システム戦略
目次
応用情報技術者試験(レベル3)シラバス-情報処理技術者試験における知識・技能の細目- Ver. 7.0 に基づき,「システム戦略」の対策ノートを作成した。
本稿は,IT ストラテジスト試験,システムアーキテクト試験 午前Ⅱ 問題の対策としても活用できるようにしている。
情報システム戦略
- 情報システム戦略の目的,考え方,策定手順や留意事項を修得し,適用する。
- エンタープライズアーキテクチャなどの手法を修得し,適用する。
- プログラムマネジメント,フレームワーク,品質統制,情報システム戦略マネジメントを修得し,適用する。
情報システム戦略の目的は,経営戦略を実現させることである。そのため,経営戦略に沿って効果的な情報システム戦略を策定することが重要になる。
(1) 情報システム戦略
① 情報システム戦略の目的と考え方
情報システム戦略は,情報システムを効果的に活用して経営目標を達成するための施策を,中長期的な視点で策定したものである。業務の改善には,新たな情報システムの導入で対応する方法があるが,既存の情報システムの再構築で対応するものもある。
情報システムの導入には費用がかかるため,投資が無駄にならないように,次表に示す観点で戦略を策定する。
観点 | 内容 |
---|---|
経営戦略との整合性 | 経営目標を達成するために,経営の基本方針である経営戦略に基づいて策定する。 |
全体最適化 | 各業務が効果的に連動するように,全社的な視点で業務の分析と整理を行い,システム化を検討する。 |
投資対効果 | 情報システムの導入や再構築によって得られる効果が投資に見合うかどうかを的確に捉える。 |
システム管理基準(平成16年度)によれば,情報戦略策定段階の成果物は,経営戦略に基づいて組織体全体で整合性及び一貫性を確保した情報化を推進するために,方針及び目標に基づいて策定する全体最適化計画である。
情報戦略は,経営戦略の下に策定され,経営目標の達成に寄与するものでなければならない。したがって立案時には,経営事業戦略,経営事業目標,中長期構想との整合性をとることが求められる。
IT 戦略とは
IT 戦略とは,その上位目的である経営戦略の実現に寄与するため,中長期的なあるべき IT 像を具体的に描いたものである。作成にあたっては,各種 IT 施策の選択と集中を検討しながら,資金や人材,時間などが限られた IT リソースの最適な配分計画を実行可能な形で取りまとめることが必要である。
企業の経営戦略に基づいて課題解決に役立つ IT 戦略を策定し,導入すべき IT 技術を選定・調達し,それをシステムに落とし込み,その効果を検証する。IT 戦略策定において,よく使われるのが業務プロセス,データ,データ処理,IT 基盤について,現状と理想を比較するアプローチである。
IT 戦略の立案・改善プロセスは,以下の流れで行う。
- 経営戦略の策定
- IT 戦略(システム方向性)の策定
- システム化計画の策定
- IT 資源の調達
- IT システムの導入
- IT サービスの活用
- モニタリング
- コントロール
② 情報システム戦略の策定手順
情報システム戦略の策定では,経営陣の一人であるCIO(Chief Information Officer : 最高情報責任者)が中心となり,経営戦略に基づいて全体システム化計画や情報化投資計画を策定する。このとき,自社の状況を知るために,経済産業省が提案した IT 活用度を測る「物差し」である IT 経営力指標を利用することもある。
IT 戦略の検討プロセスは,① 現状分析,② あるべき IT 像の検討,③ IT 戦略・計画の作成と進める。
情報システム戦略を立案する際の手順の例を示す。
- 経営戦略の確認
- 業務環境の調査,分析
- 業務,情報システム,情報技術の調査,分析
- 基本戦略の策定
- 業務の新イメージ作成
- 対象の選定と投資目標の策定
- 情報システム戦略案の策定
- 情報システム戦略の承認
事業目標の達成を目指す IT 戦略の策定
IT ストラテジストは,事業目標の達成を目指して IT 戦略を策定する。IT 戦略の策定に当たっては,実現すべきビジネスモデル又はビジネスプロセスに向けて,有効な IT,IT 導入プロセス,推進体制などを検討し,事業への貢献を明らかにする。
IT 戦略の策定に関する取組みの例としては,次のようなことが挙げられる。
- 顧客満足度の向上による市場シェアの拡大を事業目標にして,AI,IoT,ビッグデータなどを活用した顧客個別サービスを提供する場合,システムソリューション,試験導入,データ解析に優れた人材の育成などを検討する。
- グローバルマーケットでの売上の大幅な増大を事業目標にして,生産・販売・物流の業務プロセスの革新によるグローバルサプライチェーンを実現する場合,グローバル IT 基盤の整備,業務システムの刷新や新規導入,グローバル対応のための運用体制作りなどを検討する。
IT ストラテジストは,経営層に対して,策定した IT 戦略が事業目標の達成に貢献することを説明し,理解を得なければならない。また,策定した IT 戦略を実行して事業目標を達成するために,ヒト・モノ・カネの経営資源の最適な配分を進言したり,現状の組織・業務手順などの見直しを進言したりすることが重要である。
③ 情報システム戦略の策定の留意事項
BCP(Business Continuity Plan : 事業継続計画)
事業の中断・阻害に対応し,事業を復旧し,再開し,あらかじめ定められたレベルに回復するように組織を導く手順を文書化したものである。
経済産業省や厚生労働省の資料では,BCP の発動から全面復旧に至るまでを以下の 4 段階のフェーズに分けている。
- 災害や事故の発生(或いは発生の可能性)を検知してから,初期対応を実施し,BCP 発動に至るまでのフェーズ(BCP 発動フェーズ)
- BCP を発動してから,バックアップサイト・手作業などの代替手段により業務を再開し,軌道に乗せるまでのフェーズ(業務再開フェーズ)
- 最も緊急度の高い業務や機能が再開された後,さらに復旧する業務の範囲を拡大するフェーズ(業務回復フェーズ)
- 代替設備・手段から平常運用へ切り替えるフェーズ(全面復旧フェーズ)
- 目標復旧時間
- 災害時に企業活動を継続するために,最低限必要な業務を復旧するまでの時間
④ 情報システム化基本計画
IT ガバナンスの実現
企業が適切に情報システム戦略を策定し,その戦略を実施する能力を広く IT ガバナンスと呼ぶ。経済産業省が策定したシステム管理基準では,IT ガバナンスを次のように定義している。
経営陣がステークホルダのニーズに基づき,組織の価値を高めるために実施する行動であり,情報システムのあるべき姿を示す情報システム戦略の策定及び実現に必要となる組織能力である
IT ガバナンスにおける経営陣がとるべき行動を,評価(Evaluate),指示(Direct),モニタ(Monitor)の頭文字をとって EDM モデルと呼ぶ。
評価 | 情報システムの将来のあるべき姿に対して現状を評価し,必要な資源やリスクを見積る |
---|---|
指示 | 情報システム戦略を実現するための責任と資源を組織に割り当て,効果の実現とリスクへの対処を指示する |
モニタ | 効果の達成状況や資源の利用状況,リスクの顕在化状況などをモニタする |
あるべき IT 像の検討の進め方
ビジネスアセスメントと IT アセスメントの結果をもとに要素ごとに課題を整理し,その因果関係や真の原因を明確にする。各課題の緊急性,重大性から脅威・リスクを評価するとともに,経営戦略実現上の要請などを考慮し,着手の優先順位をランクづけする。
リスクレベルマトリックスが用いて,リスクレベル H(高リスク),M(中リスク),L(低リスク)をリスクを整理することがある。
リスクが現実化した場合の影響度 | ||||
---|---|---|---|---|
大 | 中 | 小 | ||
リスクが現実化する確率 | 大 | H | M | M |
中 | M | M | L | |
小 | M | L | L |
さらに,リスクレベルに応じて採るべき行動指針を策定することもある。
リスクレベル | 採るべき行動指針 |
---|---|
H | できるだけ早期にリスク対策を実施する。 |
M | 妥当な期間内にリスク対策の実行計画を作成し,実行する。 |
L | 妥当な期間内にリスク対策が必要か不要かを判断し,対策が必要な場合には,実行計画を作成し,実行する。 |
現状の課題を解決するために,他社ベストプラクティスや新技術の適用可能性を考慮しながら,各アプリケーションやインフラの更改,追加システム開発や新規システムの導入といった施策オプションを作成する。各オプションに対して,概算コストや効果,開発工期,リスク,難易度などを検討していく。
中長期的なアプリケーション・IT インフラ像を実現していくにあたっての現状 IT 部門の課題とギャップを評価する。経営企画部門や事業部門などとの役割分担の適正化,教育や採用などによる要員の強化,外部リソースの活用などの施策案を作成する。
情報システムのあるべき姿(To-be モデル)
EA(エンタープライズアーキテクチャ)における理想モデル(To-Be)は,対象の理想的な将来像・目標を表現するモデルである。
EA では「政策・業務体系」「データ体系」「適用処理体系」「技術体系」の 4 つの体系で,それぞれ,最初に現状を分析した現状モデル(As-Is)を整理し,目標とする理想モデル(To-Be)を描き,最後に現状と理想目標を比較した現実的な次期モデルを作成する。
外部資源の活用
システム管理基準では,全体最適化計画の策定時における項目として「全体最適化計画は,外部資源の活用を考慮すること」と記されている。
システムの開発から運用・保守に至るプロセスにおいて活用できる内部資源の量と質を把握した上で,外部資源の活用を計画する。
システム管理基準
システム管理基準は,情報戦略を立案し,効果的な情報システム投資とリスクを低減するためのコントロールを適切に整備・運用するための 287 事項をとりまとめたものである。
この文書の中で「全体最適化の方針・目標」を設定する際の留意事項として次の 6 つが挙げられている。
- IT ガバナンスの方針を明確にすること。
- 情報化投資及び情報化構想の決定における原則を定めること。
- 情報システム全体の最適化目標を経営戦略に基づいて設定すること。
- 組織体全体の情報システムのあるべき姿を明確にすること。
- システム化によって生ずる組織及び業務の変更の方針を明確にすること。
- 情報セキュリティ基本方針を明確にすること。
演習問題
システム管理基準(平成 16 年)によれば,情報戦略における全体最適化計画の策定で実施することはどれか。
- 情報システムの目的を達成する実現可能な代替案を検討する。
- 投資効果及びリスク算定の方法を明確にする。
- パッケージソフトウェアとユーザニーズとの適合性を検討する。
- ユーザ部門及び情報システム部門の役割分担を明確にする。
正解は,イ. である。
フィット&ギャップ分析
企業の業務プロセス,システム化要求などのニーズと,ソフトウェアパッケージの機能性がどれだけ適合し,どれだけかい離しているかを分析する手法。
ワークデザイン法
問題解決に当たって,現実にとらわれることなく理想的なシステムを想定した上で,次に,理想との比較から現状の問題点を洗い出し,具体的な改善案を作成する手法である。
⑤ 情報システム戦略遂行のための組織体制
CIO(Chief Information Officer : 最高情報責任者)
情報システムから価値を得るためには,IT に関する専門的知識が求められることから,経営陣は CIO を任命し,必要な権限を委譲する。そのため,CIO も経営陣に含まれる。
なお,小規模な組織,あるいは経営陣が十分な専門的知識を有している場合には CIO を任命しないことがある。その場合には,本基準において,CIO に関する記述は経営陣として読み替えることとなる。
情報システム戦略委員会(情報システム化委員会)
情報システム戦略の策定や大規模プロジェクト等では組織全体にまたがる利害関係者の調整が必要となる。経営陣は CIO を含む複数の CxO,あるいは後述する部門長を含む委員会を組成し,必要な権限を委譲する。そのため,委員会も経営陣の一部とする。
なお,小規模な組織,あるいは組織内の調整が容易な場合には,委員会を組成しないことがある。その場合には,本基準において,委員会に関する記述は経営陣として読み替えることとなる。
システム管理基準では,情報システム化委員会について 5 つの項目がある。
- 全体最適化計画に基づき,委員会の使命を明確にし,適切な権限及び責任を与えること。
- 委員会は,組織体における情報システムに関する活動全般について,モニタリングを実施し,必要に応じて是正措置を講じること。
- 委員会は,情報技術の動向に対応するため,技術採用指針を明確にすること。
- 委員会は,活動内容を組織体の長に報告すること。
- 委員会は,意思決定を支援するための情報を組織体の長に提供すること。
情報システム部門
IT マネジメントは経営陣の指示に従うと共に,経営陣によるモニタに必要な情報を提供する。
組織内で IT マネジメントを実施する体制を,本基準では,「情報システム部門」と呼ぶ。
情報システム部門は,情報システムに関する「企画」,「開発」,「保守」,「運用」を実施する「担当者」,及び担当者を管理する「管理者」,そして情報システム部門の長である「情報システム部門長」で構成される。
なお,組織によって,経営陣,あるいは CIO が情報システム部門長を兼務することがある。その場合には,本基準において,情報システム部門長に関する記述は経営陣あるいは CIO として読み替えることとなる。
また,小規模な組織では,「担当者」及び「管理者」が少数であり,情報システム部門長を任命しないことがある。その場合には,本基準における情報システムに関する記述は該当する管理者として読み替えることとなる。
⑥ 情報システム投資計画
情報システム投資方針
情報化投資計画(情報システム投資計画)は経営戦略に基づいて策定されるため,情報システム全体の最適化目標は情報化投資計画に沿う形で設定されるべきである。
投資評価における各フェーズでの実施内容は以下の通り。
- 事前評価
- 実施前の投資案件に対して,内部の了解を得るとともに他のプロジェクトとの整合などの全体最適の観点から評価を行う。投資実行の可否を判断するための情報を提供する役割を担う。
- 中間評価
- 実施中の投資案件の実績をモニタリングし評価する。実施計画の軌道修正を判断するための情報を提供する役割を担う。
- 事後評価
- 実施済の投資案件が事前に設計した目的・効果を達成しているかどうかを評価する。IT 投資の実施効果を上位マネジメントに報告するとともに,終結以後の改善策について判断するための情報を提供する役割を担う。
IT 投資マネジメント
IT 投資マネジメントをプロジェクト単位での最適化を目的とする個別プロジェクトマネジメントと企業レベルの最適化を目的とする戦略マネジメントの二つに分類した場合,戦略マネジメントでの実施項目は,全社規模での IT 投資評価の方法や,複数のプロジェクトから成る IT 投資ポートフォリオの選択基準を決定し,全社 IT 投資テーマを起案することである。
IT 投資には,様々な投資パターンが存在する。
種類 | 説明 | 例 | KPI |
---|---|---|---|
運営(Run) | 継続的に既存ビジネスを滞りなく運営するための投資 | セキュリティ・BCP 対応など,リスク回避のための投資 | 導入しなかったときの機会費用(リスクの大きさ) |
インフラ老朽化による更新,インフラの最適化 | ダウンタイム増大がもたらす機会損失コスト,運用コスト削減額 | ||
成長(Grow) | 既存ビジネスの改善拡張により収益を拡大するための投資 | CRM システムの新規導入 | 市場シェア・顧客維持率・チャネル収益率の改善などがもたらす売上・利益 |
業務プロセスの標準化に伴う ERP 導入 | 資産回転率の向上,製品原価率の削減,労働時間短縮などがもたらす原価削減 | ||
変革(Transformation) | 新たなビジネスモデルを構築するための投資 | GPS 情報を利用して料金を柔軟に設定する自動車保険 | 売上・利益,市場シェアなど |
IT 投資ポートフォリオ
IT 投資ポートフォリオは,ポートフォリオ分析の考え方を情報化投資戦略に応用したもので,IT 投資をその目的やリスクの特性ごとにカテゴライズし,そのカテゴリごとに投資割合を管理することで限りある経営資源を有効に配分することを目的とする。
IT 投資ポートフォリオの投資対象カテゴリを,戦略,情報,トランザクション,インフラの 4 つに分類して考えるのは,MIT スローン情報システム研究センターが提唱するモデル(MITモデル)である。以下の各カテゴリの定義は,経済産業省「業績評価参照モデル(PRM)を用いた IT ポートフォリオモデル 活用ガイド」からの引用である。
- 戦略
- 市場における競争優位やポジショニングを獲得することを目的とした投資。具体例としては,導入当初のATM等がこのカテゴリーに該当する
- 情報
- より質の高い管理を行うことを目的とした,会計,マネジメント管理,レポーティング,コミュニケーション,分析等を支援するための情報提供に関連する投資
- トランザクション
- 注文処理等のルーチン化された業務のコスト削減や処理効率向上を目的とした投資
- インフラ
- 複数アプリケーションによって共有される基盤部分を提供するための投資。PCやネットワーク,共有データベース等が該当する
経済産業省が提唱するモデルでは,IT 投資をその目的にもとづき「戦略目標達成型」「業務効率化型」「インフラ構築型」の 3 つのカテゴリに分類した後,「事業への貢献度」や「活用度」「実現可能性」や「コスト」などの評価軸を用いて事業における位置付けを可視化する。
演習問題
IT ポートフォリオの説明はどれか。
- 管理費などの間接コストを,業務区分ごとのアクティビティの種別に着目して,製品やサービスの原価に割り振る手法である。
- 企業の経営戦略を,多面的な視点で体系立てて立案し,実行を管理し,業績を評価する手法である。
- 業界ごとなどで統一的に策定された評価尺度(指標値群)を用いて,企業全体の投資効果を測定する手法である。
- 情報化投資をリスクや投資価値の類似性で幾つかのカテゴリに整理し,ビジネス戦略実現のための最適な資源配分を管理する手法である。
正解は,4. である。なお,1. は活動基準原価計算(ABC : Activity Based Costing),2. はバランススコアカード,3. はベンチマーキングの説明である。
バランススコアカード
バランススコアカードは,企業のビジョンと戦略を実現するために,「財務」「顧客」「内部ビジネスプロセス」「学習と成長」という4つの視点から業績を評価・分析する手法である。
まずは戦略に沿って(つまり経営戦略は所与),その 4 つの視点での活動項目を,互いに連関するように組み上げる(戦略マップの作成)。そして各々に数値目標や評価指標を設定して,それをモニタリングしつつ社内のプロセス改善や各個人のスキルアップを促して,企業変革を推進する仕組みである。
バランススコアカードのプロセスである各視点については以下の通り。
- 財務の視点(過去)
- 株主や従業員などの利害関係者の期待に応えるため,企業業績として財務的に成功するためにどのように行動すべきかの目標を設定する。KPI の例としては,ROA,ROE,株価,売上高利益率などが挙げられる。
- 顧客の視点(外部)
- 企業のビジョンを達成するために,顧客に対してどのように行動すべきかの目標を設定する。KPI の例としては,顧客満足度,成約率,客単価,クレーム件数などが挙げられる。
- 業務プロセスの視点(内部)
- 財務的目標の達成や顧客満足度を向上させるために,優れた業務プロセスを構築するための目標を設定する。KPI の例としては,納期順守率,平均リードタイム,不良率,改善提案件数などが挙げられる。
- 学習と成長の視点(将来)
- 企業のビジョンを達成するために組織や個人として,どのように変化(改善)し,能力向上を図るかの目標を設定する。KPI の例としては,年間教育/訓練時間,資格取得数,特許取得数,従業員の満足度などが挙げられる。
バランススコアカードの考え方を応用して,財務面での効果だけでなく多面的に IT 投資を評価する手法を IT バランススコアカードといい,IT 投資と事業戦略の整合性を図ることなどができる。またバランススコアカードでは業績管理のための指標が定量的に決められているので,これらの指標と比較することで投資対効果の具体的な把握が期待できる。
アメリカのノーラン・ノートン研究所のデビッド・ノートン(David Norton)は「これまでの,財務指標による業績管理方法は,過去の情報に頼るもので,環境変化の激しい 21 世紀の経営には向いていない」という問題意識を持っていた。
彼は「将来の企業における業績評価」というプロジェクトを立ち上げ,HBS のロバート・キャプラン(Robert S. Kaplan)とともに研究を続け,1992 年に発表されたのが「バランススコアカード(Balanced Scor Card, BSC)」であった。
⑦ 個別の開発計画(個別計画)
基幹系システム
基幹系システムは,その会社の業務内容と直接関わるシステムである。生産,販売,在庫管理システム,人事給与システム,財務会計システムなどが該当し,大まかに企業の基本的要素である「ヒト,モノ,カネを管理するシステム」とも表現できる。
基幹系システムが停止すると,業務も停止してしまう可能性がある。また,簡単に代用が効かず,運用するうえで堅固なセキュリティ環境が求められるシステムでもある。
ERP(Enterprise Resource Planning : 企業資源計画)
会計,人事,製造,購買,在庫管理,販売などの企業の業務プロセスを一元管理することによって,業務の効率化や経営資源の全体最適を図る手法。
SCM(Supply Chain Management)
SCM(サプライチェーンマネジメント)は,原材料の調達から最終消費者への販売に至るまでの調達 → 生産 → 物流 → 販売の一連のプロセスを,企業の枠を超えて統合的にマネジメントするシステムである。一連のプロセスで在庫,売行き,販売・生産計画などの情報を共有することで,余分な在庫の削減が可能となり,ムダな物流が減少する。
SCOR(Supply Chain Operations Reference model)で定義している SCM に関する実行プロセスでは,「資材などの購入」は自社にとっての Source にあたる。
CRM(Customer Relationship Management : 顧客関係管理)
CRM システムは,顧客に関するあらゆる情報を統合管理して企業活動に役立てる経営システムであり,ワントゥワンマーケティング[1]の目的に合致している。
SFA(Sales Force Automation)
営業支援のための情報システムである。商談の進捗管理や営業部内の情報共有などを行う。CRM の一環として扱われることも多い。
KMS(Knowledge Management System)
ナレッジマネジメントを行うためのシステムである。ナレッジマネジメントとは,個人のもつ暗黙知を形式知に変換することにより知識の共有化を図り,より高いレベルの知識を生み出すという考え方である。フレームワークとして SECI モデルがあり,① 共同化(Socialization),② 表出化(Externalization),③ 結合化(Combination),④ 内面化(Internalization)の 4 段階のプロセスが定義されている。
この SECI モデルは,『知識創造の経営』(1990)で発表され,翌年にはハーバード・ビジネス・レビューに竹内弘高との共著論文の形で,1995年には "The Knowledge-Creating Company"(知的創造企業)が出たことで,世界的に広く知られるようになった。
プロセス | 説明 | 例 |
---|---|---|
共同化 Socialization |
組織内の個人,小グループで暗黙知の共有化や,新たな暗黙知を創造すること。 | OJT などを通して個人のノウハウを伝達する。 |
表出化 Externalization |
組織内の個人,小グループが有する暗黙知を形式知として明示化すること。 | 会社のもつノウハウをマニュアル化する。 |
結合化(連結化) Combination |
明示化した形式知を組み合わせ,それを基に新たな知識を創造すること | マニュアルを組み合わせて新マニュアルを作成する。 |
内面化 Internalization |
新たに創造された知識を組織に広め,新たな暗黙知として習得すること。 | マニュアルに記載された方法を実践し,習得する。 |
シェアドサービス
関連する複数の会社が共通してもっている部分(経理や総務など)をそれぞれの社内から切り離して共同の新会社を設立し,そこで業務を請け負う形態である。
- 顧客一人一人の嗜好やニーズに合わせて個別に対応を変化させて展開されるマーケティング活動である。市場シェアの拡大よりも,顧客との好ましい関係を築き,長期にわたって自社製品を購入する顧客の割合を高めることに重点を置くことで,一人の顧客から得られる生涯利益を最大化することを目的としている。ワントゥワンマーケティングを展開するには顧客一人一人の詳細かつ網羅的な情報が欠かせない。
⑧ モデル
ビジネスモデル
顧客に対して継続的に価値を提供していくための仕組みをビジネスモデルと呼ぶ。
ビジネスモデル・キャンパスは,ビジネスモデルを理解するためのフレームワークである。互いに関連し合う 9 つの要素を整理することで,ビジネスモデルの原型を考えることができる。
- 価値を提供する相手となる「顧客セグメント」(CS : Customer Segments)
- 提供する価値である「価値提案」(VP : Value Propositions)
- 価値を届ける方法や経路を表す「チャネル」(CH : Channels)
- 顧客とどのような関係を構築するのかを考える「顧客との関係」(CR : Customers Relationships)
- 収益を得る方法を表す「収益の流れ」(RS : Revenuss)
- 必要なコストを表す「コスト構造」(CS : Cost)
- ビジネスモデルを機能させるために組織が行う「主要活動」(KA : Key Activities)
- 価値提供のために必要となる資源「主なリソース」(KR : Key Resources)
- 外部委託や調達先となる「キーパートナー」(KP : Key Partners)
業務モデル
業務モデルとは,生産,販売,仕入れといったシステム化の対象業務を構成する業務機能の構造を図式化したものである。具体的には,業務の流れを整理した業務フロー図や業務機能同士の関連を表す業務機能関連図(DFD)などがある。
情報システムモデル(Model of information systems)
情報システムモデルとは,対象システムを構成する要素とそれらの相互関係の図式表現である。
(2) エンタープライズアーキテクチャ
① エンタープライズアーキテクチャの目的と考え方
EA(Enterprise Architecture:エンタープライズアーキテクチャ)は,組織全体の業務とシステムを統一的な手法でモデル化し,業務とシステムを同時に改善することを目的とした,組織の設計・管理手法であること,全体最適化を図るためのアーキテクチャモデルを作成し,目標を明確に定めることが必要であることを理解する。
アーキテクチャモデルは,業務とシステムの構成要素を記述したモデルのことで,組織全体として業務プロセス,業務に利用する情報,情報システムの構成,利用する情報技術の領域のアーキテクチャ(それぞれ,ビジネスアーキテクチャ,データアーキテクチャ,アプリケーションアーキテクチャ,テクノロジアーキテクチャと呼ばれる)を整理し,システム全体の現状と理想像を表現することを理解する。
- 政策・業務体系(Business Architecture)
- データ体系(Data Architecture)
- 適用処理体系(Application Architecture)
- 技術体系(Technology Architecture)
ザックマンフレームワーク
1987 年ジョン・A・ザックマンによって提唱された EA の基礎となっているフレームワークで,5 種類の異なる立場の視点とそれぞれの 5W1H(What,How,Where,Who,When,Why)の側面から分析・記述する手法である。
As-is モデル
現状を分析した現状モデルである。
To-be モデル
業務と情報システムの理想を表すモデルである。
As is / To be は,あるべき理想の姿「To be」と,現状「As is」を整理し,そのギャップ(問題)を分析するために活用されるフレームワークである。
参照モデル
EA 策定のひな型となるモデルを参照モデルと呼ぶ。EA の階層ごとに参照モデルが定められている。
BA | BRM (Business Reference model) | ビジネス参照モデル。業務分類に従った業務体系・システム体系と各種業務モデルから成る,組織全体で業務やシステムの共通化の対象領域を洗い出すためのモデル。 |
---|---|---|
DA | DRM (Data Reference model) | データ参照モデル。情報の再利用・統合を促進するためのモデル。 |
AA | SRM (Service Component Reference model) | サービスコンポーネント参照モデル。アプリケーションの再利用を促進するためのモデル。 |
TA | TRM (Technical Reference model) | 技術参照モデル。組織全体での技術の標準化を促進するモデル。 |
参照モデルの中で最も業務に近い階層として提供される,業務分類に従った業務体系・システム体系と各種業務モデルは,BRM(Business Reference Model)である。
EAI(Enterprise Application Integration)
EAI とは,企業内で個別に設置・運用されていた業務システム間を連携させ,データやプロセスを統合して一体的に運用すること。また,そのような機能を提供するソフトウェアやシステムなど(EAIツール)。
一般的な EAI 製品は,各システムへ接続するインターフェースとなる「アダプタ」,データ形式や通信規約などの違いを吸収する「フォーマット変換」,データの送り先を制御する「ルーティング」,これらを組み合わせて業務に合わせたプロセスを構築する「ワークフロー」(プロセス制御)などの機能で構成される。
多くの製品では著名な業務用パッケージソフトのアダプタをあらかじめ内蔵していることが多く,標準では対応していないシステム向けのアダプタを開発して後から追加する機構を備えている。主要な操作のほとんどをグラフィック表示の分かりやすい画面で行い,個別のプログラム開発を極力排除する「ノンコーディング」を売りにする製品が多い。
演習問題
エンタープライズアーキテクチャを説明したものはどれか。
- 今まで開発してきた業務システムをビジネス価値とソリューション品質の 2 軸で分析し,業務システムごとの改善の方向性を決定する。
- 既存の業務と情報システムの全体像及び将来の目標を明示することによって,IT ガバナンスを強化し,経営の視点から IT 投資効果を高める。
- 財務,顧客,内部ビジネスプロセス,学習と成長の四つの視点から評価指標を設定し,IT 投資による組織全体への効果を的確に管理する。
- 情報システムの開発・保守とその組織運営の現状を調査し,ソフトウェアプロセスの成熟度を評価して,プロセス改善の方向を決定する。
正解は,2. である。
演習問題
業務のあるべき姿を表す論理モデルを説明したものはどれか。
- 企業における主要機能を明確にして,現状の業務機能を分析し,体系化したもの
- 経営目標の達成に必要な業務機能を定義し,体系化したもの
- 現状の業務機能と情報システムでの処理を分析し,相互の関係を明確化したもの
- 本来あるべき業務機能と現状を比較して,その差異を分析し,評価したもの
正解は,2. である。新論理モデルは,現論理モデルに経営目標を達成するための業務機能を加えて再定義したモデルである。
② ビジネスアーキテクチャ
BA(Business Architecture:ビジネスアーキテクチャ)は,政策・業務の内容,実施主体,業務フロー等について,共通化・合理化など実現すべき姿を体系的に示したもの。
業務説明書
システム化業務説明書は,利用者とシステム間の相互作用に関する仕様書である。機能とシステム利用作業の内容を明確にし,発注者との齟齬をなくす。
DFD (Data Flow Diagram)
DFD などを用いた構造分析では,現物理モデル → 現論理モデル → 新論理モデル → 新物理モデル の順でシステムのモデル化を行う。
エンタープライズアーキテクチャ(EA)のビジネスアーキテクチャで機能情報関連図(DFD)を作成する目的は,業務・システムの機能と情報の流れを明確にすることである。
WFA(Work Flow Architecture:業務流れ図)
業務流れ図(WFA)とは,業務を構成する「機能」と「情報」の実現手段について明らかにするための図である。WFA では,個々の「機能」の実現手段(手作業,システム処理など),「情報」の実現手段(紙媒体,データ・ファイル,等),各手段を所管する組織,手段が実行される場所,手段の実施順序などを 1 つの図の中で示す。
UML (Unified Modeling Language)
UML とは,オブジェクト指向のソフトウェア開発において,データ構造や処理の流れなどソフトウェアに関連する様々な設計や仕様を図示するための記法を定めたもの。ソフトウェアのモデリング言語の標準としてとして最も広く普及している。
ビジネスプロセスを UML で記述する際に使用する図法とその用途を次表に示す。
図法 | 記述用途 |
---|---|
クラス図 | モデル要素の型,内部構造,他のモデル要素との関連を記述する。 |
ユースケース図 | システムが提供する機能単位と利用者の関連を記述する。 |
ステートチャート図 | イベントの反応としてオブジェクトの状態遷移を記述する。 |
コラボレーション図 | オブジェクト間のメッセージの後進と相互作用を記述する。 |
③ データアーキテクチャ
DA(Data Architecture:データアーキテクチャ)は,各業務・システムにおいて利用される情報すなわちシステム上のデータの内容,各情報(データ)間の関連性を体系的に示したもの。
データ定義表
データ定義表とは,分析対象とした業務に関する情報システムがある場合,その業務を構成する「情報」が,情報システム上のマスターファイルやデータベースで,どのような形で管理されているかについて示すための表である。
表中の各項目には次表の内容を書き入れる。
項目名 | 記載内容 |
---|---|
エンティティ | 一連のデータ項目で表現する「ヒト,モノ,カネ」などの存在や概念の名称 |
項目名 | データ項目の論理的な名称及び物理的な名称 |
型/ドメイン | データ項目のデータ型(文字型,日付型など) |
長さ | データ項目の桁数 |
必須 | そのデータ項目が必須であるか,任意であるかの区別 |
PK/FK | そのデータ項目がマスターファイルやテーブルのキー項目であるかの区別。主キーの場合は「PK」,外部キーの場合は「FK」 |
説明 | そのデータ項目の概要の説明 |
情報体系整理図(UML のクラス図)
情報体系整理図は,業務の対象となる物理的存在(ヒト,モノ,カネ)と事象(イベント)との関係を,UML クラス図の形式で示す。
情報体系整理図の中心には,対象とする「業務」が置かれる。「業務」の上には,その業務の対象となる物理的存在(ヒト,モノ,カネ)が置かれる。一方,「業務」の下には,その業務で発生する事象(イベント)が置かれる。
E-R 図
E-R 図の E はエンティティ(Entity)の略で,R はリレーションシップ(Relationship)の略である。つまり E-R 図は「エンティティ=モノ」と「リレーションシップ=関係」の組み合わせでシステムのデータやデータ間の処理構造を設計する。例として「顧客が商品を注文する」という処理を E-R 図で表すと以下のようになる。
④ アプリケーションアーキテクチャ
AA(Application Architecture:アプリケーションアーキテクチャ)は,業務処理に最適な情報システムの形態を体系的に示したもの。
情報システム関連図
情報システム関連図は,情報システムの刷新化を検討する際に現行の情報システム間の連携状況を把握した上で,刷新化への制限事項(データ連携の必要性等)を提示する場合などに利用する。
情報システム機能構成図
情報システムの機能を一覧形式で記述したもので,記述する内容は以下のとおり。
- システム機能名
- システム詳細機能名
- 機能概要説明
- システム機能と DFD との関連
SOA (Service Oriented Architecture)
SOA は,業務上の一処理に相当するソフトウェアで実現されている機能や部品を独立したサービスとし,それらを組み合わせ連携させることで言語やプラットフォームに依存せずにシステムを構築するという手法,またはそのことを指す用語である。
SOA では,機能単位の組み合わせでシステムを構築するので,ソフトウェアコンポーネントの再利用や機能の入替え,システムの再構築がしやすいという特徴がある。
SOA を実現する手段として,Web サービスや ESB(Enterprise service bus),CORBA を用いた分散オブジェクトシステムなどが使われる。
⑤ テクノロジアーキテクチャ
TA(Technology Architecture:テクノロジアーキテクチャ)は,実際にシステムを構築する際に利用する諸々の技術的構成要素(ハード・ソフト・ ネットワーク等)を体系的に示したもの。
ネットワーク構成図
ネットワーク構成図は,ネットワークに関する情報をまとめた構成図で,端末やサーバに割り振られる IP アドレス,VLAN や Path の情報などを中心に記されている。
(3) プログラムマネジメント
プログラムマネジメントとは,同時並行的に進められている複数のプロジェクトを組合せ,それらの相互関係を最適化することで,全体として使命をより良く達成するように導く活動である。ここで言う「プログラム」とは,相互に関連する複数のプロジェクトを要素としてもつ集合体を指す。PMBOK ガイド第 5 版では「プログラムの戦略目標と成果価値を達成するためにプログラム全体の調和を保ちつつ一元的にマネジメントすること」と定義されている。
つまり,活動全体を複数のプロジェクトの結合体と捉え,複数のプロジェクトの連携,統合,相互作用を通じて価値を高め,組織全体の戦略の実現を図る。
PMO(Program Management Office:プログラムマネジメントオフィス)
リスクを最小化するように支援する専門組織を設けることによって,組織全体のプロジェクトマネジメントの能力と品質の向上を図る。
(4) オーナ
CIO(Chief Information Officer : 最高情報責任者)
情報システムから価値を得るためには,IT に関する専門的知識が求められることから,経営陣は CIO を任命し,必要な権限を委譲する。そのため,CIO も経営陣に含まれる。
(5) フレームワーク
SLCP-JCF(共通フレーム)
共通フレーム 2013 によれば,システム化構想の立案プロセスで実施するタスクは,市場,競争相手,取引先,法規制,社会情勢などの事業環境,業務環境を分析し,事業目標,業務目標との関係を明確にする。
KGI(Key Goal Indicator : 重要目標達成指標)
KGIとは,組織やプロジェクトが達成すべき目標を指し示す定量的な指標。抽象的な理念や目的のようなものではなく,数値や客観的な状態として測定や認識が可能なものを用いる。
KPI(Key Performance Indicator : 重要業績評価指標)
KPI とは,目標の達成度合いを計るために継続的に計測・監視される定量的な指標。組織や個人が日々活動,業務を進めていくにあたり,「何をもって進捗とするのか」を定義するために用いられる尺度のこと。
(6) 品質統制
品質統制フレームワーク
管理プロセス
(7) 情報システム戦略実行マネジメント
モニタリング指標
差異分析
リスクへの対応
業務プロセス
- 業務プロセスの改善と問題解決に関する考え方,代表的な手法を修得し,適用する。
(1) 業務プロセスの改善と問題解決
① 業務プロセスの改善と問題解決
RPA (Robotics Process Automation)
機械学習などを活用したホワイトカラーの定型作業を自動化する技術。コンピュータ上の社内アプリケーション,インターネットブラウザ,Excel など複数の画面にわたる業務操作を学習し,ソフトウェアロボットが人間と同じように操作して,月末の経理処理などの大量事務処理の効率化を実現する。開発スキルが不要で Excel のマクロ程度の知識で対応できるのが一般的である。
② ビジネスプロセスマネジメント
BPM(Business Process Management)は,業務分析,業務設計,業務の実行,モニタリング,評価のサイクルを繰り返し,継続的なプロセス改善を遂行する経営手法である。
SFA(Sales Force Automation)
営業支援を目的とした情報システムを指す。もともとは,離職率が高く個人間のスキルのばらつきが大きい営業部において,営業プロセスを標準化し底上げを図る目的で導入された。今では,顧客管理(CRM)やデータベースマーケティング,ビジネスインテリジェンス(BI)などの機能も取り込まれ,営業活動の効率化やチームセリングをサポートする目的で導入されることも多い。
ワークフローシステム
りん議や決裁など,日常の定型的業務を電子化することによって,手続を確実に行い,処理を迅速化する。
③ ビジネスプロセスリエンジニアリング
BPR(Business Process Reengineering)とは,顧客の満足度を高めることを主目的とし,最新の情報技術を用いて業務プロセスを抜本的に改革することである。品質・コスト・スピードの三つの面から改善し,競争優位性を確保する。
④ ビジネスプロセスアウトソーシング
BPO(Business Process Outsourcing)とは,企業などが自社の業務の一部または全部を,外部の専門業者に一括して委託することである。業務を外部に出すことで,経営資源をコアコンピタンスに集中できる。海外の事業者や子会社に開発をアウトソーシングするオフショア開発も一般的である。
⑤ 業務プロセスの可視化の手法
業務プロセスを可視化するための手法には様々なものがある。業務流れ図(WFA : Work Flow Architecture), BP 図(BPD : Business Process Diagram),E-R 図(ERD : Entity Relationship Diagram)などの手法を用いる。また,データの流れを記述するための DFD(Data Flow Diagram)の手法を用いることもある。これらによって業務プロセスを把握,分析して,問題点を発見し,業務改善の提案を行う。
E-R モデル
対象をエンティティとその属性及びエンティティ間の関連で捉え,データ中心アプローチの表現によって図に示す。
UML(Unified Modeling Language)
ユーザ要求やソフトウェアの構造,機能について,図や記号を多用し表現するためのモデリング言語。曖昧さを極力排除し,言葉では表現しにくい時間的な遷移なども図で記述できるのが特徴である。UML 2.0 以降では,静的な側面を記述するクラス図やコンポーネント図,動的な側面を記述するアクティビティ図やユースケース図など 13 種類のダイアグラムが定義されている。
UML は,複数の観点でプロセスを表現するために,目的に応じたモデル図法を使用し,オブジェクトモデリングのために標準化された記述ルールで表現する。
- 構造図
- システムの静的な構造をモデルで表現する。
クラス図,コンポジット構造図,コンポーネント図,配置図,オブジェクト図,パッケージ図 - 振る舞い図
- システムの振る舞いをモデルで表現する。
アクティビティ図,ユースケース図,シーケンス図,インタラクション概念図,コラボレーション図,タイミング図,ステートマシン図
クラス図は,クラス,属性,クラス間の関係からシステムの構造を記述する静的な構造図である。
アクティビティ図は,上流行程のビジネスプロセスの流れや下流行程のプログラムの制御フローなどシステムの流れを表せるフローチャートの UML 版である。
ユースケース図は,UML の中でもシステムの振る舞いを表現する図で,システムに要求される機能を,ユーザの視点から示した図である。ユースケース図を有効に活用することにより,システムの全体像を開発者とユーザが一緒に評価しやすくなる利点がある。
DFD (Data Flow Diagram)
データの流れによってプロセスを表現するために,データ送出し,データ受取り,データ格納域,データに施す処理を,データの流れを示す矢印でつないで表現する。
BPD (Business Process Diagram)
プロセスの機能を網羅的に表現するために,一つの要件に対し発生する事象を条件分岐の形式で記述する。
IDEAL
IDEAL とは,開始,診断,確立,行動,学習の五つのフェーズからなる循環的なプロセス改善手法である。
フェーズ | 説明 |
---|---|
開始 | 改善の動機づけを行い,支援体制や活動体制を確立する |
診断 | 現状と改善後の状態を比較し,改善ポイントを明らかにする |
確立 | 診断結果に基づいて改善活動の優先順位を設定し,具体的な改善計画を作成する |
行動 | 改善計画に従って改善を実施する |
学習 | 改善活動を分析して妥当性を確認し,より効率的な方法の提案などを行う |
ソリューションビジネス
- ソリューションビジネスの考え方,代表的なサービスを修得し,適用する。
(1) ソリューションビジネス
ソリューションビジネスでは,顧客の経営課題を解決するサービスを提案するので,業種別,業務別,課題別の様々なサービスがある。代表的なソリューションサービスの形態として,クラウドコンピューティング,アウトソーシングサービス,ホスティングサービス,ERP パッケージ,CRM ソリューションなどが挙げられる。
ソリューション
ソリューションプロバイダ
業務システム提案
業務パッケージ
問題解決支援
システムインテグレーション
(2) ソリューションサービスの種類
① クラウドサービス
クラウドサービス(SaaS,PaaS,IaaS など)
業者が保有するアプリケーションソフトウェアの機能やサーバなどのシステム資源を,インターネットを介して利用する仕組みのことで,次表のようなサービスがある。自社で環境整備やソフトウェアなどを導入する必要がないため,設備投資費用や管理費用の削減が可能となる。
サービス | 内容 |
---|---|
SaaS | Software as a Service ソフトウェアをインターネットを通じて遠隔から利用者に提供する方式。利用者はWebブラウザなどの汎用クライアントソフトを用いて事業者の運用するサーバへアクセスし,ソフトウェアを操作・使用する。従来「ASPサービス」と呼ばれていたものとほぼ同じもの。 |
PaaS | Platform as a Service ソフトウェアの実行環境をインターネット上のサービスとして遠隔から利用できるようにしたもの。また,そのようなサービスや事業モデル。 |
IaaS | Infrastructure as a Service 情報システムの稼動に必要なコンピュータや通信回線などの基盤(インフラ)を,インターネット上のサービスとして遠隔から利用できるようにしたもの。また,そのようなサービスや事業モデル。 |
クラウドサービスを図にすると,次のようなかたちになる。
クラウドサービスの利用手順
クラウドサービスの利用手順を,① 利用計画の策定,② クラウド事業者の選定,③ クラウド事業者との契約締結,④ クラウド事業者の管理,⑤ サービスの利用終了とする。
① 利用計画の策定において,利用者は,クラウドサービスの利用目的,利用範囲,利用による期待効果を検討し,クラウドサービスに求める要件やクラウド事業者に求めるコントロール水準を定める。
② クラウド事業者の選定において,複数あるクラウド事業者のサービス内容を比較検討し,自社が求める要件及びコントロール水準が充足できるかどうかを判定する。
企業の情報セキュリティポリシやセキュリティ関連の社内規則と,クラウドサービスで提供される管理レベルとの不一致の存在を確認する。
③ クラウド事業者との契約締結において,クラウド事業者との間で調整不可となる諸事項については,自社による代替策を用意した上で,クラウド事業者との間でコントロール水準を SLA などで合意する。
④ クラウド事業者の管理において,クラウド事業者が SLA などを適切に遵守しているかモニタリングし,また,自社で構築しているコントロールの有効性を確認し,改善の必要性を検討する。
プロビジョニング
プロビジョニング(provisioning)とは,設備やサービスに新たな利用申請や需要が生じた際に,資源の割り当てや設定などを行い,利用や運用が可能な状態にすること。対象や分野によってサーバプロビジョニング,ユーザープロビジョニング,サービスプロビジョニングなどがある。
クラウドサービスなどの提供を迅速に実現するためのプロビジョニングは,利用者の需要を予想し,ネットワーク設備やシステムリソースなどを計画的に調達して強化し,利用者の要求に応じたサービスを提供できるように備えることである。
SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)
SOA (Service Oriented Architecture) は,従来ソフトウェアで実現されていた機能や部品を独立したサービスとして公開し,それらを組み合わせてシステムを構築するという考え方である。サービスという単位で扱うことでシステムの統合や再利用がしやすいメリットがある。
② その他のソリューションサービス
アウトソーシングサービス
ホスティングサービス
ハウジングサービス
ソフトウェアパッケージの適用サービス
オンプレミス(On-premises)
業務アプリケーションを,自社内(On-premises)で保有するコンピュータ上に導入して運用する形態を指す。略して「オンプレ」と呼ぶ。企業が,大型コンピュータやオフィスコンピュータを用いて業務アプリケーションを運用していた時代には,唯一の選択肢であったが,クラウドコンピューティングの普及,SaaS の提供機能の充実にともない,マーケットシェアを SaaS に奪われつつある。SaaS に比べ運用保守に手間がかかり,要員の確保が必要,初期導入やバージョンアップ時の費用負担が大きいなどの点で不利であるが,パフォーマンスやセキュリティレベルの要求度が高い企業では,引き続きオンプレミスが有利となっている。
CRM ソリューション
セキュリティソリューション
業務パッケージ
ERP パッケージ
システム活用促進・評価
- 情報システム活用促進,評価の考え方を修得し,適用する。
- 情報システムに蓄積されたデータを分析して,事業戦略に活用することの重要性,考え方を修得し,適用する。
- 情報システムの利用実態を評価,検証して,改善に結びつけることの重要性,考え方を修得し,適用する。
- 情報システム廃棄の考え方を修得し,適用する。
情報システムを有効に活用し,経営に活かすために,情報システムの構築時から活用促進活動を継続的に行う。
(1) システム活用促進・評価
① システム活用促進と評価の目的と考え方
BYOD(Bring Your Own Device)
組織内で適正にスマートデバイスを使用していることを認識し,それを許可,または特に禁止していないことを BYOD(Bring Your Own Device)という。同じ機器内で個人で利用する部分と業務で利用する部分を分ける必要があり,会社貸与のスマートデバイスよりも複雑な管理が求められる。
メリット | デメリット | |
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利用者観点 |
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管理者視点 |
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チャットボット
チャットボットとは,"チャット" と "ロボット" を組み合わせた言葉で,相手からのメッセージに対してテキストや音声でリアルタイムに応答するようにプログラムされたソフトウェアである。利用者の問いかけを認識して最適な答えを判断するために,内部には人工知能の技術が使われている。
機械学習や AI の進化に伴ってチャットボットも進化しており,人件費の削減を図るために EC サイトやカスタマーサポートに活用されることが増えてきている。
② デジタルリテラシ
IT リテラシー
メディアリテラシー
セキュリティ意識
③ 普及啓発
PC やインターネットなどの利用においては,使いこなせる人と使いこなせない人に生じる格差(ディジタルディバイド)ができてしまいがちである。そのため,情報システムを活用するためには,各人に合わせた教育・訓練の実施などで,全社員のコンピュータリテラシ(コンピュータを活用する能力)を向上させるための普及啓発活動を行う必要がある。また,人材育成計画を立て,講習会などを開いて利用方法を説明する。
利用者用文書類(利用者マニュアル)
業務マニュアル
e-ラーニング
講習会
人材育成計画
ゲーミフィケーション
デジタルディバイド
④ 情報システム利用実態の評価・検証
投資対効果分析
利用者満足度
モニタリング
ログ分析
ログ監視
第三者評価・検証
学習マネジメントシステム
⑥ 情報システム廃棄
システムライフサイクルの最後には,情報システムを廃棄する必要がある。廃棄の際は,システムを最終の状態にし,起動不能にする,解体する,データを消去するなどの作業を行う。このとき,単純にデータを消すだけではディスク上に残ることがあるので,無意味なデータを上書きするなどの作業が必要である。
システムライフサイクル
情報セキュリティポリシー
データの消去
本稿の参考文献
- 克元 亮,「新版 IT コンサルティングの基本」
- 「システム管理基準」,経済産業省,平成30年4月20日
- 業績評価参照モデル(PRM)を用いた IT ポートフォリオモデル 活用ガイド
- NIST によるクラウドコンピューティングの定義
- 「IT 投資価値評価ガイドライン(試行版)について」,2007年3月,経済産業省委託調査 (社)日本情報システム・ユーザー協会