目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2019年11月4日作成,2019年11月5日更新

平成28年度 問題14 電気化学

(1) 電気化学システム

1) 電気エネルギーと化学エネルギーの直接変換を担うのが電気化学システムである。この基本要素である電極は 2 種類に分けられ,脱電子反応すなわち酸化反応が起こるアノードと,受電子反応すなわち還元反応が起こるカソードとがある。この電極は電子伝導体であり,電極触媒能とともに電子伝導性が良いことが電極材料の条件となる。この 2 種類の電極間に存在するのがイオン伝導体である電解質である。このイオン伝導体も良好なイオン伝導性を有する必要がある。

電気化学システムでは,電子伝導体とイオン伝導体界面で起こる電子授受の反応が特徴である。これらを生かすことにより,電気エネルギーと化学エネルギーの直接変換が可能となる。

2) 電気化学システムを利用して水を分解すると,水素と酸素が得られる。これは,電気エネルギーから化学エネルギーへの変換の一つである。これに基づく産業は古くから水電解工業として存在し,安価な電力の得られるところでは,アンモニア製造等への水素供給を担っている。

水電解反応は次式で表される。

2 H2O → 2 H2 + O2

このように,水素は水が還元されて生成する。ここで,水素 1 分子当たり,反応に関与する電子数は 2 [個] である。

3) 電気化学システムを用いると,金属を高純度化することもできる。

① 電気化学システムを用いて,金属を高純度化するプロセスは電解精錬と呼ばれ,これも 2) と同様に古くから工業的に活用されている。

② 電線等に利用される銅は,純度が低いと電気抵抗が大きく,この抵抗による電力損失が大きくなる。高純度の銅を得るためには,純度の低い粗銅を 2 種類の電極のうちのアノードにして電気分解を行う。このとき,2 種の電極間のイオン伝導体としては,硫酸水溶液が用いられる。この構成の電気分解により,一段で純度 99.99 % 以上の高純度の銅が生成する。

③ この電気分解では,不純物と銅の持つイオン化傾向の差を利用する。電圧を巧みに制御することにより,イオン化傾向が銅より大きな不純物は電解液中に残り,純銅上には析出しない。また,溶解しない不純物は溶液中に溶けずに固体として沈殿する。

ここでの反応は次のように表すことができる。

Cu(粗銅) → Cu(純銅)

このとき,銅 1 原子当たり,反応に関与する電子数は 2 [個] である。

イオン化傾向(ionization tendency)とは,溶液中(おもに水溶液中)における元素(主に金属)のイオンへのなりやすさを表す。

金属のイオン化傾向を大きいものから順に配列すると以下のとおりになる。

Li, Cs, Rb, K, Ba, Sr, Ca, Na, Mg, Th, Be, Al, Ti, Zr, Mn, Ta, Zn, Cr, Fe, Cd, Co, Ni, Sn, Ob, Sb, Bi, Cu, Hg, Ag, Pd, Ir, Pt, Au

(2) 理論電気量

銅の原子量は 63.5 とし,ファラデー定数は 26.8 A·h/mol とする。

1) 水の電気分解で 2 mol の水素を作るのに必要な理論電気量は 1.07 × 102 [A·h] である。この電気分解における理論分解電圧が 1.21 V であるとき,実際の操業電圧は 1.82 V であった。このときの電圧効率は 6.65 × 101 [%] となる。

2) 純銅を電解で製造するとき,このプロセスで純銅を 5.00 kg 得るのに必要な理論電気量は 4.22 × 103 [A·h] である。また,このプロセスで,理論電気量と同じ電気量で電解したところ,実際に得られた純銅は 4.68 kg であった。このときの電流効率は 9.36 × 101 [%] である。

1-1) 水の電気分解で 2 mol の水素を作るのに,4 mol の電子が必要となる。よって,必要な理論電気量は,次式で求められる。

\[ 26.8 \text{ [A·h/mol]} \times 4 \text{ [mol]} = 107.2 \text{ [A·h]} = 1.07 \times 10^2 \text{ [A·h]} \]

1-2) 電圧効率は,次式で求められる。

\[ \frac{1.21 \text{ [V]}}{1.82 \text{ [V]}} \times 100 = 66.48 \approx 6.65 \times 10^1 \text{ [%]} \]

2-1) 銅 1 mol 得るのに,2 mol の電子が必要となるので,純銅を 5.00 kg 得るのに必要な理論電気量は,次式で求められる。

\[ \frac{5.00 \text{ [kg]} \times 1 000 \text{ [g/kg]}}{63.5 \text{ [g/mol]}} \times 2 \times 26.8 \text{ [A·h/mol]} = 4220.47 \text{ [A·h]} \approx 4.22 \times 10^3 \text{ [A·h]} \]

2-2) 電流効率は,次式で求められる。

\[ \frac{4.68 \text{ [kg]}}{5.00 \text{ [kg]}} \times 100 = 93.6 \text{ [%]} = 9.36 \times 10^1 \text{ [%]} \]
inserted by FC2 system