令和元年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2019年11月19日作成,2022年11月6日更新

目次

  1. 水車発電機の負荷遮断
  2. 油入変圧器の内部に発生する事故
  3. 三相遮断時の過渡安定性
  4. 送電線から受電端に流入する無効電力
  5. 二つの異なる電源系統間での無停電切換
  6. 直流連系

問1 水車発電機の負荷遮断

ある出力 $P$ [kW] で運転中の水車発電機で負荷遮断が発生した。この水車調速機の閉鎖時間は $t$ 秒,不動時間は $\tau$ 秒であり,ガイドベーンの閉鎖時間特性は直線で表されるものとして,次の問に答えよ。ただし,損失は無視する。

(1) 負荷遮断からガイドベーンを閉鎖し終わるまでに水車発電機に与えられるエネルギー $W$ [J] を $P$,$t$ 及び $\tau$ を用いて表せ。

(2) 出力運転中の回転速度を $N_\text{i}$ [min-1],最大回転速度を $N_\text{max}$ [min-1] としたとき,水車発電機が最大回転速度に到達した時点の運動エネルギーと負荷遮断前の運動エネルギーの差を,水車発電機の慣性モーメント $I$ [kg·m²] を用いて表せ。なお,回転体の角速度を $\omega$ [rad/s] としたとき,その運動エネルギー $W$ [J] は $\displaystyle W = \frac{1}{2}I\omega^2$ で表される。

(3) 小問 1. 及び小問 2. で求めたエネルギーは等しいことから,速度変動率 $\delta_\text{N}$ [%] を $P$,$t$,$\tau$,$I$ 及び定格回転速度 $N$ [min-1] を用いて表せ。ただし,$N \approx N_\text{i}$,$N_\text{i} + N_\text{max} \approx 2N$ とし,$\pi = 3.141 6$ とする。

不動時間が 0.5 秒に調整された水車発電機において,25 % 負荷での負荷遮断が発生したとき,閉鎖時間は 3 秒で速度変動率は 2 % であった。そこで,調速機の閉鎖時間の再調整を実施した。その結果,100 % 負荷での負荷遮断時の閉鎖時間は 4 秒であった。このときの速度変動率 [%] を小問 3. で得た式を用いて求めよ。

問1 解答と解説

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準備中

問2 油入変圧器の内部に発生する事故

電力系統に送電用変電所に用いられる油入変圧器の内部に発生する事故に関して,次の問に答えよ。小問 (2) ~ (5) については,200 字程度以内で簡潔に述べよ。

(1) 変圧器の事故のうち,巻線に関する事故様相について三つ挙げよ。

(2) 変圧器の流動帯電について,どのような現象であるか説明せよ。また,流動帯電により絶縁破壊に至る過程及び防止策について説明せよ。

(3) 変圧器の保護に用いられる機械式保護リレーと電気式保護リレーについて,代表的なリレーを挙げて検出方式を説明せよ。

(4) 変圧器の事故を未然に防止するための外部診断方法の一つである油中ガス分析について,ガスが発生する過程及び判定方法とあわせて説明せよ。

(5) 変圧器の事故により火災や噴油が発生した際の,当該変圧器の周辺機器や変電所周囲環境への波及防止策について,二つ挙げて説明せよ。

問2 解答と解説

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(1) 変圧器の事故のうち,巻線に関する事故様相

変圧器の巻線に関する事故様相を挙げる。

  • 巻線の層間短絡
  • 巻線と鉄心間の地絡
  • 高圧巻線と低圧巻線の混触
  • 巻線の断線

(2) 変圧器の流動帯電

流動帯電は,大容量の導油式変圧器において,冷却のために絶縁油を循環させる際の摩擦により,固体絶縁物が負電荷の,絶縁油が正電荷の静電気で帯電する現象である。静電気の蓄積が絶縁油の耐圧値を超えると静電気放電が発生し,これが進展すると変圧器の絶縁破壊に至る。防止策として,絶縁油の流速を抑える,流動帯電抑止剤を絶縁油に添加する,などの対策がとられる。

流動帯電の現象は,変圧器内部で油が流動することにより固体絶縁物の界面で電荷の分離を生じ,巻線内部や油道周辺の絶縁物に電荷が蓄積され,その部位の直流電位が上昇して静電気放電が発生する現象であり,この静電気放電が進展すると絶縁破壊を起こす。この流動帯電は,近年の変圧器の高電圧化・大容量化に伴い輸送限界容量を増大するため,油流量増大による冷却効率の向上や絶縁性能の向上を目的に絶縁物の乾燥処理など新しい技術が導入されたことにより,これまで変圧器では問題とされなかった油流による帯電がクローズアップされてきた。

電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」

(3) 変圧器の保護に用いられる機械式保護リレーと電気式保護リレー

(3)-1 機械式保護リレー
  • 衝撃圧力リレーは,事故時に変圧器内部で発生する分解ガスによる内圧上昇を検出する。内圧上昇が速いほど早く検出することができる。
  • ブッフホルツリレーは,事故によるガスの発生や油流増大を検出する。ただし,地震により誤動作する場合がある。
(3)-2 電気式保護リレー
  • 比率差動リレーは,変圧器一次・二次の電流の換算値の差を常に比較し,小さい場合は正常,整定値より大きい場合は内部事故として検出する。差電流を動作量,通過電流を抑制量として比率特性を持たせることで,検出感度と誤動作防止に優れている。
電気設備に関する技術基準を定める省令 第14条 過電流からの電線及び電気機械器具の保護対策

電路の必要な箇所には,過電流による加熱焼損から電線及び電気機械器具を保護し,かつ,火災の発生を防止できるよう,過電流遮断器を施設しなければならない。

(4) 油中ガス分析

(4) 油中ガス分析は,変圧器の絶縁油を採油し,溶解している可燃性ガスをクロマトグラフによって測定することにより,内部状態を診断する方法である。変圧器の内部に異常が発生すると,高温により絶縁油や絶縁紙が油中ガスとして熱分解し,アセチレンなどのガスが発生する。そこで,油中ガス分析によって検出したガスの種類・発生量や,複数種類のガスの成分比を基準値と比較することにより,変圧器内部の異常の有無や様相を判定する。

(5) 変圧器事故時の波及防止策

変圧器の事故により火災や噴油が発生した際の,当該変圧器の周辺機器や変電所周囲環境への波及防止策を挙げる。

  • 変圧器に火災が発生した場合に早期に消火するため,水噴霧などの固定消火装置や大形消火器を変圧器の周辺に設置し,火災発生時は自動的に起動する。(消火対策
  • 火災が発生した変圧器から,隣接する変圧器などへの類焼を防止するため,防火壁や防火水幕を設ける。(類焼防止対策
  • 変圧器事故による油流出や,変圧器火災の消火のための消火水が,変電所構外へ流出することを防止するため,油水流出防止せきや排油水槽を設ける。(公害防止対策

問3 三相遮断時の過渡安定性

図に示す 1 機無限大母線系統の 2 回線送電線において,1 回線の送電端母線の至近端で事故が起こり,当該回線の三相遮断が行われた場合の過渡安定性について,次の問に答えよ。

(1) 3 線地絡事故時に比べ 1 線地絡事故時の方が,過渡安定性面から見た送電線事故の過酷度合いは低い。この理由を,事故中の送電電力の違いをもとに,200 字程度以内で説明せよ。

(2) 3 線地絡事故に対し,事故除去時間が短いほど過渡安定性の余裕が増大する。この理由を,図中の $P$,$P_\text{m}$,$\delta$ を用いた等面積法の図を描き,説明せよ。ここに事故中の事故点電圧は零とする。

(3) 一般に,発電機励磁系に超速応励磁装置を用いて過渡安定性を改善する場合,PSS(Power System Stabilizer)を組み合わせることが多い。PSS を組み合わせる目的と PSS の基本機能を 200 字程度以内で説明せよ。

1 機無限大母線系統の 2 回線送電線
1 機無限大母線系統の 2 回線送電線

問3 解答と解説

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(1) 過渡安定性面から見た送電線事故の過酷度合い

線地絡の場合,事故中の正相分等価回路では,事故点インピーダンスとして事故点から見た逆相及び零相インピーダンスが挿入される。一方,3 線地絡時には,等価回路では事故点は短絡される。このため事故中における事故点の正相電圧の大きさは,3 線地絡時より 1 線地絡時の方が大きくなる。これにより 1 線地絡時の方が,事故中の発電機の送電電力が大きくなり,発電機の加速が抑制されるため,過渡安定性面から見た過酷度合いは小さくなる。

(2) 事故除去時間と過渡安定性の余裕との関係

準備中

(3) PSS を組み合わせる目的と PSS の基本性能

PSS を組み合わせる目的

速応励磁を用いた場合,発電機の第 1 波動揺の抑制には効果があるが,第 2 波以降の減衰が悪化する場合がある。PSS はこの減衰を改善することを目的とする。

PSS の基本機能

PSS は,発電機出力,発電機回転数などを入力信号とし,対象とする動揺周期に対し発電機加速(減速)時には励磁を強める(弱める)ように位相と大きさを調整し,動揺を抑制するための自動電圧調整装置(AVR)への補助信号を生成する。

系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)
図 系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)

問4 送電線から受電端に流入する無効電力

図に示すような送電系統において,次の問に答えよ。

ただし,単位は表記のない場合は,系統容量 1 000 MV·A,系統定格電圧を基準とする単位法 [p.u.] とする。

送電系統
送電系統
$\dot{V}_\text{s}$ 送電端電圧
$\dot{V}_\text{r}$ 受電端電圧
$P_\text{r}$ 負荷の有効電力
$Q_\text{r}$ 負荷の無効電力
$Q_\text{i}$ 送電線から受電端に流入する無効電力
$x$ 送電線のリアクタンス
$\delta$ 送電端と受電端の電圧位相差角 [rad]

(1) $Q_\text{i}$ を $V_\text{s}$,$V_\text{r}$,$x$ 及び $\delta$ で表す式を求めよ。ただし,遅れ無効電力を正とする。

(2) $\delta$ を十分に小さいとして $P_\text{r}$ による $\dot{V}_\text{r}$ の大きさの変化を考えなければ,$Q_\text{i}$ と $Q_\text{r}$ が等しくなる条件で受電端電圧の大きさ $V_\text{r}$ が決まる。$Q_\text{r}$ が $V_\text{r} = 1.0$ 付近で次式による特性を持つ場合,$V_\text{r}$ と $Q_\text{r}$ [Mvar] を求めよ。

\[ Q_\text{r} = 4 V_\text{r} - 3 \text{ [p.u.]} \]
(負荷の自己容量 600 MV·A を基準,定格電圧は送電系統に同じ)

ただし,送電端の $V_\text{s}$ は常に 1.0 とし,$x$ は 0.03 とする。

問4 解答と解説

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問5 二つの異なる電源系統間での無停電切換

二つの異なる電源系統から受電する電気所が,図のように CB1 を介して需要家に電気を供給している。電源系統 2 につながる乙母線は無限大母線と考えてよく,線間電圧の大きさは $V_0$ [V]($V_0 \gt 0$)である。甲母線につながる電源系統 1 には背後インピーダンス $\text{j}x$ [Ω] があり,背後電源の線間電圧の大きさが $V$ [V]($V \gt 0$),電源系統 2 に対する位相が $\theta$ [rad] 進んでいるとする。CB10 は母線連絡遮断器であり,常時開で運用されている。乙母線から供給していた需要家を,甲母線からの供給に無停電で切り換える必要が生じた。次の問に答えよ。

(1) 切り換えを手動で行うこととした。操作の手順を順序立てて述べよ。ただし,切り換え前には,LS11 及び LS12 が共に開放されているとする。

(2) 甲母線の三相短絡電流の大きさ $I_\text{s}$ [A],短絡容量 $S$ [V·A] を求めよ。

(3) CB10 を投入したときに LS11 から LS12 に向けて流れる電流 $\dot{I}$ [A] を求めよ。ただし,投入の前後で $V_0$,$V$,$\theta$ の値に変化はないものとし,需要家への供給電流は無視できるものとする。

(4) 電源系統 1 の電圧の大きさ $V$ が電源系統 2 の電圧の大きさ $V_0$ と等しいとする。この場合,母線電圧の位相差 $\theta$ が小さいならば,CB10 を投入したときに CB10 を流れる電流の大きさが $I_\text{s} \cdot |\theta|$ [A] で近似できることを示せ。

二つの異なる電源系統間での無停電切換
二つの異なる電源系統間での無停電切換

問5 解答と解説

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問6 直流連系

我が国の一般送配電事業者(沖縄電力株式会社を除く。)間の電力系統は,互いに接続されることで広域運営が行われているが,これらの中には直流周波数変換装置や直流送電線等,直流設備を介した直流連系が存在する。直流連系に関して,次の問に答えよ。

(1) 我が国の系統周波数は 50 Hz と 60 Hz に分かれていることから,広域運営のための周波数変換所が現在 3 箇所存在する。これら 3 箇所の名称を全て答えよ。

(2) 周波数が異なる系統の連系が可能となること以外の直流連系の長所及び短所について,それぞれ三つずつ答えよ。

(3) 周波数が同じ電力系統間において,直流連系が採用されている場合がある。そのうち,BTB 方式と呼ばれる直流連系に関して,次の問に答えよ。

  1. BTB 方式による直流連系の設備構成上の特徴を答えよ。
  2. BTB 方式による直流連系は,我が国では現在,隣接する一般送配電事業者 3 者間の電力系統の連系において 1 箇所の連系所に採用されている。この場合において,交流連系ではなく直流連系が採用された最も大きな技術的理由を答えよ。

問6 解答と解説

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(1) 広域運用のための周波数変換所

我が国の広域運営のための周波数変換所は,佐久間周波数変換所新信濃変電所東清水変電所である。

(2) 直流連系の長所と短所

周波数が異なる系統の連系が可能となること以外の直流連系の長所と短所は,次の通り。

直流連系の長所
  • 充電電流がないため,ケーブルによる長距離の連系が可能である。
  • 位相角による安定度問題がないため,長距離大容量の連系が可能である。
  • 交流系統の短絡容量は連系によって増大しない。
  • 潮流を急速かつ自由に制御できる。
  • 交流系統の事故が他系統に波及しない。
  • 送電線の建設費用が同等の交流と比較して小さい。
直流連系の短所
  • 変換設備の建設費用が高い。
  • 交流の短絡容量が小さいと,電圧・高調波不安定,軸ねじれ振動の問題が発生する。
  • 多端子系統の構成では制御・保護が複雑となる。
  • 高調波や高周波対策が必要となる。
  • 交流のじょう乱で運転に影響を受ける。
  • 他励式の場合,送電電力に応じた無効電力補償装置が必要となる。

(3) BTB 方式と呼ばれる直流連系

(3)-1 BTB 方式による直流連系の設備構成上の特徴

BTB 方式による直流連系の設備構成上の特徴は,2 組の交直変換装置を 1 箇所に設置し交直変換装置同士が背中合わせとなるような設備構成(Back to Back)となっており,交直変換装置間に直流送電線がない。

(3)-2 BTB 方式による直流連系が採用された最も大きな技術的理由

交流連系とした場合,一般送配電事業者 3 者間(中部電力パワーグリッド,北陸電力送配電,関西送配電)にまたがる交流ループ系統になり,常時の潮流制御が困難になるため。

南福光変電所・連系所

北陸地域と中部地域間の交流ループ系統の潮流調整として,南福光変電所・連系所に 2 台の交直変換器で直流送電線を介さない BTB(Back to Back)方式の変換容量 300 MW の直流連系設備が 1999 年に運転を開始した。同設備には水冷式光直接点弧サイリスタバルブが使用されており,また,系統運用としてなんらかの理由で常時の交流連系が解け,北陸系統が単独となった緊急時に北陸系統の周波数変動を改善するため北陸系統と中部系統の周波数偏差に応じて連系電力を AFC 制御機能が付加されている。

(出典)道上 勉 著,「電気学会大学講座 送配電工学[改訂版]」
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