目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2019年10月5日作成,2023年12月31日更新

令和元年度 問題7 工場配電

(1) デマンド制御

デマンド制御とは,電気使用の便益を大きく損なうことなく最大需要電力を一定の値以下に留め,電力設備の効率運転と省エネルギーを推進する手法である。最大需要電力を低減することができれば,電力需要の平準化にも寄与できるので,負荷平準化の計画に用いる指標である負荷率が向上し,受電設備や配電設備の効率的運用が可能となる。

一般に,デマンド制御を自動で行うデマンド監視制御装置では,需要電力を監視して,最大需要電力が契約電力を超過すると予測されるときは警報を出し,あらかじめ設定されている優先順位に従って負荷設備の抑制や停止などを行う機能を有している。

(2) 変圧器の結線

変圧器の結線は,その利点や欠点を考慮して選定される。

三相変圧器の結線方法の中で,Y-Δ 結線あるいは Δ-Y 結線のものは,中性点を接地することで地絡時の異常電圧を低減できること,第 3 調波励磁電流が環流するので波形の歪みが少ないことが利点であるが,一次・二次間に 30 ° の位相差を生じることになる。これに対し,Δ-Δ 結線のものは,一次・二次間に位相差はないが,中性点を設けることはできない。

この他に工場配電で用いられる結線方法としては,三相電源に 2 個の同じ定格の単相変圧器を接続して三相電力を供給する V-V 結線や,三相電源に 2 個の定格の異なる単相変圧器を用いて,二次側の位相が 90 ° 異なる二つの単相回路を得るスコット結線などがある。スコット結線は,単相交流負荷に電力を供給する非常用発電装置の場合などで,三相交流電源の電圧不平衡を防止する場合や,交流式電気鉄道など大きい単相負荷を必要とする場合などに用いられる。

(3) フリッカ

アーク炉や溶接機などの変動負荷が配電線に接続されていると,電圧変動が頻繁に繰り返され,その結果,白熱電球や蛍光ランプなどの光束が変動し,明るさにちらつきが生じることがある。この現象をフリッカと呼んでいる。これが著しい場合には人に不快感を与えることになる。

人間の目は,ちらつきを感じやすさに周波数依存性がある。ちらつきの周波数が 10 [Hz] 程度のときに最も敏感に感じるとされており,周波数がこれよりも非常に高い場合や非常に低い場合は,このちらつきを感じにくくなる。

通常,我が国でのフリッカの指標となる値を計測する手順は次のようになっている。

まず,基準となる基本波電圧の実効値と変動する電圧の実効値の差を求めて,この差電圧を変動周波数成分へ分解する。次に,分解された周波数成分毎の電圧変動値に,目の感じやすさである「ちらつき視感度曲線」で得られる係数で重み付けした値を基本の量として,この値を 2 乗平均することで,指標となる値を求める。

なお,1 個の値の計測の期間は 1 分間であり,この計測で得られる 1 時間 60 個の値を統計処理して評価値を求める。

フリッカ障害の対策

  1. アーク炉,溶接機などの運転条件を改善してフリッカの発生を軽減する。
  2. 発生源への供給を短絡容量の大きな電源系統に変更する。
  3. 発生源への供給を専用線あるいは専用変圧器で行う。
  4. 電源側に直列コンデンサを,負荷側に SVC を挿入する。
  5. アーク炉用変圧器の二次側に直列に過飽和リアクトルを挿入する。
  6. アーク炉用変圧器として三巻線補償変圧器を設置する。

(4) 進相コンデンサによる力率改善

図に示すように,1 相分の線路抵抗が $R$ [Ω],1 相分の線路リアクタンスが $X$ [Ω] の三相 3 線式配電線路に平衡三相負荷が接続されている。この負荷と並列に進相コンデンサを接続して力率改善を行うことにした。ただし,力率改善の前後でも,負荷の大きさ,負荷の力率及び負荷端の電圧は変わらないものとする。

ここで,力率改善前の力率を $\cos{\phi_1}$,線路電流を $\dot{I}_1$ [A],その大きさを $I_1$ [A],$\dot{I}_1$ のうちの線路無効電流を $I_\text{q1}$ [A] とし,力率改善後の力率を $\cos{\phi_2}$,線路電流を $\dot{I}_2$ [A],その大きさを $I_2$ [A],$\dot{I}_2$ のうちの線路無効電流を $I_\text{q2}$ [A] とする。また,進相コンデンサの電流を $I_\text{c}$ [A],負荷の有効電流を $I_\text{p}$ [A],負荷端の相電圧を $V$ [V],力率改善前の線路損失を $P_1$ [kW],電圧降下を $\Delta V_1$ [V],力率改善後の線路損失を $P_2$ [kW],電圧降下を $\Delta V_2$ [V] とする。

なお,線路電流を $I$ [A],負荷の力率を $\cos{\phi}$ としたときの 1 相当たりの電圧降下 $\Delta V$ [V] の計算には,近似式 $\Delta V = I(R\cos{\phi} + X \sin{\phi})$ を用いるものとする。

三相 3 線式配電線路
三相 3 線式配電線路

1) 力率改善した場合,1 相当たりの線路損失の低減量($P_1 - P_2$)は次式で表される。

\[ P_1 - P_2 = (I_1^2 - I_2^2) \times R \text{ [kW]} \]

2) 同様に,1 相当たりの線路の電圧降下の低減量($\Delta V_1 -\Delta V_2$)は次式で表される。

\[ \Delta V_1 - \Delta V_2 = (I_\text{q1} - I_\text{q2}) \times X \text{ [V]} \]

3) 図の平衡三相負荷が,三相 500 kW,力率 85 %(遅れ)であるとき,コンデンサ接続前の 1 相当たりの線路損失が 830 W,1 相当たりのリアクタンスによる線路電圧降下が 10 V であった。

この負荷にコンデンサを接続して,負荷端から電源を見た力率を 95 %(遅れ)に改善した。

  1. 力率改善後の 1 相分の線路損失の低減量は 166 [W] となる。
  2. 同様に,力率改善後の 1 相当たりの線路の電圧降下の低減量は 4.7 [V] となる。
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