令和元年度 第2回 専門的能力・通信線路

2020年5月10日作成,2020年12月29日更新

問1

(1) 一様線路の一次定数及び二次定数と減衰量の関係など

電気的定数が一様に分布している一様線路において,往復導体の単位長当たりの抵抗を $R$,インダクタンスを $L$,往復導体間の単位長当たりの漏れコンダクタンスを $G$,静電容量を $C$ とすると,$R$,$L$,$G$,$C$ は,線路の一次定数といわれる。

これら一次定数から導かれる減衰定数 $\alpha$,位相定数 $\beta$,伝搬定数 $\gamma$,特性インピーダンス $Z_0$ は,二次定数と総称され,伝搬定数 $\gamma$ と特性インピーダンス $Z_0$ は,次式で表すことができる。

\[ \gamma = \alpha + \text{j}\beta = \sqrt{(R+\text{j}\omega L)(G + \text{j}\omega C)} \] \[ Z_0 = |Z_0|e^{\text{j}\phi} = \sqrt{\frac{R+\text{j}\omega L}{G+\text{j}\omega C}} \]

ただし,$\text{j}$ は虚数記号を,$\omega$ は伝送波の角速度を,$\phi$ は特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し,$e$ は自然対数の底とする。

また,二次定数は周波数特性があり,30 [kHz] 以上の高周波の場合,$\alpha$ 及び $\beta$ は次式で近似できる。

\[ \alpha \approx \frac{R}{2}\sqrt{\frac{C}{L}} + \frac{G}{2}\sqrt{\frac{L}{C}} \] \[ \beta \approx \omega\sqrt{LC} \]

ここで,$R$ は,表皮効果などにより,周波数の平方根に比例して大きくなり,$\alpha$ も同様に大きくなる。さらに,この線路の減衰量が最小となる $R$,$L$,$G$,$C$ の関係は $RC = GL$ であり,これは,減衰量最小の条件といわれる。

対策ノート「メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」を参照。

(2) 光の性質、光の伝搬など

(ⅰ) 光の性質など

  1. 電磁波は、電界と磁界が直交して進行し、それぞれの振動方向は進行方向に垂直な横波である。光は、放送や携帯電話に用いられる電波の波長と比較して、非常に長い波長の電磁波である。(
  2. 回折現象のうち、光源と観測点のいずれか、又は光源と観測点の両方が開口に近く、光の波面の曲率が無視できない回折は、フラウンホーファー回折といわれる。(
  3. 光の吸収とは、光の一部が光の伝搬媒体によって吸収され、熱に変換される現象をいい、光ファイバでは石英ガラスの紫外吸収と赤外吸収のほか、添加剤として含まれる金属イオンや水素イオンによる不純物吸収がある。(
  4. 光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると、入射側に近いところでは青い光が散乱し、残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ、散乱による損失の大きさは波長の2乗に比例する。(

正しくは,1.「短い」,2.「フレネル回折」,4.「4乗」である。

なお,フラウンホーファー回折(Fraunhofer diffraction)とは,光源もしくは観測点がビームを回折するもの(例えば,レンズ)から無限遠に位置するときに起こる回折のことである。フラウンホーファー回折に対し,有限距離に位置するときに生ずる回折は,フレネル回折という。フレネル回折は,フラウンフォーファー回折を近似したものである。

(ⅱ) 光ファイバの伝搬特性

  1. 光ファイバ中を伝搬する光の電磁界分布を伝搬モードといい、SI 型光ファイバ中を伝搬する HE11 モードは、軸方向電磁界成分を有する混成モードの一つであって、高次モードといわれる。(
  2. MM 光ファイバの特性を表す基本的なパラメータである遮断波長は、マルチモードとなるための最小限の波長をいう。(
  3. SI 型光ファイバにおいては、コアとクラッドの境界面を臨界角よりも小さな角度で反射しながら進む光波が存在するが、この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには、コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が、光波の 1 往復に伴って $\displaystyle \frac{1}{2\pi}$ の整数倍になる必要がある。(
  4. 光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには,規格化周波数 $V$ が用いられ,空気中の光の波長を $\lambda$,コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,$V$ は次式で表すことができる。(
\[ V = \frac{2\pi a}{\lambda} \times \sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]

正しくは,1.「低次」,2.「シングルモード」,3.「$2\pi$ の整数倍」である。

カットオフ波長とは、伝搬モードが一つになる最短の波長であり、カットオフ波長より短い波長に対しては伝搬モードがマルチモード,一方,長い波長に対しては伝搬モードがシングルモードとなる。

(ⅲ) 光ファイバ内で生ずる偏波モード分散(PMD)など

  1. 実際に使用される光ファイバが真円でないこと、また、曲げなどによる応力の影響によって光ファイバに複屈折が生ずることから、直交関係にある二つの偏波モード間に群遅延時間の差が生ずる現象は、PMD といわれる。(
  2. 時間領域における PMD の測定には、光ファイバ中を伝搬してきた光の群遅延時間差をマイケルソン干渉計などを用いて干渉縞に変換し、その間隔を干渉計の光遅延器によって検出する方法があり、これは干渉法といわれる。(
  3. 周波数領域における PMD の測定には、波長可変光源から出力され回転型偏光子などを用いて偏光面角度が調節されて光ファイバを伝搬してきた光を入力とし、偏光解析器を用いて光の PMD を算出する方法があり、これはジョーンズマトリックス(JME)法といわれる。(
  4. PMD は、波長分散と比較して光信号への影響は小さいが、伝送速度が高速になるほど伝送距離を制限する要因の一つとなる。PMD の値の単位は ps/km2 で表される。(

正しくは,「ps/$\sqrt{\text{km}}$」あるいは「ps/km1/2」である。

(ⅳ) 石英系光ファイバにおける光の分散特性など

  1. 光ファイバの材料である石英ガラスの屈折率が光の周波数により僅かながら異なるため、光ファイバ中を伝搬する光パルスの幅が狭まる現象は、一般に、分散といわれる。(
  2. 光ファイバの分散には、材料分散、構造分散、モード分散及び PMD の四つがあり、このうち材料分散と構造分散の和は波長分散といわれる。(
  3. MM 光ファイバにおいては、光ファイバ中を伝搬する各モードの伝搬速度が異なるために生ずるモード分散が、相互位相変調を引き起こすため、伝送帯域を制限する主な要因となる。(
  4. SM 光ファイバのゼロ分散波長や分散スロープを制御して製作された光ファイバは、総称してフォトニック結晶光ファイバといわれる。(

正しくは,1.「広がる」,3.「符号間干渉」,4.「分散マネジメント光ファイバ」である。

問2

(1) 光ファイバの種類と特徴など

MM 光ファイバは、SM 光ファイバと比較して、伝送帯域は狭いがコア径が大きいこと及び励振可能な光の最大入射角度が大きいことから、光源と光ファイバ及び光ファイバどうしの接続が容易である。

NZDSF は、SM 光ファイバの分散特性を制御した光ファイバの一つであり、屈折率分布を調整して使用波長帯域近傍にゼロ分散波長をシフトさせ、かつ、使用波長帯域において波長分散をゼロとしない特徴を有している。このため、EDFA を用いた WDM システムにおいては、NZDSF を使用することが、四光波混合で生ずる波長チャネル間のクロストークを抑制するために有効とされている。

また、DCF は、光ファイバ伝送路の使用波長帯域において、累積する波長分散を補償する光ファイバであり、SM 光ファイバに対して正負が逆の符号の波長分散と分散スロープを有している。

通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

(2) 光ファイバの構造パラメータ、誘電体材料の違いによる特徴など

(ⅰ) 光ファイバの構造パラメータなど

  1. 構造パラメータとは、コア径、クラッド径、コア/クラッド偏心率など光ファイバの構造に関わるパラメータをいい、SM 光ファイバでは、コア径に代わって定義されるモードフィールド径が用いられる。(
  2. モードフィールド径は、SM 光ファイバの径方向の光強度がガウス分布で近似できるとき、光強度が最大値に対して $\displaystyle \frac{1}{e^2}$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。(
  3. 光ファイバの光学的パラメータの一つである比屈折率差 $\Delta$ は,コアとクラッドの屈折率の違いの程度を表すパラメータであり,コアの最大屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,次式で近似される。(
  4. \[ \Delta \approx \frac{n_1 - n_2}{n_1} \]

(ⅱ) 誘電体材料の違いによる各種光ファイバの特徴など

  1. 石英系光ファイバは、純粋な石英にゲルマニウム、ホウ素、フッ素などが添加され、多成分系酸化物光ファイバと比較して低損失で長期的安定性に優れている。(
  2. 多成分系酸化物光ファイバは、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどを主成分としたものが多く、ナトリウム、カルシウムなどの組成比率を変えて増幅率を変化させている。(
  3. フッ化物光ファイバは、フッ化ジルコニウムなどを主成分とした光ファイバであり、石英系光ファイバと比較して赤外吸収が小さく、希土類元素を添加することにより光増幅用光ファイバとして利用されている。(
  4. プラスチック光ファイバは、石英系光ファイバと比較して、伝送特性の面では劣るものの、コア径が大きく光デバイスとの接続が容易である、曲げに強く折れにくいなどの特徴を有する。(

正しくは「屈折率」である。

(ⅲ) 石英系光ファイバの分散など

  1. 光ファイバの分散パラメータは、光ファイバの単位長さと光スペクトルの単位波長範囲に対する群遅延の広がりをいい、群速度の分散パラメータが正の場合は異常分散、負の場合は正常分散といわれる。(
  2. 比屈折率差を調整することで材料分散を変化させ、石英系ガラスの伝送損失が最小となる 1.55 μm 帯において構造分散がゼロとなる SM 光ファイバは、DSF といわれる。(
  3. コアの両側のクラッド部内に円形の応力付与部を配置し、二つの偏波モードの結合を抑制した光ファイバは偏波保持光ファイバといわれ、光増幅器における偏波分離合成器などの光デバイスに使用される。(
  4. 光通信システムで伝送される信号の品質は、SN 比と波形ひずみに影響される。SN 比の劣化と波形ひずみの要因は、通信用光ファイバケーブルの分散と損失であり、一般に、SN 比は分散により劣化し、波形ひずみは損失により増大する。(

正しくは,1.「下線部が逆」,2.「NZ-DSF(NZ-DSF : Non-Zero Dispersion Shifted single-mode optical Fiber)」,4.「SN 比は損失により増大し,波形ひずみは分散により劣化」である。

(ⅳ) 光ファイバ通信における信号劣化要因など

  1. 線形中継システムでは、信号光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数に比例して増大し、また、ASE 光と ASE 光との間のビート雑音は中継器数の 2 乗に比例して増大する。(
  2. 光伝送路の途中に光コネクタなどの光部品があると、反射によって干渉現象が生ずる。反射光が光源である LD まで戻り、干渉現象によって発振光が不安定になることを防ぐため、ホトリフレクタが用いられる。(
  3. 光ファイバが温度変化によって伸縮すると光信号に揺らぎが生じ、ビット誤り率を増大させる要因の一つとなる。この揺らぎの周波数が 10 [Hz] 未満のものはジッタといわれる。(

正しくは,B.「光アイソレータ」,C.「ワンダ」である。

揺らぎの周波数が 10 [Hz] 以上のものはジッタ,10 [Hz] 未満のものはワンダである。

問3

(1) コヒーレント光伝送方式

光伝送システムでは、一般に、送信器側においてデジタル信号を光信号のオンオフ制御に対応させ、強度変調して光ファイバへ入射し、受信器側では光ファイバ内を伝搬してきた光を受光素子で直接検出する方式が用いられている。しかし、この方式を 100 [Gbit/s] を超える伝送速度の通信に適用すると、光信号が光ファイバ内を伝搬中に生ずる波形ひずみによる伝送品質劣化が顕在化して、伝送距離が制限される。そのため、100 [Gbit/s] を超える伝送速度の通信では、デジタル信号処理により光の強度だけでなく、光の波としての性質である位相や偏波を利用して長距離伝送を可能とするコヒーレント光伝送方式が用いられる。

コヒーレント光伝送方式は、受信器側において、光ファイバ内を伝搬してきた光信号と局部発振光を合波して受光素子に入射し、光信号と局部発振光から生じたビート信号を検出する方式であり、光ヘテロダイン検波と光ホモダイン検波がある。光ヘテロダイン検波は、局部発振器に光信号と異なる波長を用い、光ホモダイン検波は、局部発振器に光信号と同じ波長を用いてビート信号を検出する。これらの検波する方式は、信号増幅作用により受信感度が向上し、小さな受信信号であっても符号誤り率を低減させることができる利点がある。

光通信用素子」参照

(2) アクセス系光ネットワーク、EDFA、光分波・合波器など

(ⅰ) アクセス系光ネットワークの構築

  1. 光アクセス方式には、使用する伝送媒体の組合せにより、光ファイバケーブルだけで構築する形態と既存伝送媒体と光ファイバケーブルを組み合わせて構築する形態があり、光ファイバケーブルだけで構築する形態には、VDSL、FTTB、FTTH などがある。(
  2. HFC は、同軸ケーブルと光ファイバケーブルを併用する形態であり、ユーザ側からの流合雑音を減少させるなどのため、幹線系を同軸ケーブルで、配線系を光ファイバケーブルで構築している。(
  3. SS 方式は設備センタからユーザ宅へ光ファイバを直接引き込む形態であり、ユーザ相互間で光ファイバを共用しないためアクセス制御の制約は少ないが、一般に、PDS 方式と比較してユーザ当たりの設備コストは高い。(
  4. PDS 方式は、設備センタとユーザ宅間に多重分離機能を有する能動素子を用いる方式である。(

VDSL 方式では,光ファイバケーブルと電話回線を組み合わせている。

HFC(Hybrid Fiber Coaxial)は,幹線系を光ファイバケーブル,配線系を同軸ケーブルで構築している。

ADS 方式では,多重化装置(光電気変換機能及び信号の多重分離機能を有する装置)により加入者ごとにデータを分類し,PDS 方式では,光スプリッタによりデータを分類せずにそのまま転送している。

(ⅱ) EDFA の構成、特性、動作原理など

  1. 前方励起型の EDFA に外部から入射された信号光は、最初に増幅媒体である EDF で増幅され、次に波長合波器で励起光と合波された後、光アイソレータ、光フィルタなどを通り EDFA から出力される。(
  2. EDFA に用いられる EDF の構造は伝送用 SM 光ファイバと類似しているが、EDF のコア径は SM 光ファイバのコア径と比較して細い。また、EDF のコアには、SM 光ファイバのコアと異なり、増幅利得を平坦化するためのゲルマニウム、増幅動作のためのエルビウム、屈折率分布を形成するためのイッテルビウムなどが添加されている。(
  3. EDFA の主な雑音要因となる ASE 雑音は、増幅媒体である EDF 内の広い周波数範囲に分布する自然放出光のうち、フィルタなどでも完全に取り除くことができない信号光と同じ周波数成分を有する自然放出光が、信号光と一緒に増幅されたものである。(
  4. EDFA の高出力化を図るには、励起光源自体を高出力化する方法のほか、コアを 2 重構造とした EDF を用いる方法などがある。(

正しくは,1.「最初に波長合波器で励起光と合波され,次に増幅媒体である EDF で増幅され」,2.「アルミニウム」「ゲルマニウム」,4.「」である。

Er とともにイッテルビウム(Yb)を共添加した Er:Yb 光ファイバは、濃度消光に起因する Er 添加濃度の限度を向上させることができる。

(ⅲ) 光分波・合波器及び光分岐・結合器

  1. 一つの入力端子から入射した複数の波長成分を含む光を、波長ごとに複数の出力端子に分岐し出射する光デバイスは、光分波器といわれる。(
  2. 光合波器は、光分波器と逆の作用をする光デバイスであり、一般に、光分波器の入出力を逆にすることにより、光合波器として使用することができる。(
  3. 光導波路型の光分岐・結合器の代表的な構造である Y 分岐は、多段接続して 1 × N 分岐を構成することが可能であり、光アクセス系の ADS 方式で広く用いられている。(

正しくは「PDS 方式」 である。

(ⅳ) 光ファイバケーブル及び光ファイバコードの構造、特徴など

  1. SZ 型光ファイバケーブルは、スロットの撚り回転の方向が 1 回転ごとに反転しているケーブルであり、ケーブル布設後でも、ケーブルの途中からケーブルを切断することなく、光テープ心線又は光ファイバ心線の取出しを容易に行うことができる。(
  2. 架空ドロップ光ファイバケーブルは、一般住宅や小規模集合住宅へ光ファイバケーブルを引き込む際に用いられるケーブルであり、ケーブル本体に金属製のテンションメンバを具備したメタリックタイプと、落雷時などのサージ電流が宅内に流入しないようにテンションメンバを具備しないノンメタリックタイプがある。(
  3. 光ファイバコードは、一般に、光ファイバ心線の周囲を抗張力繊維で補強し、さらに被覆を施して強度を高めており、1 心タイプ、2 心タイプなどがあり、機器内配線、屋内の機器間接続などに利用されている。(

正しくは「FRP 製のテンションメンバを具備した」である。一般に,ノンメタリックタイプのテンションメンバの材料としては FRP が用いられる。

問4

(1) 光ファイバの損失測定

光ファイバの損失測定の方法は、光ファイバを伝搬する光の減衰量を直接測定する方法と、光ファイバのコアで発生する後方散乱光を測定する後方散乱光法の二つに大別される。さらに、光の減衰量を直接測定する方法は、カットバック法と挿入損失法に分けられる。

カットバック法は、被測定光ファイバに入射した光パワーと出射した光パワーの差を測定する方法で、JIS による規定では、被測定光ファイバを入射端から 1 [m] ~ 2 [m] の位置でカットバックし、その切断位置での光パワーを測定することによって入射光パワーを得るものである。カットバック法は、全ての種類の光ファイバについて最も正確に伝送損失を測定することができる。また、挿入損失法は、被測定光ファイバの入射端側を切断できない場合に用いられる。

後方散乱光法による測定には、一般に、光源から検出器、信号処理装置までを全て内蔵した OTDR が用いられる。OTDR の光源には出力が高く安定した LD が使用され、一般に、光源から入射する光のパルス幅を狭くするほど測定分解能が高くなるが SN 比が悪くなり、測定可能距離が短くなる。

計測」「通信ケーブル監視技術」参照

(2) 光ファイバケーブル用クロージャ、架空構造物など

(ⅰ) 光ファイバケーブル用クロージャ

  1. クロージャは、光ファイバ心線の接続箇所に設置され、光ファイバ心線の接続部、心線の余長などを保護・収納するためのものであり、用途によって、架空用と地下用に大別される。クロージャには、その形状、防水性能などによっては、架空用及び地下用の双方に使用できるものがある。(
  2. 架空用クロージャには、一般に、JIS で規定される、あらゆる方向からの水の飛まつに対しても影響がないとされる、IP コードの第 2 特性数字が 4(IPX4 と表示される。)以上の防水性能を有するスリーブ(外郭)が用いられる。(
  3. クロージャ内における心線の接続形態には、直線接続、スロット切断中間分岐接続、スロット無切断中間分岐接続などがある。このうち直線接続は、光ファイバケーブルの外被を剝ぎ、分岐に必要な光ファイバ心線のみを、撚り回転の方向が一定間隔で反転しているスロットから取り出して分岐ケーブルと接続する形態である。(
  4. クロージャには、限られたスペース内に光ファイバ心線を定められた許容曲率半径を確保しつつ高密度に収容するため、また、回線増設、故障修理時などにも心線の識別や取出しが容易に行えるようにするために、心線の接続部や余長を収納するケースやトレイを具備しているものがある。(

正しくは「スロット無切断中間分岐接続」である。

(ⅱ) 架空構造物

  1. 架空構造物は、架空の通信ケーブルを支持する設備のことをいい、電柱、支線、吊り線、支持線、クロージャ、金物類などから構成され、これらは、有線電気通信法令において配線系設備として定義されている。(
  2. 架空構造物に加わる主な荷重には、風圧荷重、ケーブル張力及び垂直荷重があり、このうち電柱に加わる垂直荷重は、ケーブルなどの重量や支線の垂直分力により電柱に常時加わる垂直方向の荷重であり、電柱自体と金物類の重量は含まれない。(
  3. コンクリート柱は、JIS 規格において、1 種及び 2 種に分類され、1種コンクリート柱は鉄道、軌道における電線路などの用途に、また、2種コンクリート柱は通信、配電、送電などの用途に使用される。(
  4. 支柱は、支線が取り付けられない場合に、一般に、支線の取付け方向とは反対側に取り付けられ、本柱(支柱を取り付ける電柱をいう。)に作用する水平荷重を分担する。支柱には、一般に、本柱と同一設計荷重の電柱が使用される。(

正しくは,1.「支持物」,2.「も含む」,3.「下線部が逆」である。

有線電気通信設備令 第一条 定義において,支持物は「電柱、支線、つり線その他電線又は強電流電線を支持するための工作物」と定義されている。

(3) 再生中継伝送方式及び線形中継伝送方式

  1. 光ファイバ通信システムの伝送距離は、中継伝送を用いることにより延長することが可能である。中継伝送方式には、中継器で光電気変換を行う再生中継伝送方式と、中継器で光電気変換を行わず光領域で増幅して伝送する線形中継伝送方式がある。(
  2. 再生中継伝送方式においては、一般に、等化回路による等化増幅、タイミング抽出回路によるリタイミング及び識別再生回路による識別再生の 3R 機能を中継器に具備している。(
  3. 線形中継伝送方式で用いられる線形中継器は、光信号を電気信号に変換することなく、光のまま識別再生のみを行うことから、1R 中継器ともいわれる。(
  4. 線形中継伝送方式で用いられる光ファイバラマン増幅器は、光ファイバの非線形現象である誘導ラマン散乱を利用した増幅器であり、励起光の波長を変えることにより任意の波長の光を増幅できるなどの特徴を有している。(

正しくは「増幅」である。

(4) OTDR を使用した測定方法

  1. OTDR では、光ファイバの片端から光パルスを入射して得られる後方散乱光パワーが非常に微弱であるため、光ファイバ線路を往復する時間よりも短い周期で繰り返し光パルスを送出して得られる後方散乱光を加算平均することにより、破断点の特定や光ファイバの損失が測定できる。(
  2. OTDR におけるフレネル反射のピークレベルから 1.5 dB までの幅と定義されるデッドゾーンは、反射測定デッドゾーンといわれる。(
  3. コヒーレント検波を用いた B-OTDR は、光パルスを直接検波する OTDR よりも検出感度を高くすることができ、ダイナミックレンジが広くとれる。(
  4. OTDR を用いて波長分散測定する方法は、二つの異なる波長の光パルスを光ファイバの片端から入射し遠端で反射して戻るまでの時間差を測定して、測定値をセルマイヤ方程式にフィッティングし波長分散を算出している。(

正しくは,1.「相加平均」,3.「C-OTDR(Coherent detection OTDR,コヒーレント光時間領域反射測定)」,4.「」である。

問5

(1) 光ファイバケーブルの構造設計、布設時の張力など

光ファイバケーブルに許容される伸び率は、光ファイバに求められる破断寿命に許容される破断確率と使用する光ファイバのスクリーニング荷重による伸び率を基に決定され、光ファイバケーブル構成材料のうち弾性領域の最も小さい光ファイバの弾性限度以下の伸び率で布設できるようにケーブルのテンションメンバ強度が設計されている。光ファイバケーブルの許容張力は、一般に、ケーブルの布設長の分布などを想定して 500 m ~ 1 km の自重相当に設定されている。

光ファイバケーブル布設時の牽引張力は、線路形式(管路、とう道、架渉など)、布設形状(直けん線、曲線、屈曲など)、ケーブル種別などにより異なることから、それぞれの布設区間ごとに計算し、布設するケーブルの許容張力以下となるように設計する必要がある。光ファイバケーブルの牽引張力を $T$ [N] とし、$T_0$ [N] を布設対象区間直前の張力、$\mu$ を摩擦係数、 $g$ [m/s2] を重力加速度、$W$ [kg/m] を単位長当たりのケーブル質量、$L$ [m] を布設対象区間の長さ、$K$ を $K = e^{\mu\theta}$ ($e$ は自然対数の底、$\theta$ [rad] はケーブルの交角)で表される弾性増加率とすると、光ファイバケーブルを地下区間で水平に布設する場合、布設区間ごとの牽引張力は以下の計算式で求めることができる。

直線区間 $T = T_0 + \mu g LW$
曲線区間 $T = (T_0 + \mu g LW)K$
屈曲部直後 $T = T_0 K$

通信ケーブルの種類・特性及び試験」「アクセス系線路の光ファイバケーブル設計」参照

(2) 通信線路設備の接地、コンクリート柱の劣化、非破壊検査方法など

(ⅰ) 通信線路設備の接地など

  1. 光ファイバケーブルの抗張力体などに金属材料を使用した光ファイバケーブルの誘導雷サージ対策には、ケーブル接続点において抗張力体をクロージャの金具へ連結することにより電気的に接続し、共用接地を行う方法がある。(
  2. 雷害対策には、通信線と電源線へ避雷素子を設置し、雷サージが通信装置へ侵入しないように避雷素子の接地線どうしを連接して等電位化し、雷サージのバイパスルートを作成する方法がある。(
  3. 雷サージに対する防護素子(アレスタ)の基本動作特性としては、動作しないときには、低抵抗、低インピーダンスであり、動作したときは高抵抗となり、動作時間が非常に短時間であることなどが要求される。(
  4. 加入者保安器の接地線を大地に接地しないで架空ケーブルの支持線に接続して共用接地とする形態では、通信線を経由して雷サージが通信機器などに侵入するおそれがあるため、加入者保安器の接地線は大地に直接接地することが望ましい。(

下線部が逆である。

(ⅱ) コンクリート柱の劣化、非破壊検査方法

  1. 目視では確認できないコンクリート柱のひび割れ、鉄筋の破断などの検査は、非破壊で行われる。非破壊検査方法には超音波法、渦流探傷法などがあり、一般に、コンクリート柱の地下部分のひび割れ検査には超音波法、鉄筋の破断検査には渦流探傷法を採用した測定器が用いられる。(
  2. コンクリート柱に過大な不平衡荷重が加わると、一般に、縦ひび割れが発生する。縦ひび割れが発生すると、電柱の種類によっては鉄筋が破断して折損に至る場合がある。(
  3. 沿岸地域に設置されたコンクリート柱の表面に海から運ばれた塩分が付着すると、塩分がコンクリートのひび割れなどを通して内部に浸透し、鉄筋が腐食により膨張してコンクリートが剝落する場合がある。(

正しくは「横ひび割れ(円周方向のひび割れ)」である。

(ⅲ) 光ファイバの線路損失、接続損失

  1. 光ファイバを伝搬する光の損失 $L$ [dB] は、光ファイバに入射した光強度と、光ファイバの出射端に到達した光強度の比で表され、光ファイバに入射した光強度を $P_\text{in}$ [mW]、出射端に到達した光強度を $P_\text{out}$ [mW] とすると、次式で表すことができる。(
  2. \[ L = 20\log_{10}\frac{P_\text{in}}{P_\text{out}} \text{ [dB]} \]
  3. 光ファイバ線路の線路損失計算値は、線路長が短い場合を除き、一般に、使用する光ファイバの単位長さ当たりの光損失と線路長、融着接続の1箇所当たりの損失と融着接続箇所数、コネクタ接続の1箇所当たりの損失とコネクタ接続箇所数から算出され、さらに、統計的補正値及び線路保守マージンが加算される。(
  4. SM 光ファイバの接続損失は、光ファイバコアの軸ずれによる損失が最も大きく、光ファイバコアの軸ずれの接続損失値 $L_e$ [dB] は、コアの軸ずれを $d$ [μm]、モードフィールド径を $w$ [μm] とすると、次式で近似値を求めることができる。(
  5. \[ L_e = 4.34 \times (\frac{d}{w})^2 \text{ [dB]} \]
  6. 光コネクタの端面突合せ部では、端面の機械的加工精度が低いと、突き合わせる光ファイバの間に微小な間隙が生ずる。このとき、光コネクタから出射した光は、ガラス~空気~ガラスと屈折率の異なる媒質を通過するため、媒質の境界面において反射による損失が生ずる。(

光ファイバを伝搬する光の損失 $L$ [dB] は、光ファイバに入射した光強度と、光ファイバの出射端に到達した光強度の比で表され、光ファイバに入射した光強度を $P_\text{in}$ [mW]、出射端に到達した光強度を $P_\text{out}$ [mW] とすると、次式で表すことができる。

\[ L = 10\log_{10}\frac{P_\text{in}}{P_\text{out}} \text{ [dB]} \]

(5) 架空ケーブルに加わる張力など

図に示す張力計算モデルにおいて、以下に示す条件の場合、支持点 a 及び b の張力 $T$ は、306 [N] である。ただし、張力 $T$ は、線条方向に実際に加わる張力 $T$ と近似した水平方向の張力とし、答えは整数とする。

(条件)
  1. 単位長さ当たりのケーブル荷重 $W$:0.5 [N/m]
  2. スパン長 $S$:35 [m]
  3. 弛度 $d$:0.25 [m]
  4. ケーブルの支持点 a と b の間には,高低差がないものとする。
  5. 着雪,風圧荷重,温度などの外部要因は考慮しないものとする。
架空ケーブルに加わる張力
架空ケーブルに加わる張力

張力は次式で求められる。

\[ T = \frac{WS^2}{8d} =\frac{0.5 \times 35^2}{8 \times 0.25} = 306.25 \text{[N]} \]
inserted by FC2 system