経営戦略マネジメント

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目次

応用情報技術者試験(レベル3)シラバス-情報処理技術者試験における知識・技能の細目- Ver. 7.0 に基づき,「経営戦略マネジメント」の対策ノートを作成した。

本稿は,IT ストラテジスト試験 午前 Ⅱ 対策としても活用できるようにしている。

経営戦略手法

  • 経営戦略の目的,考え方,経営戦略の階層を修得し,適用する。
  • 全社戦略,事業戦略の目的,考え方,代表的な経営戦略・手法を修得し,適用する。

(1) 経営戦略

企業理念,企業戦略,ビジネス戦略,競争戦略,機能別戦略,多角化,シナジー効果,規模の経済,範囲の経済,イノベーション,チェンジマネジメント,ADKAR(Awareness(認知),Desire(欲求),Knowledge(知識),Ability(能力),Reinforcement(定着))モデル,ダイナミックケイパビリティ,ベンチマーキング,ベストプラクティス,SDGs,コ・クリエーション戦略,IP ランドスケープ,サーキュラーエコノミー(循環経済),VUCA,TCFD(Task Force on ClimaterelatedFinancial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)開示

企業が,経営活動によって利益を上げて継続的に存続・成長していくためには,さまざまな状況の変化にうまく対応しながら競合他社との競争に勝ち抜いていかなくてはならない。そのため,自社と競合他社との位置付けや自社の現状を分析し,さらに将来の変化を見据えて中長期的な視点で経営戦略を策定する必要がある。

経営戦略では,最初に達成すべき「目標」を定める。また,戦略の実施に当たっては,目標を達成するための「手段」と,その手段が適切に実施されているかを測定できるように「指標」を定める。

企業理念

企業の存在意義とあり方を言語化したもの。

シナジー効果

相乗効果ともいわれ,2 つ以上の要素が組み合わさることで,それぞれの単体で得られる効果の合計よりも大きな効果を得ることをいう。

規模の経済(スケールメリット)

同一製品を生産するとき,生産規模を拡大するほど生産性や経済効率が向上し,利益率が高くなること。

範囲の経済

共通の生産設備を使って生産する製品の種類を増やしたり,同一の顧客に提供する商品範囲を広げることで,費用を節減しながら収入を増やせる経済的効果。

イノベーション

一般的に革新的な新事業(イノベーション)を起こすには,経営者の強いコミットメントの下に,社員が自由闊達に働ける環境や,多彩な人材との協働を推進する体制を整備する必要がある。

ベンチマーキング

ベンチマーキングは,自社の製品・サービス及びプロセスを定量的・定性的に測定し,それを業界で最も成功を収めている企業(ベスト企業)のものと比較し,そのギャップを把握する分析手法である。

ベストプラクティス

ベンチマーキングにより明らかになったギャップを埋めるために,ベスト企業のベストプラクティスを参考に業務改善を進めていく。

デジタルトランスフォーメーション(DX)

最初に DX(Digital Transformation)の概念を提唱したのは,スウェーデン ウメオ大学のエリック・ストールマン教授といわれている。経済産業省が 2018 年 12 月に発表した『DX 推進ガイドライン』によると,DX は次のように定義される。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し,データとデジタル技術を活用して,顧客や社会のニーズを基に,製品・サービス,ビジネスモデルを変革するとともに,業務そのものや,組織,プロセス,企業文化・風土を変革し,競争上の優位性を確立すること。

経済産業省が取りまとめた『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』(DX 推進ガイドライン)によると,経営戦略・ビジョンの提示について次のことが問われている。

想定されるディスラプション(「⾮連続的(破壊的)イノベーション」)を念頭に,データとデジタル技術の活用によって,どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス創出,即時性,コスト削減等)を生み出すことを目指すか,そのために,どのようなビジネスモデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンが提示できているか。

DX の定義
図 DX の定義

経済産業省が策定した “「DX 推進指標」とそのガイダンス” において,DX 推進指標は,次のように説明されている。

経営者や社内関係者が,データとデジタル技術を活用して顧客視点で新たな価値を創出していくために,現状とあるべき姿に向けた課題・対応策に関する知識を共有し,必要なアクションをとるための気付きの機会を提供することを目指すもの

SDGs

持続可能な開発目標(SDGs : Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」に記載された,2030 年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17 のゴール・169 のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGs は発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいる。

(2) 全社戦略

① 全社戦略の策定

ドメイン,資源配分,競争優位,経験曲線,CS(Customer Satisfaction:顧客満足),グループ経営,コアコンピタンス,アウトソーシング,M&A(Mergersand Acquisitions),TOB(Take Over Bid:公開買付け),エコシステム,アライアンス,シェアードサービス,ベンチャービジネス,クラウドファンディング,インキュベーター
コアコンピタンス

コアコンピタンス(Core Competence)とは,長年の企業活動により蓄積された他社と差別化できる,または競争力の中核となる企業独自のノウハウや技術のことである。コアコンピタンスに該当する技術には,「様々な市場に展開可能」「競合他社による模倣が困難」「顧客価値の向上に大きく寄与する」などの共通性質がある。

コアコンピタンスの例としては「ホンダのエンジン技術」「ソニーの小型化技術」「トヨタの生産管理方式」(競合他社よりも効率性が高い生産システム)などがよく挙げられる。

アウトソーシング

情報システムのアウトソーシングとは,外部の企業に,情報システムの開発,運用,保守などに関するすべて又は一部の業務を委託することである。

M&A

M&A は合併(Mergers)と買収(Acquisitions)を組み合わせた言葉で,他社を自社に吸収合併したり,他社の株式を多く取得し買収することで子会社化することである。事業の多角化,企業グループの再編,事業統合などの目的で実施される。

M&A は,合併する側とされる側の企業間の関連によって「垂直統合型」「水平統合型」及び「混合型」などに分類される。

垂直統合型
生産を行う工場が「部品工場」や「営業会社」等のサプライチェーンの上流や下流にある工程を企業グループに統合することで市場競争力や資材の供給力を高める形の M&A。例として,製鉄メーカによる鉄構石採掘会社の買収・合併がある。
水平統合型
同業他社を買収する形の M&A。市場シェアや事業規模を拡大する目的などで実施される。例として,銀行による保険会社の買収・合併,自動車メーカによる軽自動車メーカの買収・合併がある。
混合型
異業種との合併となる M&A。新規分野・新規市場に進出する目的などで実施される。例として,電気メーカによる不動産会社の買収・合併がある。
TOB(Take Over Bid : 株式公開買付)

TOB とは,ある企業の経営支配権を獲得するためにその企業の株式を大量に取得する方法である。一定の価格で一定の期間に一定の数の株式を買い取ることを表明し,不特定多数の株主から株式市場外において株式を買い取るものである。

LBO (Leveraged BuyOut)

LBO (Leveraged BuyOut) は,M&A の手法の一つである。

買収先企業の資産などを担保に,金融機関から資金を調達するなど,限られた手元資金で企業を買収する。

インキュベータ

インキュベータは,起業に関する支援を行う事業や,その仕組みなどを指す。語源は「孵化器」であり,会社の卵(起業家)の孵化を支援することからきている。

カーブアウト

自社の事業の一部を戦略的に切り出し,埋もれた技術や人材を社外の別組織として独立させること。

② プロダクトポートフォリオマネジメント

経営資源配分の最適化,市場成長率,相対的市場シェア,問題児,花形製品,金のなる木,負け犬

プロダクトポートフォリオマジメント(PPM)は,縦軸と横軸に「市場成長率」と「市場占有率」を設定したマトリクス図を 4 つの象限に区分し,市場における製品の位置づけを分析することで,経営資源の最適な配分を検討する手法である。「相対的マーケットシェア」と「市場成長率」で事業の位置付けを定量的に評価し,各事業の方針と資金の流れを明確にした。

この手法は,ボストン・コンサルティング・グループが 1970 年代の終わり頃に作った。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)
図 プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)

4 つの領域は,成長性も収益性も高い象限を花形(star),成長性は低いが収益性が高い象限を金のなる木(cash cow),成長性は高いが収益性が低い象限を問題児(problem child),収益性も成長性もダメな象限を負け犬(dog)と呼ばれており,次表に示すような特徴がある。

表 プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)の 4 つの領域
名称 内容
花形 市場成長率と市場占有率が高く,大きな収益をもたらす一方で,市場の成長への対応と占有率維持に追加投資が必要なため,より収益性の高い金のなる木へ移行する必要がある。
金のなる木 市場の成熟により成長率は低いが,市場占有率は高いため,追加投資を抑えて収益を確保することができる。金のなる木の収益を他の問題児や花形へ投資して,別の収益源を育成する必要がある。
問題児 市場占有率が低く収益も低いが,市場成長率は高いため,追加投資で市場占有率を高めることにより花形へと移行させる必要がある。だが,市場成長率が低下すると,負け犬となる可能性もある。
負け犬 投資する必要性はほとんどない。将来的な撤退を検討する。

マトリックス表を用いたポートフォリオ類型によって,事業計画や競争優位性の分析を行う目的は,目標を設定し,資源配分の優先順位を設定するための基礎として,自らの置かれた立場を評価することである。

演習問題

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)において,投資用の資金源と位置付けられる事業はどれか。

  1. 市場成長率が高く,相対的市場占有率が高い事業
  2. 市場成長率が高く,相対的市場占有率が低い事業
  3. 市場成長率が低く,相対的市場占有率が高い事業
  4. 市場成長率が低く,相対的市場占有率が低い事業
(出典)平成26年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午前2 問8,平成25年度 春期 応用情報技術者試験 午前 問67

正解は,3. である。投資用の資金源となるのは,安定した収益が見込める「金のなる木(成長率:低,占有率:高)」に位置する事業である。

(3) 事業戦略

① 競争戦略の策定

ファイブフォース分析(既存競合者同士の敵対関係,新規参入の脅威,代替製品・代替サービスの脅威,買い手の交渉力,供給者の支配力),競争の基本戦略(コストリーダーシップ戦略,差別化戦略,集中戦略),同質化戦略,ブルーオーシャン戦略,ESG 投資
ファイブフォース分析(Five Forces Analysis)

ファイブフォース分析は,マイケル・ポーターが提唱したフレームワークで,企業を取り巻く業界構造を把握する手法である。

  • 既存競合者同士の敵対関係(内部要因)
  • 新規参入の脅威(外部要因)
  • 代替製品・代替サービスの脅威(外部要因)
  • 買い手の交渉力(内部要因)
  • 供給者の支配力(内部要因)

ファイブフォース分析は,業界構造を業界内で激化する五つの要因を用いて,下図によう説明している。それぞれの力の強さ,企業の関係性を分析することにより,業界構造の特徴を明らかにする。

ファイブフォース分析
図 ファイブフォース分析

マイケル・E・ポーターが提唱した 3 つの競争戦略は,コストリーダシップ戦略,差別化戦略,集中戦略である。

コストリーダシップ戦略

コストリーダシップ戦略は,競合他社と比較して徹底的に低いコストの地位を確立することを目指す低価格化戦略である。例えば,増産により原価を低減させ,販売価格を下げることで販売量を増やす,という戦略である。

差別化戦略

製品やサービスに競合が持たない機能や特徴を付けることで差別化し,市場シェアを獲得する戦略である。

集中戦略

特定の顧客層や地域など,ある程度限定された市場へ経営資源を集中し,その中でシェアを獲得する戦略である。

ブルーオーシャン戦略

これまでにない製品やサービスを提供して新しい市場を開拓する戦略。競争が激しい成熟した市場を「レッドオーシャン」,未開拓な市場を「ブルーオーシャン」と呼ぶ。

従来からよく知られているマイケル・ポーターの競争戦略が,「事業が成功するためには低価格戦略か差別化(高付加価値)戦略のいずれかを選択する必要がある」としているのに対し,ブルーオーシャン戦略では,低コストと顧客にとっての高付加価値は両立し得ると主張している。

ブルーオーシャン戦略の特徴は「価値を高めながら,コストを押し下げる」である。

ブルーオーシャン
競争相手のいない平和な市場。競争相手が少ないので,企業は利益を上げやすい。
レッドオーシャン
既存企業が激しく競争している市場(複数の企業が血みどろの競争を繰り広げている市場)

② SWOT 分析

外部環境,内部環境,クロス SWOT 分析

外部環境,内部環境の分析手法を下図に示す。

外部環境分析と内部環境分析
図 外部環境分析と内部環境分析
クロス SWOT 分析

アルバート・ハンフリーが提唱したフレームワークで,マーケットにおいて,自社のビジネスチャンスを発見するため,自社を取り巻く環境と,自社内部の状況を MECE に考えるためのフレームワーク。

自社の特性について,Strengths(強み),Weakness(弱み),Opportunities(機会),Threats(脅威)の 4 つの視点で分析する。

表 SWOT 分析
プラスとなる要因 マイナスとなる要因
内部の要因 強み(自社の特徴や優位点)
→ 強みを活かす
弱み(自社の課題や問題点)
→ 弱みを克服して強みに転換
外部の要因 機会(自社にとって有利な傾向)
→ 機会を利用する
脅威(自社にとって不利な傾向)
→ 脅威を回避または防御

SWOT 分析の例としては,主力製品の市場での機会と脅威を見つける外部分析と,主力製品の強みと弱みを見つける内部分析がある。

③ VRIO 分析

Value(経済的価値) , Rarity (希少性), Imitability (模倣可能性),Organization(組織)

VRIO(ブリオ)分析とは,自社の競合優位性や経済資源を把握する際に活用されるフレームワークのことである。自社の経営資源が競合と比べてどれだけ優位性があるかを分析するために用いられます。アメリカの経営学教授のジェイ・B・バーニー氏が提唱した。

Value(経済的価値)

Value は,経営資源の経済的価値を評価する項目である。消費者や顧客,ユーザーが求める価値を提供できているかを評価する。

Rarity (希少性)

Rarity は,経営資源が競合と比較してどれだけ独自性があるかを評価する項目である。独自性が高いほど希少性が高く,市場シェアを獲得しやすくなる。

Imitability (模倣可能性)

Imitability は,希少性に類似する項目である。競合他社がどのくらい自社の経営資源を模倣できるかを評価でき,模倣が容易でないほど希少性も高く,市場優位性が高まる。

Organization(組織)

Organization は,経営資源を活用し続ける組織能力を評価する項目である。持続的な競争優位性が確保できる状態かを判断できる。

④ バリューチェーン分析

価値活動,調達,製造,販売,サービス,付加価値,コスト,外部資源活用,バリューチェーン再設計

バリューチェーンは,マイケル・ポーターが提唱したフレームワークで,「価値連鎖」という意味のフレームワーク。

バリューチェーン(Value Chain)は,「購買した原材料等に対して,各プロセスにて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動である。」というコンセプトに基づき,企業の活動を顧客に価値を提供するための「価値の連鎖」として捉えたものである。

バリューチェーン分析は,業務を「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という 5 つの主活動と,「調達」「技術開発」「人事・労務管理」「全般管理」の 4 つの支援活動に分類し,製品の付加価値がどの部分(機能)で生み出されているかを分析する手法である。外的要因(市場の変化,ニーズ)を踏まえて競合の動きを予測し,自社の強みを整理して,精度の高い戦略を考える際に使われることが多い。

バリューチェーン分析では,総価値から価値を生み出す活動の総コストを引いたものがマージン(利益・利幅)である。すなわち,利益を高めるためには,企業活動でより多くの価値を作り出すか,価値を生み出すのに必要なコストを削減するべきと考える。

⑤ 成長マトリクス

製品・市場マトリクス,成長戦略,市場浸透戦略,市場開拓戦略,製品開発戦略,多角化戦略

ビジネスフレームワークの一つであるアンゾフの成長マトリクスは,経営学者の H・イゴール・アンゾフ(H. Igor Ansoff)が 1957 年に提唱したもので,縦軸に「市場」,横軸に「製品」をとり,それぞれに「既存」「新規」の 2 区分を設け,4 象限(市場浸透,製品開発,市場開拓,多角化)のマトリクスとしたものである。事業が成長・発展できる経営戦略を検討するために適したフレームワークである。

表 アンゾフの成長マトリクス
既存製品 新規製品
既存市場 市場浸透 製品開発
新規市場 市場開拓 多角化

企業として成長の方向性(ベクトル)を考えたとき,以下の 4 つがありえる。

市場浸透戦略
既存の市場(顧客)を相手に既存の製品で戦う
市場開拓戦略
既存の製品を新しい市場(顧客)に売り込む
製品開発戦略
既存の市場(顧客)に新しい製品を開発し売る
多角化戦略
新しい市場(顧客)に新しい製品を開発し投入する

マーケティング

  • マーケティングの目的,考え方,代表的なマーケティング手法を修得し,適用する。

(1) マーケティング理論

① マーケティング分析

3C(Customer,Competitor,Company)分析,マクロ環境分析(PEST 分析,文化的環境),市場調査(マーケティングリサーチ),STP 分析(セグメンテーション,ターゲティング,ポジショニング),コンジョイント分析,サンプリング,フィールド調査,エスノグラフィー調査,質問法,観察法,実験法,クロス集計,価格感度測定法,RFM 分析(Recency,Frequency,Monetary Analysis),消費者行動モデル(AIDMA),アサエルの購買行動類型,DEAR フレームワーク,デザイン思考,アサンプションマップ,バリュープロポジション,ブランドプロポジション,ブランドアイデンティティ
3C 分析

フィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで,企業活動を「顧客」(Customer),「競合」(Competitor),「自社」(Company)の三つの点から分析することで,漏れなく,ダブリなく市場分析できるとする。

PEST 分析

PEST 分析とは,組織によって統制不可能でありながら,企業活動に大きな影響を与える外部環境を分析するフレームワークである。Politics(政治),Economy(経済),Society(社会),Technology(技術)の頭文字をとって PEST 分析と呼ばれている。

セグメンテーション(Segmentation)

セグメンテーションは,市場をニーズや性質に応じて細分化する活動である。

例えば,市場を消費者特性でセグメント化する際,基準となる変数を,地理的変数,人口統計的変数,心理的変数,行動的変数に分類する。

表 消費者特性でのセグメント化
分類 変数
地理的変数 都市規模,人口密度など
人口統計的変数 年齢,性別,職業,家族構成など
心理的変数 性格,価値観,社会階層,パーソナリティ,ライフスタイルなど
行動的変数 購買状況,使用頻度,購買動機,ロイヤリティなど
ターゲティング(Targeting)

複数の候補の中から競争優位を得やすい自社が参入すべき市場セグメントを選定する活動である。

ポジショニング(Positioning)

市場に対して,競合と差別化した自社製品のイメージを植え付ける活動である。

セグメンテーション,ターゲティング,ポジショニングを合わせて,マーケティング戦略の STP という。

RFM 分析

RFM 分析は,顧客の購買行動のうち,Recency(最終購買日),Frequency(購買頻度),Monetary(累計購買金額)という 3 点に注目して顧客分析を行う手法である。顧客 1 人に対してそれぞれの要素を 5 ~ 7 段階でランク付けし,企業にとって価値の高い顧客層と見込みが無い顧客層というように顧客の性質ごとにグルーピングを行うことで,各グループに応じたマーケティング活動を展開することが可能になる。

RFM 分析を行う目的は,顧客をセグメント化して,そのランクに応じたプロモーション施策を行うことである。

消費者行動モデル(AIDMA)

消費者の購買決定プロセスを説明するモデル。消費者が製品を購入するまでの心理の過程を,注意(Attention) → 関心(Interest) → 欲求(Disire) → 記憶(Memory) → 行動(Action)に分け,各段階のコミュニケーション手段を検討する。

AIDMA は原則として,実店舗における購買行動をメインに考えたモデルであるため,ネット店舗での購買行動には合致しない部分がある。

消費者行動モデル(AISAS)

AIDMA の考え方をインターネットや SNS が普及した現代に当てはめたモデルである。ネット店舗で,購入,さらに拡散に至るまでには,注意(Attention) → 関心(Interest) → 検索(Search) → 行動(Action) → 共有(Share)の段階がある。

エスノグラフィー(ethnography)

元来は文化人類学,社会学の用語で,集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法及びその記録文書のことをエスノグラフィー(ethnography)という。近年は商品開発やマーケティングに欠かせない調査手法として注目されている。

マーケティング調査におけるエスノグラフィーの活用事例として,消費行動の現場で観察やインタビューを行い,気付かなかった需要を発掘する。

② マーケティングミックス

マーチャンダイジング,マーケティングの4P(Product,Price,Place,Promotion),マーケティングの 4C(Customer Value,Customer Cost,Convenience,Communication)

マーケティング戦略を実施するために使われるツールで,目標達成のために,適切なマーケティング手法を組み合わせることをいう。組合せは,一般的にマーケティングの基本要素である製品(Product),価格(Price),流通(Place),プロモーション(Promotion)であり,4P と呼ばれている。

これはジェローム・マッカーシー(Jerome McCarthy)が『ベーシック・マーケティング』(1960)で提唱した概念で,マーケティングの諸活動を網羅的に表現したフレームワークである。

もともと彼はこの 4P で,「広告ばかりにお金を使うな」「ちゃんと 4P をバランスよくミックスさせよ」と言っていたので,「マーケティング・ミックス(MM)」とも呼ばれている。

製品戦略(Product)
製品の品質,ブランド戦略を中心に考える。
価格戦略(Price)
価格設定,原価など,金銭面を中心に考える。
流通戦略(Place)
輸送,在庫,調達方法など,流通面を中心に考える。
プロモーション戦略(Promotion)
広告や広報活動を中心に考える。

4P に対して,買い手の視点から再定義したものが 4C である。そのため,4P(売り手側でのマーケティング要素)と 4C(買い手側での要素)は,それぞれの要素が下表のように対応している。

表 マーケティングミックスにおける 4P と 4C
4P 4C
Product(製品) Customer Value(顧客価値)
Price(価格) Customer Cost(顧客コスト)
Place(場所) Convenience(利便性)
Promotion(販売促進) Communucation(コミュニケーション)
プライスライニング戦略

プライスライニング戦略は,価格ライン戦略とも呼ばれ,3,000円(普及品),5,000円(中級品),10,000円(高級品)というように数段階の価格帯に分けて商品展開することをいう。

スキミングプライス戦略

スキミングプライス(skimming price)とは,製品の市場投入時・導入期に高価格を設定し,高収益力を確保するための価格設定のことである。

スキミングプライスを取る価格戦略をスキミングプライス戦略という。

なお,スキミング(skimming)とは,「上澄みをすくい取ること」である。つまり,対象市場全体の上澄みである富裕層などの「高くても買ってくれる顧客」を狙った戦略である。

コストプラスプライシング

商品の製造コストの一定の利幅を加えて製品価格とする手法。

マークアッププライシング

仕入れ原価に一定率の利益を上乗せして価格を決定する手法。

ぺネストレーションプライシング

市場シェアを獲得するため,利益を度外視した価格を設定する手法。

③ CX(Customer Experience:顧客体験)デザイン

顧客価値,UX(User Experience),UX タイムスパン(予期的UX,一時的UX,エピソード的UX,累積的UX),LTV(Life Time Value),顧客ロイヤルティ,ブランド戦略,コンバージョン率,リテンション率,顧客価値ヒエラルキー
LTV (Life Time Value)

LTV とは,英語の Life time Value の略称である。日本語では,「顧客生涯価値」と呼ばれる。顧客の生涯,つまり,顧客が自社と取引を開始してから終わるまでの間に,どれだけの利益をもたらすのか,その総額を表す指標である。

一般的に,顧客ロイヤルティが高い企業やサービスほど,一人の顧客がもたらす LTV が高くなるという傾向がある。その企業やサービスのファンになった顧客であればあるほど,長期間にわたり継続的に商品やサービスを利用するため,LTV が高くなる。

演習問題

顧客の収益が表のように見込まれるとき,3 年間の顧客生涯価値(LTV)は何百万円か。ここで,割引率は 10 % とし,計算は百万円未満を切り捨てるものとする。

年間の収益の単位 百万円
1 年目 2 年目 3 年目
年間収益 50 10 10
割引係数 1.0 1.1 1.2
年間収益は販売コストを考慮済み
割引係数は n 年間で (1 + 割引率)n-1 の値
  1. 65
  2. 67
  3. 70
  4. 73
(出典)平成26年度 秋期 IT ストラテジスト試験 午前2 問12

正解は,2. である。3 年間の顧客生涯価値(LTV)は,次式で求められる。

50/1.0 + 10/1.1 + 10/1.2 = 50 + 9.09 + 8.33 = 67.42 (百万円)
コンバージョン率,リテンション率
表 マーケティング指標
マーケティング指標 定義
コンバージョン率 製品を認知した消費者のうち,初回購入に至る消費者の割合
リテンション率 製品を購入した消費者のうち,固定客となる消費者の割合

一人の顧客に対する顧客生涯価値の見積りをすることがある。そのとき,留意すべきことは,顧客が紹介する他の顧客の購入見込みも対象とすることである。

④ サービスデザイン

サービスデザインの 6 原則(人間中心,共働的であること,反復的であること,連続的であること,リアルであること,ホリスティック(全体的)な視点),カスタマージャーニーマップ,ペルソナ,参加型デザイン,サービスブループリント

(2) マーケティング戦略

① 製品戦略

プロダクトビジョンの定義・共有・進化,導入期,成長期,成熟期,衰退期,ライフサイクルエクステンション,製品ライン,製品ポートフォリオ,ブランド戦略,製品多様化戦略,製品差別化戦略,市場細分化戦略,計画的陳腐化,コモディティ化,カニバリゼーション,PLM(Product Life cycle Management),マスカスタマイゼーション

自社の製品やサービスについて,売れる仕組みを作り上げる活動がマーケティングである。そして,マーケティングの手段や手法を組み立てたものをマーケティング戦略と呼ぶ。

プロダクトライフサイクル(PLC : Product Life Cycle)は,導入期,成長期,成熟期,衰退期の 4 つの期に区切って需要の推移を示す。

表 プロダクトサイクル
説明
導入期 市場へ商品を投入した段階。認知度が低いため,需要は部分的であり,新規の需要を開拓する必要がある。
成長期 市場における商品の認知度が高まり,需要が高まる段階。供給を増やすための投資が必要となる。
成熟期 需要が大きくなり,企業間の競争が激化する段階。市場のシェアを維持するために,新しい品種の追加やコストダウンなどが重要となる。
衰退期 需要が減少し,衰退する企業が現れる段階。市場からの撤退や代替市場への進出などを検討する。
ブランド戦略

ブランド戦略に関する用語は,以下のとおり。

ブランディング
ブランドとして認知度の低い製品を,ターゲット市場へ浸透させることを目的とする,様々な活動
ブランドアイデンティティ
ブランドの特徴を誰が見てもわかるように言語化・明確化したもの
ブランド再生
何かの欲求が発生した際に,具体的な情報がないにも関わらず,直感的に特定のブランドを思い出すことを指す
ブランドプロミス
ブランドが,消費者に対して約束していることを指す
ブランドエクイティ
特定の組織にとって自社のブランドの名前やシンボルと結び付いたブランドの資産の集合であり,製品やサービスの価値を増大させるものである。

ブランド戦略のうち,ブランド拡張は,既存のブランドネームを他の商品においても展開することによって,既存のブランドの認知度を他の商品にも利用し,販売効果を高める戦略である。

ブランド戦略のうち,ラインエクステンションは,実績のある商品と同じカテゴリにシリーズ商品を導入し,同一ブランド名での品ぞろえを豊富にする戦略である。

計画的陳腐化

機能がまだ十分に使用可能な製品を,新しいデザインに変更することによって,既存製品からの移行を進めていくこと。

コモディティ化

コモディティ化は,汎用品化とも呼ばれ,ある製品やカテゴリーについてメーカーや販売会社ごとの機能的・品質的な差異がごく僅かとなり,均一化している様子をいう。

この様な状態では,価格以外の差別化要素がないため値下げ競争に陥りやすくなり,メーカや小売り業者を含む市場全体の収益性が低下しまう傾向がある。

カニバリゼーション(cannibalization)

市場で自社製品同士による競合が発生し,シェアを奪い合う現象を,生物学上の共食いに例えて表現したもの。cannibalization を直訳すれば,「共食い」という意味である。

② 価格戦略

バリュープライシング,スキミングプライシング,ペネトレーションプライシング,ダイナミックプライシング,その他の価格設定方法(コストプラス法ほか),需要の価格弾力性,サブスクリプションモデル
価格設定方法

ターゲットリターン価格とは,コスト志向型の価格設定法で,目標とする投資収益率(ROI)を達成するために得るべき金額を計算し,それを原価に加えて販売価格とする方法である。目標収益法ともいう。

ターゲットリターン価格 = 原価 + {(投下資本 × 目標収益率) ÷ 販売数量}

実勢価格とは,競合の価格を十分に考慮した上で決定される価格である。

差別価格とは,顧客層,時間帯,場所など市場セグメントごとに異なって決定される価格である。

知覚価値価格とは,リサーチなどによる消費者の値頃感に基づいて決定される価格である。

浸透価格戦略は,新規製品を市場に投入する際に,価格を低い水準に設定することで可能な限り多くの顧客を獲得し,早期に認知度アップやシェア拡大を狙う価格戦略である。市場シェアを獲得した後は,大量生産によるコスト削減などで中長期的に利益を生み出し初期コストを回収する。浸透価格戦略は,価格弾力性が大きい日用品業界などの価格戦略でよく見られる。一方,最初に価格を高い水準に設定し,徐々に価格を下げていく価格戦略を上澄み吸収戦略という。

ぺネストレーション価格戦略は,新製品の導入期に,市場が受け入れやすい価格を設定し,まずは利益獲得よりも市場シェアの獲得を優先する戦略である。

スキミングプライシング

先行者利益を獲得するために,製品投入の初期段階で高価格を設定する手法である。

需要の価格弾力性(price elasticity of demand)

需要の価格弾力性 (price elasticity of demand) は,製品価格の変化に対する需要の変化を比率で表したものであり,製品価格を上下させたときの需要の増減量を判断できる。

サブスクリプションモデル

サブスクリプション(Subscription)とは,ソフトウェアやサービスの料金形態の一種で,従来のようにソフトウェア自体を一括して買い取るのではなく,ソフトウェアの使用権を借り,その利用期間に応じて使用料が発生する方式である。一般的には 1 年単位や 1 カ月単位の課金となっていることが多くなっている。利用者にとっては初期費用が掛からず,不要になったらいつでも契約解除できる利点がある。サブスクリプションは英語で「定期購読」「予約購読」等の意味がある。

月額固定料金で音楽や動画が利用し放題のサービスや,月額課金で購読できる新聞社の Web サイト,月額課金のオンラインストレージ,PhotoShop で有名な Adobe 社の Creative Cloud などが代表的な事例である。

ペネトレーション価格戦略

ペネトレーション価格戦略は,新製品の導入期に,市場が受け入れやすい価格を設定し,まずは利益獲得よりも市場シェアの獲得を優先する戦略である。

③ 流通戦略

ボランタリーチェーン,フランチャイズチェーン,チャネル統合,オムニチャネル
ボランタリーチェーン

複数の小売業者が独立性を維持しながら,一つのグループとして,仕入れ,宣伝,販売促進などを共同で行う。

オムニチャネル

オムニチャネル(Omni Channel)は,販路として展開する実店舗,EC サイト,カタログ通販,モバイル端末などのシステムや仕組みをシームレスに連携・融合させ,どの方法でも同レベルの利便性で注文・購入できるようにした販売環境のことである。"オムニ" は「あらゆる」「すべて」,"チャネル" は「接点」という意味がある。

④ プロモーション戦略

広告,販売促進,パブリシティ,消費者行動モデル(AIDMA)
消費者行動モデル(AIDMA)

消費者の購買決定プロセスを説明するモデルで,購入に至るまでには,注意(Attention) → 関心(Interest) → 欲求(Disire) → 記憶(Memory) → 行動(Action)の段階があることを示している。

⑤ Web マーケティング戦略

インターネット広告,オプトインメール広告,バナー広告,ジオターゲティング広告(位置連動型広告),リスティング広告(検索連動型広告),成功報酬型広告,SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化),LPO(Landing Page Optimization:ランディングページ最適化),CVR(Conversion Rate:顧客転換率),アフィリエイト,レコメンデーション,デジタルサイネージ,A/B テスト

(3) マーケティング手法

マスマーケティング,ターゲットマーケティング,ワントゥワンマーケティング,リレーションシップマーケティング,ダイレクトマーケティング,バイラルマーケティング,クロスメディアマーケティング,インバウンドマーケティング,ロケーションベースマーケティング,パーミッションマーケティング,市場テスト(テストマーケティング),コーズリレーテッドマーケティング,プッシュ戦略/プル戦略,グロースハック
ワンツゥマーケティング

市場シェアの拡大よりも,顧客との好ましい関係を重視し,長期にわたって自社製品を購入する顧客の割合を高める。

バイラルマーケティング

バイラルマーケティングとは,製品やサービスに関する評判を人から人に伝えることで顧客を獲得するマーケティング手法である。低コストで製品やサービスを認知させることができるという反面,広がり具合を制御することが難しいため,宣伝効果の予測が難しい。バイラルとは,「ウイルス性の」「感染性の」という意味である。

コーズリレーテッドマーケティング

商品の売上の一部を NPO 法人に寄付するなど,社会貢献活動を支援する信条をアピールし,販売促進に繋げる。英語表記の "Cause related marketing" を略して CRM とも呼ばれる。

マーケティング 4.0

「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラーは「マーケティング 4.0」を提唱。プロセスエコノミーを考える上で,コトラーの理論は役立つ。

表 マーケティング 4.0
Ver マーケティングの対象 訴求する価値
マーケティング 1.0 製品中心 機能的価値
マーケティング 2.0 顧客志向 差異的価値
マーケティング 3.0 価値主導 参加価値
マーケティング 4.0 経験価値志向 共創価値

ビジネス戦略と目標・評価

  • ビジネス戦略と目標の設定,評価の目的,考え方,手順を修得し,適用する。
  • 目標の設定,評価のための代表的な情報分析手法を修得し,適用する。

自社の分析とマーケティング戦略に基づいて,業務活動における具体的な戦略を立案することをビジネス戦略と呼ぶ。

(1) ビジネス戦略と目標の設定・評価

MVV(ミッション,ビジョン,バリュー),ビジネスモデルキャンバス,KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標),KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標),モニタリング,フィージビリティスタディ
ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルを整理したり,分析したりするときに有効なフレームワークの一つ。

企業がどのように,価値を創造し,顧客に届け,収益を生み出しているかを,顧客セグメント,価値提案,チャネル,顧客との関係,収益の流れ,リソース,主要活動,パートナ,コスト構造の九つのブロックを用いて図示し,分析する。

KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)

企業目標やビジネス戦略の遂行によって達成すべき到達目標(Goal)を測定可能な数値で表したもの

KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)

企業目標やビジネス戦略の実現に向けて行われるビジネスプロセスについて,その実施状況をモニタリングするために設定する指標

フィージビリティスタディ

フィージビリティスタディ (Feasibility Study) とは,新規ビジネスの立ち上げ前に市場調査,技術面,資金面,動向調査などを実施し,そのビジネスの実現可能性を事前に調査・検討することをいう。ビジネスのインパクト,持続的競争優位性の確保可否,実行のための経営資源充足状況,ダウンサイズリスクなどを評価し,ビジネスに優先順位を付けたり取捨選択したりする。

(2) 目標設定及び評価のための代表的な情報分析手法

① バランススコアカード

財務の視点,顧客の視点,業務プロセスの視点,学習と成長の視点,CSF(Critical Success Factor:重要成功要因),評価指標,モニタリング,差異分析

バランススコアカード(BSC : Balanced Score Cadr)は,企業のビジョンと戦略を実現するために財務顧客業務プロセス学習と成果という 4 つの視点から業績を評価・分析する手法である。

財務の視点

株主や従業員などの利害関係者の期待にこたえるため,企業業績として財務的に成功するためにどのように行動すべきかの指標を設定する。KPI の例としては,ROA,ROE,株価,売上高利益率などが挙げられる。

顧客の視点

企業のビジョンを達成するために,顧客に対してどのように行動すべきかの指標を設定する。KPI の例としては,顧客満足度,成約率,客単価,クレーム件数などが挙げられる。

業務プロセスの視点

財務的目標の達成や顧客満足度を向上させるために,優れた業務プロセスを構築するための指標を設定する。KPI の例としては,納期順守率,平均リードタイム,不良率,改善提案件数などが挙げられる。

学習と成長の視点

企業のビジョンを達成するために組織や個人として,どのように変化(改善)し能力向上を図るかの指標を設定する。KPI の例としては,年間教育/訓練時間,資格取得数,特許取得数,従業員の満足度などが挙げられる。

CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)

経営戦略に用いる CSF 分析で明らかになるものは,成功するための重要な機能や特性である。

演習問題

バランススコアカードで使われる戦略マップの説明はどれか。

  1. 切り口となる二つの要素を X 軸,Y 軸として,市場における自社又は自社製品のポジションを表現したもの
  2. 財務,顧客,内部ビジネスプロセス,学習と成長の四つの視点ごとの課題,施策,目標の間の因果関係を表現したもの
  3. 市場の魅力度,自社の優位性の二つの軸から成る四つのセルに自社の製品や事業を分類して表現したもの
  4. どのような顧客層に対して,どのような経営資源を使用し,どのような製品・サービスを提供するのかを表現したもの
(出典)平成25年 春期 応用情報技術者試験 午前 問69

正解は,2. である。なお,1. はプロダクトポートフォリオ,3. はポートフォリオ分析のひとつである投資優先度スクリーン,4. はマーケティングミックスである。

② ニーズ・ウォンツ分析

必要性(ニーズ),欲求(ウォンツ)

③ 競合分析

競争状況,競合相手の数,製品やサービスの価格,技術動向,ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)
競争地位別戦略(コトラーの競争戦略)

経済学者のフィリップ・コトラー(Philip Kotler)により提唱された競争戦略の理論で,市場における占有率(シェア)によって,企業をリーダチャレンジャニッチャフォロワに類型化し,それぞれに適した戦略を採るための分析手法である。

表 競争地位別戦略
名称 内容
リーダ 市場において最大のシェアを持つ企業が該当する。この位置を維持するために,新規需要の獲得や市場全体に適応する製品の投入(全方位戦略)などによって,市場規模を拡大する。
チャレンジャ リーダに次ぐ規模のシェアを持ち,リーダの位置を狙う企業が該当する。リーダに対する差別化戦略により,市場におけるシェアの拡大を図る。
ニッチャ シェアは低いが,独自性により特定の市場に特化した企業が該当する。他社が参入しにくい「すきま市場(ニッチ市場)」に対して,専門化する特定化戦略を採り,高利益率を狙う。
フォロワ 目標とする企業の戦略を観察し,迅速に模倣することで,開発や広告のコストを抑制し,市場での存続を図る。

④ その他の手法

製品・サービスの価値,機能,コスト,ライフサイクルコスト,機能定義,機能評価,機能別コスト分析,代替案作成,TQM(Total Quality Management:総合的品質管理),マクロ環境分析(PEST 分析,文化的環境)
マクロ環境分析(PEST 分析)

PEST 分析は,主に経営戦略や海外戦略等の策定,マーケティングを行う際に使用し,自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が,現在または将来にどのような影響を与えるか,把握・予測するためのもの手法でである。Politics(政治),Economy(経済),Society(社会),Technology(技術)という 4 つの視点から分析することから,それぞれの頭文字をとり PEST という。

企業が実施するマクロ環境分析のうち,PEST 分析によって戦略を策定している事例として,法規制,景気動向,流行の推移や新技術の状況を把握し,自社の製品の改善方針を決定する。

経営管理システム

  • 代表的な経営管理システムの特徴,考え方を修得し,適用する。

経営管理システム

全社システム,部門システム,ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画),バリューチェーンマネジメント, ECR ( Efficient Consumer Response : 効率的消費者対応), SFA , KMS(Knowledge Management System:知識管理システム),SECI(Socialization(共同化),Externalization(表出化),Combination(連結化),Internalization(内面化))モデル,CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理),SCM,TOC(Theory of Constraints:制約条件理論),企業内情報ポータル(EIP),KM(Knowledge Management:ナレッジマネジメント)
ERP (Enterprise Resource Planning)

生産,販売,在庫管理,財務会計,人事管理など基幹業務のあらゆる情報を統合管理することによって,経営効率の向上を目的とする。

バリューチェーンマネジメント

企業の提供する製品やサービスなどの価値を生み出すための業務の流れ,価値の連鎖を管理し,業務効率化や価値の創造に繋げようとする活動である。

バリューチェーン(Value Chain : 価値連鎖)は,マイケル・E・ポーターによって提唱された[1]

バリューチェーンのフレームワークでは,支援活動として人事・労務管理,技術開発,調達活動などがある。基本的にプロダクトやサービスを生み出す活動と直接関係しない業務を「支援活動」として上の方にもってきている。また,主活動として,勾配・物流があり,モノをつくって出荷し,マーケティング,販売があってサービスがあると定義している。これらの主活動と支援活動によって,企業全体のマージンが生まれるわけである。このフレームワークをマイケル・E・ポーターはバリューチェーンと呼んでいる。


  1. 『競争優位の戦略』(マイケル・E・ポーター著,ダイヤモンド社)
SFA (Sales Force Automation)

SFA(Sales Force Automation)は,営業活動にモバイル技術やインターネット技術といった IT を活用して,営業の質と効率を高め売上や利益の増加につなげようとする仕組み,またはそのシステムのことである。営業日報の管理に加えて商談管理機能(コンタクト管理,行動管理,評価・実績管理)があり,営業マン個人の支援に加えて営業グループ内で情報の共有を促進するなど,営業活動全体を支援する機能が備わっている。

SFA の目的は,顧客情報や商談スケジュール,進捗状況などの商談状況を一元管理することによって,営業活動の効率向上を目的とする。

SECI モデル

SECI モデルは,一橋大学の野中氏や竹内氏が提唱したナレッジマネジメントの中心となるフレームワークである。個人が持つ知識や経験(暗黙知)を組織全体で共有(形式知化)し,新たな発見を創出するために用いられる。

Socialization(共同化)
組織内の個人,小グループで暗黙知の共有化や,新たな暗黙知の創造を行うこと
Externalization(表出化)
組織内の個人,小グループが有する暗黙知を形式知として明示化すること
Combination(連結化)
明示化した形式知を組み合わせ,それを基に新たな知識を創造すること
Internalization(内面化)
新たに創造された知識を組織に広め,新たな暗黙知として習得すること
CRM(Customer Relationship Management)

CRM とは,顧客関係管理手法の一つである。顧客満足度を向上させるために,顧客との関係を構築することに力点を置く経営手法で,新規顧客を獲得するより,既存顧客の維持に力を入れる方が有効な戦略であるというのが,CRM の考え方である。

例えば,企業内のすべての顧客チャネルで情報を共有し,サービスのレベルを引き上げて顧客満足度を高め,顧客ロイヤルティの最適化に結び付ける考え方である。

ダイレクト・マーケティングの発展段階を次表に示す。

表 ダイレクト・マーケティングの発展段階
No. 段階 行うべきこと
1 分散的/単発的な段階
  • 分散した電話の対応
  • 単発的なダイレクト・メールの送付
2 集中化/標準化の段階
  • インバウンド・コールセンターの設立
  • データ・ベースによる顧客管理
  • Web サイトの開設
3 能動化/複合化の段階
  • プロアクティブ・コールの実施
  • メディア・ミックスの展開
  • パーソナライズ Web サイトの展開
4 マーケティング・プロセス革新の段階
  • マーケティング・プロセス各段階での効率性追求と連携強化
  • ホームページ閲覧履歴の追跡と分析の実施
5 計数分析/プロセス管理高度化の段階
  • データ・ウェアハウスによるデータ統合およびデータ・マイニングによる分析力の強化
  • SFA によるプロセス管理などのシステム強化
6 ビジネス・プロセス革新の段階
  • ビジネス・プロセスの組み替え/連携強化

コールセンタシステムにおける IVR は,顧客からの電話に自動応答し,顧客自身の操作によって情報の選択や配信,合成音声による応答などを行う仕組みである。

SCM (Supply Chain Management)

生産,在庫,購買,販売,物流などのすべての情報をリアルタイムに交換することによって,サプライチェーン全体の効率を大幅に向上させる経営手法である。

SCM の目的は,複数の企業や組織にまたがる調達から販売までの業務プロセス全ての情報を統合的に管理することによって,コスト低減(在庫削減)や納期短縮などを目的とする。

TOC(Theory of Constraints : 制約条件理論)

TOC(Theory of Constraints : 制約条件理論)は,企業や組織の共通目標である「現在から将来にわたって栄え続ける(Ever Flourishing)」というゴールの達成を妨げる制約(Constraints)に注目して,改革や改善を進めることによって,起業・組織のパフォーマンスに急速な改善をもたらす手法である。

TOC の特徴はスループット(= 売上高 - 資材費)の増大を最重要視する。

TOC における DBR(ドラム・バッファ・ロープ)のドラムの説明は「全体の生産量を決める上で能力上制約となる工程のこと,又はその工程のペースに合わせること」である。

本稿の参考文献

  • 松下 芳生,『IT コンサルティング これからのビジネスを支えるマインドとスキル』,PHP 研究所,2000年12月28日 第1版 第1刷発行
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