【要点ノート】電気機器その1

2013年7月26日作成,2022年7月17日更新

電気機器

変圧器

変圧器(power transformer)は,鉄心と二つまたはそれ以上の巻線をもつ静止誘導機器であり,電磁誘導作用により一つの交流電圧および電流の系統から,電圧および電流が異なる他の系統に,同一周波数で電力伝送することを目的として変成するものとして定義されている。

変圧器の最も主要な用途は,その名を示すように,交流の電圧を変えることである。一定の交流電圧を $V_1$ [V] から $V_2$ [V] に変えれば,同時に電流も $I_1$ [A] から $I_2$ [A] に変わり,力率を $\cos{\phi}$ で表せば次式が成立する。

\[ V_1 I_1 \cos{\phi} = V_2 I_2 \cos{\phi} \] \[ V_1 I_1 = V_2 I_2 \]

変圧器の構造

変圧器は磁束の通路となる鉄心(core)と,磁束と鎖交する電流の通路となる巻線(winding)と,これらを絶縁する絶縁物及びこれらの相互位置や機械的強度を保つための締付装置などで変圧器本体を構成している。これらは変圧器の大小や用途にかかわらず,必ず持っている基本構造である。

鉄心

変圧器の鉄心は,うず電流を減少させるために薄鋼板を成層して用いる。変圧器用薄鋼板に必要な性質としては,次のようなことがあげられる。

  1. 励磁電流を小さくするため,透磁率が高いこと。
  2. うず電流損を小さくするため,電気抵抗が大きいこと。
  3. ヒステリシス損を小さくするため,ヒステリシス係数の小さいこと。

このことから,表面に無機質の絶縁皮膜を施した厚さ 0.3 mm または 0.35 mm の薄いケイ素鋼帯が使用される。このうち,方向性ケイ素鋼帯は,圧延方向に特性がよいので,小形のものを除いては多く用いられ,その場合は圧延方向に磁束を通すようにする。

(参考)アモルファス磁性材料

アモルファス磁性材料は,鉄,ニッケル,コバルトなどの強磁性体とほう素やけい素からなる非結晶状態の合金である。アモルファス磁性材料は,方向性けい素鋼帯に比べて鉄損は約 1/3,励磁電流や約 1/3,電気抵抗は約 3 倍となり,省エネルギーに効果的な磁性材料である。しかし一方で,飽和磁束密度は低い,加工しにくくもろい,磁気ひずみが多く騒音は大きいという欠点がある。

巻線

巻線に使用される導電材料としては,銅とアルミニウムがある。金属材料の中で,銅(Cu)は他の金属に比べて,導電率,熱伝導率が高く,展延性,耐食性,溶接性が良いことから,電気導体として最適であり,変圧器の導電材料としては銅及び銅合金が主として使用されている。アルミニウム(Al)はどうに比べて導電率は低い(銅の約 2/3)が,比重が小さい(銅の約 30 %)ので,同一の抵抗値を得るために断面積を増加させても単位長さ当たりの重量は 1/2 以下と軽量であり,耐食性が良く銅に比べて価格も安いので,中容量変圧器に多く使用されるようになった。

巻線(winding) in the JEC
変圧器の指定された電圧に対応する電気回路を構成するために巻回された導体の集合体をいう。
巻線(winding) in the JIS
変圧器の指定された電圧に対応する電気回路を構成するターンの集合体。
高圧巻線
定格電圧の最も高い巻線をいう。
低圧巻線
定格電圧が最も低い巻線をいう。
中圧巻線
多巻線変圧器の巻線の一つで,その定格電圧が最高および最低の中間にあるものをいう。
一次巻線(primary winding)
運転時,電源側の回路から電力を受け取る巻線をいう。
二次巻線(secondary winding)
運転時,負荷側の回路に電力を送る巻線をいう。
三次巻線
三巻線変圧器において,容量の最小な巻線をいう。
タップ切換器(tap-changing transformer)と負荷時電圧調整

電源電圧の変動や負荷の変化によって,変圧器の二次電圧に生じる変動を補償して二次電圧を一定に保つためには,変圧器の巻数を変えてやればよい。電気炉用の変圧器の場合のように,負荷の状況に応じて電圧を変えたい場合も同様である。このような場合には,下図に示すように巻線の途中から数個の口出線を設けて,つなぎかえればよい。このような口出線をタップ(tap)という。

タップ付変圧器
図 タップ付変圧器
負荷時電圧調整変圧器(load-ratio control transformer)
変圧器の高電圧側に設けたタップを負荷状態のままで切換える装置を設けた変圧器である。負荷時タップ切換装置は,負荷時タップ切換器とその駆動装置及び保護などの付属装置から構成される。そのうち,負荷時タップ切換器は,無電流状態でタップを選択するタップ選択器と,選択された回路の電流を開閉する切換開閉器のほか,タップ切換動作の際,タップ間が橋絡されたときに流れる循環電流を制限する限流インピーダンスとから構成される。なお,変圧器の巻線が Y 結線の場合には,負荷時タップ切換器は,通常,絶縁が容易な巻線の中性点側に設置される。
負荷時電圧調整器(regulation transformer)
線路に直列に変圧器を挿入し,その励磁用の変圧器のタップを負荷時に切換えて電圧調整を行う。負荷時にタップを切換える場合に,短絡される巻線に通る電流を制限するには,抵抗またはリアクトルを用いる。

変圧器の誘導起電力と結線

単相二巻線変圧器

図は巻線抵抗と漏れ磁束がなく鉄心の飽和と損失を無視し得る単相二巻線変圧器の簡略図である。

単相二巻線変圧器の簡略図
図 単相二巻線変圧器の簡略図

一次巻線に交流電圧 $V_1$ [V] を印加すれば鉄心内に交番磁束 $\Phi$ [Wb] が生じ,これによって一次巻線に $E_1$ [V] および二次巻線に $E_2$ [V] の誘導起電力が発生する。磁束の最大値を $\Phi_\text{m}$ [Wb],周波数を $f$ [Hz],一次巻線の巻数を $N_1$ 及び二次巻線の巻数を $N_2$ とすると,$E_1$ 及び $E_2$ の大きさについて,次式が成立する。

\[ E_1=\frac{2\pi}{\sqrt{2}}fN_1\Phi_m=4.44fN_1\Phi_m \] \[ E_2=\frac{2\pi}{\sqrt{2}}fN_2\Phi_m=4.44fN_2\Phi_m \]

二次端子に負荷 $Z$ [W] を接続すると二次電流 $I_2$ [A] が流れる。これにより,$N_2 I_2$ [A] の起磁力が生じ交番磁束 $\Phi$ を減少させようとする。これに対し,最大磁束 $\Phi_\text{m}$ を一定に保つように一次側に補償電流 $I_1'$ [A] が流入し,前述の $N_2 I_2$ [A] を打ち消す。一次電流 $I_1$ [A] は励磁電流 $I_0$ [A] と電流 $I_1'$ [A] との合成電流であり,$I_1 = I_0 + I_1'$ と表される。

理想変圧器(ideal transformer)

簡単のために,巻線の抵抗,鉄の飽和,鉄損は無視できるものとし,磁束は鉄心の中だけ生じ,磁束を生じるための励磁電流も無視し得るほど小さいものと仮定する。このような変圧器を理想変圧器という。

三相結線(three phase connection)には,3 個の変圧器を使用するものに,以下の 4 種がある。2 個の変圧器を使用するものに,V 結線と T 結線がある。

星形星形結線(Y-Y 結線)

中性点を接地することで地絡時の異常電圧を低減できること,一次・二次間に位相差はないことが利点であるが,第 3 調波励磁電流が環流することができないので波形の歪みが多くなる。

星形星形結線(Y-Y 結線)
図 星形星形結線(Y-Y 結線)
三角三角結線(Δ-Δ 結線)

一次・二次間に位相差はないが,中性点を設けることはできない。

三角三角結線(Δ-Δ 結線)
図 三角三角結線(Δ-Δ 結線)
三角星形結線(Δ-Y 結線)

中性点を接地することで地絡時の異常電圧を低減できること,第 3 調波励磁電流が環流するので波形の歪みが少ないことが利点であるが,一次・二次間に 30 ° の位相差を生じることになる。

三角星形結線(Δ-Y 結線)
図 三角星形結線(Δ-Y 結線)
星形三角結線(Y-Δ 結線)

中性点を接地することで地絡時の異常電圧を低減できること,第 3 調波励磁電流が環流するので波形の歪みが少ないことが利点であるが,一次・二次間に 30 ° の位相差を生じることになる。

星形三角結線(Y-Δ 結線)
図 三角星形結線(Δ-Y 結線)
V 結線(V connection, open-delta connection)

三相電源に 2 個の変圧器を接続して三相電力を供給する結線を V 結線という。

V 結線
図 V 結線
T 結線,スコット結線(Scott connection)

スコット結線を用いれば,三相と二相が変換できる。

スコット結線は,単相交流負荷に電力を供給する非常用発電装置の場合などで,三相交流電源の電圧不平衡を防止する場合や,交流式電気鉄道など大きい単相負荷を必要とする場合などに用いられる。

スコット結線(Scott connection)
図 スコット結線(Scott connection)

変圧器の電圧変動率

変圧器の一次端子電圧を一定に保っても,二次端子電圧は負荷の状態に応じて変化する。これは,内部電圧降下によるものである。電灯,電動機などの負荷設備は,その端子電圧が定格電圧のときに最大の能力を発揮するものであるから,常に定格電圧に保つ必要がある。そこで,変圧器の電圧変動について考えてみる。

指定力率の定格出力のときに定格二次端子電圧を与えるような定格周波数の電圧を供給し,その供給電圧を変更することなく,二次側の負荷を取り去ったときに生ずる二次端子電圧の変動の定格電圧に対する割合を百分率で表したものを電圧変動率(voltage regulation)という。すなわち,定格二次電圧を $V_{2n}$,出力を零にしたときの二次端子電圧を $V_{20}$ とすれば,電圧変動率 $\epsilon$ は次式で表される。

\[ \epsilon = \frac{V_{20}-V_{2n}}{V_{2n}}\times100 \text{ [%]} \]

変圧器の電圧変動率は,一次,二次両巻線の比較的小さいな値の抵抗および漏れリアクタンスがその原因をなすものである。したがって,大きな電機子反作用をもつ発電機に比べると,非常に小さい値である。

変圧器の損失

変圧器は静止器であるから,鉄損と銅損とが主要な損失で,これに漂遊負荷損が加わる。一次が電源に接続されれば無負荷でも鉄損が生じるから,鉄損を無負荷損($P_\text{i}$)ともいう。これに対して,巻線中に生じる銅損は抵抗損ともいい,負荷によって変化するから負荷損($P_\text{c}$)ともいう。漂遊負荷損は,漏れ磁束によって外箱,ボルト等に生じる損失で,計算によって求めにくいものをいう。

変圧器の損失は,負荷の大きさに依存しない無負荷損と,負荷電流の大きさによって変動する負荷損に分けられ,負荷電流の大きさにより効率は変化する。負荷の力率が変わらないとしたとき,変圧器の効率は 負荷損 = 無負荷損になる負荷のときに最も高くなる。最大効率となるとき,定格容量の $\alpha$ であるとすれば,次式が成り立つ。

\[ P_\text{i}=\alpha^2 \times P_\text{c} \]

無負荷損は,一つの巻線に定格周波数の電圧を加え,他の巻線をすべて開路したときに消費される有効電力のことをいい,鉄損,無負荷損電流による巻線抵抗損,絶縁物の誘電体損などがある。

負荷損は,二つの巻線について一方の巻線に定格周波数の電圧を加え,他方の巻線を短絡して電流を通じたときに消費される有効電力をいい,銅損,漂遊負荷損などがある。

無負荷損(no-load loss)
一つの巻線に定格周波数の電圧を印加し,ほかの巻線を開路としたときに消費する有効電力。無負荷損は,鉄損,無負荷電流による巻線の抵抗損,絶縁物中の誘電体損などを含む。
負荷損(load loss)
一方の巻線を短絡して,他方の巻線に定格周波数の電圧を印加し,電流を通じた場合に消費する有効電力。負荷損は,規定した基準巻線温度に補正した値で表す。
鉄損

変圧器鉄心に生じる鉄損(iron loss) $P_i$ は,ヒステリシス損 $P_h$ とうず電流損 $P_e$ との和である。鉄損を推定するには,次式によって,鉄心 1 kg 当りのヒステリシス損 $P_h'$ [W/kg] およびうず電流損 $P_e'$ [W/kg] を計算し,これに鉄心の質量 [kg] を乗じて求められる。

\[ P_h' = \sigma_h (\frac{f}{100})B_m^2 \] \[ P_e' = \sigma_e (\frac{f}{100}B_m)^2 \]

ただし,$\sigma_h$,$\sigma_e$:材料による定数,$f$:周波数 [Hz],$B_m$:磁束密度の最大値 [T] である。

電力用変圧器に一般的に用いられる方向性けい素鋼板は,結晶粒が圧延方向に配向しており,無方向性けい素鋼板に比べて鉄損が小さく透磁率が高いので,大容量変圧器の高性能化,小型化に寄与している。

アモルファス磁性材料は,原子配列が無秩序で結晶磁気異方性や結晶粒界がなく,抵抗率が高く保持力が小さい高透磁率材料である。このため,鉄損が小さい。

銅損

直流で測定したとき,一次抵抗が $r_1$ [Ω],二次抵抗が $r_2$ [Ω] であれば,変圧器の銅損(cupper loss)は次式で与えられる。

\[ P_c = k_m I_1^2 (r_1 + a^2 r_2) \]

ここで,$k_m$ は交流抵抗を直流抵抗で除したもので 1.05 ~ 1.25,$I_1$ は一次電流 [A],$a$ は巻数比である。

変圧器の効率

変圧器の損失は小さく,入力と出力とに大差がないから,実測効率は正確には求めにくいので,次式の規約効率(conventional efficiency)が用いられる。

効率 $\eta$ = 出力 / (出力 + 損失) × 100 = (1 - 損失/(出力 + 損失)) × 100 [%]

指定のないときは,力率 100 %,温度は 75 °C と仮定する。したがって,規約効率の式は次のようになる。

効率 $\eta$ = 出力 / (出力 + 無負荷損 + 負荷損(75 °C の値)) × 100 [%]

いま,出力を $V_2 I_2\cos\theta$,無負荷損を $P_0$,負荷損を $kI_2^2$ とおけば,効率は次式となる。

\[ \frac{\eta}{100}=\frac{V_2 I_2 \cos\theta}{V_2 I_2 \cos\theta + P_0 + kI_2^2} = \frac{V_2 \cos\theta}{V_2 \cos\theta +(\frac{P_0}{I_2}+kI_2)} \]
変圧器の最大効率

効率 $\eta$ を最大にする $I_2$ の値は,$\displaystyle y =\frac{P_0}{I_2}+kI_2$ を最小とする $I_2$ の値で,これは次の関係(無負荷損 = 負荷損)を満足する。

\[ P_0 = k I_2^2 \]

変圧器の定格容量を $P$,無負荷損を $P_\text{i}$,負荷損を $P_\text{c}$,変圧器の最大効率となるときの負荷率を $\alpha$ とすれば,最大効率は次式で求められる。

\[ \frac{\alpha P}{\alpha P + P_\text{i}+\alpha^2 P_\text{c}}\times 100= \frac{\alpha P}{\alpha P + 2P_\text{i}}\times 100 \]
変圧器の負荷率 - 効率特性

変圧器(定格容量 500 [kW],無負荷損 660 [W],負荷損 5 356 [W])の負荷率を横軸,効率を縦軸とした特性は,下図となる。負荷率 35.1 [%] で最大効率 99.3 [%],定格負荷で効率 98.8 [%] となっていることがわかる。

単相変圧器の負荷率 - 効率特性
図 単相変圧器の負荷率 - 効率特性

変圧器の全日効率

配電変圧器では,負荷が 1 日中に変化する。無負荷損は負荷に無関係に一日中発生するが,負荷損は負荷に伴って変動する。このような場合には,1 日中の積算出力と積算入力との比を全日効率(all-day efficiency) $\eta_d$ と呼び,次式で計算する。

\[ \eta_d = \frac{W}{W + P_0 \times 24 + W_I} \times 100 \]

ここで,$W$ は 1 日中の出力 $P$ の積算 [kWh],$W_I$ は 1 日中の負荷損 $P_1$ の積算 [kWh],$P_0$ は無負荷損 [kW] である。

変圧器のエネルギー消費効率

変圧器のエネルギー消費効率 $E$ [W] は,無負荷損 $W_\text{i}$ [W],負荷損 $W_\text{c}$ [W],基準負荷率 $m$ [%] とすると,次式で求められる。

\[ E=W_\text{i}+(\frac{m}{100})^2 \times W_\text{c} \]

なお,基準負荷率 $m$ [%] は,変圧器の定格容量が 500 kVA 以下のものにあっては 40 [%],500 kVA 超のものにあっては 50 [%] とする。また,$W_\text{i}$ 及び $W_\text{c}$ は日本工業規格 C 4304「配電用 6 kV 油入変圧器」 及び C 4306「配電用 6 kV モールド変圧器」 に規定する方法により測定した無負荷損及び負荷損する。

変圧器の試験

無負荷試験

無負荷試験には,変圧器の二次側を開放し,一次側に電圧計 V,電流計 A,電力計 W を接続しておき,一次側に加える定格周波数の電圧を低い値から順次高めて行きながら各計器を読む。普通は,高圧側を一次にする。

無負荷試験
図 無負荷試験

横軸に電流,縦軸に電圧をとって描いた曲線は,無負荷飽和曲線である。

無負荷試験の主要目的は,定格電圧を加えたときの電流と,入力とを測定し,これらの値から鉄損を求めることおよび次式を用いて変圧器の励磁アドミタンスを算定することである。鉄損は,一次入力から一次銅損を減じて求められる。

\[ g_0=\frac{I_w}{V_0}=\frac{P_i}{V_0^2} \] \[ b_0=\sqrt{Y_0^2-g_0^2} \] \[ Y_0=\frac{I_0}{V_0}=\sqrt{g_0^2+b_0^2} \]

ただし,$g_0$ を励磁コンダクタンス(exciting conductance),$b_0$ を励磁サセプタンス(exciting susceptance),これらを合成した $Y_0=g_0-\text{j}b_0$ 励磁アドミタンス(exciting admittance)という。

短絡試験

変圧器の二次側を短絡し,一次側に電圧計 V,電流計 A,電力計 W を接続し,インピーダンス電圧に等しい電圧を加えてやれば,定格電流が流れる。

短絡試験
図 短絡試験

普通は,低圧側を一次とする。

このとき,鉄損は無視できるから,入力は負荷損であって,これから次式を用いて,変圧器の漏れインピーダンスを算定することができる。

\[ x_1+a^2 x_2 =\sqrt{(V_1/I_{S1})^2-(P_S/I_{S1}^2)^2} \]

負荷損 $P_{ct}$は次式によって 75 °C に換算する。($P_{rt}$ は抵抗損)

\[ P_{c75}=P_{rt}\frac{310}{235+t}+(P_{ct}-P_{rt})\frac{235+t}{310} \]

変圧器の並行運転

2 台以上の変圧器の一次側が全部同じ電源につながれ,二次側が全部同じ負荷につながれるとき,これらの変圧器は並行運転しているという。変圧器の並行運転は負荷の増大,経済的な運転などの理由から,その必要がたびたび生じてくる。

並行運転する場合,変圧器の容量は等しくなくてもよいが,次の条件が必要となる。

  1. 各変圧器の容量に比例して電流を分担すること。
  2. 変圧器間の循環電流が実用上問題ないレベルとなる
  3. 各変圧器の分担電流が同相であること。
容量に比例した電流を分担

各変圧器の自己容量ベースの短絡インピーダンスが等しくなければならない。各変圧器を流れる電流の分担率は短絡インピーダンスに反比例する。

変圧器間の循環電流

変圧器間の循環電流が実用上問題ないレベルとなるためには,変圧比の差が小さいことが必要である。変圧比はタップにより変化するため,定格タップ以外の値についても確認する必要がある。また,結線(星形結線,三角結線など)により二次側電圧に位相の差が生じるため,これによる循環電流が生じないような結線・接続とする必要がある。

変圧器の励磁電流

理想的な変圧器では,巻線に正弦波電圧を加えたときに生じる誘導起電力は正弦波であり,この誘導起電力を生じさせるための主磁束も正弦波である。しかし,実際の電力用変圧器では,磁路として鉄心を用いており,この鉄心の磁化特性は一般に非直線性を示し,またヒステリシスがあるため,巻線に正弦波を加えたときの励磁電流は,多くの高調波成分を含んだものとなる。

高調波成分のうち第 3 調波の含有率は特に大きい。二つの巻線を有する三相結線の変圧器で一次,二次の両方又は一方が Δ 結線であると,励磁電流中で含有率の大きなこの高調波は巻線中の循環電流となって存在し,Y 結線の中性点が接地されていても線路に流出しない。磁束はひとまず,誘導起電力は正弦波となる。Δ 結線がないと循環電流として流れる回路がないため,電圧波形がひずむ。これを避けるため,Y-Y 結線の電力用変圧器では,通常安定巻線(内蔵 Δ)を設ける。

変圧器の励磁突入電流

変圧器充電時における鉄心内の磁束は印加電圧の積分で表されるので,例えば電圧零の時点で電源が投入されると,最初の 1 サイクルの間に磁束は定常状態の磁束最大値の 2 倍に達し,飽和磁束密度を超えるので,過渡的に大きな電流が流入する。この電流を励磁突入電流という。変圧器投入時に鉄心内に残留磁束があり,それが印加電圧による磁束の変化と同一方向の場合には,両者が加算されるため更に大きな励磁突入電流となる。

このようにシフトした磁束は徐々に定常状態に戻っていき,それとともに励磁突入電流も落ち着くが,この継続時間は回路のインダクタンスと抵抗によって決まり,容量が大きくなるほど長く,数十秒以上に及ぶことがある。

このように大きな突入電流による比率差動リレーの誤動作を防止するため,変圧器投入後,一定時間リレーをロックする方法や,突入電流に第二高調波が多く含まれているので第二高調波抑制機能付比率差動リレーを用いる方法がとられる。

また,励磁突入電流による電圧変動を抑制するため,変圧器投入時の抵抗投入や投入位相の制御などを行うことがある。

変圧器の保護に用いられる差動保護リレー方式

変圧器の保護に一般的に用いられる電気式リレー方式として差動リレー方式が挙げられる。差動リレー方式を適用する理由は,事故電流の小さい巻線間短絡を検出できることである。

変圧器の一次,二次の結線が Y-Δ 結線の場合,変圧器一次,二次の電流の位相が異なる。そのため,差動リレー方式を適用する際,内部のソフトウェアで補正しない場合には,変圧器一次側の CT 二次結線には Δ 接続,変圧器二次側の CT 二次結線には Y 接続を用いて電流位相の整合をとらなければならない。CT 二次結線を,変圧器一次側 Y 接続,二次側 Δ 接続とした場合でも電流位相を合わせることができるが,変圧器一次側の中性点が接地してあると,外部地絡事故が発生した場合,変圧器一次側の CT 二次回路にのみ零相電流が流れることで,リレーの誤作動につながる。

また,差動リレー方式のように複数の CT の差電流で事故を検出する場合,CT 間の特性差により誤差電流が発生することが考えられる。このようなことから,差動リレーの誤動作を防ぐために,リレーに入力された電流のスカラー和で抑制量を作り,リレーの感度を調整する比率差動リレーが一般に採用される。

直流機(direct current machine)

電力系統は交流であり,直流機は誘導機に比し,構造が若干複雑ではあるが。直流電動機は速度制御性に優れているので,根強い需要がある。

直流器その損失

固定損

無負荷鉄損,ブラシ摩擦損および風損がある。無負荷損鉄損には電機子鉄心中の鉄損のほか,磁極表面の鉄損,主磁束の電機子スロット内漏れ磁束によって電機子巻線に生じる渦電流損と均圧結線に流れる電流による抵抗損が含まれる。

なお,鉄損にはヒステリシス損と渦電流損とがある。ヒステリシス損は,周波数の 1 乗と最大磁束密度の 1.6 ~ 2 乗に比例する。渦電流損は,鉄心中の磁束の変化に起因する電磁誘導で発生する電界により生ずる電流による抵抗損であり,周波数の 2 乗と最大磁束密度の 2 乗に比例する。

直接抵抗損

電機子・直巻・補極・補償などの各巻線中の抵抗損,ブラシの電気損,負荷によって増減する鉄損からなる。一般にこの損失は出力の 2 乗に比例したものとなっている。

漂遊負荷損

負荷状態にだけ発生する損失であり,電機子反作用による鉄損増加分,電機子導体の表皮効果による抵抗の増加分,整流作用によるブラシ損増加分が含まれる。

参考文献

  • 電気学会 電気規格調査会標準規格 JEC-2200-2014「変圧器」
  • JIS C 4304 : 2013「配電用 6 kV 油入変圧器」
  • JIS C 4306 : 2013「配電用 6 kV モールド変圧器」
  • 坪島 茂彦,羽田 正弘 著,「図解 変圧器−基礎から応用まで−」,東京電機大学出版局,1981年12月20日 第1版1刷発行
  • 「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅰ(改訂版)」,社団法人 電気学会,2002年1月31日 改訂版 14 刷
  • 広瀬 敬一 原著,炭谷 英夫 著,「電気学会大学講座 電機設計概論[4版改訂]-設計基礎から製図の基本まで-」,社団法人 電気学会,2007年11月30日 4 版改定 1 刷発行
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