科目Ⅲ:電気設備及び機器 平成20年度

問題10 電気機器

誘導機

誘導機は「固定子及び回転子が互いに独立した電機子巻線を有し,一方の巻線が他方の巻線から電磁誘導作用によってエネルギーを受けて動作する非同期機である」と定義されている。誘導機は,定常状態において同期速度と異なる速度で回転する交流機であり,交流電源に接続される巻線を一次巻線,他方の巻線を二次巻線と呼ぶ。

三相誘導電動機は,独立した励磁電源を必要とせず,特にかご形誘導電動機は構造が簡単で保守が容易なため,現在,定速性の電動機としてのみならず,可変速システム用の電動機としても産業界で広く用いられている。

三相誘導電動機が滑りsで運転しているとき,その回転速度n[min-1]は次式で定義される。

n[min-1]

ここで,n0[min-1]は同期速度f[Hz]は一次周波数,2pは極数である。

静止しているかご形三相誘導電動機の電機子巻線に三相交流電流を供給すると,回転磁束が発生するとともに,かご形回転子には大きな誘導電流が流れる。この電流と磁束との間の電磁力によって,回転子は磁束の回転方向に回転する。回転子の回転速度が上昇すると回転子導体に流れる電流は減少し,負荷に見合うトルクを発生できる回転速度で回転する。

二次側諸量を一次側に換算したL形等価回路を用いるとき,滑りsで運転している三相誘導電動機の二次入力P2[W]は,二次電流をI2[A],二次抵抗をr2[Ω]とすれば,次式で表される。

P2[W]

また,二次銅損Pr2[W]は次式で表される。

Pr2

したがって,発生動力P0[W]は

P0[W]
となり,発生トルクT[N・m]は次式で表される。
Q

ただし,ω[rad/s]は回転角速度,ω0[rad/s]は同期角速度,V1[V]は一次星形相電圧,r1[Ω]は一次抵抗,x1[Ω]は一次漏れリアクタンス,x2[Ω]は二次漏れリアクタンスである。

図 一次換算L形等価回路

誘導電動機の損失

誘導電動機の損失は固定損,直接負荷損及び漂遊負荷損で構成される。回転速度が一定の場合,固定損は負荷の大きさにかかわらず一定であり,鉄損と機械損に分けられる。直接負荷損は一次巻線の抵抗損及び二次回路の抵抗損など負荷電流によって生じる銅損が主なものである。漂遊負荷損は,負荷に起因して鉄心及び導体以外の金属部分に生じる損失で,直接負荷損に含まれないものをいい,電流の2乗に比例して増減する。

次に,三相誘導電動機の運転時の力率について考える。定格運転時は,通常,滑りが数パーセント程度であるので,L形等価回路の二次電流枝路はインピーダンスの抵抗分が大きい。このため二次電流枝路の力率は良く,その電流の大きさは励磁電流に比べてかなり大きくなるので,電源側から見た力率は良好に保たれる。滑りが零に近づく軽負荷時には,二次電流枝路の抵抗分が非常に大きくなり,二次電流枝路の力率は良い。しかし,その電流の大きさは励磁電流に比べてかなり小さく,一次電流に占める励磁電流の割合が支配的となり,電源側から見た力率は0に近づく。

これらのことから,省エネルギーのためには負荷の大きさに見合った定格出力の誘導電動機を選定することが望ましい。

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