令和5年度 第1種 機械

2023年8月30日作成,2023年9月16日更新

令和5年度 第一種 電気主任技術者試験一次試験 機械科目の合格基準は,80 点満点換算で 48 点以上,受験者は 1,038 人,合格者数は 649 人で,合格率は 62.5 % だった。

目次

  1. 同期機のリアクタンス
  2. 変圧器の冷却
  3. サイリスタを用いた三相整流回路
  4. 球面光源による照明
  5. 誘導機の二次励磁方式
  6. 電解採取
  7. 生産ラインにおける自動化技術

問1 同期機のリアクタンス

同期機の電機子反作用磁束は直軸及び横軸成分に分けることができて,直軸に対応するリアクタンスが直軸電機子反作用リアクタンス $X_\text{ad}$ である。

電機子電流が発生する磁束の一部で電機子巻線自身にしか鎖交しない磁束が電機子漏れ磁束であり,電機子漏れリアクタンス $X_l$ に対応する。

界磁巻線に流れる電流が発生する磁束にも,界磁巻線自身にしか鎖交しない磁束が存在し,これに対応するリアクタンスが $X_\text{f}$ である。

制動巻線(制動巻線に相当する構造を含む)を備える同期機では,この制動巻線に電流が流れることにより発生する磁束にも制動巻線自身にしか鎖交しない磁束が存在する。この磁束の直軸成分に対応するのがリアクタンス $X_\text{Dd}$ である。

各巻線の抵抗を無視すると,上記のリアクタンスの組合せで,同期機の運転状態に応じた電機子端子側から見た直軸のリアクタンスとその等価回路が得られる。ただし,等価回路中の界磁巻線と制動巻線のリアクタンスは電機子側に換算したものであり,界磁巻線と制動巻線の間だけに鎖交する磁束は無いものとする。

定常運転状態における直軸のリアクタンスは直軸同期リアクタンス $X_\text{d}$ であり,対応する等価回路は下図である。

定常運転状態における直軸のリアクタンス
図 定常運転状態における直軸のリアクタンス

制度巻線がない同期機においては,突発短絡などの同期機の運転状態が急変した直後の直軸の過渡的な直軸リアクタンスが直軸過渡リアクタンス ${X_\text{d}}'$ であり,対応する等価回路は下図である。

制度巻線がない同期機における直軸過渡リアクタンス
図 制度巻線がない同期機の直軸過渡リアクタンス

制動巻線を備える同期機においては,上記と同様に運転状態が急変した直後の直軸の過渡的なリアクタンスが直軸初期過渡リアクタンス ${X_\text{d}}''$ であり,対応する等価回路は下図である。

制動巻線を備える同期機における直軸過渡リアクタンス
図 制動巻線を備える同期機における直軸過渡リアクタンス
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(1)

正解は(ロ)電機子漏れである。

(2)

正解は(ハ)定常である。

(3)

正解は(ヨ)である。

(4)

正解は(ヌ)である。

(5)

正解は(ル)である。

参考文献

問2 変圧器の冷却

変圧器に入力する電力の一部は,変圧器の内部で損失となり熱に変わる。この熱による温度上昇は絶縁物の劣化等につながるため,温度上昇を抑制する観点から冷却は必要である。

変圧器の冷却方式には容量や使用環境によって種々の方式がある。巻線及び鉄心の冷却媒体により方式を大きく分けると,空気(大気)を使用する式,絶縁油を使用する油入式,及び,不燃性,非爆発性を必要とする場所に設置するための不活性ガスを使用するガス冷却式がある。

油入変圧器では,変圧器本体を絶縁油に浸し,巻線の絶縁耐力を高めるとともに,冷却によって本体の温度上昇を抑制する。絶縁油に必要な条件は,化学的に安定であること,引火点が高いこと,流動性に富み冷却効果が大きいことなどである。

大形の油入変圧器では,負荷変動や外気の温度変化に伴い油の温度が変動し,油が膨張・収縮を繰り返すため,外気が変圧器内部に出入りを繰り返す。これを変圧器の呼吸作用という。呼吸作用により油が劣化する主な原因は,空気中の水分の混入と,油と空気との接触により生じる酸化作用である。この劣化を防止するため,本体の外部にブリーザやコンサベータを設ける。

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(1)

正解は(ニ)乾である。

(2)

正解は(ワ)絶縁耐力である。

(3)

正解は(ロ)引火である。

(4)

正解は(ヨ)呼吸である。

(5)

正解は(ヌ)コンサベータである。

参考文献

問3 サイリスタを用いた三相整流回路

図 1 のように線間電圧 $E$,角周波数 $\omega$ の対称三相交流電源に三相サイリスタ整流回路を接続し,誘導性負荷に直流電流 $I_\text{d}$ を供給する。図中の $L$ は交流電源側のインダクタンス成分を表す。サイリスタのオン電圧,電源側の抵抗成分,負荷側の電流リプルは無視できるものとする。

図 2 は,$L$ での起電力を無視した場合のサイリスタ整流回路の入出力電圧波形である。この場合,ゲート信号を与えたサイリスタはターンオンし,逆バイアスが印加されたサイリスタの電流は直ちに零となりターンオフする。このように電流の流れる経路が変わることを転流という。直流電圧 $e_\text{d}$ の電源の $\displaystyle \frac{1}{6}$ 周期ごとに脈動する波形となる。ここで,制御遅れ角(点弧角)を $\alpha$ とすると直流電圧の平均値 $E_\text{d}$ は,

\[ E_d = \frac{3\sqrt{2}}{\pi}E \cos{\alpha} \]
・・・・・①

で求められる。

次に,$L$ での起電力を考慮した場合,ゲート信号を与えたサイリスタはターンオンするが,それまでオンしていたサイリスタにも電流が流れ続け,重なり期間 $\mu$ が生じる。このときの出力電圧波形は図 3 (a) のようになる。図 1 の回路では電源 1 周期の間に 6 回の重なり期間が生じる。この場合の直流電圧平均値は ① 式の $E_\text{d}$ より小さくなる。

三相ブリッジ整流回路
図 1 三相ブリッジ整流回路
$L$ での起電力を考慮した場合の出力電圧
図 2 $L$ での起電力を無視した場合の入出力電圧
$L$ での起電力を無視した場合の入出力電圧
図 3 $L$ での起電力を考慮した場合の出力電圧
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(1)

正解は(ハ)転流である。

(2)

正解は(ト)$\displaystyle \frac{3\sqrt{2}}{\pi}E \cos{\alpha}$ である。

(3)

正解は(ワ)(a) である。

(4)

正解は(ヘ)6 である。

(5)

正解は(ル)より小さくである。

参考文献

問4 球面光源による照明

全光束 4 800 lm の球面光源がある。球の直径は 0.15 m で,光源の表面は均等拡散面とみなすことができる。この光源の光度 $I$ は 382 cd である。

次に,図に示すように,この球面光源 2 個(A 及び B)を室の床面から 2.1 m 上方に,4.2 m 離して設置した。この室にはこの球面光源 2 個以外に光源はなく,室外部からの入射光もないものとする。また,室の天井面,床面,壁面,球面光源の表面などにおける反射光の影響はないものとする。

図において,球面光源 A だけを点灯したとき,球面光源 A の直下にある床面 C 点における水平面照度は 87 lx となる。また,C 点から見た球面光源 A の輝度 $L_\text{A}$ は 21 600 cd/m2 である。

次に,球面光源 A を点灯したまま,球面光源 B も点灯した。このときの床面 C 点における水平面照度は 94 lx に増加する。また,C 点から見た球面光源 B の輝度 $L_\text{B}$ は $L_\text{A}$ に等しい

球面光源による照明
図 球面光源による照明
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(1)

正解は(ハ)382 である。

(2)

正解は(ホ)87 である。

(3)

正解は(ト)21 600 である。

(4)

正解は(ヌ)94 である。

(5)

正解は(チ)等しいである。

参考文献

問5 誘導機の二次励磁方式

風力発電には,誘導発電機が用いられることがある。かご形の誘導発電機を用いた方式はブラシが必要なく,構造が単純であるが,風車の回転速度を商用系統の周波数 $f_1$ に対応した速度にする必要がある。一方,巻線形誘導発電機を用いれば,二次抵抗を外部から制御することにより滑り $s$ を調節して同期速度の 100 ~ 110 % 程度の範囲で回転速度が可変可能である。しかし,これらの方式では,いずれも系統への併入時の突入電流を制限するソフトスタート装置が一般に用いられる。

巻線形誘導機の二次側をインバータにより滑り周波数の交流で励磁すれば,更に広い範囲での回転速度の範囲で発電が可能である。これを二次励磁方式という。

今,誘導機において,一次側から二次側に電磁誘導によって供給される電力(同期ワット)を $P_2$ とする。このときの二次銅損は一般に $sP_2$ で表される。しかし,二次励磁方式を用いる場合,$sP_2$ として表される電力の大半がインバータから供給される。

二次励磁方式の発電機として動作している場合を損失を無視して考える。回転子角速度 $\omega_2$ が電源角周波数 $\omega_1$ より大きい場合,インバータは滑りによる電力分を吸収することになり,滑りは $s \lt 0$ となる。このとき,双方向電力変換可能なインバータであれば電力を電源に返還することになり,誘導機は電源に周波数 $f_1$ の同期ワット $P_2$ の電力を供給することになる。一方,滑りが $s \gt 0$ であっても,風車による機械的な動力 $(1-s)P_2$ とインバータの電力の和が電源に供給される。

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(1)

正解は(チ)ソフトスタート装置である。

(2)

正解は(ヌ)滑り周波数である。

(3)

正解は(タ)$sP_2$ である。

(4)

正解は(イ)$s \lt 0$である。

(5)

正解は(ホ)$s \gt 0$である。

(6)

正解は(ソ)$(1-s)P_2$ である。

参考文献

問6 電解採取

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

亜鉛,コバルト,マンガン,クロムなどの金属は,必要に応じて予備処理を行った原鉱石から,硫酸水溶液などの適当な溶媒を用いて目的金属を抽出し,不純物を分離,精製したものを電解浴に入れ,電気分解を行い,カソード上に目的金属を析出させて電解採取する。目的金属よりイオン化傾向が小さい金属イオンはなるべく分離しておかないと製品の純度が低くなる。亜鉛の電解精錬の電流効率は約 90 % で金属亜鉛を生成する。このとき,亜鉛の酸化還元(Zn2+ + 2e- ↔ Zn)の標準水素電極基準の標準電極電位は -0.763 V で水素発生反応よりも熱力学的には不利である。また,電流効率 90.0 % で亜鉛を 1 t 精錬するために必要な電気量は 911 kA·h/t である。なお,亜鉛の原子量を 65.4,ファラデー定数を 26.8 A·h/mol とする。

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(1)

正解は(チ)硫酸水溶液である。

(2)

正解は(カ)カソードである。

(3)

正解は(ロ)小さいである。

(4)

正解は(リ)不利であるである。

(5)

正解は(ト)911 である。

参考文献

問7 生産ラインにおける自動化技術

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

コンピュータを活用して複雑な設計・製図を効率よく行えるものとして CAD システムがある。3 次元 CAD を用いると,ディスプレイ上で設計対象物を立体的に表示でき,様々な方向から確認することができる。

CAM システムはコンピュータを活用した機械加工を中心とした生産準備の自動化システムをいい,CAD システムと連携させることで,設計対象物の加工手順を生成し,NC 制御された工作機械で加工することが可能である。

XYZ の各軸に主軸又はテーブルの回転,傾斜を加えた多軸制御の工作機械では,CAD システムの 3 次元設計データを活用して,複雑な形状や曲面を加工することができる。ただし,制御軸が増えると構造が複雑となり,剛性が低くなることや,加工時に切削工具が加工物に接触する角度や面積が変化することで切削抵抗の変動があり,精度や表面粗さが悪化しやすくなることに注意が必要である。

マシニングセンタは,自動的に工具を交換する機能を有する NC 工作機械であり,加工内容の自由度が増え,CAM システムとの親和性が良い。

一方で,より複雑な形状を造形する方法では,3D プリンタが試作や少量生産の製品などへ利用されている。耐久性のある金属製の立体形状を作成する場合は,粉末状の材料にレーザを照射して溶着させる方法がある。

生産ラインでは,各種工作機械やマシニングセンタの他,溶接,組立,塗装などを行う産業用ロボットや,無人搬送車,自動倉庫などが組み合わされて,工場全体の自動化が行われる。このようにして工場の自動化をすることをファクトリーオートメーションという。

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(1)

正解は(ヲ)CAD である。

(2)

正解は(チ)CAM である。

(3)

正解は(ル)低くである。

(4)

正解は(ハ)切削抵抗である。

(5)

正解は(ヌ)マシニングセンタである。

(6)

正解は(ソ)粉末状である。

(7)

正解は(レ)レーザである。

(8)

正解は(ヨ)溶着である。

(9)

正解は(ツ)ファクトリーオートメーションである。

参考文献

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