平成21年度 春期 午前Ⅱ問題の解答と解説

2022年7月2日作成,2023年10月7日更新

試験時間は 10:50 ~ 11:30(40 分)である。

問1 コードインスペクション

次のシステム開発において,コードインスペクションを行うことによって期待できる効果(削減できる時間)は何時間か。ここで,NCSS はソースコードの注釈を除いた文の個数とする。また,バグ発見率 = 発見したバグ数 ÷ すべてのバグ数 とする。

  • システムの規模:6,000 NCSS
  • システムに存在するバグ数の推定値:1,000 NCSS 当たり 5 件
  • バグ発見率:コードインスペクションを行った場合,バグ発見率は 90 % であり,残りのバグは単体テスト以降で発見される。コードインスペクションを行わなかった場合,すべてのバグは単体テスト以降で発見される。
  • コードインスペクションに要する時間:1,000 NCSS 当たり 4 時間
  • コードインスペクションでバグが発見された場合のバグ 1 件当たりの修復時間:1 時間
  • 単体テスト以降でバグが発見された場合のバグ 1 件当たりの修復時間:5 時間
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問1 の解答と解説

【答え】

コードインスペクションとは,コーディングし終わったプログラムが規定どおりに書かれているかを確認する作業である。第三者が確認することで,バグやプログラムミスを防げる。

システム規模 6,000 NCSS に存在するバグ数の推定値は,次式で求められる。

5/1,000 [件/NCSS] × 6,000 [NCSS] = 30 [件]

コートインスペクションを行わなかった場合,すべてのバグは単体テスト以降で発見されるので,修復時間は次式で見積もられる。

5 [時間/件] × 30 [件] = 150 [時間]

コードインスペクションを行った場合,バグ発見率は 90 % である。つまり,コードインスペクションで発見されたバグの件数は 27 件,単体テスト以降で発見されるバグの件数は 3 件である。

コードインスペクションに要する時間,コードインスペクションで発見されるバグの修復時間,単体テスト以降で発見されるバグの修復時間をそれぞれ求める。

4/1,000 [時間/NCSS] × 6,000 [NCSS] = 24 [時間]
1 [時間/件] × 27 [件] = 27 [時間]
3 [時間/件] × 5 [件] = 15 [時間]

したがって,コードインスペクションを行うことによって期待できる効果(削減できる時間)は,次式のとおり 84 時間である。

150 [時間] - ( 24 [時間] + 27 [時間] + 15 [時間] ) = 84 [時間]

問2 EVM (Earned Value Management)

プロジェクトの進捗管理を EVM (Earned Value Management) で行っている。コストが超過せず,納期にも遅れないと予測されるプロジェクトの状況を表しているはどれか。ここで,それぞれのプロジェクトの今後の開発生産性は現在までと変わらないものとする。

EVM (Earned Value Management)
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問2 の解答と解説

【答え】

EVM(Earned Value Management)は,プロジェクトにおける作業を金銭の価値に置き換えて,コストスケジュールの 2 つを定量的に管理する進捗管理手法である。PV,EV,AC という 3 つの指標を用いることが特徴である。

PV (Planned Value)
プロジェクト開始当初、現時点までに計画されていた作業に対する予算
EV (Earned Value)
現時点までに完了した作業に割り当てられていた予算
AC (Actual Cost)
現時点までに完了した作業に対して実際に投入した総コスト

コストが超過せず,納期にも遅れないと予測されるプロジェクトの状況は,プランドバリュー(PV)よりアーンドバリュー(EV)が大きく,実コスト(AC)が小さい「ウ」の EVM (Earned Value Management) である。

問3 ファンクションポイント法

ソフトウェアの開発規模見積りに利用されるファンクションポイント法の説明はどれか。

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問3 の解答と解説

【答え】

ファンクションポイント(FP : Function Point)法とは,ソフトウェアの機能を,外部入力,外部出力,内部論理ファンクション,外部インタフェースファイル,外部照会の 5 つのファンクションタイプに分けて,それぞれの機能の複雑さに基づいて工数を見積もる手法である。画面や帳票などユーザの目に見える単位で工数を見積もるため,見積もりの根拠をユーザが理解しやすい,という特徴がある。

また,開発に複数のプログラム言語を用いる場合,プログラム言語に依存しない見積りが行えることも特徴である。

ファンクションポイント法の一つである IFPUG 法では,機能を機能種別に従ってデータファンクションとトランザクションファンクションとに分類する。

表 ファンクションタイプ(IFPUG 法)
分類 ファンクションタイプ 内容
記号 名称
データ
ファンクション
ILF 内部論理ファイル 該当するアプリケーションによって作成,更新,参照,削除を行うデータのまとまり
EIF 外部インタフェースファイル 他アプリケーションによって作成されたデータのまとまりで,該当するアプリケーションは参照だけを行うもの
トランザクション
ファンクション
EI 外部入力 当該アプリケーションの外部からデータを入力し,データファンクションを追加,修正,削除する処理
EO 外部出力 計算などの処理ロジックを通したデータを画面,帳票,他アプリケーションなどに出力する処理
EQ 外部照会 計算などの処理ロジックを通さないデータを画面,帳票,他アプリケーションなどに出力する処理
表 ファンクションの評価基準の例
ファンクション ファンクションタイプ 容易 普通 複雑
トランザクション
ファンクション
外部入力(EI) 3 4 6
外部出力(EO) 4 5 7
外部参照(EQ) 3 4 6
データ
ファンクション
内部論理ファイル(ILF) 7 10 15
外部インタフェースファイル(EIF) 5 7 10

問4 要員計画

工数が 500 人日と見積もられた開発プロジェクトを 4 人で開始したが,開発に遅れが出てきた。あと 25 日を残すところで,まだ 160 人日の工数が必要と見込まれるので,プログラマを増やすことにした。次のような条件がある場合,予定どおり,あと 25 日で開発プロジェクトを完了するには,少なくとも何人のプログラマを増やせばよいか。

[条件]
  1. 増員するプログラマは最初の 10 日間はプロジェクトの学習をそれぞれ行うものとする。
  2. プログラマを増員することによる作業の再分割やその後のコミュニケーションのオーバヘッドなどは無視できる。
  3. 増員するプログラマの生産性は,当初からのプログラマの生産性と変わらないものとする。
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問4 の解答と解説

【答え】

増員するプログラマを $N$ 人とすると,25 日で開発プロジェクトを完了させるためには,次式が成り立つ必要がある。

160 人日 - 4 人 × 25 日 - $N$ × (25 - 10) 日 = 0 人日

上式より,$N$ = 4 人となる。

問5 ソフトウェアの品質特性

JIS X 0129-1 で規定されるソフトウェアの品質特性のうち,"効率性" の定義はどれか。

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【答え】

JIS X 0129-1 で定義されたソフトウェアの品質特性は,以下のとおり。

機能性
ソフトウェアが,指定された条件の下で利用されるときに,明示的及び暗示的必要性に合致する機能を提供するソフトウェア製品の能力。
信頼性
指定された条件下で利用するとき,指定された達成水準を維持するソフトウェア製品の能力。
使用性
指定された条件の下で利用するとき,理解,習得,利用でき,利用者にとって魅力的であるソフトウェア製品の能力。
効率性
明示的な条件の下で,使用する資源の量に対比して適切な性能を提供するソフトウェア製品の能力。
保守性
修正のしやすさに関するソフトウェア製品の能力。修正は,是正若しは向上,又は環境の変化,要求仕様の変更及び機能仕様の変更にソフトウェアを適応させることを含めてもよい。
移植性
ある環境から他の環境に移すためのソフトウェア製品の能力。

アは信頼性,イは機能性,ウは保守性である。

問6 グラフの使い方

グラフの使い方のうち,適切なものはどれか。

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【答え】

散布図は,2 つのデータの間にどんな関係があるのか,特性の関係(相関関係)を見ることができる。

問7 文章の構成法

個々の内容の軽重に注目して,展開順序を決める文章の構成法がある。この構成法に従っているものはどれか。

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問7 の解答と解説

【答え】

個々の内容(利用頻度)の軽重に注目して,システムの機能を説明する。

問8 EMV(期待金額価値)

リスクマネジメントにおける EMV(期待金額価値)の算出方法はどれか。

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問8 の解答と解説

【答え】

EMV(Expected Monetary Value,期待金額価値)は,定量的リスク分析で用いられるリスクレベルの算定方法で,リスクが顕在化したときの影響金額に発生確率を乗じて求める。リスクは好機と脅威に分けられるため,プラスの結果をもたらすリスクは正の値,マイナスの結果をもたらすリスクは負の値で表す。

EMV (期待金額価値) = リスク発生時の影響金額 × リスク事象の発生確率

問9 デルファイ法

デルファイ法を利用して,プロジェクトのリスクを抽出しているものはどれか。

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【答え】

デルファイ法(delphi method)は,技術開発戦略の立案に必要となる将来の技術動向の予測などに用いられる技法であり,1. 複数の専門家からの意見収集,2. 得られた意見の統計的集約,3. 集約された意見のフィードバックを繰り返して最終的な意見に収束させていくものである。

デルファイ法
図 デルファイ法

問10 リスク対応計画

プロジェクト遂行上のリスク事象を抽出,識別し,事象の発生確率とプロジェクトへの影響度から分類したリスク対応計画を立案する。リスク対策の考え方をまとめた表として,最も適切なものはどれか。ここで,"予防対策" は "当該リスク事象の発生を未然に防ぐ" ための対策を意味し,"発生時対策" は "当該リスク事象が実際に発生したとき" の対策を意味し,"受容" は "当該リスクへの対策をとらない" ことを意味する。

事象の発生確率とプロジェクトへの影響度から分類したリスク対応計画
事象の発生確率とプロジェクトへの影響度から分類したリスク対応計画
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問10 の解答と解説

【答え】

  • 事象の発生確率が高く,プロジェクトへの影響度が大きいリスク事象への対策は「予防対策と発生時対策」である。
  • 事象の発生確率が高く,プロジェクトへの影響度が小さいリスク事象への対策は「予防対策」である。
  • 事象の発生確率が低く,プロジェクトへの影響度が大きいリスク事象への対策は「発生時対策」である。
  • 事象の発生確率が低く,プロジェクトへの影響度が小さいリスク事象への対策は「受容」である。

問11 契約形態

要求仕様が明確になっていない場合,納入者側のリスクが最も高くなる契約形態はどれか。

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問11 の解答と解説

【答え】

定額契約では,製品やサービスなどに対し,一定の決まった総額を定めて契約を結ぶ。要求仕様が明確になっていない場合,契約額を超過するリスクが高い。

問12 システム開発で行われる各テスト

システム開発で行われる各テストについて,そのテスト要求事項が定義されるアクティビティとテストの組合せのうち,適切なものはどれか。

システム方式設計 ソフトウェア方式設計 ソフトウェア詳細設計
運用テスト システム結合テスト ソフトウェア結合テスト
運用テスト ソフトウェア結合テスト ソフトウェアユニットテスト
システム結合テスト ソフトウェア結合テスト ソフトウェアユニットテスト
システム結合テスト ソフトウェアユニットテスト ソフトウェア結合テスト
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問12 の解答と解説

【答え】

テスト要求事項が定義されるアクティビティとテストの組合せを下図に示す。システム方式設計にはシステム結合テスト,ソフトウェア方式設計にはソフトウェア結合テスト,ソフトウェア詳細設計にはソフトウェアユニットテストが組み合わせられる。

テスト要求事項が定義されるアクティビティとテストの組合せ
図 テスト要求事項が定義されるアクティビティとテストの組合せ

問13 状態遷移図

システムの分析・設計に用いられる状態遷移図の特徴はどれか。

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問13 の解答と解説

【答え】

状態遷移図は、コンピュータのタスクの状態変化やリアルタイム処理の状態変化など、時間の経過や状態の変化に応じて状態が変わるようなシステムの振る舞いを記述するときに適した図式化手法である。「ある一時点ではシステムは有限個の状態のうち 1 つの状態をとり、イベントや条件によってどの状態からどの状態に変化するかが定義できる」という性質を持つ抽象化モデル「有限オートマトン」の理論に基づいている。

問14 ハードウェアの保守点検及び修理作業

ハードウェアの保守点検及び修理作業を実施するときに,運用管理者が実施すべき,事前又は事後の確認に関する説明のうち,適切なものはどれか。

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問14 の解答と解説

【答え】

ハードウェアの臨時保守の場合,事前に保守作業者が障害の発生状況を確認したことを確認し,事後に障害原因や作業実施結果を確認する。

問15 ソフトウェア開発のプロセスモデル

ソフトウェア開発のプロセスモデルのうち,開発サイクルを繰り返すことによって,システムの完成度を高めていくプロセスモデルはどれか。

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問15 の解答と解説

【答え】

スパイラルモデル(Spiral Model)とは,システム開発手順の一つで,ユーザからのフィードバックや要望に対応しながら,精査や改善を重ねつつ,設計とプロトタイピングを繰り返して完成させる手法のことをいう。

問16 リバースエンジニアリング

ソフトウェアを保守するときなどに利用される技術であるリバースエンジニアリングの説明はどれか。

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問16 の解答と解説

【答え】

リバースエンジニアリングは、既存ソフトウェアの動作やそのソースプログラムを解析するなどして、製品の仕組み、構造・構成技術等を調査し、そこから製造方法や動作原理、設計図、ソースコードなどの情報を得る手法である。

自社製品の保守及びセキュリティ強化などの目的で実施されるほか、他社製品の技術仕様を明らかにする目的でも行われる。

問17 バックアップ

データベースサーバのハードディスクに障害が発生した場合でもサービスを続行できるようにするための方策として,最も適切なものはどれか。

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【答え】

ハードディスクに障害が発生した場合でもサービスを続行できるようにするため,サーバのディスクを二重化し,通常稼働時は同時に二つのディスクに書き込む。

問18 業務プログラムの運用・保守

業務プログラムの運用・保守の考え方のうち,適切なものはどれか。

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問18 の解答と解説

【答え】

アは,エラーログ採取やトレースのためのコードは,運用時のデータ処理効率の低下の原因にならない場合でも運用開始時にはすべて取り除くべきが不適。ウは,運用管理者が自ら修正が不適。エは,元のプログラムを開発したときのテストデータだけを使った確認テストを行い,運用を再開するが不適。

問19 IT サービスマネジメント

IT サービスマネジメントを導入する際の手順はどれか。

  1. 継続的改善方法の検討
  2. 現状の把握
  3. ビジョンの明確化
  4. 目標達成状況の把握方法の検討
  5. 目標達成方法の検討
  6. 目標の設定
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問19 の解答と解説

【答え】

IT サービスマネジメントを導入する際の手順は以下のとおり。

  1. ビジョンの明確化
  2. 現状の把握
  3. 目標の設定
  4. 目標達成方法の検討
  5. 目標達成状況の把握方法の検討
  6. 継続的改善方法の検討

問20 サプライチェーンマネジメントの改善指標

サプライチェーンマネジメントの改善指標となるものはどれか。

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問20 の解答と解説

【答え】

不良在庫の減少率は,サプライチェーンマネジメントの改善指標となる。

問21 E-R モデル

情報システムの全体計画立案のために E-R モデルを用いて全社のデータモデルを作成する手順はどれか。

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問21 の解答と解説

【答え】

E-R 図(Entity Relationship Diagram)とは、情報システムの扱う対象を、実体(entity)、関連(relationship)、属性(attribute)の三要素でモデル化する「ER モデル」を図示したもの。データベースの設計などでよく用いられる。

具体的には,管理の対象をエンティティ及びエンティティ間のリレーションシップとして表現する。

問22 要件定義プロセスのアクティビティ

共通フレーム 2007 によれば,要件定義プロセスのアクティビティはどれか。

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問22 の解答と解説

【答え】

共通フレーム 2013 では,要件定義プロセスの実施アクティビティとして,次の 5 つを挙げている。

  1. 利害関係者の識別
  2. 要件の識別
  3. 要件の評価
  4. 要件の合意
  5. 要件の記録

問23 プログラム著作権の原始的帰属

A 社は,B 社と著作物の権利に関する特段の取決めをせず,A 社の要求仕様に基づいて,販売管理システムのプログラム作成を B 社に依頼した。この場合のプログラム著作権の原始的帰属は,どのようになるか。

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問23 の解答と解説

【答え】

著作物の権利に関する特段の取決めをせず,発注元の要求仕様に基づいて,プログラム作成をした場合,プログラム著作権の原始的帰属はプログラムを作成した会社となる。

問24 下請代金支払遅延等防止法

ソフトウェア開発を下請業者に委託する場合,下請代金支払遅延等防止法で禁止されている行為はどれか。

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問24 の解答と解説

【答え】

下請代金支払遅延等防止法において,納品され受領したソフトウェアの仕様を変更したいので,返品するのは,親事業者の違法となる行為である。

ソフトウェア開発を下請事業者に委託する場合,下請代金支払遅延等防止法に照らして,「顧客が求める仕様が確定していなかったので,発注の際に,下請事業者に仕様が未記載の書面を交付し,仕様が確定した時点では,内容を書面ではなく口頭で伝えた。」という行為は禁止されている。

問25 個人情報保護法

個人情報保護法で保護される個人情報の条件はどれか。

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問25 の解答と解説

【答え】

個人情報の保護に関する法律によれば,個人情報とは,生存する個人に関する情報であって,次のいずれかに該当するものとされている。

  1. 当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの
  2. 個人識別符号が含まれるもの
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