平成28年度 第二種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月5日更新

目次

  1. 部分負荷運転時における水車効率の向上策
  2. 変圧器の油中ガス分析
  3. 電線のたるみ
  4. 配電線の 1 線地絡故障
  5. 変電所の接地
  6. 故障計算

問1 部分負荷運転時における水車効率の向上策

水力発電所の部分負荷運転時における水力効率の向上策に関して,次の問に答えよ。

  1. ペルトン水車の運用方法による部分負荷運転時の水車効率の向上策について説明せよ。
  2. クロスフロー水車について,部分負荷運転時の水車効率を向上させる目的で設置する設備の特徴とともにその運用方法を説明せよ。
  3. カプラン水車や斜流水車の運用方法による部分負荷運転時の水車効率の向上策について説明せよ。

問1 解答と解説

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1. ペルトン水車

ペルトン水車では,ノズルの使用射数を減らす又はニードルを絞ることで,流速を維持し,部分負荷での効率を高めている。

2. クロスフロー水車

クロスフロー水車では,ガイドベーンを二枚として,流量の減少に合わせて,二枚,一枚のみ使用と変更していくことにより,流量に応じた部分負荷での効率を高めている。また,ガイドベーンを大小の二分割構成で設置し,大小両方,大のみ,小のみ使用と変更していくことにより,流量に応じた部分負荷での効率を高めている。

カプラン水車や斜流水車

カプラン水車や斜流水車では,ガイドベーンと連動してランナベーンの開度を調整することで,部分負荷での効率を高めている。

問2 変圧器の油中ガス分析

変圧器の異常診断手法として油中ガス分析が用いられている。油中ガス分析は可燃性ガスの量や組成比などから内部異常の有無・様相を診断する手法である。油中ガス分析による異常診断方法及び最終的な処置を決定するための総合診断に関する下記項目について述べよ。

  1. 過熱時に発生する特徴的なガスを二つ挙げ,その発生ガスの組成比などから推定できる過熱の様相について述べよ。
  2. 放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガスを一つ挙げ,内部異常時以外にもこのガスが発生する要因について述べよ。
  3. 油中ガス分析で内部異常と診断された場合,総合診断を行うために実施すべき試験・点検・調査事項並びに,最終的に決定する処置内容について述べよ。

問2 解答と解説

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1. 過熱時に発生する特徴的なガス

過熱時に発生する特徴的なガスとしてエチレン(C2H4)とエタン(C2H6)が挙げられる。

過熱レベル(高温過熱・低温過熱)により発生ガスの成分が変化し,高温過熱ではエチレンが,低温過熱ではエタンが多く発生する。また,組成比などから過熱部位(巻線部・金属部)の推定を行うことができる。

2. 放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガス

放電時に発生する特徴的なガスとしてアセチレン(C2H2),水素(H2)が挙げられる。アセチレンは絶縁油から発生する分解ガスのうち,アーク放電など特に高温時に発生するものである。

水素は経年劣化でも発生する一方,アセチレンは微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高い。

アセチレンは LTC(負荷時タップ切換器)動作時に切換開閉器室内の絶縁油が分解することでも発生することから,LTC 内の絶縁油が変圧器本体タンクへ混入すると内部異常と誤診断されるおそれがあるため,注意が必要である。

3. 総合診断を行うために実施すべき試験・点検・調査事項

電気的試験(巻線抵抗,部分放電測定など),外部一般点検(放圧管の動作,タンクの変形など),運転履歴・改修履歴の調査(過負荷運転など)などの項目を総合して,変圧器の運転継続可否,内部点検・修理の要否などの最終的な処置を決定する。

(1) 外部点検

変圧器などの外部一般点検は内部異常に伴う内圧上昇,温度上昇などによる外観の異常および補機類の状態など,以下の項目などにポイントをおいて行う。

  • 放圧板の亀裂,噴油
  • タンクの変形,振動,漏油,油温上昇,油面,窒素圧の異常
  • ブッシングの放電痕
  • 送油ポンプ,負荷時タップ切換装置の動作状態
(2) 運転歴,改修歴の調査

以下の項目などについて運転歴,改修歴を調査し,油中ガス分析結果の判定を誤らないようにする。

  • 運転年数,運転状態(過負荷,過励磁など)
  • 季節,負荷による油温変化
  • 負荷時タップ切換器の切換開閉器室のシール不良
  • タンクなどの溶接修理
  • 過去の事故時の残留ガス
  • 油劣化防止方式
(3) 電気的試験

油中ガス分析による診断結果と関連させて試験項目を選定する。例えば,油中ガス分析結果において過熱異常と診断された場合には,主回路の各接続部およびタップ切換器などの接触不良を予測して各巻線および,各タップにおける巻線抵抗を測定する。また,放電異常と診断された場合には巻線の層間短絡を想定して変圧比試験,励磁電流測定などを実施する。

問3 電線のたるみ

電線のたるみに関して,次の問に答えよ。

図は電線のたるみを表している。点 A,B は同一水平面上にある二つの支持点であり,その間の距離を $S$ [m] ,ここからたるみ $D$ [m] だけ下がったところにある最下点 O を座標軸の原点とした。電線の形状は二次関数で表しても誤差は小さいことが知られているので,縦軸方向の変数 $Y$ [m] ,横軸方向の変数 $X$ [m] ,係数 $a$ [m] を用いて,

\[ Y=\frac{X^2}{2a} \]
・・・・・①

と表すことにする。支持点における電線の張力を $T$ [N] ,電線の単位長さ当たりの質量を $W$ [kg/m] として,たるみ $D$ に関する②式を導出したい。$g$ [m/s2] は重力加速度を意味している。

\[ D=\frac{WgS^2}{8T} \]
・・・・・②
  1. ①式を基に支持点 B における電線の傾きを $a$ と $S$ を用いて表せ。
  2. 支持点における張力の垂直分力が電線自重の半分に等しいことを用いて $a$ を $T$ と $W$ で表せ。ただし,支持点での電線が水平直線となす角 $\theta$ は小さいため,$\tan{\theta} \approx \sin{\theta}$ と近似すること。また,電線の長さは $S$ と等しいものとする。
  3. たるみ $D$ は支持点の $Y$ の値に他ならない。これに注意して上記②式を導出せよ。
電線のたるみ
電線のたるみ

問3 解答と解説

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1. 支持点 B における電線の傾き

縦軸方向の変数 $Y$ を $X$ で微分する。

\[ \frac{\text{d}Y}{\text{d}X} = \frac{X}{a} \]

上式に $X = S/2$ を代入すれば,支持点 B における電線の傾きを求められる。

\[ \frac{\text{d}Y}{\text{d}X} = \frac{S}{2a} \]

2. 係数 $a$

支持点における張力の垂直分力は,次式で求められる。

\[ T\sin{\theta} \approx T\tan{\theta} = T \times \frac{S}{2a} \]

一方,電線自重の半分は,次式で求められる。

\[ \frac{SWg}{2} \]

支持点における張力の垂直分力が電線自重の半分に等しいので,次式が成り立ち,係数 $a$ で整理する。

\[ T \times \frac{S}{2a} = \frac{SWg}{2} \] \[ a = \frac{T}{Wg} \]

3. たるみ $D$ の導出

係数 $a$ を用いて,支持点における $Y$ を求める。

\[ Y = \frac{X^2}{2a} = \frac{Wg}{2T} \times (\frac{X}{2})^2 = \frac{WgS^2}{8T} \]

問4 配電線の 1 線地絡故障

図のような 6.6 kV ,50 Hz の三相 3 線式配電線がある。A 配電線に 1 線地絡故障が発生した際,変電所に施設した A 配電線用零相変流器(ZCT)に流れる零相電流の合計値を,次の 1. ~ 4. に基づき答えよ。

ただし,配電線 1 線当たりの対地静電容量は 0.01 μF/km ,配電線のこう長は A,B ともに 5 km ,接地用変圧器(GPT)二次側の挿入抵抗 $r$ は 50 Ω,GPT の変成比は 6 600 V/110 V,配電線の電圧は 6 600 V(平衡三相電圧),地絡抵抗 $R_\text{g}$ は 100 Ω とし,その他定数は無視するものとする。

  1. A,B 配電線の 1 線当たりの対地アドミタンスを $\dot{Y}$,GPT 二次側挿入抵抗の一次側に換算した等価中性点抵抗を $R_\text{n}$,地絡抵抗を $R_\text{g}$,地絡故障が発生した線の故障発生前の対地電圧を $\dot{E}_\text{a}$ とするとき,1 線地絡故障時の等価回路を示せ。
  2. 地絡点からみたインピーダンス $\dot{Z}$ 及び A 配電線用 ZCT に流れる零相電流 $\dot{I}_\text{AG}$ を等価回路から $\dot{Y}$,$R_\text{n}$,$R_\text{g}$ 及び $\dot{E}_\text{a}$ を用いて表せ。
  3. $R_\text{n}$ をGPT の二次側挿入抵抗値から,一次側に換算した値で求めよ。
  4. 各値を用いて $\dot{I}_\text{AG}$ の大きさを計算せよ。
配電線の1線地絡故障
配電線の 1 線地絡故障

問4 解答と解説

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1. 1 線地絡故障時の等価回路

1 線地絡故障時の等価回路を下図に示す。

1 線地絡故障時の等価回路
1 線地絡故障時の等価回路

2. A 配電線用 ZCT に流れる零相電流 $\dot{I}_\text{AG}$

地絡点から見たインピーダンスは,次式となる。

\[ \dot{Z} = R_\text{g} + \frac{1}{6\dot{Y} + \frac{1}{R_\text{n}}} \]

A 配電線用 ZCT に流れる零相電流 $\dot{I}_\text{g}$ は次式により求められる。

\[ \dot{I}_\text{AG} = \frac{\dot{E}_\text{a}}{\dot{Z}} \times \frac{\frac{1}{3\dot{Y}}}{\frac{1}{3\dot{Y}} + \frac{1}{3\dot{Y} + \frac{1}{R_\text{n}}}} \] \[ \dot{I}_\text{AG} = \frac{1 + 3\dot{Y}R_\text{n}}{R_\text{g}+ R_\text{n} + 6\dot{Y}R_\text{g}R_\text{n}}\dot{E}_\text{a} \]

3. GPT の二次側挿入抵抗の一次側換算値

GPT の二次側挿入抵抗の一次側換算値 $R_\text{n}$ は,GPT の二次側挿入抵抗を $r$,GPT の変成比を $n$ とすると,次式で求められる。

\[ R_\text{n} = \frac{r}{3} \times n^2 \times \frac{1}{3} = \frac{50}{3} \times (\frac{6600}{110})^2 \times \frac{1}{3} = 20 000 \text{ [Ω]} \]

4. $\dot{I}_\text{AG}$ の大きさ

対地アドミタンス(三相)を求める。

\[ \dot{Y} = 3 \text{j}\omega C = 3 \times \text{j} \times 2 \times \pi \times 50 \times 0.01 \times 10^{-6} \times 5 = \text{j}4.71 \times 10^{-5} \text{ [S]} \]

各値を $\dot{I}_\text{AG}$ に代入する。

\[ \dot{I}_\text{AG} = \frac{1 + \text{j}4.71 \times 10^{-5} \times 20000}{100 + 20000 + 2 \times 4.71 \times 10^{-5} \times 100 \times 20000} \times \frac{6600}{\sqrt{3}} \] \[ |\dot{I}_\text{AG}| = 0.260 \text{ [A]} \]

問5 変電所の接地

変電所の接地に関して,次の問に答えよ。

  1. 変電所の接地設計においては,人体にかかる歩幅電圧及び接触電圧を考慮する必要がある。歩幅電圧及び接触電圧について,それぞれ簡潔に説明せよ。
  2. 次の条件における,歩幅電圧及び接触電圧の許容値をそれぞれ求めよ。なお,手の接触抵抗は無視することとする。

(計算条件)

人体に対する電流の許容値:IK = 0.116/√t [A]
片足あたりの大地との抵抗:RF = 400 Ω
人体の抵抗:RK = 1 000 Ω
事故電流の継続時間:t = 1 s
  1. 歩幅電圧又は接触電圧が許容値を若干超えてしまう場合,対策として,取り扱われる機器の周囲の地表の砂利層を厚くすることがある。なぜ効果があるのか簡潔に説明せよ。

問5 解答と解説

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1-1. 歩幅電圧

接地極に大電流(事故電流)が流れるとき,大地の電位の傾きにより地表面の 2 点間に電位差が生じる。これにより人体の両足間に加わる電圧をいう。

1-2. 接触電圧

接地極に大電流(事故電流)が流れるとき,大地の電位の傾きにより,接地した物体とその物体と少し離れた地表面との間に電位差が生じ,接地した物体に人体が接触した場合に人体に加わる電圧をいう。

2-1. 歩幅電圧の許容値

(RK + 2RF) × IK = (1 000 + 2 × 400) × 0.116 = 208.8 → 209 [V]

2-2. 接触電圧の許容値

(RK + RF/2) × IK = (1 000 + 400/2) × 0.116 = 139.2 → 139 [V]

3. 砂利層の効果

足の大地との抵抗を大きくすることができるため,歩幅電圧と接触電圧の許容値を大きくすることができる。

問6 故障計算

図 1 は,送電線から受電した 66 kV を 20 MV·A 変圧器で降圧して 6.6 kV 負荷回路に供給する回路である。Z0Z3 がそれぞれの送電線路,配電線路における区分ごとの合成インピーダンスを表すとき,次の問に答えよ。ただし,上位系統の背後電圧を 66 kV 一定とし,負荷回路からの短絡電流供給はないものとする。

  1. 66 kV CB3 から見た電源側背後インピーダンスの大きさ [Ω] を求めよ。
  2. 66 kV CB3 における三相短絡電流 [kA] を求めよ。
  3. 6.6 kV CB6 における三相短絡電流 [kA] を求めよ。
  4. 100 MV·A の発電機(初期過渡リアクタンス Z4 = j12 % )を図 2 のように 66 kV 母線に接続することとした。CB2,CB3 及び CB7 の定格遮断電流が 20 kA であるとき,100 MV·A 変圧器の自己容量基準パーセントインピーダンスの下限値 [%] を求めよ。
図1
図1
図2
図2

問6 解答と解説

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1. 66 kV CB3 から見た電源側背後インピーダンスの大きさ

66 kV CB3 から見た電源側背後インピーダンスの大きさは,次式で求められる。

\[ \frac{66^2}{100} \times {2.5 + 3.5}{100} = 2.6136 \approx 2.61 \text{ [Ω]} \]

2. 66 kV CB3 における三相短絡電流

66 kV CB3 における三相短絡電流は,次式で求められる。

\[ \frac{100}{66 \times \sqrt{3}} \times \frac{100}{6.0} = 14.5795 \approx 14.6 \text{ [kA]} \]

3. 6.6 kV CB6 における三相短絡電流

10 MV·A 基準で,6.6 kV CB6 より電源側のパーセントインピーダンスを求める。

\[ \text{j}2.5 \times \frac{10}{100} + \text{j}3.5 \times \frac{10}{100} + \text{j}8.8 \times \frac{10}{20} + (5 + \text{j}7) = 5 + \text{j}12 \]

6.6 kV CB6 における三相短絡電流は次式で求められる。

\[ \frac{10}{6.6 \times \sqrt{3}} \times \frac{1}{\sqrt{0.05^2 + 0.12^2}} = \frac{0.87477}{0.13} = 6.729 \approx 6.73 \text{ [kA]} \]

4. 100 MV·A 変圧器の自己容量基準パーセントインピーダンスの下限値

CB2,CB3 及び CB7 の定格遮断電流が 20 kA を超過しないためには,次式が成立する必要がある。なお,次式では,100 MV·A 基準とし,100 MV·A 変圧器の自己容量基準パーセントインピーダンスの下限値を $x$ としている。。

\[ (\frac{100}{2.5 + 3.5} + \frac{100}{x + 12}) \times \frac{100}{66 \times \sqrt{3}} \le 20 \] \[ 4.140 \le x \]
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