令和4年度 第1種 機械

2022年8月20日作成,2023年9月16日更新

令和4年度 第一種電気主任技術者試験一次試験 機械科目の合格基準は,80 点満点換算で 48 点以上,受験者は 1,141 人,合格者数は 730 人で,合格率は 64.0 % だった。

目次

  1. 三相円筒形同期機とそのフェーザ図
  2. 誘導電動機の等価回路
  3. 高調波抑制フィルタ
  4. 発光ダイオード(LED)
  5. PWM 制御三相電圧形インバータとその応用
  6. 水電解
  7. コンピュータシステムの保守,運用

問1 三相円筒形同期機とそのフェーザ図

同期発電機と同期電動機は原理的には同じ構造を持ち,一つの同期機で発電機運転と電動機運転を行うことができる。同期機の端子電圧を $\dot{V}$ [p.u.] ,無負荷誘導起電力を $\dot{E}$ [p.u.] とすると,$\dot{E}$ が $\dot{V}$ より進み位相であれば同期機は発電機として動作し,逆になれば電動機として動作する。

ただし,電機子反作用は,電動機運転では進み電流のときに,発電機運転では遅れ電流のときに,減磁作用となる。

上記を踏まえて,以下の同期機の運転状態に対応するフェーザ図を解答群から選べ。

  • 発電機,遅れ力率運転の場合 (ヨ)
  • 発電機,進み力率運転の場合 (ヲ)
  • 調相機,遅れ力率運転の場合 (ワ)

なお,同期機の等価回路は以下のとおりであり,$\dot{I}$ は電機子電流,$X_\text{S}$ は同期リアクタンスとする。

発電機及び調相機
図 発電機及び調相機
電動機
図 電動機
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(1)

正解は(ホ)$\dot{E}$ が $\dot{V}$ より進み位相である。

(2)

正解は(ヘ)減磁作用である。

(3)

正解は(ヨ)である。

発電機,遅れ力率運転の場合のフェーザ図
図 発電機,遅れ力率運転の場合のフェーザ図

(4)

正解は(ヲ)である。

発電機,進み力率運転の場合のフェーザ図
図 発電機,進み力率運転の場合のフェーザ図

(5)

正解は(ワ)である。

調相機,遅れ力率運転の場合のフェーザ図
図 調相機,遅れ力率運転の場合のフェーザ図

参考文献

問2 誘導電動機の等価回路

三相変圧器や三相誘導電動機の一次換算等価回路を作成する場合,二次側の諸量を一次側に換算する必要がある。変圧器では,一次・二次巻線間の巻数比が換算係数として使用されるが,誘導電動機では,巻数比に加えて,巻数係数及び相数を考慮する必要がある。

$m_1$ 相の対称交流を電源とする多相誘導電動機の一次及び二次巻線一相の巻数を $w_1$ 及び $w_2$,巻数係数を $k_{w1}$ 及び $k_{w2}$,相数を $m_1$ 及び $m_2$,一次及び二次 1 相の抵抗及び漏れリアクタンスをそれぞれ $r_1$,$r_2$,$x_1$,$x_2$ とする。なお,二次リアクタンス $x_2$ は,回転子静止時の値とする。回転子を静止させた状態で一次巻線に三相電源を印加すると励磁電流が流れ回転磁界が生じて,一次誘導起電力 $\dot{E}_1$,二次誘導起電力 $\dot{E}_2$ が誘導される。この誘導起電力の比は $\displaystyle \dot{E}_2 = \frac{\dot{E}_1}{u_\text{e}}$,$\displaystyle u_\text{e} = \frac{k_\text{w1} w_1}{k_\text{w2} w_2}$ で示される。$\dot{E}_2$ は二次回路に印加され,二次巻数の電流 $\dot{I}_2$ は $\displaystyle \frac{\dot{E}_2}{r_2 + \text{j}x_2}$ となる。この $\dot{I}_2$ による起磁力を打ち消すために一次側に ${I_1}'=u_\text{i}I_2$ が流れる。$u_\text{i}=$ $\displaystyle \frac{m_2 k_\text{w2} w_2}{m_1 k_\text{w1} w_1}$ であらわされ,この ${I_1}'$ が二次電流 $\dot{I}_2$ の一次側への換算値となる。$r_2$ 及び $x_2$ を一次側へ換算するには,変換係数 $\displaystyle \frac{m_1 (k_\text{w1} w_1)^2}{m_2 (k_\text{w2} w_2)^2}$ をかければよい。

三相巻線形電動機では,$m_1=3$,$m_2=3$ である。三相かご形誘導電動機では,二次側回転子の全導体数を $K$,極対数を $p$ とすれば,電気角 $2\pi$ 当たりの導体数は $\displaystyle \frac{K}{p}$ であり,相数 $m_2$ に等しい。よって二次一相分の導体数は 1,巻数は $w_2=$ $\displaystyle \frac{1}{2}$,巻数係数は $k_\text{w2}=1$ となる。

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(1)

正解は(ヨ)巻数比である。

(2)

正解は(ヌ)$\displaystyle \frac{\dot{E}_2}{r_2 + \text{j}x_2}$ である。

(3)

正解は(リ)$\displaystyle \frac{m_2 k_\text{w2} w_2}{m_1 k_\text{w1} w_1}$ である。

(4)

正解は(ロ)$\displaystyle \frac{m_1 (k_\text{w1} w_1)^2}{m_2 (k_\text{w2} w_2)^2}$ である。

(5)

正解は(イ)$\displaystyle \frac{1}{2}$ である。

参考文献

問3 高調波抑制フィルタ

系統へ流出する高調波電流は上限値を超えないように抑制する必要がある。高調波の次数が低いほど,系統への影響が大きいといわれている。各周波数 $\omega$ の三相系統では,負荷が並行押している場合,対称性により特定の次数の高調波はごく小さく,一般に,最も大きな高調波は 5 次高調波となる。

図に示した設備において,$X$ で示すリアクトルは限流リアクトルと呼ばれ,主に構内短絡時の電流を制限することを目的としている。また,高調波を抑制するためのフィルタ設備の各分路は,高調波次数に対応してコンデンサとリアクトルで構成されている。

第 11 次高調波に対応するための第 11 次分路のフィルタはリアクトルとコンデンサの共振周波数により選定したとしたとき,インダクタンス $L_{11}$ とコンデンサの静電容量 $C_{11}$ は $\displaystyle \frac{1}{\omega C_{11}}=121\omega L_{11}$ の関係にある。今,6 000 V,50 Hz の系統電圧で,第 11 次分路フィルタの容量が 100 kvar としたとき,そのフィルタの基本波に対するリアクタンスは 360 Ω である。このとき,リアクトルのインダクタンス $L_{11}$ は 9.55 mH である。

高調波抑制フィルタ
図 高調波抑制フィルタ
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(1)

正解は(ヨ)5 次である。

(2)

正解は(ト)限流リアクトルである。

(3)

正解は(ワ)$\displaystyle \frac{1}{\omega C_{11}}=121\omega L_{11}$ である。

(4)

正解は(ヘ)360 である。

(5)

正解は(チ)9.55 である。

参考文献

問4 発光ダイオード(LED)

発光ダイオード(LED)はエレクトロルミネセンスによる固体発光素子である。LED は,他のダイオードと同様,p 形半導体と n 形半導体を接合させた構造をしている。この接合部に順方向に電流を流すことによって,接合部において電子と正孔の再結合が起こり,発光する。光の波長は電子と正孔のもつエネルギーの差が大きいほど短くなる

LED は基本的に単色光源であるので,LED を使って照明用の白色光を得るにはいくつかの色の光を混ぜて人が白色と認識する光をつくる必要がある。その代表的な方法として,青色 LED からの青色光の一部を,黄色光を発生する蛍光体に照射し,そこから得られる黄色光に LED からの青色光が混ざることによって白色光を発生させる方法がある。このときの白色光のスペクトルの概略は(カ)のようになる。

白色光のスペクトルの概略
図 白色光のスペクトルの概略

LED を用いた白色照明ランプは,省エネ性に優れ,かつ寿命の長いランプとして,従来の白熱電球や蛍光ランプに替えて,普及が進みつつある。

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(1)

正解は(二)エレクトロルミネセンスである。

(2)

正解は(ホ)大きいほど短くなるである。

(3)

正解は(ト)青色である。

(4)

正解は(ハ)黄色である。

(5)

正解は(カ)である。

参考文献

問5 PWM 制御三相電圧形インバータとその応用

三角波比較正弦波 PWM 制御を用いた三相電圧形インバータは,インバータが出力する交流電圧の線間電圧波高値より直流電圧を十分に高くすることにより,交流電流を制御することができる。したがって,この PWM 制御三相電圧形インバータ(以降,変換器と呼ぶ)は直流と交流の間で双方向に電力を制御できるので,種々の分野で使われている。

図は風力発電に用いられる変換器の構成図であり,風車のロータに直結した同期発電機 SG に,変換器 1 と変換器 2 からなる BTB 変換器を接続した構成である。変換器 1 が回転数により変動する周波数の交流電力を直流に変換し,変換器 2 が直流電力を電力系統周波数の交流に変換する。風車入力エネルギーは羽根の面積を一定とすれば風速の 3 乗に比例することが知られていて,風速に対して発電できる最大電力とそのときの発電機の回転速度が求まる。したがって,変換器 1 は発電電力制御を行うことが一般的である。また,変換器 2 は直流電圧値を検出し,これが一定となるように有効電力を操作する。さらに,変換器 2 は,電力系統の交流電圧位相に対して,$\displaystyle \pm \frac{\pi}{2}$ 位相のずれた成分の交流電流を流すことにより,上記の有効電力ばかりでなく電力系統の無効電力も制御することができるので,系統電圧の安定化に寄与できるという特徴がある。

風力発電に用いられる変換器の構成図
図 風力発電に用いられる変換器の構成図
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(1)

正解は(ヌ)線間電圧波高値である。

(2)

正解は(カ)直流と交流の間で双方向である。

(3)

正解は(ル)回転数により変動するである。

(4)

正解は(ヲ)3 乗である。

(5)

正解は(二)発電電力制御である。

(6)

正解は(ヘ)直流電圧値である。

(7)

正解は(レ)$\displaystyle \pm \frac{\pi}{2}$ 位相のずれたである。

参考文献

問6 水電解

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

電気分解では,電解質に 2 本の電極を入れ,直流電流を流して反応を起こす。2 本の電極のうち陰極では,最も反応しやすい物質が電子を受け取る還元反応が起こる。電気分解の中でも,太陽光発電や風力発電を用いた水素製造にも適用されているアルカリ水電解は水酸化カリウム(KOH)水溶液を電解質とするものである。

[陰極] 2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
[陽極] 4OH- → O2 + 2H2O + 4e-

陰極又は陽極で変化する物質の量は,流した電気量に比例することをファラデーの電気分解の法則,電子 1 mol のもつ電気量の大きさをファラデー定数 : $F$ といい,

$F$ = 9.65 × 104 C/mol

である。

ここでは,二つの電解セルを直列に接続した電解槽について考える。電流効率 100 % のときに 1 000 A で 1 時間通電して得られる水素の量はファラデーの電気分解の法則を用いると 37.3 mol であることがわかる。このとき,同時に発生する酸素の体積は水素の体積の $\displaystyle \frac{1}{2}$ 倍である。この電解槽の一つの電解セルの電圧が 1.80 V で電流効率が 97 % のとき,上と同じ量の水素を製造するために必要な電気量は 1.03 kA·h,電力量は 3.71 kW·h である。

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(1)

正解は(ホ)受け取る還元である。

(2)

正解は(イ)4 である。

(3)

正解は(カ)37.3である。

(4)

正解は(ヌ)$\displaystyle \frac{1}{2}$ である。

(5)

正解は(タ)1.03 である。

(6)

正解は(二)3.71 である。

参考文献

問7 コンピュータシステムの保守,運用

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

コンピュータシステムは期待された性能を安定に発揮することを求められており,その基準となる信頼性,可用性,保守容易性を RAS と称している。近年では,データを破壊から守る保全性や部外者のアクセスを制限する機密性も加えた RASIS と呼ばれる場合もある。

信頼性は,平均故障間隔(MTBF)で表され,保守容易性は,平均修理時間(MTTR)で表される。これらの指標を用いて,可用性を表す稼働率は,$\displaystyle \frac{\text{MTBF}}{\text{MTBF}+\text{MTTR}}$ 式で求められる。

今,ある装置 X を 5 年間連続して稼働させたところ,故障は 2 回で修理の合計時間は 1 200 h であった。1 年間を 8 760 h とすると,この装置 X の稼働率は 97.3 % である。

次に装置 Y を装置 X に直列に接続して用いることを考える。このままでは装置単独で用いるよりも信頼性が低下する。よって,フォールトトレランスに基づく設計を適用し,予備機を待機させ,障害発生時にはこの待機系に切り替えて運用できる図示のシステム Z を構築することにした。このシステムをデュプレックスシステムという。この装置の信頼度を稼働状態と待機状態との区別なく,装置 X は 0.7,装置 Y は 0.8 とするとき,待機系への切り替え時に生じる故障や停止を無視すると,システム Z の信頼度は 0.806 に改善される。

システム Z
図 システム Z
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(1)

正解は(ト)可用性である。

(2)

正解は(ヘ)$\displaystyle \frac{\text{MTBF}}{\text{MTBF}+\text{MTTR}}$ である。

(3)

正解は(ホ)97.3 である。

(4)

正解は(レ)フォールトトレランスである。

(5)

正解は(ヌ)デュプレックスである。

(6)

正解は(イ)0.806 である。

参考文献

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