目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2020年9月6日作成,2023年12月31日更新

令和2年度 問題3 エネルギー管理技術の基礎

次の各文章は,令和2年4月1日時点で施行されている「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(以下,『工場等判断基準』と略記)の内容及びそれに関連した管理技術の基礎について述べたものである。

これらの文章において,『工場等判断基準』の本文に関連する事項については,その引用部を示す上で,

「Ⅰ エネルギーの使用の合理化の基準」の部分を,『基準部分』
「Ⅱ エネルギーの使用の目標及び計画的に取り組むべき措置」の部分を,『目標及び措置部分』

と略記し,特に「工場等(専ら事務所その他これに類する用途に供する工場等を除く)」における『基準部分』を『基準部分(工場)』と略記する。

(1) 工場等で遵守すべき基準

『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,次の 6 分野ごとに工場等で遵守すべき基準を示したものである。

  1. 燃料の燃焼の合理化
  2. 加熱及び冷却並びに伝熱の合理化
  3. 廃熱の回収利用
  4. 熱の動力等への変換の合理化
  5. 放射,伝導,抵抗等によるエネルギーの損失の防止
  6. 電気の動力,熱等への変換の合理化

この 6 分野に関して,おのおのに「管理」,「計測及び記録」,「保守及び点検」,「新設・更新に当たっての措置」の 4 項目について遵守内容が定められている。

(2) 熱交換器の熱媒体

熱交換器の熱媒体として,空気と水は広く使用される。この空気と水の流体としての特性を比較すると,温度の上昇とともに粘性が高まるのは,空気である。

(3) ブタンの完全燃焼

炭化水素系の燃料が完全燃焼しているとき,供給された空気中の酸素と反応して,炭素からは CO2,水素からは H2O が生成される。このときの反応式から,1 mol のブタン(C4H10)を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量を求めると,6.5 [mol] である。

ブタンを完全燃焼させる化学式は次式となる。

2C4H10 + 13O2 → 8CO2 + 10H2O

よって,1 mol のブタンを完全燃焼させるのに必要な理論酸素量は 6.5 [mol](= 13 ÷ 2)である。

(4) エネルギーの保存則

外部から物体に放射エネルギーが与えられているとき,熱的な平衡状態にあれば,その物体の反射率,吸収率,透過率に関して,エネルギーの保存則から反射率 + 吸収率 + 透過率 = 1の関係がある。

(5) 加熱炉の平板炉壁の熱伝導

加熱炉の平板炉壁の熱伝導について考える。厚さ 20 cm の断熱レンガを用い,炉内側の壁面温度が 660 °C,外面温度が 60 °C で,このときの通過熱流束が 750 W/m2 であった。この断熱レンガの熱伝導率は 2.5 × 10-1 [W/(m·K)] である。

断熱レンガの熱伝導率は次式で求められる。

750 [W/m2] × 0.20 [m] ÷ (660 - 60) [K] = 0.25 [W/(m·K)]

(6) 蒸気の乾き度

蒸気加熱では主に凝縮潜熱が利用されるが,使用される蒸気は湿り蒸気であることが多い。

『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』の中でも,このような利用における蒸気の乾き度を適切に維持することが求められている。この乾き度とは,湿り蒸気全体に対する飽和蒸気の質量割合を示すものである。

(7) ボイラの換算蒸発量

ボイラの設備容量(大きさ)は,一般に定格蒸発量で表されるが,相対的な評価を行う上では換算蒸発量を用いる場合がある。これは,標準大気圧のもとで,100 °C の飽和水を 100 °C の飽和蒸気にする場合の蒸発量(蒸発潜熱 = 2 257 kJ/kg)に換算して表したものである。

あるボイラの換算蒸発量 $W$ [kg/h] は,実際の蒸発量 $W'$ [kg/h] と,そのときの給水の比エンタルピー $h_\text{w}$ [kJ/kg] 及び発生蒸気の比エンタルピー $h_\text{s}$ [kJ/kg] を用いて次式で求められる。

$W$ = $W'$ × $\displaystyle \frac{h_\text{s}-h_\text{w}}{2 257}$

(8) エクセルギー

『目標及び措置部分』の「その他エネルギーの使用の合理化に関する事項」の (1) 項では,「熱の効率的利用を図るためには,有効エネルギー(エクセルギー)の観点からの総合的なエネルギー使用状況のデータを整備するとともに,熱利用の温度的な整合性改善についても検討すること」が求められている。

(9) エネルギー消費原単位

ある工場で,省エネ法に定められたとおり,エネルギー使用量を原油の量に換算した量を,製品の生産数量で除した値をエネルギー消費原単位として管理している。この工場の前年度の原油換算のエネルギー使用量は 4 000 kL で,生産数量は 600 個であった。

一方,今年度の原油換算のエネルギー使用量は 4 500 kL で,生産数量は 700 個であった。その結果,この工場の今年度のエネルギー消費原単位は,前年度の 96.4 [%] である。

エネルギー使用量を原油の量に換算した量,製品の生産数量,エネルギー消費原単位を整理すると次表となる。

表 エネルギー消費原単位の年度比較
前年度 今年度 前年比
原油換算のエネルギー使用量 4 000 kL 4 500 kL 112.5 %
製品の生産数量 600 個 700 個 116.7 %
エネルギー消費原単位 6.67 kL/個 6.43 kL/個 96.4 %

(10) エアコンディショナー

エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等において,現在国内向けに出荷する業務の用に供するために製造されたエアコンディショナーは,エネルギー消費効率として通年エネルギー消費効率を用いることが定められている。この基準エネルギー消費効率の値は,冷房能力により異なるが,およそ 3.9 ~ 6.0 の範囲にある。

(11) 火力発電所の高発熱量基準の平均熱効率

ある火力発電所の 1 時間当たりの発生電力量が 150 000 [kW·h],このとき使用した燃料量が 34 kL,燃料の高発熱量が 40 MJ/L であった。このときの火力発電所の高発熱量基準の平均熱効率は,39.7 [%] である。

ある火力発電所の 1 時間当たりの発生電力量を熱量に換算する。

150 000 [kW·h] × 3 600 [kJ/(kW·h)] = 540 000 000 [kJ] = 540 000 [MJ]

燃料の高発熱量を求める。

40 [MJ/L] × 34 [kL] × 1 000 = 1 360 000 [MJ]

よって,火力発電所の高発熱量基準の平均熱効率は次式で求められる。

540 000 [MJ] ÷ 1 360 000 [MJ] × 100 = 39.706 [%]

(12) 三相誘導電動機

三相誘導電動機が,線間電圧 200 V,線電流 200 A,力率 80 % で稼働している。この電動機の効率を 90 % とすると,軸出力は 49.8 [kW] である。ただし,$\sqrt{3}=1.73$ とする。

三相誘導電動機の軸出力は,次式で求められる。

$\sqrt{3}$ × 200 [V] × 200 [A] × 0.80 × 0.90 = 49 824 [W]

(13) 平均電力

ある工場では,最大需要電力を 5 400 kW 以下に抑えることにしている。ある日の 9 時から 9 時 30 分までの 30 分間について考える。9 時から 9 時 20 分までの電力使用量が 2 400 kW·h であるとすると,9 時 20 分からの残り 10 分間の平均電力を 1 800 [kW] 以下とする必要がある。ここで,最大需要電力は使用電力の 30 分ごとの平均値で管理する。

9 時から 9 時 20 分までの電力使用量が 2 400 kW·h であるので,この 20 分間の平均電力は次式で求められる。

2 400 [kW·h] ÷ 20/60 [h] = 7 200 [kW]

9 時から 9 時 30 分までの 30 分間の平均電力が 5 400 kW となればよいので,9 時 20 分から 9 時 30 分までの平均電力を $P$ [kW] とすると,次式が成り立つ。

\[ \frac{7200 \times 20 + P \times 10}{30}=5400 \]

上式を解くと,$P =$ 1 800 [kW] となる。

(14) 理想変圧器

変圧器は,電圧を変えるのに用いられる。電力損失や漏れ磁束のない理想変圧器を考え,一次側の巻線の巻数を $N_1$,電圧を $V_1$,電流を $I_1$,二次側の巻線の巻数を $N_2$,電圧を $V_2$,電流を $I_2$ とすると,これらの間には $\displaystyle \frac{N_1}{N_2} = \frac{V_1}{V_2} = \frac{I_2}{I_1}$ の関係が成り立つ。

(15) 電動機の軸トルク

一般の電動機では,回転運動によって電動機軸に負荷に応じたトルクが発生する。回転速度が $n$ [min-1] で回転している電動機の軸出力が $P$ [kW] であるとき,軸トルク $T$ は円周率 $\pi$ を用いて $\displaystyle \frac{P}{(\frac{2\pi n}{60})}$ × 103 [N·m] で表される。

(16) 電気加熱

電気加熱には,被加熱物自身の発熱により,内部からの加熱ができる加熱方式がある。内部加熱ができる加熱方式のうち,誘導加熱は,コイルの内側に導電性の被加熱物を置き,コイルに交流電流を通じたときに被加熱物に誘起される渦電流を利用するものである。

誘導加熱(induction heating)とは,電磁誘導作用で発生する誘導電流による直接または間接電気加熱である。

(17) 推奨照度範囲

照明設備について,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,JIS の照明に関する規格及びこれに準ずる規格の規定するところにより管理標準を設定して使用すること,また,調光による減光又は消灯についての管理標準を設定し,過剰又は不要な照明をなくすことを求めている。JIS の「照明基準総則」では,事務所ビルにおける事務室の推奨照度範囲を 500 ~ 1 000 [lx] としている。

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