平成27年度 第1回 電気通信システム

2019年5月30日作成

問1

1 [μF] のコンデンサを 1 [V] で充電し,3 [μF] のコンデンサを 3 [V] で充電して並列に接続したとき,この 2 つのコンデンサに蓄えられる総合のエネルギーは,1.25 × 10-5 [J] である。ただし,充電後の 2 つのコンデンサの極性は一致させて接続するものとする。

2 つのコンデンサの静電容量をそれぞれ $C_1$,$C_2$ [μF],電圧を $V_1$,$V_2$ [V],電荷を $Q_1$,$Q_2$ [C] とすると,並列接続したときの電圧 $V$ [V] は,下式となる。

\[ V = \frac{Q_1+Q_2}{C_1+C_2}=\frac{C_1 V_1 + C_2 V_2}{C_1+C_2} \]

2 つのコンデンサに蓄えられるエネルギー $W$ [J] は,下式となる。

\[ W = \frac{1}{2}(C_1+C_2)V^2=\frac{1}{2}\times\frac{(C_1 V_1 + C_2 V_2)^2}{C_1+C_2}=1.25 \times 10^{-5} \text{ [J]} \]

問2

図に示す回路において,端子 A,B 間の合成抵抗は,18 [Ω] である。

合成抵抗
図 合成抵抗

図はブリッジ回路を示しており,ブリッジは平衡している。よって,50 [Ω] の抵抗は無視できるため,合成抵抗 $R$ は次式で求められる。

\[ R = \frac{(15 + 30) \times (10 + 20)}{(15 + 30) + (10 + 20)} = \frac{45 \times 30}{75}=18 \text{ [Ω]} \]

問3

FM 波の復調には,図に示す PLL 回路などが用いられている。

PLL
図 PLL (Phase Locked Loop)

この回路は PLL(Phase Locked Loop : 位相同期回路)といわれる。入力される周期的な信号を元にフィードバック制御を加え,位相同期した信号を出力する回路である。フィードバックに加える信号を制御して,色々な信号を安定して作り出すことができる。

問4

図に示す論理回路において,入力 a 及び入力 b の論理レベル(それぞれ $A$ 及び $B$)と出力 x の論理レベル($X$)との関係は,$X=$ $A \cdot B + \overline{A}\cdot\overline{B}$ の論理式で表すことができる。

論理回路
図 論理回路

出力 $X$ の論理式を整理する。

\[ X = (\overline{\overline{A} \cdot B + A \cdot \overline{B}}) = (\overline{\overline{A} \cdot B})\cdot (\overline{A \cdot \overline{B}}) = (A+\overline{B})\cdot(\overline{A}+B)=A\cdot\overline{A}+A\cdot B +\overline{A}\cdot\overline{B}+B\cdot\overline{B} = A\cdot B + \overline{A}\cdot\overline{B} \]

問5

ADSL で用いられている変調方式には,大別して 2 種類の変調方式がある。ITU-T 勧告 G.992.1 と G.992.2 においては,複数の搬送波に信号を離散させる DMT 変調方式が標準方式として規定されている。

ADSL で用いられる変調方式には,CAP(Carierless Amplitude and Phase Modulation)方式と DMT(Discrete Multi Tone)方式がある。

問6

図に示すブリッジ回路において,$R_A$ が 1,000 [Ω],$R_B$ が10 [Ω],$R_C$ が 2 [Ω],$C_C$ が 1 [μF] のときブリッジ回路は平衡している。このときの $C_X$ は 0.01 [μF] である。

ブリッジ回路
図 ブリッジ回路

電圧源の角周波数を $\omega$ [rad/s] とすると,ブリッジ回路が平衡しているとき,次式が成り立つ。

\[ R_A (R_C + \frac{1}{j\omega C_c}) = R_B (R_X + \frac{1}{j\omega C_X}) \]

上式より,$C_X$ を求める。

\[ C_X = C_C \times \frac{R_B}{R_A} = 1 \times \frac{10}{1,000} = 0.01 \text{ [μF]} \]

問7

図に示すように,特性インピーダンスがそれぞれ 600 [Ω] と 400 [Ω] の伝送ケーブルを接続して信号を伝送すると,その接続点における電流反射係数は,0.2 となる。

電流反射係数
図 電流反射係数

電流反射係数 $\rho_i$ は,入力側の特性インピーダンス $Z_i$,出力側の特性インピーダンス $Z_o$ とすると,次式で表される。

\[ \rho_i = - \frac{Z_o - Z_i}{Z_i + Z_o} = -\frac{400 - 600}{600+400} = \frac{200}{1000}=0.2 \]

問8

アナログ方式の多重伝送路において,1 回線当たりの平均電力が -10 [dBm] で互いに相関のない信号を 1,000 回線伝送しているとき,その電力和は,20 [dBm] である。

1 回線の電力を $P_1$ とする。

\[ -10 \text{ [dBm]} = 10\log_{10} P_1 \] \[ P_1 = 10^{-1} \]

1,000 回線の電力和 $P_T$ は,次式となる。

\[ P_T = 1000 \times P_1 = 10^2 \]

したがって,求める電力和は,次式となる。

\[ 10\log_{10}P_T=10\times2= 20 \text{ [dBm]} \]

問9

アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送するデジタル伝送方式において,アナログ信号を標本化することにより得られる PAM パルスは,アナログ信号波形の大きさを振幅で表している。

アナログ信号の入力波形の振幅の大きさに比例して,パルスの振幅を変化させる信号を PAM(Pulse Amplitude Modulation)信号と呼ぶ。

問10

VoIP において,IP 電話の発信者からの要求に応じた着信先の指定や,音声信号を送受信するための呼制御信号の処理に用いられる技術は,一般に,シグナリング技術といわれる。

通信システムにおいて,呼制御のことをシグナリングと呼び,その手順を示したものはシグナリングプロトコルといわれる。

問11

回線数が 20 回線の出回線群において,この出回線群に対し 18 [アーラン] の呼が加わり,呼損率が 0.03 のとき,出回線能率は 87.3 [%] となる。

運ばれた呼量 $a_c$ を求める。

$a_c$ = 出回線能率 $\eta$ × 回線数 $n$ = 0.873 × 20 = 17.46 [アーラン]

呼損率 $B$ は,加わった呼量 $a$ = 18 と $a_c$ との差分比率で求める。

\[ B = \frac{a-a_c}{a}=\frac{18-17.46}{18}= 0.03 \]

問12

静止衛星を介した電話回線では,伝送遅延による伝送品質の劣化を避けるため,地球局に最も近い交換局などにおいて,エコーキャンセラを用いる方法がある。

静止衛星は地球の自転周期と一致した自転周期を持つが,高度 36,000 km の赤道上空にあるため,衛星通信システム相互間で約 300 ms 程度の信号遅延が生じ,信号の反射現象が発生し,これをエコーと呼ぶ。この対策として,一般に,エコーキャンセラ技術が用いられている。

問13

図は,アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式をモデル化したものである。図中の A 及び B に入るものとして最も適した語句の組合せは,圧縮及び伸張である。

アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式
図 アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式

デジタル信号に変換するとき,アナログ信号との差分が端数として残り,端数を丸めた分が量子化雑音となる。量子化雑音を抑えるには,一般に,送信側では,信号レベルの小さい部分はステップ幅を小さく,信号レベルの大きい部分はステップ幅を大きくすることで,少ないステップ数で量子化精度を上げる。これを圧縮と呼び,復号側で伸張する。

この方式を非直線量子化といい,ビット数を増やすことなく信号に対する量子化雑音の比を一定にすることができるので PCM 符号・復号化器(CODEC)のコストを抑えることができる。

問14

携帯電話の電気通信番号付与方式は,通信網全体の番号を一義的に付与し,国内においてどこから接続する場合でも着信先に対して同一番号になるようにした,0A0 で始まる閉鎖番号方式を用いている。

携帯電話・PHS の番号計画は閉鎖番号方式で 070 ~ 090 - CDE - XXXXX の構成であり,CDE が事業者識別番号となっている。

問15

電話網の信号方式において,発信側の端末が通話を終了するため,その端末の直流回路を開いて 1 [MΩ] 以上の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号は,切断信号といわれる。

事業用電気通信設備規則 第二十九条 監視信号受信条件

事業用電気通信設備は、端末設備等を接続する点において当該端末設備等が送出する次の監視信号を受信し、かつ、認識できるものでなければならない。

  1. 端末設備等から発信を行うため、当該端末設備等の直流回路を閉じて 300 Ω 以下の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「発呼信号」という。)
  2. 端末設備等において当該端末設備等への着信に応答するため、当該端末設備等の直流回路を閉じて 300 Ω 以下の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「端末応答信号」という。)
  3. 発信側の端末設備等において通話を終了するため、当該端末設備等の直流回路を開いて 1 MΩ 以上の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「切断信号」という。)
  4. 着信側の端末設備等において通話を終了するため、当該端末設備等の直流回路を開いて 1 MΩ 以上の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「終話信号」という。)

問16

インターネットで使用されている TCP/IP プロトコルについて述べた次の文章のうち,正しいものは。

  1. IP データグラムは,コネクション形のサービス形態を採っている。(
  2. TCP の機能は OSI 参照モデルの階層に当てはめると,おおむねネットワーク層に当たる。(
  3. IP は,IP データグラムを送信元から送信先まで転送する手順を規定している。(
  4. TCP によるデータ転送は,コネクションレス形の通信プロトコルである。(
  5. IP データグラムの転送では,シーケンス制御,応答確認,ウインドウ制御,フロー制御などが行われる。(

文章を正しく改める。

  1. IP データグラムは,コネクションレス形のサービス形態を採っている。
  2. TCP の機能は OSI 参照モデルの階層に当てはめると,おおむねトランスポート層に当たる。
  3. IP は,IP データグラムを送信元から送信先まで転送する手順を規定している。
  4. TCP によるデータ転送は,コネクション形の通信プロトコルである。
  5. IP データグラムの転送(インターネット層)はコネクションレス形の通信プロトコルである。シーケンス制御,応答確認,ウインドウ制御,フロー制御などは,トランスポート層の TCP で実施される

問17

3 素子八木・宇田アンテナの各素子は,電波が放射される方向からみて導波器-放射器-反射器の順に配置されている。

3 素子の八木・宇田アンテナは一番後ろに反射器(リフレクタ),その前に放射器(輻射器),その前に導波器(ディレクタ)の素子を並べた構造となっている。

それぞれの素子の長さは,導波器は棒状で放射器よりも短く,反射器も棒形状で放射器よりも長い。このアンテナは指向性があり,その方向は反射器から導波器の方向になる。

問18

光ファイバの損失要因の 1 つであるレイリー散乱現象は,コアの屈折率の不均一によって生ずるもので,波長の 4 乗に反比例する特性を有する。

レイリー散乱(Rayleigh Scattering)損失は,波長に比べて十分に小さい粒子による散乱で,光ファイバの線引き時に高温から室温に一気に冷却されるため,高温の時の密度や組成のばらつきで生じる。レイリー散乱の損失の大きさは,波長の 4 乗に反比例する。

問19

電力需要の変動に対応し,商用受電契約電力の低減と電気料金の低減を目的に,商用受電電力ができるだけ一定となるように常用発電設備を運転する方式は,ピークカット運転方式といわれる。

ピークカット運転方式の他に電源運用コストを最適になるようにする方式にベースロード運転方式がある。

ベースロード運転方式は,定常負荷を常用発電設備で賄い,ピーク負荷を商用受電電力で賄う。使用電力量,常用発電設備の投資とランニングコストなどを勘案して選定される。

問20

架空線路設備に用いられるアクセス形メタリックケーブルは,リスなどのげっ歯類やキツツキなどの鳥類により外被が損傷を受けるおそれがある。こうした生物被害への対策としては,ケーブル心線まで影響を及ぼさないように外被にステンレスの層を持つ HS ケーブルを適用する方法がある。

HS(High Strength Sheath)ケーブルは,CS(Corrugated Steel)ケーブルに比べて価格,重量,作業性に優れ,30 年ほど前から導入されている。

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