【要点ノート】電気加熱

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電気加熱(electric heating)とは

電気加熱の特徴

電気加熱とは,電気的現象によって発生する熱による加熱。ここで加熱とは,被加熱物の温度を上げる処理だけでなく,溶解,乾燥,焼結,焼成,熱加工などを目的とする熱的な処理一般をいう。

燃焼過熱に対する電気加熱の特徴には以下のものがある。

  • 被加熱材に直接熱が発生する。
  • 高エネルギー密度の熱源である。
  • 加熱に酸素を必要としない。
  • 投入するエネルギー量の制御が容易である。

以上の特徴から電気加熱はクリーンで省エネルギー化,自動化において有利な加熱手段といえる。

電気加熱の場合,設備を高電力化すれば,加熱や溶解に要する時間が短縮されるので,相対的に熱損失の低減となることから省エネルギーが図れる。

電気加熱の方式

電気加熱の方式,加熱原理からみた電気の主たる役割,被加熱物の加熱の様相を次表にまとめる。

表 電気加熱
加熱方式 加熱原理からみた電気の主たる役割 被加熱物の加熱の様相
ヒートポンプ加熱 電動機による圧縮機の駆動 凝縮器からの熱の吸収
直接抵抗加熱 被加熱物への通電 通電電流によって発生するジュール熱による発熱
赤外加熱 熱放射の発生 放射の吸収による発熱
誘導加熱 交番磁界の発生 渦電流によって発生するジュール熱による発熱
誘電加熱 交番電界の発生 誘電損による発熱

金属の溶接

金属の溶接にはアーク溶接と抵抗溶接が一般に使用される。

アーク溶接

アーク溶接(arc welding)は,電極間にかかる電位差によって電極間に存在する気体が絶縁破壊し,電子が放出されて電流が流れる放電現象を利用した電気溶接の一つである。

大気中でアーク溶接を行う場合,溶融している金属に大量の窒素が溶け込み,溶接部分の機械強度を著しく低下させる。これを防ぐため大気をガスで遮へいする方法があり,そのガスには主として二酸化炭素・アルゴンが使用される。

アークの電圧-電流特性は,電流が小さい場合は負特性を示し,不安定である。しかし,アーク電流が一般的な溶接に用いられる 100 A 以上になると,アーク長が一定ならばアーク電圧も一定に近い。

アークの電気的性質は,直流アークが交流アークに比べ安定している。交流アークの不安定性の原因は,交流電流は半サイクルごとに零になり,その瞬間アークが一旦消滅することにある。そのため手溶接用の電源としては,アーク発生前には溶接機の電圧をある程度高くしておき,アーク発生後は電極間隔に変化があってもアーク電流を安定に維持できるよう,電源に垂下特性をもたせることが必要である。このため,電源には漏れリアクタンスの大きい変圧器が主に使用される。

溶接電源の特性(電圧・電流特性)を下図に示す。

溶接電源の特性(電圧・電流特性)
垂下特性形
図 垂下特性形
定電圧特性
図 定電圧特性
定電流特性
図 定電流特性

アーク加熱は,電極間と被加熱材との間に発生するアーク熱を利用して加熱・溶解を行う。アーク電圧・電流・アーク長の特性は,エアトンの実験式で示される。

\[ E_a = a + bL + \frac{c + dL}{I} \]

ここで,$E_a$ はアーク電圧,$L$ はアーク長,$a$,$b$,$c$,$d$ は電極材料で決まる定数,$I$ はアーク電流である。この式からアーク電圧の増加によって,アーク電流が低下する負性抵抗特性をしている。一般にアークは不安定となるため,リアクトルを挿入して安定化を図っている。

アーク溶接には被膜金属アーク溶接,ガスシールドアーク溶接,ノンガスシールド溶接,サブマージドアーク溶接法などがある。このうち,溶接部の表面に盛り上げた微細な粒状フラックスの中に裸の溶接用電極ワイヤを押し込みながら溶接を行う方法はサブマージドアーク溶接法と呼ばれる。また,フラックスの代わりに炭酸ガスでアークをシールドする方法は,炭酸ガスアーク溶接と呼ばれる。

写真 アーク溶接
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

プラズマアーク溶接

プラズマ加熱を用いたプラズマアーク溶接は,通常,シールドガスにアルゴンを用いて溶接部を大気から保護し,電極にタングステンを用いて,母材との間に拘束ノズルで細く絞られた高密度エネルギーのプラズマ流を形成し,これを溶融熱源として利用する溶接方法である。

抵抗溶接

抵抗溶接法のうち,板を重ねて点状に溶接するものにスポット溶接やプロジェクション溶接がある。また,縫い合わせるように連続的に溶接するシーム溶接法がある。

アーク加熱

アーク加熱は,電極間あるいは電極と被加熱物との間で発生させたアーク放電の熱エネルギーで非加熱物を加熱する方式である。アーク加熱を利用した炉には,製鋼用アーク炉や電気精錬炉などがある。

製鋼用アーク炉はアーク加熱の代表的な例であり,商用周波数の三相交流をそのまま用いる交流アーク炉と直流に整流して用いる直流アーク炉とがある。両者共に電圧は数百ボルト程度,電流は数千アンペアから数万アンペア以上のアークを黒鉛電極と被加熱物である鉄くずや還元鉄との間に発生させて過熱・溶解する。大容量の電気負荷であるため,その負荷変動や波形ひずみがフリッカや高調波などの電源障害の発生源となるので,対策が必要な場合がある。

アーク加熱を用いる炉の電圧,電流は,電流が増大すると電圧が低下するような負特性を持つので,アークの安定と効率を保つため,回路中に適切なリアクトルを挿入する。

交流アーク炉では,炉用変圧器二次側の電極までの三相回路のリアクタンスが不平衡であるとアーク電圧に高低を生じ,局所的に高温となって炉壁を損傷するため,各相導体の三角配列などによってアーク電圧の不平衡を解消する必要がある。一方,直流アーク炉では,直流母線に流れる電流が作る磁場によってアーク偏向が発生することで,被溶解物の不均一溶解や炉内にホットスポットを生成する原因となり,母線の配置には工夫が必要となる。

両者を電源系統に与える影響で比較すると,アーク発生から消滅までの入力の有効-無効電力特性などから直流アーク炉の方が影響が少なく,同一定格容量の場合,弱小電源系統への接続が比較的容易である。

赤外加熱(infraraed heating)

赤外加熱とは,エネルギーが赤外放射によって伝達される加熱である。

赤外加熱に用いられる赤外放射は可視光より波長が長い電磁波であり,0.76 μm ~ 1 mm の波長領域にある。産業分野ではこのうち短波長からほぼ 25 [μm] 位までの範囲が利用されている。特に 4 μm 以上の波長は遠赤外と呼ばれ,食品や高分子化合物などの加熱に適しており,この熱源にはセラミックヒータが広く用いられている。

赤外加熱は放射加熱であるため,温度制御が容易かつ応答性がよい。

赤外加熱に使用される放射源には赤外電球と遠赤外ヒータがある。赤外電球は一般の白熱電球と同じ構成で主に近赤外線放射源として使用される。遠赤外ヒータは,金属管内に発熱体を収め金属管の表面にセラミックを容射形成させたもの等が使用され,遠赤外線を放射する。

遠赤外線は波長が約 4 ~ 1,000 μm の電磁波をいい,近赤外線は波長が約 0.7 ~ 2.5 μm の電磁波をいう。

誘導加熱(induction heating)

誘導加熱とは,電磁誘導作用で発生する誘導電流による直接または間接電気加熱である。

誘導加熱は導電性の被加熱材の周囲にコイルを配置し,これに交流電流を通じると被加熱材の内部に交番磁束を生じ,電磁誘導作用により渦電流が誘導される。被加熱材はその固有抵抗と渦電流により発生するジュール熱により直接過熱される。

渦電流損として発生する熱量は,交番磁束の大きさの 2 乗に比例する。このほか,交番磁束の周波数,被加熱物の透磁率及び導電率にも依存する。また,印加する交番磁界の周波数を高くすると,発熱は被加熱物の表面近傍に集中するようになる。この現象は表皮効果によるものである。また,その指標として浸透深さがある。浸透深さは,透磁率と導電率の積の平方根に反比例する。

表皮効果

誘導加熱では,表皮効果のため,誘導される渦電流密度は一様ではなく,表面に集中して流れ,内部に入るに従い指数関数的に減少する。導体表面の電流を $I_0$ [A] とすると,導体表面から深さ $x$ [m] の点の電流 $I_x$ [A] は次式で表される。

\[ I_x = I_0 \exp(-\frac{x}{\delta}) \]

ここで,$\delta$ は導体表面の電流 $I_0$ の $1/e$ (= 36.8 %)になる位置までの深さで,電流浸透深さと呼ばれる。電流浸透深さ $\delta$ は,導体の抵抗率を $\rho$ [Ω·m],周波数を $f$ [Hz],導体の比透磁率を $\mu_r$ とすれば,次式で表される。

\[ \delta = 503 \times \sqrt{\frac{\rho}{\mu_r f}} \]

この式から,周波数が高くなれば電流浸透深さは小さくなるため,被加熱物の表面のみが加熱されることがわかる。逆に周波数が低ければ,被加熱物全体を均一に加熱できることになる。

誘電損失係数の差を利用して,例えば木材の接着には接着部分のみの加熱や,包装材が誘電率の小さいものであれば,内部の食品のみの加熱など,加熱部分の選択を行うことができる。

外部からの加熱による昇温のように,被加熱物自体の熱伝導に依存せず被加熱物を内部から加熱するので,急速で均一な加熱を行うことが可能である。

ISM バンド

ISM バンドは Industrial Scientific and Medical Band の略である。

実際の適用では,通信設備への電波妨害や生体への影響等の考慮が必要で,周波数は電波法で ISM 周波数として,使用できる数値が決められている。

医療用装置,アマチュア無線,電子レンジなどの機器が電磁波を使用できる,国際的に目的用途に割り振られた周波数帯域(900 MHz,2.4 GHz,5.7 GHz 帯)。(ASCII.jp デジタル用語辞典 一部改変)

誘電加熱

電磁波による誘電加熱の原理は次のとおりである。被加熱物である誘電体(絶縁物として用いられることがある)に電磁波の高周波電界が加えられると誘電体内の分子は分極を生じる。この状態を生じる荷電体の移動が電界の時間的変化に追随できなくなると,変位電流が電界に対して遅れを生じて電力損失が発生する。この現象が誘電損による熱の発生であり,電磁波の誘電体内の浸透深さは周波数に反比例する。

電磁波による誘電加熱は,周波数帯によって次の 2 種類に大別される。その一つは 1 ~ 100 [MHz] 程度の周波数帯を使用する高周波加熱であり,他の一つは 300 [MHz] ~ 30 [GHz] 程度の周波数帯を使用するマイクロ波加熱である。

誘電加熱およびマイクロ波過熱の発熱源は,被加熱材が持っている 電気双極子が高周波電解により振動や回転させられることで生じる分子間の摩擦である。

マイクロ波加熱

マイクロ波加熱(microwave heating)とは,300 MHz ~ 300 GHz の範囲の電磁波の作用で,誘電体を主として分子運動とイオン伝導によって熱を発生させて加熱することである。

マイクロ波加熱の原理は,誘電加熱と同じである。誘電体に交番磁界を作用させると,誘電体を構成する分子,原子などによる分極方向の反転が繰り返され,分極の時間遅れに基づくエネルギーの吸収が起こって誘電損を生じ,誘電体内部に熱を発生する。マイクロ波(2,450 [MHz])の発振にはマグネトロンが使用され,導波管を介して加熱部へ高調波のエネルギーを伝送する。

一般に,被加熱物が絶縁体の場合,直流電界を印加しても電流が流れず,加熱されない。しかし,被加熱物中の電子,イオン,電気双極子のような荷電体おいては,印加される直流電界によって誘電分極を生じる。電界が交番電界の場合には,電界の往復的な変化に応じて,誘電分極も往復的に連続して発生する。

絶縁体の誘電率 $\epsilon$ は複素数を用いて,一般に次式で表される。

$\epsilon = \epsilon' - \text{j}\epsilon''$・・・・・・・・・・①

交番周波数を上げていくと,交番電界の時間変化に誘電分極が追いつかなくなり,遅れが生じ始める。この遅れによって電力損失が発生し,被加熱物が加熱される。①式において, $\epsilon''$ はこの遅れを表している。発生する熱量は $\epsilon''$ が一定と見なせる場合には交番周波数に比例する。また,印加する交番電界強度の 2 乗に比例する。

マイクロ波を利用する電子レンジは誘電加熱の代表的な例の一つである。電子レンジでは,被加熱物を構成する荷電体のうち,電気双極子による発熱によって加熱される。

電子ビーム加熱(electron beam heating)

電子ビーム加熱とは,通常真空中で被加熱物への電子ビームの衝撃によって発生する熱による加熱である。

電子ビーム加熱は,真空中で高速に加速した電子流を被加熱材に衝突させて,その際に発生する熱を利用する加熱である。電子ビーム加熱の特徴は材料表面に当たるパワー密度が少ない場合,アーク溶接と同様に材料表面で熱に変わり,順次熱伝導で伝わっていくが,パワー密度がある限度を超えると,深部貫通現象が現れる。

107 ~ 108 [W/cm2] 程度の高エネルギー密度が得られ,加熱効率が高いのが特長である。精密な位置制御により,照射部分を局所的に加熱して溶接や切断などの加工を行うことができ,セラミック微細加工などに用いられる。

抵抗加熱

直接抵抗加熱(direct resistance heating)

直接抵抗加熱とは,被加熱物に直接電流を通すことによって加熱を行うことをいう。直接通電加熱ともいう。

直接抵抗加熱は,導電性の被加熱物に電極を配置し,直接通電してそのジュール熱で加熱を行うものである。代表的なものとして,黒鉛化炉,炭化けい素炉,ガラス溶融炉がある。

金属発熱体(metallic heating element)

金属発熱体とは,抵抗発熱材料として金属のもつ固有抵抗を利用した発熱体である。金属ヒータともいう。

金属発熱体には合金発熱体と単体発熱体がある。

表 金属発熱体の種類と特性
金属発熱体 最高使用温度 [°C] 使用可能雰囲気
合金発熱体 鉄クロムアルミ系
Fe-Cr-Al
1,100 ~ 1,400 酸化
ニッケルクロム系
Ni-Cr
1,000 ~ 1,200 酸化
単体発熱体 タングステン
W
2,400 還元,中性,真空
タンタル
Ta
2,200 中性,真空
モリブデン
Mo
1,800 還元,中性,真空

間接抵抗方式

間接抵抗加熱方式は発熱体と呼ばれる熱源から主として放射,対流により被加熱物に伝熱させるもので,抵抗炉に広く使われている方式である。間接抵抗加熱方式に用いられる発熱体の素材として望まれる主な性質としては,抵抗率が大きいこと,高温での変形が少ないこと,加工が容易であること,高温で耐酸化性が高いこと,抵抗の温度係数が小さいことなどが挙げられる。

ニクロムや炭化けい素などで作られたヒータに通電し,発生するジュール熱を利用して非加熱物を間接的に加熱する方式は間接抵抗加熱と呼ばれ,工業分野の電気加熱において最も多く利用されている加熱法である。

この方式の加熱炉では,炉内のヒータに供給する電力を調整して,炉内温度を制御している。この温度制御には,サイリスタを用いた位相制御が多く用いられている。位相制御では高調波が発生するので,このための対策が必要であるが,制御応答は速い。

ヒータで発生したジュール熱は,放射,対流,伝導の組合せによって被加熱物に伝えられ,被加熱物が加熱される。放射ではヒータやヒータによって加熱された炉壁から発生する電磁波(主に赤外放射)によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。対流ではヒータによって加熱された炉内の空気の移動によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。対流による被加熱物への熱流束(単位時間に単位面積を横切る熱量)は被加熱物近傍の炉内空気温度と被加熱物の表面温度との温度差に比例する。また,炉内で被加熱物を保持する物体と被加熱物とが接触する部位からは伝導によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。

電気加熱の制御

電気加熱の制御について考える。

温度制御

電気加熱の温度制御にとって温度計は必要不可欠な計測器である。温度計は,大きく接触式と非接触式に大別され,さらに,それぞれいくつかの種類に分かれている。接触式には,2 種類の異種金属導体の両端を接続した閉回路に温度差によって起電力が生じる原理によって温度を計測する熱電温度計などの温度計があり,非接触式には放射温度計などがある。放射温度計にもいくつかの種類があり,光高温計はその中の一つである。

抵抗炉の温度制御

抵抗炉を例にとると,温度制御によって被加熱物の無駄な加熱を防ぐためには,熱電対などで検出した炉内の温度を,目標設定部を持つ指示調節計に入力し,操作部へ信号を送って炉の発熱体に供給する電力を抑制することになる。この場合,精密に温度調整するために,操作部に半導体スイッチング素子を使った交流電力調整器が用いられることが多い。これを用いた電力調整方式では,位相制御の他にサイクル制御がある。この制御は,位相制御に比べて高調波の発生が少ないという特徴がある。

加熱,溶解プロセスにおける省エネルギー対策

加熱,溶解プロセスにおける省エネルギー対策は設備上と操業上の対策に分けられる

設備上の対策

設備上の対策としては,加熱,溶解時間短縮により熱損失低減を図る設備の高電力化や,炉内雰囲気や加熱温度に対する最適発熱体の採用が挙げられる。

加熱炉や溶解炉の熱効率を良くするためには,熱伝導率が小さい炉壁材料を使用して炉内から外部へ逃げる熱損失を低減することや,間欠操業の炉においては,炉壁材料に比熱及び密度の小さい材料を使用し,蓄熱量を削減することが効果的である。また,放射や対流による熱損失を低減するためには,操業中の炉蓋や扉の開放時間を短縮することも有効である。

エネルギー原単位

電気加熱設備のエネルギー原単位は,被加熱材の単位質量当たりの消費電力量で表される。加熱設備全体で消費されるエネルギーには,通常損失が含まれているが,損失は被加熱材の加熱に寄与しない。エネルギー原単位は消費されるエネルギーの計測点を入力端として,そこでの計測値により評価・管理するのが一般的である。

ヒートポンプ

エアコン,冷凍機,給湯器などにヒートポンプが広く用いられている。ヒートポンプは,低温側の熱交換器と高温側の熱交換器との間に冷媒を循環させることで,低温側の熱を高温側へくみ上げている。

まず,低温側の熱交換器において,冷媒が低温側から熱を吸収して蒸発する。その後,冷媒は圧縮機によって高温,高圧となり,高温側の熱交換器に送られる。そこで冷媒は高温側に熱を放出して凝縮する。続いて,冷媒は膨張弁を通ることによって低温,低圧となって再び低温側の熱交換器に送られる。このような熱サイクルの基本サイクルは逆カルノーサイクルと呼ばれる。

ヒートポンプの冷媒

ヒートポンプの熱サイクルにおいて,熱の輸送を担う物質は冷媒と呼ばれ,ハイドロフルオロカーボン(HFC),二酸化炭素,アンモニアなどが用いられている。冷媒にはヒートポンプにおける良好な熱輸送特性のほか,環境問題から地球温暖化係数やオゾン破壊係数が小さいことが求められている。

ヒートポンプの COP(成績係数)

ヒートポンプの性能を示す指標の一つに COP(成績係数)がある。低温熱源の温度を $T_1$ [K],高温熱源の温度を $T_2$ [K],とすると,加熱の場合の COP の理論上の最高値は次式となる。

\[ \text{COP}_\text{max} = \frac{T_2}{T_2 - T_1} \]

また,蒸発器で吸収した熱量を $Q_\text{L}$ [J],ヒートポンプを動かすために使った仕事を $W$ [J] として,熱損失などを無視すると加熱の場合の COP は次式となる。

\[ \text{COP}=\frac{Q_\text{L} + W}{W} \]

熱回路

断面積が $S$ [m²],厚さが $d$ [m],熱伝導率が $k$ [W/(m·K)] である熱抵抗 $R$ [K/W] は次式で表される。

\[ R = \frac{1}{k} \times \frac{d}{S} \]

熱流 $q$ [W] は,温度差を $\theta$ [K] とすると,次式となる。

\[ q = \frac{\theta}{R} \]

熱流束 $Q$ [W/m²] は単位面積当たりの熱流であるから,次式となる。

\[ Q=\frac{q}{S} \]

熱流の近似式

空気や水などの流れの中に置かれた固体表面と流体との間に温度差があると,両者の間で熱移動が生じ,この熱流は近似的に $Q = hS(\theta_1 - \theta_2)$ で表される。$h$ は熱伝達率と呼ばれ,その値は主として流体の物性及び流束によって変化する。$\theta_1$ 及び $\theta_2$ は,それぞれ固体表面の温度と流体の温度を示し,$S$ は固体の伝熱面積である。

ステファン・ボルツマンの法則

ステファン・ボルツマンの法則(Stefan-Boltzmann law)は,熱輻射により黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表した物理法則である。ヨーゼフ・シュテファンが 1879 年に実験的に明らかにし,弟子のルートヴィッヒ・ボルツマンが 1884 年に理論的な証明を与えた。

ステファン・ボルツマンの法則によれば,全放射エネルギー密度 $W$ は絶対温度 $T$ の 4 乗に比例する。($\sigma$:ステファン・ボルツマン定数(Stefan-Boltzmann constant) [Wm-2K-4],$\epsilon$:放射率(emissivity)もくしくは射出率)

\[ W=\epsilon \sigma T^4 \] \[ \sigma = \frac{2\pi^5 k^4}{15 c^2 h^3}=5.670 374 419 ... \times 10^{-8} \]

参考文献

  • 伊東 敏雄 著,「な~るほど!の熱学」,株式会社学術図書出版社,2001年9月30日 第 1 版 第 4 刷
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「製鋼用アーク炉設備
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「熱電素子
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「ヒートポンプ
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「電気加工
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「アーク溶接
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「電気加熱
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