【要点ノート】エネルギー管理技術の基礎

2013年7月19日作成,更新

エネルギー管理技術の基礎

エネルギー管理技術の基礎について解説する。

工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準

平成30年3月30日経済産業省令告示第59号(一部改正)

判断基準とは、エネルギーを使用し事業を行う全ての事業者が、エネルギーの使用の合理化を適切かつ有効に実施するために必要な判断の基準となるべき事項を告示として公表したものである。

各事業者はこの判断基準に基づき、エネルギー消費設備ごとや省エネルギー分野ごとに、運転管理や計測・記録、保守・点検、新設に当たっての措置のうち、該当するものについて管理標準を定め、これに基づきエネルギーの使用の合理化に努めなければなりません。判断基準は基準部分と目標部分で構成されている。

Ⅰ エネルギーの使用の合理化の基準(『基準部分』)

Ⅰ - 1 全ての事情者が取り組むべき事項

工場又は事務所その他の事業所(以下「工場等」という。)においてエネルギーを使用して事業を行う者(以下「事業者」という。)は燃料並びに熱及び電気の合計のエネルギーの使用の合理化を図るため,燃料並びに熱及び電気の特性を十分に考慮するとともに,その設置している工場等(連鎖化事業者については,当該連鎖化事業者が行う連鎖化事業の加盟者が設置している当該連鎖化事業に係る工場等(以下「加盟している工場等」という。)を含む。)全体を俯瞰し,次の 1. ~ 8. に定める取組を行うことにより,適切なエネルギー管理を行うこと。

  1. 取組方針の策定
  2. 管理体制の整備
  3. 責任者等の配置
  4. 資金人材の確保
  5. 従業員への周知・教育
  6. 取組方針の遵守状況の確認等
  7. 取組方針の精査等
  8. 文書管理による状況把握

Ⅰ - 2

1 工場単位,設備単位での基本的実施事項
  1. 設備の運転効率化や生産プロセスの合理化等による生産性の向上を通じ,エネルギーの使用の合理化を図ること。
  2. エネルギー管理に係る計量器等の整備を行うこと。
  3. エネルギー消費量の大きい設備の廃熱等の発生状況を,優先順位等をつけて把握・分析し課題を抽出すること。
  4. 既存の設備に関し,エネルギー効率や老朽化の状況等を把握・分析し,エネルギーの使用の合理化の観点から更新,改造等の優先順位を整理すること。
  5. エネルギーを消費する設備の選定,導入においては,エネルギー効率の高い機器を優先するとともに,その能力・容量に係る余裕度の最適化に努めること。
  6. 休日や非操業時等においては,操業の開始及び停止に伴うエネルギー損失等を考慮した上でエネルギー使用の最小化に努めること。
2 エネルギー消費設備等に関する事項
2-1 専ら事務所その他これに類する用途に供する工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事項
  1. 空気調和設備,換気設備に関する事項
  2. ボイラー設備,給湯設備に関する事項
  3. 照明設備,昇降機,動力設備に関する事項
  4. 受変電設備,BEMS(Building Energey Management System)に関する事項
  5. 発電専用設備及びコージェネレーション設備に関する事項
  6. 事務用機器,民生用機器に関する事項
  7. 業務用機器に関する事項
  8. その他エネルギーの使用の合理化に関する事項
2-2 工場等(2-1 に該当するものを除く。)におけるエネルギーの使用の合理化に関する事項
  1. 燃料の燃焼の合理化
  2. 加熱及び冷却並びに伝熱の合理化
  3. 廃熱の回収利用
  4. 熱の動力等への変換の合理化
  5. 放射,伝導,抵抗等によるエネルギーの損失の防止
  6. 電気の動力,熱等への変換の合理化
(2-2) 空気調和設備,給湯設備
① 空気調和設備,給湯設備の管理

空気調和設備を構成する熱源設備、熱搬送設備、空気調和機設備の管理は、外気条件の季節変動等に応じ、冷却水温度や冷温水温度、圧力等の設定により、空気調和設備の総合的なエネルギー効率を向上させるように管理標準を設定して行うこと。

(6-1) 電動力応用設備
① 電動力応用設備,電気加熱設備等の管理

複数の電動機を使用するときは、それぞれの電動機の部分負荷における効率を考慮して、電動機全体の効率が高くなるように管理標準を設定し、稼働台数の調整及び負荷の適正配分を行うこと。

④ 電動力応用設備、電気加熱設備等の新設・更新に当たっての措置

電動機については、その特性、種類を勘案し、負荷機械の運転特性及び稼動状況に応じて所要出力に見合った容量のものを配置すること。

Ⅱ エネルギーの使用の合理化の目標及び計画的に取り組むべき措置(『目標及び措置部分』)

事業者は,上記 Ⅰ に掲げる諸基準を遵守するとともに,その設置している工場等におけるエネルギー消費原単位及び電気の需要の平準化に資する措置を評価したエネルギー消費源単位(以下「電気需要平準化評価原単位」という。)を管理し,その設置している工場等全体として又は工場等ごとにエネルギー消費原単位又は電気需要平準化評価原単位を中長期的にみて年平均 1 % 以上低減させることを目標として,技術的かつ経済的に可能な範囲内で,1 及び 2 に掲げる諸目標及び処置の実現に努めるものとする。

1 エネルギー消費設備等に関する事項

1-1 専ら事務所その他これに類する用途に供する工場等におけるエネルギーの使用の合理化の目標及び計画的に取り組むべき措置
  1. 空気調和設備
  2. 換気設備
  3. ボイラー設備
  4. 給湯設備
  5. 照明設備
  6. 昇降機
  7. BEMS(Building Energey Management System)
  8. コージェネレーション設備
  9. 電気使用設備
1-2 工場等(1-1 に該当するものを除く。)におけるエネルギーの使用の合理化の目標及び計画的に取り組むべき措置

工場等におけるエネルギーの使用の合理化の目標及び計画に取り組むべき措置を講ずべきエネルギー消費設備等の対象となるのは,以下のとおり。

  1. 燃焼設備
  2. 熱利用設備
  3. 廃熱回収装置
  4. コージェネレーション設備
  5. 電気使用設備
  6. 空気調和設備,給湯設備,換気設備,昇降機等
  7. 照明設備
  8. 工場エネルギー管理システム

工場エネルギー管理システムについては,次に掲げる事項等の措置を講じることにより,エネルギーの効率的利用の実施について検討すること。

  1. エネルギーの中核となる設備として,系統別に年単位,季節単位,月単位,週単位,日単位又は時間単位等でエネルギー管理を実施し,数値,グラフ等で過去の実績と比較したエネルギーの消費動向等が把握できるよう検討すること。
  2. 燃焼設備,熱利用設備,廃熱回収設備,コージェネレーション設備,電気使用設備,空気調和設備,換気設備,給湯設備等について統合的な省エネルギー制御を実施することを検討すること。
  3. 機器や設備の保守状況,運転時間,運転特性値等を比較検討し,機器や設備の劣化状況,保守時期等が把握できるよう検討すること。
2 その他エネルギーの使用の合理化に関する事項
  1. 熱エネルギーの効率的利用のための検討
    熱の効率的利用を図るためには,有効エネルギー(エクセルギー)の観点からの総合的なエネルギー使用状況のデータを整備するとともに、熱利用の温度的な整合性改善についても検討すること。
  2. 余剰蒸気の活用等
  3. 未利用エネルギーの活用
  4. エネルギーの使用の合理化に関するサービス提供事業者の活用
  5. エネルギーの地域での融通
  6. エネルギーの使用の合理化に関するツールや手法の活用
  7. エネルギーの使用の合理化に関する情報技術の活用

空気比の算定

空気比の算定は次式により行い,結果は基準空気比の値の有効桁数が小数第 1 位までの場合にあっては小数第 2 位を,小数第 2 位の場合にあっては小数第 3 位をそれぞれ四捨五入して求めるものとする。(工場・事業場判断基準の別表第1 (A) の備考の計算式より)

空気比 = 21 / (21 - 排ガス中の酸素濃度 [パーセント])

その他

蒸発潜熱

蒸気の圧力が上昇し,臨界圧力になると蒸発潜熱は零となる。このことからもわかるとおり,圧力の低い蒸気ほど蒸発潜熱が大きくなることがわかる。

表 飽和温度,蒸発潜熱の一例
圧力 [MPa] 飽和温度 [°C] 蒸発潜熱 [kJ/kg] 備考
0.1 99.6 2 258
0.0113 100.0 2 257 大気圧
0.5 151.8 2 107
22.12 374.15 0 臨界圧力

乾き度

湿り蒸気では,飽和液と乾き飽和蒸気が共存している。この蒸気の乾き度とは,湿り蒸気全体に対する飽和蒸気の質量割合を示すものである。乾き度が高い蒸気ほど単位質量当たりの凝縮潜熱が大きい。

熱の移動形態

熱はつねに高温の領域から低温の領域へ移動する。この熱の移動の形式には対流(convection),熱伝導(conduction of heat),熱放射(heat radiation)の 3 つがある。

対流(convection)

液体や気体の内部に何らかの原因によって温度の不均一が生じると,物質の密度は一般に温度に依存するので,密度が不均一になる。このため液体または気体の内部の各部分が不均一な浮力を受けて力の釣り合いが保てなくなり,上昇する流れと下降する流れが混じった複雑な流れを生ずる。これを自然対流または熱対流という。対流が生じると熱の輸送が熱伝導よりも速やかに行われる。

これに対して人為的に液体や気体の流れを起こして熱を運ぶ場合を強制対流という。発熱体の強制冷却や熱交換機において重要である。

熱伝導(conduction of heat)

物質の巨視的な移動をともなわない熱の伝達現象を熱伝導という。棒状の物体内の熱伝導を考える。物体内の温度 $T$ が棒の一端からの距離 $x$ だけで決まるとする。このとき $x$ 軸に垂直な断面を通して時間 $\text{d}t$ の間に伝わる熱量 $\text{d}Q$ は断面積 $A$ と温度勾配 $\text{d}T/\text{d}x$ に比例し,次式で表される。

\[ \text{d}Q = -\lambda A \frac{\text{d}T}{\text{d}x}\text{d}t \]

負号は熱が高温から低温へ向かって流れることを意味する。比例定数 $\lambda$ は熱伝導率と呼ばれる。$\lambda$ がきわめて小さい物質を熱の絶縁体または断熱材という。

熱伝導率
物質 熱伝導率 [W/m·K]
427
402
アルミニウム 237
82
ステンレス 14
氷(0 °C) 2.2
ガラス 0.7
レンガ 0.6
0.58
木材 0.15
コルク 0.05
空気 0.0026
氷以外は室温における値

単位面積当たりの熱流

板の厚さを $d$ [m],熱伝導率を $\lambda$ [W/(m·K)],板両面の温度を $\theta_1$,$\theta_2$ [°C] とすると,板の厚さ方向に伝わる単位面積当たりの熱流 $q$ [W/m²] は,次式で表される。

\[ q = \lambda\frac{\theta_1-\theta_2}{d} \]

一方,熱抵抗 $R_\text{th}$ [K/W] は,板の厚さ $d$ [m],熱伝導率 $\lambda$ [W/(m·K)] から求められる。

\[ R_\text{th}= \frac{d}{\lambda} \]

熱抵抗 $R_\text{th}$ [K/W] を用いると,板の厚さ方向に伝わる単位面積当たりの熱流 $q$ [W/m²] は,次式で表される。

\[ q = \frac{\theta_1 - \theta_2}{R_\text{th}} \]
熱流束(heat flux)

熱流束とは,流速のひとつで,単位時間に単位面積を横切る熱量である。単位には W/m2 が用いられる。

電気系と熱系の計算諸量の対比

電気系と熱系の計算諸量を対比を示す。

電気系 熱系
電位差 温度差
電流密度 熱流束

熱放射(heat radiation)

物体の表面から電磁波の形でエネルギーが放射される現象を熱放射といい,真空中を通しても熱は伝えられる。熱放射は物体の温度が高いほど大きく,絶対温度 $T$ の 4 乗に比例する。物体の表面積 $A$ から時間 $\text{d}t$ の間に放射される全エネルギー $\text{d}Q$ は次式で与えられる。

\[ \text{d}Q = e \sigma T^4 A \text{d}t \]

$e$ は表面の状態と放射光の平均波長に依存する係数で,放射率(emissivity)と呼ばれる。放射エネルギーを完全に吸収する物体(黒体)は $e = 1$,完全に反射する物体は $e = 0$ であり,一般には $0 \le e \le 1$ である。上式はステファン・ボルツマンの法則(Stefan - Bolzmann's law)として知られている。比例定数 $\sigma$ はステファン・ボルツマン定数といい,$\sigma = 5.6705 \times 10^{-8}$ J/m²·s·K4 の値をもつ。

熱的平衡状態にある物体表面の放射率

外部から物体に放射エネルギーが与えられ熱的平衡状態にあるとき,その物体の反射率,吸収率及び透過率の和は,エネルギーの保存則から 1 である。これらの中で,この熱的平衡状態にある物体表面の放射率に等しいのは,吸収率である。

単位時間当たりに放射されるエネルギー

単位時間当たりに放射されるエネルギー $E$ [kW/m²] は次式で表される。

\[ E = e\sigma T^4 \]

ここで,$e$ は放射率,$\sigma$ はステファン・ボルツマン定数,$T$ は物体の絶対温度 [K] である。

カルノーサイクル

カルノーサイクルとは

カルノーサイクル(Cornot cycle)は,温度の異なる 2 つの熱源の間で動作する可逆な熱力学サイクルの一種であり,等温過程断熱過程という 2 種類の準静的過程で構成された熱機関のことである。

ニコラ・レオナール・サディ・カルノーが熱機関の研究のために思考実験として 1824 年に導入したものである。カルノーの導入以降しばらくは注目されなかったが,19 世紀後半にウィリアム・トムソンにより再発見された後に本格的な熱力学の起点となり,熱力学第二法則,エントロピー等の重要な概念が導き出されることになった。

カルノーサイクルは実際には実現不可能だが,限りなく近いものを作ることは可能であり,スターリングエンジンはこれに近い。

ニコラ・レオナール・サディ・カルノー
ニコラ・レオナール・サディ・カルノー
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カルノーサイクルの熱効率

高温熱源の温度を $T_1$ [K],低温熱源の温度を $T_2$ [K] とすると,カルノーサイクルの熱効率 $\eta$ [%] は,次式となる。

\[ \eta = (1 - \frac{T_2}{T_1})\times 100 \]

熱量と電気量の関係

熱量と電気量には,1 [kW·h] = 3600 [kJ] の関係がある。

直列合成インピーダンス

抵抗を R [Ω],リアクタンスを X [Ω] とすると,直列合成インピーダンス Z [Ω] は次式で表される。

\[ Z = \sqrt{R^2 + X^2} \]

三相 3 線式の消費電力

三相 3 線式の電圧を V [V],力率を cosθ,線電流を I [A] とすると,消費電力 P [W] は次式で表される。

\[ P = \sqrt{3}VI\cos\theta \]

力率

力率は有効電力/皮相電力で表され,力率が低くなると,変電設備や配電線において,電力損失が増加したり電圧降下が大きくなったりする。

本稿の参考文献

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