架空線路構造物の種類・特性及び適用
電柱(コンクリート柱,鋼管柱,鋼管継柱等)
電柱種別
架空構造物として使用する主な電柱種別には,コンクリート柱および鋼管柱がある。その適用にあたっては,材質等を考慮した適用領域,経済性,作業性および社会的要請を考慮して決定される。コンクリート柱は恒久性,設計荷重の増加など,それに木材資源が乏しくなってきたことから主流となっている。
コンクリート柱
コンクリート柱は,かご状の鉄筋とセメントコンクリートから成る中空のパイプ状構造物であり,特徴として,形状はきれいで長寿命であるが,重量が重いので,運搬や取扱いに注意が必要となる。鉄筋には長手方向の鉄筋とこれに巻き付けるら旋鉄筋があり、長手方向の鉄筋のうち、元口から末口まで通して配置される鉄筋は、緊張筋といわれる。
鋼管柱
鋼管柱は,鋼板を円筒状に成型し,亜鉛メッキしたものであり,特徴として,軽量で径が細いが,コンクリート柱に比べコストが高いことが挙げられる。
コンクリート柱の種類
JIS A 5373 : 2016「プレキャストプレストレストコンクリート製品」によると,コンクリート柱の種類は 1 種と 2 種に大別される。通信で使用するコンクリート柱は 1 種に該当する。
種類 | 用途による区分 | 照査による区分 |
---|---|---|
1 種 | 送電,配電,通信,信号など | ひび割れ試験荷重 |
2 種 | 鉄道,軌道(無軌条電車を含む。)における電線路など | 限界ひび割れ幅耐力 |
電柱のテーパ
電柱の末口とは,電柱の直径の小さい方の切口をいい,反対側の大きい方の切口を元口という。電柱のテーパとは,直径増加率であって,電柱の末口の直径を $D$,元口の直径を $D'$,長さを $L$ とすれば,平均テーパ $\alpha$ は次式で求められる。
\[ \alpha = \frac{D' - D}{L} \]ちなみに,各種電柱のテーパ $\alpha$ は,コンクリート柱で 1/75,鋼管柱で 1/75 と同じになっている。

設計荷重
建柱工事にあたっては一般に強度計算を行わずに,15 m までのものはその全長の 1/6 の根入れをすればよく,それ以上のものは装柱,荷重状況によって計算を必要とする。電柱には,種々の設備が取り付けられるので,応力について計算する必要がある。この計算は電柱の最大応力を生じる部分において,電柱が分担する最悪条件下の外力による曲げモーメント($M$)より電柱の抵抗モーメント($M_\text{r}$)が大きくなるように設計する。すなわち,$M_\text{r} \gt M$ に定めなければならない。
電柱に作用する水平荷重による曲げモーメント $M$ [kNm] は、水平荷重を $P$ [kN]、水平荷重作用点の地表からの高さを $h$ [m] とし、電柱の回転中心の地表からの深さを $t_0$ [m] とすると、次式で表される。電柱が倒壊しないためには、$M$ が地盤の許容抵抗モーメント以下であることが必要である。
\[ M=P(h+t_0) \]なお,外力による曲げモーメントとして,電柱全体に加わる風圧による曲げモーメント,電線に加わる風圧による曲げモーメントがある。
電柱には、地際部が支点となって曲げモーメントが作用するため、最も強度が要求される箇所は、地際部であるが、電柱を製造する場合、地際部の強度を電柱全体に求めることは不経済となるため、末口は元口より細くしてテーパを付けることにより電柱全体としての強度を確保している。
部材を正規に定められた方法で使用していれば破損することがない最大の荷重は、一般に、設計荷重といわれる。一方,部材に外力を加えたとき、その部材が破壊される荷重は、一般に、破壊荷重といわれる。設計荷重は、破壊荷重/安全率で表すことができる。ここで、安全率とは、荷重見積りの不確定性、応力計算の近似性などの不確定要素を考慮し、許容応力と部材の基準強さとの関係を定める係数である。
風圧荷重
有線電気通信設備令施行規則 第六条において,風圧荷重は,次の三種類と定められている。
風圧荷重 | 適用地域 |
---|---|
甲種風圧荷重 | 市街地以外の地域であつて、氷雪の多い地域以外の地域 |
乙種風圧荷重 | 市街地以外の地域であつて、氷雪の多い地域 |
丙種風圧荷重 | 市街地 |
市街地以外の地域であつて、氷雪の多い地域においては、甲種風圧荷重又は乙種風圧荷重のうちいずれか大であるものが加わるものとして,電柱の安全係数を計算する。
強度試験
電柱の設計荷重(部材を正規に定められた方法で使用していれば破損することがない最大の荷重)は,電柱の荷重作業点(つり線・支持線の支持点)における許容し得る水平荷重であり,必要な強度が確保されているかを曲げ強度試験により確認する。JIS 規格におけるコンクリート柱(1 種)の本体曲げ強度は,下図に示す曲げ強度試験を行う。曲げ強度試験の規格は次のとおり。
ひび割れ試験荷重を加えたとき,幅 0.25 mm を超えるひび割れが発生してはならない。このひび割れ試験荷重を徐荷したとき,幅 0.05 mm を超えるひび割れが残留してはならない。また,破壊荷重(部材に外力を加えたとき、その部材が破壊される荷重)は,ひび割れ試験荷重の 2 倍以上でなければならない

ひび割れ試験荷重とは,一般に設計荷重とよばれるものであり,プレストレスコンクリートポールの JIS 規格に記されている強度基準である。コンクリート構造物は押す力には強いが,曲げる力,引っ張る力に対して弱い性質がある。その欠点を補うためにプレストレスコンクリートが開発された。プレストレスコンクリートは,荷重を加えられると変形を起こし,ひび割れが発生するが,荷重を抜くとひび割れは塞がり,元の形状に戻る性質を有している。これはコンクリートにあらかじめ(プレ)圧縮応力(ストレス)を与えておき,外力による引張応力を打ち消すことによって,ひび割れの発生を防いでいる。
一方,鋼管柱も同様な曲げ強度試験を行い,設計荷重を確認することになる。ただし,コンクリートと異なり,ひび割れは発生しないため,塗装を含めた各部に座屈などの異常がないかどうかで判断する。
電柱の折損,電柱の傾斜又は転倒
電柱の折損は、一般に、基礎地盤が堅固で、水平荷重による曲げモーメントよりも電柱の許容曲げ応力が小さい場合に発生する。また、電柱の傾斜又は転倒は、一般に、基礎地盤が軟弱で、電柱の支点反力としての曲げモーメントを基礎地盤が受けきれない場合に発生する。
電柱が倒壊しないためには、水平荷重による曲げモーメントに対して地盤が十分な抵抗モーメントを有し、電柱の傾斜角が過大にならないことが必要である。
コンクリート柱に過大な不平衡荷重が加わると、横ひび割れ(円周方向のひび割れ)が発生することがある。横ひび割れが発生すると、条件によっては鉄筋が多数破断して折損に至ることがあるため、過大な不平衡荷重を除去するとともに適切な更改を行うことが必要である。
沿岸地域に設置されたコンクリート柱の表面に海から運ばれた塩分が付着すると、塩分がコンクリートのひび割れなどを通して内部に浸透し、鉄筋が腐食により膨張してコンクリートが剝落する場合がある。
鋼管柱の腐食対策
著しく腐食しやすい環境で使用している鋼管柱の腐食対策としては、腐食地用鋼管柱である AE 柱又は UC 柱へ更改する方法がある。
表示 | 概要 | 一般地域 | 塩害地域 |
---|---|---|---|
LL | 土中部分のみに防食塗装を施したタイプ | ○ | - |
AE | 下部柱のみに防食塗装を施したタイプ | ○ | - |
UC | 柱全体に防食塗装を施したタイプ | ○ | ○ |
コンクリート柱の非破壊検査
コンクリート柱の劣化を判断するための非破壊検査の方法として、打音法、超音波法、電磁波法などがある。このうち、超音波法では、測定物に対して超音波を入射し、内部からの反射波を受信することによりひび割れ、異常箇所の有無などを検出する。
支線,つり線,支持物,金物類
支線(上部支線,下部支線)
支線とは,通信ケーブルの架渉によって電柱に不平均張力が加わる場合に,電柱に留められたつり線および通信ケーブルとの張力のバランスを取り,電柱の倒壊や傾斜を防ぐために設置するワイヤのことであり,ワイヤの一端は電柱に取り付けられ,もう一端は地中に埋めて固定される。地上部分のワイヤを上部支線,地中部分を下部支線という。
支線取付け角度
支線は,不平衡荷重により電柱が傾斜及び倒壊することを防止するため,支線取付け角度を 35 ~ 45 度の範囲で大きくとり,やむを得ない場合であっても支線取付け角度は 25 度以上とする。
支線取付け角度は,支線の必要強度を満足し支線素材使用量を最も少なく済むように設計するが,積雪地帯では,積雪に埋もれた部分に沈降力が加わり,支線に働く張力が増加して電柱が傾いたり下部支線が浮き上がる現象が生ずることがあるため,支線取付け角度を小さくして沈降力の影響を低減している。具体的には,積雪地帯では雪の沈降力を考慮して 35 度となっている。
支線が取り付けられた単独柱に加わる水平荷重
支線が取り付けられた単独柱に加わる水平荷重は,一般に,支線が 90 [%],電柱が 10 [%] の割合で分担する。この分担割合は,支線の代わりに支柱を用いた場合でも同じである。
種別の決定
上部支線の種別は,支線が分担する荷重,支線角度などによって決定され,下部支線の種別は,上部支線の種別,設置場所の土質などによって決定される。
下部支線を地中に固定する部材
下部支線を地中で固定する部材としては,一般に,普通土質では支線アンカが使用され,軟弱性土質では支線ブロックが使用される。
下部支線は、臨海低湿地や水田跡地、植え込み、側溝周辺など湿った土中で腐食しやすく、土中への酸素供給量が多い地際部のほか、水分が多い土中の深い部分ほど腐食が大きくなる傾向がある。
支柱
支柱は、支線が取り付けられない場合に、一般に、支線の取付け方向とは反対側に取り付けられ、本柱(支柱を取り付ける電柱をいう。)に作用する水平荷重を分担する。支柱には、一般に、本柱と同一設計荷重の電柱が使用される。
つり線・支持線
つり線・支持線とは,通信ケーブルの張力を受け持つものであり,通信ケーブルの形状により分かれる。一般に通信ケーブルには,自己支持形ケーブルと非自己支持形ケーブルがある。自己支持形のケーブルおよびワイヤの張力を受け持つものが支持線となり,つり線は,非自己支持形のケーブルの張力を受け持つ。

金物類
金物類とは,架渉する通信ケーブルを電柱に取り付け,引き留めを行うための金具等である。
光ファイバ複合架空地線(OPGW)
OPGW(Optical Ground Wire)は,送電鉄塔などの一番上に,主に,避雷用として布設された架空地線(Ground Wire)の内部に光ファイバを収容したケーブルである。架空地線は,短絡事故などにより大電流が流れ高温になる場合があることから,OPGW の光ファイバ被覆材料には耐熱性に優れたシリコンなどが使用されている。
OPGWは、光ファイバの無誘導かつ軽量という特徴を利用して、光ファイバを送電線の架空地線に内蔵し、本来の架空地線としての機能と通信機能を兼備させたものであり、一般に、光ファイバを収納する OP ユニットとアルミ覆鋼線を撚り合わせた架空地線部により構成される。
OPGW は、架空地線内への光ファイバ収納方法により、固定型と非固定型の 2 種類に大別される。固定型の一つであるスペーサ型は、一般に、アルミスペーサのら旋状の溝に光ファイバを収納し、これをアルミパイプで保護した構造であり、耐側圧特性を向上させている。
架空地線は、電力線からの誘導電流、短絡事故などにより高温になる場合があることから、OPGW では耐熱特性に優れたシリコン被覆光ファイバなどが使用されている。

(出典)株式会社フジクラ | 製品情報
施工技術
架空構造物の施工には,安全作業を第一とし,架空構造物および他の設備への損傷を避け,その機能に影響を及ぼさないようにするとともに保全性のことも考慮して実施される。このため設計にあたり,設計に関連する基準のみでなく,施工に関連する基準も十分に満足し施工に支障がないような安全設計を実施する。
建柱
配電線の支持物の建柱には,公道上においては道路占用管理者の事前了解が必要であり,私道においては地主(使用主ではない)の承諾が必要である。
コンクリート柱の場合は,人力による建込みはできないので機械力,すなわち建柱車による場合が多い。なお,木柱の場合は,人力による直接建起し,つり込み工法が一般にとられる。
本ページの参考文献
- 「電気学会大学講座 送配電工学 [改訂版]」,社団法人 電気学会,1980年4月1日 初版,2003年2月20日 改訂版
- JIS 5373 : 2010「プレキャストプレストレストコンクリート製品」Precast prestressed concrete products
- 通信用鋼管柱 ポール 日鉄建材株式会社