平成29年度 第1回 電気通信システム

2019年5月25日作成

問1

透磁率が $\mu$ [H/m],磁路の平均の長さが $l$ [m],断面積が $A$ [m²] の環状鉄心に巻数がそれぞれ $N_1$,$N_2$ の二つのコイルが巻かれているとき,相互インダクタンス $M$ は,$\frac{\mu A N_1 N_2}{l}$ [H] である。ただし,漏れ磁束は無視するものとする。

透磁率が $\mu$ [H/m],磁路の平均の長さが $l$ [m],断面積が $A$ [m²] の環状鉄心に巻かれた巻数が $N_1$ のコイルの自己誘導磁束を $\phi_1$,流れる電流を $I_1$,相互誘導磁束を $\phi$ とすれば,漏れ磁束はないので,次式が成り立つ。

\[ \phi = \phi_1 = \frac{N_1 I_1}{\frac{l}{\mu A}} = \frac{\mu N_1 A I_1}{l} \text{ [Wb]} \]

巻数が $N_2$ のコイルとの相互インダクタンス $M$ は,次式となる。

\[ M = \frac{N_2 \phi}{I_1} = \frac{N_2 \times \frac{\mu N_1 A I_1}{l}}{I_1} = \frac{\mu A N_1 N_2}{l} \text{ [H]} \]

問2

図に示す回路において,スイッチ S の開閉にかかわらず全電流 $I$ が 8 [A] であるときは,抵抗 $R_1$ 及び $R_2$ の組合せは,5 [Ω] 及び 15 [Ω]である。ただし,電池の内部抵抗は無視するものとする。

ブリッジ回路
図 ブリッジ回路

ブリッジ回路の平衡条件より,次式が成り立つ。

\[ R_1 \times 45 = R_2 \times 15 \]

回路に 120 [V] を加えたとき,8 [A] の電流が流れるので,次式が成り立つ。

\[ \frac{(R_1+15)\times(R_2+45)}{(R_1+15)+(R_2+45)} = \frac{120}{8} \]

以上の 2 式を解くと,$R_1$ = 5 [Ω],$R_2$ = 15 [Ω] となる。

問3

図に示す論理回路を入出力とも正論理で使用するとき,この回路は,NAND 回路として動作する。

論理回路
図 論理回路

真理値表は以下の通りとなり,NAND 回路を示している。

表 真理値表
入力 1 入力 2 $D_1$,$D_2$ とトランジスタのベース電圧 トランジスタの状態 出力
0 0 $D_1$,$D_2$ ともオンのため,ベース電圧は 0 [V] オフ 1
0 1 $D_1$ がオンのため,ベース電圧は 0 [V] オフ 1
1 0 $D_2$ がオンのため,ベース電圧は 0 [V] オフ 1
1 1 $D_1$,$D_2$ ともオフのため,ベース電圧は $V_B$ [V] オン 0

問4

A 及び B を入力,C を出力とするとき,論理式 $C = A \cdot (A+B) + B \cdot (\overline{A}+\overline{B})$ で示される論理回路は,OR ゲートである。

設問の論理式を整理する。

\[ C = A \cdot (A+B) + B \cdot (\overline{A}+\overline{B}) \] \[ C = A \cdot A + A \cdot B + B \cdot \overline{A}+ B \cdot \overline{B} \] \[ C = A + B \cdot (A + \overline{A}) \] \[ C = A + B \]

整理では,$A \cdot A = A$,$B \cdot \overline{B} = 0$,$A + \overline{A} = 1$ を用いた。

問5

PCM 方式で音声信号を伝送するとき,一般に,入力する音声信号の大小にかかわらず,伝送後の信号電力と量子化雑音電力との比をほぼ一定にするために,音声信号に対して圧縮,伸張の処理が行われる。この場合,圧縮器には,で表される入出力特性を持たせ,伸張器にはその逆の特性を持たせる。

入出力特性
図 入出力特性

PCM(Pulse Code Modulation)方式で音声信号を伝送する場合,125 μs 単位に標本化して PAM(Pulse-Amplitude Modulation)パルスを得る。次段階で PAM パルスを量子化するが,この際,量子化雑音(まるめ誤差)が生じる。この雑音を抑えるため,一般に信号振幅が小さいときは量子化ステップを小さく,信号振幅が大きいときは量子化ステップを大きくとり,小振幅域と大振幅域での SN 比を近づけるような非直線量子化が用いられている。

問6

内部抵抗が 0.1 [Ω] で最大目盛が 4 [A] である電流計を用いて最大目盛が 50 [A] の電流計として使うためには,8.7 × 10-3 [Ω] の分流器を用いればよい。ただし,答えは,四捨五入により有効数字 2 桁とする。

電流計での電圧降下は,4 [A] × 0.1 [Ω] = 0.4 [V] である。

分流器に流す電流は,50 [A] - 4 [A] = 46 [A] の電流を分流器で分流できればよい。よって,分流器の抵抗 $R$ は,次式で求められる。

$R$ = 0.4 [V] / 46 [A] = 0.00869 = 8.7 × 10-3 [Ω]

問7

ATM ネットワークのプロトコル階層モデルにおける ATM アダプテーションレイヤには,ビット誤りの検出と回復,セルの組立てと分解,フロー制御,タイミング制御などの機能がある。

ATM(Asynchronous Transfer Mode)ネットワークのプロトコル・アーキテクチャは,下位層から物理レイヤ,ATM レイヤ,ATM アダプテーションレイヤ(AAL)で構成されている。

表 ATM ネットワークのプロトコル・アーキテクチャ
レイヤ 機能
物理レイヤ 光ファイバ等の伝送媒体における光・電気信号レベルの転送を行う物理媒体サブレイヤ(PMD)と,伝送フレームの生成,セル同期の確立などを行う伝送媒体サブレイヤ(TC)がある。
ATM レイヤ セルの多重分離,セルヘッダの生成・抽出などの機能をもつ
ATM アダプテーションレイヤ ビット誤りの検出と回復,セルの組立て・分解,フロー制御,タイミング制御などを行う。

問8

アナログ信号を伝送する場合,大きな妨害となる雑音の一つは中継器などで発生する熱雑音であり,その値($N$)は,$N = kTBGF$ で与えられる。ここで,$k$ はボルツマン定数,$T$ は絶対温度,$B$ は周波数帯域幅,$G$ は中継器利得,$F$ は雑音指数である。

雑音指数 $NF$(Noise Factor,設問では $F$ で示されているが,一般には $NF$)は,信号電力を $S$,雑音電力を $N$ とすると,下式で表される。

\[ NF = \frac{S_i/N_i}{S_o/N_o} = \frac{1}{G} \times \frac{N_o}{kTB} \]

ここで,$G$ は中継器利得,$k$ はボルツマン定数,$T$ は絶対温度,$B$ は帯域幅 である。

問9

音声,ファクシミリ,映像などの信号のように A/D 変換過程における標本値間に強い相関がある場合に,これらの信号を効率よく伝送するための予測符号化では,一般に,過去の入力標本値から次の標本値を予測して,その予測値と実際の入力標本値の差異を符号化して伝送する方法が用いられる。

予測符号化とは,着目している音声や画素などと空間的・時間的に近い位置にある音声信号,画素の値から,予測関数に従って対象信号値を予測し,このときの予測値と実際の値との差異(予測誤差)を符号化する手法の総称である。予測関数が十分に正確であれば,予測誤差は 0 に近い値をとる可能性が高く,この誤差に対して変換,量子化及びエントロピー符号を適用することで大幅な圧縮効率の向上が期待できる。

問10

電話用デジタル交換機の基本機能のうち,加入者の発呼や終話を検出する働きを持つものは,監視走査機能である。

デジタル交換機の基本機能

  1. 通話要求検出
  2. 要求内容の分析
  3. 伝送路の接続
  4. 通話終了時の伝送路の解放

ここで,1. の加入者の発呼や終話を検出するのが,監視走査機能である。

問11

即時式完全線群において,ある回線群の運んだ呼量が 27 [アーラン] であった。この回線群の呼損失が 0.1 であるとき,この回線群に加わった呼量は,30 [アーラン] である。

加わる呼量を $a$,運ばれた呼量を $a_c$ とすると,損失した呼量は $a-a_c$,呼損率を $B$ とすると,$B = \frac{a-a_c}{a}$ で表される。これを変形し,呼量 $a$ を求める。

\[ a = \frac{a_c}{1-B} = \frac{27}{1-0.1}=30 \text{ [アーラン]} \]

問12

インターネットのアクセス回線として電話共用型の ADSL サービスを利用する場合,音声信号とデータ信号の分離・合成を行うためにスプリッタが用いられている。

ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)による通信では,電話による音声などの低周波信号と,インターネット通信のための高周波信号とが電話線上に同時に存在することになる。本来,低周波信号しか扱わない電話機に ADSL のための高周波信号が入力されると,雑音が発生するなど動作に異常をきたす可能性があるため,端末設備等規則 第 14 条において,送出電力に制限が設けられており,電話機側には 4 kHz 以下の信号のみ通す低域フィルタ(スプリッタ)が設けられている。

問13

広域イーサネットにおいて,エッジスイッチは,アクセス回線を通してユーザのトラヒックを収容する機能を持ち,ユーザトラヒックを該当のユーザポートから広域イーサネットに接続されている当該のユーザグループに転送している。

仮想専用網(VPN : Virtual Private Network)には幾つかの方式があるが,広域イーサネットは VLAN と呼ばれ,IEEE 802.1 Q,802.1 ad などで標準化されている。通信事業者が構築したネットワーク内を LAN で使用されるイーサネットフレームのまま高速転送できるのが特徴であり,VLAN の出入口で転送用タグの付与及び除去を行う機能を持つのがエッジスイッチで,そのタグを用いてネットワーク内の転送するのがコアスイッチである。

問14

インターネット上のクライアント端末とサーバ間の通信では,TCP/IP プロトコルに基づき,ソケットといわれる IP アドレス及びポート番号の組合せやプロトコル番号を指定することにより,通信を行う相互のアプリケーションなどが決められる。

TCP/IP プロトコルのソケットは,トランスポート層プロトコル(TCP や UDP など)とアプリケーション層の各プログラムの引継ぎを行う役目を持っている。アプリケーションソフトは IP アドレスとポート番号の組であるソケットを指定して通信回線を開くのみで,通信手順を気にすることなくデータの送受信を行うことができる。

問15

公衆交換電話網(PSTN)と IP 電話網の相互接続において,PSTN で使用している共通線信号と SIP で使用している呼制御信号との変換は,一般に,ゲートウェイといわれる装置で行われる。

一般に,MGCF(メディアゲートウェイ制御機能)の指示により,SIP 側から見て音声情報などは MG(メディアゲートウェイ)を経由し,呼制御情報は SG(シグナリングゲートウェイ)を経由する。特に NGN においては IP 網に IMS を導入しているため,SIP で制御する内部ネットワークから外部(PSTN)への接続には,BGCF(ブレークアウトゲートウェイ)経由で MGCF を選択し,SG と接続している。

問16

コンピュータの主記憶装置に使用される半導体メモリのうち,電荷を蓄えることによって情報を記憶するが,電荷は時間の経過とともに減少することから,一定の時間ごとに再書き込みが必要な半導体メモリは,DRAM といわれる。

半導体メモリには,読み出しと書き込みが可能な RAM(Random Access Memory)と,読み出しのみ可能な ROM(Read Only Memory)がある。またデータの記憶に電源を必要とする揮発メモリと電源を必要としない不揮発メモリがある。

揮発メモリである RAM には DRAM(Dynamic RAM)と SRAM(Static RAM) がある。DRAM はトランジスタ 1 個とコンデンサ 1 個で 1 ビットのメモリが構成されるが,コンデンサは時間とともに自然放電するので,再書き込みが必要になる。一方,SRAM は 4 ~ 6 個のトランジスタからなるフリップフロップ回路によって構成され,電源の供給を続ければ再書き込みは不要である。

問17

開口面アンテナにおいて,アンテナの開口面積を $S$,電波の波長を $\lambda$ とすると,S が一定の条件では,アンテナの利得は $\lambda$ の 2 乗に反比例する

開口面アンテナの利得 $G$ は,開口効率を $\eta$,面積を $S$,波長を $\lambda$ とすれば,次式で表される。

\[ G = \frac{\eta 4\pi S}{\lambda^2} \]

問18

光ファイバでは,中心部のコアと外周部のクラッドの屈折率の差により,光がコア内を全反射しながら伝搬するが,この屈折率の差は,製造段階において,主材料である石英ガラスなどに添加するドーパントの種類や量により調整される。

光ファイバの製造において,直接製造するのは屈折率の制御などが困難なため,第一段階として,同じ性能を持つプリフォームを作成し,その後線引きに入る。プリフォームの作成時に,必要な屈折率などを得るために添加するものをドーパントという。

問19

通信システムに用いられる無停電交流電源装置(UPS)の基本的な構成要素は,整流装置,インバータ及び蓄電池である。

無停電電源装置(UPS : Uninterruptible Power Supply)とは,停電などの時にも電力を供給し続ける電源装置である。一般に,商用交流電源に接続して使用する,交流入力・交流出力のものを UPS と呼ぶことが多いが,本来は入出力の種類に関係なく,入力断に対して出力が断にならない電源装置の全てを示す。

UPS は,整流装置,インバータ,蓄電池,蓄電池の接続のためのスイッチ,商用電源との切替を行うスイッチなどから構成される。整粒装置で交流を直流に換えて蓄電池に充電し,インバータで交流に変換して負荷装置に給電する。

UPS の基本構成例
図 UPS の基本構成例

問20

光ファイバ中を基本モードだけが伝搬できる最も短い波長は,カットオフ波長といわれ,これより短い波長に対してはマルチモード伝搬状態になる。

カットオフ波長 $\lambda_c$ とは SMF において,基本モード(LP01)のみを伝搬できる最短の波長であり,$\lambda_c$ より短い波長では高次モード(LP11)が伝搬し始める(マルチモード伝搬となる)。SMF のカットオフ(遮断)波長 $\lambda_c$ は次式で与えられ,屈折率分布やコア径で決まる。

\[ \lambda_c = \frac{2\pi a}{2.405}\sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]

ただし,$a$ はコアの半径,$n_1$ はコアの屈折率,$n_2$ はクラッドの屈折率である。

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