平成30年度 秋期 午前 Ⅱ 問題の解答と解説
試験時間は 10:50 ~ 11:30(40 分)である。
問1 IDEAL によるプロセス改善の取組み
IDEAL によるプロセス改善の取組みにおいて,図の b に当てはまる説明はどれか。ここで,ア~エは a ~ d のいずれかに対応する。
解答と解説
【答え】イ
IDEAL とは,開始(Initiating),診断(Diagnosing),確立(Establishing),行動(Acting),学習(Learning)の五つのフェーズからなる循環的なプロセス改善手法である。
a ~ d は,以下のとおり。
- 診断(Diagnosing)
エ 業務の現状を調査して可視化し,改善ポイントを明らかにする。 - 確立(Establishing)
イ 改善活動の優先順位を設定し,具体的な活動計画を作成する。 - 行動(Acting)
ア 改善策を作り,その先行評価・試行・展開を行う。 - 学習(Learning)
ウ 活動を分析してその妥当性を確認し,次のサイクルの準備を行う。
問2 SOA
SOA の説明はどれか。
解答と解説
【答え】エ
SOA (Service Oriented Architecture) とは,業務プロセスやそれを支援する情報システムを,サービスを実現するソフトウェア部品としてとらえ,それらを組み合わせることによってシステムを構築する手法である。
アは ERP (Enterprise Resource Planning),イはフィット&ギャップ分析,ウは PDCA (Plan-Do-Check-Action) による継続的改善の説明である。
問3 分析手法
ある企業では,顧客データについて,顧客を性別・年齢層・職業・年収など複数の属性を組み合わせてセグメント化し,蓄積された大量の購買履歴データに照らして商品の購入可能性が最も高いセグメントを予測している。このときに活用される分析手法はどれか。
解答と解説
【答え】エ
決定木分析(デシジョンツリー,decision tree)とは,分類木と回帰木を組み合わせたもので,ツリー(樹形図)によってデータを分析する手法である。
問4 構造化インタビュー
構造化インタビューの手法を用いた意見の収集形態はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
インタビュー技法には,構造化インタビュー,半構造化インタビュー,非構造化インタビュー,フォーカス・グループ・インタビューがある。
- 構造化インタビュー
- 予め決められた質問紙やアンケートなどをもとに,対話をつづけていき,その質問(=調査者の側で構造化されており,質問されたほうも思考のラインで答えることができる)の間におこった質的な情報を記載する方法である。
- 半構造化インタビュー
- 予め質問項目を決めておき,それらを録音機(IC レコーダー)やメモなどで質問を続けていく。アンケートを用意し,それを取りながら(あるいは口実にしながら),それにまつわる情報を採集する方法もある。
- 非構造化インタビュー
- 構造化されていない質問を通して情報を,対話と観察のラインで調査者(インフォーマント) から引き出す手法である。
- フォーカス・グループ・インタビュー
- 集団を相手に特定のトピックについて話し合う。調査者は談話のファシリテーターになったり,まとめたりする。
アは「デルファイ法」,イは「フォーカス・グループ・インタビュー」,エは「ブレーンストーミング」である。
問5 要件定義プロセスの活動内容
共通フレーム 2013 によれば,要件定義プロセスの活動内容には,利害関係者の識別,要件の識別,要件の評価,要件の合意などがある。このうちの要件の識別において実施する作業はどれか。
解答と解説
【答え】エ
アは「利害関係者の識別」,イは「要件の評価」,ウは「要件の合意」で実施する作業である。
共通フレーム 2013 における,要件定義プロセスの活動内容は以下のとおり。
利害関係者の識別
システムのライフサイクルの全期間を通して,どの工程でどの関係者が参画するのかを明確にする。
要件の識別
利害関係者から要件を漏れなく引き出し,制約条件や運用シナリオなどを明らかにする。
要件の評価
抽出された要件を確認して,矛盾点や曖昧な点をなくし,一貫性がある要件の集合として整理する。
要件の合意
矛盾した要件,実現不可能な要件などの問題点に対する解決方法を利害関係者に説明し,合意を得る。
問6 M&A による垂直統合
多角化戦略のうち,M&A による垂直統合に該当するものはどれか。
解答と解説
【答え】ウ
M&A による垂直統合は,生産を行う工場が「部品工場」や「営業会社」等のサプライチェーンの上流や下流にある工程を企業グループに統合することで市場競争力や資材の供給力を高める形の M&A。
製鉄メーカが,原材料の供給元である鉄鉱石採掘会社を買収・合併すれば,調達 → 生産という流れを統合できるので,垂直統合に該当する。
アとイは水平統合,エは混合(異業種どうしの統合)に該当する。
問7 プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)マトリクス
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)マトリクスの a,b に入れる語句の適切な組合せはどれか。
a | b | |
---|---|---|
売上高利益率 | 市場占有率 | |
市場成長率 | 売上高利益率 | |
市場成長率 | 市場占有率 | |
市場占有率 | 市場成長率 |
解答と解説
【答え】ウ
プロダクトポートフォリオマジメント(PPM)は,縦軸と横軸に「市場成長率」と「市場占有率」を設定したマトリクス図を 4 つの象限に区分し,市場における製品の位置づけを分析することで,経営資源の最適な配分を検討する手法である。
- 花形
- 市場成長率,市場占有率ともに高い状況にある。ここに分類された製品・事業は,将来的に多くの資金流入をもたらし,金のなる木になると期待される。ただし,この段階では継続的な資金投入が必要とされる。
- 金のなる木
- 市場成長率は落ち着きを見せ,ライフサイクルの成熟期となっているが,市場占有率が高いため,多くの資金が流入している状況にある。
- 問題児
- 市場成長率は高いものの,市場占有率は低い状況にある。市場自体が成長過程にあるので,直ちに市場から撤退するべきとはいえないものの,そのままでは将来的に期待できない状態である。市場で生き残るためには,多くの資金投入を必要とする。
- 負け犬
- 市場成長率,市場占有率ともに低い状態にある。将来的にも期待することが難しいので,市場からの撤退を考えるべきである。
問8 FSP (Frequent Shoppers Program)
FSP (Frequent Shoppers Program) の説明はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
FSP は,ポイントカードやサービス提供カードといった顧客カードを発行して顧客ひとりひとりの購買データをとらえながら,優良固定客の維持・拡大を図るマーケティング手法である。顧客を購入金額や来店頻度によって選別し,セグメント別にサービスや特典を変えることで,個々の顧客に最も適したサービスを提供し,効率的な販売戦略を展開する。
航空業界では,FFP (Frequent Flyer Program) と呼ばれる。
アはアフェリエイト広告,イは EDLP (EveryDay Low Price),エは RFM 分析の説明である。
問9 スキミングプライシング
スキミングプライシングの説明はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
スキミングプライス(skimming price)とは,製品の市場投入時・導入期に高価格を設定し,高収益力を確保するための価格設定のことである。
スキミングプライスを取る価格戦略をスキミングプライス戦略という。
なお,スキミング(skimming)とは,「上澄みをすくい取ること」である。つまり,対象市場全体の上澄みである富裕層などの「高くても買ってくれる顧客」を狙った戦略である。
問10 マーケットセグメンテーション
消費者市場のセグメンテーション変数のうち,人口統計的変数はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
セグメンテーションは,市場をニーズや性質に応じて細分化する活動である。
例えば,市場を消費者特性でセグメント化する際,基準となる変数を,地理的変数,人口統計的変数,心理的変数,行動的変数に分類する。
分類 | 変数 |
---|---|
地理的変数 | 都市規模,人口密度など |
人口統計的変数 | 年齢,性別,職業,家族構成など |
心理的変数 | 性格,価値観,社会階層,パーソナリティ,ライフスタイルなど |
行動的変数 | 購買状況,使用頻度,購買動機,ロイヤリティなど |
問11 ブランド戦略
商品のブランド戦略の一つであるラインエクステンションを説明したものはどれか。
解答と解説
【答え】ウ
ラインエクステンション(line extension)とは,すでに確立された既存ブランドと同じ市場に形態や機能の異なる商品を投入する際に,派生ブランドを展開することである。
アはブランドアップ戦略,イはブランドアライアンス戦略,エはカテゴリエクステンションに関する記述である。
問12 キャズム理論
ジェフリー・A・ムーアはキャズム理論において,利用者の行動様式に変化を強いるハイテク製品では,イノベータ理論の五つの採用者区分の間に断絶があると主張し,その中でも特に乗り越えるのが困難な深く大きな溝を "キャズム" と呼んでいる。"キャズム" が存在する場所はどれか。
解答と解説
【答え】イ
ジェフリー・A・ムーアはキャズム理論において,利用者の行動様式に大きな変化をもたらすハイテク製品では,イノベータ理論の五つの区分の間に断絶があると主張し,その中でも特に乗り越えるのが困難な深く大きな溝を "キャズム" と呼んでいる。"キャズム" は,アーリーアダプタ(Early Adopters : 初期採用者)とアーリーマジョリティ(Early Majority : 前期追随者)の間に存在する。
従来にない画期的な製品やサービスが普及していく過程で,その普及をはばむ溝のこと。新しいものが好きなアーリーアダプタとアーリーマジョリティの間に溝があり,製品が広く普及するにはこの溝を超えるマーケティングが必要となる。
問13 ダブルビン方式
ダブルビン方式の特徴はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
在庫を 2 つのまとまり A,B に区切っておいて,A の在庫を使い終わった時点で B を使い始め,その間に A を補充するということを A → B → A と交互に行う方式。
管理が簡便でコストが低くおさえられるため単価が安い品目を対象とすることが多い。
問14 知識創造プロセス(SECI モデル)
知識創造プロセス(SECI モデル)において,表出化に該当するものはどれか。
解答と解説
【答え】ア
ナレッジマネジメントとは,個人のもつ暗黙知を形式知に変換することにより知識の共有化を図り,より高いレベルの知識を生み出すという考え方である。フレームワークとして SECI モデルがあり,① 共同化(Socialization),② 表出化(Externalization),③ 結合化(Combination),④ 内面化(Internalization)の 4 段階のプロセスが定義されている。
プロセス | 説明 | 例 |
---|---|---|
共同化 Socialization |
組織内の個人,小グループで暗黙知の共有化や,新たな暗黙知を創造すること。 | OJT などを通して個人のノウハウを伝達する。 |
表出化 Externalization |
組織内の個人,小グループが有する暗黙知を形式知として明示化すること。 | 会社のもつノウハウをマニュアル化する。 |
結合化(連結化) Combination |
明示化した形式知を組み合わせ,それを基に新たな知識を創造すること | マニュアルを組み合わせて新マニュアルを作成する。 |
内面化 Internalization |
新たに創造された知識を組織に広め,新たな暗黙知として習得すること。 | マニュアルに記載された方法を実践し,習得する。 |
問15 TLO 法
TLO (Technology Licensing Organization) 法に基づき,承認又は認定された事業者の役割として,適切なものはどれか。
解答と解説
【答え】ウ
大学や高等専門学校等における研究成果を特許化し,それを民間事業者に技術移転する法人のことである。大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(通称,TLO法)に基づいて,承認・運用が行われており,2019 年現在 34 機関が承認されている。
TLO 法に基づき,承認又は認定された事業者の役割は,大学の研究成果の特許化及び企業への技術移転の支援を行い,産学の仲介役を果たすことである。
問16 XBRL
XBRL に関する記述として,適切なものはどれか。
解答と解説
【答え】ア
XBRL(eXtensible Business Reporting Language)とは,企業の財務諸表や財務報告などを記述するための標準的な形式を定めた規格の一つ。XML を応用した言語の一つで,一度入力した財務情報を関係機関で共有し,ソフトウェアによる自動処理で伝達,保存,加工などすることができる。
財務報告用の情報の作成・流通・利用ができるように標準化した言語であり,適用業務パッケージやプラットフォームに依存せずに財務情報の利用が可能となる。
問17 TOC
TOC の特徴はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
TOC は,一覧の製造工程におけるボトルネックに着目し,これを改善することで「利益の最大化」を実現する手法である。ボトルネックの原因を制約(constraints)とすることから,制約の理論(Theory Of Constraints)と呼ばれる。
TOC では,金を儲けることは以下の 3 つであると規定している。
- スループットを増大する。
- 在庫(原材料,仕掛,製品など)や投資を低減する。
- 業務費用(資材費以外の総経費,直接人件費も含む)を低減する。
問18 ティアダウン
ティアダウンの説明はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
製造業におけるティアダウン(Tear Down)とは,製品を機能ごとに分解して分析することで,品質向上やコストダウンにつなげる。
自動車,家電,電子機器などを対象に多くの企業で実施されている。分解をしながら競合製品の設計思想や工夫などに技術者が気付くプロセスは,自社製品のレベルアップにつながるだけではなく,技術者の教育の一環としても効果が高い。
問19 コンティンジェンシー理論
リーダシップのコンティンジェンシー理論の説明はどれか。
解答と解説
【答え】エ
コンティンジェンシー理論とは,いついかなる状況でも高い成果を発揮する唯一最善なリーダーシップは存在せず,外部環境の変化に応じて望ましいリーダーシップのスタイルも変化すべきだとする考え方を指す。なお,コンティンジェンシー(contingency)とは偶然性や偶発性という意味である。
1940 年頃までは,リーダーシップは「資質」の要素が大きいとされてきたが,1960 年代にコンティンジェンシー理論が説かれると,「状況に応じて役割を変えるべきもの」だというリーダーシップのあらたな考え方が広がった。
アは「モチベーション理論における内発的同期づけ」,イは「コンピテンシモデル」,ウは「マズローの欲求 5 段階説」の説明である。
問20 問題解決手法
問題解決に当たって,現実にとらわれることなく理想的なシステムを想定した上で,次に,理想との比較から現状の問題点を洗い出し,具体的な改善案を策定する手法はどれか。
解答と解説
【答え】エ
ワークデザイン法(Work Design Method)は,アメリカのジェラルド・ナドラー博士によって 1959 年に発表された IE (Industrial Engineering) 技法・問題解決法の一つ。
さまざまな問題解決を図る際に効果的に改善・改革を行うための方法論であり,機能展開と理想システムをキーワードとする。
問21 在庫補充
X 社では,1. ~ 4. に示す算定方式で在庫補充量を決定している。第 $n$ 週の週末時点での在庫量を $\text{B}[n]$,第 $n$ 週の販売量を $\text{C}[n]$ としたとき,第 $n$ 週の週末に発注する在庫補充量の算出式はどれか。ここで,$n$ は 3 以上とする。
- 週末ごとに在庫補充量を算出し,発注を行う。在庫は翌週の月曜日に補充される。
- 在庫補充量は,翌週の販売予測量から現在の在庫量を引き,安全在庫量を加えて算出する。
- 翌週の販売予測量は,先週の販売量と今週の販売量の平均値とする。
- 安全在庫量は,翌週の販売予測量の 10 % とする。
解答と解説
【答え】ア
算定方式 3. より,次式が成り立つ。
算定方式 4. より,次式が成り立つ。
算定方式 2. より,次式に,上の 2 式を代入する。
問22 連結売上高総利益率
連結売上高総利益率は何 % か。ここで,B 社は A 社の 100 % 子会社で,仕入れは全て親会社からであり,売上は全て親会社以外である。また,期首,期末とも在庫はない。
売上高 | 4,000 |
---|---|
子会社売上高 | 800 |
売上原価 | 3,000 |
売上総利益 | 1,800 |
売上高 | 1,000 |
---|---|
売上原価 | 800 |
売上総利益 | 200 |
解答と解説
【答え】ウ
連結決算においては,親会社・子会社をまとめて一つの企業とみなす。そのため,親会社と子会社間の取引は連結決算から除外しなければならない。
連結売上高は,A 社の売上高 4,000 と B 社の売上高 1,000 の和となり,5,000 である。
連結売上総利益は,A 社の売上総利益 1,800 と B 社の売上総利益 200 の和となり,2,000 である。
よって,連結売上高総利益率は,次式で求められる。
問23 電子計算機使用詐欺罪
刑法の電子計算機使用詐欺罪に該当する行為はどれか。
解答と解説
【答え】ウ
インターネットを経由して銀行のシステムに虚偽の情報を与え,不正な振込や送金をさせることは,刑法の電子計算機使用詐欺罪に該当する。
刑法 第246条の2 電子計算機使用詐欺
前条(筆者注 第246条 詐欺)に規定するもののほか,人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り,又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者は,十年以下の懲役に処する。
アは「無限連鎖講の防止に関する法律」に抵触する行為,イは刑法における詐欺罪または特定商取引法違反に該当する行為,エは電子計算機損壊等業務妨害罪に該当する行為である。
問24 格納型クロスサイトスクリプティング攻撃
格納型クロスサイトスクリプティング(Stored XSS 又は Presistent XSS)攻撃に該当するものはどれか。
解答と解説
【答え】ア
クロスサイトスクリプティング(XSS)は,動的に Web ページを生成するアプリケーションのセキュリティ上の不備を意図的に利用して,悪意のあるスクリプトを混入させることで,攻撃者が仕込んだ操作を実行させたり,別のサイトを横断してユーザのクッキーや個人情報を盗んだりする攻撃手法である。
XSS 脆弱性のある Web アプリケーションでは,以下の影響を受ける可能性がある。
- サイト攻撃者のブラウザ上で,攻撃者の用意したスクリプトの実行によりクッキー値を盗まれ,利用者が被害にあう。
- 同様にブラウザ上でスクリプトを実行され,サイト利用者の権限で Web アプリケーションの機能を利用される。
- Web サイト上に偽の入力フォームが表示され,フィッシングにより利用者が個人情報を盗まれる。
問25 リスク回避
個人情報の漏えいリスクに関するリスク対応のうち,リスク回避に該当するものはどれか。
解答と解説
【答え】エ
リスクを生じさせる活動を,開始または継続しないと決定することによって,リスクを回避する。