される。このため,波長分散による波形劣化量 $P_d$ [dB] も見込む必要があり,実際に無中継で伝送可能な最大距離 $L$ [km] は,次式で求められる。

\[ L = \frac{(P_s - P_r) - P_0 - P_m - P_d}{\alpha} \]

伝送距離は,$P_s$ を高くすることによって延伸することができるが,一般に,光ファイバへの入射光パワーが高くなると,光ファイバの非線形光学効果の一つである自己位相変調によってスペクトル幅が広がり $P_d$ が大きくなることから,$P_s$ と $P_d$ はトレードオフの関係にある。

中継系線路の光ファイバケーブル設計」参照

(2) 光ファイバのメカニカルスプライス接続,架空光ファイバケーブルの張力など

(ⅰ) 光ファイバのメカニカルスプライス接続など

  1. メカニカルスプライス接続は,メカニカルスプライス素子を用いて光ファイバ端面を突き合わせ機械的に把持する永久接続法の一つであり,接続作業には,一般に,専用の工具(治具)が使用される。(
  2. メカニカルスプライス素子の光ファイバ端面を突き合わせる部分には,一般に,光ファイバ端面の欠け,バリ,異物などによって生ずる光損失を補正するために,コアとほぼ同じ屈折率を持つ屈折率整合剤が充填されている。(
  3. メカニカルスプライス接続で用いられるメカニカルスプライス素子は,小型軽量で構造が簡単,多数の V 溝を設けることにより多心接続が可能などの特徴があり,マンホール内での幹線系光ファイバケーブルの接続に広く用いられている。(
  4. メカニカルスプライス素子には,単心用と多心用があり,単心用は主に配線系やユーザ系区間においてドロップ光ファイバケーブルなどの接続に用いられ,多心用は主に地下の幹線系区間において多心光ファイバケーブルの接続に用いられる。(

メカニカルスプライス素子の光ファイバ端面を突き合わせる部分には,一般に,光ファイバ端面の間に,空気層が存在する可能性があることによる光損失を補正するために,コアとほぼ同じ屈折率を持つ屈折率整合剤が充填されている。

マンホール内や地下では,浸水したときに屈折率整合剤が流れ出てしまうため,メカニカルスプライスは使わない。

(ⅱ) 架空光ファイバケーブルの張力及び伸び率

  1. 架空光ファイバケーブルの線条方向に加わる張力 $T$ [N] は,弛度を $d$ [m],単位長さ当たりのケーブル荷重を $W$ [N/m],電柱間のスパン長を $S$ [m] とすると,次式で求められる。(
  2. $\displaystyle T = \frac{SW^2}{8d}$
  3. 光ファイバケーブルは,布設時の最大張力が加わったときに光ファイバの伸び率が許容値以下となるように設計されており,光ファイバケーブルの最大許容伸び率は,一般に,2 [%] とされている。(
  4. 自己支持型光ファイバケーブルの伸び率 $\Sigma$ は,支持線の水平方向の張力を $T$ [N],断面積を $A$ [mm2],弾性係数を $E$ [N/mm2] とすると,次式で求められる。(
  5. $\displaystyle \Sigma = \frac{T}{AE}$
  6. 光ファイバケーブルの架渉設計においては,温度,風圧,着雪などの影響によりケーブルの張力が変動することを考慮して,適切な弛度を確保する必要がある。ケーブルに加わる荷重の条件が同じであれば,一般に,温度が上昇すると張力は増加し,弛度は減少する。(

架空光ファイバケーブルの線条方向に加わる張力 $T$ [N] は,弛度を $d$ [m],単位長さ当たりのケーブル荷重を $W$ [N/m],電柱間のスパン長を $S$ [m] とすると,次式で求められる。

\[ T = \frac{WS^2}{8d} \]

光ファイバケーブルは,布設時の最大張力が加わったときに光ファイバの伸び率が許容値以下となるように設計されており,光ファイバケーブルの最大許容伸び率は,一般に,0.2 [%] とされている。

光ファイバケーブルの架渉設計においては,温度,風圧,着雪などの影響によりケーブルの張力が変動することを考慮して,適切な弛度を確保する必要がある。ケーブルに加わる荷重の条件が同じであれば,一般に,温度が上昇すると弛度は増加し,張力は減少する。

(ⅲ) 光ファイバケーブルの布設又は架渉技術など

  1. 光ファイバケーブルの長区間敷設において使用されるケーブル繰出装置,ケーブル牽引機,牽引ロープ巻取装置などは,一般に,制御線を用いずに牽引速度を自己制御して,ケーブルに過大な張力を加えることなく自動布設することが可能である。(
  2. 多条布設は,1 本の管路内に複数本の光ファイバケーブルを収容することにより管路を有効利用する技術であり,増設される光ファイバケーブルは,一般に,既設のケーブルをライニング材,半割管などで保護したあとの管路内の空きスペースに収容される。(
  3. 一束化は,既設の吊り線又は架空ケーブルを支持体として,一般に,スパイラルハンガなどを用いることによりケーブルを 1 本又は複数本追加して架渉する技術であり,限られた架空空間を有効利用してケーブルの増設を行うことができる。(

(参考)「地下光ケーブル多条布設技術の適用拡大」NTT アクセスサービスシステム研究所,2008年

(ⅳ) 傾斜した電柱区間モデル

図に示すような傾斜した電柱区間モデルにおいて,以下に示す条件で丸形ケーブルを架設するとき,T 点における牽引張力は 727 [N] である。ただし,重力加速度は 10 [m/s2],$\cos 15^{\circ}$ は0.97,$\sin 15^{\circ}$ は0.26 とする。

条件
  1. 単位長さ当たりのケーブル質量:0.5 [kg/m]
  2. 傾斜角 $\theta$:15 度
  3. 傾斜部分の距離 $L$:100 [m]
  4. 牽引時の摩擦係数:0.2
  5. T0 点の直前の張力:500 [N]
傾斜した電柱区間モデル
図 傾斜した電柱区間モデル

重力加速度を $g$ [m/s²],単位長さ当たりのケーブル質量を $w$ [kg/m],傾斜部分の距離を $L$,牽引時の摩擦係数を $\mu$ とすると,T 点における張力は次式で求められる。

\[ 500 + gwL\mu \cos\theta + gwL \sin\theta = 500 + 10 \times 0.5 \times 100 \times 0.2 \cos 15^{\circ} + 10 \times 0.5 \times 100 \sin 15^{\circ} = 727 \text{ [N]} \]
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