【要点ノート】電気機器その2

2013年7月26日作成,2022年7月17日更新

電気機器

同期機

同期電動機は,負荷の大きさに関わらず常に一定の回転速度で運転することができる。また,界磁電流を増減することによって力率を任意に調整することができ,極数の多い低速機でも高い効率を維持することができる。一般的には直流励磁回路を必要とするが,これを必要としない永久磁石式電動機も採用されるようになってきた。この永久磁石式電動機は励磁損失が発生せず,スリップリングも不要となるため,高効率,高力率,低騒音などの特長を有する。

回転界磁型同期機の種類としては,回転子磁極の構造により突極機と非突極機がある。前者の代表は水車発電機や同期電動機,後者の代表は蒸気タービン発電機である。

バルブデバイス

水を出したり止めたりするバルブに由来し,電気を流したり,止めたりする(オンオフする機能を有する)素子をバルブデバイス(valve device)という。

半導体電力変換はバルブデバイスを用いて行われる。バルブデバイスは,「実質的な電力損失なしに」電力変換を行うためにスイッチとして動作するが,理想スイッチや機械的スイッチ(接点スイッチ)とは大きな違いがある。

一般にスイッチといえば,まず機械的スイッチが考えられる。しかし,機械的スイッチは動作速度が遅く,また高頻度開閉を行う場合は寿命も短いため,パワーエレクトロニクス回路で用いることはできない。このため,パワー半導体デバイスが用いられる。

パワー半導体デバイスは数 kHz から数百 kHz という高速でのオンオフも可能であり,寿命は長く,電力をきめ細かく変換制御できる。

バルブデバイスの機能分類

機能的には,非可制御バルブデバイス,オン制御バルブデバイス,オンオフ制御バルブデバイスの 3 種類に分けられる。

非可制御バルブデバイス

一方向(順方向)のみ電流を通電させるデバイスで,電流が 0 となり(逆電圧が加わり)オフする。代表例はダイオードである。

オン制御バルブデバイス

代表例はサイリスタであり,順方向に電圧が印加されているときオフ状態からオン状態に制御できる。オン状態からオフ状態へは制御できず,電流が 0 となり(逆電圧が加わり)オフする。

オンオフバルブデバイス

オン機能ばかりでなく制御信号によりオフ状態にも移行できるもので,パワートランジスタ,ゲートターンオフサイリスタなど多くのデバイスがある。なお,この種類のデバイスは,従来,自己消弧形デバイスと呼ばれたが,最近では,オンオフ制御デバイス,またはゲートターンオフデバイスと呼ぶことになっている。

サイリスタ

シリコン制御整流素子(silicon controlled rectifier),略して SCR は,1958 年に GE 社で開発された。名称については,国際電気標準会議(IEC)ではサイリスタ(thyristor)を採用している。定格平均順電流が数 A の小形の素子から,3,000 A 程度の大形の素子に至るまで,種々の定格のものが製作されており,スイッチ用あるいは整流用として広く使用されている。

半導体のシリコンを pnpn 構造にした素子をサイリスタと呼ぶ。一般にサイリスタといえば逆素子三端子のことをいう。

図 逆素子 3 端子サイリスタの回路記号
図 逆素子 3 端子サイリスタの回路記号
図 pnpn 構造にしたサイリスタ
図 pnpn 構造にしたサイリスタ

逆素子三端子サイリスタは,ゲート電流を流して一度オン状態になると,ゲート電流を取り去ってもオフにならないラッチ性(保持)がある。ゲートターンオフサイリスタ(GTO ; gate turn-off thyristor)は,ゲートに負の電流を流すことでオン状態からオフ状態へ移行できる自己消弧機能を有するサイリスタである。また,BJT(バイポーラトランジスタ),パワー MOSFET,IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などのパワートランジスタ(power transistor)は,制御信号でオンおよびオフ機能を有する半ラッチ形バルブデバイスである。

表 バルブデバイスの機能
デバイス名 方向性 オン機能 オフ機能 ラッチ性
サイリスタ 1
GTO 1
パワートランジスタ(BJT,IGBT,パワー MOSFET) 1
トライアック 2

通流率

スイッチングバルブデバイスがオン状態にある期間を $t_\text{on}$,オフ状態にある期間を $t_\text{off}$,1 周期を $T = t_\text{on} + t_\text{off}$ とするとき,$\displaystyle \alpha = \frac{t_\text{on}}{T}$ は 1 周期中でのオン時間比率であり,通流率と称される。

半導体バルブデバイスの損失

半導体バルブデバイスは,オン状態でも順方向の電圧降下を生じ,また,オフ状態でもわずかながら漏れ電流が流れ,これによって定常損失が生じる。また,オン状態とオフ状態の切換は瞬時には行われないので,デバイスのオンオフの切換周波数に比例したスイッチング損失が発生する。

パワーエレクトロニクス

1974 年,アメリカ電気電子学会産業部会誌(IEEE ; Transactions on Industry Applications)の 1・2 月号において,ニューウェル氏は次のように提言した。

電力・電子・制御の境界領域でサイリスタを中心とする半導体素子が主役を演ずる技術分野をパワーエレクトロニクス(power electronics)と呼ぶことにしよう

当時は,電動機のサイリスタ制御や交流電動機の可変速駆動が定着しつつあった時期であり,この定義は自然に受け入れられ,今日に至っている。

パワーエレクトロニクスは,電力工学の主要な柱「電力・電子・制御」の混合領域と位置づけることができ,電力変換装置および電動機の可変速駆動システムはその重要な部分を占めている。

サイリスタが商品化されてから半世紀以上となり,パワーエレクトロニクスは電気エネルギーの発生から消費に至るすべての分野で基盤技術になってきた。我が国においても,サイリスタ登場直後からパワーエレクトロニクス分野における技術開発が行われ,1980 年代には世界をリードする地位を築くまでになっている。

誘導機(induction machine)

誘導機(induction machine)は,「固定子および回転子が互いに独立した電機子巻線を有し,一方の巻線が他方の巻線から電磁誘導作用によってエネルギーを受けて動作する非同期機である」と定義されている。誘導機は,定常状態において同期速度と異なる速度で回転する交流機であり,交流電源に接続される巻線を一次巻線,他方の巻線を二次巻線と呼ぶ。

三相誘導電動機は,独立した励磁電源を必要とせず,特にかご形誘導電動機は構造が簡単で保守が容易なため,現在,定速性の電動機としてのみならず,可変速システム用の電動機としても産業界で広く用いられている。

三相誘導電動機が滑り $s$ で運転しているとき,その回転速度 $n$ [min-1] は次式で定義される。

\[ n=n_0(1-s)=\frac{120f}{2p}(1-s) \]

ここで,$n_0$ [min-1] は同期速度,$f$ [Hz] は一次周波数,$2p$ は極数である。

静止しているかご形三相誘導電動機の電機子巻線に三相交流電流を供給すると,回転磁束が発生するとともに,かご形回転子には大きな誘導電流が流れる。この電流と磁束との間の電磁力によって,回転子は磁束の回転方向に回転する。回転子の回転速度が上昇すると回転子導体に流れる電流は減少し,負荷に見合うトルクを発生できる回転速度で回転する。

回転速度が増加して同期速度に近づいたとき,回転子巻線の誘導起電力及び電流は減少する

三相誘導電動機の L 形等価回路

三相誘導電動機の二次側諸量を一次側に換算した L 形等価回路図は下図のようになる。

一次換算 L 形等価回路
図 一次換算 L 形等価回路

ここで,$V_1$ [V] は一次星形相電圧,$r_1$ [Ω] は一次抵抗,$x_1$ [Ω] は一次漏れリアクタンス,$r_2$ は二次抵抗,$x_2$ [Ω] は二次漏れリアクタンス,$I_2$ [A] は二次電流である。

三相誘導電動機の二次入力 $P_2$ [W] は,次式で表される。

\[ P_2=3I_2^2\frac{r_2}{s} \]

二次銅損 $P_{r2}$ [W] は,次式で表される。

\[ P_{r2}=3I_2^2r_2=sP_2 \]

発生動力 $P_0$ [W] は,次式で表される。

\[ P_0=P_2-P_{r2}=3I_2^2r^2\frac{1-s}{s} \]

発生トルク $T$ [N·m] は,次式で表される。

\[ T = \frac{P_0}{\omega} = \frac{P_0}{\omega_0(1^s)} = \frac{1}{\omega_0} \times \frac{3V_1^2\frac{r_2}{s}}{(r_1 + \frac{r_2}{s})^2%2B(x_1 + Bx_2)^2} \]

誘導電動機の無負荷試験

電動機に定格電圧を加えて無負荷運転をし,1 相当たりの電圧 $V_0$,電流 $I_0$,電力 $P_0$ を測定する。無負荷では,ほぼ同期速度に近い $s\approx0$ の状態で回転するから,簡易等価回路において二次回路の端子を開いた状態となる。

入力 $P_0$ には鉄損 $P_\text{i}$ のほか,機械損 $P_\text{m}$ と一次巻線の銅損 ${I_0}^2 r_1$ が含まれている。${I_0}^2 r_1$ は僅少で無視できる。$P_\text{i}$ および $I_0$ は電動機に加える電圧 $V_1$ によって変わるが,$P_\text{m}$ は回転速度の関数であって,$V_1$ によっては変化しない。そこで,電動機の端子電圧 $V_1$ を定格値付近から同期速度を保つ最低値まで変化して,$V_1$ と $P_0$ との関係をプロットし,この曲線を $V_1 = 0$ の点まで外挿して $P_\text{m}$ を求めることができる。

以上の測定値から,次の値を求めることができる。

励磁アドミタンス(exciting admittance) $Y_0$ は,電流 $I_0$ を電圧 $V_0$ で除して求める。

\[ Y_0 = \frac{I_0}{V_0} \]

コンダクタンス $g_0$ は,鉄損 $P_\text{i}$ を電圧 $V_0$ の二乗で除して求める。

\[ g_0 = \frac{P_\text{i}}{{V_0}^2}=\frac{P_0 - P_\text{m}}{V_0} \text{ [S]} \]

サセプタンス $b_0$ は,励磁アドミタンス $Y_0$ とコンダクタンス $b_0$ より求める。

\[ b_0 = \sqrt{{Y_0}^2 - {g_0}^2} \text{ [S]} \]
誘導電動機 無負荷試験の等価回路
図 誘導電動機 無負荷試験の等価回路
鉄損と機械損の分離
図 鉄損と機械損の分離

  • 誘導機においては,二次側を一次側に換算する場合が多いので,一次側換算値を全てダッシュ(')をつけて示すことにする。

誘導電動機の拘束試験(lock test)

回転子を回らないよう拘束しておき,一次端子間に低電圧を加え,一次電流がほぼ定格値になった場合の 1 相当たりの電圧 $V_\text{S}$,電流 $I_\text{S}$,電力 $P_\text{S}$ を測定する。この場合は $s=1$ で,等価回路において二次回路を短絡した状態である。

この場合,一次電圧は定格値よりもはるかに小さいので,鉄損を無視すると,$P_\text{S}$ は等価回路の $r_1$,${r_2}'$ 中の銅損を与えることになる。

\[ \frac{V_\text{S}}{I_\text{S}} = \sqrt{(r_1 + {r_2}')^2 + (x_1 + {x_2}')^2} \]

巻線抵抗は,次式で求められる。抵抗は交流実行抵抗の和となるが,巻線抵抗測定で求めた直流抵抗 $r_1$ を引いて,${r_2}'$ を求めることができる。

\[ r_1 + {r_2}' = \frac{P_\text{S}}{{I_\text{S}}^2} \text{ [Ω]} \]

リアクタンスも,一次,二次の和として求められるが,分離することは困難である。(特性計算上必要な場合には,近似的に一次と二次とに等分することがある。)

\[ x_1 + {x_2}' = \sqrt{(\frac{V_\text{S}}{I_\text{S}})^2 - (\frac{P_\text{S}}{{I_\text{S}}^2})^2} \]
誘導電動機 拘束試験の等価回路
図 誘導電動機 拘束試験の等価回路

誘導電動機の損失

誘導電動機の損失は固定損,直接負荷損及び漂遊負荷損で構成される。回転速度が一定の場合,固定損は負荷の大きさにかかわらず一定であり,鉄損機械損に分けられる。直接負荷損は一次巻線の抵抗損及び二次回路の抵抗損など負荷電流によって生じる銅損が主なものである。漂遊負荷損は,負荷に起因して鉄心及び導体以外の金属部分に生じる損失で,直接負荷損に含まれないものをいい,電流の 2 乗に比例して増減する。

次に,三相誘導電動機の運転時の力率について考える。定格運転時は,通常,滑りが数パーセント程度であるので,L 形等価回路の二次電流枝路はインピーダンスの抵抗分が大きい。このため二次電流枝路の力率は良く,その電流の大きさは励磁電流に比べてかなり大きくなるので,電源側から見た力率は良好に保たれる。滑りが零に近づく軽負荷時には,二次電流枝路の抵抗分が非常に大きくなり,二次電流枝路の力率は良い。しかし,その電流の大きさは励磁電流に比べてかなり小さく,一次電流に占める励磁電流の割合が支配的となり,電源側から見た力率は 0 に近づく。

これらのことから,省エネルギーのためには負荷の大きさに見合った定格出力の誘導電動機を選定することが望ましい。

参考文献

  • 「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅰ(改訂版)」,社団法人 電気学会,2002年1月31日 改訂版 14 刷
  • 「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅱ(改訂版)」,社団法人 電気学会,1995年10月5日 5版(改訂版)
  • 広瀬 敬一 原著,炭谷 英夫 著,「電気学会大学講座 電機設計概論[4版改訂]-設計基礎から製図の基本まで-」,社団法人 電気学会,2007年11月30日 4 版改定 1 刷発行
  • 金 東海 著,「電気学会大学講座 パワースイッチング工学――パワーエレクトロニクスの基礎理論」,社団法人 電気学会,2003年8月5日 初版 1 刷
  • パワーエレクトロニクスの発達史と将来展望協同研究委員会編,「日本のパワーエレクトロニクス発達史―1985年以前―」

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