令和2年度 第2回 専門的能力・通信線路

2021年2月10日作成,2021年2月10日更新

問1

(1) メタリック伝送路における反射の諸特性

メタリック伝送路の特性インピーダンスが変化する点では、信号波が折り返す反射現象が生ずる。このとき、一般に、進行してきた信号波は入射波、進行方向とは反対の方向へ戻っていく波は反射波、反射せず進む波は透過波といわれ、反射の大きさは特性インピーダンスの変化の大きさに依存する。

反射の大きさを表す指標として電圧反射係数や電流反射係数が用いられ、電流反射係数は電圧反射係数の反数であり、それぞれの反射係数の絶対値が1に近いほど反射損失が大きい。図に示すように特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_1$ で終端した場合、接続点における電圧反射係数は 0.25 となる。また、図において、接続点が開放されている場合、終端のインピーダンスは無限大と考えられる。したがって、終端開放時の入射電圧は入射波と同位相で全て反射される。

反射を防ぐには、巻数比が接続点のインピーダンスの比の平方根となるインピーダンス整合トランスを用いる方法などがある。

メタリック伝送路における反射
図 メタリック伝送路における反射

専門的分野・通信線路 対策ノート「メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」参照

接続点における電圧反射係数は,次式で求められる。

\[ \frac{Z_1-Z_0}{Z_1+Z_0}=\frac{500-300}{500+300}=\frac{200}{800}=0.25 \]

(2) 光の位相速度、光ファイバの分散特性など

(ⅰ) 光ファイバ中を伝搬する光の位相速度及び群速度

  1. 真空中の光の速度を $c$、媒質の屈折率を $n$ とすると、媒質中を伝わる光の速度は、$\displaystyle \frac{c}{n}$ なり、この光の速度は、光の位相が伝わる速さであり位相速度といわれる。一方、周波数が異なる複数の波の集まりである波束が伝わる速度、すなわちパルスの包絡線が伝わる速度は、群速度といわれる。(
  2. SI 型光ファイバでは、高次モードほど群速度が速くなる。これは、入射端で幅の広いパルスを入力しても、異なるモードに分担されて伝搬される結果、伝搬距離とともにパルスの幅が狭くなることを意味する。(
  3. 基本的なモードとなる LP01 モードは、波長が長くなると、電磁界が広がり屈折率の低いクラッドの影響を受けて位相速度が速くなる。逆に、波長が短くなると、電磁界がコアに集中して位相速度は遅くなり、コアの屈折率で決まる値に収束する。(

正しくは「狭い」「広く」である。

(ⅱ) 石英系光ファイバの分散特性など

  1. SM 光ファイバの波長分散において、ゼロ分散波長を境に、長波長側は正常分散領域といわれ、短波長側は異常分散領域といわれる。正常分散領域においては波長が長くなるほど群速度が速くなり、異常分散領域においては波長が長くなるほど群速度が遅くなる。(
  2. 材料分散は石英ガラスの材料によって決まるため調節することは困難であるが、構造分散は光ファイバの比屈折率差や屈折率分布を調節して変化させることができる。DSF は、SM 光ファイバの構造分散を調節して、ゼロ分散波長を 1.3 μm 帯から 1.55 μm 帯にシフトさせた光ファイバである。(
  3. 偏波モード分散は、SM 光ファイバのコア形状の僅かなゆがみなどによって、伝搬する光の直交する二つの偏波モード間に群遅延時間差が生ずることにより発生する分散であり、高速・長距離伝送システムにおいて、その影響を考慮する必要がある。(

下線部が逆である。

光ファイバの波長分散は,ゼロ分散波長より短波長側の正常分散領域と長波長側の異常分散領域に分けられ,光パルス信号のスペクトルが正常分散領域にあるときは,波長が長いスペクトル成分ほど群速度は速くなる。

(ⅲ) 自己位相変調又は四光波混合

  1. 自己位相変調は、光ファイバ中を伝搬する光が、その光自身の強度に起因する屈折率の変化により、位相がシフトする現象であり、光強度に依存して光ファイバの屈折率が変化する現象は、ファラデー効果といわれる。(
  2. 異常分散領域にある波長の光パルスが光ファイバ中を伝搬するとき、自己位相変調によるパルスが広がる効果と波長分散によるパルスが狭まる効果とが相殺され、光パルスが元の波形を維持したまま光ファイバ中を長距離にわたり伝搬する現象は、光ソリトンといわれる。(
  3. 四光波混合は、一般に、三つの異なる波長の光を同時に光ファイバ中に入射した際に、それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象であり、入射した光の波長がゼロ分散波長から離れているほど発生しやすくなる。(
  4. WDM 方式では、四光波混合が伝送品質の劣化要因となるため、その対策として、波長を不等間隔に配置する方法、NZDSF などを用いてゼロ分散でない波長域を利用する方法などが採られている。(

正しくは,1.「光カー効果」,2.「下線部が逆」,3.「等間隔で配置されているほど」である。

(ⅳ) エルビウム添加光ファイバ(EDF)の特徴などに

  1. EDF のコアには、増幅動作をするためのエルビウムと屈折率プロファイルを形成するためのゲルマニウムのほか、増幅された波長の利得を平坦化するためのアルミニウムが添加されているものがある。(
  2. EDF のクラッド外径と伝送用光ファイバのクラッド外径は同じであるが、EDF のコア径は増幅性能を向上させるため、伝送用光ファイバのコア径と比較して小さい。(
  3. エルビウムの添加濃度を高めると EDF の利得係数は大きくなるが、高濃度になると濃度消光が生じて励起効率が低下する。(
  4. EDF の励起方法には前方励起、後方励起などがある。励起光として 0.98 μm 帯を用いた後方励起前方励起と比較して低雑音であるため、プリアンプに用いられている。(

下線部が逆である。

問2

(1) 光通信に用いられる LD の特徴など

LD は、その構造の違いにより、端面発光型と面発光型に分類される。

端面発光型には、ファブリペロー型 LD(FP-LD)、分布帰還型 LD(DFB-LD)などがある。FP-LD は、多数の縦モードで発振することから、出射された光が光ファイバ中を伝搬すると波長分散の影響により光信号のパルス幅が広がり符号間干渉が発生することがある。このため、長距離・高速伝送の光通信システムの光源には、一般に、単一モードで発振する DFB-LD が用いられる。DFB-LD は活性層付近に等価的に屈折率の周期的な変化となる構造を有している。

端面発光型の LD から出射された光は、一般に、楕円形に広がることから、断面が円形である光ファイバとの結合においては、LD と光ファイバとの間にロッドレンズや円柱レンズを配置するなどして、光を集束する必要がある。

面発光型の LD は、VCSEL ともいわれ、屈折率を制御した周期的な層構造で生ずる反射によって、基板面に対して垂直方向にレーザ光を出射する。また、VCSEL から出射された光は円形に広がることから、出射光と光ファイバのモードフィールド径を同程度に設計すると、レンズなしで光ファイバと結合することが可能である。

電気通信システム 対策ノート「光通信用素子」参照

(2) 光アイソレータの特性、光送受信モジュールの種類など

(ⅰ) 光アイソレータの特性など

  1. 光アイソレータは、光を一方向にのみ透過させることができる光デバイスであり、LD モジュールにおいて、戻り光による雑音増加を抑えて発振を安定させるために用いられる。(
  2. 光アイソレータの性能は、光の伝搬と逆方向における透過損失と、順方向における挿入損失の差であるアイソレーションによって表され、アイソレーションが小さいほどアイソレータとしての能力は高い。(
  3. 光ファイバ増幅器の内部や外部での反射による発振を抑止し ASE 雑音の増大を防止するために用いられる光アイソレータは、一般に、光ファイバ増幅器の入出力端に配置される。(
  4. EDFA の発振防止に使用される光アイソレータは、入力される光と偏波面が一致しない場合には光損失が増大するため、一般に、入射光の偏波によらず順方向の通過損失が小さい偏波無依存型光アイソレータが用いられる。(

正しくは「大きい」である。

(アイソレーション) = (光の伝搬と逆方向における透過損失)-(順方向における挿入損失)

(ⅱ) 光通信設備に使用される光送受信モジュールの構造、種類など

  1. 光送信モジュールは実装構造の違いからバタフライ型、同軸型などに分類され、バタフライ型は、光結合部分をブロック化して樹脂製のパッケージに搭載したモジュールであり、一般に、高速で短距離の伝送に用いられる。(
  2. 同軸型の光送信モジュールは、光素子をパッケージ化して励振器を接続したモジュールであり、一般に、高速で長距離の伝送に用いられる。(
  3. 光送信モジュールと光受信モジュールを一つのパッケージにしたものは光トランシーバといわれ、一般に、着脱可能なものが使用されている(
  4. 光トランシーバの種類には、GBIC(Gigabit Interface Converter)、SFP(Small Form-Factor Pluggable)、SFP + などがあり、SFP + は、一般に、1 [Gbit/s] までの通信速度に用いられる。(

正しくは,1.「」,2.「」,4.「」である。

近年,経済化の要請から光部品の機能ブロック化並びにそのデファクトスタンダード化の進展が著しい。大別すると,一部のまとまった機能をブロック化したサブアセンブリモジュールと,送受信機能を一体化した光送受信モジュールがある。

光トランシーバでは,上記サブアセンブリモジュールと信号制御用の電子回路によって構成されている。伝送装置の中でも際立って高価な光送受信部分の互換性を高めたり,部品やインターフェースの共通化による経済化を促進させるため,着脱可能(Pluggable)な光トランシーバのデファクトスタンダード化が進展しており,代表t来なものとして SFP(Small Form Factor Pluggable),XFP(10G Small Form Factor Pluggable)が普及してきている。

(ⅲ) 光ファイバケーブル、光ファイバ心線又は光ファイバコードの構造、特徴など

  1. 自己支持型光ファイバケーブルは、光ケーブル部と吊り線が一体となっていることから、光ケーブル部は架渉後も常時伸びひずみを受け続けるため、光ファイバの破断確率が高くなる。このため、吊り線は、架渉張力、温度変化、風圧、着雪などによる光ファイバケーブルの伸びひずみを考慮したものが用いられる。(
  2. タイト型光ファイバケーブルは、光ファイバ心線を抗張力体の周りに集合し、その上に側圧などの外力から光ファイバを保護するための緩衝層などを施した構造である。抗張力体は、布設後の温度変化による光ケーブルの伸縮を抑えて、損失増加防止の役割を果たしている。(
  3. 光ファイバ心線には、温度特性や機械特性を満足させる目的で、多層被覆が施されており、内層にはマイクロベンドを防止するために硬い被覆が、また、外層には側圧などから光ファイバを保護するために柔らかい被覆が用いられている。(
  4. 光ファイバコードは、一般に、光ファイバ心線の周囲に抗張力体としてポリアミド系繊維などを密着させて配置し、さらに抗張力体の周りにビニルなどを被覆してシースとした構造であり、光伝送機器内配線、同一フロア内の機器間の接続などに使用される。(

下線部が逆である。

内層(一次被覆)にはマイクロベンドを防止するために柔らかい被覆が、また、外層(二次被覆)には側圧などから光ファイバを保護するために硬い被覆が用いられている。

光ファイバ心線
図 光ファイバ心線

(ⅳ) 光ファイバケーブルの分類、特徴など

  1. SZ 型光ファイバケーブルは、スロットの撚り回転の方向が 1 回転ごとに反転しているよケーブルであり、ケーブル布設後でも、ケーブルの途中からケーブルを切断することなく、光テープ心線又は光ファイバ心線の取出しを容易に行うことができる。(
  2. WB ケーブルは、非ガス保守方式で用いられるケーブルであり、ケーブル内に水が浸入するとケーブル内に止水ダムが形成されて水走りを防止できるため、浸水しても設計寿命までは取り替える必要がない。(
  3. FTTH サービスにおいて、一般住宅への引込みに使用されるドロップ光ファイバケーブルは、雷サージ電流の流入を防止するため、一般に、テンションメンバには FRP が使用されている。(

正しくは「浸水発見~取替まで 100 日以内を目安に修理を行う」である。

浸水状態のまま一定期間放置された光ファイバ心線の破断確率は,最大で乾燥状態の 10 倍となることから,浸水を適切に検知することが必要となる。浸水期間を短くすることにより破断確率の上昇を抑制することが可能である。

問3

(1) 光ファイバケーブルの特徴

光ファイバの材料に石英ガラスが多く用いられている理由として、天体望遠鏡などに使用される高品質な光学ガラスであっても、光が数メートル透過すると光のエネルギーが半減するのに対して、石英ガラスは、光が約 15 [km] 伝搬して光のエネルギーが半減するという低損失であることが挙げられる。また、石英ガラスは電気を通さない誘電体であり、電力線や電波の影響を受けず、光ファイバどうしでは漏話が生じないという利点もある。

石英ガラスを用いた光ファイバは、同軸ケーブルと比較して、高い周波数の信号を伝送できる広帯域性があり、光ファイバ通信に使用される光は、一般に、光ファイバの伝送損失が最も小さい 1.55 μm 帯の C バンドといわれる波長帯域が使用される。また、石英ガラスの密度は銅の約 25 % であるため軽量であり、さらに、光ファイバ心線をテープ化し積層した光ケーブルは、メタリックケーブルと比較して細径であることから、長尺のケーブルを布設することが可能となっている。

専門的分野・通信線路 対策ノート「通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照

表 各バンドと波長
バンド(略称) バンド 波長 [nm]
T-band Thousand-band 1 000 - 1 260
O-band Original-band 1 260 - 1 360
E-band Extended-band 1 360 - 1 460
S-band Short-wavelength-band 1 460 - 1 530
C-band Conventional-band 1 530 - 1 565
L-band Long-wavelength-band 1 565 - 1 625
U-band Ultralong-wavelength-band 1 625 - 1 675

(2) フォトニック結晶光ファイバ(PCF)、光ファイバの分散補償技術など

(ⅰ) フォトニック結晶光ファイバ(PCF)

  1. クラッド部に空孔を周期的に配列した構造の光ファイバは、一般に、PCF といわれ、光の導波原理により、屈折率導波型光ファイバ又はフォトニックバンドギャップ型光ファイバ(PBF)に分類される。(
  2. 屈折率導波型光ファイバは、一般に、コア部とクラッド部が同じガラス素材で構成されているが、クラッド部に設けられた空孔によりクラッド部の実効的な屈折率がコア部の屈折率と比較して小さくなるため、全反射によって光を閉じ込めて伝搬させることができる。(
  3. PBF は、クラッドに二次元の周期的な空孔を配列することにより、フレネル反射を利用して中空のコアに光を閉じ込め伝搬することができるため、ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。(
  4. PCF の融着接続は、アーク放電により空孔が潰れるためコアに光を閉じ込めることができなくなり、一般に、損失が大きくなる。(

正しくは「ブラック反射」である。

(ⅱ) 光ファイバの分散補償技術など

  1. 光ファイバ中を伝搬する信号光の位相のひずみを補償する分散補償技術には、線形素子を用いる能動型及び非線形光学効果を利用する受動型がある。(
  2. SM 光ファイバの波長分散は、伝送路用光ファイバと逆の分散特性を持つ光デバイスを用いた分散補償技術により理論的には完全に補償が可能である。(
  3. 能動型の分散補償デバイスには、ラマン散乱により新たに発生する光が、伝送されている信号光と同じ変調信号を有し、位相が反転していることを利用して波長分散を補償するものがある。(
  4. 受動型の分散補償デバイスの一つである分散補償光ファイバは、伝送路用光ファイバと絶対値がほぼ等しく符号が逆の分散を有する光ファイバであり、一般に、光中継器内に配置される。(

正しくは,1.「」,3.「」,4.「」である。

(ⅲ) 光ファイバの波長分散の測定など

  1. 位相シフト法は、正弦波変調された二つの波長の光が、光ファイバ中を伝搬したときに生ずる非線形光学効果と変調度の関係から波長分散を求める方法であり、変調周波数は測定する光ファイバの長さと分散量によらず一定に保つ必要がある。(
  2. OTDR 法は、光ファイバに入射された光パルスが遠端にて反射され、戻ってくるまでの時間差を利用することにより波長分散を測定する方法であり、位相シフト法と異なり、片端測定が可能である。(
  3. パルス法の一つであるツインパルス法は、変調度の異なる二つの光パルスを被測定光ファイバに同時に入射し、測定される光パワーレベル差を定義式に当てはめて、波長分散を求める方法である。(
  4. 干渉法は、測定する光ファイバと、既知の群遅延を有する基準光路とでマッハツェンダ干渉計を形成することによって、群遅延の波長依存性が測定できるため、一般に、分散補償光ファイバなどの長尺な光ファイバの波長分散測定に適用される。(

正しくは,1.「」,2.「」,4.「」である。

(ⅳ) 光増幅器の利得、雑音指数の測定方法など

  1. 光増幅器の利得と雑音指数の測定方法は、光学的手法と電気的手法に大別される。光学的手法は、利得測定において電気的手法と比較して ASE 光の影響を受けにくく、また、雑音指数の測定において雑音指数総和値の測定に適しており、光増幅器の実使用に近い状態での値が得られる。(
  2. 光増幅器の利得は、光増幅器の入力端での信号光パワーに対する出力端での信号光パワーの比として定義され、入力信号光パワーが低い領域では一定の値を示し、この領域は非飽和領域、線形領域あるいは小信号領域といわれる。(
  3. 光増幅器の利得は、入力信号光パワーのほか、偏波面の変化によっても変動するため、利得測定中に信号光の偏波面が変化すると誤差を生ずることがある。このため、偏波依存利得変動の大きい光増幅器の利得を測定する場合は、偏波スクランブルを行うか、測定ポイントごとに偏波面の調整を行う必要がある。(
  4. 光増幅器の入力側の SN 比と出力側の SN 比の比は、雑音指数といわれる。光増幅器の利得が 1 より十分大きい場合には、雑音指数の支配的要因は、増幅された信号光と ASE 光の間で発生するビート雑音と、ASE 光と ASE 光の間で発生するビート雑音である。(

正しくは「」である。

問4

(1) 光ファイバ心線対照器(ID テスタ)を用いた作業、レーザ製品の安全基準など

光ファイバケーブル設備の建設作業や保守作業を行う際、誤接続や誤切断を回避するため、一般に、ID テスタなどを用いて光ファイバケーブルの心線対照が行われる。

ID テスタを用いた心線対照においては、現用回線に影響を与えないようにするため、ID テスタ送信部から対照したい光ファイバに、一般に、通信光より長波長で,かつ,変調された対照光を挿入し、ID テスタ受信部の曲げ部で、対照光の漏れを検出して、該当する光ファイバを特定する。対照光には、曲げによる光の漏れが通信光より大きい 1.65 μm の光が用いられる。

光ファイバ通信システムなどで使用されるレーザ光は、一般に、人間の目には見えず危険である。レーザ光による事故を防止する方策としては、使用するレーザ製品のクラスを確認すること、レーザ出射口やそれに接続された光ファイバ端面を裸眼でのぞかないこと、レーザ光用遮光保護具を着用することなどがある。

レーザ製品は、JIS C 6802 : 2014(2018 : 追補 1 により改正)で定められた被ばく放出限界(AEL)値に従い、人間の目及び皮膚に対するレーザ放射の危険度に応じて 8 段階にクラス分けされる。各クラスの AEL は、レーザ光の波長、パルス幅、放射持続時間、繰り返し周波数、網膜上での集光スポットの大きさなどを考慮し規定されている。

光ファイバ通信システムの安全に適用される JIS C 6803 : 2013(2017 : 追補 1 により改正)において、非制限区域とは一般大衆による接近を制限する手段が存在しない区域とされており、非制限区域にあっては、クラス 2 の AEL を超えるレーザ放射に人体がさらされてはならないと規定されている。

専門的分野・通信線路 対策ノート「通信ケーブル監視技術」参照

(2) 光ファイバの心線対照技術など

(ⅰ) 光ファイバ心線対照などに用いられる ID テスタ

波長 1.565 [μm] 以上の長波長帯通信光、光ファイバコード及び R15 光ファイバに対応した光ファイバ心線対照などに用いられる ID テスタ

  1. ID テスタの曲げ部の湾曲形状を左右非対称にすることにより、左及び右方向からの試験光の漏洩光検出レベルに差を生じさせ、それぞれの検出レベルの大小を比較することで光線えい路の上部下部が判定できる。(
  2. ID テスタの受光素子に Ge-PD と比較して受光感度が高い三元素系の InGaAs-PD を用いて、被覆が厚く光が漏れにくい光ファイバコードの心線対照における受光感度を向上している。(
  3. 曲げを加えても通信光が心線外部へ漏洩しにくい R15 光ファイバの心線対照を可能とするため、ID テスタの曲げ部に光ファイバ被覆と同程度の屈折率を持つ透過性部材を用いて漏洩光の検出感度を高める方法がある。(

(ⅱ) アクセス網における FTTx 技術

  1. 既存の同軸ケーブルと光ファイバケーブルを組み合わせてネットワークを構成する形態としては、HFC がある。この形態では、既存の設備を利用することによって建設コストの低減が可能であるほか、同軸ケーブルのみの形態と比較して、より高速な信号伝送が可能になる。(
  2. HFC は、セルといわれるサービスエリアの世帯数を 600 程度とすることにより流合雑音の影響を小さくすることができることから、全区間で同軸ケーブルを用いる CATV 網と比較して低雑音であり、また、同軸ケーブルの区間が短いことから、一般に、下り伝送帯域を 770 MHz 程度まで拡大することができる。(
  3. PON は、設備センタとユーザ宅の途中に受動素子を用いた光分岐回路などを設置し、設備センタからの光信号を分岐してユーザ宅に接続する形態である。また、PON における光分岐回路を光多重化装置に置き換えたものは、PDS であり、ユーザ数が増加しても 1 ユーザ当たりの使用可能帯域は変わらない。(
  4. ADS は、設備センタとユーザ宅間に E/O 変換などの機能を有する能動素子を用いる方式である。(

正しくは「ADS」である。

(ⅲ) 光コネクタの端面研磨技術

  1. フェルールの端面を凸球面状に研磨する PC 研磨では、一般に、光ファイバの先端が理想球面より削られてくぼんだ状態になるが、コネクタ接続時にフェルールが押されることで先端部が弾性変形し、光ファイバの端面どうしが直接接触するため、フラット研磨と比較して、反射を抑えた安定した接続が可能である。(
  2. PC 研磨加工では、加工変質層が形成されてブラッグ反射の原因となることがある。AdPC 研磨は、仕上げ研磨において SiO2 研磨剤を用いて加工変質層を除去し、反射減衰量を抑えることができる。(
  3. フェルールの端面を斜め 8 度で凸球面状に研磨する斜め PC 研磨では、一般に、接続点で発生する反射光を光ファイバのコア方向に反射させることから、PC 研磨と比較して、反射による影響を小さくすることができる。(

正しくは,B.「」,C.「クラッド方向」である。

(ⅳ) 架空線路設備に作用する荷重、腐食による影響など

  1. 支線取付角度は、一般地域において支線の素材使用量が最小となる 35 度 ~ 45 度の範囲で極力大きくとることとされているが、積雪地帯では、積雪の沈降力による影響を避けるため、一般に、35 度とされている。(
  2. 上部支線に最低温度時の風圧荷重又は宙乗り作業による集中荷重が加わったときの設計張力 $N$ [kN] は、吊り線の最大張力を $T$ [kN] とし、支線取付角を $\theta$ [rad] とすると、次式で表される。(
  3. \[ N=\frac{1}{10}\times\frac{T}{\sin\theta} \]
  4. 下部支線は、臨海低湿地や水田跡地、植え込み、側溝周辺など湿った土中で腐食しやすく、土中への酸素供給量が多い地際部のほか、水分が多い土中の深い部分ほど腐食が大きくなる傾向がある。(
  5. 電柱に作用する水平荷重による曲げモーメント $M$ [kNm] は、水平荷重を $P$ [kN]、水平荷重作用点の地表からの高さを $h$ [m] とし、電柱の回転中心の地表からの深さを $t_0$ [m] とすると、次式で表される。電柱が倒壊しないためには、$M$ が地盤の許容抵抗モーメント以下であることが必要である。(
  6. \[ M=P(h+t_0) \]

正しくは「」である。

支線が取り付けられた単独柱に加わる水平荷重は,一般に,支線が 90 [%],電柱が 10 [%] の割合で分担する。

問5

(1) 凍結によるケーブル障害とその対策

寒冷地に布設されたケーブルは、管路内に滞留する水が凍結すると水の体積が膨張して生ずる凍結圧により、ケーブル外被に亀裂が生じたり伝送特性が劣化したりする。その対策として、管路内に水が浸入するのを防止するためダクト口を止水したり、排水設備を設けたりして溜水を防止する溜水防止方法と、凍結防止用の PE パイプを用いる PE パイプ挿入法がある。

PE パイプ挿入法は、ケーブル外被に使用するプラスチックと同じ材質を用いた中空構造のパイプで凍結圧を吸収する方法であり、引上げ分線管路、橋梁添架管路、凍結深度内にりょうある管路などに適用される。呼び径 75 [mm] の管路に 11 [mm] ~ 46 [mm] の外径のケーブルを布設する場合は、一般に、19 [mm] の PE パイプを 3 本挿入する。また、地表面の温度変化の影響を受けにくい深さに管路を埋設することも、凍結防止対策として有効である。

PE パイプの布設は、ケーブルのプーリングアイにケーブル縛り紐などを用いて PE パイプを取ひもり付けてケーブル布設と同時に行う。PE パイプどうしのつなぎ部は、布設作業中に管路内で詰まる原因となるので、管路の径間が長い場合であっても原則としてつなぎ部を管路内に設けないようにする。

専門的分野・通信線路 対策ノート「腐食・損傷対策」参照

(2) 通信ケーブルなどへの誘導妨害と雷害、その対策など

  1. 送電線から発生する誘導のうち電圧成分を誘導源とするものは電磁誘導といわれ、誘導源との離隔距離を確保するため、通信ケーブルを移設したり地中化する対策が有効である。(
  2. 送電線の事故発生時に地絡電流などの送電線を流れる電流成分を誘導源とするものは静電誘導といわれ、通信線を誘導遮蔽効果の高いものに張り替え、その両端を接地して誘導電圧を抑制する対策が有効である。(
  3. 架空メタリックケーブルの雷サージ対策には、ケーブル保安器を接続端子函内でかん心線と接続し、さらに、ケーブル保安器の接地端子を接地線でケーブルシースと支持線に接続して、ケーブルシースと各心線間の電位差をなくす方法がある。(
  4. 落雷により電力設備の接地から大地に放流された雷サージが通信設備へ侵入することを防ぐための対策として、電力用接地と通信用接地の離隔を 1 [m] 程度とすれば有効である。(

正しくは,1.「静電誘導」,2.「電磁誘導」,4.「」である。

(3) 電柱の設計荷重、架空光ファイバケーブルの張力及び伸び率

(ⅰ) 電柱の設計荷重

  1. 風向きに対して直角に向いた面の単位面積当たりの風圧荷重 $P$ [N/m2] は、空気密度を $\rho$ [kg/m3]、抗力係数を $c$ とし、風速を $v$ [m/s] とすると、次式で表される。(
  2. \[ P=\frac{1}{2}\rho \times 9.8 \times cv^2 \]
  3. 総務省令で定められている風圧荷重のうち、鉄筋コンクリート柱において垂直投影面積 1 [m2] につき 780 Pa の風圧が加わるものとして計算する荷重は、乙種風圧荷重といわれる。(
  4. 曲柱の設計荷重は、線路に角度があるため、不平衡荷重が両側の吊り線又は支持線の合成方向に加わるものとして、基礎地盤支持力などを考慮して求められる。(
  5. 適正な支線又は支柱を有する電柱の設計では、一般に、電柱自体の強度を考慮すればよいのに対し、無支線又は無支柱の電柱の設計では、電柱自体の強度及び基礎地盤支持力を考慮する必要がある。(

正しくは「甲種」である。

(ⅱ) 架空光ファイバケーブルの張力及び伸び率

  1. 架空光ファイバケーブルの線条方向に加わる張力 $T$ [N] は、弛度を $d$ [m]、単位長さ当たりのケーブル荷重を $W$ [N/m]、スパン長を $S$ [m] とすると、次式で求められる。(
  2. \[ T=\frac{WS^2}{8d} \]
  3. 自己支持型光ファイバケーブルの伸び率 $\Sigma$ は、支持線の水平方向の張力を $T$ [N]、断面積を $A$ [mm2]、弾性係数を $E$ [N/mm2] とすると、次式で求められる。(
  4. \[ \Sigma=\frac{T}{AE} \]
  5. 光ファイバケーブルの架渉設計においては、温度、風圧、着雪などの影響によりケーブルの張力が変動することを考慮して、適切な弛度を確保する必要がある。ケーブルに加わる荷重の条件が同じであれば、一般に、温度が上昇すると弛度は増加し、張力は減少する。(
  6. 光ファイバケーブルは、光ファイバケーブルの許容張力が加わったときであっても光ファイバの伸び率が許容値以下となるように設計されており、光ファイバケーブルの最大許容伸び率は、一般に、2 [%] とされている。(

正しくは「0.2 [%]」である。

(4) ケーブルの牽引張力

図に示すような平面線形の地下管路区間において X 地点から Z 地点へ、以下に示す条件で光ファイバケーブルを布設する場合、Z 地点での牽引張力は、1,012 [N] である。ただし、重力加速度は 10 [m/s2] とする。

(条件)
  1. 光ファイバケーブルの質量:0.7 [kg/m]
  2. X 地点 ~ Y 地点間の布設距離:40 [m]
  3. Y 地点 ~ Z 地点間の布設距離:200 [m]
  4. 繰出点の初期張力:100 [N]
  5. 摩擦係数:0.5
  6. 交角:30 度
  7. Y 地点での張力増加率:1.3
  8. 光ファイバケーブルの布設ルートは,高低差はないものとする。
  9. 中間牽引は行わないものとする。
平面線形の地下管路区間における光ファイバケーブル布設
図 平面線形の地下管路区間における光ファイバケーブル布設

Z 地点での牽引張力は,次式で求められる。

(100 [N] + 0.5 × 10 [m/s2] × 0.7 [kg/m] × 40 [m]) × 1.3 + 0.5 × 10 [m/s2] × 0.7 [kg/m] × 200 [m]
312 [N] + 700 [N] = 1 012 [N]
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