平成30年度 第1回 電気通信システム

2019年5月22日作成

問1

マイクロ波通信,光通信などの電磁波の伝搬において非可逆回路として動作するアイソレータには,電磁波が磁界内に置かれた媒質を通過する際に,ファラデー効果により偏波面が回転する現象を応用したものが多く用いられている。

ファラデー効果とは,磁場に平行な直線偏光を物質に透過させたときに偏波面が回転する現象のことであり,この回転をファラデー回転(Faraday Rotation)と呼ぶ。

ファラデー効果は,非可逆回路として動作する光アイソレータにおいて,反射光が光源に戻るのを防ぐための素子に使用されている。

問2

あるコイルに直流 80 [V] を加えると 400 [W] を消費し,交流 120 [V] を加えると 576 [W] を消費するとき,このコイルのリアクタンスは 12 [Ω] である。

直流電圧 $V$ = 80 [V] を加えると,消費電力 $P_1$ = 400 [W] であるので,コイルの抵抗を $R$ [Ω] は次式で求められる。

\[ P = RI^2 = V^2/R \] \[ R=\frac{V^2}{P} = \frac{80^2}{400} = 16 \text{ [Ω]} \]

交流電圧 $v$ = 120 [V] を加えると,消費電力 $p$ = 576 [W] であるから,抵抗での電圧降下を $v_1$,リアクタンスでの電圧降下を $v_2$ とする。

\[ p = 576 = v_1^2/R = v_1^2/16 \] \[ v_1 = \sqrt{576\times16}= 96 \text{ [V]} \]

リアクタンスの電圧降下は,次式で求められる。

\[ v_2 = \sqrt{v^2-v_1^2} = \sqrt{120^2 - 96^2} = 72 \text{ [V]} \]

一方,コイルに流れる電流 $i$ [A] は以下の通り。

\[ i = \frac{v_1}{R} = \frac{96}{16} = 6 \text{ [A]} \]

求めるコイルのリアクタンスを $X_L$ [Ω] とすれば,次式で求められる。

\[ X_L = \frac{v_2}{i} = \frac{72}{6} = 12 \text{ [Ω]} \]

問3

図に示す論理回路を入出力とも正論理で使用するとき,この回路は,NOR 回路として動作する。

論理回路
図 論理回路

真理値表は以下の通りとなり,NOR 回路を示している。

表 真理値表
入力 1 入力 2 $D_1$,$D_2$ とトランジスタのベース電圧 トランジスタの状態 出力
0 0 $D_1$,$D_2$ ともにオフ,ベース電圧は 0 [V] オフ 1
0 1 $D_2$ がオンのため,ベース電圧は $V$ [V] オン 0
1 0 $D_1$ がオンのため,ベース電圧は $V$ [V] オン 0
1 1 $D_1$,$D_2$ がオンのため,ベース電圧は $V$ [V] オン 0

問4

図に示す論理回路において,M の素子が であるとき,入力 A 及び B から出力 C の論理式を求め変形し,簡単にすると,$C = A \lor \lnot B$ で表わされる。

M の素子
図 M の素子
論理回路
図 論理回路

下段の NOR 回路の出力を $D$ として,真理値表を作成する。

表 真理値表
入力 $A$ 入力 $B$ $\lnot B$ $M$ $D$ $C$
0 0 1 1 0 1
0 1 0 0 0 0
1 0 1 0 1
1 1 0 0 or 1 1 1

M の出力が,真理値表の通りとなればよいので,選択肢の中では,or 回路となる。

問5

移動体通信などで用いられるコーデックは,一般に,アナログ信号とデジタル信号の相互変換を行う機能のほかに,周波数帯域の有効利用を図るため信号の圧縮・伸張機能も持っている。

コーデックの基本的な機能は,アナログ信号とデジタル信号の相互交換を行うことであるが,移動体通信や IP 電話などでは,周波数帯域の有効利用を図るため,一般に音声圧縮機能,無音圧縮機能を搭載している。この機能は一般に,圧縮・伸張機能といわれている。

問6

図に示すブリッジ回路において, $R_A$ が 1,000 [Ω],$R_B$ が 10 [Ω],$R_C$ が 2 [Ω],$C_C$ が 1 [μF] のときブリッジ回路は平衡している。このときの $C_X$ は 0.01 [μF] である。

ブリッジ回路
図 ブリッジ回路

角周波数を $\omega$ とすれば,ブリッジ回路が平衡しているときは次式が成り立つ。

\[ R_A(R_C + \frac{1}{j\omega C_C}) = R_B (R_X + \frac{1}{j\omega C_X}) \] \[ C_X = \frac{R_B}{R_C} \times C_C = \frac{10}{1000} \times 1 = 0.01 \text{ [μF]} \]

問7

一様なメタリック線路の減衰定数は線路の一次定数から導かれ,信号の周波数によりその値が変化する。

メタリック線路の単位長さ当たりの抵抗成分 $R$ [Ω/m] は,表皮効果により周波数 $f$ の平方根に比例して大きくなる。よって,減衰定数も信号の周波数によりその値が変化する。

問8

搬送波を信号波で変調するキャリア変調には三つの方法があり,このうち位相角を変化させる方法と周波数を変化させる方法は,総称して角度変調といわれる。

搬送波を信号波で変調させる方式は,以下の 3 方式がある。

  • 振幅変調(AM : Amplitude Modulation)
  • 周波数変調(FM : Frequency Modultation)
  • 位相変調(PM : Phase Modultation)

このうち,周波数と位相角を変化させる方式は,総称して角度変調という。

問9

アナログ信号をデジタル信号に変換して伝送するデジタル伝送方式において,アナログ信号を標本化することにより得られる PAM パルスは,アナログ信号波形の大きさを振幅で表わしている。

アナログ信号の入力波形の振幅の大きさに比例して,パルスの振幅を変化させる信号を PAM(Pulse Amplitude Modulation)信号と呼ぶ。

問10

パケット交換方式は,情報量に応じて一定長のブロックに分割して組み立てたパケットの単位で情報転送を行う蓄積交換方式である。

パケット交換方式

情報量に応じ一定長のブロックに分割して組み立てたパケット(Packet : 荷札を付けた小包)の単位で転送を行い,パケットはパケット交換機において一度蓄積され,パケット網内を相手端末まで転送される。このような交換方式を蓄積交換方式という。

問11

ある回線群において,9 時 00 分から 9 時 30 分までの 30 分間に 90 呼が加わり,呼の平均保留時間が 120 秒であった。この回線群に加わった呼量は 6 アーランである。

加えた呼量 $a$ [アーラン],時間 $T$ [秒],呼数 $c$ [呼],平均保留時間 $h$ [秒] とすると,この回線群に加わった呼量は次式で求められる。

\[ a = \frac{c \times h}{T} = \frac{90\text{ [呼]} \times 120\text{ [秒]}}{30\text{ [分]} \times 60\text{ [秒/分]}} = 6 \text{ [アーラン]} \]

問12

交換ノード数が $N$ の通信網を構成する場合,各交換ノード間を結ぶリンクの総数は,網状網では $\frac{N(N-1)}{2}$ になる。

ノード数を $N$ とすると,網状網におけるリンク数 $R$ は次式となる。

\[ R = \frac{N(N-1)}{2} \]
メッシュ網
図 メッシュ網

問13

通信ネットワークを構成する信号網における共通線信号方式は,通話回線と信号回線とを分離して,信号回線を共通に使用する方式であり,個別網信号方式と異なり通話中でも順方向や逆方向の信号転送ができる特徴がある。

共通線信号方式

通信回線と信号回線とを分離して,信号回線を共通に使用する方式であり,個別線信号方式と異なり,通話中でも順方向や逆方向の信号転送ができる特徴がある。

問14

IP ネットワークにおいて用いられる TCP では,受信側において受信データの順序整合,重複データの廃棄などが行えるよう,送信する TCP セグメント順にシーケンス番号を付与している。

TCP/IP プロトコルでの,トランスポート層プロトコルの TCP ヘッダ構成は,下図の通り。受信相手とは,シーケンス番号によりデータの整合を行う。

TCP ヘッダ構成
図 TCP ヘッダ構成

問15

LAN のアクセス制御方式の一つである CSMA / CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)では,伝送媒体へ複数のアクセスが発生してデータが衝突した場合,LAN に接続されている各リンクセグメントにジャム信号が送出される。

CSMA / CD 方式では,通信中のノードが常に媒体をモニタしてデータの衝突が発生していないかチェックしている。衝突(Collision)が発生した場合,ジャム信号を出して送信を中断し,乱数で決まる一定時間だけ待った後,再度データを送信する。

問16

インターネット,イントラネットなどの IP ネットワークで利用されるプロトコルのうち,ホストコンピュータにリモートログインし,遠隔操作ができる仮想端末機能を提供するプロトコルは,TELNET といわれる。

TELNET

インタネットのサーバにリモートログインし,遠隔操作するためのアプリケーション層のプロトコル。

問17

無線 LAN システムで用いられる OFDM 方式は,マルチキャリア伝送方式の一種であり,高速な信号系列を直交する複数のサブキャリアに分割して並列伝送する方式である。

OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)

有線では ADSL にも使われているが,LTE や,地上デジタル放送,無線 LAN,電力線モデムなどでも使われている。

マルチキャリア伝送方式の実現手法の 1 つである。一般にマルチキャリア伝送は,直列伝送のデータシンボルを直並列変換して複数のキャリアで並列伝送する。

問18

シングルモード光ファイバにおける波長分散は,信号光に波形ひずみを発生させ,伝送帯域を制限する要因となる。

シングルモード光ファイバを用いて光信号を伝送する場合,伝送帯域を制限する主な要因となる波長分散は,波長の違いによって発生する。これには構造分散材料分散がある。

構造分散は,コアとクラッドの屈折率の差が小さいとき,パルス幅の広がりのあるパルスが入射すると波長の長い方がクラッドに染み出る現象がおきる。このため伝送路長の違いにより到達時間に差が生じ,パルス幅が広がる。

材料分散は,コア屈折率は伝搬する光の波長により異なる値をとるため,波長による光速の違いから到達時間に差を生じる現象をいう。

問19

電力設備において,高調波雑音の発生を抑制し,設備の入力力率を改善するために,トランジスタなどの能動素子で構成されたアクティブフィルタが用いられることがある。

アクティブフィルタは,抵抗素子,キャパシタンス素子,増幅素子を組み合わせたフィルタ回路である。

問20

アクセス系設備に用いられる地下用メタリック平衡対ケーブルには,ポリエチレンと比較して誘電率が小さい発砲ポリエチレンを心線被覆に用いたものがある。

発砲ポリエチレン(PEF)は,発砲技術を用いてポリエチレン内に気泡を含ませることにより誘電率を下げている。

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