アクセス系線路の伝送技術

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

家庭やオフィスなどのユーザと通信設備センタまでの数 km から数十 km 程度の通信ネットワークは,加入者アクセスネットワーク(またはアクセスネットワーク)と呼ばれる。ツイストペアケーブル(電話線)の代わりに光ファイバケーブルを適用した光加入者アクセスネットワークが本格的に普及し始め,ブロードバンドアクセスサービスの発展を支えている。

目次

アクセス系メタリックケーブルの伝送技術

ユーザ宅と電話局(またはネットワークのアクセスポイントなど)を結ぶ回線を,アクセス回線という。以前は加入電話だけだったので加入者線と呼んでいたが,最近はインターネット接続など多様化が進んで,より一般的なアクセス回線という呼び名が定着した。

アナログ電話

一般の家庭で利用するアクセス回線の代表は電話用の加入者線で,銅線でつくられたペア線が使われている。このペア線は音声信号なら安定して伝送できるが,テレビ映像のようなブロードバンド信号の伝送に使うことはできない。しかし,安価で,ほとんどの家庭にまで引き込まれているので,これを高速インターネットに利用しようと ADSL が開発され,利用された。

加入電話回線(アナログ)
図 加入電話回線(アナログ)

ISDN

ISDN(Integrated Services Digital Network : ディジタル総合サービス網)とは,送受信する信号をデジタル化することで,電話や静止画・動画伝送,データ通信など,さまざまなサービスを統合的に提供する電話網のこと。ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)において,世界共通の規格として,定められている。

ISDN
図 ISDN

ISDM 回線に用いられる TCM 伝送方式

TCM(Time Compress Multiplexing)伝送方式は、ピンポン伝送方式ともいわれ、送信パルス列を時間圧縮し、2 倍以上の速度のバースト状のパルス列に変換し送出するとともに、この時間圧縮により生ずる空き時間に反対方向からのバースト状のパルス列を受信する方式である。

xDSL

xDSL(x Digital Subscriber Line)とは,通常の電話回線ケーブル(銅線)を利用して,数 Mbps クラスの高速通信を実現させる技術の総称。

ADSL

ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)は 1 対のツイストペアケーブル通信線路で,上り・下りの速度が非対称な通信を行う。日本では,収容局(電話局の回線収容局)から加入者への DSL 通信として最も普及している。

ADSL
図 ADSL

モデム(modem)は,ディジタル変調,復調を行うデータ回線終端装置である。

また,スプリッタ(splitter)は,アナログ電話回線から送られてくる信号を,電話機のための信号とインターネット通信のための DSL モデムのための信号とに分けるための分波器,混合器である。

ADSL の規格である Annex C 方式は、ISDN の TCM 伝送方式に対応しており、送信データ量を TCM 伝送方式の伝送周期に同期して切り替えることにより、ADSL 回線における ISDN 回線からの影響を緩和することが可能である。

アクセス系光ファイバケーブルの伝送技術(FTTx等)

アクセスネットワークは,通信キャリアの局舎から家庭やオフィスまでの間のネットワークを指す。その中でも光ファイバを家庭まで引き込む FTTH(Fiber To The Home)は,超広帯域の通信が可能な光ブロードバンドサービスである。

FTTx

FTTx(Fiber To The x)とは,光ファイバーによる有線通信における,ユーザ宅向けの網構成の方式の総称である。光ファイバから屋内配線(ラストワンマイル)への引き込み方法により数種類に分けられている。

下図に FTTx の分類を示す。紫色の線は光ケーブル,橙色の線は非光ケーブル(同軸ケーブルなど)を示す。

FFTx
図 FTTx
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

FTTN (Fiber To The Node)

ケーブルテレビにおいてよく用いられる,ラストワンマイルの幹線網での網構成方式。HFC(Hybrid Fiber Coaxial)ともいう。幹線を光ファイバとし,分配ノード(Node)から個宅までは従来の同軸ケーブルを利用する。

FTTB (Fiber To The Building)

ユーザビルまでの光化

マンション等の集合住宅やビル等に設置されている MDF まで光ケーブルを引き込む。

MDF(主配線盤 / 主配電盤,Main Distribution Frame)とは,電話局や集合住宅,ビルなどで,外部に通じる通信回線をすべて収容し,集中的に管理する集線装置。

(出典)IT 用語辞典 e-Words

集合住宅やビル等における光配線は,次の 3 つの配線方式に大別される。

  • VDSL 方式(Very high bitrate Digital Subscriber Line,光ファイバケーブル + 電話回線)
  • 光配線方式
  • LAN 方式(光ファイバケーブル + LAN ケーブル)

FFTC (Fiber To The Curb)

配線系までの光化

共同溝等(情報 BOX 等)の場合は道路脇(Curb)まで,架線の場合は電柱まで光ケーブルを引き込む。HFC と FTTH の両方式の利点を生かすとともに,将来的に完全 FTTH 化に移行するときは既存の光ファイバケーブルを活用することで,比較的容易に FTTH へ完全移行できるメリットもある。

FTTH (Fiber To The Home)

ユーザ宅までの光化

FTTH(Fiber To The Home)は,ユーザ個宅まで直接光ケーブルを引き込む,アクセス系光通信の網構成方式のことである。また,一般個人宅に限らず,同様の形態でサービスの提供を受ける小規模なオフィスも含めて FTTP(Fiber To The Premises : 敷地)ということもある。

FTTH
図 FTTH

(参考)アクセスネットワークにおける光ファイバ通信の導入の歴史

ユーザ宅と通信設備センタを 1 対 1 で結ぶアクセスネットワークへの光ファイバ通信の適用においては,光ファイバでなければ提供不可能な高速広帯域サービスか,あるいはメタル設備に比べ経済的な構築が可能であることが求められてきた。

2001年には,社会的背景の変化と光ファイバや局側インタフェースを複数のユーザで共用することで経済化が可能な PON(Passive Optical Network)システム等の技術の進展により,光加入者回線をアクセスラインとした定額制インターネット向け高速サービス(B フレッツ)の提供が開始された。このような高速広帯域サービスの提供への取り組みと同時に,NTT では光アクセスネットワークの構築を 3 ステップに分けて進めてきた。

1st step "Fiber To The Building"

高度情報化の必要性が高まっている企業オフィスに対して電話,低速専用線,ISDN(基本インターフェース)等の現行サービスをベースに,アクセスネットワークを光ファイバ通信により高度化する。

2nd step "Fiber To The Curb"

1st step で光ファイバ化されたインフラストラクチャをベースに,電話,低速専用線,ISDN 等の現行サービスを提供し,CATV 等の映像を含む新規サービスに柔軟かつ迅速に対処できるアクセスネットワークを各家庭の近傍まで構築する。

3rd step "Fiber To The Home"

2nd step から更に進み,各家庭までの光化を構築することである。現在はまさにこの段階であり,FTTH は順次拡大されつつある。

ブロードバンド契約者数の推移
図 ブロードバンド契約者数の推移
(出典)総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成30年度第4四半期(3月末))」により作成

本稿の参考文献

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