平成9年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月6日更新

目次

  1. 交流遮断器に必要な主要性能
  2. 受電端調相設備容量
  3. 再熱復水タービン発電所
  4. 送変電設備の絶縁設計の合理化
  5. 電力系統の襲雷の予測方法
  6. 適切なエネルギーミックス

問1 交流遮断器に必要な主要性能

交流遮断器に必要な主要性能を五つ以上挙げて説明せよ。

絶縁性能

遮断器は,適用する電圧階級に応じて,発生する商用周波数電圧および衝撃電圧に十分耐える絶縁性能を有する必要がある。JEC ではその遮断器に課することのできる使用電圧(実効値)の上限を定格電圧とし,定格電圧ごとに商用周波耐電圧,雷インパルス耐電圧および開閉インパルス耐電圧の性能を定めている。開閉インパルス耐電圧性能は,定格電圧 550 [kV] の遮断器のみ規定される性能である。定格電圧の標準値は,常時の系統電圧の変動を考慮し,公称電圧の 1.2/1.1 倍としている。

電流容量

遮断器は,常時に流れることがありうる最大電流に対し規定の温度上昇限度を超えず連続して通電できなければならない。JEC ではこれを定格電流と称し,系統電圧変動や将来の負荷電流増加を考慮して選定しなければならない。

遮断・投入性能

遮断性能,投入性能は,遮断器の最も重要な性質の一つである。定格遮断電流は,すべての定格および規定の回路条件のもとで標準動作責務に従って遮断することのできる電流の限度である。定格投入電流も,同様の条件で規定されている。標準動作責務は,事故遮断後の再投入,再遮断など実使用で想定される一連の動作を考慮したものであり,一般用と高速再閉路を行う場合に採用する高速度再投入用がある。回路条件には,回路電圧,電流,力率などがある。遮断電流としては,地絡・短絡電流のほか,進み小電流遮断,近距離線路故障遮断(定格電圧 72 [kV] 以上で架空送電線に直接接続される場合),脱調遮断(必要により指定),遅れ小電流遮断,異相地絡遮断(定格電圧 168 [kV] 以下)などがある。抵抗投入や抵抗遮断方式の場合は,開閉サージ抑制性能も要求される。

遮断時間(break-time)

定格遮断時間は規定の標準動作責務に従って遮断する場合の遮断時間であり,遮断器の引外し制御装置が付勢されてからすべての極の電流が遮断されるまでの時間である。定格周波数を基準としたサイクルで表し,2,3,5 サイクルのものがある。

機械的強度

遮断器は,操作時の衝撃的な荷重や短絡・地絡電流による電磁力・風圧・地震力などに耐える十分な強度を有する必要がある。定格短時間耐電流は,その電流を 2 秒間遮断器に通じても異常の認められない電流をいい,その遮断器の定格遮断電流と等しい値を標準としている。

問2 受電端調相設備容量

一般回路定数が抵抗分を無視して,次のように表せる 275 [kV] の送電線がある。

\[ \dot{A} = \dot{D} = 0.8 \] \[ \dot{B} = \text{j}240 \text{ [Ω]} \] \[ \dot{C} = \text{j}0.0015 \text{ [S]} \]

送電端電圧を 280 [kV] とし,受電端に 250 [MW],力率 0.8(遅れ)の負荷を接続して,受電端電圧を 275 [kV] に保つために必要な受電端調相設備容量を求めよ。

準備中

問3 再熱復水タービン発電所

図は,再熱復水タービン発電所の構成を示したものである。これについて次の問に答えよ。

(1) この発電所の熱サイクルを $T-s$ 線図として略図で示し,$T-s$ 線図上に図の数字で示した場所に対応するポイントを記入し,状態変化を簡単に説明せよ。

(2) この発電所において,復水温度 32 [°C] の復水を給水ポンプで昇圧し,ボイラで過熱・発生した蒸気を高圧タービン入り口で圧力 16 573 [kPa](169 [kg/cm²]),温度 566 [°C],エンタルピー 3 479 [kJ/kg](831 [kcal/kg])の蒸気条件で使用した。高圧タービン出口で圧力 2 452 [kPa](25 [kg/cm²]),エンタルピー 2 906 [kJ/kg](694 [kcal/kg])で回収された蒸気を全量ボイラで再熱し,エンタルピー 3 550 [kJ/kg](848 [kcal/kg])の蒸気条件で中圧タービン入り口に導き,真空度 96.3 [kPa](722 [mmHg])の復水器排気室へ排気した。排気のエンタルピーを 2 261 [kJ/kg](540 [kcal/kg]),ボイラ効率を 90.0 [%],発電機効率を 97.0 [%] とした場合,次の効率を求めよ。

  1. 再熱サイクル効率
  2. 発電端効率

問4 送変電設備の絶縁設計の合理化

最近,送変電設備の絶縁設計の合理化が図られている。これらの絶縁設計の合理化が可能になった主な要因は,1. 新技術の適用・導入,2. 解析技術の進歩及び 3. 絶縁特性に関する諸データの蓄積がある。それぞれについて具体的に述べよ。

詳しくは,「雷過電圧解析・開閉過電圧解析の概要と解析例」参照

1. 新技術の適用・導入

ギャップ付き避雷器に代わって,電圧電流非直線特性の優れた酸化亜鉛素子を使用したギャップレスの酸化亜鉛形避雷器が主流になり,格段の性能向上が図られている。

100万 [V] 級領域においては,空気中のギャップの絶縁耐力が距離に対して飽和傾向を示すようになるので,遮断器開閉時などに発生する開閉サージの抑制が絶縁設計合理化の決め手となる。このため,抵抗投入・抵抗遮断方式の遮断器が開発された。また,GIS 断路器で充電電流を開閉操作するときに生ずる高周波の急しゅん波サージ(断路器サージ)を抑制するため,抵抗挿入式の断路器が開発された。

2. 解析技術の進歩

アメリカの BPA で開発されたディジタルシミュレーションプログラム EMTP とコンピュータ技術の進化により,雷サージ,開閉サージ,負荷遮断時の過電圧などの諸現象を高精度かつ容易に解析できるようになった。

電力系統のサージ解析で重要な送電線の周波数モデル,鉄塔モデル,逆フラッシオーバのリーダモデルなどの模擬回路の改善が加えられ,精度向上が図られた。

3. 絶縁性能に関する諸データの蓄積

絶縁性能に関する諸データを得て,解析結果に基づく合理的設計に反映させるため,次のような実験,実測などが実施された。

  • 気中長大ギャップのフラッシオーバ特性
  • 変電所侵入雷サージの実測
  • GIS の急しゅん波絶縁特性の実測
  • 変圧器の長時間 $V-t$ 絶縁特性
  • 前駆遮断法によるケーブル絶縁破壊の原因の検出

問5 電力系統の襲雷の予測方法

電力系統への襲雷の予測方法3例を述べ,併せて落雷が電源線,連系線及び負荷線に予想される場合のそれぞれについて,電力系統設備運用面での対策を述べよ。

電力系統への襲雷予測方法の例

  • 気象庁などの気象情報サービス機関からの予測情報に基づく短期予測
  • 気象衛星,雷観測レーダなどからの雷雲の分布,高度などの情報による襲雷位置,時間の短時間予測
  • 落雷時の放電に伴う電磁波などの観測による落雷位置評定システムの情報,風向き,風速などをもとにした短時間予測

電力系統運用面での対策

共通の運用対策

  • 襲雷が予想される場合,作業などによる送電線停止は極力避ける。
  • 電源線,連系線では,落雷による送電線 1 回線停止では供給支障に波及しないように,常時2回線以上を併用する。
  • 高速自動再閉路を適用して送電線事故時の高速復旧を図り,系統安定度への影響を局限化する。
  • 特に重潮流の電源線,連系線については,系統安定化システムを設置し,電源,負荷の脱落を最小限に留める。

電源線に落雷が予想される場合

  • 落雷のおそれのない他系統の発電所に出力を振り替えることにより,電源線潮流を抑制する。
  • 落雷のおそれのない他系統の発電所の瞬時予備力,運転予備力を多めに確保し,電源線事故に伴い発電機脱落に備える。

連系線に落雷が予想される場合

  • 受電系統側の発電所の増発または負荷の送電線系統への切換により,連系線潮流を抑制する。
  • 連系線事故時の系統分断による供給支障を局限するため,瞬動予備力,運転予備力を多めに確保する。
  • 別ルートの連系線がある場合は,その系統に切り換える。

負荷線に落雷が予想される場合

  • 負荷を他の負荷線からの供給に切り換える。
  • 自家用発電機を有する需要家の場合は,増発して極力電力系統側からの受電電力を抑制する。

問6 適切なエネルギーミックス

今後の電源開発を進めるうえで,石油代替エネルギー導入,地球温暖化・大気汚染等の環境問題,供給安定性,経済性等総合的に考慮して適切なエネルギーミックスを図る必要がある。

これらの観点から次の三つの電源について,その特徴を述べよ。

  1. LNG 火力発電
  2. 原子力発電
  3. 新エネルギー(太陽光,風力)発電
各種電源のエネルギーミックスから見た特徴比較
石油代替エネルギー 環境問題 供給安定性 経済性
LNG 火力発電 複合発電システムとして,既設火力のリプレースなどで採用可能。頻繁な起動停止,出力調整に対しても対応可能。冷熱利用が可能。 液化精製段階で不純物が除去されるので SOx は発生せず,NOx も少ない。熱効率は複合発電システムとすることにより総合効率で 50 [%] を超える。また,主成分であるメタンの発熱量/炭素量が他の火力と比べて大きいので,CO2 の排出量が石炭火力の 2/3 になる。 埋蔵量が豊富で地域的な偏りもないが,液化設備の建設維持コストが大で,供給地域は限定される。安定供給は可能だが,逆に消費に硬直性が大きい。 良い○
原子力発電 少量のウランで大量の電力を発生することができ,大容量プラントの建設が可能。ベースロード運転に適する。 化石燃料の燃焼を伴わないので,CO2,SOx,NOx を発生しない。 ウラン資源は世界中に分散し,かつ政局の安定した先進国から輸入しているので安定しているが,全量を海外に依存しているので原子燃料サイクルの確立が必要。また,使用済燃料の処理の問題がある。 最も良い◎
新エネルギー(太陽光,風力)発電 エネルギー密度が低く,風力については適用箇所も限定される。量的には少ないが,太陽光は各家庭,公共施設,事業所に分散したエネルギーの有効利用発電,風力は離島などの電源として有望。 化石燃料の燃焼を伴わないので,CO2,SOx,NOx を発生しない。 燃料の枯渇はないが,エネルギー密度が低く,日照,風速などの気象条件に左右される。 まだまだ△
補足

平成9年(1997年)においては,上記のような特徴で整理された。福島第一原子力発電所の事故,FIT,カーボンニュートラルなどがあり,上表の特徴は変化している。

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