平成29年度 第2回 電気通信システム

2019年5月24日作成

問1

図に示すように,空気中においてそれぞれ同じ大きさの電荷を持つ帯電体 A,B 及び C を正三角形の頂点においたとき,帯電体 C に働く力の方向を示している矢線として正しいものは,(エ)である。ただし,電荷 $Q_1$ 及び $Q_3$ は正の電荷,電荷 $Q_2$ は負の電荷を持つものとする。

帯電体に働く力
図 帯電体に働く力

クーロンの法則より,同種の電荷のときは反発力,異種の電荷のときは吸引力が働く。帯電体 A と帯電体 C では(ウ)の向きに反発力が働き,帯電体 B と帯電体 C では(オ)の向きに吸引力が働く。答えは,(ウ)と(オ)の向きに働く同じ大きさの力のベクトル合成により求め,その向きは(エ)となる。

問2

図に示す回路において,各抵抗の値がそれぞれ 12 [Ω] であるとき,端子 A - B 間の合成抵抗は,16 [Ω] である。

合成抵抗
図 合成抵抗

図の回路は端子 A と端子 B を中心にして上下で対称となっている。各部の抵抗を 1/2 倍し,下図の回路に変換できる。

合成抵抗
図 合成抵抗

変換後の回路で端子 A - B 間の合成抵抗は次式により求める。

\[ 6 + \frac{6 \times (6+6)}{6 + (6+6)} + 6 = 16 \text{ [Ω]} \]

問3

図に示す負帰還増幅回路において,増幅器の増幅度を $\mu$,帰還回路の帰還率を $\beta$ とすると,$\mu\beta \gg 1$ のとき,負帰還増幅回路全体の利得(閉ループ利得)$G$ は,$G \fallingdotseq$ $\frac{1}{\beta}$

負帰還増幅回路
図 負帰還増幅回路

入力を $V_\text{in}$,出力を $V_\text{out}$ とすると,次式が成り立つ。

\[ V_\text{out} = \mu(V_\text{in} - \beta V_\text{out}) \]

これを変形し,回路の利得 $G$ を得る。

\[ G = \frac{V_\text{out}}{V_\text{in}} = \frac{\mu}{1 + \mu\beta} \]

ここで,$\mu \beta \gg 1 $ の条件を考慮すると,回路の利得は次式となる。

\[ G \approx \frac{1}{\beta} \]

問4

図に示す論理回路において,入力 a,入力 b 及び入力 c の論理レベルをそれぞれ A,B 及び C とし,出力 x の論理レベルを X とするとき,X をベン図の斜線部分で表示するととなる。ただし,ベン図において,A,B 及び C は,それぞれ円の内部を表すものとする。

ベン図
図 ベン図
論理回路
図 論理回路

論理回路の論理式は次式となる。

\[ X = (A + B + \overline{C})\cdot C \]

ブール代数の分配の法則より,次式に変形できる。

\[ X = (A \cdot C) + (B \cdot C) + (\overline{C} \cdot C) = A \cdot C + B \cdot C \]

この論理式をベン図で表すと ④ となる。

問5

無線 LAN システムで用いられるネットワーク構成において,アドホックモードによるネットワークは,基地局(アクセスポイント)を必要とせず,端末局のみで構成される。

無線 LAN システムのネットワーク構成には,インフラストラクチャモードとアドホックモードがある。

インフラストラクチャモード

ネットワークを制御するアクセスポイント(中継器)を介して各端末を接続する方式

インフラストラクチャモード
図 インフラストラクチャモード

アドホックモード

各端末が中継機器を介さずに相互に直接電波を送受信して通信する方式

アドホックモード
図 アドホックモード

問6

図に示す回路において,定格電流(最大目盛値) 1 [mA],内部抵抗 10 [Ω] の電流計 A を用いて,定格電流 10 [mA] 及び 100 [mA] の多重範囲電流計とする場合,分流回路の抵抗 $R_1$ 及び $R_2$ の組合せは,$R_1$ = 1/9 [Ω],$R_2$ = 1 [Ω] である。

多重範囲電流計
図 多重範囲電流計

10 [mA] レンジのとき,電流計と分流計それぞれの電圧は 10 [mV] で,電流計に 1 [mA],分流計 $R_1 + R_2$ に 9 [mA] が流れる。

\[ R_1 + R_2 = \frac{10 \text{ [mV]}}{9 \text{ [mA]}} \]

100 [mA] のとき,$R_1$ には 99 [mA] 流れ,電流計及び $R_2$ には 1 [mA] が流れる。$R_1$ と 電流計及び $R_2$ は同じ電圧降下となる。

\[ R_1 \times 99\text{ [mA]} = 10\text{ [Ω]}\times1\text{ [mA]} + R_2 \times 1\text{ [mA]} \]

上記の 2 式より,$R_1 = \frac{1}{9}$ [Ω],$R_2 = 1$ [Ω] となる。

問7

通信系で発生する雑音のうち,熱雑音は,その振幅度の確率密度がガウス分布に従う。

熱雑音は主にアクティブ素子から発生する。導体中の熱的擾乱によるもので,入力信号の有無にかかわらず混入する。そのスペクトラムが全周波数に対して一様に分布していることから白色雑音といわれ,振幅の確率密度はガウス分布(Gaussian distribution)に従う。

問8

アナログ伝送方式の多重化された伝送路で発生する雑音のうち,増幅器内部で発生する平均雑音電圧 $E$ は,$E = \sqrt{4kTBR}$ で表される。ただし,$k$ はボルツマン定数,$T$ は絶対温度,$R$ は増幅器を一つの導体とみなしたときの実効抵抗を表し,$B$ は対象とする周波数帯域幅を表している。

アナログ伝送における主な雑音には熱雑音と非線形ひずみがある。このうち増幅器を抵抗 $R$ の 1 つの導体とみなしたとき,抵抗体で発生する熱雑音電圧の 2 乗平均は,$4kTBR$ で表される。

問9

デジタル伝送方式における再生中継の特徴として,一般に,原信号パルス列の再生が可能なことがあり,デジタル再生中継器には,パルスの振幅が閾値レベルを超えた場合にパルスを発生する識別再生機能などが必要となる。

デジタル再生中継器は,以下の 3 つの機能(3R 機能)を備えている。

等化増幅(reshaping)

損失を受けた歪んだ受信パルス波形を,パルスの有無が識別できる程度まで整形増幅する機能

リタイミング(retiming)

受信パルス符号列からタイミングパルス(パルスの有無を識別する時点を指定するパルス)を抽出して,識別再生回路に供給し,再生パルスの立ち上がり時点および立ち下がり時点を設定する機能

識別再生(regenerating)

タイミングパリスにより決まる時点で等下増幅後の波形の振幅を測定し,その値が,ある識別レベル(閾値レベル)の場合,新しいパルスを発生させ送出する機能

問10

IP 電話における音声通話において,IP 電話端末相互間でリアルタイムな通話を行うための音声パケットの送受信に用いられるプロトコルは,一般に,RTP といわれる。

音声パケットは,IP ネットワーク上で高速転送を行う UDP で転送される。しかし,UDP には順序制御などの機能がないので,UDP の機能を補完するため上位プロトコルとして RTP(Real-time Transport Protocol)を使用している。

問11

交換線群において,出回線の能率を示す尺度として用いられる出線能率は,出回線数に対する運ばれた呼量の比で表すことができる。

回線の使用率(能率) $\eta$ は,運ばれた呼量 $a_c$ を出回線数 $n$ で除して表される。

出線能率が高いと使用中に遭遇する確率が高くなり,低いと疎通確率は高くなるが,設備の使用効率が低くなるため,適正な設備数とすることが求められる。

問12

網状網を構成する通信網において,交換ノードの総数が 8 である場合,各交換ノード間を結ぶリンクの総数は,28 となる。

交換ノードの総数を $N$ = 8とすると,網状網を構成する通信網における各交換ノード間を結ぶリンクの総数は次式で表される。

\[ R = \frac{N(N-1)}{2} = \frac{8\times7}{2} = 28 \]

問13

図は,アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式をモデル化したものである。図中の A 及び B に入るものとして最も適した語句の組合せは,圧縮及び伸張である。

アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式のモデル
図 アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送し,受信側でアナログ信号に復号する方式のモデル

量子化雑音を小さくする方法として非直線量子化がある。非直線量子化は信号レベルが小さいときは量子化ステップを小さく,信号レベルが大きいときは量子化ステップの幅を大きくする方法である。具体的には,入力信号を圧縮した後で,均一量子化を行う。受信側では直線量子化の復号器の後で伸張器を通すことにより,圧縮された信号を引き伸ばし,元の量子化信号を得ることができる。

問14

インターネット上において,TCP や UDP といわれるプロトコルを用いて電子メールを送ったり,ドメインネームを IP アドレスへ変換するサービスを受けたりする場合には,通信相手のホスト上のアプリケーションを指定するため,ポート番号が使用される。

TCP/IP プロトコルでのトランスポート層プロトコル(TCP や UDP など)では,通信相手とは,ポート番号により通信する。

問15

No. 7 共通線信号方式を適用している通信網において,信号の発着点となる交換機などは,一般に,信号端局といわれ,信号中継機能を持つ信号中継局を介して信号情報を送受している。

信号端局は SEP(Signal End Point),信号中継局は STP(Signal Transfer Point)といわれる。

問16

データ通信において,伝送路上を 1 秒間に伝送できるビット数は,データ信号速度といわれ,単位には [bit/s] が用いられる。

データ信号速度

1 秒間に伝送できるビット数を表し,単位は [bps],[b/s] などで表す。

変調速度

変調過程において 1 秒間に状態が変化した回数を表すもので,単位は [ボー] である。

問17

携帯電話などの移動体通信における多元接続技術として用いられる CDMA 方式では,複数のユーザが同一の周波数帯域と時間を共有して通信を行い,各ユーザに割り当てられた拡散符号によりユーザの識別が行われている。

CDMA(Code Division Multiplexing Access : 符号分割多元接続方式)は,雑音や干渉に強く,秘匿性に優れるスペクトラム拡散方式を採用している。すなわち,音声信号などで一次変調された搬送波に対し,ユーザごとに異なる拡散符号(擬似ランダム信号,PN 符号とも呼ばれる)を掛算して広帯域に拡散し,それぞれの拡散符号に対応した複数の送信信号を同一周波数上に生成し,多元接続を実現する方式である。受信側では逆演算を行い元の信号を取り出す。第三世代の携帯電話の標準技術である。

問18

光ファイバ増幅器で生ずる ASE 雑音は,光増幅器に伴って発生する自然放出光によるものであり,光ファイバ増幅器の雑音特性を決定する要因となる。雑音特性を表す指標となる雑音指数は,完全な反転分布が実現された理想的な光ファイバ増幅器では最小値の 3 [dB] となる。

光線形増幅では,自然放出光による雑音(ASE 雑音)が発生する。

問19

パワートランジスタなどをオン・オフ動作させ,そのオンとオフの時間幅を調整しながら,直流入力電圧をパルス状に電圧に変換し,これを平滑化して安定した直流出力電圧を得る電源装置は,スイッチングレギュレータといわれる。

スイッチングレギュレータの原理は,交流入力を整流用ブリッジダイオードと平滑コンデンサで直流に変換し,スイッチング素子により高速にスイッチし,再び整流,平滑化し所望の直流出力を得るため DC/DC コンバータを通り出力される。

問20

テープ心線を SZ 撚りの溝型スロットに収容した架空用光ファイバケーブルは,中間後分岐が可能であるため,FTTH 網の架空区間に適用される。

撚り方向を一定間隔で反転させることでファイバ心線の取り出しが容易な SZ撚り の光ファイバが導入されている。

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