平成28年度 第1回 電気通信システム

2019年5月28日作成

問1

材質が異なる 2 つの導線のそれぞれの両端を接続して 1 つの閉回路を作り,2 つの接続点を異なる温度に保つと,その回路内に起電力を生じて電流が流れる。この現象は,ゼーベック効果といわれる。

ゼーベック効果

2 つの導線の両端を接続して 1 つの閉回路を作り,2 つの接続点を異なる温度に保つと,その回路に電流が流れる。その電流を熱電流といい,回路内に生じる起電力を熱起電力という。

ペルチェ効果

異なる金属の接合部に電流を流すと,熱の発生または熱の吸収が起こる現象をいう。

トムソン効果

同一の導線において,導線に沿って温度差があるときは,電流が流れることにより,熱の発生または吸収が起きる現象をいう。

問2

図に示す 12 個の抵抗によって構成された回路において,各抵抗の値が全て同一の 2.0 [Ω] であるとき,端子 A - B 間の合成抵抗は,3.0 [Ω] である。

12 個の抵抗によって構成された回路
図 12 個の抵抗によって構成された回路

端子 A と B に対して上下対称であることから,折り返すと下図となり,各部の抵抗は 1/2 の 1.0 [Ω] となる。

合成抵抗
図 合成抵抗

よって,端子 A - B 間の合成抵抗 $R$ は,下式で求められる。

\[ R = 1 + \frac{2\times2}{2+2} + 1 = 3 \text{ [Ω]} \]

問3

ダイオードの種類,特徴などについて述べた次の文章のうち,誤っているものは。

  1. ツェナーダイオードは,逆方向電圧を印加することにより,広い電流範囲で定電圧を保持する特性を持つ。(
  2. アバランシホトダイオードは,空乏層における格子原子の衝突電離を連鎖的に繰り返すことにより,なだれ的に多数の電子を発生させ,光電流を増倍して出力する働きを持つ。(
  3. 発光ダイオードは,pn 接合に順方向電圧を印加することにより,注入された電子と正孔が再結合し,余ったエネルギーを光として放出する。(
  4. トンネルダイオードは,負性抵抗領域を有するダイオードであり,スイッチング動作や増幅動作を行う素子として用いられる。(
  5. バラクタダイオードは,接合部におけるインダクタンスにバイアス電圧により大きく変化するダイオードであり,電子同調,周波数逓倍などに用いられる。(

バラクタダイオード(日本ではバリキャップと呼ぶことが多い)は,可変容量ダイオードのことである。pn 接合部に逆バイアスをかけて静電容量をバイアス電圧により抑制する。バイアス電圧が低いと空乏層が狭まり,容量が増加する。バイアス電圧を下げると上げると空乏層が広がり,容量が低下する。通常,空乏層の幅は印加電圧の平方根に比例し,静電容量は空乏層の幅に反比例する。このため,静電容量は印加電圧の平方根に反比例する。

静電容量がバイアス電圧により大きく変化することを利用して,VCO(電圧制御発振器),電子同調,周波数逓倍などに用いられる。

問4

図に示す論理回路において,A,B 及び C を入力とすると,出力 F の論理式は,$F =$ $A \cdot B + C$ で示される。

論理回路
図 論理回路

設問の論理式 $F$ は下式で表され,ド・モルガンの定理及び復元の法則を利用して整理する。

\[ F=\overline{(\overline{A \cdot B}) \cdot \overline{C}} = \overline{\overline{A \cdot B}} +\overline{\overline{C}} = A \cdot B + C \]

問5

データ伝送における同期方式には,特定ビットパターンとして 01111110 を送信データの前後に付加することによって,送信側と受信側の間で伝送ブロックの開始と終了の同期をとるフラグ同期がある。

デジタル伝送を正しく受信するためには,各ビットの位置や情報ブロック(フレーム)の先頭位置及び終了位置を受信側で認識できなければならない。このために,送信側と受信側が同じタイミングでデータをやりとりすることが必要になる。このタイミングを合わせることを同期といい,ビットごとにタイミングを合わせるビット同期(クロック同期ともいう)と,情報ブロックを単位として識別するブロック同期がある。

ブロック同期には,次の 3 つの方式がある。

  1. 調歩同期方式:キャラクタの区切りを示すため先頭にスタート信号,末尾にストップ信号を付加する。
  2. キャラクタ同期方式:ブロックの先頭に「SYN」を付与する方式。基本形データ伝送制御手順で用いられる。
  3. フラグ同期方式:フラグシーケンス(01111110)といわれる特定のビットパターンを送出してブロック(フレーム)の先頭と末尾を識別する方式。HDLC を始めとして広く採用されている。

問6

内部抵抗が 20 [kΩ] で最大目盛が 5 [V] の電圧計を用いて。最大目盛が 100 [V] の電圧計として使うためには,380 [kΩ] の倍率器を用いればよい。

電圧計に流れる電流は 5 [V] / 20 [kΩ] = 0.25 [mA] である。この電圧計を最大目盛 100 [V] の電圧計として使うのであるから,倍率器を $R$ [Ω] とすると,残り 100 - 5 = 95 [V] の電圧を倍率器で分担できればよい。

R = 95 [V] / 0.25 [mA] = 380 [kΩ]
電圧計
図 電圧計

問7

図に示すように,特性インピーダンスが $Z_1$ の伝送ケーブルに特性インピーダンスが $Z_2$ の伝送ケーブルを接続したとき,その接続点における電圧反射係数は,$\frac{Z_2 - Z_1}{Z_1 + Z_2}$ で表される。

電圧反射係数
図 電圧反射係数

電圧反射係数 $m$ は,入力側の特性インピーダンスを $Z_1$,出力側の特性インピーダンスを $Z_2$ とすると,下式で表される。

\[ m = \frac{Vr}{V_i} = \frac{Z_2 - Z_1}{Z_1 + Z_2} \]

問8

アナログ多重伝送路において,1 回線当たりの平均電力が -15 [dBm] のとき,500 回線の総電力は,12 [dBm] である。ただし,$\log_{10} 3$ = 0.5,$\log_{10} 5$ = 0.7 とする。

1 回線当たりの平均電力が -15 [dBm] のとき,500 回線の総電力は下式で求められる。

総電力 = -15 + 10 log10 500 [dBm] = -15 + 10 log10 100 + 10 log10 5 = -15 + 20 -7 = 12 [dBm]

問9

IPv4 ネットワークにおいて,ネットワーク内の全ての宛先アドレスに同じデータを転送する方法は,ブロードキャストといわれる。

単一アドレスを指定してデータ通信を行う方法をユニキャストといい,特定アドレス群(グループ)で 1 対複数の宛先に転送する方法をマルチキャストという。

問10

デジタル方式の電話交換網では,デジタル伝送路及びデジタル交換機の動作を円滑に進める上で,網内のデジタル信号のパルス繰返し周波数を合わせる周波数同期と,同一ノード内における複数のデジタル信号列のクロック位相及びフレーム位相を合わせる位相同期の両方が必要になる。

ノード内では音声信号などを収容する信号チャネルをタイムスロットと呼び,多重化した 1 群のタイムスロット群をフレームと呼ぶ。

問11

出回線数が 15 回線の交換線群に 10.0 [アーラン] の呼量が加わったとき,呼損率を 0.1 とすると,出回線の平均使用率は 60 [%] である。

運ばれた呼量 $a_c$ [アーラン] は,回線数 $n$,平均使用率 $\eta$ とすると,下式で表される。

\[ a_c = n \times \eta = 15 \times 0.6 = 9 \text{ [アーラン]} \]

呼損率 $B$ は,加わった呼量 $a$ とすると,次式で表される。

\[ B = 0.1 = \frac{a-a_c}{a} = \frac{a - 9}{a} \]

よって,加わった呼量 $a$ は,10 [アーラン] である。

問12

ATM では,情報を固定長のセルの形式により転送しており,セルを転送する際のコネクションの識別をセルのヘッダ情報により行っている。

ATM では,セルを転送する際のコネクションの識別はヘッダ情報内の VPI(仮想パス識別子)と VCI(仮想チャネル識別子)で行っている。

問13

光アクセスネットワークである GE-PON に用いられる ONU は,ユーザ宅内に設置され光信号と電気信号の相互変換機能,認証機能などを有している。

光アクセスネットワークでの GE-PON(GE - Passive Optical Network)では,事業者側に OLT(Optical Line Terminal)を,加入者側に ONU(Optical Network Unit)を設置し,通信を行う。

OLT は,ONU からの信号が重ならないように,送出許可を通知して送出のタイミングを調整する。また,OLT から送られる下り信号は時分割多重で複数の ONU に送られるため,ONU ごとに暗号化キーを変えることで,盗聴を防いでいる。

ONU は認証機能も有しており,MAC アドレス認証,または RADIUS による認証が行われる。

問14

IP 電話サービスは,番号体系によって区分され,050-IP 電話と,0AB ~ J-IP 電話の 2 種類が提供されている。

050-IP 電話は通信事業者が提供する一般 IP 電話サービスであり,0AB ~ J-IP 電話は,固定電話網で既存のアナログ電話や ISDN 用電話に置き換わるものである。050-IP 電話より品質が厳しく規定されており,一般的には光電話とも呼ばれている。

問15

電話網の信号方式において,交換機が着信側の端末を呼び出し中に,その端末の加入者線ループを検出したとき,発信側の端末に対して回線の極性を反転することにより送出する監視信号は,応答信号といわれる。

事業用電気通信設備規則 第二十九条 監視信号受信条件

事業用電気通信設備は、端末設備等を接続する点において当該端末設備等が送出する次の監視信号を受信し、かつ、認識できるものでなければならない。

  1. 端末設備等から発信を行うため、当該端末設備等の直流回路を閉じて 300 Ω 以下の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「発呼信号」という。)
  2. 端末設備等において当該端末設備等への着信に応答するため、当該端末設備等の直流回路を閉じて 300 Ω 以下の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「端末応答信号」という。)
  3. 発信側の端末設備等において通話を終了するため、当該端末設備等の直流回路を開いて 1 MΩ 以上の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「切断信号」という。)
  4. 着信側の端末設備等において通話を終了するため、当該端末設備等の直流回路を開いて 1 MΩ 以上の直流抵抗値を形成することにより送出する監視信号(以下「終話信号」という。)
事業用電気通信設備規則 第三十一条 監視信号送出条件

事業用電気通信設備は、次の各号に定めるところにより、端末設備等を接続する点において監視信号を送出しなければならない。

  1. 着信側の端末設備等が送出する端末応答信号を受信したとき、発信側の端末設備等に対して、信号極性を反転することにより送出する監視信号(以下「応答信号」という。)
  2. 着信側の端末設備等に対して着信があることを示す別表第四号に定める監視信号(以下「呼出信号」という。)

問16

TCP/IP ネットワークにおいて,ping コマンドによって相手側のノードがネットワークに正常に接続されていることを確認するときに使用されるプロトコルは,ICMP といわれる。

ICMP(Internet Control Message Protocol : インターネット制御通知プロトコル)とは,通信処理で使われるプロトコルのひとつで,Internet Protocol のデータグラム処理における誤りの通知や通信に関する情報の通知などのために使用される。

問17

衛星通信では,遠方からの微弱な電波を増幅する必要があるため,受信機の初段には低雑音増幅器の素子として,HEMT(High Electron Mobility Transistor)が用いられる。

HEMT とは,化合物半導体材料を利用した電界効果型トランジスタで,High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)のことを指す。

問18

光ファイバがシングルモードになるための条件は,規格化周波数といわれるパラメータが 2.405 より小さくなることであり,光ファイバのコア径を小さくする方法などによって実現することができる。

光ファイバは,伝搬可能なモード数を規格化周波数 $V$ で一意に決定され,$V \lt 2.405$ の場合に 1 つのモードのみ伝搬可能となる。

\[ V = \frac{2\pi a}{\lambda} \sqrt{n_1^2 - n_2^2} \]

ここで,$a$ はコア半径,$\lambda$ は波長,$n_1$ はコアの屈折率,$n_2$ はクラッドの屈折率である。

問19

交流の低圧電路の地絡事故を検出して自動的にその電路を遮断するための装置は,漏電遮断器である。

漏電遮断器とは,漏電による漏れ電流を検出して回路を自動的に遮断する機能をもつ遮断器である。

問20

メタリック平衡対ケーブルの伝送損失は,伝送周波数が 4 [kHz] 程度までは緩やかに増加するが,周波数が高くなるに従い漸増傾向を示し,100 [kHz] 程度を超えると,表皮効果による抵抗の増加,心線間の静電容量や漏れコンダクタンスの影響などにより,急激に増加する。

表皮効果とは,交流電流が導体を流れるとき,電流密度が導体の表面で高く,導体の中心部に行くに従って密度が低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するので,導体の交流抵抗は高くなる。同軸ケーブルは逆にこの性質を利用して外部の影響を少なくして広帯域伝送を実現している。

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