目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2019年10月24日作成,2019年10月27日更新

平成30年度 問題3 エネルギー管理技術の基礎

次の各文章は,平成30年4月1日時点で施行されている「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(以下,『工場等判断基準』と略記)の内容及びそれに関連した管理技術の基礎について述べたものである。

これらの文章において,「工場等(専ら事務所その他これらに類する用途に供する工場等を除く)」における『工場等判断基準』の本文に関連する事項の引用部を示す上で,

「Ⅰ エネルギーの使用の合理化の基準」の部分は『基準部分(工場)』
「Ⅱ エネルギーの使用の目標及び計画的に取り組むべき措置」の部分は『目標及び措置部分(工場)』

と略記する。

(1) エネルギーの使用の合理化の目標の実現に向けて,計画的に取り組むべき措置

『工場等判断基準』の『目標及び措置部分(工場)』では,事業者がエネルギーの使用の合理化の目標の実現に向けて中長期的に努力し,計画的に取り組むべき措置が定められている。

この措置を講ずべき対象としている設備・装置は,燃焼設備,熱利用設備,廃熱回収装置,コージェネレーション設備,電気使用設備,空気調和設備・給湯設備・換気設備・昇降機等,照明設備及び工場エネルギー管理システムである。

工場エネルギー管理システムについては,次の 1. ~ 3. の措置を講じることにより,エネルギーの効率的利用の実施について検討することが求められている。

  1. 過去の実績と比較したエネルギーの消費動向等が把握できるよう検討する。
  2. 各設備について統合的なエネルギー制御を実施することを検討する。
  3. 機器や設備の保守状況,運転時間,運転特性値等を比較検討し,機器や設備の劣化状況,保守時期等が把握できるよう検討する。

(2) 風力発電システム

再生可能エネルギーによる発電の一つとして風力発電がある。風力発電システムは,風の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムであり,その発電電力は,原理的には風速の 3 乗に比例する。

(3) 定圧比熱と定容比熱の差

気体の比熱として,定圧比熱と定容比熱が定義されている。理想気体では,定圧比熱と定容比熱の差は,ガス定数となり,気体の種類によって決まる一定の値をとる。

(4) 水素の完全燃焼

1 m³N の水素を,酸素濃度(体積割合)が 30 % の酸素富化空気で完全燃焼させる際に必要となる酸素富化空気量は,1.67 [m³N] である。なお,m³N はガスの標準状態での体積であることを示している。

水素が完全燃焼するときの化学式は次式となる。

2 H2 + O2 → 2 H2O

よって,1 m³N の水素を,酸素濃度(体積割合)が 30 % の酸素富化空気で完全燃焼させる際に必要となる酸素富化空気量は次式で求められる。

\[ \frac{1 \times \frac{1}{2}}{0.30} = 1.666 \approx 1.67 \text{ [m³}_\text{N}\text{]} \]

(5) エネルギー保存の法則

周囲環境と熱的に平衡状態にある物体の表面では,周囲環境からの放射エネルギーに対して,エネルギー保存の法則から,反射率,吸収率及び透過率には次式の関係が成り立つ。

反射率 + 吸収率 + 透過率 = 1

これらの中で,物体の表面の放射率に等しいのは,吸収率である。

(6) 熱通過率

熱伝導率が 50 W/(m·K) で,板厚が 10 mm の平坦な鋼板がある。この鋼板の片面に温風を通し,反対の面に冷風を通して熱交換を行っている。この鋼板の両面における熱伝導率がそれぞれ 10 W/(m²·K) で等しいとき,温風から鋼板を通して冷風へ熱が移動するときの熱通過率は,5.0 [W/(m²·K)] である。

温風から鋼板を通して冷風へ熱が移動するときの熱通過率は,次式で求められる。

\[ \frac{1}{\frac{1}{10} + \frac{1}{50/0.01} + \frac{1}{10}} = 4.9950 \approx 5.0 \text{ [W/(m²·K)]} \]

(7) 大気圧以下の蒸気媒体を用いた加熱

『工場等判断基準』の『目標及び措置部分(工場)』では,熱利用設備に対する措置の一つとして,温水媒体による加熱設備では,大気圧以下の蒸気媒体を用いた加熱についても検討することを求めている。

たとえば,80 °C の乾き飽和蒸気を考えるとき,その比エンタルピーは 2 643 kJ/kg であり,常圧で同じ 80 °C の温水の比エンタルピーの約 8 倍と保有熱量が大きい。さらに,蒸気の凝縮熱伝達により伝熱が促進され,均一加熱も可能となる。

(8) 加熱及び冷却並びに伝熱の合理化

『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,加熱及び冷却並びに伝熱の合理化について,「加熱,熱処理等を行う工業炉については,設備の構造,被加熱物の特性,加熱,熱処理等の前後の工程等に応じて,熱効率を向上させるように管理標準を設定し,ヒートパターンを改善すること。」を求めている。

(9) 有効エネルギー(エクセルギー)

『工場等判断基準』の「エネルギーの使用の合理化の目標及び計画的に取り組むべき措置」のうちの「その他エネルギーの使用の合理化に関する事項」では,未利用エネルギーの活用を検討することを求めている。未利用エネルギー活用のためには,そのうち活用できる有効エネルギー(エクセルギー)を事前に検討しておくことが望ましい。

いま,温度が 80 °C の大量の温排水があり,この温排水と 20 °C の周囲環境との間のカルノーサイクルを働かせて動力を得ることを考える。温排水の温度が 80 °C 一定に保たれるものとすれば,温排水 1 000 kJ の熱量に対して,このカルノーサイクルで得られる最大仕事として定義されるエクセルギーは,170 [kJ] である。なお,0 °C は 273.15 K である。

(10) 空気調和における換気量の低減

空気調和において,対象とする部屋の換気による外気負荷は空気調和設備の負荷の中で大きな割合を占めるため,換気量を適正量まで低減することにより大きな省エネルギーを図ることができる。

1) 『工場等判断基準』の『目標及び措置部分(工場)』は,「空気調和設備については,二酸化炭素センサー等による外気導入量制御の採用により,外気処理に伴う負荷の削減を検討すること。また,夏季以外の期間の冷房については,冷却塔により冷却された水を利用した冷房を行う等熱源設備が消費するエネルギーの削減を検討すること。」を求めている。

2) 空気調和の対象とする部屋の二酸化炭素濃度が 600 ppm で,環境基準面に対して余裕があった。また,そのときの外気の二酸化炭素濃度は 400 ppm であった。そこで,換気量を低減して二酸化炭素濃度を 900 ppm まで許容することにした。換気における空気の取入れ量と排出量とは等しいので,低減後の換気量は低減前の換気量のおよそ 40 [%] に抑えることができ,大幅な外気負荷の削減が可能となる。ここで,部屋内の二酸化炭素の発生量は一定で,二酸化炭素の濃度は均等に分布しているものとし,排気量は体積流量,二酸化炭素濃度は空気中の二酸化炭素の体積割合とする。

(11) 平均発電端熱効率

ある火力発電設備が,天然ガスを燃料として電気出力 200 MW の一定出力で運転されている。1 時間当たりの燃料使用量は 42 000 m³N/h,燃料の高発熱量 45 MJ/m³N である。このときの平均発電端熱効率は高発熱量基準では 38.1 [%] である。

1 時間当たりの燃料の高発熱量は,次式で求められる。※ 1 MW = 3,600 MJ

\[ 45 \times 42000 = 1,890,000 \text{ [MJ]} = 525 \text{ [MW]} \]

高発熱量基準での,平均発電端熱効率は,次式で求められる。

\[ \frac{200}{525} \times 100 = 38.095 \approx 38.1 \text{ [%]} \]

(12) コンデンサによる力率改善

線間電圧 200 V の対称三相交流電源に接続されている平衡三相負荷の消費電力が 30 kW,力率が 80 %(遅れ)であった。この三相負荷に並列にコンデンサを接続し,力率を 100 % に改善するのに必要なコンデンサの三相分の容量は,この負荷の無効電力分に相当し,22.5 [kvar] である。

コンデンサの三相分の容量は,次式で求められる。

\[ \sqrt{(\frac{30}{0.8})^2 - 30^2} = 22.5 \text{ [kvar]} \]

(13) 三相交流の線間電圧と相電圧

三相交流は,単相交流に比べ,同一容量における電力輸送の損失が少なく,また,機器を小型化できるなど優れた特徴を持っており,発電,送配電,需要設備のいずれにおいても広く採用されている。この三相交流の電圧は線間電圧又は相電圧で表されるが,一般に,線間電圧で扱うことが多い。対称三相交流回路において,線間電圧は,星形結線(Y 結線)で考えた場合の相電圧の $\sqrt{3}$ 倍である。

星形結線(Y 結線)は下図のようになり,線間電圧 $V_\text{l}$ は相電圧 $V_\text{p}$ の $\sqrt{3}$ 倍である。

星形結線(Y 結線)
図 星形結線(Y 結線)

(14) 需要電力

ある工場では,最大需要電力を 3 000 kW に抑えることにしている。ある日の 14 時からの 30 分間について考える。14 時から 14 時 15 分までの使用電力量が 1 000 kW·h であったとすると,残りの 14 時 15 分から 14 時 30 分までの 15 分間の平均電力を 2 000 [kW] 以下とする必要がある。ここでは,需要電力は使用電力の 30 分間の平均値とする。

14 時から 14 時 15 分までの平均電力は,次式で求められる。

\[ \frac{1000}{15/60} = 4,000 \text{ [kW]} \]

14 時 15 分から 14 時 30 分までの平均電力を $P$ [kW] とすると,14 時から 14 時 30 分の最大需要電力を 3 000 kW に抑えるようにするためには,次式を満たす必要がある。

\[ 4,000 \times \frac{1}{2} + P \times \frac{1}{2} \le 3,000 \] \[ P \le 2,000 \text{ [kW]} \]

(15) 変圧器の損失

変圧器の損失は,負荷の大きさに依存しない無負荷損と,負荷電流の大きさによって変動する負荷損に分けられ,負荷電流の大きさにより効率は変化する。負荷の力率が変わらないとしたとき,変圧器の効率は負荷損 = 無負荷損になる負荷のときに最も高くなる。

(16) 送風機の所要動力

送風機の所要動力 $P$ [kW] は,風量を $Q$ [m³/min](質量流量 $G$ [kg/min]),風圧(吐出側と吸込側の全圧の差)を $H$ [Pa],送風機の効率を $\eta$ [%] とすると,$\displaystyle \frac{QH}{60}\times\frac{100}{\eta}$ × 10-3 [kW] で表される。

(17) ファラデーの法則

電気化学反応では,電極界面においてイオンと電子の間で電気のやり取りが行われる。ファラデーの法則によれば,電流が通過することにより電極上において析出又は溶解する化学物質の質量は,通過する電気量に比例する。また,同じ電気量によって析出又は溶解する化学物質の質量はその物質の式量 $M$ と反応電子数 $z$ で決まり,$\displaystyle \frac{M}{z}$ に比例する。

(18) 事務室の推奨照度範囲

照明設備について,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,日本工業規格の照度基準等に規定するところにより管理標準を設定して使用すること,また,調光による減光又は消灯についての管理標準を設定し,過剰又は不要な照明をなくすことを求めている。

JIS Z 9110 : 2011「照明基準総則」では,事務所ビルにおける事務室の推奨照度範囲は 500 ~ 1 000 [lx] としている。

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