プロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメント
1. プロジェクトマネジメント
- プロジェクト,及びプロジェクトマネジメントの目的,考え方,プロセス,プロセス群,対象群のあらましを理解する。
- プロジェクトの体制の種類,特徴のあらましと,自己管理の内容を理解する。
(1) プロジェクト,及びプロジェクトマネジメントの目的と考え方
プロジェクト(project)[1]とは、ある目的を達成するための計画の策定とその遂行。特に、期限が定まっていたり、具体的な目標を達成したら終了するような限定性を持った計画のことを意味する。訳語として「計画」が当てられることもあるが、実施の過程を含む概念である。
プロジェクトには,「納期」「品質」「予算」について 1 つの基準を設定し,それを満たすように開発が進められる。しかし,これらの要素は互いに相反する関係にあるため,調整が必要になることがある。また,プロジェクトの実行中に起こるさまざまな問題を,リスクの少ない方法で解決していかなければならない。
1 つのプロジェクトを成功させるためには,プロジェクトを計画,実行する中でさまざまな管理を行う必要がある。その管理を行う責任者をプロジェクトマネージャ(Project Manager : PM)と呼び,管理のために体系化された知識やツール,技法を適用して,プロジェクトを成功に導く管理活動をプロジェクトマネジメントという。
PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)
プロジェクトマネジメントに関する知識を体系化したもので,業種や分野を問わない汎用性の高い知識体系であることから,国際標準としてさまざまなプロジェクトに利用されている。
PMBOK では,知識の体系を次表に示す 10 の領域で構成し,これに基づいてプロジェクトを管理していく。
知識エリア | 概略 |
---|---|
統合マネジメント | プロジェクト全体の整合性を図る |
スコープマネジメント | プロジェクトの目的及び範囲を明確にするために,作業範囲(スコープ)の定義と変更を管理する |
スケジュールマネジメント | 納期に間に合う日程を計画し,実績を管理する |
コストマネジメント | 費用(コスト)の見積りと,実際に発生した費用を管理する |
品質マネジメント | 品質基準を策定し,品質を満たすための管理を行う |
資源マネジメント | チーム資源と物的資源を管理する |
コミュニケーションマネジメント | 情報伝達経路や情報共有の方法など,コミュニケーションの円滑化を図る |
調達マネジメント | 必要な資源(人・モノ・金)を調達し,各種の契約を管理する |
リスクマネジメント | プロジェクト中に生じるさまざまな不確定要素(リスク)を分析し,進行に影響しないよう管理する |
ステークホルダマネジメント | ステークホルダ[2]と良好な状態を保つための管理を行う |
- プロジェクトの特性は,独自性も有期性もある。
- 利害関係(ステーク)を持つ者(ホルダ)のこと。具体的には,企業活動の対象となる市場や社会に属している個人や集団などを指す。
(2) プロジェクトの体制と自己管理
2. プロジェクトの統合
- 統合の対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- 統合の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
(1) 統合の対象群が含むプロセス
プロジェクト憲章
プロジェクト憲章とは,プロジェクトの立ち上げに当たり,プロジェクトの目標を明確にし,ステークホルダ(プロジェクト運営の関係者,あるいはプロジェクトの成果によって利益面の影響を受ける利害関係者)からの正式な認可を受けるために作成する文書のことである。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
(3) ツールと技法
3. プロジェクトのステークホルダ
- ステークホルダの対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- ステークホルダの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
(1) ステークホルダの対象群が含むプロセス
プロジェクトステークホルダマネジメントに含まれるプロジェクトには,ステークホルダマネジメント計画,ステークホルダエンゲージメントマネジメント,ステークホルダエンゲージメントコントロールがある。なお,エンゲージメントとは,ステークホルダの関係や関わりの度合いを,強すぎもせず,弱すぎもしない適切なものとするような活動である。
- ステークホルダの特定
- ステークホルダのマネジメント
プロジェクトに関わるステークホルダを説明せよ。
プロジェクトの成果が,自らの利益になる者と不利益になる者がいる。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
ステークホルダを適切に管理するため,ステークホルダの利害や環境に関する情報を文書化する。
- ステークホルダ登録簿
- ステークホルダの氏名や評価情報などを記載する。
(3) ツールと技法
- ステークホルダ分析
4. プロジェクトのスコープ
- スコープの対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- スコープの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
(1) スコープの対象群が含むプロセス
プロジェクトで作成する成果物およびそのための作業範囲をスコープ[1]と呼ぶ。スコープの定義に不備があると,成果物や作業に漏れが生じ,本来は必要のない作業に時間やコストを費やすなど,プロジェクトの進行に悪影響を及ぼす。そこで,WBS という手法を使ってスコープの洗出しを行う。
WBS(Work BreakdownStructure,作業分解図)
作業を段階的に分解する(トップダウン方式)のための手法である。これにより,プロジェクトの作業は段階階層となり,最下層の作業が実際の管理の単位(ワークパッケージ)になる。PMBOK によれば,WBS で定義するものは,プロジェクトで行う作業を階層的に要素分解したワークパッケージである。
- スコープの定義
- WBS の作成
- 作業を段階的に細分化する。
- 活動の定義
- スコープの管理
ソフトウェア開発プロジェクトにおいて WBS(Work Breakdown Structure)を使用する目的を述べよ。
作業を階層に分解して,管理可能な大きさに細分化する。
- スコープ(scope)とは、領域、範囲などの意味を持つ英単語で、プログラミングの分野ではプログラム中で変数名などのシンボルが参照可能な有効範囲のことを指す。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
- スコープ規定書
- WBS
- WBS(Work Breakdown Structure)とは,成果物を中心に,プロジェクトチームが実行する作業を段階的に要素分解したもの。WBS を使うことで,プロジェクトのスコープ全体を系統立ててまとめて定義することができる。
- WBS 辞書
- WBS 作成プロセスにおいて生成する文書であり,WBS を補完する。各 WBS 要素に対応する作業の詳細な記述や技術的な文書の詳細な記述を行う。
- 活動リスト
- 進捗データ
(3) ツールと技法
- スコープ(作業及び成果物)
- 活動
- ワークパッケージ
- プロジェクトスコープのクリープ
プロジェクトマネジメントのプロセスのうち,計画プロセスグループ内で実施するプロセスはどれか。
- スコープの定義
- ステークホルダの特定
- 品質保証の実施
- プロジェクト憲章の作成
正解は,1. である。
5. プロジェクトの資源
- 資源の対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- 資源の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクト資源マネジメントは,プロジェクトチームのメンバが各々の役割と責任を全うすることでチームとして機能し,プロジェクトの目標を達成することを目的に行われる。
(1) 資源の対象群が含むプロセス
- プロジェクトチームの編成
- 資源の見積り
- プロジェクト組織の定義
- プロジェクトチームの開発
- 資源の管理
- プロジェクトチームのマネジメント
(2) 主要なインプット及びアウトプット
- 資源要求事項
- プロジェクトの組織図
(3) ツールと技法
- RAM(Responsibility Assignment Martix : 責任分担マトリックス)
- OBS(Organizational Breakdown Structure : 組織ブレークダウンストラクチャ)
6. プロジェクトの時間
- 時間の対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- 時間の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクトタイムマネジメントでは,プロジェクトを所定の時期に完了させることを目的とする。プロジェクトだけでなく,プロジェクトに関わる要員それぞれの進捗管理も重要である。
(1) 時間の対象群が含むプロセス
- 活動の順序付け
- 活動期間の見積り
- スケジュールの作成
- 活動ごとに,資源がいつどれだけ必要になるか,作業量や期間はどの程度かを見積り,スケジュールを作成する。
- スケジュールの管理
- プロジェクトの進捗を更新するためにプロジェクトの状況を監視し,スケジュールに対する変更をマネジメントする。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
- 活動順序
- 活動所用期間見積り
- 活動リスト
- スケジュールの制約
- スケジュール
(3) ツールと技法
アローダイヤグラム
アローダイアグラム(arrow diagram,矢線図)とは、複数の要素の間を、それらの関係を意味する矢印で結んだ図。特に、複数の工程や手順の間の前後関係を矢印の向きによって表した図。
アローダイアグラムでは図上にプロジェクトを構成する工程を並べ、直接依存関係にある工程間を矢印で繋いでいく。これにより、ある工程を開始するために終わらせておかなければならない工程を、先頭から簡単にたどっていくことができる。
また、図上にはプロジェクトの開始から終了まで、いくつかの経路が現れることがあるが、経路上の工程の所要時間を足し合わせていくと、それぞれの経路全体の所要時間を求めることができる。その中で最も長い所要時間がプロジェクト全体の工期であり、そのような経路を「クリティカルパス」(critical path)という。
ガントチャート
ガントチャート(Gantt chart)とは、プロジェクトの工程管理などで用いられる図表の一つで、縦に並んだ棒グラフの列で計画や進捗を視覚的に表したもの。1910年代にアメリカの機械エンジニア、経営コンサルタントのヘンリー・ガント(Henry L. Gantt)が考案した。
進捗率
計画した作業量に対して,実際に完了している作業量の割合を進捗率と呼び,作業の進捗状況を定量的に評価する。進捗率が 100 % であれば,計画した作業はすべて完了した,ということになる。
マイルストーン
マイルストーン(milestone)とは、里程標、一里塚、道標、などの意味を持つ英単語。転じて、歴史や工程などについて、画期的な出来事、重要な段階、節目、到達点、金字塔といった意味でも用いられる。原義のマイル標は、幹線道路の道路脇に1マイルごとに設置される、起点からの距離を記した標識のこと。
- 類推見積り
- パラメトリック見積り
- 三点見積り
- ボトムアップ見積り
- スケジュールネットワーク分析
- PERT
- PERT(Program Evaluation and Review Technique)とは,対象となるプロジェクトを完了するために必要な各工程の関連を分析し,プロジェクト完了に要する最小時間を特定するための手法で,プロジェクトの日程計画を作成するのに適している。
- CPM(Critical Path Method : クリティカルパス法)
- PDM(Precedence Diagramming Method : プレシデンスダイヤグラム法)
- プロジェクトの工程間の関係を図示するための作図法の一つで,作業の開始や終了の対応関係を示すもの。
- アローダイヤグラム
- ガントチャート
- 作業の進捗状況を表す図であり,プロジェクト管理などにおいて工程管理に用いられる。縦軸で WBS のそれぞれの要素を表し,横棒で実施される機関や実施状況を色分けなどして表す。
- マイルストーン
- クラッシング
- プロジェクトのスケジュールを短縮するために,アクティビティに割り当てる資源を増やして,アクティビティの所要期間を短縮する技法。具体的には,メンバの時間外勤務を増やしたり,業務内容に精通したメンバを新たに増員したりする。
- ファストトラッキング
- ラグ
- リード
- EVM(Earned Value Management)
- 大日程計画表(マスタスケジュール)
- 中日程計画表(工種別作業計画)
- 小日程計画表(週間作業計画)
- 進捗報告
ある会場で資格試験を実施する際のアクティビティである “受付” と “試験” の依存関係のうち,プレシデンスダイアグラム法(PDM)の開始-終了関係はどれか。
- 受付の開始から 30 分経過したら,試験を開始する。
- 受付の終了から 10 分経過したら,試験を開始する。
- 受付の終了から 45 分経過したら,試験を終了する。
- 試験の開始から 20 分経過したら,受付を終了する。
正解は,4. である。
システム開発の進捗管理などに用いられるトレンドチャートを説明せよ。
作業の進捗状況と,予算の消費状況を関連付けて折れ線で示したものである。
7. プロジェクトのコスト
- コストの対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- コストの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクトコストマネジメントは,プロジェクトを決められた予算内で完了させることを目的に行われる。プロジェクトだけでなく,プロジェクトに関わる要員それぞれのコスト管理も重要である。
(1) コストの対象群が含むプロセス
- コストの見積り
- 予算の作成
- コストの管理
(2) 主要なインプット及びアウトプット
- 予算
- 実コスト
- 予想コスト
(3) ツールと技法
開発に必要なコストは,人件費や資源調達にかかる費用などさまざまある。ここでは,システムのソフトウェア開発のコストを見積もる代表的な手法を説明する。
類推見積り法
過去の類似するシステムを基に開発規模や工数を見積もる手法。
3 点見積り法
問題なく作業が完了するという楽観値,トラブルが生じることを想定した悲観値,最も可能性が高いと予測される最頻値から工数を見積もる手法。これら 3 種類の見積りに,それぞれルールに基づいて重みを付け,平均を求めることで,より精度の高い見積りを求める。
ファンクションポイント法
ファンクションポイント(FP : Function Point)法とは,ソフトウェアの機能を,外部入力,外部出力,内部論理ファンクション,外部インタフェースファイル,外部照会の 5 つのファンクションタイプに分けて,それぞれの機能の複雑さに基づいて工数を見積もる手法である。画面や帳票などユーザの目に見える単位で工数を見積もるため,見積もりの根拠をユーザが理解しやすい,という特徴がある。
ファンクションタイプ | 内容 |
---|---|
外部入力 | 内部論理ファイルを更新するための入力機能(画面やファイル入力機能) |
外部出力 | 見積り対象ソフトウェアより外部へデータを出力する機能(画面・帳票作成・ファイル出力機能) |
内部論理ファイル | 見積り対象ソフトウェアで作成・更新を行うファイル・データベース |
外部インタフェースファイル | 見積り対象ソフトウェアが参照する外部のアプリケーションプログラムにおいて,作成するファイル・データベース |
外部照会 | 画面などの問合せ機能 |
ファンクションポイント法でシステムの開発規模を見積もる際に必要となる情報はどれか。
- 開発者数
- 画面数
- プログラムステップ数
- 利用者数
正解は,2. である。
COCOMO
COCOMO(Constructive Cost Model)とは、ソフトウェア開発プロジェクトにかかる工数や期間などを見積もる手法の一つ。1981 年に TRW 社のバリー・ボーム(Barry W. Boehm)氏が提唱したもので、過去のソフトウェア開発プロジェクトから得られたデータを元に構築された統計的なモデルである。
COCOMO では、開発するプログラムの想定ソースコード行数を元に、プログラマの習熟度や再利用できるソフトウェアの量などの様々な要因から開発規模を見積もり、これに十数個の補正係数(「コストドライバ」と呼ばれる)を掛け合わせて工数を見積もり、最後に工数から開発期間を見積もる。
EVM
EVM(Earned Value Management)とは、プロジェクトマネジメントにおいて進捗状況の把握・管理を行う手法の一つ。作業の到達度を金銭などの価値に換算した EV(Earned Value:アーンドバリュー、出来高)という概念で把握する。
進捗遅延やコスト超過を早期に発見することを目的として,EVM 手法を用いたプロジェクト管理の例を示す。EVM 手法では,プロジェクトの計画と実績について,定量的な情報を用いて進捗状況やコスト状況を分析し,評価する。EVM 手法で使う各指標と意味の例を下表に示す。
指標 | 名称 | 意味 |
---|---|---|
BAC [人月] | 完了までの総予算 | プロジェクト計画時点に見積もったプロジェクト完了までの予定総工数のこと。 |
PV [人月] | 出来高計画値 | プロジェクト計画時点において,プロジェクト状況の評価時点までの予定作業に割り当てていた予定工数のこと。プロジェクト完了時点における PV は BAC と同じ値になる。 |
EV [人月] | 出来高実績値 | プロジェクト状況の評価時点までに完了した作業に対して,プロジェクト計画時点において割り当てていた予定工数のこと。 |
AC [人月] | コスト実績値 | プロジェクト状況の評価時点までに完了した作業に対して,実際に必要となった工数のこと。 |
SV [人月] | スケジュール差異 | プロジェクト状況の評価時点における EV と PV の差のこと。スケジュール面から見た差異を示す。 |
CV [人月] | コスト差異 | プロジェクト状況の評価時点における EV と AC の差のこと。コスト面から見た差異を示す。 |
SPI | スケジュール効率指数 | SPI = EV / PV スケジュール面から見た効率のこと。1 未満の場合,進捗遅延していることを示す。 |
CPI | コスト効率指数 | CPI = EV / AC コスト面から見た効率のこと。1 未満の場合,コスト超過していることを示す。 |
- 類推見積り
- パラメトリック見積り
- 三点見積り
- ボトムアップ見積り
- ファンクションポイント法
- LOC(Lines of Code)法
- ソースコードの行数でプログラムの規模を見積もる方法である。従来からある方法であるが,担当者によって見積り規模に大きな偏差が出ることから,客観的に計算できる FP 法が普及してきた。
- COCOMO(Constructive Cost Model)
- ソフトウェアで予想されるソースコードの行数に,エンジニアの能力や要求の信頼性などによる補正係数を掛け合わせ,開発に必要な工数,期間などを算出する手法
- COCOMO Ⅱ(Constructive Cost Model Ⅱ)
- COCOMO にファンクションポイントなどの概念を取り入れて発展させた手法
- EVM(Earned Value Management)
- 予算とスケジュールの両方の観点からプロジェクトの遂行を定量的に評価するプロジェクトマネジメントの技法。EVM では,PV(Planned Value : 計画値),EV(Earned Value : 出来高),AC(Actual Cost : 実コスト)の三つの値を用いて測定し,監視する。
- コストベースライン
8. プロジェクトのリスク
- リスクの対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- リスクの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
開発中には不測の事態がよく発生する。その原因は,人災,天災などさまざまであり,それによる被害も小さいものから大きなものまである。プロジェクトでは,これらの被害の影響を抑えるべく,リスクに備えた対策を用意する必要がある。
PMBOK ではリスクを「プロジェクトの進行に影響を及ぼす不確定の事象や状態」と定義している。プロジェクトに生じるリスクには,計画外の作業の発生や技術的なトラブル,要員数の不足などによるスケジュールの遅れや追加工数の発生などがある。
(1) リスクの対象群が含むプロセス
洗出しを行ったリスクについて,すべてに対応することはコストの面から考えて現実的ではない。そのため,リスクについて発生する確率と影響を定性的・定量的に分析し,リスクの優先度を設定する。そのうえで,各リスクについて次表に示す対応策を検討する。
対応策 | 内容 |
---|---|
リスク回避 | プロジェクトの計画を変更するなどによってリスクの発生要因を取り除き,リスクの発生を防ぐ。 |
リスク転嫁(リスク移転) | 保険加入など,リスクの発生時の対応責任を第三者へ移す。 |
リスク低減 | リスク発生の確率や影響を低減させる対策を実施する。 |
リスク保有(リスク受容) | リスク発生の影響が小さい場合にリスクを受け入れ,コンティジェンシー計画[1]を策定する。 |
リスクファイナンス | リスクが顕在化した場合に備えて,保険をかけるなどにより対策のための資金確保を講じる。 |
- リスクの特定
- 可能性のあるリスクを洗い出す。参加者が自由にアイディアを出すブレーンストーミングや,専門家の間でアンケートを使用して質問を繰り返すことで合意を形成するデルファイ法,根本原因法などが挙げられる。
- リスクの評価
- リスクへの対応
- リスク分析の結果を基に,プロジェクト目標に対する好機を高め,脅威を減少させるための選択肢と方法を策定する。
- リスクへの管理
プロジェクトのリスクに対応する戦略として,損害発生時のリスクに備え,損害賠償保険に加入することにした。PMBOK によれば,該当する戦略はどれか。
- 回避
- 軽減
- 受容
- 転嫁
正解は,4. である。
PMBOK によれば,プロジェクトのリスクマネジメントにおいて,脅威に対して適用できる対応戦略と好機に対して適用できる対応戦略がある。脅威に対して適用できる対応戦略はどれか。
- 活用
- 強化
- 共有
- 受容
正解は,4. である。
- コンティンジェンシー計画:最悪の事態を想定した計画のことで,災害,事故,不正アクセス,情報漏えいなどを踏まえた不測の事態に対応する計画のこと。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
- リスク登録簿
- 「リスク識別」で洗い出されたリスクはリスク管理簿に記載して管理する。「リスクの管理・コントロール」では,リスク登録簿を基に監視が行われる。また,新たにリスクが見つかった場合は,リスク登録簿を更新する。
- 優先順位付けされたリスク
(3) ツールと技法
リスクに対する損害額の計算方法はさまざまであるが,一般的には次式で求められ,この額から優先度が決定される。
- リスクの定性的分析技法
- リスクの定量的分析技法
9. プロジェクトの品質
- 品質の対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- 品質の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクト品質マネジメントでは,プロジェクトのニーズを満足させることを目的とする。プロジェクトでは,必要に応じて行われる継続的プロセス改善活動とともに,方針,手順を通して品質マネジメントを実施する。
(1) 品質の対象群が含むプロセス
品質の対象群には,品質の保証及び管理を計画し,確定するために必要なプロセスを含む。それらのプロセスの目的,役割,機能,プロセス間の関連などを理解する。
- 品質の計画
- 品質要求事項や品質標準を定め,プロジェクトでそれを順守するための方法を文書化する。
- 品質保証の遂行
- 適切な品質標準と運用基準の適用を確実に行うため,品質の要求事項と品質管理測定の結果を監査する。
- 品質管理の遂行
- パフォーマンスを査定し,必要な変更を提案するために品質を監視するシステムなどの実行結果を監視し,記録する。障害報告書などを作成し,障害が起こったという事実とその内容を管理する。
(2) 主要なインプット及びアウトプット
品質の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプットを理解する。
- 品質要求事項
- 品質計画
- 進捗データ
- 検査報告書
- 是正処置
- 予防処置
(3) ツールと技法
品質の対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。
- プロジェクトにおける品質管理測定値の活用(データ表現技法の選択など)
10. プロジェクトの調達
- 調達の対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- 調達の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクト調達マネジメントの目的は,作業の実行に必要な資源やサービスを外部から購入,取得するために必要な契約やその管理を適切に行うことである。
(1) 調達の対象群が含むプロセス
調達の対象群には,製品,サービス又は結果を計画し,入手し,供給者との関係をマネジメントするために必要なプロセスを含む。それらのプロセスの目的,役割,機能,プロセス間の関連などを理解する。
- 調達の計画
- プロジェクト調達の意思決定を文書化し,取り組み方を明確にして,納入候補を特定する。
- 供給者の選定
- 調達の運営管理
(2) 主要なインプット及びアウトプット
調達の対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプットを理解する。
- 契約書又は注文書
(3) ツールと技法
調達の対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。
- プロジェクトにおける調達戦略(契約のタイプの選択など)
11. プロジェクトのコミュニケーション
- コミュニケーションの対象群が含むプロセスのあらましを理解する。
- コミュニケーションの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプット,並びにツールと技法のあらましを理解する。
プロジェクトコミュニケーションマネジメントは,プロジェクト情報の生成,収集,配布,補完,検索,最終的な廃棄を適宜,適切かつ確実に行うためのプロセスから構成される。人と情報を結びつける役割を果たすことが目的である。
(1) コミュニケーションの対象群が含むプロセス
コミュニケーションの対象群には,プロジェクトに関連する情報の計画,マネジメント及び配布に必要なプロセスを含む。それらのプロセスの目的,役割,機能,プロセス間の関連などを理解する。
- コミュニケーションの計画
- 情報の配布
- コミュニケーションのマネジメント
(2) 主要なインプット及びアウトプット
コミュニケーションの対象群が含むプロセスの主要なインプット及びアウトプットを理解する。
- 進捗報告書
- 配布情報
(3) ツールと技法
コミュニケーションの対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。
- 双方向コミュニケーション
- プッシュ型コミュニケーション
- 相手の行動にかかわらず情報を提供する
- プル型コミュニケーション
- 相手の行動に応じて情報を提供する。例として,イントラネットサイトが挙げられる。
- 電子メール
- ボイスメール
- テレビ会議
- 紙面
- コミュニケーションチャネル
10 人のメンバで構成されているプロジェクトチームにメンバ 2 人を増員する。次の条件でメンバ同士が打合せを行う場合,打合せの回数は何回増えるか。
[条件]
- 打合せは 1 対 1 で行う。
- 各メンバが,他の全てのメンバと 1 回ずつ打合せを行う。
- 12
- 21
- 22
- 42
正解は,2. である。新メンバ 2 人が旧メンバ 10 人とそれぞれ打合せ,新メンバ同士で打合せる。