平成30年度 第2回 電気通信システム

2019年5月19日作成

問1

1 [μF] のコンデンサを 1 [V] で充電し,3 [μF] のコンデンサを 3 [V] で充電して並列に接続したとき,この二つのコンデンサに蓄えられる総合のエネルギーは,1.25 × 10-5 [J] である。ただし,充電後の二つのコンデンサの極性は一致させて接続するものとする。

2 つのコンデンサに蓄えられている電荷をそれぞれ $Q_1$,$Q_2$ [C] とし,静電容量を $C_1$,$C_2$ [μF],電圧を $V_1$,$V_2$ [V] とすると,並列に接続したときの電荷 $Q$ [C],静電容量 $C$ [μF],電圧 $V$ [V] は次式で求められる。

\[ Q = Q_1 + Q_2 = C_1 V_1 + C_2 V_2 = 1\times1 + 3\times3 = 10 \text{ [C]} \] \[ C = C_1 + C_2 = 1 + 3 = 4 \text{ [μF]} \] \[ V = \frac{Q}{C} = \frac{C_1 V_1 + C_2 V_2}{C_1 + C_2} = \frac{10}{4} = 2.5 \text{ [V]} \]

並列に接続したときの静電エネルギー $W$ [J] は,次式で求められる。

\[ W = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2} \times 4 \times 10^{-6} \times 2.5^2 = 1.25 \times 10^{-5} \text{ [J]} \]

問2

図に示すように,無誘導抵抗 4 [Ω] 及び 2 [Ω],誘導リアクタンス 3 [Ω] を接続し,端子 a - b 間に交流電圧を加えたとき,25 [A] の電流が流れた。この回路の全消費電力は,2,150 [W] である。

交流回路
図 交流回路

2 [Ω] の抵抗で消費される電力 $P_1$ [W] は,2 [Ω] に流れる電流が 25 [A] であることから,次式で求められる。

\[ P_1 = RI^2 = 2 \times 25^2 = 1,250 \text{ [W]} \]

4 [Ω] の抵抗と 3 [Ω] のリアクタンスが並列接続された回路のインピーダンス $Z$ [Ω]は次式で求められる。

\[ Z = \sqrt{\frac{R^2 \times X_L^2}{R^2 + X_L^2}} = \sqrt{\frac{4^2 \times 3^2}{4^2 + 3^2}} = \frac{144}{25} = \frac{12}{5} = 2.4 \text{ [Ω]} \]

よって,並列接続された回路の両端の電圧を $V_2$ [V] は次式で求められる。

\[ V_2 = ZI = 2.4 \times 25 = 60 \text{ [V]} \]

ここで,4 [Ω] の抵抗で消費する電力 $P_2$ [W] を求める。

\[ P_2 = \frac{V_2^2}{R} = \frac{60^2}{4} = 900 \text{ [W]} \]

したがって,回路全体の消費電力は以下の通り。

\[ P = P_1 + P_2 = 1,250 + 900 = 2,150 \text{ [W]} \]

問3

図に示す帰還増幅回路において,増幅回路の入力を $V_i$,帰還回路の出力を $V_f$ とすると,この回路が発振するための条件は,$V_i$ と $V_f$ が同相であること及び増幅回路の振幅度 $A$ と回路の帰還率 $\beta$ との積 $A\beta$ で表されるループゲインが 1 より大きいことの二つの条件を満たす必要がある。

帰還増幅回路
図 帰還増幅回路

設問の図は正帰還増幅回路であり,ループゲインが 1 以上になっているので,発振するために必要なもう 1 つの条件としては,増幅回路の出力を同相で入力に帰還する必要がある。

\[ V_{\text{OUT}} = A V_i \] \[ V_i = V_{\text{IN}} + V_f \] \[ V_f = \beta V_{\text{OUT}} \]

上記の 3 式より,次式を得る。

\[ \frac{V_{\text{OUT}}}{V_{\text{IN}}} = \frac{A}{1- A\beta} \]

問4

図に示す論理回路において,A,B 及び C を入力とすると,出力 F の論理式は,F = A · B + C で示される。

論理回路
図 論理回路

設問の論理回路は 3 つの NAND 回路からなる。ド・モルガンの定理と復元の法則により,論理式を簡略化する。

問5

メタリックケーブルを用いてデジタル伝送を行う場合は,一般に,ユニポーラ(単極性)符号をバイポーラ(複極性)符号に変換して送出することが多い。これは,バイポーラ符号の平均電力スペクトルには直流成分がないという利点を利用したものである。

メタリックケーブル等の伝送路では,周波数が高くなるにつれて伝送損失が大きくなるため,伝送信号の周波数エネルギー分布を,なるべく低い周波数帯に集中させることが望まれる。

AMI 符号などのバイポーラ符号は,複極性の信号パルスを交互に変化させることから,伝送信号の最高周波数よりも低い周波数帯にエネルギーが集中するので,必要な周波数帯域を狭くすることができる。同時に,直流成分を少なくすることができるので,波形が交流に近くなり,受信信号に含まれるタイミングを抽出しやすくなる。また,ノイズ等に強くなるため,安定したデータ伝送が可能になるなどの特徴がある。

問6

マイクロ波出力などの高周波電力を測定する際に,バレッタやサーミスタを用いて,これらの素子が被測定電力を吸収することにより生ずる抵抗値の変化分を電力に換算する方法がある。

高周波電力の測定において,受信端で電力を熱エネルギーに変換し,その温度を計測して電力に換算する方法がある。

温度を計測する素子としては,代表的なものは,以下の通り。

  1. 接合した 2 つの金属間の電位差を利用する熱電対を利用するもの
  2. 温度により抵抗値が変化する特性をもった半導体を用いるもの(この代表的な素子がバレッタサーミスタである)
  3. 電波を受信してその交流信号をダイオードなどで検波し,直流電流計で測定する方法

問7

8 [dB] の伝送損失を持つ回線の受端における雑音レベルが -65 [dBm] であった。この回線の送端から -12 [dBm] の信号を送ると,受端における SN 比は 45 [dB] となる。

回線の送端から -12 [dBm] の信号を送ると,受端では 8 [dBm] の伝送回線の損失がある。

\[ -12 -8 = -20 \text{ [dBm]} \]

受電での雑音レベルは,-65 [dBm] であるため,S/N 比(信号 / 雑音比)は,次式の通り。

\[ -20\text{ [dBm]} - (-65\text{ [dBm]}) = 45 \text{ [dB]} \]

問8

アナログ電話回線用モデムを用いたデータ伝送において,伝送帯域幅とデータ伝送速度の関係を表す法則は,一般に,シャノンの定理といわれ,信号電力,雑音電力,使用する通信路の周波数帯域幅が決まると,その通信路で送れる最大伝送速度(通信容量)が計算できる。

シャノンの定理は,通信容量の限界を表す定理であり,雑音のある通信路の通信容量は,送信レート(周波数帯域幅など)により限界がある,というものである。

任意の小さい誤り率で 1 秒間に伝送可能な 2 進数の最大数(通信容量 $C$)は,帯域幅 $B$ と $\log_2 (1+S/N)$ の積に等しい。

\[ C = B\log_2 (1+S/N) \]

問9

PCM 信号の多重化に用いられる TDM 方式は,チャネル別に送出されるパルス信号を時間的にずらして伝送することにより,伝送路を多重利用するものである。

音声の PCM 信号のようなデジタル信号の多重化によく使用されている TDM(Time Division Multiplex : 時間分割多重方式)とは,1 つの伝送路に複数のチャネルの信号をまとめ同時に伝送する多重化技術の 1 つで,短時間ごとに伝送する信号を切り替える方式である。

問10

VoIP において,IP 電話の発信者からの要求に応じた着信先の指定や,音声信号を送受信するための呼制御信号の処理に用いられる技術は,一般に,シグナリング技術といわれる。

VoIP 通信システムにおいて,呼制御のことをシグナリングと呼び,その手順を示したものはシグナリングプロトコルといわれ,H. 323,SIP,Megaco,RSVP などがある。

問11

出回線数 $n$ の回線群において,加わる呼量が $a$ [アーラン],呼損率が $B$ のとき,出線能率 $\eta$ は,$\eta$ = $\frac{a \times (1 - B)}{n}$ で表される。

運ばれた呼量 $c$ は,加わる呼量 $a$ [アーラン],呼損率を $B$ とすると,次式となる。

\[ c = a \times (1-B) \]

出線能率 $\eta$ は,出回線の 1 回線あたりなので,回線数 $n$ で割る。

\[ \eta = \frac{a\times(1-B)}{n} \]

問12

IP をベースとしたパケット通信ネットワーク上で,音声とビデオなどのマルチメディア・アプリケーションを提供することを目的として標準化された仕組みは,IMS といわれる。

IMS(IP Multimedia Subsystem)は,従来からの通信サービス・マルチメディア等を IP ネットワーク上で取り扱うための規格。

問13

ネットワークトポロジにおいて,全てのノード間を直接リンクで結ぶ形態であるメッシュ型ネットワークは,トラヒックの多い基幹ネットワークに適用され,ノード数が $N$ の場合,必要なリンク数は,$\frac{N(N-1)}{2}$ となる。

通信ネットワーク内のすべてのノード間を互いに直接接続する通信路をもつ構成を,メッシュ構成という。リンク数は多く必要となるが,ノード間のトラヒックの多い基幹系で使われている。

メッシュ網
図 メッシュ網

問14

携帯電話番号体系では,一般に,先頭の 070,080 又は 090 に続く 3 桁の数字は携帯電話事業者(MNO)別に指定されているが,ユーザが番号ポータビリティで別の MNO に移行した場合,この数字だけでは移行したユーザが契約する MNO を識別できなくなる。

国内の番号計画は総務省令で示されている。携帯電話・PHS は閉番号方式であり,070 ~ 090 + CDE + XXXXX の形式で,CDE の 3 桁が事業者識別番号となっている。設問に示されているように「番号ポータビリティ」が開始されたため,事業者番号は最初に契約した事業者(MNO : Mobile Network Operator)を示すことになる。

問15

固定電話から IP ネットワークを中継網として使用する H. 323 による IP 電話において,発信側の VoIP ゲートウェイと着信側の VoIP ゲートウェイ間の呼制御信号は,TCP を用いて送受信される。

IP 電話では,IP ネットワーク内で転送される音声パケットの転送プロトコルは,遅延時間の少ないことを優先するためコネクションレス型(非確認型)の UDP を使用するが,一般に発信などの呼制御信号は,コネクション型(確認型)手順である TCP を使用する。

問16

より強固なセキュリティの確保などを目的に,情報通信事業者が設置し,提供しているサーバの一部又は全部を借用して自社の情報システムを運用する形態は,一般に,ホスティングといわれる。

情報通信事業者が設置したサーバの一部または全部を利用者に提供するサービスをホスティングサービスという。利用者にとってサーバの設置場所が自社内に不要で,維持管理が楽になると同時に,セキュリティも確保される利点がある。

問17

衛星通信では,遠方からの微弱な電波を増幅する必要があるため,受信機の初段に設けられる低雑音増幅器の素子として,HEMT(High Electron Mobility Transistor)が用いられる。

衛星通信の受信装置では低雑音増幅器が必要で,受信器の初段に使用される素子としては,HEMT(高電子移動トランジスタ)が使われている。

問18

光ファイバでは,中心部のコアと外周部のクラッドの屈折率の差により,光がコア内を全反射しながら伝搬するが,この屈折率の差は,製造段階において,主材料である石英ガラスなどに添加するドーパントの種類や量により調整される。

コアの屈折率を大きくするためには,コアとなる石英ガラスにゲルマニウム,アルミニウム,チタンなどを添加し,クラッドには屈折率を小さくするためにフッ素やホウ素化合物を添加する。これらの添加物をドーバントという。

問19

電力需要の変動に対応し,商用受電電力の低減と電気料金の削減を目的に,受電電力が契約電力を超えないように常用発電設備を運転する方式は,ピークカット運転方式といわれる。

電力会社との契約において,使用電力量の最大値を設定し通常の電気料金を安くする契約を行っている場合に,常用の発電設備を設置し,使用電力が設定値を超えないように発電装置を運転する方式をピークカット運転方式という。

問20

半導体レーザモジュールや光ファイバ増幅器において,反射光を阻止して動作を安定化させるために使用される光アイソレータは,光を単一方向にだけ進行させる機能を有するデバイスである。

光アイソレータとは,光ファイバを使用する通信システムにおいて使用されている部品で,順方向に進む光のみを通し,逆方向の光を遮断する機能を有する。戻り光によるレーザの損傷,不安定化,干渉によるノイズなどの防止に必要で,光通信線路や光増幅器に多数使われている。

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