通信ケーブル監視技術

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

通信ケーブル故障種別

電気的

光海底ケーブルの絶縁層などが損傷することにより給電路が海水に短絡した状態の故障は、一般に、絶縁故障(シャント故障)といわれ、光ファイバには異常がないため、光学的方法では故障位置を特定することはできない。両端給電方式の光増幅海底ケーブルシステムでは、シャント故障箇所が1中継区間内であるとき、各光海底中継器にはいずれかの陸揚局から給電されていることから、電圧電流測定により、給電電位がゼロになる点をシャント故障箇所に合わせることで、故障位置を特定することができる。

さらに、シャント故障箇所が陸揚局から第 1 光海底中継器までの区間であれば、陸揚局からの電気パルスエコー測定により故障位置を特定することができる。

静電特性

光海底ケーブル内の給電用導体が,陸揚局からの給電に対して開放された状態の故障は,一般に,オープン故障といわれる。光海底ケーブルの故障箇所のケーブル両端がオープン故障となった場合,工場出荷時の各ケーブルセグメントの静電容量データと陸揚局からの静電容量測定結果を比較することにより,陸揚局から故障点までのおおよその距離を計算できる。

給電系の故障判定方法としては,直流抵抗測定及び静電容量測定が用いられる。陸揚局からの静電容量測定による故障点の位置判定は誤差が大きいため,ケーブル船で推定故障位置付近のケーブルを回収した後に,ケーブル船から静電容量測定を行い,故障位置を絞り込んでいく方法を採る場合がある。

絶縁測定

有線電気通信設備令 第17条(屋内配線)では,次のように規定している。

屋内電線と大地との間及び屋内電線相互間の絶縁抵抗は,直流 100 V の電圧で測定した値で 1 MΩ 以上でなければならない。

光学的

可視光源

光ファイバ断線時において,断線箇所を見つけるため,可視光源が利用できる。可視光源には,目でみることができる短波長の赤色 LD が使われている。ただし,可視光源は通信に影響を与える可能性があるため,使用する際には予め通信が行われていないことを確認する必要がある。

レーザ製品は、JIS C 6802 : 2014(2018 : 追補 1 により改正)で定められた被ばく放出限界(AEL)値に従い、人間の目及び皮膚に対するレーザ放射の危険度に応じて 8 段階にクラス分けされる。各クラスの AEL は、レーザ光の波長、パルス幅、放射持続時間、繰り返し周波数、網膜上での集光スポットの大きさなどを考慮し規定されている。

光ファイバ通信システムの安全に適用される JIS C 6803 : 2013(2017 : 追補 1 により改正)において、非制限区域とは一般大衆による接近を制限する手段が存在しない区域とされており、非制限区域にあっては、クラス 2 の AEL を超えるレーザ放射に人体がさらされてはならないと規定されている。

レーザクラス分類「クラス 2」は,400 nm ~ 700 nm の波長範囲の可視光を放出するレーザー製品であって、瞬間的な被ばくのときは安全であるが、意図的にビーム内を凝視すると危険なレーザー製品。光学器具を用いても目に障害が生じるリスクは増加しない。

光ファイバ ID テスタ

光ファイバ通信網の建設や保守では,光ファイバ心線の誤切断や誤接続の回避のため,通信光に影響を与えない光ファイバ対照や,所内・構内の光ファイバコードの対照が必要となる。

光ファイバ ID テスタは,光ファイバの損失測定,簡易な光レベル測定及び心線対照に使用できる測定器であり,L バンド(1.565~1.625 [μm])の長波長帯の通信光に対しても心線対照が可能である。

光ファイバの ID テスタを用いた心線対照において,現用通信光の波長が 1.55 [μm] の場合,心線対照光の波長としては,一般に,現用通信光より長い波長の 1.65 [μm] が用いられる。

ID テスタの光源には、自然光や通信光の漏れ光などを誤検出することを防止するため、一般に、270 [Hz] の周波数で変調した対照光を用いている。試験光検出器の曲げ部は、対照する光ファイバ心線を湾曲させることにより漏洩する対照光を受光素子で検出するもので、対照光を低減することなく通信光の曲げ損失を小さく抑えるために、左右非対称な湾曲形状になっているものがある。

ID テスタの曲げ部の湾曲形状を左右非対称にすることにより、左及び右方向からの試験光の漏洩光検出レベルに差を生じさせ、それぞれの検出レベルの大小を比較することで光線路の上部下部が判定できる。

アクセス区間などに使用されている、曲げに強く、曲げても光が漏洩しにくい R15 mm 光ファイバ心線の対照には、微弱な漏洩光でも検知可能な透過型曲げ部が使用される。透過型曲げ部に使用される透過性部材は、光ファイバ被覆からの漏洩光を効率的に部材内部へ伝搬させるため、光ファイバ被覆と同程度の屈折率を有している。

光ファイバ ID テスタは、受光素子として Ge-PD に代わり InGaAs-PD を用いることで通信光に対する挿入損失を低減し、受光感度を向上させることが可能である。

SM 光ファイバにおける波長分散を測定する方法

シングルモード光ファイバにおける波長分散を測定する方法としては、周波数領域及び時間領域での測定法がある。前者の測定法としては位相法など、後者の測定法としてはパルス法などがある。波長分散は材料分散と構造分散に分けられるが、これら二つの分散を個別に分離して測定することは困難である。

パルス法

パルス法は、直接、群遅延時間差を測定することにより波長分散を求める方法であり、パルス法の一つであるツインパルス法は、光ファイバに波長の異なる二つの光パルスを同時に入射し、伝搬後の群遅延時間差を求める方法である。

パルス法の一つであるツインパルス法は、変調度の異なる二つの光パルスを被測定光ファイバに同時に入射し、測定される光パワーレベル差を定義式に当てはめて、波長分散を求める方法である。

パルス法は、時間領域において波長ごとの群遅延時間を直接測定する方法で、一般に、1 [km] を超える長さの光ファイバの測定に適しているとされており、1 [km] より短い光ファイバの測定にも適用できるが、正確さ及び繰り返し性が低下する可能性がある。

位相法

位相法は波長の異なる複数の光源を用いて、被測定光ファイバーを通過する際の各波長における光信号の到達時間の差から波長分散値を求める方法である。具体的には、ある波長を一定の周波数で変調したときの入力と出力における位相差を読み、これを記録する。この手順を、近似に必要な波長の数だけ繰り返すことでセルマイヤの近似式を完成する。

位相法は、OTDR 法と比較して、測定点が多く測定精度がよい反面、ダイナミックレンジの点で劣るという特徴がある。

位相法は、波長の異なる複数の光源を用いて被測定光ファイバを通過する際の各波長における光信号の到達時間の差から波長分散値を求める方法であり、周波数 $f$ で正弦波状に変調された光が、長さ $L$ の被測定光ファイバを伝搬することによる位相変化量 $\theta$ と単位長当たりの群遅延時間 $\tau$ の関係は、$\displaystyle \theta = \frac{2\pi f L}{\tau}$ で表される。

光ファイバの損失測定

光ファイバの損失測定法は、光ファイバを伝搬する光の減衰量を直接測定する透過光法と、光ファイバのコアで発生するレイリー散乱による後方散乱光を測定する後方散乱光法の二つに大別される。さらに、透過光法は、カットバック法と挿入損失法に分けられる。

光ファイバの損失特性の測定は、光の減衰量を直接測定する方法と、光パルスを入射したときに発生する後方散乱光強度の距離特性から測定する方法に分類される。

カットバック法

光の減衰量を直接測定する方法としては、カットバック法と挿入損失法があり、カットバック法は、主に製品検査など厳密な測定時に用いられ、測定誤差を少なくするには、光の入射時に励振される漏洩光がカットバック長で十分に減衰している必要がある。また、マルチモード光ファイバの光損失は、励振モード分布に大きく依存して変化する。

カットバック法は、被測定光ファイバに入射した光パワーと出射した光パワーの差を測定する方法で、JIS による規定では、被測定光ファイバを入射端から 1 [m] 〜 2 [m] の位置でカットバックし、その切断位置での光パワーを測定することによって入射光パワーを得るものである。カットバック法は、すべての種類の光ファイバについて最も正確に伝送損失を測定することができる。

挿入損失法

挿入損失法は、光ファイバを切断せずに測定できるため、カットバック法を適用することが難しい布設工事後の伝送路の光損失を測定する場合などに用いられる。

後方散乱光法

後方散乱光法による測定には、一般に、光源から検出器、信号処理装置までをすべて内蔵した OTDR が用いられ、OTDR 法ともいわれる。OTDR の光源には出力が高く安定した LD が使用されるが、短距離測定の場合、一般に、光源から入射する光の パルス幅を狭くするほど測定分解能が高くなるかわりに SN 比が悪くなり、測定可能距離が短くなる。

光ファイバの伝送帯域の測定法

一方、光ファイバの伝送帯域は、モード分散、構造分散、材料分散などによって決定され、マルチモード光ファイバにおける伝送帯域測定法には、変調信号光を用いた周波数領域における方法と光パルスの時間領域の波形ひずみから測定する方法などがある。

周波数掃引法

伝送帯域の測定法の一つである周波数掃引法は、周波数領域での測定法であり、正弦波で変調された光を被測定光ファイバに入射し、変調周波数を掃引することによって、被測定光ファイバのベースバンド周波数を測定し、伝送帯域を求める方法である。

故障検知・故障点探索方法

光ファイバケーブルの保守も,基本的には従来のメタリックケーブルの保守と同様に,伝送路の良好かつ安定な維持と,万一故障が発生した場合の早期発見と早期復旧を目的として行われる。

メタリックケーブルは,浸水があると直ちに故障が発生することが多いため,ケーブル内への水の侵入を防止する必要がある。これに対し,光ファイバは浸水があってもすぐに故障にはつながらないが,長期的には破断に至る確率が高くなるため,対策を講ずる必要がある。光ファイバケーブル内への浸水防止対策としては,ケーブルの内部に大気圧よりも高い圧力の乾燥空気を送り込む方法(ガス保守方式)とケーブル内部に防水材料(給水材またはコンパウンド)を充填する方法(非ガス保守方式)とがある。

ガスケーブル方式

ガス保守方式において、大気圧よりも高い圧力でケーブルの内部に送り込まれている乾燥空気の長手方向におけるガス圧分布を測定することにより、ガスが漏洩している位置を探索えいし、故障位置を判定する方法がある。

光ファイバケーブル導入当初,地下光ファイバケーブルの保守は,基本的に従来のメタリックケーブルと同様のガス保守が用いられてきた。ガス保守は,ケーブルやその接続部に乾燥空気を一定の圧力で常時印加するもので,乾燥状態の維持,内圧による湿気や水の浸入防止,圧力監視による異常検出可能,などの特長があった。

ガス保守を行うためには,ビル引込み口や立上げ部でガス封止のためのガスダムが必要であるが,ガスダム部はケーブル部に比べて太くなるため,設置場所の選定などの作業が必要となり,建設工事の面から欠点となっていた。また,伝送機器の高性能化が進み,線路区間長が長くなってきたこととケーブルの高密度化が進んできたことから,ケーブル内のガス流動抵抗が大きくなり,ガス保守が難しい線路網となってきた。さらに,光ファイバケーブルは浸水しても直ちに絶縁劣化のような障害になりにくいこともあり,光ファイバケーブルの非ガス化の検討が行われてきた。

き線系ケーブルには,一般に,ケーブル内に乾燥空気を連続して供給するガス連続供給方式によるガス保守が適用され,ケーブル損傷などによりピンホールが発生した場合,ケーブル内に供給されているガスが漏洩して内圧が低下するので,それを監視・検出することにより,ピンホールを発見することが可能となる。

光ファイバケーブルの非ガス保守

光ファイバケーブルの場合、マンホールなどにおいてケーブルの内部が浸水しても直ちに故障にはつながらないため、非ガス保守方式が適用でき、防水構造の光ファイバケーブルと接続点における浸水検知技術を併用することによって光ファイバの破断寿命の短縮を防止する措置の実施に役立てている。なお,非ガス保守方式は、防水材料による止水技術と、浸水を監視、検知する技術を組み合わせたものである。

光ファイバケーブルは、メタリックケーブルとは異なり、ケーブル内に水が浸入しても直ちに伝送特性には影響を及ぼさないため、非ガス保守が可能であるが、浸水を長期間放置した場合は、ケーブル内の金属の腐食などにより発生する水素の影響で損失が増加し、伝送特性に影響を及ぼす場合がある。

WB ケーブルに用いられる WB テープは、不織布に吸水材料が塗布してあり、浸水すると吸水材料が吸水、膨張しながらゲル化してケーブルの隙間を埋め尽くし、止水ダムを形成してそれ以上の浸水を防止するものである。

また、浸水を長時間放置すると、光ファイバに対し、長期的な破断寿命の短縮とケーブル内金属の腐食に伴い発生した水素による長期的な損失増加が懸念されるので、ケーブルの接続部に浸水検知モジュールを用いることで浸水したことを検知する方法が採られている。

浸水検知モジュールは、接続部に浸水が発生すると、吸水材料が水を含むことにより膨潤して可動体を押し上げて光ファイバに圧力をかけ、曲げを発生させる構造になっており、この作用により増加した光ファイバの光損失を、OTDR で検出することで、浸水の発生及び浸水位置を検知することが可能となる。

浸水検知モジュール
図 浸水検知モジュール

浸水状態のまま一定期間放置された光ファイバ心線の破断確率は,最大で乾燥状態の 10 倍となることから,浸水を適切に検知することが必要となる。浸水期間を短くすることにより破断確率の上昇を抑制することが可能である。

光パルス試験(OTDR)

光パルス試験器(OTDR : Optical Time Domain Reflectometer)とは,光ファイバの長手方向の光損失分布を求める測定器である。下図を用いて OTDR の測定原理を説明する。測定対象の光ファイバ内にパルス光を入射すると,光ファイバのコア内の微小な屈折率のゆらぎでレイリー散乱が生じる。また,コネクタ接続等,屈折率が異なる境界面では急峻な屈折率の違いでフレネル反射が生じる。これらレイリー散乱フレネル反射の一部が,後方散乱光として入射側に戻ってくる。この後方散乱光レベルの変化を時間領域で測定し,光パルスを入射してから後方散乱光が戻って来る遅延時間を,入射端からの距離に変換することで,光ファイバの長手方向の光損失分布が求まる。

OTDR を用いた光ファイバケーブルの損失測定では、一般に、得られる後方散乱光パワーが非常に微弱であるため、光ファイバケーブルを往復する時間よりも長い周期で繰り返し光パルスを送出し、受信信号(後方散乱光強度信号)を相加平均することで、SN 比の良い信号強度を検出する方法が採られる。

レイリー散乱(Rayleigh scattering)とは,光の波長よりも小さい粒子による光の散乱である。透明な液体や固体中でも起きるが,典型的な現象は気体中の散乱であり,日中の空が青く見えるのは,レイリー散乱の周波数特性によるものである。

レイリー後方散乱光とは,光ファイバに本質的に存在する屈折率の揺らぎ(光の波長に比べて十分小さなスケールでのランダムな密度・組成のゆらぎ等が原因)による散乱光。従来から光ファイバの光損失測定や破断点検出に利用されている。

フレネル反射とは,異なった屈折率を持つ物質どうしが接触する境界面に光が入射した際に,その光の一部に反射が生じる現象のことである。この反射は屈折率の差と入射角の差に依存して発生する。

特に光ファイバでは,光ファイバの破断点や接続点で起こる光の反射現象として知られるものである。

光パルス試験器(OTDR)の測定原理
図 光パルス試験器(OTDR)の測定原理

OTDR の測定原理は、パルス発生器で発生した電気パルスを LD にて光パルスに変換後、光カプラを通して被測定光ファイバに入射すると、被測定光ファイバ中を伝搬した光の一部がフレネル反射やレイリー散乱によって入射端に戻ってくることを利用しており、この戻ってきた光信号を光カプラを介して APD で電気信号に変換することにより光ファイバの特性などを測定するものである。一般に、入射端に戻ってくる光信号は微弱なため、計測に際しては繰り返し測定して得られた値を平均化する処理を行う。平均化処理を行うことにより SN 比を改善し、雑音の少ない波形としている。

OTDR 法は、入射された光パルスが遠端にて反射され、戻ってくるまでの時間差を利用することにより波長分散を測定する方法であり、位相シフト法と異なり、片端測定が可能である。

後方散乱係数の異なる光ファイバを接続した場合,接続損失の正確な測定法としては,光ファイバのそれぞれの片側より OTDR を用いて接続損失を測定し,その平均を求める方法が用いられる。

被測定光ファイバの距離は、実際に光ファイバ中を伝搬する光信号の速度と、光信号が入射端まで戻ってくるまでの経過時間から求められ、光ファイバ中を伝搬する光の速度は光ファイバの群屈折率により定まる。

OTDR では、光ファイバの伝送損失、光コネクタ接続点及び融着接続点の接続損失、光コネクタ部の反射減衰量などが測定できる。伝送損失は測定データから直線近似法の最小2乗法で、接続損失はフレネル反射点前後の伝送損失の差分から求めることができる。

OTDR の測定におけるデッドゾーンには、反射測定(フレネル反射)デッドゾーン及び損失測定(後方散乱光)デッドゾーンの 2 種類がある。反射測定デッドゾーンとはフレネル反射のピークレベルから 1.5 [dB] での幅をいい、損失測定デッドゾーンとは光コネクタ接続箇所からフレネル反射の影響による応答波形で、真値から ±0.5 [dB] 以下のレベルの箇所までの接続損失などが測定できない幅をいう。

OTDR は,光パルスを光ファイバに入射したときに,光ファイバ内で生ずる反射や散乱による戻り光を測定することによって,光ファイバの長さ,損失値及び破断点の位置を特定することができる。

OTDR の測定波形は,一般に,横軸に距離,縦軸に損失が表示され,光ファイバの近端及び遠端並びに光コネクタで接続された場所は,フレネル反射が観測される。

光パルスは,光カプラを通して被測定光ファイバに入射され,反射やレイリー散乱によって戻ってきた光は,光カプラを通じて APD に入射される。

OTDR による測定では,光コネクタなどで生ずる反射光及びその反射光で生ずる受信波形の裾引きによって,引き続く接続点などの位置や損失などが測定不能となる距離の範囲が存在し,この範囲はデッドゾーンといわれる。

OTDR を用いて短い光ファイバを測定する場合には,OTDR と被測定光ファイバの間にダミー光ファイバを挿入することにより,デッドゾーンを狭めることができる。

OTDR と光ファイバケーブルを接続するコネクタの接続点で反射する。また,この部分には OTDR 内部の反射も加わる。この反射が検出されている区間では接続点の損失や反射が検出できない。この区間を近端デッドゾーンという。短い距離を測定する場合に近端反射の影響があるときは,ダミー光ファイバを挿入して影響を解消する。

OTDR の仕様において、一般に、光出射端近傍の後方散乱光レベルから SN 比が 1 となるノイズフロアまでの後方散乱光強度が測定できる範囲はダイナミックレンジといわれる。ダイナミックレンジが広い OTDR ほど長い距離の光ファイバケーブルの光損失を測定できる性能を有している。

OTDR による光ファイバ長の測定

OTDR を用いた測定において,光ファイバの長さ $L$ [m] は,真空中の光速を $c$ [m/s],光ファイバの群屈折率を $n$,光パルスが光ファイバに入射されてから遠端で反射して戻って来るまでの時間を $t$ [s] とすると,次式で求められる。したがって,OTDR 法で距離を測定する場合は,光ファイバの群屈折率 $n$ を正確に入力する必要がある。(光パルスが光ファイバを伝搬する速度を $v$ [m/s] とする。)

\[ L = \frac{vt}{2} = \frac{ct}{2n} \]
OTDR による光ファイバ長の測定
図 OTDR による光ファイバ長の測定

OTDR による接続損失の測定

後方散乱係数の異なる光ファイバ A と光ファイバ B との接続構成における、OTDR による光ファイバ A からの測定波形及び光ファイバ B からの測定波形を、それぞれ図 1 及び図 2 の太線で示す。図 1 及び図 2 における接続点での測定波形の段差がそれぞれ 0.4 dB,0.8 dB であるとき、接続損失は、 0.2 dB と求められる。ただし、図 1 及び図 2 に示す a は、後方散乱係数の差によるレベル差を表し、図 1 に示す光ファイバ B の点線の波形及び図 2 に示す光ファイバ A の点線の波形は、光ファイバ A と光ファイバ B の後方散乱係数が同じ場合に想定される測定波形を表すものとする。

OTDR による光ファイバ A からの測定波形及び光ファイバ B からの測定波形
図1 OTDR による光ファイバ A からの測定波形及び光ファイバ B からの測定波形
OTDR による光ファイバ A からの測定波形及び光ファイバ B からの測定波形
図 2 OTDR による光ファイバ A からの測定波形及び光ファイバ B からの測定波形
接続損失の求め方

接続損失を $x$ [dB] とする。図1と図2より,以下の 2 式が成り立つ。($a$ は問題文中にあるとおり,後方散乱係数の差によるレベル差)

$a - x = 0.4$
$a + x = 0.8$

2 式より,$x$ を求めると,$x = 0.2$ [dB] となる。なお,後方散乱係数の差によるレベル差 $a$ は 0.6 [dB] である。

光ファイバ歪分布測定器 B-OTDR

ガラスと同じ素材で,表面に細かい傷がある光ファイバは,引張り応力が加わり,ある程度の歪が発生していると,ちょうど鉄が錆びていくように傷も成長し,突然破断してしまう場合がある。この破断を測定するためには,光ファイバにどの程度の歪が発生しているのかを検知できる計測技術が必要である。光ファイバの長さ方向に分布する歪を測定する方法として,ブリルアン散乱光の光周波数シフトの変化量の歪依存率(約 500 MHz/%)を利用した,光ファイバ歪分布測定器(B-OTDR : Brillouin Optical fiber Time Domain Reflectometer)が実用化されている。歪分布測定における光ファイバの長さ方向の位置は,従来の光パルス試験器の原理を利用して,光パルスをテストファイバに入射してから後方散乱光が受信器に戻ってくるまでの遅延時間から換算している。

光ファイバケーブルに用いられる石英系光ファイバにおいては、引張応力が加わり、ある程度のひずみが発生すると、やがて光ファイバが破断する場合がある。対策としては、ブリルアン散乱光の周波数分布が光ファイバのひずみ量に比例してシフトする特性を利用することにより光ファイバに加わっているひずみの分布を測定し、ひずみの発生箇所を特定するとともに光ファイバの破断の発生を事前に推定する方法がある。

B-OTDRは,通信用シングルモード光ファイバ(以後,光ファイバと表す)の長さ方向に局所的に生じている,伸びひずみ(以後,ひずみと表す)分布を測定することを目的として開発された,光ファイバひずみ分布測定器である。光ファイバに生じるひずみは,光ファイバの主要な破断要因であり,光ファイバの破断は,光伝送システム全体の信頼性に大きな影響を与える。光ファイバの強度保証理論によれば,光ファイバの破断確率は,光ファイバの最大ひずみによって決定されるため,光ファイバケーブルの製造,光通信線路の建設・保守・運用の各々の段階で,光ファイバのひずみを正確に評価することは,光通信線路の長期信頼性を保証するうえで重要である。

ブリルアン散乱とは,光が物質中で音波と相互作用し,振動数がわずかにずれて散乱される現象のことである。

コヒーレント光時間領域反射測定 C-OTDR

C-OTDR(Coherent detection OTDR,コヒーレント光時間領域反射測定)は,受信系にコヒーレント検波方式を用いた OTDR であり,受信感度はショット雑音限界まで改善できる。低雑音で飽和出力特性に優れる 1.55 μm 帯の光ファイバ増幅器である EDFA(Erbium-Doped Fiber Amplifer)を組み込むことで,C-OTDR のダイナミックレンジ(測定可能距離)は飛躍的に向上させることができる。SWDR(Single Way Dynamic Range)が 40 dB を超える高性能な C-OTDR は,主に幹線中継線路や海底中継線路の監視システムに導入されている。また,応用面では,後方散乱光に含まれるレイリー散乱光の波形を測定することで,被試験光ファイバの長手方向に分布する微細な温度変化や歪を測定するセンサ応用も報告されている。

光ファイバ破断故障の破断位置測定

光増幅海底ケーブルシステムにおいて、第 2 中継区間以降に光ファイバ破断故障が生じた場合は、C-OTDR を用いることにより、光ファイバの破断位置を 100 m 以下の精度で測定することができる。

R-OTDR

光ファイバに光を入射すると光ファイバ内で散乱が生ずる。散乱光はその発生メカニズムにより,レイリー散乱光,ブリュアン散乱光,ラマン散乱光に分けられる。R-OTDR(Raman OTDR)は,これら散乱光の中でラマン散乱光の強度が温度に依存する原理を用いて温度測定を行う。入射光として光パルスを用い後方ラマン散乱光を時間軸でサンプリングし,光パルスが入射してから特定の位置で生じた散乱光が受光部に達するまでの時間を知ることで,光ファイバの長手方向に沿った温度分布を測定することができる。

ラマン散乱とは,物質に光を入射したとき,散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が含まれる現象。

参考文献

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